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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第一話 「灼熱の日に龍は吼える」 中

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匿名ユーザー

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 アブラクサスには二つの顔がある。キリスト教の異端派という発祥を持つ宗教団体、ひいては研究機関としての顔と、アバドン殲滅を最大の目的として掲げる武装組織としての顔である。
 アメリカ合衆国の財政難と中国という仮想敵の破綻から防衛マニュアルを見直された現在では、在日米軍の戦力は往時の七割程度に削減されている。そんな日本と手を軍事的に手を組んだのはアブラクサス財団だった。
 中国がアバドンによって分裂し、そのためにロシアが国境防衛に腐心している今、日本の敵はアバドンくらいのものである。内外の要因に足を引っ張られ防衛費を足すも削るもままならない日本政府にとっては、アブラクサス財団は最良のパートナーと言えた――土地の貸借料や公共料金を踏み倒すことはおろかそれらをビタ一文誤魔化すこともなく支払ってくれるだけでも、米軍よりもずっと良心的な同盟相手である。
 戦闘員(オペレータ)たちが乗り込んだ〈ティンダロス〉は総勢六十機。東京支部の大半の戦力と言ってよく、日本ではこの規模以上のソルディアンが行動に移った例はない。平和に慣れた東京の市民たちがビル街を整然と行軍する全長二十メートルの鉄の巨人を唖然とした眼で見つめるのも無理からぬことだろう。
 アブラクサス制式採用機である〈ティンダロス〉の外見は人狼に良く例えられる。マットな質感のダークグリーンのカラーリングはともかく、突き出た鼻面のドップラーレーダー、頭部の左右に立ったクラビカルアンテナ、正面のデュアルアイカメラ。形状と言い配置と言い確かに犬科の獣のそれで、〈ティンダロス〉を――主に政治的な理由で――採用しない国家から、乗り手共々犬と揶揄されるのもしばしばだ。
 だが機主は、そして〈ティンダロス〉と対峙した者は知っている。この〈ティンダロス〉を犬とするならば、彼らは最高の猟犬であり、ただの犬と侮った者は等しくその報いを受けるだろうことを。
 やがてそれが雲の切れ間から垣間見えた。
 アバドン〈ブフレーム〉の姿が宙を漂っていた。半透明の傘を持つ水母であり、傘からは紫の触手が無数、垂れ下がっている。その頭蓋に開いた眼球のような器官は分厚い甲殻であり、それに守られるようにあらゆる不可思議な現象を司る心臓部が納まっている。これが宙を泳ぐ姿は一見ユーモラスにさえ見えるが、実際は水母以上に剣呑極まりない生物だ――少なくとも、水母は船や建造物を破壊し崩壊に追いやったりはしないし物理的に出来もしない。
 数は目視出来るだけで無数――少なくとも四桁に上る。しかし〈ティンダロス〉には無理な数ではない。
 白昼の蒼穹に向けて砲声が響き渡る。重火器の獰猛な咆吼、劣化ウラン弾とミサイルが空間を埋め尽くし、アバドンの群れを打ち砕く。ブフレームに声帯などはなく、アバドンは銃弾に引き裂かれ、爆炎に焼かれ、破片に砕かれ、数を減じてゆく。鉄の嵐の前には人類の敵と言えど無力とさえ思われた。
 だが弾丸は有限。弾が撃ち尽くされ、〈ティンダロス〉は続々とカートリッジを交換していく。
 対するアバドンの数は無限とも思えた。無限とも思える数が銃弾に撃ち砕かれては蒼穹の彼方から現れ、弾幕の途切れ目を縫っては徐々に接近しつつある。
 そしてブフレームの触手が一機の〈ティンダロス〉に触れた。ブフレームの紫の触手は微細な刺胞で覆われているが、その刺胞は高周波で振動し、物質を破壊してしまう。〈ティンダロス〉の特殊装甲と言えども例外ではなく、ブフレームに絡め獲られた一機は腕や足を奪われ、コクピットを納めた頭部を破壊された。
 それを皮切りとして修羅場が始まった。機械仕掛けの人狼と空飛ぶ水母の混戦。水母の頭部に人狼が高周波ブレードを叩きこみ、その腕を触手が折り砕く。僚機に絡みつく触手を引き離そうとするうちに自身も触手に絡まれる〈ティンダロス〉。たちまちに戦場は大量のジェル状の物体と少量の合金の破片と体液やオイルに覆い尽くされた。
 そんな有様だから一部のブフレームが防衛ラインを突破しても手の講じようがなく、ただ味方の勇戦に期待するしかなかった。

 進退極まってなお奮戦を続けるパイロットたちに、ラボから通信が入った。
〈えー、こちら、ナイキッシュ・アルバロン。オペレータの皆さん聴こえますか? ブフレームの一匹が第七区画に侵入しました。第七区画には我々が〈フォー・ヘッド〉と呼称するアバドン・ヘッドのサンプルが保管されています。それとアバドンが接触すると、恐らくもンの凄い悪い事態が起きます。多分東京が酷いことになっちゃうンじゃないかな? こう言えば後は分かってくれますよね、ライダーの皆さん? では、奮闘を期待します〉
 ナイキッシュ・アルバロンと言えばアブラクサスのみならずアバドン研究の大権威である。アブラクサス上層部にも顔が利き、そんな相手が言い放った命令だから聞き容れざるを得ない。しかし、奮闘とは! 言葉は違えど暗に「死んでも食い止めろ」と言ったのは火を見るより明らかである。
 だが法外な給料で雇われていることは間違いない事実であったし、何より指示に従わなかった際に起きる事態が気にかからなかった者はいない。
 まさしくこの通信こそが更に戦況を悪化させたのだった。

 劣化ウラン弾の十字砲火が一つ二つブフレームを潰してゆく。一つ二つの群れが防衛線の突破を試み、敢え無く撃破され続けた。
 そうした応酬が十数度繰り返されて、やっと一匹のブフレームが防衛線を突破し、また砲弾に水母状の身を四散させる。
それは、あるいは幾重にも戦死者を累として銃弾の雨を掻い潜ろうとする修羅場の兵士の姿にも似ていた。
 ――数十度目、一体のブフレームが第七区画の研究棟に触れた。触手がコンクリートの壁をたちまちに破壊してしまう。
ブフレームの存在に気付いた〈ティンダロス〉がそいつをバラバラに吹き飛ばした。だがブフレームは止まらない。正確に言うなら、ブフレームの群れは。群れは〈ティンダロス〉を飲み込んだ。無論飲み込まれた〈ティンダロス〉は破壊されたが、完全な破壊を受けたものは殆どいなかった。それはあたかも完全に解体するのももどかしげなようにも思われた。
 アバドンは津波のような激しさで研究棟に雪崩れ込んだ。

 ブフレームの目的は地下に埋設されている最重要施設にあった。張り巡らされたトラップと監視カメラはこれまで全ての侵入者たちを退けてきた。しかしブフレームの一群にかかれば人間用の機構など意味を失い、分厚い地下隔壁も紙も同様でしかなかった。不運な研究員たちは逃げ惑い、あるいは触手に身体を破壊され、あるいはアバドンの肉体に押し潰され、あるいは瓦礫に押し潰されて行った。
 ナイキッシュ・アルバロンの背後で壁に穴の生じる轟音が響く。何が起こったかは見なくても分かる――紫と黄色で斑に染め上げた蓬髪を掻き上げながら、アルバロンは緊張感を欠く声でマイクに告げた。
「えー、業務連絡です。たッた今ブフレームが〈フォー・ヘッド〉と接触しました。戦闘を継続している人もそうでない人も速やかに避難してください。まァ絶対安全圏なンてもう東京のどこにもなくなッちまッたンですけどNE! なお、それでも闘うという奇特な人は好きにしていいですよ。頑張ってという他言葉はありません。私は死にたくないので逃げます。じゃ、生きてたらいつかどこかで逢えるかも知れないので恨み言はその際に受け付けます! バイビー」
 そこまで一息に告げて通信を切り、ブフレームの触手に引っかからないように動く。アルバロンの動作が用心深く、だがむしろ緩慢だったのはブフレームに見つからないためだった。多くの動物は素早く動くものを優先して認識する。アバドンの生態は多くが謎に包まれているが、この点に関しては獣も怪生物もさしたる差異はないらしい。ましてやブフレームは「目標」を見つけ、注意をそちらへ向けている。目立つことをしなければ見逃してくれるはずだ。アルバロンに戦闘の意志はない。武器などもちろん持っていないし、仮に武器を持っており、運良く倒すことが出来たとしても、次々に雪崩れ込む数の暴力の前には無意味だろう。触らぬ神に祟り無し、だ。
 ――だが、その前に。
 アルバロンの視線がその光景に釘付けになった。

 それは巨大な培養槽に浸けられた、巨大な蜥蜴の首だった。鼻面まで十メートルはありそうな黒金の鱗の蜥蜴の頭部が、滑らか過ぎる切断面を露にして緑色の液体に浸けられていたのだった。
 ブフレームの触手が彼我を隔てるガラス面に触れると、死んだものと思っていた蜥蜴の頭部はぎょろりと黄色の眼を剥いた。
 培養槽に亀裂が走ると、液体の圧により厚さ二十センチのガラスは雨細工のように割れた。勢い良く緑がかった透明な液体が迸り、床に流れる。
 同時に、先ほど開かれた壁の空隙からブフレームの群れが雪崩れるように入り込んだ。あたかもそれは王の帰還を待ち切れぬ奴僕の有様だった。
 数十のブフレームが絡み合い、混じりあい、一体の巨大なブフレームの如く振る舞い、その触手を蜥蜴の頭に伸ばした。
 それが触れた瞬間――蜥蜴の頭はそれを食らった。
 ブフレームの群れの流入は止まらない。室内で小山を成すブフレームにアルバロンは身の危険を感じ始める。
 蜥蜴の頭の断面の肉が盛り上がる。骨を形成する。その上から筋肉や血管が、皮膚や鱗が形成されてゆく。
しかし、足りない。この程度では王の飢えが満たされはしないのだ。
 王の飢渇を嘆くようにブフレームが次々とその顎に身を投げ出す。
 ブフレームを食らうごとに王は肥え太る。肥え太った王は血管の浮き出た蝙蝠の六枚の翼を羽ばたかせて研究棟を突き破り、中空高く舞い上がった。
 その三本の尻尾の長さは二百メートルにも及ぼう。黒金の鱗に覆われた馬鈴薯状の体躯に手足はなく、そこにあるべき箇所からは四つの蜥蜴じみた頭部が生え出ている。
〈フォー・ヘッド〉の通称の所以だが、正式な名称は別にある。均一に配置された翼の中央で見開かれるように存在する巨大な眼球は、心臓部を覆う外殻だ。
 アバドン・ヘッド〈ヴァシュタル〉――それが四つ首の巨龍に冠された名である。
〈ヴァシュタル〉が四つの顎を開き、その奥に赤い光点を燈らせた。四つのプラズマ火球が宙を走る。〈ティンダロス〉が数機、そちらを振り向いた瞬間に蒸発していた。更に流れ飛んだ火球が高層ビルに直撃し、建築物を盛大に折れ飛ばした。ガラスと建材が群集に降り注ぐ。大小の破片を浴びて十数人が負傷し、あるいは死亡した。熱波に煽られた街路樹が続々と炎を上げる。火球の一つが有料駐車場に着弾し、車が爆発し、あるいは吹き飛んで甚大な被害をもたらした。

 逃げるぞと言うより早く隆一郎はペトラの手を引いてその場から逃げ出した。
 脚力には自信がある。柊隆一郎の名前は中学高校では区内で知れたスプリンターであり、高校時代では都の記録を塗り替えかけたことさえある。尤もその記録は隆一郎とは無関係な理由で抹消されていたが、陸上には全く未練のない今では最早どうでもいい話だった。
 遠く砲声が轟いた。馬鹿な群集がケータイのカメラでその様子を撮影していた。――まさしく馬鹿だ、そんなに死にたいのか? いくら世界中で流れるアバドンのニュースが対岸の火事だからと言って、今後もそうだとは隆一郎には思えない。脳髄の奥で本能が逃げろと言っていた。出来るだけ早く、出来るだけ遠くへ。
「痛いッ」
 ペトラが隆一郎の手から逃れた。
 隆一郎の足が止まる。隆一郎は振り返った。
「大丈夫、リュウ?」
「嫌な予感がするんだよ。早くここから――」
 逃げ出さなくっちゃ。そう言い掛ける隆一郎の耳に、風を切るような音が聴こえた。
 頭上で轟く破砕音――ビルの瓦解する音。弾け飛ぶ重金属音。
 手を伸ばしかけた隆一郎の胸をペトラの手が突き飛ばす。その細腕のどこにそんな力があったのか、隆一郎は尻持ちを付いた。
 その目の前――つい一瞬前に隆一郎が立っていた場所に、巨大な瓦礫が落ちた。濛々たる土煙が立ち込め、隆一郎は呆然とその名を呼んだ。
「――ペトラ?」
 落ちてきた瓦礫は横三メートル、縦四メートル――ペトラを押し潰すには十分な質量でアスファルトに突き立っていた。
まるで墓標のように――不吉な印象が脳裏を掠め、隆一郎は立ち上がった。
 呆気ない――ペトラ・ナトリーはこんなに簡単に死んでいい娘ではないはずだ。何が起こっているのかは分かっているが脳が状況を許容しない。瓦礫を蹴ってみたものの人の手では到底動かせる質量ではないことが分かっただけのこと。
それでも隆一郎は瓦礫を蹴り続ける。何のために蹴り続けているのかも判然としないまま蹴り続ける。
 瓦礫の下から流れた血が隆一郎の靴を濡らした。
 隆一郎は途方に暮れて空を見上げた。青空は不穏に黒ずんでいた。蝉の声も聞こえない。狂騒すら耳に入らない。
 けれど、アバドンだけは眼に入った。水母みたいな姿をしたブフレームがそこかしこで紫色の触手を揮っている。
瓦礫が降る。金属が飛ぶ。人やそうだったものが千切れて舞う。
 太陽が翳った。一際巨大な、四つの頭のアバドンが視界から太陽を覆い隠し、その四つの顎で吼えた。
 隆一郎の視界の隅から隅を火球が横切った。火球が何処かで炸裂して地面を揺るがす。
 全てがスローモーションに見えた。隆一郎は火球が飛んで行く方向を見た。
 そこは病院だった。ついさっきまでいた隆一郎がいた病院だった。祖母の玉枝が入院している病院だった。
 やめろ、やめてくれ。
 病院の白い壁に火球が直撃し、炸裂した。内包するエネルギーが解放され、病院の外から内部を吹き荒れ、瞬く間に七階建ての病院の半分が消失した。

「――うああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 有らん限りの声を上げて隆一郎は絶叫した。
 何故、かくまで無力なのか。無慈悲なる怪物が無慈悲なる暴力を揮い、瓦礫と屍の山を築く。
 見開いた眼から涙が流れる。
 ――力があれば。そう思った瞬間、頭蓋から脊髄に掛けて電流のような衝撃が走った。心臓が一際高く脈打ち、血液と共により強力な力を全身に送り出す。
 バッグに入れた銃を手に執る。銃の形が変わっていた。
メタルグレーの色彩はカッパーレッドに。銃身には精緻な文様が刻まれている。銃把には跡形も無かったはずの銀の鍵のような意匠が象嵌されていた。
 隆一郎の脳裏に、記憶が呼び覚まされた。
 子供の頃に見た鋼鉄の巨人。蹲る、灰色の巨人を見上げるまだ幼い柊隆一郎――父が自分にこの銃を渡した訳に納得した。これはまさしく俺のものだったのだ。ずっと以前から――
 ブフレームが中空に浮いたまま静止し、隆一郎に触手の先を向けたのが見えた。
 ――力があれば。
 ある、力ならばここにあるのだ。隆一郎は涙を振り払い、銃口を天に向け、白熱する脳髄の赴くままに口訣を唱えた。

       劫掠の空より火の涙の落ちる時
          赫奕たる太陽が烈しく命照らす
            荒ぶる戦龍は鋼鉄灼く熱帯びて
               森羅万象等しく灰燼と化しめん

「眼醒めよ、因果の日は来たり――〈ヴォルカドゥス〉!!」

 隆一郎の背後に亀裂が走る。アスファルトではない。空間に亀裂が生じたのだ。引き裂かれた大気が唸り声を上げ、風が巻く。空間の亀裂も雷に似た破裂音を鳴らして広がりながら、隆一郎の背後を中心に稲妻形を描いて八方に散る。ブフレームが恐れるようにその身を震わせて後退する。
 そして「それ」は現れた。六本の指で亀裂を押し広げながら、それは姿を現した。
 全長二十五メートル。有機的な曲線を主として構成された黒鉄と赤銅の装甲は強靭さを窺わせる。四肢のバランスは人型のそれだが、左右とも六本ある手の指は異形の証明か。頭部を飾る五本の角は金色に輝き、その下を彩るアイスブルーの双眸が人の知性さえ感じさせる一方、鼻面に当たる部分は鋭利な印象で突き出し、爬虫類の獰猛さを添えていた。
 龍頭の魔人、あるいは人型の龍。そんな印象を想起させるこの機械は、ソルディアン以外の何物でもありえない。山をも動かし海をも断ち割るオリジナル・ソルディアン以外の何物でも――
 ソルディアンは隆一郎を六本指の手で掬い、頭部にその身を寄せた。隆一郎は頭部の蒼い眼から操縦席に乗り込む。
 操縦席は眼と同じアイスブルーの液体で満ちていた。液体を肺に満たせば呼吸の必要がなくなり、また衝撃を殺す緩衝材でもあり、更に体温や血中の酸素濃度を最適値に保ってくれる。ハニカム・スクリーンが淡い光を発し、正対する形で硬すぎもせずも軟らかすぎもしない奇妙な材質の椅子が備え付けられている。椅子に座ると心臓部であるブラック・サンの脈動を感じた。同時に、両脇に半球状の物体が現れた。椅子と同様の材質で出来たそれは操縦用のインターフェイスであり、
指が触れると同時に隆一郎にもう一つの視点、完全な客観視点が付加された。
 しかし今の隆一郎にはコクピットを観察する余裕はない。ただ怒りが在るだけだ。この怒りをぶつけたい。血と涙の報いを怪物どもに贖わせたい――己の中の獣に従い、隆一郎はその力を揮う。
 まず隆一郎は虫を払うように腕を揮う。呆気なくブフレームが潰れた。
 次に上空に視線を向ける。黒煙は濃さを増し太陽を覆いかけていた。無数のブフレームが群がり出していた。復活したオリジナル・ソルディアンを呪うように――千を越える数が降り注ぐように襲いかかる中、いささかの恐怖も覚えることもなく隆一郎は吼えた。
「ヴォル・ファイアッ!!」
 上下に開いた口吻から晧々たる光が迸り、空間を瞬時に煮え滾らせる。白い焔は上空一万メートルにまで屹立し、千のブフレームを呑み込んだ。沸騰も冷却も一瞬のこと、通常の色彩を取り戻した空間にはブフレームの存在した痕跡は塵さえ見当たらなかった。
 ソルディアンは翼を持たぬ身で高く舞い上がる。やはり無数のブフレームがその身に絡みつこうと触手を伸ばす。
「ゼオ・ソード!」
 隆一郎の声に応え、ソルディアンの左右の前腕部装甲が変型する。液体のように形を失い、形が固定されたそれは拳の方に尖端を長く突出させていた。剣だ。左右二本の剣が揮われるその都度、ブフレームどもは斬断された肉の塊と化して落ちてゆく。
 柊隆一郎という機主を得た今、十一機目のオリジナル・ソルディアン〈ヴォルカドゥス〉が本当の意味で覚醒したのだった。

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