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蒼の残光 第8章 英雄の到着

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 「 蒼の残光」 第8章

 8.英雄の到着 

   トリスタン艦隊、ステファノ艦隊の全滅は連邦首脳部を恐慌に陥れた。
 事は単に独断専行した提督が返り討ちにあったと言うだけではない。宇宙艦隊でも最大
級の戦力を有する艦隊が僅か二十二分で全滅したのである。そして今回失われた兵力は、
連邦がアクシズ残党討伐の任を命じた三個艦隊の総兵力を上回っていたのである。
 宇宙艦隊総司令官ファケッティは会見の場で連邦艦隊の総戦力はトリスタン艦隊のさら
に十倍であり、一介のテロリストの扇動に乗らぬよう繰り返した。その一介のテロリスト
に連邦艦隊の一割が二十二分で壊滅させられた事への弁明は、ついに語られなかった。
 そして各コロニーの中でも特に若者の間で同調する者が現れ出した。まだ暴動やデモに
発展するほどではないが、コロニーの警備組織や守備隊などは神経を尖らせ、どこのコロ
ニーも剣呑さを増してきていた。
「リトマネンの宣告」と後年呼称される宣言の特徴は、リトマネン本人はあくまでも一軍
人としての立場を越えようとしていない点にある。彼はギレン・ザビや、ハマーン・カー
ンや、後のシャア。アズナブルのように自らが先導者となる事をせず、権利と正義を行使
しようとする者の護り手として自分を位置付けていた。自らのカリスマの不足を自覚して
いるが故の姿勢とも取れるが、その態度は熱病的な、信仰にも似た一斉蜂起は促さないも
のの、深く静かにスペースノイドの矜持を奮い立たせていったのである。
 当然ながらズム・シティでその動きは顕著だった。通常の警察だけでなく機甲警察(パ
ンツァー・ポリッツェ)も警戒レベルを上げて監視体制を強化していたが、その取り締ま
る側もまた「ジオンの子」なのである。ホワイト准将はジオン共和国と表向き協力体制を
強調しながら、万が一相手が寝返った場合の備えもしなければならなかった。
 そのズム・シティ駐留基地の兵の動揺は大きかった。今まで相対してきた敵の真の実力
を目の当たりにしたのである。今まで全滅せずに来れた事を実力と自惚れるにはあまりに
も圧倒的だった。
 何よりも彼らを不安にさせたのはコロニーレーザーよりむしろ二機の新型MSだった。

――ユウ・カジマでも勝てないのではないか。

 その恐怖だった。
 ここまでの戦いではコロニーレーザーは前面に出る事はなく、それ故に正面からの艦隊
戦、MS戦で戦う事ができた。そしてそこには敵隊長機とNTの二人を同時に相手にする
ユウの姿があった。
 あの新型に乗る者がドーベンウルフとゲーマルクのパイロットである事は間違いない。
今まではユウが相手をしている時間がほとんどなので気が付かなかったが、本来専用機を
与えられるエースやNTパイロットが弱いはずはないのだ。そして未知の最新型MSを得
た両名はまさしく一騎当千の強さを発揮した。如何に『戦慄の蒼』と言えどもあの二機を
同時に相手をするのは不可能に思え、仮に一機のみを相手にするとして残る一機を自分達
が抑えられるかどうか、誰一人として肯定的な結論に向かわなかったのである……。
 ブライト・ノア大佐率いる第三十三パトロール艦隊が到着したのはそんな喧騒に包まれ
た一月十二日十四時の事である。

 

