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白狐と青年 第40話「身内の集い」

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konta

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「身内の集い」



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 夜、研究所内の食堂には研究所で働いている人員のほとんどが集められていた。
 治療施設の人間や技術者、研究者他、この研究所を運営する為に必要不可欠な人材達を前に、彼等の長である平賀は飄々とした風情で口を開いた。
「さて、わしらもずいぶんと嫌われたもんで、武装隊に囲まれてしもうたのお」
 今夜彼等が集められたのは今日の昼に現れた武装隊や、それらに関連した行政区の動きについての説明という名目だ。どこまで話すのだろうかと思いながら平賀の近くで茶を呑む匠は、研究員の一人が平賀に応じる声を聞いた。
「いやまったくです。ところで昼に多少脅しをかましてやったあの武装隊達ですけど、あの後一体どうなったんですか?」
「今は研究区の全体包囲は打ち切って検問を要所に敷く、という事で区内全域に与えられる威圧は軽減してもらっておる感じじゃ」
 平賀の返答に、匠の隣で肉を食っていたキッコが補足を加える。
「外にこれ見よがしにあった威圧は消えおったが、その分幾人か、武装隊共が区内に散って各所を調べようとしておるようだの。余人には分からずとも事情に通じておる我らには分かる形で圧力自体は掛け続けるという腹だろうて」
「んでもってこっちに怪しい動きがあったらすぐにでも踏み込んでくる気なんだろうな」
 彰彦の推測に治療施設勤務の男が考え深げに呟く。
「そして彼等の探し物……昼の彼等の言い分ではクズハちゃんを見つけるまでそれを続ける気ですかね」
「それ以外にも研究所への侵入を許したら、なんだかんだと理由をつけてこっちの研究成果を持って行かれそうだな」
 顔を顰めながらの研究者の発言に年配の研究者が応じる。
「だがあれだけ派手に爆発を起こせば下手に手を出してはこないんじゃねえか?」
「そりゃあんなばかでかい爆発させてりゃ踏み込みたくもなくなるさ」
「それを直す立場の人間を慮って欲しいもんだがな」
 吐息交じりの異形の技術者の言葉で食堂内に笑いが起こる。
 研究所の職員たちは、元々異形との緊張関係が続いている大阪圏内で異形との融和路線を掲げる平賀の下で生活し、研究に励もうとする者の集まりだ。多少の荒事には慣れているのだろう。しかしそんな彼等であっても人間側の公的な戦力と向き合うという事態は初めての事だ。それぞれに行動の指標を、それを自身で決めるための情報を欲しがっていた。
 笑いがひとしきり収まった所で研究者の一人が平賀に訊ねる。
「それで平賀博士、これからどうするのが研究区の方針と言う事になりますか?」
「そうじゃな、まあ、あちらさんの要求は承服できるものではないのでな、武装隊はこのままのらりくらりと躱して時間稼ぎをしつつ、それと同時にわしが行政区の方にかけあって事態を収めてみようと思っておるよ」
「何にせよ急ぐ事だの。研究区に来る間の道中で確認したが、行政区の動きのせいで異形共が殺気だっておった。研究区内の者も腹の中は対して変わるまいて、不満が爆発して圏内の異形共が一斉に暴れれば、もう歯止めは効かぬぞ? せめてあの武装隊の小僧どもが居なくなれば不満の溜まり具合も変わるのだがの」
 キッコの言葉で食堂に重い沈黙が落ちる。
 異形が人の社会に現れた事によって起こった混乱を知っていて、更に人の社会の中で築いてきたものがあるために、研究区の庇護を求めてきた異形達は行政区の行動に対して今までのところ大きな反撃を起こしてはこなかった。しかし今のように武装隊に威圧をかけられ続けられるような状況が長引けば、彼等としても黙ってばかりはいられないだろう。
「分かっておるよキッコ君。わしとしても、皆の衆にストレスが溜まらんよう、武装隊の衆に出て行ってもらいたい所なのんじゃがのう……わしらはわしらで隠しとる事が有るせいで研究所には武装隊を迎え入れる事は出来ん……そうなると彼等は研究区に残り続ける事になってしまうのは避けられんでなぁ」
