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BL-2-072 - (2010/10/10 (日) 12:18:11) の編集履歴(バックアップ)



「−英国に吹く風 Ⅱ−」


72 :−英国に吹く風 Ⅱ−:2010/10/09(土) 23:12:25 ID:6FFnrJG6

》2-011の続きを投下
前回とは逆の相手方視点でちょっと短めのお話です。


73 :−英国に吹く風 Ⅱ−:2010/10/09(土) 23:14:23 ID:6FFnrJG6

 ずっと。
 弟分のように思っていたのだ。
 それが何時から、それ以上の感情を伴って見るようになったのか、はっきりとは覚えていない。

 だが、一見冷たそうに見える、プラチナシルバーの短く整えられた髪とアイスブルーの瞳の同室の少年−
ヴィットーレ・ディ・イエッリ−彼がその容姿に似合わぬ、屈託のない笑顔で微笑む度に、魅かれていって
いた気はする。

 あいつは、そういう意味では、本当に天然なのだ。自分の何気ない表情や仕草が一体どれ程の人々を惹
きつけているのかなんて、全く自覚していないのだろう。


「……んっ、あぁっ……トォガ……や、ぁ……」

 これだよ。
 奴は先程も俺の隣のベッドで、こんなにも悩ましげな寝言をあげて、俺の名を呼びやがった。
 その日、元々眠りの浅かった俺は、その声に呼び覚まされるように、目をあけた。
 そして、それは、俺が眠り初めてから、まだ余り時間が経っていないうちの出来事だったので、ある意味当
然のように、まだ辺りは暗く、夜の闇に包まれたままだった。
 今は、ちょうど、真夜中を少し過ぎた位の時間帯のようだ。

 全くどんな夢を見てるんだか……。
 俺はそう思いながら、自分自身の鬱陶しい位に長い髪をかきあげつつ、ベッドから上半身を起こして、奴が
眠るベッドの方へと振り返る。


 あー、案の定、ブランケットが奴の身体の上に掛ってないよ……俺にブランケットを引き剥がされた夢でも
見てるんだろうか、こいつは……
 奴のそんな姿を見た俺は、ため息をつきながら、自分のベッドから静かに立ち上がって、奴のベッドの傍
へと歩いて行き、その一見華奢に見える奴の身体へと、そっとブランケットをかけてやる。

 「……んう……やぁ……ん……あぁっ、トーガぁ……」

 俺がブランケットをかけて、奴の顔を覗き込むようにした瞬間、見ているこちらの方が切なくなるような、ま
るで、情事に喘ぐ美少年といった風な表情をしながら、奴は小さな声で、そう呟いた。
 もちろん、それも寝言だし、表情だって、寝苦しさ故のものだろう。
 俺は、多少、呆れるような気持ちを伴いながら、再びため息をついた。


 それから、再び、奴の整った顔へと自らの顔を寄せて、奴の額へと軽くキスをしてから、その場を離れる
と、近くの窓をほんの少しだけ開けて、冷たい夜の空気が入るようにした。
 窓を開けた途端に、少しずつ入って来る秋の気配を伴った、穏やかな風が、俺の長いプラチナゴールド
の髪を掬っていく。
 奴の所為で、ほんの少しだけ熱を帯び始めていた自分の身体とっても、その冷たい風は心地良かった。

 ここは、全寮制の男子校の寮棟の一室なので、今、俺が、気分を変るために外に行きたくとも、基本的
にこの部屋の外に出ていくことは難しい。
 この真夜中の時間帯でも、シャワー室やラウンジなど、自室以外の場所も寮内であれば、基本的出入り
自由なのだが、こんな真夜中には、それこそ、世間一般で言う、不謹慎な逢瀬を重ねている生徒も幾人か
はいるということを識ってはいるので、そういう輩に遭遇したくないだけの話だが。

 世間一般では、そんな色恋を絡めた逢瀬を男同士で、なんて、不謹慎だと思うのだろうが、そういう性的
な代償行為を欲する傾向が強い年頃にある若者−しかも男だけを集めて長いこと寮生活を送るなかで、そ
うなるなと言われも、決して自己擁護する訳ではないが、少し無理があると思う。


 全く、俺が同室じゃなかったら、お前なんか、すぐにそういう輩に手を付けられていたと思うぞ。
 俺は、そう思いながら、先程とは変わって、もう既に、安らかな寝息を立て始めていたヴィーの方へと振り
返った。
 まあ、こいつは、見た目よりも相当強いので、そう簡単には、手籠にされたりはしないと思うけど。

 「本当に……どうしてこんな奴を好きになっちゃったんだか……」

 それこそ天使のような微笑みを浮かべて眠る奴を見ながら俺は、そう独りごちた。

 俺は外の空気を入れるために、少しだけ開けていた窓を閉めると、自分のベッドへと戻って、腰を下ろし
てから、ベッドサイドテーブルに置きっぱなしにしていたミネラルウォータを一口飲んだ。
 それから、手近に置いてあった携帯音楽プレーヤーを手にして、イヤホンを耳にすると、お気に入りの曲を
かけながら、横になる。
 もちろん、奴の悩ましい声をこれ以上、聞かなくても済むようにするためだ。


 「まあ、何にせよ、俺が護れるうちは、必ず、お前を護ってやるよ」

 今は静かな寝息を立てているであろう、本来の護衛対象ではない、その少年の背中に向かって、俺は小
さな声でそう告げた。

 それは、唯一人、俺のみが知る、奴への告白になるのだろう。

【END】

セリフだけは、ちょっと頑張ってみましたw
しかし、相手方の方が以外と冷静で書くのが難しかったよ……



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