Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第24話
納涼祭
異形が大規模に和泉に襲いかかった事件から数日後、和泉では納涼祭が催されていた。
納涼祭は元々疫病封じや死者の魂の慰撫などを目的として古くから日本で行われてきた祭りである。一時期科学万能の時代においてそれらの儀礼的な意味合いが薄れた事もあったが、震災から異形出現、≪魔素≫の発見の流れをうけ、人々は信心を身をもって叩き込まれることとなり、祭りに含まれる儀礼的な意味は遥か昔のように真剣味を含んだものとなった。
和泉の祭りも全体的に過去のそれへと立ちかえり、しかし時代の流れで仕入れた新たな娯楽をも含めつつ行われていた。
「これはまた愉快なことだの」
屋台や、街の中央で奏でられている祭り囃を物珍し気に見聞きしながら上機嫌にキッコ。彼女としては見るもの見るもの全てが珍しいのだろう。
「今の時代、祭りが即物的な御利益をもたらしてくれたりもするからな。皆それなりに真剣にもなる」
屋台を巡って買い漁ってきた食べ物の包みを両手に抱えながら匠は祭囃子や櫓上の太鼓に目を向ける。
異形の来襲で準備が滞ったところもあったが無事に祭りが行われてよかった。
そう思っていると門谷も頷きながら、
「今回の祭りは先日の異形大量襲撃の阻止成功祝いも兼ねているから皆ハメを外す勢いで騒いでやがるしな」
「良好だの、我としては食物のラインナップに肉をもっと加えてほしいところだが」
「……金魚の踊り食いとかするなよ」
「あ、俺見てぇかも」
彰彦がこちらも食料の包みを片手に紙コップの酒を飲みながら口を挟む。キッコもノリ気で金魚すくいの店へと視線を向け、
「やるかの?」
「おーけぇい!」
「おーけぇいじゃねえ!」
「なんだよ匠、いいじゃねえかよ。金魚だって屋台のおっちゃんだってあまりのサプライズにドッキリ昇天だぜ?」
「周りの人間に変なトラウマ刻もうとするのはやめい!」
だいたいそれだと金魚はリアルに昇天するじゃないか。
一応冗談の範囲だったのかあっさりと諦めたキッコと彰彦に呆れながら、無事金魚を救った匠は周囲に歩いている人々を観察する。
異形の侵攻以降、番兵はずっと残務処理をしていた。今日は彼等にとっても一つの仕事の区切りだ。そのためか、即席の屋台通りには普段番兵をしている者達の顔が目立つ。
……なんというか、皆はしゃいでるなぁ。
幾人かは酒が回りきった顔をしているのを見て匠は思わず門谷に問いかける。
「さっきからそこかしこで番兵の皆の姿を見るんだが、見張りとか大丈夫なんだろうな?」
門谷は屋台で買った食べ物を手に持ち、
「おう、例年通り当番制を回してるし、番兵は非番以外は酒厳禁で今日非番な運の良い奴は後日改めて皆に奢りって事になってる」
「そりゃ安心だな」
そう感心している彰彦を見つつ、「番兵やめてよかった」と後日の奢りの際の皆の遠慮の無さを知っている匠は苦笑した。
「さて、そろそろ食料買い込みはいいだろ。腰を据えて食うとしようか」
そう言って両手の食料を示して見せた匠は進路を街の端の方へと向けた。
納涼祭は元々疫病封じや死者の魂の慰撫などを目的として古くから日本で行われてきた祭りである。一時期科学万能の時代においてそれらの儀礼的な意味合いが薄れた事もあったが、震災から異形出現、≪魔素≫の発見の流れをうけ、人々は信心を身をもって叩き込まれることとなり、祭りに含まれる儀礼的な意味は遥か昔のように真剣味を含んだものとなった。
和泉の祭りも全体的に過去のそれへと立ちかえり、しかし時代の流れで仕入れた新たな娯楽をも含めつつ行われていた。
「これはまた愉快なことだの」
屋台や、街の中央で奏でられている祭り囃を物珍し気に見聞きしながら上機嫌にキッコ。彼女としては見るもの見るもの全てが珍しいのだろう。
「今の時代、祭りが即物的な御利益をもたらしてくれたりもするからな。皆それなりに真剣にもなる」
屋台を巡って買い漁ってきた食べ物の包みを両手に抱えながら匠は祭囃子や櫓上の太鼓に目を向ける。
異形の来襲で準備が滞ったところもあったが無事に祭りが行われてよかった。
