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トレジャーハンター



599 :創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 19:16:06 ID:0W3pAAlE

遠くに聞こえる潮騒の響き、陽光に照らし出され浮かび上がる海の藍。
大陸の最西端に位置する貿易都市、世話しなく行きかう交易船から荷を卸した商品が
細部まで張り巡らされた交易路を伝い奥地へと運ばれていく。
いわば経済の心臓部である。

「たった……176枚って、け、計算間違いじゃないのか?」
「鑑定料を差っ引いてるし、品物の保存状態も悪いもの、金貨176枚でも多いくらいよ?」

買取商は溜め息混じりに眼鏡の位置を直すと、厚ぼったい唇を指でつまみ明細書を差し出す。

「この短剣なんて、斬った物が燃えるエンチャントが付いてる貴重品だぞ?」
「まぁ、普通の武具なら、鍬や鎌、馬の蹄鉄の材料にするんだけど。
そ・も・そ・も、そんな御大層な武具なんて、今の平和な世の中じゃ役には立たないわよ」
「き、強力なモンスターと戦う時に必要だろ……」
「大陸の隅々まで踏破されちゃった昨今、冒険者なんて廃業よ、廃業。
古代遺跡も今や単なる観光名所、あなたも早いとこ”遺跡荒らし”なんてやめて本業に力入れなさい」

男が”トレジャーハンター”だと訂正する間もなく、屋外へと放り出されると
売れ残った武具の束を担ぎ、人々の雑踏が行きかう市街の中をとぼとぼと歩き出す。
分厚い布地の野暮ったい服装に身を包み、無精髭をガリガリと掻いている、男の名はマシュー。
夢と希望の冒険ファンタジー(笑)に憧れる、夢見がちな青年である。

マシューは自宅に辿りつき荷物を降ろすと、併設された馬小屋で
馬の爪を削り、蹄鉄をつけようと悪戦苦闘している鍛冶屋の少年に声をかけた。

「あっ、あと1つ着けたら終わりですよ、どうでした? 売り上げの方は?」
「旅糧を積み込んで荷台の修繕費払ったらカラッケツだよ、また客拾わないと……」
「商売の手を広げて”郵便馬車”なんていかがです?
ルドルフは優秀な馬ですから、荷台を広げてもまだ走れますよ」
「信用がない個人の馬車馬に荷を積める奴なんていないさ、
幌の張替えが終わったら表に出しといてくれ」

少年が手を上げながらマシューの声に答えると、マシューは母屋の扉をくぐり、
閑散とした屋内の脇に立てかけられた愛剣を手に取り、腰に帯剣した。
マシューは窓から差し込む光に埃が反射し揺らめくと壁に立てかけられた絵画の一文に目を留める。

”冒険を探求せよ”

かの”大冒険時代”から行く年月、過ぎ去った過去の御伽噺。
マシューは一文を口の中で二度復唱しながら母屋から自宅から表に出る。
馬屋から出された2頭立て4輪馬車(キャリッジ)には、後部にある木製の貨物荷台に幌を被せてあり5人は余裕で乗れる積載量がある。

「出しておきましたよ」
「悪いな、ついでだから送っていこう。日もちょうど真上だし、まだ客が拾えるかもしれない」

馬車はたかたかと土埃を巻き上げ、交易都市の出入り口へと到着。
最も人の出入りが激しい地域の為、大小様々な露天も立ち並び、慌しく人が行きかっている。

「では私はこの辺で、これからも御贔屓に!」
「あぁ、親父さんに宜しくな」

鍛冶屋の少年が馬車から飛び降り、走り去るのを見届けると
マシューは”乗合馬車”の集まる一角へと馬車を止め、周囲を見渡した。
その時、不意にガラスのように透き通った声が耳に響き、
マシューはゆっくりと声の主の下へと振り向くと……

そこには桃色のドレスに身を包み、マシューを睨み付けるように
メンチを切っている。一人の少女の姿があったのだった。


こちらをガン見している少女と目が合い、気まずくなった様子を見せたマシューだったが
ぺこりと頭を下げ会釈をするなり、少女は慌てふためいた様子で頭を下げた。

「こちらの馬車はどちらまで行かれるのですか?」

横から歳が30程の女中が姿を見せ、両者の間に分け入り垂れ目がちな目をマシューヘと向けると
先程の声で語りかけてくる。

「え? えぇ、港までは1人1枚、郊外へは……」
「駅馬車のように他の街までは?」
「隣町までですか? うーんそれなら荷重によりますけど、
半日は掛かる距離ですよ……行き先はどちらですか?」
「イーストエンドです」
「は、はい?」

婦人の声にマシューの思考が一瞬硬直する、現在地の港は大陸の最西端、
イーストエンドは最東端、つまり大陸の真逆に存在する村である。少女が着るには過ぎた高価なドレス。
血色よくふくよかな女中、大陸を横断すると言う無理難題。危険な裏が見え隠れする申し出に
マシューは咄嗟に思いついた嘘を並べ立てた。

