前章「過去」 ―戦と離別―
白い殺風景な医務室で一人の少女がベッドに横たわっていた。
長い黒髪をもつその少女は、安息であるはずの眠りの中でその整った相貌を苦悶に歪ませている。
「……ゥ」
上掛けを握りしめ、呻き声を上げた少女の身体に痛みが走り、それによって少女は目を覚ました。
「!?……」
意識が覚醒しきらないまま、少女は首を巡らし周囲を確認する。
白いシーツに白いカーテン、白い天井と漂う消毒用アルコールの匂い。
「……ここは……ッ!」
自分がいる場所が医務室であると認識すると同時に少女は飛び起き、
「!?ッ――――――」
ようとして右腕から全身に走った激痛に言葉にならない悲鳴を上げる。
僅かな間、痛みに身体を硬直させていた少女だったが、体中に巻かれた包帯を気にもせずベッドから降り裸足のまま医務室を飛び出した。
だが、意識の速度に身体が付いていかず、10メートルも進まない内に転倒してしまう。
「グ……ッ!」
全身に走る痛みにもふらつく頭にも構うことなく、少女は今の自分に出せる精一杯の速度で廊下を走り階段を上っていく。
間もなく、少女は目的の場所-プレートに「司令室」と記載された自動扉の前に到着した。
掌紋認証に右掌を叩き付け、自動扉が開ききるのも待たずに、開いた隙間に身体を割り込ませ、強引に司令室の中に飛び込む。
長い黒髪をもつその少女は、安息であるはずの眠りの中でその整った相貌を苦悶に歪ませている。
「……ゥ」
上掛けを握りしめ、呻き声を上げた少女の身体に痛みが走り、それによって少女は目を覚ました。
「!?……」
意識が覚醒しきらないまま、少女は首を巡らし周囲を確認する。
白いシーツに白いカーテン、白い天井と漂う消毒用アルコールの匂い。
「……ここは……ッ!」
自分がいる場所が医務室であると認識すると同時に少女は飛び起き、
「!?ッ――――――」
ようとして右腕から全身に走った激痛に言葉にならない悲鳴を上げる。
僅かな間、痛みに身体を硬直させていた少女だったが、体中に巻かれた包帯を気にもせずベッドから降り裸足のまま医務室を飛び出した。
だが、意識の速度に身体が付いていかず、10メートルも進まない内に転倒してしまう。
「グ……ッ!」
全身に走る痛みにもふらつく頭にも構うことなく、少女は今の自分に出せる精一杯の速度で廊下を走り階段を上っていく。
間もなく、少女は目的の場所-プレートに「司令室」と記載された自動扉の前に到着した。
掌紋認証に右掌を叩き付け、自動扉が開ききるのも待たずに、開いた隙間に身体を割り込ませ、強引に司令室の中に飛び込む。
――――――――――――――――――――
「……第5波来ます!数は……大型3、小型8!」
「……技術部が対応していますがフィールドの構成式に異常な数式が混入されていて……」
「実働部隊から指示を仰ぐ通信が!」
十数台の端末とそれを操作するオペレーター。
「フィールドの解析を最優先だ、急げ!フィールドの制御を取り戻し次第、実働部隊には働いて貰う!それまでは待機して貰うしかない!」
そのオペレーター達から上がる報告を聴きつつ矢継ぎ早に指示を飛ばす初老の男性。
しかし少女の視線は緊迫した雰囲気に包まれている司令室の人達を通り過ぎ、別な場所、入り口から見て正面に据え付けられた巨大なスクリーンに吸い寄せられた。
少女が自分の状態も省みず確認したかった存在が、そのスクリーンに映し出されていた。
「……技術部が対応していますがフィールドの構成式に異常な数式が混入されていて……」
「実働部隊から指示を仰ぐ通信が!」
十数台の端末とそれを操作するオペレーター。
「フィールドの解析を最優先だ、急げ!フィールドの制御を取り戻し次第、実働部隊には働いて貰う!それまでは待機して貰うしかない!」
そのオペレーター達から上がる報告を聴きつつ矢継ぎ早に指示を飛ばす初老の男性。
しかし少女の視線は緊迫した雰囲気に包まれている司令室の人達を通り過ぎ、別な場所、入り口から見て正面に据え付けられた巨大なスクリーンに吸い寄せられた。
少女が自分の状態も省みず確認したかった存在が、そのスクリーンに映し出されていた。
尖鋭的な装甲に覆われた、胴体部に比して大きめな腕と脚。
