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ファンタジーと言えば魔法だろう 8


1-604の続き

615 : ◆91wbDksrrE :2009/03/26(木) 17:33:33 ID:iNpQeZnx

 力があり、それが技術として体系だてられていれば、そこに自然と発生するものがある。
 その発生した存在を、人はこう呼称する。――組織、と。
「……さて、事態は動く、されど踊らず、となるかね?」
「なぁにを意味不明な事呟いてやがるよ」
 二人の男がそこにいた。青年と言っていい、まだ若さを信じられるだけの歳を経た男と、壮年と言っていい、もう若さを遠い目と苦笑を以って見つめるだけの歳を得た男だ。
 二人の前には、液晶を使って作られた巨大なモニターが在り、画面上に三人の少年
少女と一匹の黒猫と一つのぬいぐるみを写していた。
 あちこちにデジタルとアナログでそれぞれ表示された計器類が付属した、複雑な操作
機構をもつと思しき機器のコンソールを、青年の手は滑らかに操作する。画面の表示は
切り替わり、一人の少年の驚いた顔と、その表情をもたらす所以となった、黒い装束に
身を包んだ少女の姿を大きく映しだした。
「……マイクロマシンによる高感度映像撮影技術、か。全く、高度に発達した科学は、
 魔法を 超えているとは、よく言ったものだと思わないか? 彼らを見ろ。こうして
 撮られて いるということに全く気付く様子すらない」
「んなもんオレに聞くなよ。……だいたい、そりゃあの魔女の言葉だろ」
 青年の丁寧な言葉に対して、壮年は伝法な口調で応えた。
 気にする事も無く、彼は画面に映し出された二人の少年少女を見た。
「稀代の魔女が残した、二つの忘れ形見か」
 呟きは、続けて答えの出る事の無い自問を紡ぐ。
「一体彼女は何を考えていたのだろうね?」
 答えは出ないが、応えはやってくる。隣にいる壮年から。
「オレに聞くなって。さっさとくたばっちまって、あの世で聞きゃいいじゃねえか」
「……彼女の消滅は、まだ確認されていない。死んだと断じるのは早計というものだ」
「へっ……相変わらずご執心、ってか」
「"戦車"(チャリオット)……」
「言葉に"気"が篭るのは、図星当てられた証拠だぜ?」
「……もうこの話はやめよう」
 青年は、そう言って会話を打ち切った。
 ただ無言で、同じく無言のまま見つめあう、画面の中の二人を見る。
 ――高度に発達した科学は、魔法を超えている、か。
 内心で思うのは、過去の事だ。過去の、今も尚心に留まり消える事の無い言葉。彼女が
口癖のように言っていた言葉だ。まるで、組織を、そしてそこに身を置く自分達を否定
してしまうかのような言葉だ。
 ――彼女は何を考えていたのだろうか。
 稀代と称されるに足るだけの力を持ち、組織内は無論、世界を見渡しても、その魔法の
力に敵う存在はいないと誰もが信じて疑わないだけの実力を有していた、若き天才。
 その彼女が、どうしてこのような言葉を口癖としていたのか。自分自身の否定とすら、
その言葉はなりうるというのに。自分をも含めた、組織の全てが……いや、我々が揮って
いるこの力そのものが、あるいは間違いであると考えていたというのか。
 彼女の口癖の、その続きを思い出しながら、彼は知らず呟いていた。
「――それでこそ、世界は正しい、と」
「あ? なんだ?」
「なんでもない。気にするな」
 自身の呟きを得て、彼の無言の思考は終わりを告げた。過去へと沈んでいた時間は
僅かなものだったようだ。彼は再び自身が今身を置く現在へと思考を戻し、現実を動かす
為の言葉を口にした。
「それよりも"戦車"、この二人の試験、準備は出来ているのか?」
「おうよ。うちの秘蔵っ子を送ってやるからな。こいつらも、自分達が今までどんだけ
 温い戦いしてたか、思い知る事になるんじゃねえか」
「返り討ちに遭わなければいいがね? この二人……技術としてはともかく、素養は
 かなりのものだぞ。そして……それだけの素質を持ちながら、尚歪んでいない。これは
 我々のような存在においては稀有な事だ」
「なぁに、そんだけぬるま湯にしかつかってこなかったってこった。歪みもせずに、
 戦えるって事は、そういうこったぜ」
「……事態は動く、そして、踊る……か」
 未だ見詰め合ったままの二人の姿を見ながら、彼は自分の心に久方振りに浮かんだ感情
の名前を思い出していた。
 その名は――期待――

