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アシュリー少尉の憂鬱 第1話
閉鎖都市の中心部に位置する、三階建ての古くさいぼろビル。
外壁の塗装は剥がれおち、一部に至っては内部の鉄骨がその顔を覗かせている。
その姿は、常に不安定で危険のつきまとうこの都市の現状を、端的に表していると言っても過言ではなかった。
何故ならこの場所こそが、都市を守らんと常日頃果てのない戦いを繰り広げる、閉鎖都市自警団の本部であるからだ。
……余談ではあるが、正確には警察を名乗っているものの、市民達に浸透はしていないという事実もある。
外壁の塗装は剥がれおち、一部に至っては内部の鉄骨がその顔を覗かせている。
その姿は、常に不安定で危険のつきまとうこの都市の現状を、端的に表していると言っても過言ではなかった。
何故ならこの場所こそが、都市を守らんと常日頃果てのない戦いを繰り広げる、閉鎖都市自警団の本部であるからだ。
……余談ではあるが、正確には警察を名乗っているものの、市民達に浸透はしていないという事実もある。
さて。この物語は、閉鎖都市自警団管轄のとある閑職部署――もとい、自警団の最終秘密兵器こと、『特務室』に所属する人々の活躍を描いたものである……。
多分。きっと。
多分。きっと。
◆
「おとう――ごほん、大尉! どういうことですか!」
ぼろビルの中にあるとはいえ、改修補強が繰り返されたからか他の部屋とは比べて幾分かマシな装いの小部屋に、豊かな髭を蓄えた禿頭の中年と、まだうら若い金髪の少女が相対していた。
ご丁寧に高級カーペットや家具が立ち並んでいるこの部屋、外のドアには『署長室』と書かれたプレートが汚い字で引っかかっている。
つまり少女が唾を飛ばさんばかりに詰め寄っているのは、この自警団のトップである男、アンドリュー・ヒースクリフということだ。
アンドリューはガミガミとまくし立てる少女の言葉を聞いているのかいないのか、静かに机に肘を置き、組んだ掌に顎を載せてその瞳を閉じていた。
泰然としたその態度に更に腹を立てたのか、まだ皺のついていない、真新しい自警団の制服――カーキ色の軍服――を着用した金髪の少女は、更に口調を激しくする。
「大尉! いい加減私たちにも……仕事を下さい! 我々が必ず、ケールズを殺した犯人を――」
「……いい加減にしろ、アシュリー。ケールズの件は一課が担当する」
「ですが、あんな堅物達にこの事件が解決できるとは……」
なおも食い下がるアシュリーに、アンドリューは諦めともつかないため息を漏らした。諦めを知らないこの少女は果たしてどのような教育を施されてきたのやら。
親の顔が見てみたい――などと考えてみたが、結局親は鏡に映る禿頭の男なわけで。
育て方を少しばかり間違えただろうかと、自警団団長、もといアシュリー・ヒースクリフの父親ことアンドリュー・ヒースクリフ大尉は様々な書類が転がる机の上で鈍く輝く銀色のベルを鳴らした。
「……何を?」
「一課の代表を呼んだだけだ。お前の評価を聞かせてやれば良い」
「な……卑怯ですお父様!」
「ここでは私はお前の上官だ。家族ではないと何度言えばわかる。アシュリー・ヒースクリフ少尉」
「ぐ……」
核心を突く父の言葉に、アシュリーは喉まで出かかっていた言葉を呑込み、申し訳ありませんと呟いた。
そんな姿に満足したか、アンドリューは珍しく口元に笑みを浮かべて彼女の肩を叩く。
「一課は優秀だ。だが優秀すぎる故に危険が常につきまとう。お前はまだ若い、いくらだってチャンスはある」
「……はい、大尉」
「特務室だって悪くはない。住めば都と言うだろう」
「……イエス、ボス」
「よし、もう行け。私はこれからケールズの件でやらねばならんことがある」
わざとらしく机の上に転がっていた書類を叩いて示したアンドリューに敬礼を返し、アシュリーはトボトボと所長室を後にした。
今日もまた、負けである。
ぼろビルの中にあるとはいえ、改修補強が繰り返されたからか他の部屋とは比べて幾分かマシな装いの小部屋に、豊かな髭を蓄えた禿頭の中年と、まだうら若い金髪の少女が相対していた。
ご丁寧に高級カーペットや家具が立ち並んでいるこの部屋、外のドアには『署長室』と書かれたプレートが汚い字で引っかかっている。
つまり少女が唾を飛ばさんばかりに詰め寄っているのは、この自警団のトップである男、アンドリュー・ヒースクリフということだ。
アンドリューはガミガミとまくし立てる少女の言葉を聞いているのかいないのか、静かに机に肘を置き、組んだ掌に顎を載せてその瞳を閉じていた。
泰然としたその態度に更に腹を立てたのか、まだ皺のついていない、真新しい自警団の制服――カーキ色の軍服――を着用した金髪の少女は、更に口調を激しくする。
「大尉! いい加減私たちにも……仕事を下さい! 我々が必ず、ケールズを殺した犯人を――」
「……いい加減にしろ、アシュリー。ケールズの件は一課が担当する」
「ですが、あんな堅物達にこの事件が解決できるとは……」
なおも食い下がるアシュリーに、アンドリューは諦めともつかないため息を漏らした。諦めを知らないこの少女は果たしてどのような教育を施されてきたのやら。
親の顔が見てみたい――などと考えてみたが、結局親は鏡に映る禿頭の男なわけで。
育て方を少しばかり間違えただろうかと、自警団団長、もといアシュリー・ヒースクリフの父親ことアンドリュー・ヒースクリフ大尉は様々な書類が転がる机の上で鈍く輝く銀色のベルを鳴らした。
「……何を?」
「一課の代表を呼んだだけだ。お前の評価を聞かせてやれば良い」
「な……卑怯ですお父様!」
「ここでは私はお前の上官だ。家族ではないと何度言えばわかる。アシュリー・ヒースクリフ少尉」
「ぐ……」
核心を突く父の言葉に、アシュリーは喉まで出かかっていた言葉を呑込み、申し訳ありませんと呟いた。
そんな姿に満足したか、アンドリューは珍しく口元に笑みを浮かべて彼女の肩を叩く。
「一課は優秀だ。だが優秀すぎる故に危険が常につきまとう。お前はまだ若い、いくらだってチャンスはある」
「……はい、大尉」
「特務室だって悪くはない。住めば都と言うだろう」
「……イエス、ボス」
「よし、もう行け。私はこれからケールズの件でやらねばならんことがある」
わざとらしく机の上に転がっていた書類を叩いて示したアンドリューに敬礼を返し、アシュリーはトボトボと所長室を後にした。
今日もまた、負けである。
◆
自警団には全部で四つの部署がある。
一課――、別名『軍』とも呼ばれる課で、閉鎖都市でほぼ毎日のように起こる殺人事件や放火強姦などの凶悪犯罪を取り締まる部署である。
統率されたその動きと、非情に犯人を追い詰めるその姿は尊敬と畏怖を持って『軍』と呼ばれる。
二課。自警団の中でもあまり評判は良くない課である。それは、彼らが主として取り締まる犯罪が通貨の偽装や、収賄問題のためだ。
巨大企業との癒着などが懸念される、自警団の中でもかなりグレーな部署と言えよう。
三課は軽犯罪を取り締まる課である。窃盗やひったくりなど、殺人事件以上の発生率を誇るこの部署は、常に人が出入りする、別名『眠れないの課』だ。
そして最後、アシュリーが室長を務める自警団最高の閑職部署、特務室。
建前上署長であるアンドリューの名によっていかようにでも動く部署の筈だが、未だかつて出動の命令が下されたことはない課であった。
自警団本部の三階、端の端に居を構える特務室は、毎日忙殺されている他の署員から、揶揄を込めて『お気楽特務室』と呼ばれる悲しい部署である。
室長であるアシュリーは元来真面目な性格もあって、この現状を打破すべく署長であり父親でもあるアンドリューに働きかけたわけだが失敗してしまった。