流線的な曲線を描く胴体。
肩や腰を中心に、全身の可動部に装着された、プレートを何枚も重ねた様な形状の追加装甲。
当世具足の兜をより細身に洗練させたような頭部と前立てにあたる位置から両側頭部を通り、後方に突き出した二本の角。
顔面部分の形状は人間のそれと等しいらしく、二つの目と鼻から顎までを覆うフェイスプレートで構成されている。
ビルが建ち並ぶ街中を疾走するそれは、高めのビルに匹敵する程巨大な、赤黒い甲冑を身に纏った剣士。
流線的な曲線を描く胴体。
肩や腰を中心に、全身の可動部に装着された、プレートを何枚も重ねた様な形状の追加装甲。
当世具足の兜をより細身に洗練させたような頭部と前立てにあたる位置から両側頭部を通り、後方に突き出した二本の角。
顔面部分の形状は人間のそれと等しいらしく、二つの目と鼻から顎までを覆うフェイスプレートで構成されている。
ビルが建ち並ぶ街中を疾走するそれは、高めのビルに匹敵する程巨大な、赤黒い甲冑を身に纏った剣士。
対大型異存在用兵器 神格式大甲冑壱号機-「フツヌシ」。
最新のロボット技術と錬金工学によって造られた鋼の人型であり、この世界に存在する『神』の一柱、剣の神の力を宿らせる為の人造の依代である。
全身に神の力の顕現である神光を纏った巨大な剣士-フツヌシは、背部や脚部にあるスラスターを使い、高速で移動を続けている。
次々に襲い掛かる敵-『尖兵』と呼ばれる、金属と血肉で形作られ魔力によって稼動する異形の獣達を、フツヌシは両手で構えた自らの身丈程もある太刀を振るい、次々に切り捨てていく。
フィールド内に無数に放出してある撮影装置によるスクリーンの映像が別な視点に切り替わり、先程よりもフツヌシに近付いた映像が映し出される。
拡大されたフツヌシの機体を見るなり少女は両手で口を覆った。
(……フツヌシが……まさかあの時に……?)
スクリーンの中で太刀を横に薙ぎ、『尖兵』を切り飛ばしたフツヌシの全身には無数の破損が生じていた。
左肩の装甲も背に負っていた長銃も失われ、全身至る所に刻まれた亀裂や破損部分からは動くたびに灰白色の冷却液が血液のように吹き出す。
満身創痍というべき状態にも関わらず、フツヌシは斬り払い、踏み砕き、『尖兵』達を屠っていく。
その姿から尋常ではない気迫がスクリーン越しに伝わってくる。
少しでも止まれば、もう二度と動けないとでもいうように。
「唱……覚兄様……」
今まさにフツヌシに乗り込み戦っている、双子の妹と大切な仲間の名前を呟く。
フツヌシのダメージの大半は恐らく少女自身が意識を失う前、自分と覚がフツヌシに搭乗していた際に起きた主機関の暴走によるものだ。
暴走によって起きた神力の逆流で負傷し意識を失った少女は、緊急用に設定されていた転移術によって自動的に待機していた唱と入れ替えられ、医務室に移送されたことになるのだが、暴走が起きる直前までの様子を何度思い返してみても、その様な兆候などは全く無かった。
今までにない大侵攻をしてきた『尖兵』達に、フツヌシは手傷を負いながらも『尖兵』達を次々に倒し、群れの統率者的な個体である巨大な龍型と対峙した。
その際、驚異的な再生能力を持ったその龍型を倒す為、主機関から通常戦闘時に汲み上げている以上の力を引き出そうとしたが、その程度の出力上昇は演習等も含めて二桁以上行っており、原因であるとは考えにくい。
だがそれ以外に原因といえるようなものは心当たりが無いのも事実である。
そして一度暴走しかけた物が万全であるはずが無く、今現在その様な状態の主機関と機体の制御を行っているのは自分の妹、唱であり、文字通り機体と「一体化」して操縦している覚自身の肉体には、機体の損傷が「覚自身の」負傷となって発現している筈だ。
神力の加護によって搭乗者へのダメージは軽減されているとはいえ、無傷で無い以上それは確実に覚を消耗させる。
自分がのうのうと眠っている間に唱と覚は苦境に陥っていたのだ。
自分が引き起こしたミスの所為で。
(全部、私の所為だ)
自責の念に囚われ、自分の思考に沈みそうになった少女は、画面の中に違和感を感じ目を凝らした。
(……何故、フツヌシだけなの?)
