運命だとか、宿命だとか、そんなものなのかもしれないね。
でも、
だから──
でも、
だから──
人型の戦闘機械というものは一世紀前にはアニメーション等のフィクションの世界の住人だった。
それが宇宙時代を迎えて月面や宇宙空間での汎用作業用重機の必要性が議論され始めた時、そのフィクション世界の住人を実現させようなどと技術者たちが考えたのは当然の流れだったのかもしれない。
それをまず最初に、大真面目にプロジェクトとして立ち上げたのが日本人だったのは言うまでもないことだ。
全高7mサイズの月面作業用歩行重機から始まった人型機械の系譜、今地球の大気の中を飛ぶ戦闘用マシンは全高20m近い威容を誇る。
日本製のそれらは“センチネル”と呼ばれた。
歩哨──警戒・監視を行う番兵の意味である。
それを兵器のカテゴリーとしての名前に使ったのは欺瞞であった。
かつての自衛隊が歩兵科を普通科などと呼んだことと同じなのだ。
警戒・自衛のための、兵器ではない兵器だとアピールしたところで、それらが放つ砲弾は破壊を生み、死者を生産する。
だが、いま、その機械の兵士は課せられた任務を果たせないでいた。
それが宇宙時代を迎えて月面や宇宙空間での汎用作業用重機の必要性が議論され始めた時、そのフィクション世界の住人を実現させようなどと技術者たちが考えたのは当然の流れだったのかもしれない。
それをまず最初に、大真面目にプロジェクトとして立ち上げたのが日本人だったのは言うまでもないことだ。
全高7mサイズの月面作業用歩行重機から始まった人型機械の系譜、今地球の大気の中を飛ぶ戦闘用マシンは全高20m近い威容を誇る。
日本製のそれらは“センチネル”と呼ばれた。
歩哨──警戒・監視を行う番兵の意味である。
それを兵器のカテゴリーとしての名前に使ったのは欺瞞であった。
かつての自衛隊が歩兵科を普通科などと呼んだことと同じなのだ。
警戒・自衛のための、兵器ではない兵器だとアピールしたところで、それらが放つ砲弾は破壊を生み、死者を生産する。
だが、いま、その機械の兵士は課せられた任務を果たせないでいた。
「なぜ、なぜ落ちない!?」
五度目ともなれば、その言葉は悲鳴のような色を見せ始めていた霧島中尉だ。
生え抜きと呼ばれ、センチネル乗りになる為に生まれてきたと自称し、連邦平和維持軍に出向したキャリアの持ち主でもある。自衛軍でも飛び抜けた戦歴の持ち主である彼女なのだ。
その彼女が悲鳴にも似た叫び声をあげているということに、ベースのオペレーターは事態の異常さを感じとっていた。
あの男勝りの鬼中尉が、悲鳴をあげている!
もちろん彼らは戦場に身を晒しているわけではない、晒している霧島中尉の恐慌は彼らの比ではなかった。
「ミサイルもガトリングも、キャノンだって全弾命中のはずだ! はずなのに!」
それなのに目の前の金色のオブジェたちは風に吹かれた程度もダメージを受けていない。少なくともそのように彼女には見えていた。
朝鮮半島や中国東北部において地球連邦の平和維持軍として戦場に立った時はどうだったか?
少なくとも弾が当たれば敵機は損壊したし、ミサイルが当たれば大破炎上したものだ。
なのに、こいつは傷一つ付いていないように見える!
それは恐怖以外の何物でもない。
バウッ!!
本当にそんな音がしたかどうかはわからない。敵機の発砲をマシンが感知すれば、コンピューターがそのような合成音を流すのだ。
オブジェがやや弾速の遅い光弾を連続発射してきていた。
それらはセンチネルと比較すれば紙のような装甲とはいえ、JF11戦闘機を一発で粉々にする威力である。直撃はできない。
脚部のホバーを吹かし、バックパックのメインブースターから閃光を吐き出させて撫子の機体をクルリクルリと運動させ、回避していく。
三度目の回転の合間に左脇に抱える形で構えた大口径のキャノンを放つ!
命中!
しかし、着弾の煙の大きさに比べてオブジェは相変わらず悠然としたままだ。
その時、霧島はオブジェの片方が地表すれすれの所まで降下していることに気が付いた。
『何をするつもりだ』
霧島がその異常に注意を向けかけたその時、
音もなく、それが現れた。
五度目ともなれば、その言葉は悲鳴のような色を見せ始めていた霧島中尉だ。
生え抜きと呼ばれ、センチネル乗りになる為に生まれてきたと自称し、連邦平和維持軍に出向したキャリアの持ち主でもある。自衛軍でも飛び抜けた戦歴の持ち主である彼女なのだ。
その彼女が悲鳴にも似た叫び声をあげているということに、ベースのオペレーターは事態の異常さを感じとっていた。
あの男勝りの鬼中尉が、悲鳴をあげている!
もちろん彼らは戦場に身を晒しているわけではない、晒している霧島中尉の恐慌は彼らの比ではなかった。
「ミサイルもガトリングも、キャノンだって全弾命中のはずだ! はずなのに!」
それなのに目の前の金色のオブジェたちは風に吹かれた程度もダメージを受けていない。少なくともそのように彼女には見えていた。
朝鮮半島や中国東北部において地球連邦の平和維持軍として戦場に立った時はどうだったか?
少なくとも弾が当たれば敵機は損壊したし、ミサイルが当たれば大破炎上したものだ。
なのに、こいつは傷一つ付いていないように見える!
それは恐怖以外の何物でもない。
バウッ!!
本当にそんな音がしたかどうかはわからない。敵機の発砲をマシンが感知すれば、コンピューターがそのような合成音を流すのだ。
オブジェがやや弾速の遅い光弾を連続発射してきていた。
それらはセンチネルと比較すれば紙のような装甲とはいえ、JF11戦闘機を一発で粉々にする威力である。直撃はできない。
脚部のホバーを吹かし、バックパックのメインブースターから閃光を吐き出させて撫子の機体をクルリクルリと運動させ、回避していく。
三度目の回転の合間に左脇に抱える形で構えた大口径のキャノンを放つ!
命中!
しかし、着弾の煙の大きさに比べてオブジェは相変わらず悠然としたままだ。
その時、霧島はオブジェの片方が地表すれすれの所まで降下していることに気が付いた。
『何をするつもりだ』
霧島がその異常に注意を向けかけたその時、
音もなく、それが現れた。
「連邦評議会安全保障会議よりE&E迎撃指揮権限の委譲が発令されました。日本政府の承認も込みです!」
長門が声を上げたのは、磯風の宣言からジャスト20分のことだった。
「よし、これより我がSARFが状況を統括する。ユニット01と“彼”は?」
「はい! ユニット01と彼は……彼……。あっれ?」
専任オペレーターの名は吾妻と言う。通信オペレーターの長門と対になる席に座る彼女は、突然場の空気と真逆の素っ頓狂な声を上げた。
どうしたと声をかける大和に、吾妻は引きつった顔で答えるのだ。
「ユニット01、出撃……しちゃってます」
長門が声を上げたのは、磯風の宣言からジャスト20分のことだった。
「よし、これより我がSARFが状況を統括する。ユニット01と“彼”は?」
「はい! ユニット01と彼は……彼……。あっれ?」
専任オペレーターの名は吾妻と言う。通信オペレーターの長門と対になる席に座る彼女は、突然場の空気と真逆の素っ頓狂な声を上げた。
どうしたと声をかける大和に、吾妻は引きつった顔で答えるのだ。
「ユニット01、出撃……しちゃってます」
「ミサイル残弾0、キャノン残弾0、ガンポッド──残り三斉射のみ!」
「中尉殿、自分もガンポッドに残り僅かのみであります!」
部下の報告に歯噛みをしつつ、ガンポッドの斉射をかける霧島だった。しかし、それもあくまで牽制以外の用をたしてはいないのだ。
それはいい。
そう思ってから『よくはない』と思いなおす。だが、それ以上に気になるのは事実なのだ。
「あれは、一体なんなんだ」
突然音もなく飛来して、学校施設に近付いていったオブジェの片割れを蹴り飛ばした白いマシン。
校舎脇に立ったまま微動だにしないその白いマシンに、
「一体なんなんだ」
霧島は々言葉をくりかえした。
「中尉殿、自分もガンポッドに残り僅かのみであります!」
部下の報告に歯噛みをしつつ、ガンポッドの斉射をかける霧島だった。しかし、それもあくまで牽制以外の用をたしてはいないのだ。
それはいい。
そう思ってから『よくはない』と思いなおす。だが、それ以上に気になるのは事実なのだ。
「あれは、一体なんなんだ」
突然音もなく飛来して、学校施設に近付いていったオブジェの片割れを蹴り飛ばした白いマシン。
校舎脇に立ったまま微動だにしないその白いマシンに、
「一体なんなんだ」
霧島は々言葉をくりかえした。
避難所となった高台の公園からもその白いマシンは見えた。
「なんだよ、あれ。またセンチネルか?」
いや…と高雄は山彦の言葉を否定する。
「あんな形のセンチネル見たことないよ。中華連邦でもPEUでもない、NOAの物でもない。全然知らないタイプだ」
「じゃあ、なんでこんなところに飛び込んできたんだよ!」
「僕にわかるわけないじゃない。それより、あれ校舎の辺りだよね……ユウちん大丈夫かな」
飛び出していったユウを追いかけようとして教師に捕まった彼らは教師達の前で正座をさせられている。
「でもよ、なんで俺達は正座で伊吹は普通に立たされてるだけなんだよ」
「マコちゃんはセンセたちに信用あるからね、やっぱ」
「納得できねェ……」
愚痴る彼は、それでもどうにかここから抜け出して、ユウを探しにいけないかと考えている。
「なんだよ、あれ。またセンチネルか?」
いや…と高雄は山彦の言葉を否定する。
「あんな形のセンチネル見たことないよ。中華連邦でもPEUでもない、NOAの物でもない。全然知らないタイプだ」
「じゃあ、なんでこんなところに飛び込んできたんだよ!」
「僕にわかるわけないじゃない。それより、あれ校舎の辺りだよね……ユウちん大丈夫かな」
飛び出していったユウを追いかけようとして教師に捕まった彼らは教師達の前で正座をさせられている。
「でもよ、なんで俺達は正座で伊吹は普通に立たされてるだけなんだよ」
「マコちゃんはセンセたちに信用あるからね、やっぱ」
「納得できねェ……」
愚痴る彼は、それでもどうにかここから抜け出して、ユウを探しにいけないかと考えている。
ヒーローなんていない。
そんなことは考えるまでもないことで、当然のことのはずだ。そもそもヒーローがいるかいないかなんて議論がまずありえない。
──諦めているんだ。
そうじゃない。困った時に駆けつけてくれるヒーローなんて都合のいいものがこの世にあるわけがないという、これは“理解”だ。
──やっぱり諦めているってことなんじゃないかな。現実の前にヒーローなんていないってさ。
わざとらしくため息つくんじゃないよ。
──君も思うのかな。この世はままならぬことばかり。正直者がバカを見る。正義なんて汚い言葉、さ……だなんて。
その言い方は気に入らないな。まるでバカにしているみたいじゃないか。
そんなことは考えるまでもないことで、当然のことのはずだ。そもそもヒーローがいるかいないかなんて議論がまずありえない。
──諦めているんだ。
そうじゃない。困った時に駆けつけてくれるヒーローなんて都合のいいものがこの世にあるわけがないという、これは“理解”だ。
──やっぱり諦めているってことなんじゃないかな。現実の前にヒーローなんていないってさ。
わざとらしくため息つくんじゃないよ。
──君も思うのかな。この世はままならぬことばかり。正直者がバカを見る。正義なんて汚い言葉、さ……だなんて。
その言い方は気に入らないな。まるでバカにしているみたいじゃないか。
──あはは、こりゃまた失敬。
……だから笑うな、余計バカにされてる気分になる。
──んで? どうなんだい?