そう思っていると門谷も頷きながら、
「今回の祭りは先日の異形大量襲撃の阻止成功祝いも兼ねているから皆ハメを外す勢いで騒いでやがるしな」
「良好だの、我としては食物のラインナップに肉をもっと加えてほしいところだが」
「……金魚の踊り食いとかするなよ」
「あ、俺見てぇかも」
彰彦がこちらも食料の包みを片手に紙コップの酒を飲みながら口を挟む。キッコもノリ気で金魚すくいの店へと視線を向け、
「やるかの?」
「おーけぇい!」
「おーけぇいじゃねえ!」
「なんだよ匠、いいじゃねえかよ。金魚だって屋台のおっちゃんだってあまりのサプライズにドッキリ昇天だぜ?」
「周りの人間に変なトラウマ刻もうとするのはやめい!」
だいたいそれだと金魚はリアルに昇天するじゃないか。
一応冗談の範囲だったのかあっさりと諦めたキッコと彰彦に呆れながら、無事金魚を救った匠は周囲に歩いている人々を観察する。
異形の侵攻以降、番兵はずっと残務処理をしていた。今日は彼等にとっても一つの仕事の区切りだ。そのためか、即席の屋台通りには普段番兵をしている者達の顔が目立つ。
……なんというか、皆はしゃいでるなぁ。
幾人かは酒が回りきった顔をしているのを見て匠は思わず門谷に問いかける。
「さっきからそこかしこで番兵の皆の姿を見るんだが、見張りとか大丈夫なんだろうな?」
門谷は屋台で買った食べ物を手に持ち、
「おう、例年通り当番制を回してるし、番兵は非番以外は酒厳禁で今日非番な運の良い奴は後日改めて皆に奢りって事になってる」
「そりゃ安心だな」
そう感心している彰彦を見つつ、「番兵やめてよかった」と後日の奢りの際の皆の遠慮の無さを知っている匠は苦笑した。
「さて、そろそろ食料買い込みはいいだろ。腰を据えて食うとしようか」
そう言って両手の食料を示して見せた匠は進路を街の端の方へと向けた。
●
「隊長、あの大量の異形の事後処理の件ですけど」
席に腰かけ、買い込んだ屋台の食べ物を机に並べてどれを食べようか思案しながら匠。
今この場に居るのは匠と彰彦、それに門谷のみだ。
キッコは屋台の物珍しさに惹かれてそのままどこかへふらりと消えてしまい、クズハは事後処理の話など無用だろうと芳恵達に預けてある。今頃は普通になんのトラブルもなく祭りを見て回っているはずだ。
「死体とかなら片付けさせたぞ。ほとんどは信太の森の異形が食料にでもすると言って引き取ってくれたから火を焚く費用が省けた。――あ、桃太郎、お茶くれお茶」
「吉備団子注文しねえ客に出す茶はねえ」
外部から食料を持ってきて茶をたかる気満々の一同に〝鬼が島〟店主桃太郎が反抗した。
入口の扉を外すなど簡易な改装をして屋台調にした〝鬼が島〟でその名に恥じる事なく吉備団子を売っている桃太郎。
ただ利用させてはくれないか……。
彼の商売人魂に匠は妥協する事にした。
「じゃあ吉備団子ときなこ吉備団子を人数分」
「まいどー」
調理場に消えた桃太郎と入れ替わりに茶を持ってきた真達羅に礼を言って焼きそばの封を開ける。そうしてから門谷を見て、
「まあ俺としては異形の死体の問題の方はどうでもいいんだ」
「どうでもいいとはひでえな、ほっとくと疫病の温床になるんだぞ?」
「分かってます。けど」
そこで匠は言葉を止める。
それよりも身内で色々と問題あったからなぁ……。
頭に浮かぶのはこの事だ。色々と疑問も残っている。
キッコは今夜話をすると言ってたな……。
そうすれば、少しは疑問も解決するだろうか?
「身内が騒がしかったからな」
彰彦が苦笑で匠の心中を読んだかのような事を言う。匠は頷いて、門谷に聞いておきたかった事を率直に訊ねた。
「キッコについては、どう報告しました?」
あれだけ目撃者が居た上、キッコはクズハの時のように言い訳がきかない、というよりもクズハの時の事件の黒幕ということになっている。何も手を打たないのは番兵全体の士気と門谷自身の進退にも関わってくるだろう。そう思っての問いに門谷は申し訳なさそうな顔をして、
「ああ、悪いが信太主の事は報告せざるを得なかった」
「そうですか……」
「だよなぁ……」
