act.48
風が吹いた。
エレは、たった一瞬。
それでもシアナを真正面から見て、笑った。
それはいつもの皮肉めいた笑顔だった。
エレは、たった一瞬。
それでもシアナを真正面から見て、笑った。
それはいつもの皮肉めいた笑顔だった。
「無理だな。お前に俺が殺せるわけがない」
「どうして」
「俺らの力は五分。実力が互角ならば勝敗を決めるのはなんだと思う。
運か、神の加護か。 いや、違うな。それは、殺意だ。
戦いにおいては相手を殺したいと思う気持ちが勝る方が常に圧倒する」
「どうして」
「俺らの力は五分。実力が互角ならば勝敗を決めるのはなんだと思う。
運か、神の加護か。 いや、違うな。それは、殺意だ。
戦いにおいては相手を殺したいと思う気持ちが勝る方が常に圧倒する」
だから、とエレは続けた。
「お前に、俺は倒せない。
俺はずっとお前を殺したいと思っていた。死闘の果てにこの手で、お前の命を断ちたい、と。
以前よりお前を“殺したい”と望み続けてきた俺と、今ここで決意したお前とでは、年月も思いの深みも違いすぎる。
……お前は、甘いのだ。俺を救うなどと戯言を吐く気持ちがある以上、お前の敗北は決まったようなもの」
以前よりお前を“殺したい”と望み続けてきた俺と、今ここで決意したお前とでは、年月も思いの深みも違いすぎる。
……お前は、甘いのだ。俺を救うなどと戯言を吐く気持ちがある以上、お前の敗北は決まったようなもの」
甘えを捨てろ、と悪魔の騎士はシアナに告げていた。
決意した以上、相手を救おうなどと考えるな。
迷いも躊躇も捨て、容赦することなく切り伏せろと。
決意した以上、相手を救おうなどと考えるな。
迷いも躊躇も捨て、容赦することなく切り伏せろと。
「それでもお前が俺を殺そうと言うのなら……」
風に吐息が混じる。
「――死の淵まで俺を追って来い。待っているぞ、“シアナ”お前を殺すためにな」
シアナは、エレを倒すことを決意し、エレもまたそれを迎え撃つと宣告した。
もう翻ることのない、悲しい約束だった。
もう翻ることのない、悲しい約束だった。
「エレ……」
「フン、リジュ達の元へ向かえというのだろう。逃げるつもりはない。こちらから行ってやる」
「フン、リジュ達の元へ向かえというのだろう。逃げるつもりはない。こちらから行ってやる」
エレは一人、来た道を戻る。
道は定められた。悪魔と龍殺しは分かれた道を進む。
その道が再び交わる時、剣を抜いて戦う為に。
その道が再び交わる時、剣を抜いて戦う為に。
この先、エレとは命を賭けて決することになるだろう。
――そう、あいつを殺せるのは自分だけで、自分を殺せるのもあいつだけなのだから。
――そう、あいつを殺せるのは自分だけで、自分を殺せるのもあいつだけなのだから。
だからもう迷わない。
……もしエレが龍に変わってしまったのならば、私はあいつを討つ。
自分の全てをぶつけて、戦う。
……もしエレが龍に変わってしまったのならば、私はあいつを討つ。
自分の全てをぶつけて、戦う。
龍殺しの刻印が我が身を食らい、屠ろうと。
私には、これしか出来ない。
私には、これしか出来ない。
悲しい決意を胸に湛えたまま、シアナは明け方を迎えた。
翌日、エレの処刑が施行されることになった。
話はすぐさま隊内を駆け巡り、様々な感情と憶測を呼んだ。
エレが隊長を務めていた第二騎士隊の者は特に顕著で、全員これまでにないほどに消沈していた。
何よりもエレの刻印が暴走し、総長を殺害したという事実が彼らをいっそう困惑させ、苦しめていた。
話はすぐさま隊内を駆け巡り、様々な感情と憶測を呼んだ。
エレが隊長を務めていた第二騎士隊の者は特に顕著で、全員これまでにないほどに消沈していた。
何よりもエレの刻印が暴走し、総長を殺害したという事実が彼らをいっそう困惑させ、苦しめていた。
「……どうしてこんなことに……、シアナさん、エレ隊長を助けることは出来ないんですか」