僕だってそこまで斜に構えているつもりはないさ。正しいことは正しいことだと思ってる。間違ってるのはそういう言葉を免罪符にする人間であって、言葉が、理念が汚れてるってるわけじゃない。
──そうともさ!
大きい声を出すなよ。
──正しいことは正しいことなんだよ。それが正しいことだと信じられるのならそれを行えばいい。偽善だなんだって陰口叩かれたって、そんなもの気にすることなんてない。
そうだな、そうだけど。
──だけど?
僕は……結局どこまでいったってただの人間、ただの子供なんだ。自分の考えが絶対に正しい、絶対に間違ってない、なんて言い切れない。
自分が正しいことをやれているなんてさ、そんなに傲慢にはなれないよ。
──じゃあ……、
じゃあ?
──このまま、ずっとこのままかい? ヒーローなんていない、自分は子供だ、大人じゃない。こんな自分を必要としてくれる人なんているだろうか……そんな思いのままでいるのかい?
…………。
──君たちは不思議だね。内包する根拠のない自信と根拠のない劣等感。用意された未来を嫌悪しながら、自ら道を拓いていくことに怯えてる。ヒーローを求めていながら、ヒーローなんていないと諦めている。
悪いかよ。
──いいや。だからこそ、素晴らしい。
素晴らしい? こんなものが? こんな僕が?
──あぁ、とても素晴らしいよ。それは僕らが持ち得ないものなんだもの。
なんだろう、眩しくなってきたな。
光が、広がっていく?!
──これは君たちの言うところの運命だとか、宿命だとか、そんなものなのかもしれないね。そういう敷設されたレールの上を走らされることは君にとって、とても屈辱的で、とても不本意なことなのかもしれない。
なんだろう、世界が広がっていく。
これは、な、ん、な、ん、だ──!?
──でも、ね。
と、て、も、あ、た、た、か、い、ヒ、カ、リ ?
ソ ラ が こ ん な に も 、 近 い ! ?
──これはファーストステップに過ぎないんだ。定められた運命はこの最初の一歩だけでおしまい。引き寄せた足の二歩目が降りるその場所は、どんな預言書にも書いてなんてない。
こ わ い よ 、 こ ん な の は こ わ い !
──大丈夫、僕たちがいるよ。君には僕たちがいる。君が決める二歩目からのその先を……、
……だから笑うな、余計バカにされてる気分になる。
──んで? どうなんだい?
僕だってそこまで斜に構えているつもりはないさ。正しいことは正しいことだと思ってる。間違ってるのはそういう言葉を免罪符にする人間であって、言葉が、理念が汚れてるってるわけじゃない。
──そうともさ!
大きい声を出すなよ。
──正しいことは正しいことなんだよ。それが正しいことだと信じられるのならそれを行えばいい。偽善だなんだって陰口叩かれたって、そんなもの気にすることなんてない。
そうだな、そうだけど。
──だけど?
僕は……結局どこまでいったってただの人間、ただの子供なんだ。自分の考えが絶対に正しい、絶対に間違ってない、なんて言い切れない。
自分が正しいことをやれているなんてさ、そんなに傲慢にはなれないよ。
──じゃあ……、
じゃあ?
──このまま、ずっとこのままかい? ヒーローなんていない、自分は子供だ、大人じゃない。こんな自分を必要としてくれる人なんているだろうか……そんな思いのままでいるのかい?
…………。
──君たちは不思議だね。内包する根拠のない自信と根拠のない劣等感。用意された未来を嫌悪しながら、自ら道を拓いていくことに怯えてる。ヒーローを求めていながら、ヒーローなんていないと諦めている。
悪いかよ。
──いいや。だからこそ、素晴らしい。
素晴らしい? こんなものが? こんな僕が?
──あぁ、とても素晴らしいよ。それは僕らが持ち得ないものなんだもの。
なんだろう、眩しくなってきたな。
光が、広がっていく?!
──これは君たちの言うところの運命だとか、宿命だとか、そんなものなのかもしれないね。そういう敷設されたレールの上を走らされることは君にとって、とても屈辱的で、とても不本意なことなのかもしれない。
なんだろう、世界が広がっていく。
これは、な、ん、な、ん、だ──!?
──でも、ね。
と、て、も、あ、た、た、か、い、ヒ、カ、リ ?
ソ ラ が こ ん な に も 、 近 い ! ?