と言っても、失敗した方が逆に良かったのかも知れない。
何故なら特務室メンバーはたった二人。
そして進んで事件を解決させようと思うような気概を持った者は、ここにはいないからである。
一課――、別名『軍』とも呼ばれる課で、閉鎖都市でほぼ毎日のように起こる殺人事件や放火強姦などの凶悪犯罪を取り締まる部署である。
統率されたその動きと、非情に犯人を追い詰めるその姿は尊敬と畏怖を持って『軍』と呼ばれる。
二課。自警団の中でもあまり評判は良くない課である。それは、彼らが主として取り締まる犯罪が通貨の偽装や、収賄問題のためだ。
巨大企業との癒着などが懸念される、自警団の中でもかなりグレーな部署と言えよう。
三課は軽犯罪を取り締まる課である。窃盗やひったくりなど、殺人事件以上の発生率を誇るこの部署は、常に人が出入りする、別名『眠れないの課』だ。
そして最後、アシュリーが室長を務める自警団最高の閑職部署、特務室。
建前上署長であるアンドリューの名によっていかようにでも動く部署の筈だが、未だかつて出動の命令が下されたことはない課であった。
自警団本部の三階、端の端に居を構える特務室は、毎日忙殺されている他の署員から、揶揄を込めて『お気楽特務室』と呼ばれる悲しい部署である。
室長であるアシュリーは元来真面目な性格もあって、この現状を打破すべく署長であり父親でもあるアンドリューに働きかけたわけだが失敗してしまった。
と言っても、失敗した方が逆に良かったのかも知れない。
何故なら特務室メンバーはたった二人。
そして進んで事件を解決させようと思うような気概を持った者は、ここにはいないからである。
「……ただいま」
「よ、お帰りー」
「……失敗してしまった……。すまない、ハーヴィー」
「いやいや、一日ずっとここにいて、そんでおまんまにありつけんだからこれほど幸せなことはねぇよ」
ハーヴィーと呼ばれた男が、のんびりと目を通していたグラビア雑誌を床に投げ捨てつつ言う。
特務室の中心に置かれた来客用のソファ(未だかつて客が座ったことはない)にごろりと寝転ぶその男は、体中からやる気のないオーラを発していた。
「だがなハーヴィー……、私は心苦しいのだ。同僚たちが粉骨砕身しているというのに、私はただ日の当たる窓際でコーヒーを啜るだけなんて」
「お前さんは昔から真面目だからな」
「君が不真面目すぎるだけだ」
ジト目でハーヴィーを睨んだアシュリーは、彼が床に投げ捨てたグラビア雑誌を拾い、それをゴミ箱に捨てた。
既にゴミ箱は雑誌やインスタントコーヒーの殻で溢れんばかりになっている。
「……はぁ、市民を守るのが夢だったんだがなあ」
「ま、いつか叶うんじゃねえか?」
「……そんな日が来ることを願うよ……」
「よ、お帰りー」
「……失敗してしまった……。すまない、ハーヴィー」
「いやいや、一日ずっとここにいて、そんでおまんまにありつけんだからこれほど幸せなことはねぇよ」
ハーヴィーと呼ばれた男が、のんびりと目を通していたグラビア雑誌を床に投げ捨てつつ言う。
特務室の中心に置かれた来客用のソファ(未だかつて客が座ったことはない)にごろりと寝転ぶその男は、体中からやる気のないオーラを発していた。
「だがなハーヴィー……、私は心苦しいのだ。同僚たちが粉骨砕身しているというのに、私はただ日の当たる窓際でコーヒーを啜るだけなんて」
「お前さんは昔から真面目だからな」
「君が不真面目すぎるだけだ」
ジト目でハーヴィーを睨んだアシュリーは、彼が床に投げ捨てたグラビア雑誌を拾い、それをゴミ箱に捨てた。
既にゴミ箱は雑誌やインスタントコーヒーの殻で溢れんばかりになっている。
「……はぁ、市民を守るのが夢だったんだがなあ」
「ま、いつか叶うんじゃねえか?」
「……そんな日が来ることを願うよ……」
アシュリーの、特務室での日々はまだまだ続く……