普段であればフツヌシを援護してくれている筈の十八式魔導甲冑「吉兼」や最新式の十九式「時正」、魔導甲冑の運搬や支援を行う魔導兵と同数は居るはずの多目的装甲車両で構成された、重装魔導兵部隊の姿が無い。
そこでようやく、最前のオペレーター達と指令のやり取りが意識に上がった。
「異常な数式の混入によるフィールド構成式の異常」
その意味が頭に染み渡った瞬間少女は声を上げていた。
次々に襲い掛かる敵-『尖兵』と呼ばれる、金属と血肉で形作られ魔力によって稼動する異形の獣達を、フツヌシは両手で構えた自らの身丈程もある太刀を振るい、次々に切り捨てていく。
フィールド内に無数に放出してある撮影装置によるスクリーンの映像が別な視点に切り替わり、先程よりもフツヌシに近付いた映像が映し出される。
拡大されたフツヌシの機体を見るなり少女は両手で口を覆った。
(……フツヌシが……まさかあの時に……?)
スクリーンの中で太刀を横に薙ぎ、『尖兵』を切り飛ばしたフツヌシの全身には無数の破損が生じていた。
左肩の装甲も背に負っていた長銃も失われ、全身至る所に刻まれた亀裂や破損部分からは動くたびに灰白色の冷却液が血液のように吹き出す。
満身創痍というべき状態にも関わらず、フツヌシは斬り払い、踏み砕き、『尖兵』達を屠っていく。
その姿から尋常ではない気迫がスクリーン越しに伝わってくる。
少しでも止まれば、もう二度と動けないとでもいうように。
「唱……覚兄様……」
今まさにフツヌシに乗り込み戦っている、双子の妹と大切な仲間の名前を呟く。
フツヌシのダメージの大半は恐らく少女自身が意識を失う前、自分と覚がフツヌシに搭乗していた際に起きた主機関の暴走によるものだ。
暴走によって起きた神力の逆流で負傷し意識を失った少女は、緊急用に設定されていた転移術によって自動的に待機していた唱と入れ替えられ、医務室に移送されたことになるのだが、暴走が起きる直前までの様子を何度思い返してみても、その様な兆候などは全く無かった。
今までにない大侵攻をしてきた『尖兵』達に、フツヌシは手傷を負いながらも『尖兵』達を次々に倒し、群れの統率者的な個体である巨大な龍型と対峙した。
その際、驚異的な再生能力を持ったその龍型を倒す為、主機関から通常戦闘時に汲み上げている以上の力を引き出そうとしたが、その程度の出力上昇は演習等も含めて二桁以上行っており、原因であるとは考えにくい。
だがそれ以外に原因といえるようなものは心当たりが無いのも事実である。
そして一度暴走しかけた物が万全であるはずが無く、今現在その様な状態の主機関と機体の制御を行っているのは自分の妹、唱であり、文字通り機体と「一体化」して操縦している覚自身の肉体には、機体の損傷が「覚自身の」負傷となって発現している筈だ。
神力の加護によって搭乗者へのダメージは軽減されているとはいえ、無傷で無い以上それは確実に覚を消耗させる。
自分がのうのうと眠っている間に唱と覚は苦境に陥っていたのだ。
自分が引き起こしたミスの所為で。
(全部、私の所為だ)
自責の念に囚われ、自分の思考に沈みそうになった少女は、画面の中に違和感を感じ目を凝らした。
(……何故、フツヌシだけなの?)