「悪かったな」
難しい顔をした二人に門谷が頭を下げる。
「しょうがないさ」
「一応弁護の意見を具申しといたがな、俺としてもあの狐に何も思わないわけじゃねえしなぁ」
そう言って門谷は眉間に皺を寄せた顔をする。
「キッコさん嫌われてんなぁ」
「お前達からあの時の本当の話を聞いた後でもそうそう考えは変わらねえな。第二次掃討作戦の時に部下がアイツにやられてるんだ。まあ平賀の爺さんが『任せとけぃ』とか言ってたからキッコの身は大丈夫だとは思うぜ」
「そうですか」
口の端が笑みに歪む。なんだかんだと言っておいて門谷はきっと相応の手は尽くしてくれていたんだろう。
吉備団子が運ばれて来た。黙って団子をおかずに焼きそばを食っていると店先からキッコの声が聞こえた。
彼女の片手には追加の食料があり、しかしその中に金魚の姿が無いことに匠は密かにほっとする。
「食べ物はまだ残っとるの」
そう言って席に近付いて来るキッコのもう片方の手には、
「あ、あのキッコさん、あまり引っ張らないでください、服がっ……」
クズハの服の端が握られていた。
「キッコ、クズハの服を引っ張ってやるなよ」
服がはだける。
既に手遅れ気味な様子から目を逸らしてやりながら非難がましく言うと、キッコは口をとがらせた。
「なんだの匠、我がせっかく芳恵たちから奪ってきたというに」
きな臭い話もするから師範達に任せてたんだよ……。
匠は自分の席を確保して食べ物を遠慮なく食っていくキッコにため息を吐きかける。
キッコはどこ吹く風で注文を声高に告げる。
「店主よ、Bセットを頼もうかの」
「あいよー。おーい真達羅ぁ! 今ここにはだけ気味の衣服を着だっ――」
桃太郎の言葉が何故か途中で途切れた事に正義は果たされたんだろうと納得した匠は無言で合掌した。
隣に座ったクズハが衣服を慌て気味にかき合せて整えるのを待ってから口を開く。
「クズハ、祭りはどうだった?」
「今年は皆さん特に力が入ってらっしゃったようでどこも面白かったですよ。匠さんは隊長さんとのお話、終わったんですか?」
「ああ、概ね終了だ。匠をクズハちゃんに返すぜ」
「あ、いえ、そんな返すだなんて……」
手と尻尾を左右に振りまくるクズハ。その嬉しそうな表情にキッコは満足げに頷き、
「さて、せっかくこうして必要そうな人間を揃えたわけだしの、あの時約束したいろいろ話そうという約束、履行しようかの」
唐突だな。
そう思いながら匠は姿勢を正す。
「よろしく頼む」
一同聞く姿勢よしの匠達に対し、キッコはこうのたまった。
「まあ焦るな。ぶぶ漬けが出るまで待て」
席に腰かけ、買い込んだ屋台の食べ物を机に並べてどれを食べようか思案しながら匠。
今この場に居るのは匠と彰彦、それに門谷のみだ。
キッコは屋台の物珍しさに惹かれてそのままどこかへふらりと消えてしまい、クズハは事後処理の話など無用だろうと芳恵達に預けてある。今頃は普通になんのトラブルもなく祭りを見て回っているはずだ。
「死体とかなら片付けさせたぞ。ほとんどは信太の森の異形が食料にでもすると言って引き取ってくれたから火を焚く費用が省けた。――あ、桃太郎、お茶くれお茶」
「吉備団子注文しねえ客に出す茶はねえ」
外部から食料を持ってきて茶をたかる気満々の一同に〝鬼が島〟店主桃太郎が反抗した。
入口の扉を外すなど簡易な改装をして屋台調にした〝鬼が島〟でその名に恥じる事なく吉備団子を売っている桃太郎。
ただ利用させてはくれないか……。
彼の商売人魂に匠は妥協する事にした。
「じゃあ吉備団子ときなこ吉備団子を人数分」
「まいどー」
調理場に消えた桃太郎と入れ替わりに茶を持ってきた真達羅に礼を言って焼きそばの封を開ける。そうしてから門谷を見て、
「まあ俺としては異形の死体の問題の方はどうでもいいんだ」
「どうでもいいとはひでえな、ほっとくと疫病の温床になるんだぞ?」
「分かってます。けど」
そこで匠は言葉を止める。
それよりも身内で色々と問題あったからなぁ……。
頭に浮かぶのはこの事だ。色々と疑問も残っている。
キッコは今夜話をすると言ってたな……。
そうすれば、少しは疑問も解決するだろうか?
