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ガンダム総合スレ「長槍は大地を揺らした:1」

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長槍は大地を揺らした:1




217 :長槍は大地を揺らした:2011/05/27(金) 06:51:59.98 ID:24DqHF25

 ――宇宙世紀0079 8月1日――

 『ニヴルヘイム』艦橋で、ウルリケは国営放送を見ていた。今日のニュースは、今まで
地球制圧軍の英雄として盛んに取り上げられていた、白き鬼ことエルマー・スネル大尉の
戦死。多数の61式戦車と渡り合い、壮絶な最期を遂げたと派手に語っている。しかしその
後に、ヨーロッパの開放は最早目前であり、これが地球連邦軍の最後の意地となるだろう
と付け加えられた。
 いつものように髪の毛を弄りながら、ウルリケはため息を吐く。彼女にしてみれば、も
はや信じられる情報などほとんど無い。
 彼女は今回、地球での戦いがどうなっているのか、自分の目で確かめる機会を得たのだ。

「レント中尉」

 クルト・フィッケル特務大尉が声をかける。レーゲルとケイルズがシーマ艦隊に戻って
から、ポーカーの相手が減ったとぼやいていたが、飄々とした態度は変わらない。しかし
そんな彼に、ウルリケは大分慣れてきた。

「そろそろだ。ノーマルスーツを着て準備しろ」
「了解です」

 ウルリケは立ちあがった。初めての地球への降下だが、フィッケルが同行してくれるの
が心強い。もっとも本人に言うと調子に乗りそうだが。

「二人とも、くれぐれも気をつけて」

 ソウヤ艦長が、穏やかな笑みを浮かべて言う。

「それと特務大尉殿、どさくさ紛れにセクハラなどなさらぬように」
「しないって。ところで、俺一応艦長より上のポジションのはずなんですが」
「おや失礼、海の男は正直でしてな」
「少しは嘘もついてくださいって。現場と総帥府の板挟みでいろいろ気苦労多いんですよ
俺」

 どうしようもない会話をする男たちに苦笑し、ウルリケは艦橋から出て行った。

 … … …

 先日、ウルリケは技術本部にて、新たな任務を拝命していた。

「……今回の試作兵器は、地球上での試験となる」

 シャハト技術本部長は厳かに告げ、モニターの映像を切り替えた。モビルスーツとも戦
車とも似つかぬ、異形の兵器の三面図が映し出される。ただその形状から陸戦兵器である
こと、そして長大な主砲を装備した姿から、後方での砲撃支援を主眼とした兵器であると
分かった。形式番号はXMA-02とある。
 画面を眺めるウルリケ・レント技術中尉は、以前この兵器についての情報を得ていた。
月面防衛兵器『ルナタンク』を基に、ミノフスキークラフトによって重力下での浮遊を可
能とした、地上用兵器の一種である。

「XMA-02『ランツェザム』。主砲口径40cm、ミノフスキークラフトとホバーエンジンに
よる低空飛行が可能。地球上拠点の防備を強固なものとするため開発された、移動トーチ
カである」
「本部長、この兵器の本格試験は見送られると聞いたのですが?」

 ウルリケの質問に、シャハト本部長は微かに頷いた。

「ルナタンクを基にミノフスキークラフトを組み込んだ兵器はこのランツェザムと、複数
のメガ粒子砲及び高周波兵器を搭載したXMA-03『アッザム』の同時開発だった。しかし
地球を一刻も早く制圧するため、より拠点攻略に優れたアッザムの生産を優先するように
と、上層部は決定した。現在のところ、それ以前に製作された試作機のみが完成している」

 ウルリケは嫌な予感がした。学友の所属する603試験隊が、モビルタンク『ヒルドルブ』
の評価試験をした際の話を思い出したのだ。
 そんな彼女の心情を、本部長は察していたのだろう。ゆっくりと、しかしはっきりと告
げた。

「ランツェザムは試験終了後に現地配備。回収の必要はない」
「……ッ!」

 使い捨て、である。物資を無限に呑み込む重力戦線に対し、戦力を少しでも補うべく、
ある物は何でも使う手段が講じられているのだ。このランツェザムもまた、試験名目で実
戦投入され、そのまま地球へ置き去りにされる。
 それでも地球上の同胞たちのためを思えば、技術家の本分でなくともやらなければなら
ない。この機体の投入で、少しでも重力戦線に貢献できれば……ウルリケは自分に言い聞
かせた。

「……了解、しました」
「宜しく頼む。……それと」

 押し殺したウルリケの感情に触れず、本部長がモニター画面を切り替える。地球全体の
地図が表示され、その中からヨーロッパの一部がクローズアップされた。試験が行われる
場所だ。

「ヨーロッパ方面に於いて、連邦軍に反攻の兆しがあるとの情報だ。危険であるというこ
とを、承知しておいて欲しい」

… … …

 ……今回の試験は試験記録を行うウルリケと、試験の総指揮を執るフィッケルが、コム
サイで地球へ降下する。試験機ランツェザムはパーツ状態でコムサイに搭載し、すでに地
上へ送ってある別パーツと共に地上基地で組み立てられるのだ。テストパイロットもすで
に地球へ降下しているが、試験終了後も機体と共に地上で戦い続けることとなる。

 それまでの試験を記録し、評価するのがウルリケの任務だ。例え使い捨てであっても、
否、だからこそ自分が記録しておかねばならない……ウルリケはそう考えていた。それが
いずれ、この戦争の趨勢を決める新兵器の開発に繋がるかもしれない。