──これはファーストステップに過ぎないんだ。定められた運命はこの最初の一歩だけでおしまい。引き寄せた足の二歩目が降りるその場所は、どんな預言書にも書いてなんてない。
こ わ い よ 、 こ ん な の は こ わ い !
──大丈夫、僕たちがいるよ。君には僕たちがいる。君が決める二歩目からのその先を……、
ずっと一緒に歩いていく──
「ユニット01再起動しました! ……そんな、アーティファクトエンジンの起動も確認、補機ではなく主機が動いています!」
吾妻の報告に大和と信濃が顔を見合わせる。
「おい、大和──」
「見つかったのか、継承者が?!」
吾妻の報告は続く。
「56000、58000……61000! エンジンの出力はまだ上昇してています! 信じられません、今までは試験場ででさえ主機関を完璧に制御できたことなんてなかったのに!」
軽くそれまでの五倍をこえるエネルギー量に吾妻・長門といったオペレーターは驚きを隠せないようだったが、それらは大和たちも同様というわけではない。
かれらの驚きは“それ”が意味することの方により多くを割いていたのだ。
吾妻の報告に大和と信濃が顔を見合わせる。
「おい、大和──」
「見つかったのか、継承者が?!」
吾妻の報告は続く。
「56000、58000……61000! エンジンの出力はまだ上昇してています! 信じられません、今までは試験場ででさえ主機関を完璧に制御できたことなんてなかったのに!」
軽くそれまでの五倍をこえるエネルギー量に吾妻・長門といったオペレーターは驚きを隠せないようだったが、それらは大和たちも同様というわけではない。
かれらの驚きは“それ”が意味することの方により多くを割いていたのだ。
「すごい──!」
僕は空を飛んでいた。
黒猫との邂逅、白いマシンの出現、若干の意識の空白の後に僕の目の前に広がっているのは──空!
しばしの感動の後、僕は咳払いに我にかえった。
見たことのない座席、計器。空を飛んでいるように感じたのは取り囲む壁面が総てモニター画面であったからのようだ。
「うわっ、なんだよこれっ」
「わざとらしいよ」
バレバレのようだ。振り返るとさっきの黒猫が僕が座る座席の後ろにチョコンと座っている。
猫用の座席なんだろうか? スフィンクスのような座り方でカプセルのような座席に座っているんだ。
人間と猫で乗り込む複座式の乗り物……ロボットか、これ、あの白いマシンの操縦席か?!
「ご名答」
また思考を読まれたらしい。
「君と僕とが乗り込むことで、レガシアムはその力を発揮できるんだ。喜んでいるよ、レガシアムは」
コンソールで隠れて見えない所や背後の状況は手元の小さなモニターや、正面にウインドウを開いて投射されるらしい。
らしいっていうのは『見たい』と考えた瞬間そのようになったからだ。
「神経電位接続。君の動きたいって思考や見たいっていう思考がダイレクトに伝わる。基本動作はそれだけで十分なんだよ」
なるほど。じゃ基本じゃない動作はどうするんだ?
黒猫がため息をついた。
「ちゃんと喋りなよ。その口は何の為についているんだい?」
「しゃべらなくても考えたことを読めるんだろ? じゃあわざわざ口に出さなくたっていいじゃないか」
黒猫はムーとうなった。
あぁ、あれなら僕にもわかる。「あー言えばこう言う」とでも思っているんだろう。
「ご明察」
ほぉら見ろ。
「なんなんだろね。君って順応性高すぎだよ」
「そうかな?」
そうともさと黒猫。
「普通さ、いきなり猫が喋って、見知らぬロボットが現れて、あれよあれよの内に乗り込まされたら──何で僕が! 化け物! 助けて! ここから出して!──とかなるもんじゃないかな」
僕はゆっくり返事をすることにした。
「君が喋ったことにならもう驚いたじゃん。さっき」
「…………一回驚き終わったんだから、もう驚く必要はないってのかい?」
「そりゃあまだ驚いているけどさ。でも驚こうが、慌てようが喋っているものは喋っているわけだし、乗っているもんは乗っているんだからしょうがないんじゃないかな」
心底呆れたように黒猫はため息をついた。
だけど、そのため息に少しだけ嬉しそうな色が忍んでいるように聞こえたのは気のせいだろうか。
その時、操縦席にけたたましい音が響き始めた。
「何だこれ?!」
「うぉっとおっ!!」
急な動きに頭をヘッドレストにぶつける。ロボットが急な方向転換をしたようだ。
これに比べればジェットコースターの方がまだましだ!
「当たり前だろ!」
黒猫が叫ぶ。
「下手をうてば死んじまうジェットコースターさ、ただ走るだけじゃなくってゴキゲンなお友達が襲ってくるんだからね!」
僕は空を飛んでいた。
黒猫との邂逅、白いマシンの出現、若干の意識の空白の後に僕の目の前に広がっているのは──空!
しばしの感動の後、僕は咳払いに我にかえった。
見たことのない座席、計器。空を飛んでいるように感じたのは取り囲む壁面が総てモニター画面であったからのようだ。
「うわっ、なんだよこれっ」
「わざとらしいよ」
バレバレのようだ。振り返るとさっきの黒猫が僕が座る座席の後ろにチョコンと座っている。
猫用の座席なんだろうか? スフィンクスのような座り方でカプセルのような座席に座っているんだ。
人間と猫で乗り込む複座式の乗り物……ロボットか、これ、あの白いマシンの操縦席か?!
「ご名答」
また思考を読まれたらしい。
「君と僕とが乗り込むことで、レガシアムはその力を発揮できるんだ。喜んでいるよ、レガシアムは」
コンソールで隠れて見えない所や背後の状況は手元の小さなモニターや、正面にウインドウを開いて投射されるらしい。
らしいっていうのは『見たい』と考えた瞬間そのようになったからだ。
「神経電位接続。君の動きたいって思考や見たいっていう思考がダイレクトに伝わる。基本動作はそれだけで十分なんだよ」
なるほど。じゃ基本じゃない動作はどうするんだ?
黒猫がため息をついた。
「ちゃんと喋りなよ。その口は何の為についているんだい?」
「しゃべらなくても考えたことを読めるんだろ? じゃあわざわざ口に出さなくたっていいじゃないか」
黒猫はムーとうなった。
あぁ、あれなら僕にもわかる。「あー言えばこう言う」とでも思っているんだろう。
「ご明察」
ほぉら見ろ。
「なんなんだろね。君って順応性高すぎだよ」
「そうかな?」
そうともさと黒猫。
「普通さ、いきなり猫が喋って、見知らぬロボットが現れて、あれよあれよの内に乗り込まされたら──何で僕が! 化け物! 助けて! ここから出して!──とかなるもんじゃないかな」
僕はゆっくり返事をすることにした。
「君が喋ったことにならもう驚いたじゃん。さっき」
「…………一回驚き終わったんだから、もう驚く必要はないってのかい?」
「そりゃあまだ驚いているけどさ。でも驚こうが、慌てようが喋っているものは喋っているわけだし、乗っているもんは乗っているんだからしょうがないんじゃないかな」
心底呆れたように黒猫はため息をついた。
だけど、そのため息に少しだけ嬉しそうな色が忍んでいるように聞こえたのは気のせいだろうか。
その時、操縦席にけたたましい音が響き始めた。
「何だこれ?!」
「うぉっとおっ!!」
急な動きに頭をヘッドレストにぶつける。ロボットが急な方向転換をしたようだ。
これに比べればジェットコースターの方がまだましだ!
「当たり前だろ!」
黒猫が叫ぶ。
「下手をうてば死んじまうジェットコースターさ、ただ走るだけじゃなくってゴキゲンなお友達が襲ってくるんだからね!」
全天周のモニターには金色の花瓶が二つ、左右から迫ってくるのが写っている。
両方とも黄色い枠線で囲まれていた。危険だか敵だかを示す表示なんだろう。
「呑気にかまえてる場合じゃないだろっ!」
「それはそうだけどさっ!」
操縦桿を握り、足元のペダルに足を置く。
「操縦方法なんてわかんないんだよ、僕はッ!」
まずは何とか上昇して距離をとらなきゃ──!
そう考えた時、モニターの向こう側の風景が一変したのを僕は見た。
コンソールの計器表示が激しく動く、正面モニターの高度計らしい表示が一気に数百上昇していく!
モニターに写る流れていく風景と高度計の表示がとてつもない加速がかかっていることを示している。だけど、
「ほとんどGを感じない!!」
感動を口にしながらあらためてコンソールを見回していく。
速度計、高度計、方角表示、機外環境、バランスチェック……わかる、理解できる。
「基本動作は考えるだけでいいんだよね? 飛んだり跳ねたり走ったりするのも…」
「できる。細かい所は僕が補助していくから思うようにしていけばいい!」
目でモニターの中の黄色い点を追う。高度4000、花瓶たちとの距離は2800。速度はこっちの方が優勢なのか?
このまま逃げちゃってもいいだろうか。ふと思いつく。この速度なら振り切れる。
だけど、
「片方が離脱したね」
花瓶の片割れの予測進路から大きく離れた。片割れに僕を任せて自分は別方向へと向かっていく。
その向かう先は学校?
「いや、進路…速度…これは──」
学校の裏の緑地帯、丘の上の公園? みんなのいる避難所?!
「あいつら、なにをしようっていうんだよ」
「わからない。僕にだってアレが何者なのか、何を目的としているのか、そのほとんどが」
「わかっていることは?」
「アレが世界に、人々に、僕たちにとって災厄そのものだっていうこと」
「それはつまり」
「“敵”だっていうことさ」
頭の中で念じる。オートバランサー、マシンコントロール、チェック。
水平面に対してロボットが機体姿勢を平行に整えてくれた。
「大丈夫だ。これ、マンマシーンインターフェイスが特殊なだけで基本概念はEVA(船外活動)と同じなんだ。操縦系だって母さんのパソコンで見た宙間作業用ロボットマニピュレーターとそうは変わらない」
フフンと黒猫が笑う。
「やれるかい? 怖くないかい? コンピューターゲームやシュミレーションとは違うんだよ?」
乗せておいてよく言うよって言葉は喉の奥に飲み込んで──どうせ伝わっているにしてもだ──僕は改めて操縦桿を握り締める。
「怖いよ、怖いに決まってるだろ。こんなわけのわからないことに付き合わされてさ」
黒猫の奴は、じゃあどうして? なんて白々しいことを言う。
「怖くたってさ、怖いからってさ、だからってじっとしているのはもっと怖いんだよ!」
上昇する機体に制動をかける。若干の体が浮く感触──感じた時にはもうベルト上の物体が僕の体をシートに固定していた。
「細かい補助は君がやってくれるんだよね。回避運動頼む!」
機体の姿勢を前傾気味に傾けて念じる。僕はロボット──レガシアムを一気に急降下させる!
「おほっ!」
笑い声なのか悲鳴なのか、わからないような声があがったけれど、知らんぷりだ。
両方とも黄色い枠線で囲まれていた。危険だか敵だかを示す表示なんだろう。
「呑気にかまえてる場合じゃないだろっ!」
「それはそうだけどさっ!」
操縦桿を握り、足元のペダルに足を置く。
「操縦方法なんてわかんないんだよ、僕はッ!」
まずは何とか上昇して距離をとらなきゃ──!
そう考えた時、モニターの向こう側の風景が一変したのを僕は見た。
コンソールの計器表示が激しく動く、正面モニターの高度計らしい表示が一気に数百上昇していく!
モニターに写る流れていく風景と高度計の表示がとてつもない加速がかかっていることを示している。だけど、
「ほとんどGを感じない!!」
感動を口にしながらあらためてコンソールを見回していく。
速度計、高度計、方角表示、機外環境、バランスチェック……わかる、理解できる。
「基本動作は考えるだけでいいんだよね? 飛んだり跳ねたり走ったりするのも…」
「できる。細かい所は僕が補助していくから思うようにしていけばいい!」
目でモニターの中の黄色い点を追う。高度4000、花瓶たちとの距離は2800。速度はこっちの方が優勢なのか?
このまま逃げちゃってもいいだろうか。ふと思いつく。この速度なら振り切れる。
だけど、
「片方が離脱したね」
花瓶の片割れの予測進路から大きく離れた。片割れに僕を任せて自分は別方向へと向かっていく。
その向かう先は学校?
「いや、進路…速度…これは──」
学校の裏の緑地帯、丘の上の公園? みんなのいる避難所?!
「あいつら、なにをしようっていうんだよ」
「わからない。僕にだってアレが何者なのか、何を目的としているのか、そのほとんどが」
「わかっていることは?」
「アレが世界に、人々に、僕たちにとって災厄そのものだっていうこと」
「それはつまり」
「“敵”だっていうことさ」
頭の中で念じる。オートバランサー、マシンコントロール、チェック。
水平面に対してロボットが機体姿勢を平行に整えてくれた。
「大丈夫だ。これ、マンマシーンインターフェイスが特殊なだけで基本概念はEVA(船外活動)と同じなんだ。操縦系だって母さんのパソコンで見た宙間作業用ロボットマニピュレーターとそうは変わらない」
フフンと黒猫が笑う。
「やれるかい? 怖くないかい? コンピューターゲームやシュミレーションとは違うんだよ?」
乗せておいてよく言うよって言葉は喉の奥に飲み込んで──どうせ伝わっているにしてもだ──僕は改めて操縦桿を握り締める。
「怖いよ、怖いに決まってるだろ。こんなわけのわからないことに付き合わされてさ」
黒猫の奴は、じゃあどうして? なんて白々しいことを言う。
「怖くたってさ、怖いからってさ、だからってじっとしているのはもっと怖いんだよ!」
上昇する機体に制動をかける。若干の体が浮く感触──感じた時にはもうベルト上の物体が僕の体をシートに固定していた。
「細かい補助は君がやってくれるんだよね。回避運動頼む!」
機体の姿勢を前傾気味に傾けて念じる。僕はロボット──レガシアムを一気に急降下させる!
「おほっ!」
笑い声なのか悲鳴なのか、わからないような声があがったけれど、知らんぷりだ。
装備の一覧を展開しろ……いや、即可動可能な装備の一覧を前面モニターに展開しろ!
コマンドはすぐに実行される。モニターに浮かんだウインドウに表示が現れた。
その横ではみるみるうちに点が丸になり、細長い花瓶の形が視認できるようになってくる。
同時にオレンジの光の弾丸も次々と飛んでくるようになってきた。
「グラビティフォースフィールドと射出式ワイヤーアンカー……だけ?」
ワイヤーアンカーってのはわかるけど、グラビティフォースフィールドってのはなんだ?
「アーティファクトエンジンが生み出す時空の歪み──重力波で力場を形成して防護フィールドとする装備のことだよ」
そういう便利なものがあるなら先に教えてもらいたいもんだ。
口には出さない。出すよりも出さない方が嫌味っぽいだろう。どうせ出さなくても伝わるし。
「ぶう」
どんなもんだ!
などと得意気になってるヒマはない。相対距離が800を切ったところで減速をかけ、300を表示した瞬間に僕は右腕のワイヤーアンカーを花瓶に向けて打った。
ガチン、などと音がしたかどうかはわからない。だけど命中したアンカーはまさにそんな音を響かせたように跳ね返されてしまった。
突き刺さりもしないで跳ね返されるって、なんだあれ?!
「向こうも防護フィールドを持っているんだよ。こっちとは違って外皮にあたる部分の──」
返事を待たずにもう一回加速をかける。
「君?!」
至近距離でも黒猫は花瓶の撃った弾を避けてくれた。初撃はかわし、二射目はそのなんたらフィールドで受け止め、三発目を避ける。
バランスコントロールをもう一度、頭を上にして足を地上に向けて、さらにブースト。
衝撃は次の瞬間に来た。ズシンという衝撃がコクピットを揺らす。同時に僕はロボットに命令を発していた。
「踏み台にしてジャンプだ!」
作戦は成功だ。一気に飛び掛って蹴り飛ばし、踏み台にしてさらに加速をつけて公園に向かう花瓶の方へ取り付く。狙いは完璧。
「次はどうしたらいい?」
今度はちゃんと口にして聞いてやる。
武器はワイヤーアンカーだけ。それはバリアー付きの皮に阻まれて役に立たない。ならどうやって戦えばいい?