「身内が騒がしかったからな」
彰彦が苦笑で匠の心中を読んだかのような事を言う。匠は頷いて、門谷に聞いておきたかった事を率直に訊ねた。
「キッコについては、どう報告しました?」
あれだけ目撃者が居た上、キッコはクズハの時のように言い訳がきかない、というよりもクズハの時の事件の黒幕ということになっている。何も手を打たないのは番兵全体の士気と門谷自身の進退にも関わってくるだろう。そう思っての問いに門谷は申し訳なさそうな顔をして、
「ああ、悪いが信太主の事は報告せざるを得なかった」
「そうですか……」
「だよなぁ……」
「悪かったな」
難しい顔をした二人に門谷が頭を下げる。
「しょうがないさ」
「一応弁護の意見を具申しといたがな、俺としてもあの狐に何も思わないわけじゃねえしなぁ」
そう言って門谷は眉間に皺を寄せた顔をする。
「キッコさん嫌われてんなぁ」
「お前達からあの時の本当の話を聞いた後でもそうそう考えは変わらねえな。第二次掃討作戦の時に部下がアイツにやられてるんだ。まあ平賀の爺さんが『任せとけぃ』とか言ってたからキッコの身は大丈夫だとは思うぜ」
「そうですか」
口の端が笑みに歪む。なんだかんだと言っておいて門谷はきっと相応の手は尽くしてくれていたんだろう。
吉備団子が運ばれて来た。黙って団子をおかずに焼きそばを食っていると店先からキッコの声が聞こえた。
彼女の片手には追加の食料があり、しかしその中に金魚の姿が無いことに匠は密かにほっとする。
「食べ物はまだ残っとるの」
そう言って席に近付いて来るキッコのもう片方の手には、
「あ、あのキッコさん、あまり引っ張らないでください、服がっ……」
クズハの服の端が握られていた。
「キッコ、クズハの服を引っ張ってやるなよ」
服がはだける。
既に手遅れ気味な様子から目を逸らしてやりながら非難がましく言うと、キッコは口をとがらせた。
「なんだの匠、我がせっかく芳恵たちから奪ってきたというに」
きな臭い話もするから師範達に任せてたんだよ……。
匠は自分の席を確保して食べ物を遠慮なく食っていくキッコにため息を吐きかける。
キッコはどこ吹く風で注文を声高に告げる。
「店主よ、Bセットを頼もうかの」
「あいよー。おーい真達羅ぁ! 今ここにはだけ気味の衣服を着だっ――」
桃太郎の言葉が何故か途中で途切れた事に正義は果たされたんだろうと納得した匠は無言で合掌した。
隣に座ったクズハが衣服を慌て気味にかき合せて整えるのを待ってから口を開く。
「クズハ、祭りはどうだった?」
「今年は皆さん特に力が入ってらっしゃったようでどこも面白かったですよ。匠さんは隊長さんとのお話、終わったんですか?」
「ああ、概ね終了だ。匠をクズハちゃんに返すぜ」
「あ、いえ、そんな返すだなんて……」
手と尻尾を左右に振りまくるクズハ。その嬉しそうな表情にキッコは満足げに頷き、
「さて、せっかくこうして必要そうな人間を揃えたわけだしの、あの時約束したいろいろ話そうという約束、履行しようかの」
唐突だな。
そう思いながら匠は姿勢を正す。
「よろしく頼む」
一同聞く姿勢よしの匠達に対し、キッコはこうのたまった。
「まあ焦るな。ぶぶ漬けが出るまで待て」
●
程なくぶぶ漬け付きの吉備団子が配膳されてきた。
この店の店長の趣旨的には吉備団子にぶぶ漬けがついて来たんだろうが、頼んだ本人はいの一番にぶぶ漬けをかっくらっているのだからしかたあるまい。
ぶぶ漬け用に盛られた漬けものを一切れかすめ取って齧り、匠は口火を切った。
「で、まずはお前と彰彦が和泉に来た理由をもう一度訊ねてもいいんだな?」
「ふむ、構わんよ。彰彦、先に言うてやれ」
ぶぶ漬けをかきこんでいるキッコに言われた彰彦は数秒程「どう話したもんかな」と悩み、
「……俺が来た理由は和泉周辺におかしな異形がいるっていうんでその確認をしに行くキッコさんに無理やり連れてこられた。って感じだな」
「こ奴ごねおっての、あまりにも強情なので強引に連れて来てやったわ」
「元々俺は和泉に戻って来るつもりなんか無かったんだけどなぁ、コイツの事もあったし」
そう言って両手を軽く振って手を示す。今は人の手と変わらないそれも、正体は異形の腕だ。
「あの違和感バリバリな戦い方はその腕を隠す為か?」
「ああ、銃もぶっ壊れちまったし、もう今更隠すこともねえけどな」
彰彦はそう言って笑う。それを見てクズハは感服したように息をつき、
「お強いんですね」
「そうだなー……」
彰彦は酒の当てに齧っていた出店の味が濃そうなイカ焼きを咀嚼するのを一時停止してクズハを見る。
「今は、クズハちゃんより強えかもな」
「……今は?」
首を傾げたクズハに対して彰彦は笑みを作り、
「今のままでもクズハちゃんはいいと思うけどな」
「えっ……と?」
発言の意図が掴めずに困った顔をするクズハを見て彰彦は声を上げて笑う。
「困惑顔がまたいいな!」
「彰彦、わけのわからない事を言ってクズハを困らせるな」
「へいへい」
彰彦は肩をすくめてイカの咀嚼を再開、次の話し手を指名する。
「ほらキッコさん、次あんたの番だぜ」
空になった椀を机に置いてキッコは頷く。
「では話そうかの」
本題だ。
その場に居た者全員がそう思い、それに応えるようにキッコが話しだした。