「あ!? そういえば、荷車のサスが駄目になってまして、
舗装路以外を走ると揺れが酷いんですよ。それに……ん?」
「どけ、どけィ!! アンナッ! 馬車は見つかったか? 追っ手が来るぞ!!」

軽装の鎧に身を包んだ女騎士が焼き魚を咥えた少女を脇に抱えながら
露天の上を飛び越えこちらへと走りくると、あとを追うように現れた暴漢達が
商品を蹴散らしながらマシューの方角へ迫ってくる。

「な、何なんだあんた等ッ! ちょ、勝手に乗らないで!」
「つべこべ言うなッ!」
「……(もぐもぐ)」

マシューの馬車に有無を言わさず乗り込んできた、女騎士が切れ長の瞳で怒鳴ると
脇に抱えた少女はもさもさと焼き魚を口にほおばり、器用に骨だけを口から出す。

「おしゃかな、ほねになった てじな?」
「……余裕」
「あらあら御嬢様、はしたない」
「馬車を出せーッ!!」
「チクショーッ!! 家でジッとしてりゃよかったッ!!」

マシューが馬を促し馬車を走らせると、乗合馬車を無理矢理強奪した追っ手が1台後ろから迫ってくる。

「追ってくるぞッ! もっと飛ばせ!」
「無茶言うな、荷車が転倒したら元も子もない!」
「……ここは私の出番」

やる気のない目付きをしていた魚少女が手に妖しげなステッキを握り、ゆっくりと
荷台の上で仁王立ちすると、手に持った帽子をトントンと二度叩く。

「な、何をやってるんだ?」
「エリザベス様は、かの大賢者ラシドルス様より
魔術の師事を受けた大魔術師なのだ――さぁ、あの悪漢どもに然るべき裁きを!」
「……鳩が出ますよ」(ボトッ)

ナマコが現れた。


「エーッ!!?」
「ナマコーッ! 何でナマコッ!!」

帽子から放り出されたナマコが地面に投げ出されると、迫る悪漢の馬車馬がナマコを踏みつけバランスを崩し
大きくもんどりうちながらその場で転倒した。

「……予後不良です」
「さ、流石はエリザベス様、私は貴女様なら必ずやってくれると信じておりました!」
「さっき思いっきり驚いてたろ、あんた」

道沿いにしばらく走り、追っ手が追ってないことを確認すると、緊張の糸が切れたマシューは
安堵の溜め息を漏らした。半ば巻き込まれる形で乗り込んできた4人の女達は
荷車に積まれた食料を手に取り合い、和気藹々と雑談に勤しんでいる。
不意にこちらへと歩み寄ってきた、ガン見少女は瓶詰めのお菓子から飴玉を取り出し
マシューヘと手渡すと、マシューにお礼の言葉をかけた。

「おにいちゃんにおれいのあめ」
「あ、ありがとう」

栗色の髪を揺らし、にっこりと微笑む少女はマシューの隣に座ると
荷物からびっしりと活字の並んだ難解な学術書を取り出し、足をプラプラさせながら読み始める。

(目付きが悪いのは目が弱いせいなのか?
そ、それにしても、何語で書かれてるんだ、この本)
「いあ、いあ、ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ」
(突っ込んだら負け、突っ込んだら負けだぞ、マシュー!)
「男、メイ御嬢様に失礼の無いようにな」

声をかけられた方角を振り向くと、先ほどの女騎士が抜き身の剣を手に持ち、こちらを警戒していた。

「言っておくが、私はこう見えて雷光の異名を賜る程の腕前
私達が女ばかりだからといって、妙な気は起こさないことだ」
「そんなに強いなら、馬車で逃げずにさっさと倒してくれればよかったのに……」
「……ルイスは雷が落ちた時、特に早い」
「あぁ、逃げ足が? 合点がいった」
「エリザベス様! 余計なことは言わなくてもッ!」

ぼそぼそと女騎士の赤裸々な秘密を語るエリザベスの口を、女騎士が慌てて手で塞ぐと
赤毛の女騎士の顔が真っ赤に染まった。

「申し訳ありませんマシュー様、結局このような形で貴方まで危険な目に」
「いえいえ、こうなったら乗りかかった船ですよ。
まさかここで皆さんを降ろして帰るわけにも行きませんから」
「本当になんとお礼を申し上げたらいいのか……」

アンナの潤んだ瞳に見つめられ、マシューはたじろぎながら後ずさると
はちきれんばかりに溢れるフェロモンと肉感的な肢体をくねらせ、アンナは執拗に胸元を強調し擦り寄る。

「いや、わ、わかりましたから、顔が近い、顔が近いです」
「そう意地悪なことをおっしゃらないで」
『……ルイスは未だに子供ブラ』
「口を塞いでいるのに何故ベス様の声がッ!?」
『……腹話術』
「いあ、いあ、はすたぁ」

「前言撤回、お前ら全員降りろーッ!!」

のどかな平原にマシューの悲鳴が木霊する、遥か東の果てに何が待ち受けているのか?
彼自身、未だ知る由もないのであった。

〈了〉

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