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少女機甲録(仮) 第3話

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sousakurobo

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前回までの粗筋

  • …麗美がいじけた




「どうせっ! 適当に言われただけだもんっ! 司令部からの命令でっ!
別にわた、私でなくても良かったんだし! みんなに教えたり、訓練でなにするのかっ決めてるの、玲だしっ!
ほんとは、玲とか由香里が中隊長で、私は、いらないんだ! 適当に決まっただけだから居ても居なくても同じなんでしょ!」

戻って来たはいいものの、膝を抱えてべそをかいている麗美を前にして、玲はこめかみに皺を寄せ
由香里は玲に「どうするの? あなたの責任でしょ?」と言いたげな視線を送っている。
玲は玲で「どうするっていうの、幼稚園じゃないんだから…放っとけば泣き止むでしょ」と目で言い訳して早くも匙を投げた態度。
それでも一言二言、麗美を宥めすかせるためにできるだけ優しい調子で励ますような言葉をかけてやったのだが…。


麗美は一応とはいえ中隊長だ。 本来なら1尉とか3佐くらいの軍人が担当する、それなりに偉い役職である。
が、麗美は中隊長らしい仕事をした覚えは無い。 玲も、仕事を任せた覚えは無い。
麗美たち新平学生兵士たちが配属された来たときに「麗美が中隊長でやれ」と連隊司令部から申し送りされているから
書類上そうなっているだけだけで、他の学生兵士と同程度の能力や訓練経験しか無い麗美に中隊長としての実務能力は無い。
だから玲も、麗美を中隊長ではなく学生兵士と同様に扱った。
別にそれ自体は間違ってない。
玲は麗美たちより先任だから、新米よりも発言力があるし、時には指揮官役を代行する事も求められる。

問題があるとするなら、麗美の方である。
兵卒としての訓練どころか士官教育も受けてないんだから、中隊長なんて麗美には出来っこないのは自分が一番わかるだろう。
そして、隊員たちに「中隊長に向いていない」「らしくない」のを指摘されるのも、麗美にその能力が足りてないからだ。
ひとえに自分の能力不足であり、それを「正当に評価されていない」と不満を垂れるのは筋が違う。
実際、麗美は誰かに期待されてるわけでも求められてるわけでも無い。
中隊長としての仕事をまっとうできない、部下を掌握できないからと言って、責められる筋合いも無い。
繰り返すが、麗美個人は単なる訓練途中の学生兵士。 別に完璧であることなんか誰も麗美に要求して無い。
ただ麗美が勝手にいじけて、勝手に泣いてるだけなのだ。

…と考えている玲は麗美を突き放し、「なんでこいつ泣いてるの? わけわかんない」的な態度で無言で見下ろしている。
由香里はそんな玲に逆に呆れ顔を向けた。
麗美は両手の甲で涙を拭いながら座り込んだままで聞かず、てこでも動きそうに無い。
乗り捨てた機士も校門の側に放置しっぱなしだし、別の誰かが取りに行ってもいいのだが、それは規律上好ましくない。
自分の機体なのだから、自分で取ってこさせてちゃんとハンガーに戻すまでさせるべきである。
それよりなにより、高校生にまでなった子が何時までも人前で泣いてるのはみっともない。
咲也と初李も麗美の様子を窺うようにこっちに視線を向けている。

仕方が無い、と由香里はため息をつきたい気持ちを我慢して自分が口を出す事に決めた。

「麗美、別にあなたは適当に決められて中隊長になったわけじゃないのよ?
あなたが中隊長に最適だから、そういう配置になったんだもの」

由香里が屈んで麗美にそう語りかけると、麗美は泣きはらした赤い目を由香里に向けた。
小さい子みたいな弱弱しい目をまっすぐ、優しく見つめながら由香里は続ける。

「考えても見て、今は玲が中隊を取り仕切っているけど、玲は中隊長ってガラじゃないでしょ?
玲みたいな厳しい中隊長に居て欲しいと思う?」

「…思わない。 鬼みたいだし、みんな玲の悪口言う」

その返答に由香里はクス、と苦笑いし玲はグサ、と何かに刺されたみたいに渋い表情を見せる。
確かに玲は中隊長というより鬼軍曹である。 厳しいし言ってる事は正しいけど、尊敬はしたくない。
それよりなにより、玲は麗美に対する態度でもそうだが、気配りという物が出来ないのだ。
由香里という例外を除けば誰に対しても一歩突き放した態度で接するし、「軍隊の正論」しか言わない。