「我が来た理由は森の様子見、それと彰彦が言いおったように和泉周辺に我の知らぬ異形の群れが居ったのでその調査だの。本命に近いものが釣れおったわ」
「キッコの調査で釣れたのは、彰彦が前言ってた探し物と同じものだな?」
「正解」
彰彦が応じ、匠の言葉の続きを促す。
「あの人が元になった異形に舟山、平岩、それに森に居たっていうもう一人……」
「何か分かったことはあるかの?」
「ああ、平岩や彰彦から聞いた話に出てきた実験は――」
クズハを見て、それからキッコを見る。
「クズハがお前の体を移植した時の話と似ていた」
どちらも実験色の強い機関の話だ。それに、
「実験体の子狐、彼等はクズハの事をそう呼んでいた。全身移植の唯一の成功例、とも」
「ほうか」
相槌を打つキッコに向けて匠は質問を突きつける。
「平賀の研究所で話していた事以上の事が何かあるな? 話してもらう」
「キッコさん、俺もよく知らねえんだけど、俺の部隊が使われちまったような実験、俺達の時にはそれこそ大量の犠牲者を出して俺一人が成功するような有様だった。けどあの隊長がそんなリスクを負ってまで実験に参加するとは思えねえ、たぶん技術が進歩してやがるんだ。そうなるまであんな実験が続けられてるとして、一体どこの誰が何の目的でやってんだ?」
「まさかここまできて知らないとか抜かさねえな? キッコ」
「私に関わる事でしたらぜひ教えてください」
皆に詰め寄られたキッコはわずかにのけ反る。
「まったく、参ったのう」
この店の店長の趣旨的には吉備団子にぶぶ漬けがついて来たんだろうが、頼んだ本人はいの一番にぶぶ漬けをかっくらっているのだからしかたあるまい。
ぶぶ漬け用に盛られた漬けものを一切れかすめ取って齧り、匠は口火を切った。
「で、まずはお前と彰彦が和泉に来た理由をもう一度訊ねてもいいんだな?」
「ふむ、構わんよ。彰彦、先に言うてやれ」
ぶぶ漬けをかきこんでいるキッコに言われた彰彦は数秒程「どう話したもんかな」と悩み、
「……俺が来た理由は和泉周辺におかしな異形がいるっていうんでその確認をしに行くキッコさんに無理やり連れてこられた。って感じだな」
「こ奴ごねおっての、あまりにも強情なので強引に連れて来てやったわ」
「元々俺は和泉に戻って来るつもりなんか無かったんだけどなぁ、コイツの事もあったし」
そう言って両手を軽く振って手を示す。今は人の手と変わらないそれも、正体は異形の腕だ。
「あの違和感バリバリな戦い方はその腕を隠す為か?」
「ああ、銃もぶっ壊れちまったし、もう今更隠すこともねえけどな」
彰彦はそう言って笑う。それを見てクズハは感服したように息をつき、
「お強いんですね」
「そうだなー……」
彰彦は酒の当てに齧っていた出店の味が濃そうなイカ焼きを咀嚼するのを一時停止してクズハを見る。
「今は、クズハちゃんより強えかもな」
「……今は?」
首を傾げたクズハに対して彰彦は笑みを作り、
「今のままでもクズハちゃんはいいと思うけどな」
「えっ……と?」
発言の意図が掴めずに困った顔をするクズハを見て彰彦は声を上げて笑う。
「困惑顔がまたいいな!」
「彰彦、わけのわからない事を言ってクズハを困らせるな」
「へいへい」
彰彦は肩をすくめてイカの咀嚼を再開、次の話し手を指名する。
「ほらキッコさん、次あんたの番だぜ」
空になった椀を机に置いてキッコは頷く。
「では話そうかの」
本題だ。
その場に居た者全員がそう思い、それに応えるようにキッコが話しだした。
「我が来た理由は森の様子見、それと彰彦が言いおったように和泉周辺に我の知らぬ異形の群れが居ったのでその調査だの。本命に近いものが釣れおったわ」
「キッコの調査で釣れたのは、彰彦が前言ってた探し物と同じものだな?」
「正解」
彰彦が応じ、匠の言葉の続きを促す。
「あの人が元になった異形に舟山、平岩、それに森に居たっていうもう一人……」
「何か分かったことはあるかの?」
「ああ、平岩や彰彦から聞いた話に出てきた実験は――」
クズハを見て、それからキッコを見る。
「クズハがお前の体を移植した時の話と似ていた」
どちらも実験色の強い機関の話だ。それに、
「実験体の子狐、彼等はクズハの事をそう呼んでいた。全身移植の唯一の成功例、とも」
「ほうか」
相槌を打つキッコに向けて匠は質問を突きつける。
「平賀の研究所で話していた事以上の事が何かあるな? 話してもらう」
「キッコさん、俺もよく知らねえんだけど、俺の部隊が使われちまったような実験、俺達の時にはそれこそ大量の犠牲者を出して俺一人が成功するような有様だった。けどあの隊長がそんなリスクを負ってまで実験に参加するとは思えねえ、たぶん技術が進歩してやがるんだ。そうなるまであんな実験が続けられてるとして、一体どこの誰が何の目的でやってんだ?」
「まさかここまできて知らないとか抜かさねえな? キッコ」
「私に関わる事でしたらぜひ教えてください」
皆に詰め寄られたキッコはわずかにのけ反る。
「まったく、参ったのう」
●
「我、それに明日名や事態を知った平賀が追っているのはお前達も知っておるような、人体に異形の体を移植しようというものだの。我がそもそもこの件に関わる事になったのはクズハを助けてくれというクズハの肉親の求めに応じた事が始まりかの。
