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白亜記/満月の時 - (2013/02/21 (木) 23:51:10) のソース

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*満月の時

満月当日。先日よりちらほらと降っていた雪は夜中より強さを増し、正午を回る頃には視界を遮る吹雪になっていた。
この事態を見て、全ての監視塔に簡易式の暖房を配置。また警備にあたる人間には懐炉を支給という手はずになった。
それを配布して回るのが
「お疲れ様です。懐炉と飲み物持って来ました」
ソーニャの役目となった。
布の服を着て、鎧を装備しさらにその上から分厚い布を纏ったその姿はまさしく不審者そのもので
監視塔に付くたびに被った布を脱ぐはめになったのであった。
最後の塔にたどり着いたときには既に日の入りの時間に差し掛かるころになっていた。
「姉御も大変ですね」
荷物を受け取った兵士がソーニャを労わる。とはいえこれがソーニャに出来る仕事。
戦闘ならともかく吹雪の中の警備はやったことがない。状況が状況だから素人には任せられないという判断なのだろう。
だがソーニャに安心して任せられる日は来るのだろうか。
例え吹雪が止んだとしてもこの町を覆う不安は取り除かれることはない。
今月は来なかった。では来月は? 満月を待たずして来るのではないか?
本土侵攻という情報はそのような不安を煽るには十分すぎる素材なのだ。
その不安をわずかでも払拭するためにも今晩の襲撃には当然ながら防衛しなければならない。
本土の侵攻についてはソーニャたちの手の届く範囲の話ではない。
今は目の前の手の届く範囲にあるものを守らなければならない。そのための努力も惜しむ気は無い。
「私には警備は力不足で出来ない。だからあなたたちには頑張ってほしい」
「お任せください!」
敬礼と頼もしい言葉が返ってくる。ソーニャの顔が自然に緩む。
ここは大丈夫だ。兵士たちを信じよう。それもまたソーニャに出来る仕事なのだから。
再び布を被り、防寒装備になって塔を後にする。
いつもよりも時間をかけて本部に戻り、防寒具を脱いで暖炉の傍の椅子に座る。
また外に出るにしても一度冷えた体を温めといておいたほうがいい。
暖炉の火を眺めていると後ろから飲み物を差し出された。
湯気が立つ暖かそうなお茶を受け取り、振り向くとビゼンが立っていた。
「ありがとうございます。副隊長」
「相変わらず堅苦しいやつだな。というかお前が上司なんだからビゼンって呼び捨てにしろよ」
「さすがに出来ませんよ」
ビゼンも自分の飲み物を手に隣の席に座る。いつもの武器は携帯していない。
暖炉の薪がことんと割れる、
「こうやってサシで話すのはずいぶんと久しぶりだな」
「会話自体はしてるんですけどね。大抵は業務連絡ですし」
「今もあんまり話してられねぇしな」
「……吹雪に乗じて何かが来ると?」
「来る。先月とは比べ物にならないものが」
想像だにしない断言だったので思わず腰を浮かして聞き返す。
「何か兆候でもあったんですか?」
「いや、勘だ」
ずっこけそうになるのを抑えつつ椅子に腰掛ける。
「そもそもこの吹雪ですものね。空からの侵入は当然無理ですし……」
「ドラゴンだってこの吹雪じゃ冬眠でもしてるだろうな。あいつらも一応爬虫類だろうし」
「あれを爬虫類と分類していいのだろうか……」
「狼どもも冬眠してくれりゃいいのに毎月毎月元気なもんだ。
 どうせあいつらが来たって正門をぶち破るか壁を登ってくるぐらいしか侵入の手立てはないだろうしな」
「じゃあ安全じゃないですか。今日は」
ちっちっちと人差し指を振る。
「壁をよじ登るには難しいが木をよじ登って侵入しようとしたことはあるからな。
 もしかしたら地面を掘って侵入とかもあるかもしれないぜ?」
「まだ壁をよじ登るほうが現実的そうな話ですね」
木をよじ登ると聞いて先日訪れた監視塔を思い出す。
あそこは塔の間を繋ぐ通路にまで森の木々が迫ってきていた。
「塔に隣接している森の木を切り落とせばよじ登ってくることもないのでは?」
「あー、お前知らないのか。あの森にいるやつ」
「狼とかイノシシなんてのは聞きましたけど」
「それはまだいるやつだな。昔、あそこで化け物が見つかってな」
「化け物?」
ビゼンがにやりと笑って答える。
「巨人だ」

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