「じゃあ他の子はどう? 麗美は自分が、中隊長にしたいって思う人は今のこの中隊の中にいる?
例えば早苗や美鈴は誰にも優しいし気配りは出来るけど?」

「…美鈴は無理。 自分の裁量でやっていい範囲では独創性を出せるけど、他人にこうやればいいって言うのが出来ない。
早苗は、人を見てこうしたらいいってアドバイスはできるけど、強制はしない。 お願いするだけだから。
二人とも気配りできる分、遠慮が邪魔で命令する立場になれないと思う」

「じゃあ有理や初李や翠たちは? 頭はいいし、作戦に関する理解力もある」

「…あの子たちはエンジニア。 分析するのは得意だけど、それは自分の専門分野だけ。
参謀には向いているかもしれない。 でも、指揮官としては単能に特化しすぎている。
中隊長は戦いやメンテナンスだけが仕事じゃない。
やらせればできるかもい知れないけど、あの子たちは専門職の方が向いている」

「真璃や散乃は? 勇敢だしリーダーシップを発揮するかもしれないって思う?」

「…問題外。 真璃も散乃も、言われた事より自分のしたい事を優先する。
散乃はしていい事と悪い事、前に出るべき時と出ない時の違いがわからない。
真璃は作戦や装備に様式美を求めすぎる。 手段を選んでたら指揮官としては二流。
二人とも勇敢というより、蛮勇というのよ」

由香里は中隊員をタイプ別に挙げながら、麗美自身に分析と評価をさせる。
次第に麗美の目からいじけた部分が消え、力と熱が篭り輝きを灯し始めていた。
何かに熱中している時、それも自分の得意分野の時には人は誰でもこうなる。

「そうね、後は…理玖瑠や留美、言われた事はするけど率先したり積極的に自分から仕事をする子じゃないし。
大ちゃんは気が優しすぎて、他人に命令できないからやっぱり中隊長に向いてない。
咲也は生真面目すぎて、玲と同じだし」

「そうなると、他に中隊長を任せられる子って限られてるでしょ?」

ニッコリ微笑みながら問いかける由香里に、麗美は一瞬納得しそうになったが、ふと気が付いてさらに言葉を続けた。

「由香里はどうなの? 玲と同じくらい訓練経験はあるし、整備班を統率してるのは由香里でしょう?
だいたい、私が中隊長に向いてるとしても、それって他に居ないからって消去法でそうなっただけじゃないの?
それなら由香里も同じじゃないの?」

「私はサボり癖があるし、面倒な事はやりたくないって考える人だからダメ。
責任感の無い人は要職に就いたら大変な事になる。
適度な怠け者は確かに、指揮官に向いている。 それでいて、真面目で責任感のある人が最上。
能力も必要だけど、万能である必要は無い。 むしろ、足りないくらいがいい。
そうすれば、自分に出来ない事は、できる部下に分担させる事が出来る。
何でも自分でやってしまって、ワンマンで引っ張っていく様な人は、小隊長くらいにはいいかもしれないけど中隊長には向かないの。部下の能力を把握して、適材を適所に配置できる事も、中隊長には必要な資質。

麗美は中隊長としての仕事や役職に責任を持ちたいのでしょ? だから、皆に言う事を聞かせられないのが悔しいのでしょ?
部下を命令で従わせられるくらいの能力が欲しいって思うこと、そして自分がその能力が足りないって事も自覚できてる。
あなたには責任感も向上心も、自分の限界を把握する力もある。 中隊のメンバーそれぞれの資質を分析も出来る。
じゃあ、あと足りないのは何かしら?」

いつの間にか麗美の涙は乾いていた。
代わりにその瞳には何かの意思と力強さが宿っていた。
自身を取り戻した我らが中隊長様は、「…機士を戻してくる」と言って、駆け足で放置中の自分の89式へと向かって行った。