我は匠、お前との戦いから退いて後、一度倒れて明日名と式契約を結ばされる事になった。倒れる原因となった負傷の原因は匠や番兵の仕業でもあるが、なによりも大きく怪我をさせてくれおったのは」
団子の串を忌々し気に齧って皿に放り捨てた。
「実験の関係者、それもそれなりの位置におるような人間であった。我は見事に切り捨てられたのだの。クズハの回収に来ておったらしい彼奴は既にクズハが匠の手に渡っておって手が出せんかったようだがの。周到な事に元々我を狩るべき対象として人間に触れまわったのもどうやらコヤツららしい。
同じように怪我をしておった明日名と共に京の都よりも近くにあった治外法権な平賀の研究区へと治療のために身を寄せた。我等の事を何も聞かずに治療しおったあの奇人は我等の話を聞いて似たような境遇の者を知っておると言いおった。それが」
「クズハか」
「うむ」
まさかこうも縁が繋がるとは思ってはいなかったがの。とクズハの頭を撫で、
「我と明日名は実験の元を叩く為に動きまわっておった。我が帰った時にはクズハ達はおらんで彰彦が代わりにおったの」
だから研究区の中でキッコはおろか明日名さんも見た事が無かったのか……。
匠とクズハが研究区から出る事になるまで会う事が無かったということは数年間の間動きまわっていた事になる。それだけの期間動いていたという事は、
「何か、収穫はあったのか?」
「あった」
キッコは彰彦を指さして続ける。
「彰彦の話や我を攻撃した者の言う事から、恐らく奴らの目的は人間の強化ではないかと結論した」
「納得できるもんがあるな。隊長も平岩っておっさんも自分達が他人より優秀だー、っぽいこと言ってやがった」
確かにそんな事を言っていたと匠も頷く。
「数年かかってそのような漠然としか分からないのがまあもの悲しいがの、その代わり実験の指示を出しておるらしい大元の目星は付いておる」
「何? 本当か?」
実験の指示を出している者ということは今回の件も含めて全ての黒幕という事になる。
「今回は完全に尻尾が切れたが、向こうで明日名と平賀が動いておる、怪しい動きをしておるようなら今度は首根っこを食いちぎれよう」
クズハが訊く。
「明日名さんと、平賀さんが、ですか?」
「そうだの」
「え……? じゃあ、もしかして」
平賀と明日名が居るのは異形御法度の大阪政府中央付近だ。
じいさんと明日名さんが居る場所に黒幕がいるとしたら黒幕の居場所もそこ、か?
匠や彰彦、門谷の思考は答えに至り、同時に表情を曇らせる。
「今回の和泉への異形襲来の件、それに過去に続く研究の件、クズハの治療と称する実験に使用した施設や彰彦達が利用された施設、これらを平賀が動いて事態を掴むより早く施設を破棄できておるところを鑑みるに――」
キッコはつまらなそうに言う。
「首魁はおそらく大阪政府内におる」
祭囃子の音が響いている。
少し遠く感じたその音色は一同をまだ安寧に眠らせてはくれないようだった。
我は匠、お前との戦いから退いて後、一度倒れて明日名と式契約を結ばされる事になった。倒れる原因となった負傷の原因は匠や番兵の仕業でもあるが、なによりも大きく怪我をさせてくれおったのは」
団子の串を忌々し気に齧って皿に放り捨てた。
「実験の関係者、それもそれなりの位置におるような人間であった。我は見事に切り捨てられたのだの。クズハの回収に来ておったらしい彼奴は既にクズハが匠の手に渡っておって手が出せんかったようだがの。周到な事に元々我を狩るべき対象として人間に触れまわったのもどうやらコヤツららしい。
同じように怪我をしておった明日名と共に京の都よりも近くにあった治外法権な平賀の研究区へと治療のために身を寄せた。我等の事を何も聞かずに治療しおったあの奇人は我等の話を聞いて似たような境遇の者を知っておると言いおった。それが」
「クズハか」
「うむ」
まさかこうも縁が繋がるとは思ってはいなかったがの。とクズハの頭を撫で、
「我と明日名は実験の元を叩く為に動きまわっておった。我が帰った時にはクズハ達はおらんで彰彦が代わりにおったの」
だから研究区の中でキッコはおろか明日名さんも見た事が無かったのか……。
匠とクズハが研究区から出る事になるまで会う事が無かったということは数年間の間動きまわっていた事になる。それだけの期間動いていたという事は、
「何か、収穫はあったのか?」
「あった」
キッコは彰彦を指さして続ける。
「彰彦の話や我を攻撃した者の言う事から、恐らく奴らの目的は人間の強化ではないかと結論した」
「納得できるもんがあるな。隊長も平岩っておっさんも自分達が他人より優秀だー、っぽいこと言ってやがった」
確かにそんな事を言っていたと匠も頷く。
「数年かかってそのような漠然としか分からないのがまあもの悲しいがの、その代わり実験の指示を出しておるらしい大元の目星は付いておる」
「何? 本当か?」
実験の指示を出している者ということは今回の件も含めて全ての黒幕という事になる。
「今回は完全に尻尾が切れたが、向こうで明日名と平賀が動いておる、怪しい動きをしておるようなら今度は首根っこを食いちぎれよう」
クズハが訊く。
「明日名さんと、平賀さんが、ですか?」
「そうだの」
「え……? じゃあ、もしかして」
平賀と明日名が居るのは異形御法度の大阪政府中央付近だ。
じいさんと明日名さんが居る場所に黒幕がいるとしたら黒幕の居場所もそこ、か?