普段であればフツヌシを援護してくれている筈の十八式魔導甲冑「吉兼」や最新式の十九式「時正」、魔導甲冑の運搬や支援を行う魔導兵と同数は居るはずの多目的装甲車両で構成された、重装魔導兵部隊の姿が無い。
そこでようやく、最前のオペレーター達と指令のやり取りが意識に上がった。
「異常な数式の混入によるフィールド構成式の異常」
その意味が頭に染み渡った瞬間少女は声を上げていた。
「……っ司令!」
刻一刻と悪化していく状況に神経をすり減らしていた初老の男性-少女達が出向してきたこの組織の司令官である若本は、その呼びかけでようやく少女の存在を認識したらしい。
弾かれたように少女の方を向くと、驚愕と非難を含んだ声を上げた。
「祈君!何をしているんだね!安静にしていなければ……」
「そんな事より!状況は、一体今、唱達はどうなっているんですか!?」
少女-祈は若本の声を遮るように、最大の懸念をぶつける。
祈の視線を正面から受け止めた若本は、祈に心の準備する時間を与えるように、殊更にゆっくりと状況を説明する。
「ヤツ等の中にも知恵が回る者が居るらしい。……フィールドの構成式に割り込みをかけられた」
フィールドとは、『尖兵』達による被害を最小限に留める為に開発された、戦場としての異空間を創り出す為の特殊な力場の集合体であり、
「技術部の分析によると、祈君と覚君に対処してもらった龍型の群れだが……奴らは腹の中に特殊な術式の断片を飲み込んでいたらしい」
「フツヌシに攻撃が命中した際に内部に入り込み機能を阻害する数式と、滅ぼされた時点で空間に流出しフィールドそのものに進入する数式の2種類があり、どちらも一定数が揃った所で発動する仕組みになっていた様だ」
言うなれば、機械を通して創り出された大規模な魔術的結界である。
魔術とは世界を構成する要素に干渉して、自己の望む結果を創り出す行為であり、例えるなら、世界というプログラムを操作する数式を扱う技術なのである。
プログラムを操作する数式に異なる数値が一つでも混入していれば、導き出される結果は全く違うものになるのが道理であり、
「対フツヌシの術式は逆ベクトルの力の混入によるフツヌシの神力の不安定化。対フィールドの術式はフツヌシ以外をフィールドから放逐する性質変化だ」
混入された術式は、こちらの領土であるはずの異空間を『尖兵』達の主戦場に変えたのだ。
刻一刻と悪化していく状況に神経をすり減らしていた初老の男性-少女達が出向してきたこの組織の司令官である若本は、その呼びかけでようやく少女の存在を認識したらしい。
弾かれたように少女の方を向くと、驚愕と非難を含んだ声を上げた。
「祈君!何をしているんだね!安静にしていなければ……」
「そんな事より!状況は、一体今、唱達はどうなっているんですか!?」
少女-祈は若本の声を遮るように、最大の懸念をぶつける。
祈の視線を正面から受け止めた若本は、祈に心の準備する時間を与えるように、殊更にゆっくりと状況を説明する。
「ヤツ等の中にも知恵が回る者が居るらしい。……フィールドの構成式に割り込みをかけられた」
フィールドとは、『尖兵』達による被害を最小限に留める為に開発された、戦場としての異空間を創り出す為の特殊な力場の集合体であり、
「技術部の分析によると、祈君と覚君に対処してもらった龍型の群れだが……奴らは腹の中に特殊な術式の断片を飲み込んでいたらしい」
「フツヌシに攻撃が命中した際に内部に入り込み機能を阻害する数式と、滅ぼされた時点で空間に流出しフィールドそのものに進入する数式の2種類があり、どちらも一定数が揃った所で発動する仕組みになっていた様だ」
言うなれば、機械を通して創り出された大規模な魔術的結界である。
魔術とは世界を構成する要素に干渉して、自己の望む結果を創り出す行為であり、例えるなら、世界というプログラムを操作する数式を扱う技術なのである。
プログラムを操作する数式に異なる数値が一つでも混入していれば、導き出される結果は全く違うものになるのが道理であり、
「対フツヌシの術式は逆ベクトルの力の混入によるフツヌシの神力の不安定化。対フィールドの術式はフツヌシ以外をフィールドから放逐する性質変化だ」
混入された術式は、こちらの領土であるはずの異空間を『尖兵』達の主戦場に変えたのだ。