「…ご苦労様」

「フォローやアフターケアも自分でちゃんとこなしてくれると、私が面倒でなくていいのだけれどね。 教官役の鬼軍曹さん?」

宥め役を完全に由香里に明け渡していた玲に窘めるように由香里が一言二言漏らす。
厳しく突き放す役割が玲、それをフォローする役が由香里という構図は別に悪い事ではないのだが、厳しすぎて玲が恨みを買ったり
反感から支持を失ったりするのはあんまり良い状態とは言えない。
教官役を買って出るのなら、一人で厳しく鍛え、かつフォローを入れるという事もやって欲しい所だが、難しい。

「別に麗美が私に言う事聞かせてやろう、そんくらい強くなってやろうって思うならいくらでも憎まれていい。
私の役職は「先任陸曹」だもの「中隊長」より下。 指揮系統上では、麗美は形の上だけとは言え私に命令できる立場なんだから。
麗美が私に、差し出がましい事はするな、自分が中隊を統率するって自分から言い出すようになれば、それはいい事だもの。
あの子に足りないのは自覚。 色々な事への自覚ね」

「…あなたも色々と自覚して欲しい事はあるけれどね?」

由香里は玲のそんな言い草にため息を漏らす。
玲も完璧ではないが、由香里もそうだ。
由香里自身はあくまでも、実質的な中隊長代行としての玲の責任や負担をカバーする役割は果たしたいが、
中退全員分のメンタル面にも気を回さないといけないとなれば、今度は由香里の負担が大きい。
麗美に言った様に、由香里は真面目でも無いし責任感が強いわけでも無い。
玲が親友であり戦友だから、そうしているだけなのだ。


「わかってる。 今の中隊の状態はあんまり良いって言えない。
みんな遊び半分だし。 真面目にやる気があるのって、少しかいないし。
中隊を動かすために、命令して言う事を聞かせられる人は私と由香里ぐらいしかいない。
私たちには中隊長や参謀や、その他の中隊を仕切れる人員が足りないの。
だからもう少し、負担を分散できるように能力のある人間を育てて、せめて、分隊か小隊としてぐらいは機能できるようにしないと…」

「何をそんなに焦っているの?
定数を満たしてない中隊、お荷物でみそっかすで、戦力にならない私たちが戦う事なんて無いでしょう?」

由香里は玲が何かに取り付かれたかの用に、訓練の進行に執着しているのに疑問を持った。
連隊のほかの中隊が戦闘していても、自分たち第4中隊には命令は来ない。
補給品が来るとき以外は、自衛軍の誰も連絡さえ無い。 時々、忘れさられた?と思ったりするくらい放置状態が続いている。
定期的な報告のために書類を駐屯地に持っていくときも、忙しげな司令部の詰め所では邪魔っけにされるだけだ。

何もしなくてサボって遊んでいても、文句は言われないだろう。
解散命令が来て他の中隊に編入される時でも来ない限り、そういう日々が続くんだろうと由香里は思っている。
だから、玲のやっている事も、中隊の全員が繰り返している毎日も、「軍隊ごっこ」に過ぎない。
しかし、玲は由香里に厳しげな視線を向けて、そして周囲に居る他の中隊員には聞こえないような抑えた声で言った。

「他の中隊の現状がどうなってるか、知ってる?」

由香里は一瞬聞かれたことがよくわからなかった。

「他の中隊の現状がどうなってるか、知ってる?」

由香里は一瞬聞かれたことがよくわからなかった。
現状、と言っても、第1~第4中隊はほぼ毎日数キロ離れた北斗市防衛線で戦っている事ぐらい知っている。
彼らが戦っているから、函館市内の市民と自分たちは、それなりに平和に暮らせているのだ。
夜には砲煙の音が響いてくる、文字通り戦場と隣り合わせの平和。

沢山の兵士や学生兵士の血の犠牲を払って、玲や由香里たちは防衛線の後ろの安全圏内にいる。
彼らがどれだけ苦戦し、必死に戦っているのか。
そのくらい、由香里は承知している……とばかり彼女は思っていた。
だが、玲はもっとシビアに現状を分析していた。

「私達の第4中隊が設立されて、あの子たちが配属されてきて、麗美が中隊長で私達が先任として教育しろって申し送りされて、今日で何日が経ったか憶えている?
…二週間。 この二週間の私達は、北斗市防衛線で戦っている第1~3中隊に比べれば殆ど遊んできたようなものだった。
考えてみて? 戦力不足で、訓練も完了していない学生兵士すら編入して組み込まなければならないほど困窮した状態の3個中隊が、二週間も戦い続けて、今頃どれだけ部隊を消耗させているのか。
戦死も多いだろうし、損耗率はそろそろ全滅、悪くすると壊滅判定を受けても良い頃ね。
自衛軍の頼みの綱のはずの第7師団は中山峠方面から迂回してくるワームの阻止で手一杯だし、南下して合流してくれる様子も無いようだから、多分こっちと似た状況。
本州側からの増援も、そろそろ来ていいはずなのにその気配無し。 いくらなんでも準備に時間がかかりすぎてるし、制海権が取れないから渡って来れないんだと思う。

…次のシミュレーションは、ワームの編成をタイプCやタイプDを混交した機動編成部隊にしないといけないかも知れない。
今までの浸透部隊や威力偵察部隊じゃなく。 どういうことか解るでしょ?」

これまでのシミュレーション内で戦ってきた小型・2mサイズのタイプAは接近戦を挑んでくる歩兵、中型・3mサイズのタイプBは胴体左右から針弾を発射する火力支援タイプだ。
両者は浸透戦術と言って、こちらの防衛線の隙間をぬって侵入・突破し内側を食い荒らす事を目的としている。
これに対応するのは味方の遊撃機動戦力であるが、現在の自衛軍函館戦線にはそれが不足しており、玲たちの第4中隊が
名目だけとはいえ、それを任せられている。
だがタイプCとタイプDはそれらとは違う。
4mサイズとなるタイプCは体の正面にツノの様な突起を持ち、6本の脚で時速50kmという高速で突撃してくる、重騎兵。
さらに一回り大きい5mサイズのタイプDは胴体上面にある発射腔から生成・射出する化学反応ロケットによる
遠距離攻撃をする砲兵だが、強靭な8本の脚で重騎兵に追従してくる機動力を持っている。
これらに直協歩兵としてのタイプA・Bを加えれば、戦線を文字通り突き破って進攻して来る機動部隊となる。

通常は、これらの敵が味方戦線を突破してこないように維持しているのが、北斗市防衛線の役割である。

「まさか…いくらなんでもそんな事態が切迫してるなら、私達の中隊も解散して他の中隊に組み込まれるとか、
増員されて、ちゃんとした指揮官と教官が配属されて戦線に投入されるとか、もっと動きがあるはずでしょう?
いくらなんでも悲観的な推測なんじゃないの?」

「初李の実家が自衛軍のお偉いさんなのは知ってるでしょ?
そのおかげで一部の補給品、特に糧食とかは、お荷物部隊で放置状態でもそれなりに、困らない程度に融通してくれてる。
でも、燃料や弾薬は訓練用の最低限しか回されてこない。
別に訓練はシミュレーションでも出来るから構わないし、事実上は書類だけの幽霊部隊だから、そんなものかもしれない。
でも、今朝になって次の定期補給で弾薬の配備は削減するって通達が今朝、連隊本部から届いた。
つまり私達お荷物部隊のことまで気を回せる余裕は、いよいよなくなってきたって事」

顔を青ざめさせて玲の憶測に懐疑的な態度を取りたがる由香里とて、現状がどれ程危うい状態に近づいているのかぐらい、認識している。
ただ、玲よりは「もっと遅いだろう」「そうなっても自分たちに出番なんか無いだろう」ぐらいに甘く考えていた。
そんな由香里を見て、玲は胸のうちでやっぱり由香里も軍隊ごっこ遊びに興じていただけか、と少なからず落胆した。

「…例え、もし、連隊司令部から出撃命令が来なくても、防衛線が突破されて敵がこっちへやって来る事態は起こるかもしれない。
そしたら私たちは、命令として戦うんじゃなく、自分たち自身を守るために自衛戦闘をしなくちゃならなくなる。
戦争では敵を殺すのは当然、戦うのは当然。 でなきゃ自分が殺されるんだから。
私は、由香里や、麗美や、真璃や中隊のみんなを、全員を死なせたく無いの。
せめて誰も死なないで戦えるくらいには、準備を整えておきたい。 

