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Yuri-2-043 - (2010/10/11 (月) 22:00:58) のソース

&sizex(3){[[Top>トップページ]] > [[百合とにかく百合]] > [[百合とにかく百合 投下作品まとめページ]] > 2-043 「私と妹の日常:2」}

*「私と妹の日常:2」

43 :創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 21:39:16 ID:jARZfJPp

[[》17-23>Yuri-2-017]]の続きみたいなのを投下します。
正直、[[》37>Yuri-2-037]]さんの高クオリティなSSの後だと気が引けるけど、まあ賑やかしだと思って読んでくれれば幸いです。 

では行きます。 

44 :創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 21:39:59 ID:jARZfJPp

私と妹の日常 その2 

 せっかくの日曜日ともなれば、やっぱり一日は何もせずにゴロゴロしたい。お茶飲んで 
ソファに寝そべりながら積んであった本やマンガ読んだり、録画するだけして見てないド 
ラマ見たりしたい。それなのに、私にそんな自由は認められないらしい。 
『姉さん』 
 ほら。鬼が来た。 
「なーにぃ~ 今忙しーんだけど」 
 無気力さ満載の返事をすると、我が妹は、両手を腰に当て、仁王立ちで私を上から呆れ 
たような顔で見据える。 
『ソファで寝転がっているだけで忙しいと言うなら、世の中の人は過労でみんな死んでし 
まいます』 
「……休養もね。社会人としては大事な義務なの。分かる?」 
『午前中いっぱい、たっぷりと休養したじゃないですか。そこまでだらけると、却って明 
日からの仕事に支障が出ると思いますけど』 
 理屈ごねようとしたが、にべも無く突っ撥ねられた。しかも無表情で。相変わらず冷た 
いな。我が妹は。 
「そーでもないと思うけどなぁ…… 世の中のサラリーマンの大半は、お休み中ゴロゴロ 
してると思うんだけど……」 
『思うのは勝手ですが、それを都合よく真実にはしないで下さい。確かに姉さんのお仲間 
みたいにだらしない人もいると思いますけど、ああやって家族サービスに勤しんでいるお 
父さんもいっぱいいるんですよ。ほら』 
 敬花がテレビを指すと、ちょうど情報番組でどっかのテーマパークが移っていた。何で 
も今日から新しいアトラクションが出来るとか。画面に映った30代くらいの男の人が、並 
ぶ為に朝4時起きで来たとか何とか。というか、都合良くそういうの映すなテレビ。 
「……人は人。私は私。うにゅぅ~……」 
 クッションを枕にして寝そべり目を閉じると、敬花は強引にクッションを取り上げる。 
髪の毛が引っ張り上げられるのとほぼ同時に私の頭がソファに直接落っこちる。 
『さっきまで世の中の人と比較してたのに、真逆のこと言わないで下さいっ!! どんだ 
け自分に都合よく出来てるんですか姉さんの人生はっ!!』 
「……酷いことすんなぁ。敬花は」 
 仕方なく体を起こすと、ソファの上で片足を胡坐のように広げて折り曲げ、もう片方は 
立てた姿勢で座ると乱れた髪を手で梳いてそのままボリボリと頭を掻く。すると敬花が小 
さく悲鳴を上げた。 


