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BL-2-089

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「−英国に吹く風 Ⅲ−」



89 :-英国に吹く風 Ⅲ-:2010/10/17(日) 06:04:47 ID:gnULuWmu

》2-072の続き?を投下
今度は、護衛対象の御方に新たな同室の友人ができてからのお話です。
おい、話がちょっと先に進みすぎだろっ!とは思いますがご容赦ください。


90 :-英国に吹く風 Ⅲ- :2010/10/17(日) 06:07:29 ID:gnULuWmu

「ごめん……俺は……君のことが好きなんだ……」

 僕の隣に座っていた少年は、その瞳から不意に涙を零しながらそう言った。
 彼は何時から、僕に対して、そんな気持ちを傾けてくれていたのだろうか。
 今、この瞬間まで、僕はその想いに全くと言って良い程、気付いていなかった。
 それでも、彼が今までずっと、その想いを伏せたままで、僕に対しても、誰に対しても、分け隔て無く、そ
れこそ、常に普通の友人と一緒にいる時と何ら変わりが無いかのように、接してくれていたことを思うと、胸
が痛くて、張り裂けそうになった。

 自分がその時、どんな表情をしていたのか、良くは覚えていない。
 ただ、僕は、つい先程、彼が僕にしてくれたのと同じように、彼の頬にそっと手を添えると、彼に対して、自
らキスを贈っていた。

「ミカ……エル……僕も……君が好きだよ」

 僕は彼の唇へと短くキスをした後で、やっとの思いで、自らの気持ちを小さな声で彼に伝えていた。
 そうなのだ。
 僕の方こそ、まるで宗教画の天使のようだと形容するに相応しい容姿を持つ、この金髪碧眼の少年の
笑顔に出会ってから、もうずっと、普通の友人に対する想い以上に好きだという感情を抱いてきたのだ。
 それは、当然、僕が一方的に持っている感情だし、決して恋愛感情にまでは至らないものだと、自らに言
い聞かせてきた、いわば叶わぬ想いだと思っていたものなのに。


 僕が小さな声でようやく口にした、その言葉を聞いてから、彼は、一瞬、驚いたような表情のままで、僕を
見つめていた。
 それから、彼は、ほんの少しだけ蒼みがかった色を残す僕の黒い瞳に視線を合わせるようにして、相対
する僕の表情と、その言葉には嘘偽りが無いのだということを認識すると、本当にほっとしたような表情を
見せた。
 そして、僕が好きだと言ったその言葉よりも、嬉しい事なんて、他には無いのだとでも言いたげな表情で、
僕に向かって、いつものように屈託のない笑顔で微笑んだ。
 僕は、彼のその優しい笑顔に対して、どう振舞って良いのか解らなくなった。
 おまけに、彼とそのまま目線を合わせているのが、気恥ずかしくなった僕は、不意に自らの瞳を閉じた。

「……っ!」

 それを見計らっていたかのように、彼は先程、初めて僕に対してキスをした時と同じように、僕の頬へとそ
っと手を添える。
 僕は、彼の暖かな掌が僕の頬へと触れたれだけで、その場から全くと言っていい程、動くことができなくな
っていた。
 そして、僕がその場から動くことができないと思っていた、その瞬間、上手くタイミングを合せるようにし
て、彼は僕の唇へと優しく口付けた。

「……っあ!!」

 僕は瞳を閉じたまま、抵抗らしい抵抗をみせることも無く、彼の口付けをそのまま受け入れていた。
その口付けは、徐々に、先程の軽く触れ合うようなキスとは異なる、大人同士の熱を帯びた抱擁へと繋
がる、互いの吐息さえも深く交わるものへと変わっていく。


「……ん、あぁっ!!」

 彼が僕の唇を一度、解放した瞬間、僕は自分でも恥ずかしくなるような、小さな悲鳴にも似た声をあげな
がら、無意識のうちに彼の肩へとしがみつくと、自らの身体を彼の方に預けていた。
 僕のそんな様子に構う事無く、彼は僕の制服のネクタイを緩めると、シャツのボタンを2つ程外し、その所
為で露わになった僕の首筋へとキスを降ろす。

「……ふ、あぁっ!!」

 生まれて初めてそんなことをされた僕は、訳も解らず再び小さな声を上げた。
 だた、彼の唇が触れる度に、触れられたその部分が熱い。
 まるで、熱に浮かされるような感覚が僕の中へと注ぎ込まれていくように熱い。

「……く、あぁっ!! ……んっ!!」

 彼の舌先がほんの少し触れてから、今までとは異なる、甘く噛まれるようなキスを首筋に施された僕は、
たったそれだけのことなのに、また声をあげていた。
 その時僕は、本当に―自分でも自分の事をどう制したら良いのか、全くと言っていい程、解らなくなって
いたのだと思う。
 後ろで一束に束ねていた僕の真っ直ぐで長い黒髪が邪魔になったようで、彼は、自らの手で僕の髪を梳
くようにして、反対側の肩へと寄せた。
 それから、彼は再び僕の首筋へと丁寧にキスを施してから、そこから更に下の胸元へと唇を移動させて
いく。


「……っあ!! ……っ、や……ミカ……エル……」

 そこまできて、僕はようやく、彼の行為を拒む言葉を必死になって口にしていた。

 ここは、この場所は、寮棟の僕等の自室ではない。
 今、この自習室には、僕等二人しかいないのは、解っている。
 それでも、不意に誰かがこの部屋の外を通るかもしれなくて、なおかつ、こんな有様を見咎められるかも
しれない状況の中で、これ以上の行為に及ぶなんて、絶対に無理だ。絶対に嫌だ。
 僕は、そう思いながら、もう殆ど力の入らなくなっていた自らの腕で、必死に彼の肩を押し戻す。

「……お願い……だから」

 僕のその声に、彼は、はっとしたように、顔を上げると、僕を真っ直ぐに見つめた。
 彼でもこんな風に我を忘れることがあるんだな……。
 などど、僕は急に呑気なことを思いながら、彼と顔を合わせたまま、その場でぼんやりと彼を見つめてい
た。


「……済まなかった。俺は一人で先に部屋に戻るよ。
 アカリ、本当に申し訳ないんだけど、
 俺よりも少し後で、部屋に帰って来るようにしてくれるかな? その……本当にごめん、待ってるから」

 つい先程までの行為を思い返した所為か、彼は顔を真っ赤にしながら、僕にそう告げた。

「……あ、うん、解った。僕は後から行くようにするよ」

 その言葉に合わせるように、僕は、彼に返事を返しながら、乱れた制服の襟元を直す。
 彼は、僕が制服の乱れを直し終えたのを見ると、ほっとしたように、ため息をつき、申し訳なさそうな表情
で僕の額へと軽くキスをした。
 それから、彼は先程、この部屋に来た時に脱いでから、反対側の椅子に掛けたままにしていた、制服の
ブレザーを手にすると、ふわりとそれを羽織りながら、そのまま自習室を出ていった。


 自習室を後にしていく彼の後ろ姿を見送り、部屋の扉を再び閉めた後で、この部屋に一人きりになった
僕は、ようやく、少しあたふたしていた気持ちから解放された所為か、無意識のうちに大きなため息をつい
ていた。
 その時僕は、はたと気付いた。

 僕と彼は、今、二人で、寮の同じ部屋で、過ごしている訳で……
 その部屋で僕を待っているって、ことはその、えっと……その……
 ……これから僕は一体、どんな表情をして、あの部屋に帰れば良いっていうんだぁ!!

 嬉しいような、泣きたいような、複雑な気持ちになりながら、僕は再び大きなため息をついた。


―― 一方、それから遅れること数分後の寮棟内では ――

 彼―ミカエル・レアン・ダイ・クと僕―海堂 朱里の部屋の前で、プラチナシルバーの髪とアイスブルーの
瞳の少年―ヴィットーレ・ディ・イエッリが僕等の帰りを待っていた。

 ヴィットーレは、廊下の向こう側から唯一人で帰ってきた、彼の護衛対象でもある、主 ― ミカエルの姿
を目に留めると、彼の表情から何かに気付いたように、微笑んだ。
 それから、ミカエルの方へと歩いていき、互いがすれ違うようになったその瞬間、その相手に向かって軽く
声をかける。


「ミカ、一度だけだ、一度だけは、見逃してやるよ」
「煩いよ、君は」

 二人は、すれ違い様に互いの拳で軽く肩を小突き合うとそのまま反対の方向へと歩いていった。

 結局、僕はその後で、そのまま自習室へと迎えに来たヴィットーレに連れられて、寮の自室へと戻った
が、その間、二人の間でそんなやり取りがあったということは、もちろん全く知らなかった。

 そして―寮の自室に戻ったその日の晩に、僕とミカエルの間でどんな約束が交わされたのかは、ここでは
秘密にしておきたいと思う。

【END】

ぎりぎりのところを狙ったはずなのに、なんだか詰めが甘い気が……

》80
ヴィットーレを気に入ってくださってありがとう! 感謝です!



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