…由香里、手伝ってくれるでしょ?」

玲はまっすぐに、由香里が視線をそらせないように目を由香里に合わせた。
逃げないで、助けて。 私一人の力ではできないから、そう訴えるような視線だった。
多少落胆はあったとはいえ、玲には協力してくれるような立場の人間は、由香里しか居ない。 頼らざるを得ない。
そして由香里は逃げようの無い、否応無く戦いを選択させられる現状が近づきつつあるのだという事実を突きつけられて、
一瞬迷った……逃げ出したい、逃避したいという思いに駆り立てられたが、玲の視線から目をそらすことは出来ず
そして「戦友」である玲を見捨てる事も出来ないので、観念し、覚悟を決めた。

由香里は、自分の手を伸ばして玲の手をそっと優しく握り、そして少しだけ玲と自分の顔を近づけ、苦笑いを浮かべつつ囁いた。

「手伝わないわけは無いでしょう? 私も玲を死なせたくないし、誰かが死んで玲が悲しむのも見たく無いもの。
もし死ぬとしたら、私は玲と一緒に死ぬのを選ぶ。 一蓮托生よ?」

「由香里…」

由香里は握った玲の手を持ち上げて、その甲に軽く口付けすると玲と二人そろって頬を赤らめた顔を…


「おー…ゆかりんとれーちゃんは百合百合だねえ」

「そうなのかー 二人はらぶらぶ?」

側で並んでしゃがんで、こっちをジーっと見上げている翠と留美に気がついた。

「ちょっ…! あんたたち何時から聞いて…いや見てたのよ!?」

全く二人の視線に気付かないで居たので、うろたえる玲と、両手で顔を覆って「うかつ…私とした事が往来で…」とか
凹んでいる由香里を尻目に翠と留美はしゃがんだまま何やら談義を始める。
まあ確かに、グラウンドで、他の人の目もあるのに、密談に熱中して周囲が見えなくなっていた玲・由香里にも非はあるが。

「なーんかヒソヒソ話してると思ったらさー、いきなり手を握りだすんだもんね、びっくりしちゃったよ」

「キスするかと思ったー」

「そういやうちって、案外女の子同士のカップルになりそうなの多いよね。 有理・真璃とかー有理・初李とかー」

「そうなのかー? だったら中隊長と咲也も?」

「あれはどちらかというと、ちっちゃい子と保護者かなあ……後は、ちる・大も怪しい感じだね
こっちは初々しくていいかんじだけどさー。 まあ玲・由香里の雰囲気には誰も勝てないよね」

ニヤニヤしながら「ねえ?」とこっちを見てくる翠に、ついに玲は切れ、「だれがガチレズだあああああ!?」の怒鳴り声を機に
きゃーと叫んで逃げる翠と留美を玲が真っ赤になって追いかけっこを開始した。
それをこめかみを押さえながら見送る由香里。
少し離れた所で真璃と有理が「なんだ?」という顔を向けている。

とりあえず、第4中隊と函館市内は今日も平和だった



午後。
戦闘班と整備班に分かれて、戦闘班は小銃の射撃訓練、整備班は整備の訓練を、それぞれグラウンドとハンガーで行う。
機士というパワードスーツに乗って戦う時代でも、生身の歩兵が使う小銃の訓練は基本教練の一つだが、
戦闘中に破損して動かなくなった機士から脱出した時の自衛のためにも射撃訓練は必要である。
これまで、銃の扱い方は分解整備と空砲を用いた訓練や、機体脱出後に味方陣地までたどり着くための匍匐前進などしか
やってこなかったが、玲の判断で実弾を用いて標的を撃たせ、命中させるという訓練も開始した。

標的は人間型と、ワーム型があるが、あまり差は無い。

ブルパップ式で銃身長の短い小銃である92式5.7ミリ自動小銃は、女子学生でも構えやすく、軽いのでさほど負担にはならない。
それでも実弾射撃にあまり慣れていない女子学生たちは、あまり良い得点結果にはならず、実弾の反動の大きさに苦慮しているようだった。
グラウンドに響くパン、パンという乾いた音を背景に玲はそれぞれの射撃得点を表に書き起こし、渋い顔をしている。