 旗艦『ネェルアーガマ』から降りたブライト・ノアを迎えたのはローラン・ホワイト准
将だった。
「ようこそ、ノア代将」
「お出迎え感謝いたします、ホワイト准将。それから、私の事はブライトとお呼び頂いて
結構です」
「代将」とは佐官に艦隊指揮権が与えられた場合、臨時で本来の階級を超えた職権を与え
られる事に対する通称で、正式な階級でも役職でもない。准将であるホワイトが大佐であ
るブライトに対してあえて同格であるとの敬意を込めた表現である。
「トーレス、暫く頼むぞ!」
 ブライトは後ろを振り返り艦に残っていた士官に声をかけると、すぐに用意されたエレ
カに乗り込んだ。
「ブライトくん、先程の戦闘は――」
「艦内で観ていました。まさか、あれほどの攻撃力があるとは」
「コロニーレーザーをあれだけの短期間で連続発射できるとなればその脅威は単純に五倍
ではなく、十倍、あるいはそれ以上と言えるだろう。加えてあの新型に乗った二人のパイ
ロットだ」
「ほとんど二人だけで残存戦力を圧倒していました」
「士気がほとんど挫かれていたとは言え、考えられん程一方的な虐殺だった。恥ずかしい
話だが、MS隊の中には完全に戦意を喪失している者も出ている有様だ」
「それはどこも同じでしょう。エースパイロットがその存在を主張するようなマーキング
や塗装を行うのは、味方を鼓舞し敵の士気を挫く意図もあるのですから」
 そこまで言ってからブライトは思い出したように
「この基地にはあの『戦慄の蒼』がいると聞きました。彼はなんと言っています?」
「何も。あの男は戦意高揚のためであっても自分で信じていない事は言わない男だ」
「……なるほど」
 ブライトはその意味を了解し、それ以上は何も言わなかった。
 アムロ・レイやカミーユ・ビダンなど「特別な」エースパイロットの英雄譚の語り部的
な位置で記憶されるブライトだが、この時期の彼は特筆するようなパイロットと行動を共
にしていなかった。軍上層部が彼の軍閥化を恐れたためであるが、一方でブリッジクルー
などは彼の信頼を得る者が何人か残っており、彼らの恐れるものがブライトのNTを惹き
つける力のみである事が窺い知れた。
 基地に到着し、会議室に入るとルロワと幕僚たちが既に揃っていた。 
 挨拶もそこそこに即現状の分析に移る。
「統合戦略本部がアクシズ内のデータを再解析したところ、新たに判明した事がいくつか
あります」
 マシューが説明を開始する。本部からの資料にはコロニーレーザー・リボルバーという
構想についての記述があり、本来なら充電や冷却などで一度使えば数時間から数日は使用
できないコロニーレーザーを、複数のレーザーをまとめて運用する事で連射可能とすると
いう単純かつ荒唐無稽ともいえる計画の存在を発見した、と書かれていた。
「……恐らくは、まさか実現可能とは思わず検証してこなかったのだろうな」
 ルロワが結論付けた。ケイタがやや同情的に
「現実的に見て、五基のコロニーレーザーを同時運用するだけのエネルギー供給など不可
能と判断したとして、それを見通しが甘いとは言えないのではないでしょうか」
「誰かを責めているわけではない。ただ、現実に今連中はサイド3半年分に相当するヘリ
ウムを抱えてこの作戦を決行している。少なくともミカ・リトマネンと言う男は不可能と
は考えていなかったのだ」
 誰一人反論する者はいなかった。
 マシューが咳払いを一つして話を続けた。
「次に、リトマネンが演説を行っている間後ろにいた人物ですが」
 モニター上に演説中のワンシーンが表示された。
「向かって左の人物は木星旅団のスティーブ・マオに間違いありません。右の人物ですが、
恐らくはアラン・コンラッドなる人物と思われます」
「アラン・コンラッド?そんな名前のエースパイロットがいたかな」
 ヘンリー大佐が首を傾げた。マシューが説明する。
「いえ、大佐、彼は一年戦争時のエースではありません。彼はカジマ中佐よりさらに一年
年少で、当時は学徒動員により配備された新兵でした」
「すると、あの技量は戦後身につけたものなのか」
「恐らくは。詳しい事はまだ判っていませんが、彼がアクシズに合流したのは〇〇八三年
以降の事です。それまでは別の勢力で実戦を経験してきたのだと思われます」
「あのNTについては何か判った事はないか?」
「それまだ何も。NTについてはハマーン・カーンについてすらあまり触れられていませ
んので。ネオジオンが内紛で崩壊した際のキュベレイ部隊が、全て同一の少女のクローン
体であったとの投降兵の証言があり、その生き残りである可能性もあります」
「いや、あれは違う、若いが成人した男だ」
 ユウが断言した。
「何故だ?何故そう言い切れる?」
 ホワイトの質問は当然のものであったろう。それに対してユウは
「……いえ、戦った者の直感です」
 とだけ答えた。実際、何故自信を持って若い男と思ったのか判らない。ただマリオンが
彼と同調しビームライオットガンを向けた時、若い男の姿が見えた気がした。それがゲー
マルクのパイロットだと、奇妙な確信があった。
 ルロワとホワイトがちらと目を合わせたが、気づいたものは誰もいない。
「男でも女でも、手強い事に違いはない。今は如何に戦うかを考える時だ」
 ヘンリーが促し、ブライトも頷いた。
「あのMSについては何か残っていたのでしょうか?」
「いえ、何も出てきておりません、ブライト大佐」
 マシューは正規の階級でブライトを呼んだ。
「本部の見解では、木星のMSではないかと言う事です」
「木星の?」
「木星はAE社とは全く違う独自のデザインと設計思想を持っています。パプテマス・シ
ロッコのような天才なくとも、独自の機構を備えたMSを開発する土壌は出来ております」
「つまり性能に関しての情報はなし、ですか」
 ユウが呟いた。ホワイトが訊ねる。
「どうかね、カジマ中佐。映像から判断する限り、貴官の手に負える相手かね?」
 ユウは目をつぶって考え、慎重に答えた。
「――機体性能ももちろんですが、技量の面でも、特にNTの方は目覚しい進歩を遂げて
います。これまでは二対一でも何とか戦えましたが、次は一対一でも勝てるかどうか……」
 重い沈黙があった。その沈黙の中でブライトだけは別の驚きを以ってユウを見た。
(あれだけのものを見せられて、まだ一対一なら勝てる可能性があるとはな)
 ユウがシミュレータ上でアムロの戦闘データを撃破した噂は聞いている。この自信を見
る限り、ただの伝説ではなさそうだ。
「後はスキラッチ提督が到着してから作戦を詰めるとして、我々への戦力補充はないので
しょうか?特にMSは相当数を失っているのですが」
 ヘンリー艦長の不安はもっともだった。今のままでは単純に戦力が足りない。
「恐らく、ここに補充人員を入れるよりも艦隊一つを追加する方を選ぶだろう」
 ホワイトが面白くなさそうに答えた。ヘンリーは天を仰いだ。

