創作発表板@wiki

◆91wbDksrrE

最終更新:

eroticman

- view
だれでも歓迎! 編集

◆91wbDksrrE


27 : ◆91wbDksrrE :2010/01/31(日) 22:54:49 ID:5aWP+wX/
 名は体を表すという言葉がある。
 これはつまり、名前はその見た目などを表すという意味であるのだが、場合によって
は外見だけに留まらず、その魂のあり方までもが名前によって規定されるとして考え
られる場合がある。
 曰く、それまで誰にも顧みられていなかった一振りの太刀が、村正という名を見出され
て以降、自らも魔を放ちながら、それでも魔を断つ、妖刀として扱われるようになった――
そのような例は、枚挙に暇はあれど、確実に存在する。
 名を有したが故に、与えられたが故に、見出されたが故に、それ故に、その太刀は
魔気を孕む物となった――そんな一刀は、今、一人の少女の手に握られていた。
 では、彼女の場合は――その妖刀を今この瞬間手にしている彼女の場合は、どうだろうか。
 彼女の場合、その名はその外見に見事なまでに適合していた。まるでその名が意味
する花の名の如く、彼女は可憐で美しい容姿を有していた。いつ散るとも知らぬ、だが
凛と咲き誇る、花の如き儚さ。
 だがしかし、その視線は、見つめる物を貫き通しかねない、それだけで人を殺せる
のではないかと言わんばかりの鋭さを持つ視線は、その適合を否定していた。儚いのは、
人の夢の如く消え去るのは、彼女ではなく、彼女の目の前に立った物だと、そうその
視線は語っていた。強い、ひたすらに強い意志と、自信と、経験が、その視線から迸って
いた。
 では、彼女の名は体を、魂のあり方を表していないのか。
 答えは否である。
 文字には、意を含めるという用法がある。同音異字の文字を以て、直接的に過ぎる表現
を避け、それでいて意味を失わせないという、そういう用法だ。
 一見迂遠に思えるその行為は、だがしかし、言霊という目に見えぬ魂を信じるが故に
行われ、そして今尚行われ続けている――
 彼女は、腰だめに刀を構え、走った。その速度は、女だてらにという言葉すらも生ぬるい、
人の域を超えかねない程の俊足であり、縮地もかくやという神速であった。
 彼女が向かうのは、相対する敵に向けてである。
 その敵の名は、寄生。虫でもなく、動物でもなく、ただ寄生という名を冠せられ、そして
その名の如く、名は体を表すの言葉通り、寄生し、そして寄生し尽くす。何もかもを。
 寄生は、その本体は本来姿を持たない。誰の目にも留まらずやってきて、誰にも
気づかれぬ内に寄生する。それが本来のそれの姿であり、攻撃だった。
 だが今、寄生はその姿を、一匹の虫に似た、だが虫ではありえない大きさを備えた
姿を、彼女の眼前に晒していた。彼女の持つ太刀、妖刀村正の放つ気にあてられ、仮初の
姿を得させられているのだ。
 本来なら、その姿に怯えても何らおかしくないグロテスクな姿に、だが彼女は怯える事
なく、それどころか敵意すら浴びせ、しかし冷静に肉薄する。
 仮初の姿であっても、それは本質を表す姿であり、それを断ち切る事は、すなわちそれ
そのものの終わり――死である。
 寄生もまた、その事実を本能的に察知しているのだろう。彼女の肉薄に、神速の接近に
瞬時に対応する。口から伸ばした針のような物で、彼女を迎撃したのだ。神速に対するそれ
もまた、神速と言える速度であり――
 斬ッ。
 ――勝負は一瞬で決した。
「………………」
 彼女のまとう和装の、その袖の部分がハラリと落ちる。それは、彼女が敵の一撃を回避し
きれなかった事を表していた。だが――それだけだった。
「……」
 彼女は後ろを振り返る事もなく、薙ぎ払った剣を、血曇を払うかのように一度縦に振り、
そして腰に佩いていた鞘へと収めた。
 同時に、その背後でドウッと音を立て、何かが倒れた。最早、それは何かと形容するしか
なかった。音を立て、倒れたにも関わらず、その音がした場所には……既に、何も存在して
いなかったのだ。元より、寄生とはそういった存在であった。


28 : ◆91wbDksrrE :2010/01/31(日) 22:55:00 ID:5aWP+wX/
「……手間を、とらせる」
 彼女は呟きを残し、そのまま月明かりの中、歩み始めた。
 そしていつものように、思い出す。あの日、あの瞬間……彼女が覚悟を決めた、その時を。
 ――もしもお前の前に、お前の道を為す妨げとなる物が現れれば、その時は――
 脳裏によぎるは、今際の際の父の言葉。
 ――刃の煌めきの如く生きよ。その為の守護を、お前の名には含ませた――
 妖刀と呼ばれる、持てば狂気に囚われるその刃を持って尚、彼女が正気を保っていられる
のは、恐らくは、その名の守護によるものなのだろう。
 刃の煌めき。煌めきとは、灯火を映す物。故にそれは火の如く――
 刀火――転じて、桃花。それが彼女の名の意味。真の、込められた意味だった。
 ――できれば、お前には……その真の意味が意味無き物となる人生を――
 恐らくは叶わぬと……無間の姓(かばね)を持つ以上は避けては通れぬと知りながら、彼女
の父はそう願い……そして死んだ。その事は、彼女も知っている。だが。
「今は叶わずとも……この私が、無間の運命(さだめ)……終わらせてみせる」
 そうすれば、父の願いは叶う。戦う事をせずに済む未来を、自らの手でつかみとってみせる。
 それが、彼女の誓いだった。
 その誓いが叶うのかは、今はまだ……誰にもわからない……。

                                                 終わり



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー