アットウィキロゴ
創作発表板@wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

創作発表板@wiki

F-1-624

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
Top > ファンタジーっぽい作品を創作するスレ > スレ1> 1-624 ファンタジーと言えば魔法だろう 9

ファンタジーと言えば魔法だろう 9


1-615の続き

624 : ◆91wbDksrrE :2009/05/17(日) 20:36:05 ID:eePM9/Oy

 彼女に『澱み』に憑かれている間の記憶は無い。そう、祐太はレンから聞いていた。
魔法を使うという経験の記憶を、全く破壊されないまま彼女の中に在り続けた常識という
壁が阻害し、あの一連の騒動は一切彼女の記憶には残っていないだろう、と。
 リリの見立ても同様で、身体的負傷を癒しておけば、彼女が何らかの後遺症を残すと
いう事はないだろう、という事だった。
 だが――
「おはよう、滝野さん。それと、滝野さんのお友達?」
「おはようございます、芳原先輩。えっと、こっちは友達の明日香です」
「おはようございますー」
「おはよう。……皆には悪いんだけど、少し話をさせてもらえるかな?」
「話……って……」
「うん……高崎君と、ね」
 ――その思いつめた表情と、何かを押し殺したような声は、普段の彼女のそれとは比べ
ようもない。
「お、おう……」
「……昨日ね、何か変な夢見たんだ」
 夢。それは人が自らの内に常識の外にある物を構築する為の方法の一つだ。
「よく覚えていないんだけど……何かね、凄かった」
「そ、そうなんだ……はは」
 夢。夢か、と祐太は思った。昨日の出来事が、記憶――意識の内に無くとも、無意識に
はそれが残るという可能性は、レンとも話した事だった。もしそうなったとしても、夢の
ようなものだと認識してしまえば、あんな荒唐無稽な出来事が事実であるとは誰も考え
ないだろう、という事で結論していた。
 だが、彼女のひどく真剣な表情と声色は、その推測が楽観的な物である可能性を感じ
させるには十分なものだった。
 ――一体、芳原は何を言いたいんだ?
 愛想笑いを浮かべながら、祐太はその内心で戦々恐々としていた。
「そこで、わかった事があるんだ」
 彼女の瞳は、祐太の瞳を射抜くように見据える。
 ごくり、とつばを飲み込む音が聞こえる程に、辺りは静寂に包まれていた。
 つい先ほどまで聞こえていた朝の喧騒も、周りにいるはずの美由達の呼気の音も、祐太
の耳には入ってこない。
「……な、何が?」
 魔法の力という物は、別にその力を持たない人間にばれてはいけないと定められている
わけではない。普通の人にばれたら使えなくなるなどの、ありがちな制限は一切無い。
魔法は単なる技術であり、鍛錬によって誰にでも使えるようになるのだから、当然だ。
 だが、だからと言って、おいそれとその存在を公にしていいものではないという事は、
祐太にもわかっていた。誰にでも使えはするが、誰にでも使いこなせるわけではなく、
使い方を誤れば、昨日叶がそうなりかけたように、命の危険すらある技術なのだから。
 だから、祐太は尋ねた。わかった、とは何をわかったのか、と。返答によっては、
しっかり叶と話をし、魔法について説明した上で、理解を求める必要がある。
 ――そうなったらめんどくせえよなぁ……。
 などと思いながら問うた言葉に、思いもしない反応が返ってきて、彼は目を丸くした。
「あの……ね」
 その問いかけを合図とするかのように、それまで叶が浮かべていた真剣な、思いつめた
表情が一転し、頬を赤く染めた恥ずかしそうな表情へと変わったのだ。
「……私が……あなたの事が好き、って事」
「……え、あ……はい?」
 思わず祐太があげた素っ頓狂な声に、叶はその赤く染めた頬を膨らませた。
「なに、その返事。私があなたの事好きなのが、そんなにおかしい?」
 昨日、彼女が言っていた言葉を、祐太は思い出していた。やはり、『澱み』に憑かれた
事がきっかけとなっただけで、あの言葉は、彼女の本心……本気であったのだ、と。
「私は……あなたとずっと一緒にいられる? イエスか……ノーかで答えて」
 ただ、肯定だけを求めない点だけが違った。
 そこだけが、『澱み』によって歪められていた部分で……だからこそ、この彼女が今
放っている言葉は、まぎれようも無い、正真正銘、まじりっけの無い“本物”だ。
「……芳原」
「ごめん、突然こんな話して……変な奴よね、私。でも……でもね、これだけはちゃんと、
 聞いておきたくて……“私”が、聞かなきゃいけない事だから……お願い高崎君……」


 彼女の瞳は潤み、頬は赤く上気し、祐太はそんな彼女を見て、可愛いな、と思った。
 だが、だからと言って、昨日彼が返した、彼の本気の答えが変わるわけでは、なかった。
「すまん、芳原……友達としてならイエスだけど……恋人としては、ノーだ」
「……うん……そうだよね……あなたがそう答える事、私、知ってた」
「知って……た?」
「……夢で見たの。だから、正夢じゃなきゃいいな、って思ったんだけど、でも……
 駄目だったね」
 そう言って、彼女は笑う。その目の端に光る物を浮かべながら。
「芳原、お前……」
「ごめん、高崎君! 私今日学校サボタージュするから、先生に上手く言っておいて!
 ……明日から、また元の私に……戻るから!」
 その表情を見られたくなかったのか、彼女は祐太に背を向け、
「……滝野さん、こいつ変な奴だけど……いい奴だから、安心してね?」
 そう言い残すと、走り始めた。
「……」
 祐太は、呆然とそれを見送るしかなかった。
 突然言葉を投げかけられた美由も、横にいた明日香も同様だ。
 彼女が立ち去ってからも、三人はしばらく立ち尽くしていた。
「……どうしたら、よかったんだろうな?」
「僕に聞かないでくださいよ……」
「私にもですー」
 嵐のように巻き起こった事態に、祐太の後ろにいた二人も呆然としていた。
「……誤解は、解いた方がいいよな?」
「ですよね……」
「誤解なんですかー?」
「だぁかぁらぁ! 明日香はどうしてそう……もう!」
 頬を膨らませる美由の顔に、祐太は思わず吹き出していた。
 それを合図とするかのように、三人は歩き始める。
「さて、急がないと遅刻だな」
「そうですね」
「ですねー」
 歩き始めるその先には、昨日祐太と美由が二人で守った日常が――確かに、在る。

 こうして、一つの事件は終わった。
 だが、『澱み』は遂に日常へとその魔の手を伸ばし始めた。
 それに立ち向かう魔法使い高崎祐太と滝野美由。
 二人の戦いがまだ始まったばかりだという事を、当の二人は知る由もなかった――

 〈第一部 完〉


まあ、とりあえず第一部完という事で。
第二部があるかどうかはゴッド・ミソ・スープです。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー