「すー……はー……」
殺し合いの会場として用意された島の一角、そこに用意された倉庫の中で、少女は深く呼吸していた。
自分を落ち着かせるためだろうか。
少しでも気を抜いたら震えてしまいそうな手を胸に留めて、何度も吸っては吐いてを繰り返している。
無理もないだろう、突然自身に降りかかった殺し合いという命の危機。
そんな現実感のない催しに放り込まれれば、一歩を踏み出すのには相当な勇気を要する。
「……」
静かに開眼した少女は、デイパックからある物を取り出す。
それは、少女にとっては見覚えがあり、とても親しみのあるものだった。
「これがあれば……!」
これがあれば、殺し合いの中でも前に踏み出せる気がする。
自分を保てる気がする。
正義を貫ける自分に、変身できる気がする。
「宇沢レイサ、変っ身!!」
倉庫の中で、トリニティ自警団の一員である宇沢レイサは高らかに声を上げた。
§
突然殺し合いに巻き込まれて、宇沢レイサはしばらく動くことができなかった。
無論、ベリアルに対する憤りもある。
トリニティ自警団の一員として、こんな命を弄ぶようなことは絶対に看過することはできない。
しかし、レイサに降りかかったのは怯えだった。
それはここで自分のヘイローが壊されることへの恐怖だけではない。
いきなり自分がいなくなって、先生や同じ自警団の守月スズミ、トリニティ総合学園の学友達に心配をかけていないだろうか。
まさか、同じく殺し合いに巻き込まれていないだろうか。
そんな、ここにはいない誰かに対する不安だった。
「フィードランプよりチャンバーへ……6条右回りの魔法よ!揺るぎなき力を!」
そんな中、レイサのデイパックの中の支給品にあったのは、いつかのボーダーランド遊園地に潜入した時に着用した、「魔法少女ヘヴィキャリバー」の登場人物「テルミットピンク」の衣装と、それに合わせてデコレーションされたショットガンやロケットランチャーのセット。
レイサは巡り巡って支給されたそれに、背中を押された気がした。
確かに、「宇沢レイサ」一人だけでは力は足りないのかもしれない。
しかし、「テルミットピンク」に扮すれば、少しでも多くの参加者の命を救える、ヒーローに変身できる気がした。
「ボルトフォワード!テルミットピンク!」
実際の変身口上を声に出しながら、ピンクというよりは少し青がかった紫を基調としたフリフリのドレスの衣装――テルミットピンクのコスチュームを身に付けたレイサが、倉庫を飛び出し街中へと参上する。
そのまま、ショットガンを構えるレイサ。
そこには、ずんぐりとした体格の怪物――またの名を下級インベスが大勢うろついていた。
「宇沢レイサこと、テルミットピンク!登場です!!」
レイサは大声で名乗り上げながら、インベス達に突撃する。
「はあああああっ!!」
キヴォトスの生徒特有の頑強さに物言わして、レイサはショットガンを発砲しながら暴れまわる。
ショットガンの弾を浴びせられたインベスが一匹、二匹と倒れて爆散していく。
インベス達は一斉に目立つレイサを見て襲い掛かろうとするが、そうする前にレイサに足で軽々と蹴とばされ、仰向けに倒れたところをそのまま蜂の巣にされる。
自警団でスケバン達とやり合って荒事慣れしていたこともあってか、瞬く間にレイサは下級インベスを殲滅した。
「参加者……ではないみたいですね!きっと悪魔ベリアルの放った魔物でしょうか!みんなから友情エネルギーを奪おうとするなんて許せません!」
軽く決めポーズを取ってレイサは声を上げる。
ほんの少し、憧れの魔法少女「テルミットピンク」になりきりながら、レイサは周囲にNPCがいないか確認する。
ベリアルの言っていたことが正しければ、他の参加者に襲い掛かるはずだろう。
殺し合いを止めるため、少しでも誰かが生き残れる可能性を残すため、まずはベリアルの意のままに動く魔物を片づける。
「……ふぅ」
ホッと胸を撫でおろして、武器を下ろす。
もし他の参加者に出くわしたらどうしようとか、殺し合いに乗っていないことを伝えられるだろうかと気にしていたが、そこにいたのがNPCである意味助かった。
一人であることで、とにかく自分のできることに集中することができた。
まずは第一歩を踏み出せた、と少しだけ満足感に浸り、レイサはつい気を緩めてしまった。
「■■■――」
建物の狭間から、大きな影がレイサに向かって飛び出してきたのだ。
その正体は、ライオンインベス。
下級インベスとは比べ物にならない強さを誇る。上級インベスの一体だ。
「あっ!?」
レイサは咄嗟に振り返るが、武器を構えようとした時には、既にすぐそこにまでライオンインベスが肉薄していた。
(間に合わない……!!)