匠や彰彦、門谷の思考は答えに至り、同時に表情を曇らせる。
「今回の和泉への異形襲来の件、それに過去に続く研究の件、クズハの治療と称する実験に使用した施設や彰彦達が利用された施設、これらを平賀が動いて事態を掴むより早く施設を破棄できておるところを鑑みるに――」
キッコはつまらなそうに言う。
「首魁はおそらく大阪政府内におる」
祭囃子の音が響いている。
少し遠く感じたその音色は一同をまだ安寧に眠らせてはくれないようだった。
●
大阪政府が所有する庁舎、そこで行われた会議の内容を思い出して平賀はため息をついた。
会議で取り上げられたのは和泉での事件とそれに伴う処々の対応だった。それだけならまだよかったのだが、今回は信太の森の異形の潔白や森の主についても話に出さないわけにもいかず、釈明に長時間拘束されて存外に疲れていた。
一応森への不用意な手出しの禁止と和泉への異形侵攻の首謀者の発見、この2点をとりつけてはいたが、一部では森への手出し禁止の意見に反対意見もあった。
異形の排斥派によるものだ。
彼等にも彼等なりの生き残りのための方策がある者もいるのだろうが、
今の議会の異形排斥派はほとんどが利権目当てかのう……。
その彼等が最近幅を効かせてきている。何者かが裏で糸を引いているのだろうと考えて平賀は首を振った。
いや、たぶん彼が全部関わっておるんじゃろうな……。
多少強引にでも調査をしなければと思っていると、通路の向こうから一人の男が歩いて来た。
立ち止まる。
白髪の長身に鋭い目をした偉丈夫、彼の名は、
「通光君か」
「お疲れさまでした、平賀博士」
「まったくじゃの、この老体を皆寄ってたかっていじめおる」
男の名は通光、異形排斥派の筆頭であり、目下和泉襲撃やその他の事件において一番怪しい男だった。
「和泉には御子息や後見している異形の子供がいたとか、大丈夫でしたかな?」
「うむ、二人とも元気なようじゃよ」
「二人ともご活躍なされたとか、流石と言ったところでしょうか」
「いやいや、和泉の門谷君たちのおかげじゃて」
「ええ、彼等もまた優秀なようだ」
そう通光は門谷を褒め、ついでとばかりに平賀へと問いかける。
「ところで、以前討伐対象であった狐の異形が和泉の街中に出たようですね」
「その件は会議で事情と潔白を説明したはずじゃが? 信太主は人側の誤解で敵対していたのじゃ。手をとりあえるのなら取り合うべきではないかな?」
「それはこちらの――異形排斥派の意見と反対するので賛成致しかねますが」
探るような問いは鋭さを増した。
「第二次掃討作戦で死んだものと思われていた信太主を我々にも黙って手元に置いておいたのは一体どういう事ですかな? 人に対する裏切りととられても文句は言えませんぞ?」
「それこそ立場の違いに配慮して、じゃな。君等が信太主の存在を知ってしまえば討伐しに来かねないからのう。それに信太主本人の意向もあった。人に一度殺されかけた信太主は人と和睦を図るためにわしのもとで人を観察したいと言っておっての」
「そのような言い分を信じて招き入れたのですか?」
うむ、と頷き平賀は悪びれずに言う。
「信太主が何か問題を起こしても研究区内で片をつけておったよ」
「研究区、魔法を体系化した研究者が築き上げた城ですか」
「そんなに大層なものじゃあないさ。
ただ、発言の裏を考えなくてもいい場というのはやっぱりありがたくてのぉ。老体にはギスギスした会議の空気は堪えるんじゃよ」
通光は平賀を黙って見据える。平賀の方は歩みを再開して通光とすれ違った。
「通光君、何を考えているのかわしには分からんがのう」
去り際に手を振って告げる。
「あまり無茶をするようならちと覚悟してもらうかもしれんぞい?」
「……また、お戯れを」
「お戯れるのは美女美少女限定じゃよ」
飄々とした声は不審者じみた笑いを残して庁舎から消えた。
会議で取り上げられたのは和泉での事件とそれに伴う処々の対応だった。それだけならまだよかったのだが、今回は信太の森の異形の潔白や森の主についても話に出さないわけにもいかず、釈明に長時間拘束されて存外に疲れていた。
一応森への不用意な手出しの禁止と和泉への異形侵攻の首謀者の発見、この2点をとりつけてはいたが、一部では森への手出し禁止の意見に反対意見もあった。
異形の排斥派によるものだ。
彼等にも彼等なりの生き残りのための方策がある者もいるのだろうが、
今の議会の異形排斥派はほとんどが利権目当てかのう……。
その彼等が最近幅を効かせてきている。何者かが裏で糸を引いているのだろうと考えて平賀は首を振った。
いや、たぶん彼が全部関わっておるんじゃろうな……。