肩を落として悲壮の内にそう告げる隊員に、シアナは返す言葉がなかった。
ごめんなさい、と心の中で謝罪しその場を後にした。
処刑は一部の隊長を除き、非公開で行われることになった。
シアナにも同行は許されなかったが場所は知らされた。処刑地はヘイレズの丘。
ごめんなさい、と心の中で謝罪しその場を後にした。
処刑は一部の隊長を除き、非公開で行われることになった。
シアナにも同行は許されなかったが場所は知らされた。処刑地はヘイレズの丘。
エレはリジュとビィシュに率いられ、処刑地へ向かった。
「隊長……」
「イザーク」
「イザーク」
リジュ達が戻るのを待っていたシアナに、話しかけてきたのはイザークだった。
イザークも何度もエレと言葉を交わした仲だ。
特別、仲が良いとは言えないまでもこの現状に痛みを感じていることは間違いがなかった。
イザークも何度もエレと言葉を交わした仲だ。
特別、仲が良いとは言えないまでもこの現状に痛みを感じていることは間違いがなかった。
「……俺、わかんないです。何が正しいのか……エレ隊長がズイマ総長を殺したのは、刻印のせいなんでしょう?
エレさんのやったことは憎むべきことだと思いますけど、でも……」
エレさんのやったことは憎むべきことだと思いますけど、でも……」
イザークは歯を食いしばった。
シアナには、それが必死に感情の爆発を堪えているように思えた。
シアナには、それが必死に感情の爆発を堪えているように思えた。
「こんなの、あんまりじゃないですか……」
シアナは答えなかった。
答えたら、自分の感情もイザークに引きずられて壊れてしまいそうだった。
だから無感情を装ったまま、イザークを見た。
イザークは、シアナの表情を見て憮然とする。
答えたら、自分の感情もイザークに引きずられて壊れてしまいそうだった。
だから無感情を装ったまま、イザークを見た。
イザークは、シアナの表情を見て憮然とする。
「やめてくださいよ、その顔。もううんざりだ」
「イザーク……」
「俺は、貴方のそんな顔見たくないんですよ、何で悲しい時に平気なふりするんですか」
「平気なフリなんて」
「してるでしょう。悲しい時は悲しいって言えばいい。泣きたいなら泣けばいいのに。
――俺は、辛いですよ。シアナ隊長の凍て付いた顔みてると。
……隊長、教えてください。貴方が今、一番したいことは何ですか」
「イザーク……」
「俺は、貴方のそんな顔見たくないんですよ、何で悲しい時に平気なふりするんですか」
「平気なフリなんて」
「してるでしょう。悲しい時は悲しいって言えばいい。泣きたいなら泣けばいいのに。
――俺は、辛いですよ。シアナ隊長の凍て付いた顔みてると。
……隊長、教えてください。貴方が今、一番したいことは何ですか」
――イザークの言葉に、胸の奥がざわめく。
「エレ隊長の処刑が終わるのを、黙って待っているのが隊長のしたいことじゃない。
そうでしょう?」
そうでしょう?」
その口調は、力強く、話しかけられる度に何かが生まれていくような気がした。
「隊長。俺、手伝いますよ。隊長のしたいことなら何でも。決めたんです。隊長に助けられた時に、俺この人の隣で使命を果たそうって。
だから、聞かせてください。――隊長の望みを」
だから、聞かせてください。――隊長の望みを」
エレが龍へ変わったのなら殺すと決めた。
だがこんな結末は望んではいない。
そして殺されたズイマも望んでいないだろう。
総長には思いを託された。
だがこんな結末は望んではいない。
そして殺されたズイマも望んでいないだろう。
総長には思いを託された。
私の、望みは一つ。
「……ふっ」
シアナは低く笑う。
このひよっこ騎士に気付かされるとは。
私もまだまだ甘ちゃんだということか。
急に笑い出したシアナをイザークはぽかんとした表情で見つめる。
私もまだまだ甘ちゃんだということか。
急に笑い出したシアナをイザークはぽかんとした表情で見つめる。
.