無限彼方~No grave~
冬の終わりの季節。土の匂いが漂っている。
空は澄み切っていた。あの時の、あの場所とは違う、どこまでも青い空。
まだ冷たい風が髪を揺らす。黒い髪はばさばさと音を立てて、自分の頬に絡み付く。空を見上げると、一羽のカラスが飛んでいる。
あれから、もう五年の月日が流れていた。
空は澄み切っていた。あの時の、あの場所とは違う、どこまでも青い空。
まだ冷たい風が髪を揺らす。黒い髪はばさばさと音を立てて、自分の頬に絡み付く。空を見上げると、一羽のカラスが飛んでいる。
あれから、もう五年の月日が流れていた。
彼方はぼーっと空を見ている。
今日が何の日かはよく知っている。かと言ってやる事は無い。特に仕事の連絡が無ければだらだらして過ごす。
今日もお気に入りのコーヒー飲料を飲みながら、買い置きしてあるスナックをかじって、自室の窓を開けて空を眺めている。これだけジャンクフードを食べて、おまけに三食きっちり取っても太らないのは奇跡だろうか。
また風が吹き、部屋のカレンダーと彼方の髪を暴れさせて行く。
今日が何の日かはよく知っている。かと言ってやる事は無い。特に仕事の連絡が無ければだらだらして過ごす。
今日もお気に入りのコーヒー飲料を飲みながら、買い置きしてあるスナックをかじって、自室の窓を開けて空を眺めている。これだけジャンクフードを食べて、おまけに三食きっちり取っても太らないのは奇跡だろうか。
また風が吹き、部屋のカレンダーと彼方の髪を暴れさせて行く。
「……春が来るね」
独り言。彼方にとってはそうでは無いが。
呟いた言葉はあくまでも、自分自身への言葉である。自分の魂の片隅に向かっての。
チャイムが鳴る。面倒臭そうにしていると懐かしい声が玄関から響く。
独り言。彼方にとってはそうでは無いが。
呟いた言葉はあくまでも、自分自身への言葉である。自分の魂の片隅に向かっての。
チャイムが鳴る。面倒臭そうにしていると懐かしい声が玄関から響く。
「おーい! 彼方ちゃーん!」
「……開いてるよー」
「……開いてるよー」
会話はそれで一旦途切れる。玄関が開く音がして、来訪者が部屋へ入って来る。
「おっす! 元気か彼方ちゃん!」
「おっす。理子さん」
「おっす。理子さん」
来訪者は相変わらずのテンションのまま。五年経って少し変わった事と言えば、結婚してヤタガラスを退職した事くらいか。
「行ってきたよ、京都」
「そう」
「先輩も来てたよ。さすがに幕僚クラスは来れなかったらしいけど。……あと狐見たって人が居たような……」
「はは。行ったんだアイツ」
「……行かなくてよかったの?」
「うん。意味ないから」
「そう」
「先輩も来てたよ。さすがに幕僚クラスは来れなかったらしいけど。……あと狐見たって人が居たような……」
「はは。行ったんだアイツ」
「……行かなくてよかったの?」
「うん。意味ないから」
それだけでは無かった。無限一族本家の血筋を唯一引き継ぐ彼方だったが、いくら彼方とて分家では受け入れられない。黒丸や理子と違い、歴史と伝統を抱える無限一族の分家はドライな決断ができなかった。
「久々に先輩と会ったけどちょっと老けたね……」
「そりゃ五年経ってるもん。……私が無茶苦茶するのもあると思うけど」
「彼方ちゃんも変わったね」
「もう二十一だもん。そりゃ変わるさ」
「そっか、もうそんなになるか。最初会った時はまだ子供だったんだよね」
「理子さんはアラサーか……」
「う……。い……いいじゃん。結婚出来たし楽な仕事してるし」
「結局神社継いだんだよね」
「あ……。うん。やっぱり親の跡継ぎたかったし」
「お婿さんは大変だろうねぇ~。このお転婆相手じゃ」
「うぬぬ……。反論出来ないのがツライ……」
「そりゃ五年経ってるもん。……私が無茶苦茶するのもあると思うけど」
「彼方ちゃんも変わったね」
「もう二十一だもん。そりゃ変わるさ」
「そっか、もうそんなになるか。最初会った時はまだ子供だったんだよね」
「理子さんはアラサーか……」
「う……。い……いいじゃん。結婚出来たし楽な仕事してるし」
「結局神社継いだんだよね」
「あ……。うん。やっぱり親の跡継ぎたかったし」
「お婿さんは大変だろうねぇ~。このお転婆相手じゃ」
「うぬぬ……。反論出来ないのがツライ……」
喪服の理子は包みを彼方に差し出し、部屋を去って行った。中身はちょっとした京都のお菓子。
スナックは好きだが、アンコを使うようなお菓子を普段食べない彼方にはあまり興味が沸く物では無かった。
だがもう一人は別なのだろうか。珍しくそれを食べてみたいと思った。
一つだけ取り出して、口に含んでみる。独特の香りが鼻から抜けて行く。
懐かしい香り。そんなはずは無いのに。
スナックは好きだが、アンコを使うようなお菓子を普段食べない彼方にはあまり興味が沸く物では無かった。
だがもう一人は別なのだろうか。珍しくそれを食べてみたいと思った。
一つだけ取り出して、口に含んでみる。独特の香りが鼻から抜けて行く。
懐かしい香り。そんなはずは無いのに。
携帯電話が鳴る。電話の主はいつもと変わらぬ優しい声で語る。
《ああ、やっぱり寄生共は増えてますねぇ。あんまりバラバラにならずに固まって行動してますよ。しかも地下やら森の中やら、上手く隠れてます》
「そ。じゃあ私も行くわ」
《いや、今日はいいですよ。それに今は見てきただけです。》
「……暇なんだけどさ」
《たまには休みなさいな。私も今から帰ります》
「分かった。あ、お菓子あるよ。なんだっけ……。生八ツ橋?」
《これは珍しい物を。私は京都に近づけないからアンテナショップでしか手に入らないんですよ》
「全部食べちゃう前に帰って来てよ」
「そ。じゃあ私も行くわ」
《いや、今日はいいですよ。それに今は見てきただけです。》
「……暇なんだけどさ」
《たまには休みなさいな。私も今から帰ります》
「分かった。あ、お菓子あるよ。なんだっけ……。生八ツ橋?」
《これは珍しい物を。私は京都に近づけないからアンテナショップでしか手に入らないんですよ》
「全部食べちゃう前に帰って来てよ」
携帯を切る。また空を眺める。
「……これ美味しいね」
ちょっと報告。新たに発見した味覚は、きっと姉は知っていただろう。
墓に桃花は居ない。なぜならここに居るから。
だから彼方は墓参りをしない。
ちょっと報告。新たに発見した味覚は、きっと姉は知っていただろう。
墓に桃花は居ない。なぜならここに居るから。
だから彼方は墓参りをしない。
今日は、彼方が桃花を殺した日。