「戦うつもりだったんだ」
あたりまえだと言っておこう。
「怖いって言っただろ」
「怖いのに逃げないんだ?」
そうさ。
「もし逃げ出したら、その後ろには何がある。僕は何を背にして逃げ出すことになってしまう?」
街を、学校を、家を、、
友達を、家族を、大事なものを、
「僕は置いていくことになっちゃうんだよ」
だから──
追ってきた花瓶を踏み台代わりに蹴飛ばした反動にブーストをかけることで更に加速をつける。離脱した方の花瓶に追いつくのはあっという間だった。
振り返る隙など与えない!
その勢いのまま、僕は花瓶をおもいっきり蹴り飛ばした。
「くそ……」
黒猫が悪態をつく。思ったほど花瓶は吹き飛びはしなかった。ブレーキをかけたようにギッと400m程の距離で急停止する。
背後からはもう一方の方がゆっくりと降下してきていた。
「どうすればいい?」
「手持ちの武装じゃあいつらのバリアは抜けない。あっちの武器だってこちらのバリアは抜けないだろうけど」
そうなの? と聞くとそうだよと黒猫。
でも避けられる分は避けないとね。バリアだってタダじゃないんだしだなんて貧乏臭いことをつぶやく。
コマンドはすぐに実行される。モニターに浮かんだウインドウに表示が現れた。
その横ではみるみるうちに点が丸になり、細長い花瓶の形が視認できるようになってくる。
同時にオレンジの光の弾丸も次々と飛んでくるようになってきた。
「グラビティフォースフィールドと射出式ワイヤーアンカー……だけ?」
ワイヤーアンカーってのはわかるけど、グラビティフォースフィールドってのはなんだ?
「アーティファクトエンジンが生み出す時空の歪み──重力波で力場を形成して防護フィールドとする装備のことだよ」
そういう便利なものがあるなら先に教えてもらいたいもんだ。
口には出さない。出すよりも出さない方が嫌味っぽいだろう。どうせ出さなくても伝わるし。
「ぶう」
どんなもんだ!
などと得意気になってるヒマはない。相対距離が800を切ったところで減速をかけ、300を表示した瞬間に僕は右腕のワイヤーアンカーを花瓶に向けて打った。
ガチン、などと音がしたかどうかはわからない。だけど命中したアンカーはまさにそんな音を響かせたように跳ね返されてしまった。
突き刺さりもしないで跳ね返されるって、なんだあれ?!
「向こうも防護フィールドを持っているんだよ。こっちとは違って外皮にあたる部分の──」
返事を待たずにもう一回加速をかける。
「君?!」
至近距離でも黒猫は花瓶の撃った弾を避けてくれた。初撃はかわし、二射目はそのなんたらフィールドで受け止め、三発目を避ける。
バランスコントロールをもう一度、頭を上にして足を地上に向けて、さらにブースト。
衝撃は次の瞬間に来た。ズシンという衝撃がコクピットを揺らす。同時に僕はロボットに命令を発していた。
「踏み台にしてジャンプだ!」
作戦は成功だ。一気に飛び掛って蹴り飛ばし、踏み台にしてさらに加速をつけて公園に向かう花瓶の方へ取り付く。狙いは完璧。
「次はどうしたらいい?」
今度はちゃんと口にして聞いてやる。
武器はワイヤーアンカーだけ。それはバリアー付きの皮に阻まれて役に立たない。ならどうやって戦えばいい?
「戦うつもりだったんだ」
あたりまえだと言っておこう。
「怖いって言っただろ」
「怖いのに逃げないんだ?」
そうさ。
「もし逃げ出したら、その後ろには何がある。僕は何を背にして逃げ出すことになってしまう?」
街を、学校を、家を、、
友達を、家族を、大事なものを、
「僕は置いていくことになっちゃうんだよ」
だから──
追ってきた花瓶を踏み台代わりに蹴飛ばした反動にブーストをかけることで更に加速をつける。離脱した方の花瓶に追いつくのはあっという間だった。
振り返る隙など与えない!