「あん?」 
 顔を上げると、何故か敬花は体はこっちに向けていたものの、顔を背けている。 
「どーかした?」 
『どうかしたじゃありませんっ!! なんて格好してるんですか姉さんはっ!!』 
 怒り興奮して敬花が叫ぶ。私は自分の格好をチェックして顔を上げる。 
「普通の部屋着だけど。これが何か?」 
『服装の事じゃありませんっ!! 格好って……姿勢の事です!! その……そんな風に 
股を広げてっ!! 恥じらいとかないんですか姉さんはっ!!』 
 何気に無意識に取ったポーズだったが、どうやら敬花的には色っぽく見えるらしい。私 
はちょっと悪戯っぽくニンマリと笑うと、立てた脚のショートパンツの内側の裾を僅かに 
上げて付け根ギリギリまで素足を露出させた。 
「敬花なら見てもいいよ。ほら」 
『見たくありませんそんなものっ!!』 
 そう言いつつ私の方をチラ見した敬花はまた慌てて顔を逸らした。顔、真っ赤にしてる 
んだろうか? ちょっと真正面から見つめてあげたい誘惑に駆られる。 
「ちぇっ。せっかく敬花の為にセクシーポーズ取ってあげたのに」 
 立てた脚を寝かせて胡坐を掻く。足首に手を乗せ、肩を竦めた姿勢で顔を上げて口を尖らせた。 
『そんなもの要りませんっ!! だだっ……大体ですねっ……その……人の前で下着が見 
えるようなポーズ取らないで下さいっ!! いくら姉妹だからって、その……限度がありますっ!!』 
「妹に見せなかったら誰に見せればいいのよ?」 
 率直に疑問を提示すると、敬花は耳まで赤くなって怒鳴り返した。 
『誰にも見せなくていいんですっ!!』 
「それじゃあつまんない。ほら。こっち見て」 
『絶対嫌ですっ!! 姉さんが姿勢良く座るまでは見ませんっ!!』 
 隠しても照れているところが丸分かりなのが、敬花の可愛い所なんだよなと、一人納得 
して頷くと、仕方なくちゃんと座り直す。 
「はい。もういいよ、照れ屋さん」 
 すると、敬花はまだ赤い顔のままでギッ、と激しくこっちを睨み付けた。それからツカ 
ツカと傍まで来ると、上から私の顔に顔を近付けて怒鳴った。 
『誰も照れてなんていませんっ!!』 
 すると、私の顔にピピピッと液体が掛かるのが感じられた。 


「うー…… 敬花。唾飛んだわよ」 
 もっとも私はそんなに気にしないので、手でちょちょいと拭う。すると敬花がまた顔を 
顰めて怒る。 
『そんな指でなんて拭かないで下さいっ!! 汚いんですから!!』 
 それから慌てたようにティッシュ箱を手に取ると私に差し出す。しかし私はわざとティッ 
シュを取らずに敬花をジッと見つめただけだった。 
『……何なんですか。早くこれで拭いて下さい』 
 それから、私の表情をジッと窺うように見つめた後で、眉間に皺を寄せて聞いて来た。 
『まさか姉さん。私に拭けと訴えているんじゃないでしょうね?』 
「さすが我が妹。以心伝心、バッチリだね」 
 嬉しそうな声で言うと、あからさまに敬花はため息を吐いた。 
『ハァ…… 幼稚園児ですか、姉さんは』 
 そう言いつつも、敬花はティッシュを二枚取ると手で構えた。 
『で、どこなんです?』 
「こことここ。あとここも」 
 ほっぺに二箇所。おでこに一箇所。指し示した所をティッシュで強く、しかし優しく擦 
りながら敬花がぶつくさと文句を言った。 
『もう……何で私がこんな事を…… そもそも悪いのは姉さんなんですよ』 
「そうかな?」 
『そうです。姿勢もですけど、大体その服装もですよ。ほとんどパジャマと変わらないじゃ 
ないですか。人前に出る格好じゃありません』 
 そんな敬花の格好は、白のタンクトップにジーンズだ。どうせ一日家にいるだけなのに。 
私は、上のパーカーをちょっと摘んで小首を傾げてみせる。 
「そうお? 可愛いでしょ? このデザイン」 
 すると敬花は手を止め、ちょっと恥ずかしそうに顔を背けた。 
『可愛くてもダメです。大体、そんな太もも露わなパンツ、大胆過ぎです。お父さんだっ 
ているんですし、他所から人が来たらどうするつもりなんですかっ……』 
「別にいいけどな。これくらい。別に太ももなんて、海でも行けばバッチリ男の人に見せ 
るもんじゃん」 
『うっ……海と家は別です。水着だとイヤらしく見えなくても、部屋着だとそう見えるこ 
ともあるんですからっ……』 