 試作兵器と、それに関わる者たちの思惑が積み重なるこの部隊……雪を積み上げたイグ
ルーにでも例えるべきか。そこに足を踏み入れた以上、後戻りはできないのだ。


 ……ヨーロッパ 第45補給基地……

 荒野に佇む、多数の大型格納庫。ここは周辺で活動している部隊のモビルスーツや戦車
等の整備を一手に引き受けているため、防衛戦力も他の補給基地と比べ充実している。自
衛のための砲台も数か所に配置され、航空機や宇宙船の離発着所も設けられていた。
 対空機銃の近くで、顎髭を生やした中年の男が空を見ていた。『少佐』の階級章をつけて
おり、顔にいくつかの細かい傷のある風貌が、腕一本でのし上がってきた武人であること
を感じさせる。彼は何かを待ち望んでいるような目で、虚空を眺めていた。

 ふと、微かなブースター音が耳に聞こえてくる。青空の中に小さな点が見え、次第に大
きくなってきた。視力の良い彼には、それが友軍の大気圏突入艇であると判別できるまで、
そう時間はかからなかった。

「……来たか」

 男は笑みを浮かべた。昨日この基地に降下してから、一晩中待ち望んでいたものが来た
のだ。彼にとって、自分の居場所を作るために必要な物が、あの中に積まれている。
 やがて着陸態勢に入ったコムサイをしばらく見つめ、男は歩きだした。

 … … …

 ウルリケとフィッケルは基地司令に挨拶を済ませ、格納庫でランツェザムの組み立て作
業を眺めていた。分厚い装甲に覆われたドーム型の本体から、脚のように見える四本の降
着装置が突き出している。一際目を引くのは、本体から突き出た40㎝砲である。元々宇宙
艦艇用の実弾砲で、ビーム兵器に取って代わられたタイプだ。しかし重力下に於いては、
曲射のできる実弾兵器にも有用性がある。


「うう、何か体が重い……」

 初めて経験する地球の重力の感覚に、ウルリケが溢した。スペースコロニーより地球の
方が僅かに重力が強いため、スペースノイドが地上に来ると体が重くなったように感じる
のだ。行動に支障をきたすほどではないが、慣れるまで違和感を感じることになる。

「安心しろ、別に太ったわけじゃない」
「……大尉、その発言はセクハラに分類されますが」

 フィッケルは黙っていれば恰好いいのに、とウルリケは思う。総帥府でも彼はこんな調
子なのだろうか。「派遣されたのが俺で602は運が良かったぞ。603にはウルセェ奴が行っ
たから苦労してるだろう」などと本人は言っているが、どちらがマシかは悩むところだ。

 不意に、金属製の足場に軍靴の音が鳴った。

「ようよう、随分若い連中が来たな」

 豪快な口調で、男は言う。階級章を見て、ウルリケはすぐさま敬礼をした。

「602技術試験隊、ウルリケ・レント技術中尉です」
「同じく、クルト・フィッケル特務大尉です」

 続いて敬礼をし、フィッケルは続ける。

「……貴方が、ハインツ・ライゼン少佐で?」
「おう。俺がこいつの運用を任されてる」

 男は軽く敬礼を返し、笑いかける。そして、組み立て中のランツェザムに目を向けた。
 それが何処か遠くを見るような目のように、ウルリケには思えた。

「テストが終わったら、俺はこいつと一緒にここを守ることになってる」
「……試験中に欠陥が見つかっても、応急現地改良には限度があります。正直な所、この
試験は……」

 心情を吐露しかけたウルリケの肩を、フィッケルが叩く。彼はどこか諦観したような面
持ちだったが、ライゼン少佐は豪快に笑っていた。

「悲観的だな、嬢ちゃん。ま、世の中悪いことばかりじゃねえさ。この埃っぽい地球も、な」

 宜しく頼むぜ、と告げ、ライゼン少佐は歩き去っていく。

 ウルリケはその大きい背中が、何処か悲しく見えた。

【 続く 】

……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ………

登場兵器

 XMA-02『ランツェザム』

 月面兵器ルナタンクを元にした、初期型モビルアーマーの一つ。外観としてはアッザム
に似た機体に巨大な砲塔を搭載し、降着装置を太くしたような見た目である。アッザムが
浮遊しながら攻撃することを主眼とした兵器であることと対照的に、本機のコンセプトは
「移動トーチカ」である。主砲の40cm砲は宇宙艦船用の設計で、ミノフスキー粒子散布下
でも長大な射程を誇る。
 本機はミノフスキークラフトによる浮遊移動によって陣地転換しつつ砲撃を行うことを
主眼としており、移動トーチカの名に恥じず装甲は非常に厚い。しかしその重装甲と大型
砲を搭載したことにより搭乗スペースが圧迫され、乗員一名で操作しなければならない仕
様となった。また、重量の割にミノフスキークラフトが出力不足のため長時間の飛行や、
空中での発砲は不可能。射撃時には降着装置に搭載されたパイルバンカーを打ち出し、地
面に機体を固定する必要もあるため、運用は防御的なものに限られる。

……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ………

今回陸戦ネタですが、私が思うにアッザムって中途半端な機体な気がするんです。
メガ粒子砲はその後のMAほど威力は無いし(これは仕方ないか)、アッザムリーダーは
兵器として凝り過ぎじゃないかなー、と。
ならいっそ、移動トーチカとしての運用に特化させれば? と思ったのがきっかけです。
なかなか書けませんが、暇を見つけて続けていきます。




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