 

 ジャクリーンはジムⅢの最終チェックを行っていた。
「――これで、よし、と。じゃ、次は――」
「へえー、これが話に聞いた実験機か。確かにΖに似ているな」
 見慣れない男がBD‐4の前に立ち、機体を眺めていた。
「ちょっと、どなた?判ってると思うけど関係者以外は立ち入り禁止よ」
 ジャクリーンは侵入者に警告した。男はジャクリーンを不思議そうな目で見ると、あ、
と思い出したように声を上げた。
「これは申し訳ない。あなたがここの整備主任?」
「そうよ。あなたは?」
「アストナージ・メドッソ。ついさっきここの関係者になった所だ」
「アストナージ……?ああ、ネェルアーガマの」
 ようやく事情が飲み込めた。ブライト艦隊の旗艦ネェルアーガマにはグリプス戦役の頃
からブライトに随っているメカニックがいて、非常に特殊な整備を要求されるガンダム型
MSを完全に調整したばかりでなく、AEすら思いつかない改良を加えて運用能力を向上
させた天才だと言う。この男がそうなのか。
「ジャクリーン・ファン・バイク。ジャッキーでいいわ」
 ジャクリーンが手を差し出し、アストナージと握手を交わした。どちらも工具ダコの硬
くなった、メカニックの手だった。
「ジャッキー、これがAEから供与された実験機かな?」
「そう、今はBD‐4て呼んでるわ」
「会報で見たときはグリーン系の塗装だったと思うけど」
「『戦慄の蒼』が乗る機体なんだからこれでいいの」
 アストナージは納得したようだった。
「『戦慄の蒼』ユウ・カジマ中佐か。グリプスではハイザックで巡洋艦沈めたとか。な、
ちょっとこいつ、見せてもらっていいかな?ハイエンド機に暫く触れてないから気になっ
ちまって」
 正直に言えば、自分の担当するMSを他所の部隊のメカニックに触られたくはない。し
かし、アストナージは歴代のAE製MSの間違いなく最高峰をその目で見てきたメカニッ
クである。もしかしたら自分が考え付かない視点を持っているかもしれない。
 それに、前回の戦いでの反応値の急上昇もある。ユウはそのままでいいと言ったが、も
し通常域の使いやすさを維持しつつピークバンドでの応答も両立できればよりユウの生存
率を高める事が出来る、そのヒントを持っているのではないか。
「ええ、見ていって。戦闘レコーダーも用意するわ」
 ジャクリーンはコンソールの前に案内した。

 