その爪がレイサの肉体を抉らんと彼女の胸に振り下ろされる。
『ドリアン!オーレ!』
しかし、それでレイサの胸が切り裂かれることはなかった。
その直前に横槍が入り、黄緑色のエネルギーの波動がライオンインベスに直撃したからだ。
「■■■■――!?」
ライオンインベスはそのまま吹き飛ばされて、爆散。
ここ一帯を占拠していたインベス達はついに全滅したのだった。
「あ……」
呆気に取られていたレイサだったが、視界の端にライオンインベスを止めた張本人の姿を捉える。
それは、黄緑色の鎧を全身に固めた戦士だった。
刺々しく攻撃的な外見をした仮面の戦士は、ゆっくりとレイサに歩み寄ってくる。
「えっと、あの……」
レイサは口ごもりながら、気圧されるように後ずさる。
「……」
仮面の戦士は、腰に巻いたベルトに嵌まった錠前を外すと、まるで鎧が解けるようにして中にいた人物が露になる。
それは、筋肉の発達した大男だった。
相手は明らかに大人だったが、レイサの知る先生のような大人とはかけ離れている。
大男の顔には厚い化粧が施されており、スキンヘッドを黒いターバンで隠した異様な風貌だ。
「た、助けていただき、ありがとうございましたっ!!」
正体を現した大男に対して、レイサは深々とお辞儀をして感謝を伝える。
しかし、大男からは一向に反応が返ってこない。
ちら、とレイサは上目遣いで大男の様子を見る。
「……」
大男は冷徹な目線でレイサを見下ろしながら、静かに歩み寄ってくる。
「えっと……」
何が気分を害してしまっていないだろうか、怒らせてしまっていないだろうか、そんな考えを抱きながら、レイサはおろおろと相手を見ていることしかできない。
大男はレイサの真ん前に陣取り、ようやく口を開く。
「――バッカモ〜ン!!」
そして、ターバンを地面に叩きつけながら開口一番、レイサに怒鳴りつけた。
レイサはギュイインというエレキギターが鳴ると共に、金ダライが何度も落ちてきたような感覚に襲われた。
§
「その服装はなに!?魔法少女ってやつになりきったつもり!?ワテクシから見れば子供の遊びとしか思えないわね!」
「……ハイ」
しばらく後。
レイサは大男の前で正座しながら、きつい説教を受けていた。
しゅんとした表情で、一切反論することなく大男の前で首を垂れる。
大男は男性でありながら、女性口調で喋りながらレイサを叱咤していた。
大男の名は、凰蓮・ピエール・アルフォンゾと言った。
かつて沢芽市を襲ったヘルヘイムの災害に立ち向かい、やがて世界を救った男と共闘したシャルモンの店主であり、「大人」である。
「ここは殺し合い。命を奪い合う戦場よ。そんな状況なのにアナタ……不用心にも程があるわよ!!ここは入り組んだ市街地、どこに敵が隠れているかも分からない……ど真ん中で突っ立って気を抜くだなんて、狙ってって言ってるようなもんでしょうが!!」
「……ハイ」
「なのにショットガンみたいな物騒なモノを持って自分から前に来て……ワテクシが来なかったらアナタ、どうなっていたか分からないわよ!!アマチュアの偽物のまま、ゲームオーバーになっていたかもね!!」
「……ハイ」
打ちのめされたような目になって項垂れながら、レイサは延々と続く説教を受け入れる。
しかしながら、凰蓮の説教は理にかなっているのは事実だった。
凰蓮は元々、フランスの外人部隊に所属して戦地を転々とした経歴がある。
そういった戦場での立ち回りの戦術眼は、キヴォトスの生徒達と比べても遥かに秀でていた。
「そう言えばマドモワゼル、アナタの名前は?見たところまだ子供みたいだけど……どこから来たの?」
「……宇沢レイサです……キヴォトスから来ました」
流石に今の凰蓮に対してテルミットピンクと名乗る勇気は出なかった。
「キヴォトス?聞き慣れない名前ね」
怪訝な顔をする凰蓮。
「……学園都市です。……その中のトリニティ総合学園という学校に通ってて、自警団をやってました……」
まるで尋問されている捕虜のように、レイサは凰蓮にぽつぽつと身の上を話していく。
「自警団ですって!?!?!?」
「ハイ、自警団です!!!!!」
「それで市民の平和を守ってたってわけ!?!?!?」
「ハイ、パトロールして銃を撃ちあって守ってました!!!!!」
「銃使ってたですってぇぇぇ!?!?!?」
「ハイ、使ってました!!!!!困っていそうな人がいれば突撃してました!!!!!」
突然、またエレキギターが鳴るような感覚と共に凰蓮が叫び、レイサはビビりながら背筋をぴんと伸ばして何度も叫び返す。
「……。お言葉だけどマドモワゼル。何もかも甘いアナタが自警団になって平和を守ろうだなんて……あまりにも背伸びし過ぎというものね」
「……!!」
「大方、自警団として殺し合いを止めようとしていたんじゃない?」
「……ハイ」
「アナタの持ってるそれは、自警団とやらの理想を叶えるためだけに使える力じゃないわ。下手をすれば相手の命も奪ってしまう。特に、この殺し合いの中じゃね」
「それは……」
反論できなかった。
確かに、レイサのようなキヴォトスの生徒とは違い、先生のような脆弱な身体の持ち主がこの殺し合いには大勢いるだろう。
そんな者達が小競り合いを起こしている最中に、いつもやっているように割って入っては、下手をすれば無辜の人間を殺めてしまいかねない。
「いい?力っていうのは生半可な覚悟で使っていいものじゃないの!アナタみたいな頭より身体が先に動く子が過ぎた力を持てば……いずれ力に溺れてしまうわ」
そうレイサに言う凰蓮の目には、何者かが映っているようだった。
「……はい。そうですね……そうかもしれません」
レイサは目を伏せて頷きかけるが、「……でも」と叫んで踏みとどまった。
「だからと言って何もしないのは……私自身が許せないんです!!」
レイサは立ち上がり、凰蓮の目をじっと見つめて言う。
「私には憧れている正義の味方《ヒーロー》がいます!その人は決して困っている人や助けを求めている人を見捨てませんでした!どんな時もパトロールを欠かしませんでした!」
そこにはただ凰蓮に気圧されて正座して説教を受けるだけだった子供はなく、宇沢レイサ自身の想いを大人である凰蓮にぶつけていた。
「その人なら……なんて言われようと絶対に歩き続けるから!!この殺し合いは間違ってるって、諦めずに足掻き続けるから!!」
――誰かを守る力がこの手にあって、たとえそれが正義ではなくとも。その力を私が私の手で正しく使うことができるのであれば、それで十分なんです。
レイサの瞳にも、憧れているヒーローの姿が浮かんでいた。
「確かに凰蓮さんの言う通り、私は考えの甘い子供で、実力も覚悟も足りないかもしれません。それでも私は、みんなの平和を守る正義の味方にならないといけないんです!ベリアルを倒して、この殺し合いを止めるために!!」
「……」
力強く声を上げるレイサを、凰蓮は黙って見つめている。
「この衣装だって!凰蓮さんから見れば子供の遊びかもしれませんけど……私にとってはとても大事なものなんです!これがあれば、少しでも正義の味方に近づけると思うから!本当は死ぬかもしれないって思うとすごく怖いけど、勇気をもらえる気がするから……!」
精一杯の感情を込めてレイサは力説する。
一通り言い切った後にハッとして、気まずそうに俯く。
そのまま、ここまで言われて凰蓮を怒らせてしまっていないかと、上目遣いで彼の顔色を伺った。
「……アナタって、本っ当にバカね」
「ガーン!」
怒鳴る様子はないものの、その言葉はレイサに深く突き刺さる。
やはりそうかと、がっくしと項垂れる。
「――そこまで本気を見せられたら……こっちも応えるしかないじゃない」
「へ……?」
すると凰蓮は、微笑みながらレイサのショットガンを拾い上げて、彼女に手渡す。
凰蓮の中では、レイサの姿と、若いながらも世界の危機に立ち向かっていったアーマードライダー達の姿が重なっていたのだ。
そんな彼ら達の奮闘を思い返すと、レイサの純然たる想いを無碍にしようなどとは思えなかった。
「見守ってあげるって言ってるのよ。ちょっと荒療治になるけど……本物の正義の味方になれるようビシバシ行くから」
凰蓮はすれ違いざまにレイサのでこをつんと突きながら、ついて来なさいと言わんばかりに振り返る。
「――覚悟しなさいよ?」
「……はい!」
凰蓮の言わんとするところを察して、レイサは元気よく返事を返す。
ここに、勢いと癖の強すぎる師弟タッグが誕生した。
【宇沢レイサ@ブルーアーカイブ】
[状態]:健康
[装備]:テルミットピンクのコスチューム@ブルーアーカイブ、シューティング☆スター@ブルーアーカイブ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2、テルミットピンクのロケットランチャー@ブルーアーカイブ
[思考・状況]
基本方針:自警団として殺し合いを止める。
1:凰蓮と共に行動する。
[備考]
※少なくともイベント「魔法少女ヘヴィキャリバー〜エラの野望と正義の資格〜」終了後からの参戦です。
【凰蓮・ピエール・アルフォンゾ@仮面ライダー鎧武】
[状態]:健康
[装備]:戦極ドライバー+ドリアンロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:レイサと共に行動し、彼女をビシバシ指導する。
[備考]
※少なくとも本編終了後からの参戦です。
【レイサ(マジカル)の装備一式@ブルーアーカイブ】
レイサに支給。
イベント「魔法少女ヘヴィキャリバー〜エラの野望と正義の資格〜」でレイサが扮したテルミットピンクと、本編で実装されたレイサ(マジカル)の固有武器のセット。
単なる衣装と共に、演出で使用している魔法の杖(※ロケットランチャー)と、レイサの固有武器であるシューティング☆スター(※ショットガン)が同梱されている。
【戦極ドライバー+ドリアンロックシード@仮面ライダー鎧武】
凰蓮に支給。戦極凌馬が作ったアーマードライダーに変身するためのベルトと、
それに該当するロックシード一つがまとめて支給品となっている。
ドリアンならば仮面ライダーブラーボに変身可能。
最終更新:2026年02月15日 21:59