 敬花の言葉が若干詰まる。その隙を逃さず、私は攻勢に打って出る事にした。 
「ほほう。つまり、敬花には、今の私がエッチっぽく見えると。そういう事?」 
 すると敬花はちょっと顔を背ける。 
『エッチっぽいって言うか…… 男の人にも見られかねない格好としてはしたないって言 
う事ですっ……』 
「つまり、お姉ちゃんの太ももは私だけが独占したいから、他の人には見せないでくれと」 
 その瞬間、パアッと花を散らしたように敬花の顔全体が真っ赤に染まる。 
『誰が……誰が姉さんの太ももをっ……その……どくっ……どくっ……独占したいとかっ!! 
バカな事言わないで下さいっ!!!!』 
 また目の前で怒鳴られた。今度はさすがに両手でガードしつつ、敬花に注意する。 
「敬花。唾、唾」 
『あぅっ…… す、すいません……』 
 慌ててまたティッシュを取り、私の顔を拭い始める。 
『でも、今のだってその……姉さんが悪いんですからねっ…… 何で私が姉さんの太もも 
なんかに…… 変な事言わないで下さいっ……』 
 ぶつくさ言ってはいるけど、やっぱり顔は赤い。実にからかい甲斐のある妹だ。 
『はい。これでいいですよねっ』 
「うん。綺麗になったよ」 
 小さく吐息を吐くと、敬花は立ち上がってティッシュをゴミ箱に捨てた。その背中に、 
私はまた、さっきの脚を片方立てた姿勢に戻し、膝の上に手を置いてさらにその上に顎を 
置くと、じっと妹を眺めつつ、聞いた。 
「んで……何の用事なの?」 
『え?』 
 咄嗟に振り向く敬花に、私は言葉を継ぎ足す。 
「私の貴重なだらだら時間に声掛けて来るって事は、何かして欲しい事があるんじゃない 
の? 敬花がそういう文句を言う時って、大体用事言いつける時じゃん」 
 ちなみにそれは、我が母上も一緒だ。私は父親似で、休みといえばゴロリンだらんとし 
ているのが大好きなのだが。 
『そうでした。姉さんのあまりのだらしなさに、話が脇道に逸れてしまいましたが』 
 すると敬花は、ポケットに手を突っ込むと、ごそごそと一枚の紙切れを出す。 


『はい』 
「何これ……げっ!?」 
 怪訝に思いつつ、差し出された紙を受け取り広げる。そしてそこに書いてある内容を見 
た途端、私は思わず呻いてしまった。 
『何がげっ、ですか。姉さん。そういう言葉は女性としてどうかと思いますけど』 
「いーのよ。敬花以外の誰に聞かれる訳でもないし。ていうか、別に普段から遠慮とか全 
くしてないけど。それよりこれって……買い物のリストじゃない?」 
 ぺらん、と紙を裏返して敬花に指し示すと、無表情で頷いた。 
『そうですよ』 
「これ……あたしに行けって事?」 
 そう聞くと、全く同じように敬花は頷く。 
『そうですよ』 
「えーっ!! めんどくさい~っ!!」 
 ソファの背もたれに体を預けると、私は天を仰ぐ。うちの母は基本週末にまとめ買いを 
して、後は足りないものだけ補充するタイプだ。つまり、日曜の買い物はそれだけ量が多 
い。4人家族の一週間の食生活とその他生活雑貨の類は、見るまでも無くその買い物の大変 
さを窺わせた。 
「ていうか、敬花。体よく私に回してるけど、ホントはアンタが頼まれたんでしょ? ア 
ンタが行って来なさいよ~っ」 
 しかし、敬花の答えはあっさりしたものだった。 
『お母さんは私と姉さんのどっちでも構わないと言ってました。一応言っておきますけど 
ね。姉さん。今朝から私がどれだけ働いたか分かりますか? 朝昼のご飯の支度に洗濯も 
して。姉さんはお昼にちょこっとお皿を並べたりするのを手伝っただけでしたよね』 
 非常に冷静に自分の功績と私のだらしなさを並べ立てる敬花に、私は両手を上げて降参 
の態度を示す。 
「あー、あー、分かったわよ。私も何か一つくらいは手伝えって、そういう事でしょ?」 
 すると敬花は頷くと、まっすぐに私の目を見据えた。 
『丸一日、無駄にゴロゴロとして人生を浪費しているだけの姉さんに、せめて我が家の約 
に立つ事をして貰おうという、私からの最大限の配慮ですから。むしろ感謝して貰いたい 
ものです』 