 難しい顔をする平賀に研究者の一人が訊ねた。
「あー、博士……? その、隠している事、というと……?」
「うん? ああ、君らがわしに報告していない研究のレポートはしっかり後で提出しとくれな。それと――そうじゃそうじゃ」
 微妙に引き攣った顔の研究員達に向けて、平賀はテヘッと頭をかく動作付きで笑い、
「あれだけ武装隊の衆に言っておいて申し訳ないんじゃがのう、武装隊が身柄を引き渡すように言ってきとるクズハ君じゃがな、実はこの研究所内にいるんじゃなぁこれが」
「じ、じいさん!?」
「おい?!」
 秘密事項であろうことをあっさりと話した平賀に思わず匠と彰彦は声をあげる。
 キッコが横で笑っている声が聞こえて来る中、最初は唖然とした顔で固まっていた職員達は、やがてそろそろと互いに顔を見合わせて息を吐き出した。
「あー……やっぱりそうかぁ」
「平賀さん、武装隊の奴らとの話し合いの時おかしかったからな」
 平賀は彼等にうんうんと頷き、
「武装隊に知られるとやっぱり問題でなぁ、悪いんじゃけど皆、黙っといてもらえんかのう?」
 平賀が拝む仕草をする。それに皆は頷き、
「分かってますよ、平賀博士」
「最近の行政区や武装隊の動きはおかしいしな、クズハちゃんを素直に渡さなくて正解だろ」
 口々に答える職員達の中、治療施設の職員たちが勝ち誇った顔をした。
「――まあ、俺たちはもう知ってたけどな」
「なんたって戻ってきたクズハちゃんに最初に会ったのって俺たちだしな」
 その言葉に技術者の一人が反応した。
「んだとこの野郎? そっちに行ってるってこたぁてめえ、クズハちゃん怪我してんのか? 大丈夫なんだろうな?」
「俺たちを誰だと思ってやがる。しっかり治してやったよ。傷だけなら匠君と一緒にクズハちゃんを連れて帰って来た明日名さんの方が大変だったくらいだ。両方対処したけどな」
「そうか、そいつはよかった」
 その呟きに応じる形で平賀が言う。
「ん、まあそのような感じでの、あまり詳しい事は言えないんじゃが、少し行政区の一部がきな臭い。対応するために皆には協力してもらいたいんじゃよ」
 研究者が手を挙げて発言する。
「具体的には?」
「行政区の命令で動いておる武装隊の衆の研究所内への侵入を足止めして、絶対に研究所内を捜査しにこれないように頑張ってもらいたいんじゃが」
 いいかの? と訊ねる平賀に皆は頷いた。
「任せとけ!」
「いや、悪いのう。研究がしばらく止まる部署も出るかもしれんが、我慢しとくれ」
 すんなりと話が通った事にほっとしつつ、匠は平賀の付言を聞く。
「とは言っても、この事はあんまり広げちゃいかんぞ? 身内はまだ同情的に思ってくれるが、他の者、特に今回の件で流れてきた異形の方はそうもいくまい。クズハ君を匿い続けて研究所に武装隊を入れない状態を続けるという事は、その分武装隊もこの研究区に長くとどまり続けるという事になる。それだけ今この区に住んでおる者や避難してきておる異形の皆にかかるストレスは増え続けるわけでな、下手をしたら魔女狩りが起こりかねないわけじゃ。故に皆、他言無用で頼むぞい」
「応!」


            ●


 一斉に応じた研究所の皆を見て、匠は頭を下げた。
「すまない皆」
 それを見た職員が怪訝そうに訊ねる。
「なんで匠君が謝るんだ?」
 問いかけられた匠は顔を上げて研究所の皆を正面に見た。
「俺がクズハを連れ戻した。そして、そのせいで今の状況になった」
 匠の見通しが甘かった。そのせいで皆を巻き込んだのだ。その事を謝る匠に、しかし、
「気にするなよ、匠君は当たり前のことをやったんだ」
「それでも、すまない」
 先の言葉はここの皆の優しさの表れだ。それに今は甘えさせてもらうしかない。だから頭を下げる。
 その上で、
「でも、悪いけど、皆には協力してもらえるとありがたい」
「ああ、もっと元気よく暴れてこればいい。お前なんて俺みたいな奴にとっちゃまだガキみてえなもんだ」
 年老いた大柄な異形の技術者が応える。
 ありがたい言葉だ。この一連の事件を解決する事が彼や、他、この研究区や大阪圏に居る異形達の生活を取り戻す事に繋がるのならば、
 ……余計に頑張らないとな。
 感傷故にか滲む視界を意識しながら、匠はもう一度、今度は礼として頭を下げた。





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