多少強引にでも調査をしなければと思っていると、通路の向こうから一人の男が歩いて来た。
立ち止まる。
白髪の長身に鋭い目をした偉丈夫、彼の名は、
「通光君か」
「お疲れさまでした、平賀博士」
「まったくじゃの、この老体を皆寄ってたかっていじめおる」
男の名は通光、異形排斥派の筆頭であり、目下和泉襲撃やその他の事件において一番怪しい男だった。
「和泉には御子息や後見している異形の子供がいたとか、大丈夫でしたかな?」
「うむ、二人とも元気なようじゃよ」
「二人ともご活躍なされたとか、流石と言ったところでしょうか」
「いやいや、和泉の門谷君たちのおかげじゃて」
「ええ、彼等もまた優秀なようだ」
そう通光は門谷を褒め、ついでとばかりに平賀へと問いかける。
「ところで、以前討伐対象であった狐の異形が和泉の街中に出たようですね」
「その件は会議で事情と潔白を説明したはずじゃが? 信太主は人側の誤解で敵対していたのじゃ。手をとりあえるのなら取り合うべきではないかな?」
「それはこちらの――異形排斥派の意見と反対するので賛成致しかねますが」
探るような問いは鋭さを増した。
「第二次掃討作戦で死んだものと思われていた信太主を我々にも黙って手元に置いておいたのは一体どういう事ですかな? 人に対する裏切りととられても文句は言えませんぞ?」
「それこそ立場の違いに配慮して、じゃな。君等が信太主の存在を知ってしまえば討伐しに来かねないからのう。それに信太主本人の意向もあった。人に一度殺されかけた信太主は人と和睦を図るためにわしのもとで人を観察したいと言っておっての」
「そのような言い分を信じて招き入れたのですか?」
うむ、と頷き平賀は悪びれずに言う。
「信太主が何か問題を起こしても研究区内で片をつけておったよ」
「研究区、魔法を体系化した研究者が築き上げた城ですか」
「そんなに大層なものじゃあないさ。
ただ、発言の裏を考えなくてもいい場というのはやっぱりありがたくてのぉ。老体にはギスギスした会議の空気は堪えるんじゃよ」
通光は平賀を黙って見据える。平賀の方は歩みを再開して通光とすれ違った。
「通光君、何を考えているのかわしには分からんがのう」
去り際に手を振って告げる。
「あまり無茶をするようならちと覚悟してもらうかもしれんぞい?」
「……また、お戯れを」
「お戯れるのは美女美少女限定じゃよ」
飄々とした声は不審者じみた笑いを残して庁舎から消えた。
●
庁舎内に残った通光は己の影として働く長年の部下の名を呼んだ。
「朝川」
「は」
答えは瞬時に返り、通光の背後に身の丈2メートル以上はある黒服の大男が無表情に現れた。
「平賀博士の言葉、どう見る?」
通光の問いに朝川は数秒の間を置いて、
「探りを入れてきた、というところではないかと私は思います。信太主が私の戦闘用の姿を見た場合、気づかれる場合もあるかもしれませんが、現状我々の行動に確信を持つことは不可能かと」
通光は頷き、しかし表情を硬くした。
「近くまで来ている感はするな。恐ろしい存在だよ、彼は。朝川の手をもってしても殺し損ねた信太主にしても、和泉での戦場であの娘が見せた力にしても、どれも脅威だ」
「どういたしますか?」
声に険呑なものを混じらせた朝川に通光は首を振った。
「ここで平賀博士を直接狩るのは危険だ。何を仕込んでいるのかわからない」
だが、と通光は書類を懐から取り出した。それを朝川に示し、
「ここは正式な手続きをとって手を出させていただくとしようか」
そう呟く声には勝利を確信する気配が垣間見えた。
「朝川」
「は」
答えは瞬時に返り、通光の背後に身の丈2メートル以上はある黒服の大男が無表情に現れた。
「平賀博士の言葉、どう見る?」
通光の問いに朝川は数秒の間を置いて、
「探りを入れてきた、というところではないかと私は思います。信太主が私の戦闘用の姿を見た場合、気づかれる場合もあるかもしれませんが、現状我々の行動に確信を持つことは不可能かと」
通光は頷き、しかし表情を硬くした。
「近くまで来ている感はするな。恐ろしい存在だよ、彼は。朝川の手をもってしても殺し損ねた信太主にしても、和泉での戦場であの娘が見せた力にしても、どれも脅威だ」
「どういたしますか?」
声に険呑なものを混じらせた朝川に通光は首を振った。
「ここで平賀博士を直接狩るのは危険だ。何を仕込んでいるのかわからない」
だが、と通光は書類を懐から取り出した。それを朝川に示し、
「ここは正式な手続きをとって手を出させていただくとしようか」
そう呟く声には勝利を確信する気配が垣間見えた。