「咲也は20点…真璃は35点…高いのはこの二人くらいね。 あとは10~15点を揃って低空飛行。
まあ、個人携行火器なんて、引き金引ければ別にいいんだけれどね…」

92式自動小銃は良い銃である。
マガジンは縦ではなく、銃身と平行に横になるように、銃の上部に装着されて装弾数は50発。
そして重量は2.8kg。 発射速度も一分間に900発。 全体が短くコンパクトなので、取り回しがいい。
集弾性能も悪くなく、連射でも良好な命中率を誇ると言われている。
射撃モードも単発・連発・バーストと切り替えられるし、地味にFCSを搭載しているので、自働で風向きや湿度、
目標との距離を測定して最適な射撃が出来るように補正してくれる。
難点といえば、薬莢が足元に真っ直ぐ排出されるので、場合によっては踏んで転ぶ危険があるという事ぐらいだが…

「100m標的でこの成績っていうのは…」

「仕方ないと思います、機士に乗ってるときは弾道計算までFCSが行ってくれますし、
目標に銃口を向けるのは自分の手じゃなくて機士の腕ですから。 でも、小銃は自分で構えて、自分で狙って、自分で撃ちます。 
ブレとか、反動とか、構えがフラフラしてしまうとかの誤差は、どうしても出てしまうんじゃないでしょうか?」

玲の隣でそう言うのは早苗。
彼女は弾丸を詰めなおしたマガジンを装填し、レバーを引いて発射可能状態にしてからセレクターを「安全」から「単発」に切り替え「射撃準備、よし!」と声に出してからシューティングレンジ内に歩いてゆく。
そんな早苗の成績も、あまり良くはない。 パン、と一発撃った弾丸は標的の一番上をビシ!とかすめて命中した。
入れ替わるように、撃ち終わった真璃が今度は玲の隣に来て、結果を申告する。

「ていうかさ、小銃なんて、ワーム相手には弾丸バラ撒いて威嚇する程度しか役に立たないんだし、必中目指す意味はないんじゃないか?
それよりフルオートでの練習しようぜ、と私は思う」

「あんたは撃ちまくってスカっとしたいだけでしょ……それに、そんなに弾薬の備蓄はないの!」

まあ確かに、小銃と言いつつも実際の位置づけはPDW(個人防衛火器)なのは事実だろう。
軽さといい、短さといい、弾丸の口径といい、まともに対ワーム戦闘を考慮しているとは思えない。
対人なら別だが。
ついでに言えば、丸腰よりは安心するという理由のためだけにあるような装備だ。
普段は機士のコクピット搭乗口の横にあるラックに、サバイバルキット類と一緒に収納されている装備である。

「それよりさー? 玲は射撃訓練しなくていいの? というか、先任陸曹様は射撃点数は何点なの?」

同じく麗美が結果申告に戻ってきてそんな発言をしたので、思わず玲は「うっ」と呻いた。
急にしどろもどろになって目を左右に泳がせる。

「私は…別にいいのよ。 教官役だから!」

「ふーん。 じゃあさ、玲が訓練した時は何点だったの?」

「何点でもいいでしょ…? というか何で点数に拘るのよ!」

「私も聞きたいな。 玲の射撃の腕前を。 なあ、何点だった?」

「何で真璃まで訊いて来るのよ!?」

しばらく、三人の間に沈黙の時間が流れる。 二人の視線が玲に注がれるが、玲は顔を露骨に横に向けて冷や汗を流している…。
怪しい。 何となく怪しい。 そう思った麗美と真璃は、じーっと玲に注目して口を割るのを待ったが、玲は沈黙を貫いていた。
ボソりと呟いてそれを破ったのは真璃だった。

「…まさか0点」

「そんなわけないでしょ! 18点は取ったんだから!」

ついと言うか、思わず口走ってしまいハッとする玲と「へーえ、18点なんだあ…」とニヤける二名。
そして今度は麗美・真璃がきゃーと叫んで玲に追い掛け回される場面を、他の戦闘班のメンバーが射撃の手を休めて「なんだろ?」と見つめていた。


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