 司令部ではルロワ、ホワイト、それにブライトがアクシズ残党軍の動きを探っていた。
「今もコロニーレーザーは低速ながらも移動を続けている」
 ルロワが状況を説明した。
「どこに向かっているのか、目的地と言える場所があるのか、現在では不明だ。ただ、今
の針路と速度を維持すれば九時間後には我々の担当宙域を抜ける事になる。もっとも、今
更縄張りなど意味を持たないが」
 ルロワの言葉にはどこか皮肉の響きがあった。軍の一向に改まらぬ縦割り意識を皮肉っ
ているのかとブライトは感じたが、ホワイトからはこれで戦わずに済むならどんなにいい
かと嘆いているように見えた。恐らく、両方だろう。
「奴らが移動を続ける意図は何でしょうか?コロニーレーザーを使った最後の作戦がある
のでしょうか」
 ブライトの疑問は当然のものである。どこに移動しようが戦略的な見地において残党軍
は常に包囲され続けている。よって戦術的に少しでも守り易い宙域にいるしかないのだが、
今の針路はそういう意図のものでもないように思われる。
「彼らの主張から考えても、コロニーや月面都市を攻撃するとは考え難い。少なくとも今
の段階では。だからと言っていくらあのレーザーでも地球を狙ってどれだけの効果がある
か……」
 三人にコーヒーが運ばれてきた。シェルーだった。
 ケイタやマシューに頼み込み、今だけ役割を替わってもらったのだった。ルロワもホワ
イトもここにいるはずのない人物がコーヒーを運んできた事に気がついたが、何も言わず
にいた。
「ブライトさん、どうぞ」
 目の前に置かれたコーヒーを何気なく取ったブライトだが、ふと小さな違和感に運んで
きた女性士官を見た。確かに彼自身はファミリーネームや階級で呼ばれる事を嫌がるが、
他所の基地の若い士官は普通「ブライトさん」とは呼ばない。咎める意図はなく、シェル
ーの顔を見上げていた。
「失礼だが、君とはどこかで会った事があるかな……?」
「十年前に何度かお見かけしました」
「十年前……名前はなんと言うのかな」
「シェルーです、サンディ・シェルー。父はヴァンサン、母はマリー=テレーズです」
 ブライトはその名を聞き一瞬考え、すぐに思い当たった。彼は立ち上がった。
「マリー=テレーズ先生!そうか、あの時のお嬢さんか。大きくなったものだ」
「憶えていて下さったんですか」
 嬉しさを隠さずにシェルーが訊ねた。ブライトは頷く。
「ああ、君のお母さんには、色々な意味で世話になった」
「少尉の母君に何か借りでもあるのか」
 ルロワが訊いた。ホワイトベースの難民だと言うのは聞いていたが、あまり細かい事情
までは聞いていなかった。
「彼女の母親は歯科医でした。難民の子供が聞分けがない時、先生の名前は実に効果的で
した」
 ブライトが悪戯ぽく笑った。
「士官学校に入ったというのは挨拶状で知らされていたが、まさかここに配属されていた
とはね」
「私は嬉しいです。こうしてブライトさんにお逢いする事も叶いましたし、ブライトさん
がいれば不安なんてありません」
 ホワイトが何か言いかけたが、やめた。軍に入隊する動機となった程の存在である。彼
女にとって、ブライト・ノアは依然として英雄なのだ。
 その代わり、ホワイトは現状でより重要度の高い質問をした。
「カジマ中佐はもう病院か?」
「はい、先ほど退席しました」
「病院?中佐はどこか怪我を?」
「いえ、中佐の奥様が入院されたのでそのお見舞いです」
「奥方が病気なのか」
「貧血のようなものだと伺ってますが」
「まあ、小隊の再編などもやらなければならないが、スキラッチ提督が来て組織をどう運
用するかによっても左右されるからな。今は特別に許可を与えているのだ」
 ルロワが説明し、改めてシェルーに向かって
「少尉、中佐はどんな様子だった?」
「どんな、ですか?いつも通り、ほとんど何も話さずに『悪いが一度出る』とだけ」
「何かを持ち出したりしていなかったか?」
「……?何も持ち出してはいないと思いますが」
「そうか、ならいい」
 それだけ言ってシェルーを下がらせた。
「引き続きアクシズ残党軍の動静は二十四時間体制で監視している。何か判ればすぐに知
らせよう」
「ありがとうございます。では私も一度自分の艦隊の様子を見てまいります」
「うむ。もし何か要りようのものがあるならマシュー中佐に言ってくれ。出来る限り用意
しよう」
 ブライトが発った後、ルロワとホワイトは無言で目を合わせた。
 この緊急事態にもかかわらず、幹部であるユウに妻の見舞いを許可したのはリーフェイ
の提案だった。意図的に行動の自由を与え、泳がせる事で不穏な行動がないか確認するつ
もりである。二人とも、そしてリーフェイもユウの無実を信じてはいたが、味方を欺くや
り口は武人の気性には合わなかった。
「これで潔白が証明されるならいいのだが」
 ルロワが言った。
「スキラッチ提督はもちろん、ブライト君にも知られるわけにはいきません。事は慎重を
要します」
 ホワイトが念を押す。
「そこら辺りについては大尉に任せておけばよかろう。こちらでも口の堅い男を選抜して
尾けさせている」
 ルロワはそう言って話題を切り上げた。

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