「あー、そう。そうね。そんな配慮なんて要らないっての……」 
 ぶつくさ文句を言いながら、困りつつもどうにもならない時の癖で後頭部をガリガリ掻 
く。すると、すぐさま頭の上から冷たい声が返ってきた。 
『私の配慮なんて要らないと、そう言うんですか姉さん。じゃあ、今後一切、朝起こすの 
も、ついでとはいえ姉さん分の朝食を作るのも、あとせめて姉さんの部屋に溜まったゴミ 
を片付けて出すのも、全部要らないんですね』 
 もう一度、私は後頭部を掻く。こうやって並べられると、いかに私が妹に依存して生き 
ているのが分かる。一人暮らしとかしたら、速攻でゴミ屋敷になっちゃうだろうなー、と 
か考えた。私は諦めのため息を吐く。 
「分かったわよ。行って来ればいいんでしょ? 父さん、どこ?」 
 まだ、めんどくさいなーと思いつつも、嫌な事はとっとと済まそうと立ち上がる。する 
と敬花は、怪訝そうな顔で聞き返してきた。 
『……パソコン部屋にいると思いますけど。それがどうかしましたか? 姉さん』 
「車、貸して貰えるようにお願いしとかないと。勝手に乗ってったら怒られるじゃないやっぱり」 
 すると敬花はいきなり、私の前にスッと立ちはだかった。 
『車使うなんて、ダメに決まってるじゃないですか。ただでさえ姉さんは運転が下手くそ 
なんですから。一人で出かけたら、事故を起こすに決まってます』 
「大丈夫だって。一応これでも、仕事でも社用車運転してんだから。だーいじょうぶ大丈夫」 
 ちなみに私は、車を運転するとどうしてもせっかちになり、ついつい飛ばしてしまう癖 
があるため、社内ではかっ飛びクイーンなんていうあんまり有難くない呼び名を貰ったり 
している。一度、敬花も隣に乗せたけど、完全に硬直しちゃって、その後は二度と乗りた 
くないとか言ってたな。 
『その大丈夫、という根拠のない過信が一番事故に繋がるんです。会社でも大きな事故は 
起こしていないそうですが、細々としたトラブルはしょっちゅうだそうじゃないですか』 
 ハァーッ、と私は深いため息を吐いた。誰だ全く。妹にとんでもない適当な事吹き込ん 
だ同僚は。明日、見つけ次第とっちめてやる。 
「でも、これだけの量よ。車無いと、行きはいいけど、帰りは大変よ?」 
 そう抗議したが、敬花は全く全然、聞く耳を持たなかった。 
『努力するのは姉さんですから、私は関係ありません。そもそも、会社に入ってからずっ 
と、運動不足で最近太り気味なんでしょう? 体を動かすいい機会じゃありませんか』 


