弱肉強食とは古代から続く最も原始的な
ルールである。
強ければ生き残り、弱い者は淘汰される。
鳥が昆虫を喰らうように。
ヘビがカエルを喰らうように。
古来より続く、ごく当然な自然淘汰だ。
『ターゲット確認▼』
それは、この殺し合いの世界においても変わらない。
『熱源感知 識別 有機生命体と特定▼』
ある世界において地上の80%を支配した機械達がいた。
人類を超えて生態ピラミッドの頂点へと至った、ロボットと称される存在だ。
『排除開始▼』
天敵。そう呼ぶに相応しい。
特定の生物種における、自然界における絶対的な捕食者。
昆虫にとっての鳥のように。
カエルにとってのヘビのように。
人類はロボットには決して勝てない。
「来ないでくださいまし!」
倉本千奈は怯えていた。
彼女は日本を代表する大財閥の一人娘であり、アイドルを目指す者だ。
そんな肩書は無意味だ。ロボット達からすれば人類は全て平等。
個体の優劣など興味はなく、ただ殲滅するのみ。
「ひ、ひっ!」
彼女は幸運にも、ある意味では運が悪いとも言うべきだか、生き残ってしまった。
弱いからだ。
彼女の周辺には先ほどまで野生のNPC達が居た。
その内訳は野生の動物や魔物などであった。
腕に自信がある者ならば討伐出来るほどには弱いが、千奈よりは強かった。
だからこそ、NPC達はロボット達に目を付けられた。
ついさっき、ミンチ肉へと変わった。
『ご安心クださい 我々は敵デはアりません▼』
キュピキュピと、どこか愉快な音を立て、甘ったるい音声が流れる。
高性能なAIは、追い詰められた人間にはこの言葉を言えばいいと知っている。
それが誘い出す為の嘘だということは、幾ら純粋な千奈でもわかる。
『アナタ達の仲間を保護してイます 安心して出てらっしゃい ナさい▼』
『豊かな食事と寝床を用意して待ってイます▼』
『アナタが最後です▼』
たとえ一体でも勝つことのできないロボット。
それが地平を覆うほどの群体で現れ、殺戮の限りを尽くしたのだ。
『安心してクださい 苦痛を伴うのは一瞬だケデす▼』
外装が開き、内部の兵器が剥き出しとなり、千奈へと突きつけられる。
そのノコギリは、アイドルに向かない小さく華奢な手足を切り落とすために。
そのドリルは、アイドルに向かない甘やかされて柔らかな血肉を貫くために。
その鉄球は、それでもアイドルとして立ち上がろうとする心を砕くために。
本来なら反ロボットの戦士達の装備を破壊するためのものなのだろうが、それら全てが丸腰の千奈を破壊するためだけに向けられた。
『さあ 幸せニなりマシょう▼』
グチャり、と乾いた音が響いた。
■■■
千奈が目にしたものは一本の線であった。
それが鎖であることに気づくと、ロボットは乾いた音を立てて壊れていた。
ひとつ、またひとつとロボット達が勝手に壊れていく。
壊れているのではなく、壊されているのだと気づくまでに数十秒程かかった。
白線を引くかの様に、鎖がロボットへと結ばれ、無骨な鉤爪が絡みつく。
目にも映らぬ速さでロボットへと突進した乱入者は、即座に鎖を巻き取りまた消える。
そして、ロボットから別のロボットへと瞬く間に――瞬きすらも遅く、潰し、砕き、叩き、裂き、破壊する。
魔物の爪や牙も通さなかった重厚な装甲も、紙細工の如く潰れていく。
『異常量のエネルギーを感知』
『ターゲット変更 警戒レベル修正』
『最優先攻撃対象に指定』
ロボットの群れは直接攻撃から、射撃へと切り替える。
新たに湧き出た四脚重砲が、乱入者の四方を囲んでいき発射体制を取る。
一発でも生物を粉々に出来る程の砲弾が嵐となり、死ぬまで続く殲滅作戦が開始された。
たった一人を倒すためだけに行なわれる、過剰ともいえる行為。
逃げ場は無い。どう見ても詰みだ。絶望的な状況と言える。
天敵に勝つことは絶対に不可能。
人間は決して、ロボットには勝てない。
この乱入者が、通常の人間であればその通りだろう。
だが、天敵であれ絶対に勝てない存在がいる。
鳥やヘビにとっての大鷹のように。
ロボットにとっての――のように。
秘密裏に指令を受け、世に出てはならぬ怪力乱神を専門に取り扱う秘匿組織があった。