その勢いのまま、僕は花瓶をおもいっきり蹴り飛ばした。
「くそ……」
黒猫が悪態をつく。思ったほど花瓶は吹き飛びはしなかった。ブレーキをかけたようにギッと400m程の距離で急停止する。
背後からはもう一方の方がゆっくりと降下してきていた。
「どうすればいい?」
「手持ちの武装じゃあいつらのバリアは抜けない。あっちの武器だってこちらのバリアは抜けないだろうけど」
そうなの? と聞くとそうだよと黒猫。
でも避けられる分は避けないとね。バリアだってタダじゃないんだしだなんて貧乏臭いことをつぶやく。
「手持ちの武器でダメだったならどうすんのさ」
「そりゃあもちろん」
あぁこいつ、今……笑っているな。前を向いてる僕に後ろの黒猫の表情はわからない。だけどそれがわかる。
「必殺技を、使うのさ」
「そりゃあもちろん」
あぁこいつ、今……笑っているな。前を向いてる僕に後ろの黒猫の表情はわからない。だけどそれがわかる。
「必殺技を、使うのさ」
気が付いた時、一番最初に目に映ったのは白い天井だった。
続いて目に入ってきたのは……、
「お兄ちゃん!」
千歳の泣き顔だった。
「優作が目をさましたぞぉーッ!!」
あぁ、あれは山彦の声だ。
周りが急に騒がしくなってくる。足音と声とそれらが部屋を満たしていく。
「ユウちん、このまま目を覚まさないかと思ったよう」
「ハッ、ユウだったら放っておいたってくたばりゃしねぇよ」
高雄と山彦がじゃれている、声。
高雄が僕の顔をのぞきこんでいる。
「こんなこと言ってるけどさ、山彦ってばユウちんを探してくるってセンセぶん殴って校舎まで走っていったんだよ!」
「バッカ! 言うなって言っただろ!!」
「だから三日間の停学け・っ・て・い☆」
ドタバタと相変わらず騒がしい二人に僕も笑う。そうか、僕は帰ってきたのか。
「ちょっと貴方達、静かにしなさいよ」
伊吹もいる。
バタンと音がして扉が開くと、
「ここは病院です。他に入院されてる患者さんもいるのだから静かにしてください!」
看護婦さんに叱られた。
「すいません」ってみんなで謝る。扉がしまる。そしてみんなでもう一度笑った。
「千歳ちゃんってばさ、学校抜け出して大学の講義を受けに行ってたんだってよ」
「うん。東北大の内村教授がいらっしゃってて……。あそこのロボティクスは日本じゃ随一だからどうしても聞いておきたくって」
よかった──心の底から言葉がこぼれた。その言葉に千歳はまた涙を流している。
「ごめんね、ごめんね。お兄ちゃん、ごめんね」
僕は自然に千歳の頭を撫でる。本当によかった。千歳が無事で本当によかった。
「不破君も後先考えずに突っ込んでいくから、みんなに心配かけたんだからね」
少しキツイ調子の伊吹の声。
「でも、ケガもなくって……本当に良かった」
うん、と素直に頷けた。
「山彦も高雄も、伊吹さんも心配かけてごめん」
続いて目に入ってきたのは……、
「お兄ちゃん!」
千歳の泣き顔だった。
「優作が目をさましたぞぉーッ!!」
あぁ、あれは山彦の声だ。
周りが急に騒がしくなってくる。足音と声とそれらが部屋を満たしていく。
「ユウちん、このまま目を覚まさないかと思ったよう」
「ハッ、ユウだったら放っておいたってくたばりゃしねぇよ」
高雄と山彦がじゃれている、声。
高雄が僕の顔をのぞきこんでいる。
「こんなこと言ってるけどさ、山彦ってばユウちんを探してくるってセンセぶん殴って校舎まで走っていったんだよ!」
「バッカ! 言うなって言っただろ!!」
「だから三日間の停学け・っ・て・い☆」
ドタバタと相変わらず騒がしい二人に僕も笑う。そうか、僕は帰ってきたのか。
「ちょっと貴方達、静かにしなさいよ」
伊吹もいる。
バタンと音がして扉が開くと、
「ここは病院です。他に入院されてる患者さんもいるのだから静かにしてください!」
看護婦さんに叱られた。
「すいません」ってみんなで謝る。扉がしまる。そしてみんなでもう一度笑った。
「千歳ちゃんってばさ、学校抜け出して大学の講義を受けに行ってたんだってよ」
「うん。東北大の内村教授がいらっしゃってて……。あそこのロボティクスは日本じゃ随一だからどうしても聞いておきたくって」
よかった──心の底から言葉がこぼれた。その言葉に千歳はまた涙を流している。
「ごめんね、ごめんね。お兄ちゃん、ごめんね」
僕は自然に千歳の頭を撫でる。本当によかった。千歳が無事で本当によかった。
「不破君も後先考えずに突っ込んでいくから、みんなに心配かけたんだからね」
少しキツイ調子の伊吹の声。
「でも、ケガもなくって……本当に良かった」
うん、と素直に頷けた。
「山彦も高雄も、伊吹さんも心配かけてごめん」
──自分が必要とされてるかどうか不安だなんてさ、必要とされてるじゃん。しっかりとさ。
不意に頭の中に響いた言葉にあたりを見回す。
“彼”は枕元のすぐそばに、いた。
「あぁ、そいつさ、倒れてたユウのすぐ側にいてよ」
「何しようとどうしようとユウちんから離れようとしなかったんだよね」
「で、しょうがないから連れてきたの。手がつけられなくて看護婦さんもしょうがないねって許可してくれて」
「お兄ちゃんを守ってくれてるつもりなのかな」
それは白いカーテンに映える、ビロードの艶をまとった──黒猫。
夢じゃなかったのか?!
絶句する僕に、“彼”は──
“彼”は枕元のすぐそばに、いた。
「あぁ、そいつさ、倒れてたユウのすぐ側にいてよ」
「何しようとどうしようとユウちんから離れようとしなかったんだよね」
「で、しょうがないから連れてきたの。手がつけられなくて看護婦さんもしょうがないねって許可してくれて」
「お兄ちゃんを守ってくれてるつもりなのかな」
それは白いカーテンに映える、ビロードの艶をまとった──黒猫。
夢じゃなかったのか?!
絶句する僕に、“彼”は──
──今後とも、ヨロシクね、ユウ。
僕にだけわかるように、涼やかに、笑った。
■次回予告■
病院のベッドでユウは思う
初めての体験なのに、懐かしさを感じたあの戦いを
黒猫のいざないは彼を何処に連れて行くのか?
自分をとりまく状況を咀嚼して理解する時間さえ与えられず、
ユウは再びレガシアムへと導かれる
ユウは再びレガシアムへと導かれる
運命なのか、それともこれはユウ自身の選択か?
次回 アーティファクト・レガシアム
バタフライ・ドリーム
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