「何でそれを!? こればっかりは誰にも秘密にしてたのにっ!!」 
 驚いて聞き返すと、敬花は何故かちょっと恥ずかしそうな顔で視線を逸らす。 
『ね、姉さんはその……隠してるつもりでも、自分の部屋で騒ぐから……だからその、隣 
の私の部屋には筒抜けなんですっ!! 本当に隠しておきたかったら、声に出さないか、 
せめてもう少し小さな声にして下さいっ!!』 
 そんな大きな声出してたっけな、と私は自問自答する。それにしても、聞こえたくらい 
で何故そんな態度を取るのだ。我が妹は。 
「自重する。けど、歩きはやだなー。せめて自転車使っちゃダメ?」 
 そう提案するも、即座に拒否された。 
『ダメ、ダメです。大体姉さんは自分の自転車持ってないじゃないですか。大学生の時壊 
れちゃって、もう使わないからって捨てちゃったでしょう?』 
「敬花のがあるじゃない。あれ、貸してよ。電動アシスト付きだし」 
『絶対嫌です』 
 敬花の頑なな心をどうやって解きほぐそうか。それを考えて私は止めた。どう考えても、 
敬花を説得するより歩いた方が早い。私はげんなりとため息を吐いた。 
「ハアーッ…… 分かったわよ。全く、敬花ってば、ケチなんだから」 
 ちょっと悪態を吐くと、速攻でお返しが来た。 
『ケチとか人聞きの悪い事言わないで下さいっ!! 大体、姉さんはだらしがなくてぐう 
たらなんですから、少しでも苦労した方がいいんですっ!!』 
 偉い言われようだなーと思いつつも、姉妹喧嘩をする気にもなれない私は、降参したと 
ばかりに両手を上げる。 
「はいはい。分かったわよ。じゃ、まあ夕方にでも行って来ますかね」 
 車使えないとなると、ちょっと暑いしな。そう思って私は時計を見る。まだお昼過ぎた 
ばかりだし、もうちょっとゴロゴロしててもいいかな、なんて思っていると、また敬花が怒鳴る。 
『何で姉さんは面倒くさい事をいつもそうやって後回し後回しにするんですかっ!! 絶 
対にダメです!! 今すぐ出かけて下さいっ!!』 
「えーっ!! 今すぐぅ?」 
 うっかり不満を漏らすと、敬花の口が、壊れたラジオのように喚きたて始める。 
『当たり前ですっ!! 大体姉さんがそう言って後回しにする時って大体グズグズして時 
間に間に合わなくなるじゃないですかっ!! もしかしたら、車で行かないと夕飯の支度 
に間に合わない時間まで粘る気じゃないでしょうね? そんな事絶対に絶対に許しませんから』 


 げんなりしつつ、私は敬花を両手でまあまあと抑え付ける。ちなみにこの場にお母さん 
がいたら、ラジオがステレオになるから始末に悪いのだ。 
「分かった分かった。ちゃんと行くから、黙って」 
『最初っから素直にそういえばいいんです。姉さんのせいで、私の方が無駄な体力使っちゃった 
じゃないですか』 
 無駄だと思うなら、最初っからお説教なんかしなきゃいいのに。とは、口が裂けても言 
えない。言ったらまた敬花が怒りまくるに決まってる。 
「ほんじゃ、行って来ますかね」 
 さすがの私でも、この格好で外に出る訳にも行かないので、着替えるために部屋に戻ろ 
うとする。まあ買い物だし、デニムとブラウスでいっかとか、化粧どうしようかなー、すっ 
ぴんじゃダメかなーとか考えていると、後ろから声が掛かる。 
『姉さん。たかが買い物だからってメイクとかサボろうとしちゃダメですよ。人前に出る 
んですから、ちゃんとそれなりの格好して下さいね。出掛けに私がちゃんとチェックしますから』 
「うげ」 
 思わず気持ちが言葉に出ると、棘のある言葉がザクザクと突き刺さってくる。 
『ほら。今、面倒くさいとか思ったでしょう。これだから姉さんはダメなんです。もう少 
し女の子だっていう自覚を持って行動してください。姉さんがだらしないと、近所の人に 
見られた時に私が恥ずかしい想いをするんですからね』 
『はいはい。ちゃんとやります。やります』 
 正直、メイクはあんま得意じゃないんだけどな。大学の時からぼちぼちやり始めたけど、 
こればっかりはなかなか思うようになってくれなくて、敬花に手直しされた事もしょっちゅ 
うだったりする。 
――今度、真剣に敬花に習おう。うん。前に一度強引に教えられた時は乗り気じゃなかっ 
たから身に付かなかったけど、多分その方が今後は楽だわ。 
 ただ、その時に言われるであろう暴言の数々を覚悟しなくちゃ行けないだろうけどな。 
そんな事を考えつつ、私は出かける準備に取り掛かるのだった。 