朝鮮軍義禁府第17室。主上殿下直属の特別任務部隊。
その室長を務めていた准将は個人にして軍と同等の力を持つ。
弾丸も砲弾も遅い。レーザーすらも回避する。
片腕に宿った型落ちのチェーンフックのみで近代兵器を凌駕する。
天下無敵、先鋭軍人。
国家公認の人間兵器。
かつて伝説と呼ばれていた者。
ロボットにとっての、天敵。
その怪物が通った道は灰しか残らない。
■■■
「……す、凄いですわ」
砲弾の嵐を潜り抜け、乱入者は無傷でロボット達を殲滅した。
千奈としても、乱入者が何者なのかは分からない。
味方なのかも分からない、もしかしたら次は自分を狙うのかもしれない。
逃げたほうが良いのだろうが、優れた演舞に魅了されるが如く、目を背けることができなかった。
「怪我は無いか」
准将は初めて口を開いた。ロボットの言葉と違い、その言葉に嘘はない。
結果的には襲われていた民間人を助ける形となったが、彼からすれば自分の身にかかる火の粉を払った様なものである。
「は、はいっ!助けて頂き、ありがとうございます」
大財閥、倉本グループの一人娘。恩は決して忘れない。
沢山の愛情を受けて育てられた彼女は、素直に礼が言える。
男が味方であったことには息をなで降ろしたが、その言葉には彼に対して少しの怯えがあった。
「……そうか」
准将の目にふと、ロボットの残骸に反射する自分の姿が見えた。
怖がられるのは仕方ない。まるで――――そのものなのだから。
男は理解している。思い出せる。忘れたわけじゃない。
この世界に来る前に、突きつけられた真実も、今の自分がどのような姿をしているかも、
そして、どんな過程を歩み、どんな結末を迎えたかも。
それだけはもう、消えることはない。
「ベリアルは私が対処する、解決するまではどこかに……」
背を向ける。情に浸る暇はない。
軍を抜けた身とは言え、解決しなくては行けない事は多い。
ベリアルなる者は何者なのか。
そもそも何故、自分が生きているのか。
考える事は多い。
『学習完了 ▼』
「今すぐ逃げろ」
遠くから聞こえた音声に、即座に思考を中断、敵へと駆ける。
『警戒レベル6 全武装 制限解除▼』
天敵が天敵足り得るのは、希望を容易く打ち砕けるからだ。
電子音が響き、現れたのは二脚型 ネイバー。
ある世界の魔族の戦闘幹部に匹敵する、ロボットの上位種である。
准将の培った戦闘センスが、それまでの雑魚とは違う事を理解させた。
あれは、即座に破壊せねばいけないと。
神速で機械を切り裂かんとした鉤爪は、風を切り裂いた。
ネイバーは高速で迫る鉤爪を掴み、受け止め、ハンマー投げの如く回転、勢いを付け空中へと投げる。
先程まで反応さえ出来なかった動きに対応し、受け流した。
さらに模倣するかの如く、胴体から射出されたワイヤーが宙に浮かぶ彼を掴んだまま加速、勢いのまま放り投げる。
「……ブリキ缶が真似事とはな」
岩場に叩きつけられ、悪態を付く。
ロボットの強さは、単なる機械のスペックにあるわけではない。
戦闘した相手の情報を、即座に記録・蓄積・検証し全てのロボットへと共有する学習能力の高さだ。
自分より強い相手を学習し、即座に自分のものとする。
そして、その強化には上限が無い。
人類が長年かけて練り上げた技術も策も、ロボットは短時間にそれを上回る。
『幸福誘導弾(ハッピーミサイル)』
ネイバーの肩から幾多の弾が発射される。
弾自体は数十センチ程で小さいが、その一発だけでも人間が勝てない別の天敵を複数体焼けるほどの高威力。
それが弾幕として放たれる。
『シアワセー』『シアワセー』『シアワセー』
発射された弾は、恐怖を追い立てるように笑顔を浮かべ、わざとらしい音声を立てる。
誘導性能を持つ弾は准将へとどこまでも追い纏う。
今にも直撃せんとした瞬間、木々に鎖を巻き付け盾代わりにし、高速で立体軌道を描くことで、直撃を回避。
木々が焼け爛れ焦土と化していくが、准将自体は生き残った。
しかし、ロボットは決して生存を許さない。その策への対処を容易く判断する。
『キュイイイイイ』
ミサイルの相手をさせている間に、ネイバーはエネルギーを蓄える。発射姿勢を取り、准将へと向けた。
そこから放たれた光線は、回避はしたものの森を蒸発させ一筋の空洞が生まれる。
その高威力の光線は、准将がかつて相手にした『監督官』を彷彿とさせる。
あの時のように、今は逃げるしかない相手だと言うことはその瞬間理解する。
しかし、気づいた所で意味は無い。ロボットはその思考を予測し対処する。
繰り返し放たれる光線と爆撃に、周辺は何も無い焼け野原と化していく。
速度を学習したネイバーから逃走は出来ない。
焦土と化した大地は隠れる場所も無い。
『多重エネルギーフィールド展開』
爆撃の隙を付いてネイバーへと攻めるも、張られた障壁は一切の攻撃を受け付けない。
動きの学習が完了した今、准将の如何なる攻撃は通じない。倒す事も不可能。
もはやロボットに弱点は存在しない。
あったとしても、即座に学習し対応する。同じ技はもう効かない。
『逃げル場所も隠れる場所もあリマせん、速やかニ最期を迎えてくダサい▼』
今度こそ詰みだ。天敵には決して勝てない。
どれだけ強い人間であれ、伝説の軍人であれ、もうその肩書に意味は無い。
敗北は確定した。出来ることは速やかな自害ぐらいだ。
「……こんな最期とはな」
最後までやり通せず、何も成し遂げられず、中途半端に終わる。
この場に居るのが、准将だけであるならばそんな結末だっただろう。
「こっちですわ!」
逃げたはずの少女、倉本千奈が声を挙げる。
彼女は一般的な人間と比べても弱い。
同世代と比べても小柄で、学力も低い落ちこぼれだ。
それでも彼女は、どれだけ強い相手でも、逃げたり諦めることを決して選ばない。
無謀とも言える”やる気”は誰よりも高い。
「る、ルカニ、ですわっ!届いてっ!」
だから、最後までやり遂げる。
『不明なエネルギーを感知 参照エラー▼ マザーへの報告 エラー▼』
弱かったからこそ、ネイバーは彼女の輝きを想定しなかった。
知らぬ世界の魔法という、ネイバーの知らぬ、みちなる技。
杖から光弾がひろがる。魔法は魔力を持たぬ機械にはよく通じる。
「柔らかくしましたわ!」
あらゆる全てを学習するロボットの弱点は、まだ学習していない技だ。
勝機があるのは、対応が終わっていないこの一瞬のみ。
ネイバーの頭脳は学習を優先し僅かに反応が遅れた。
准将は勢い良く跳ね、駒の如く回転し、速度を上げロボットへと目標を定める。
『フィールド減衰 30% ……50%▼』
高い防御力を持つ装甲兵器の破壊に特化したチャージダッシュを障壁へと叩き付ける。
その一撃は、弱まった装甲を上回りガラスの如く破壊する。
『……100% フィールド消失▼』
勢いを維持したままにネイバーへと迫る。
周囲を飛んでいた誘導弾が、准将を止めんと迫るが遅い、即座に抱きつくように
ネイバーをチェーンで挟み込み拘束する。
准将を追ってきた誘導弾はネイバー自身へと着弾する。
火力が足りないなら敵の技を利用すればいい。准将自身も過去にやってきたことだ。
高威力の爆撃も、ルカニの魔法により耐久の落ちた胴体に直撃すれば、自らを傷つけるのみ。
『防衛システム断絶▼ 機体損傷80% 警戒レベル修正▼』
先程まで傷一つ無かったのが嘘のようにネイバーの装甲が剥がれてゆく。
手脚が外れ、基板や配線が剥き出しとなったその姿に、最早恐ろしさは無い。
「これで、終わりだ」
高威力の爆風であったが、准将自身が受けた被害は、僅かにマントが焼けた程度であった。
リバーサルダッシュ―――被弾した直後に、その勢いを利用し加速を遂げる技で爆風の直撃を回避していた。
【HOLD】
むしろ爆風の勢いは手助けとなる。
空高く舞い上がり、加速させた鉤爪がネイバーの頭部を掴む。
【PRESS】
加速した勢いを逃さぬままに、勢い良く捻り切った。
『機関部 破損▼ ピーガガ、ガ▼』
ネイバーの頭部が大地を転がり、機能を停止した。
■■■
「……すぐに逃げろと言ったはずだが」
戦闘を終えて、真っ先に言ったのは千奈への説教であった。
彼女のサポートがなければ負けていたのは事実だが、民間人しかも幼い娘が危険を顧みず無茶な事をしたのだ。心苦しいものがある。
「そう仰るのはわかっていましたわ……ですが、おじさまに任せて一人逃げるなんて、皆様に顔向けできませんわ!」
逃げなかったのは、それが彼女なりのアイドルのあり方だったからだろう。
千奈は弱い。弱いからこそ、自分の持ちうるものを使う。
少しでも出来る事をして、自分のする事には責任を持つ。
周囲に目を配り、トラブルに対しての機転は群を抜く。
目の前で苦しむ者を見逃して、自分一人逃げようなど、何がアイドルか。
「はぁ……娘を思い出した」
「まあ!娘さんがいらっしゃるんですの!」
意地を張り、予想出来ない事し、決めた事は最後までやり遂げる。
その姿に愛娘の事を思った。
【二脚型 ネイバー(NPC)@バーサス 破壊】
【四脚重砲型 トータス(NPC)@バーサス 破壊】
【下位モデルのロボット達(NPC)@バーサス 破壊】
【クム准将@SANABI】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:自分の身体
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考・状況]
基本方針:この事件の迅速な解決
1:周辺のロボットを殲滅する
2:ベリアルの撃破
[備考]
※ゲーム本編同様にダメージは時間経過で回復します。ただし回復スピードは遅くなっています。
※参戦時期は階段を登ったルートの本編終了後。
※外見はチャプター6時点のものとし、名簿は彼の正式な名称で載っているものとします。
【倉本千奈@学園アイドルマスター】
[状態]:健康、恐怖(中)
[装備]:ルカニのつえ@ドラゴンクエストシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:無事に帰りますわ
1:この状況を対処する
2:知り合いが居たら一緒に帰る
[備考]
※参戦時期はお任せします
■■■
『私は怪しいものではありません▼ 』
ロボットの強さは学習の速さにある。
戦った相手の情報は、別の個体へも即座に共有される。
遠く離れた場所にて、先ほどとは別のロボットの戦闘が行われんとしていた。
千奈達は知る由もない事であったが、先程倒されたネイバーは単なる量産品の尖兵にすぎない。
『友好的な存在です▼ フレンドです▼』
天敵を狩る天敵が存在するならば、それを狩る天敵も生まれるのは当然の事。
対応の連鎖は繰り返される。どちらかが全滅するまで終わらない。
そのロボットは異世界の天敵にも対応する為に作られた、天敵抹殺特化型であった。
世界を支配した魔王に並び、学習を繰り返す事でそれを上回るほどの強さを持つ。
そして、再現可能なら彼らの技も模倣出来る。
『擬・ルカニ』
『擬・チャージダッシュ』
そして、模倣した。
送られてきた光景を再現し、瞬く間に移動する。
先程までの戦いを茶番にするかのように、覚えたばかりの力を使いこなし、周囲のNPCを蹂躙した。
その中には人類がいた。
人類を追い詰めた天敵もいた。
天敵を脅かす別の天敵もいた。
人間がいた。英雄がいた。巨人がいた。妖精がいた。幻獣がいた。
魔族がいた。精霊がいた。魔獣がいた。亜人がいた。機械がいた。
戦士がいた。悪魔がいた。魔物がいた。勇者がいた。魔王がいた。
全て抹殺した。
【天敵抹殺特化型“フレンド”@バーサス】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:全ての敵の抹殺▼
1:未知の技を学習する▼
[備考]
※参戦時期は少なくとも魔王ロイヤローチとの戦闘開始以降。
※ミミック・ドライブ・システムにより下記の技を学習しました。
※その他、本編開始までに各地のロボットやNPCとの戦闘で集まった戦闘経験が蓄積されています。
【NPC】
【ロボット@バーサス】
機律界を支配する天敵。
学習能力が高く、戦闘情報は他のロボット達に記録・蓄積・検証・共有される。
つまり戦うほど強くなる。
天敵抹殺特化型はこの世界には一体のみであり、参加者扱いとする。
【支給品】
【ルカニの杖@ドラゴンクエストシリーズ】
倉本千奈に支給。
主に不思議のダンジョンシリーズに登場するつえ。
光弾を当てると相手の守備力がちょっと下がる。何度も当てれば0にもできる。
最終更新:2026年02月15日 21:52