         ★                   ★          


「……はぁ」
 口を吐いて出るのは溜め息だ。
 結局、あの後滝野美由としっかり話をする事はできなかった。『澱み』の特性によって
遠ざけられていた先生や職員の人たちが戻って来たからだ。慌てて最低限の修復だけを
レンレン――あのパンダのぬいぐるみだ――が施し、慌てて俺達は帰路に着いた。詳しい
話はまた今度という約束だけして。ちなみに、芳原は一度目を覚ましてすぐにまた眠って
しまったので、こっそり彼女の部屋へ忍び込んで寝かせておいた。
 一日経って、今俺は学校へ向けて歩いているが、十歩歩く度に口を吐いて溜め息が出る。
 何故にそんなに溜め息が出るかというと、驚くべき事が沢山あったからだ。
 ……というか、ありすぎだろ。
 まず、魔法の遣い手が俺だけではなかったという事だ。『澱み』に憑かれた芳原は無論、
滝野も魔法を使っていた。まあ、別に自分だけが選ばれた存在だと思っていたわけでは
なかったが、こんな身近に同じような遣い手がいるとは思わなかった。
 それに、『澱み』が人に憑くという事にも驚かされた。今までは『澱み』を相手に
何も考えずにただ殴り飛ばしていればいいだけだったが、今後今回と同じような状況に
陥った場合には、何らかの対処方法を考える必要があるだろう。結界とか言ってたあの
『澱み』と人間を切り離す方法、習っておく必要があるな。
 さらには、その『澱み』に憑かれたのが芳原で……その原因が、俺への恋心だった、
という事実にも驚かされた。今後、あいつと会う時にどういう顔したらいいもんか……。
 そして、一番驚いたのは――
「おはようございます、高崎先輩!」
「うおっ!?」
 ――背中から突然かけられた、元気いっぱいの挨拶――ではなく。
「……おお、滝野か。おはよう」
 ――振り返った先にある、彼女、滝野美由の浮かべる、その人懐っこい笑顔に、だ。
「おはようございますっ! ……って、何で鳩が豆鉄砲喰らったような顔してるんですか、
 先輩? 僕何か変なことしました?」
「……いや、何と言うか、だな……強いて言えば、お前のそのテンションの高さに?」
「あれ? 僕そんなにテンション高いですか? 参ったなぁ、もう、あはは」
 そんな事を言いながらも、彼女の顔には尚満面の笑みが浮かんでいる。それは昨夜、
俺が見て驚いたものと同じ笑みだ。
 彼女のこの笑みに、何故俺が驚く必要があるのか。
「……うーん」
 驚いたのは事実としてある。だがその驚いた理由がさっぱりわからない。自分でも、だ。
必死で考え、ようやく一つの言葉が浮かんできたが、その言葉が当てはまるような要因が、
俺と滝野の間には存在しない。
 だって……滝野の笑顔を見て、どうして俺が"懐かしい"なんて思うんだ?
 昨夜、うっかり「俺達、前会った事ないか?」と確認しそうになったが、それは寸前で
思い留まった。どんな下手糞なナンパだよ……。


「しかしお前、なんでこんな朝っぱらからそんなハイテンションなんだ?」
「え? だって、そりゃ嬉しいですよ! 昨日、真正面から攻撃受け止めて、ちょっと
 手が痺れちゃったけど、それでも何か戦ってるんだ、って実感がしまして!」
「……よくわからんが、とりあえず良かったな」
「はい!」
 よくわからんが、まあ何かいい事があったのなら良かった。
「とりあえずまあ……詳しい話とかは、今日放課後にしような」
「そうですね。そもそも僕が高崎先輩としたかった話、昨日は全然できなかったですし」
 とにかくまあ、色々と聞きたい話もある。それは向こうも同様なようだった。リリと
レンレンも、互いに色々と話がしたそうだったしな。幸い天気もいいし、屋上ででも――
「おはよー、美由ちゃん。……そちらは……高崎先輩、ですかー?」
 と、色々考えていた俺の思考は、どこか間延びした声で遮られた。
「あ、おはよう、明日香!」
「……ああ、滝野の友達か。俺の事知ってるの?」
「はい、それはもうー。高崎先輩は有名人ですからー」
 ……何だか、俺が有名人であるという誤解を抱いている人は、俺が思っている以上に
多いのかもしれない。
「神乃明日香と申しますー。お見知りおきをー」
 見た目は何だかコギャルっぽいというか何と言うかな感じだが、口調と雰囲気に、その
外見に合っていない古風なほんわかさを感じる。何と言うか……不思議な娘だな。校内の
有名人である滝野と友達なのも、何か納得できるような気がした。
「うん、よろしく」
「お二人で何を話されてたのですかー? 逢引の相談とかー?」
「ちょ……明日香、まだそんな事言ってるのっ!? 違うって言ったじゃん!」
 ……俺は誤解を抱かれすぎではないか。
「滝野の名誉の為に言っておくが、別にそういう話はしてないぞ、神乃」
「そうなんですかー?」
「というか、俺はどういう話をするのかも知らない。まだ詳細聞いてないからな」
「どういう話するんですかー、美由ちゃん?」
「い、言えないよ! 明日香がいたら言えないって!」
 おい、そこは誤魔化すところじゃないのか! 何で直球勝負っ!?
「あらあらまあまあー」
「……滝野、放課後はまず説教から入るか? ん?」
「な、なんでー!?」
 滝野が悲痛な叫びをあげた、その時だった。
「……おはよう」
 背後から、何かを押し殺したような、芳原叶の声が聞こえたのは。

〈続く〉

※続きは、1-624

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