「ま、こんなもんよね」 
 薄手の化粧に、デニムに黒のふんわりしたチュニックを被り、ブレスレットを付けると、 
財布だけ持って私は部屋を出た。一応、オシャレっぽく見せてるし、仮に敬花に見つかっ 
ても大丈夫だろう。もっとも、うるさく言われたら敵わないから、チェック入る前に黙っ 
てこっそり出掛けようかな、とも思ったのだが、やはりそれは甘かった。 
『ちゃんと支度はしましたか? 姉さん』 
 玄関先で声が掛かり、私は思わず肩をビクッと震わせてしまう。それが敬花に見咎められた。 
『何を驚いているんですか? こっそり出掛けようとか、まさかそんな事を考えていた訳 
じゃないでしょうね?』 
「べ、別にそんな事考えてた訳じゃないわよ。ちゃんと声は掛けるつもりだった……」 
 振り向きつつ、言い訳していた私の声が、敬花を見て途切れた。すると敬花が不思議そ 
うにこっちを見た。 
『どうかしましたか? 姉さん』 
「どうかしたかじゃないわよ。何、アンタ。その格好。どっか出掛けるつもりなの?」 
 ミニスカートに膝を覆うニーソックス。タンクトップに薄いカーディガンを重ね合わせ、 
バッチリお化粧もしている。どう見てもよそ行き姿だ。私の問い掛けに、平静を装ってい 
た妹の頬が、パッと赤くなった。視線を逸らし、小声でブツブツと呟く。 
『……姉さん一人じゃ……その……信用出来ませんから……』 
「は?」 
 聞き返すと、敬花は急に私の方を向くと、怒ったように睨み付ける。 
『ですからっ!! その……姉さんを監視する為に、付いて行くんですっ!!』 
「要するに、一緒に行きたいわけか」 
 一言でまとめると、敬花の頬の赤みが増し、一気に顔全体に広がった。 
『ちちち……違いますっ!! 私は別に姉さんと買い物に行きたい訳じゃ……ただその、 
姉さんが余計な寄り道してお金使ったり、書かれた物と別な物を買ってきたりとか、買い 
忘れとかあったりしたらいけないから……』 
 口ではそう言うものの、格好はどう見ても気合入ってるし、表情だって誤魔化しきれて 
ない。思わず可愛くなって、私は敬花の頭を撫でた。 
「分かった分かった。それじゃ、久し振りに敬花とデートしましょうかね。時間はたっぷ 
りあるから、途中美味しいスイーツも食べてさ」 


『ちちち、違いますっ!! 何でその……ししし、姉妹でデートなんですかっ!! ば、 
馬鹿げてますっ!!』 
「じゃあ、買い物だけにする? そしたら、一時間くらいで終わっちゃうけど」 
 ちょっと意地悪な質問をすると、敬花は見るからに慌てた。 
『いっ……いえその……ていうか、姉さんのせいで私まで貴重な休日の時間を使ってしま 
うんですから、お茶くらいご馳走してくれたって、その……バ、バチは当たらないかと……』 
 思わず、ギュッてしてあげたくなるくらいの可愛らしさだったけど、それは我慢して、 
私はニッコリと笑顔を見せると、言った。 
「そういう時はね、敬花。お姉ちゃん。嬉しい。ありがとうって言えばいいのよ」 
 すると敬花は、恥ずかしそうに俯き、小声でブツブツと答えた。 
『……なっ……何でそんな事……言える訳ないじゃないですか。バカですか……姉さんは……』 
 やれやれ。どこまでも素直じゃないんだから。そう思いつつ、敬花の手を取ると、敬花 
は一瞬ビクッと手を動かしたものの、拒否は示さなかった。 
「それじゃ、行こうか?」 
『……は、はい。姉さん……』 
 大人しく頷く妹の手を引いて、私は玄関から外へ出た。澄み渡る空が眩しい。 
――こういうのもいいわよね。うん。 
 横目でチラリと、大人しく歩く妹を見ながら、私は思った。 
 こうして私たちは、姉妹での休日デートをたっぷりと満喫したのだった。 

終わりです。 

我ながら長いw 
読んでくれた方、お疲れ様です。
 
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