「今現在、全力でフィールド内に突入するための作業を行っているが、混入された数式は構成式の中で完全にランダムな変化を続けている。今のところ解析の目処は、……立っていない」
最後の言葉を絞り出すように口にした若本は、スクリーンに視線を向け、
「不幸中の幸いというべきか、辛うじてフツヌシとフィールド内部の状況はモニター出来ているが、先程の主機関の暴走によって引き起こされた機体のダメージと出力の不安定化はかなり深刻だ」
「…主機関自体もいつまで保つか分からない。停止するならまだ良い、技術部の分析では最悪の場合、暴走による自壊は今のフィールドでは支え切れず、現実世界側にも被害が出るらしい……」
若本から現在の状況を伝えられた祈は、
「そん…な」
殴られでもしたかのように身体を大きくふらつかせた。
「祈君!?いかん、医務室に連絡を!」
しかし祈は、若本が支えようと伸ばした手を押しとどめるように彼の腕に自分の手を重ね、縋るような表情で言葉を続ける。
「いえ…大丈夫です……それより、二人と話せますか?」
「……いや、こちらからの働きかけは出来ない。…済まない、祈君」
「……大丈夫です。謝らないでください」
苦渋に歪めた顔で返答する若本に淡く微笑みかけると、祈は力の入らない様子で姿勢を正すと、真っ直ぐスクリーンに向き直った。
最後の言葉を絞り出すように口にした若本は、スクリーンに視線を向け、
「不幸中の幸いというべきか、辛うじてフツヌシとフィールド内部の状況はモニター出来ているが、先程の主機関の暴走によって引き起こされた機体のダメージと出力の不安定化はかなり深刻だ」
「…主機関自体もいつまで保つか分からない。停止するならまだ良い、技術部の分析では最悪の場合、暴走による自壊は今のフィールドでは支え切れず、現実世界側にも被害が出るらしい……」
若本から現在の状況を伝えられた祈は、
「そん…な」
殴られでもしたかのように身体を大きくふらつかせた。
「祈君!?いかん、医務室に連絡を!」
しかし祈は、若本が支えようと伸ばした手を押しとどめるように彼の腕に自分の手を重ね、縋るような表情で言葉を続ける。
「いえ…大丈夫です……それより、二人と話せますか?」
「……いや、こちらからの働きかけは出来ない。…済まない、祈君」
「……大丈夫です。謝らないでください」
苦渋に歪めた顔で返答する若本に淡く微笑みかけると、祈は力の入らない様子で姿勢を正すと、真っ直ぐスクリーンに向き直った。
(……お願い。……無事に帰ってきて)
自分の名前の通りに、少女は祈り、フツヌシの姿を目で追う。
「……死なないで。唱、覚兄様……」
スクリーンに映し出されたフツヌシは、主機関の不調の現れか時折弱まる神光を纏いながら、それでも獅子奮迅の戦い振りを見せている。
「増援第8波!数……中型3、小型13!」
背後から襲い掛かってきた四足獣型の『尖兵』を振り向きざまに斬って落とし、返されずに手元に引き寄せられ突き上げられた太刀が、頭上に襲い掛かってきた鳥型の『尖兵』を刺し貫く。
鳥型を突き刺したままの太刀を振り下ろして、遠心力で振り飛ばした鳥型を次の襲撃者に叩き付け、太刀を返して鳥型もろとも叩き斬る。
「増援第11波来ます!大型4、中型9!…………」
ビルの壁面を蹴り付ける三角飛びで巨大な蛇型の『尖兵』の頭上を取り、落下の勢いを加えて頭部を切り落とし、落下位置に殺到した十数体の小型や中型の『尖兵』の動きを見越して、背部にある4基の可動型スラスターを噴射させ離れた位置に着地する。
着地した姿勢から前方に身体を投げ出し、再びスラスターを噴射。
固まっている『尖兵』達との間合いを一気に詰め、
前足を切り裂き、
頸部を刺し貫き、
喰らい付いてきた顎を太刀の柄頭でかち上げ、
腹部に肩からの当て身を入れ、
突き放すように蹴り付け、
足下を狙うモノを踏みつぶし、
密着しようとする相手に肘を、膝を叩き付け………………。
まるで剣舞を舞っているかのように、一瞬の停滞も無く動き続けるフツヌシの周囲では、次々と『尖兵』がその中枢を破壊され、その存在を終わらせていく。
その場に固まっていた『尖兵』達を一体残らず滅ぼしたフツヌシは、一度太刀を大きく振るうと、スラスターを使用した大跳躍で別の『尖兵』に挑み掛かっていく……。
自分の名前の通りに、少女は祈り、フツヌシの姿を目で追う。
「……死なないで。唱、覚兄様……」
スクリーンに映し出されたフツヌシは、主機関の不調の現れか時折弱まる神光を纏いながら、それでも獅子奮迅の戦い振りを見せている。
「増援第8波!数……中型3、小型13!」
背後から襲い掛かってきた四足獣型の『尖兵』を振り向きざまに斬って落とし、返されずに手元に引き寄せられ突き上げられた太刀が、頭上に襲い掛かってきた鳥型の『尖兵』を刺し貫く。
鳥型を突き刺したままの太刀を振り下ろして、遠心力で振り飛ばした鳥型を次の襲撃者に叩き付け、太刀を返して鳥型もろとも叩き斬る。
「増援第11波来ます!大型4、中型9!…………」
ビルの壁面を蹴り付ける三角飛びで巨大な蛇型の『尖兵』の頭上を取り、落下の勢いを加えて頭部を切り落とし、落下位置に殺到した十数体の小型や中型の『尖兵』の動きを見越して、背部にある4基の可動型スラスターを噴射させ離れた位置に着地する。
着地した姿勢から前方に身体を投げ出し、再びスラスターを噴射。
固まっている『尖兵』達との間合いを一気に詰め、
前足を切り裂き、
頸部を刺し貫き、
喰らい付いてきた顎を太刀の柄頭でかち上げ、
腹部に肩からの当て身を入れ、
突き放すように蹴り付け、
足下を狙うモノを踏みつぶし、
密着しようとする相手に肘を、膝を叩き付け………………。
まるで剣舞を舞っているかのように、一瞬の停滞も無く動き続けるフツヌシの周囲では、次々と『尖兵』がその中枢を破壊され、その存在を終わらせていく。
その場に固まっていた『尖兵』達を一体残らず滅ぼしたフツヌシは、一度太刀を大きく振るうと、スラスターを使用した大跳躍で別の『尖兵』に挑み掛かっていく……。
――――――――――――――――――――
どれほどの時間が経っただろうか、サソリじみた『尖兵』を両断したフツヌシがその動きを止めた。
周囲に動く物は存在せず、ただ『尖兵』の残骸があるばかりになっている。
フツヌシは両手で構えていた太刀を下ろし、地面に突き立てると柄頭に両手を乗せその場に立ち尽くした。
奇妙な静寂が一瞬漂ったが、若本がその静寂を払拭するように声を上げる。
「止まった……のか?『尖兵』残存数の確認と索敵を急げ!」
若本の叱咤にオペレーターが動きを再開する。
「…『尖兵』残存数無し!フィールド内に『尖兵』の転移反応無し!増援……ありません!」
「フィールドの攻略はどうなっている!?」
「…ようやく突破口が見えたそうです!フィールドの正常化まで約20分!」
「一秒でも早く終わらせるんだ!急がせろ!」
「…10分で終わらせるからボーナスを増やしてくれ!、だそうです」
冗談交じりの通信に、緊張しきっていた司令室の空気がようやく弛緩した。
その空気に、スクリーン正面に立ち続けていた祈の身体から力が抜け、そのまま床にへたり込んでしまった。
「良かった……良かったよぉ、唱ぇ、覚兄様ぁ……」
涙混じりに呟くその祈の様子にオペレーター達にも嬉しそうな笑顔が浮かぶ。だがそこに
「気を抜くな!」
若本の一喝が飛んだ。
皆の視線が若本に集中する。
若本は眉間に皺を寄せた険しい表情のまま室内の全員を見渡し、厳しい口調で言葉を発する。
「今回の苦戦の原因をもう忘れたのか?『尖兵』を使っている奴らはフツヌシとフィールド、言い換えれば『我々の技術』に干渉してきたんだ!」
重いため息を吐き、
「つまり!『尖兵』を使っている奴らは、上層部が都合良く妄想していたような、猿より少しだけ頭が良い程度の生き物ではなく!我々人間と同等かそれ以上の知性を持っているということになる!」
「これだけの戦力を揃えて、わざわざ異世界に侵攻してきている連中が!こんな詰めが甘い終わらせ方をするはずがない!!」
若本の叱責に弛緩していた司令室の空気が一瞬で引き締まった。
オペレーター達は更なる攻撃に備え、各部署に連絡を取り出す。
その様子を確認した若本は、呆然と自分を見ている祈に
「……済まない、祈君」
祈の身内が危険にさらされているのに、安心する材料を与えてやれないことを小声で謝罪し、小さく頭を下げた。
その謝罪を聞き、若本の本心を悟った祈は表情を引き締めて立ち上がると、
「いえ、私がいけなかったんです。司令が仰ったことにも気付かないなんて」
感謝と謝罪を込めて深々と頭を下げた。
軽く頷いた若本は机に肘を載せると組み合わせた両手に顎を乗せて、せめて20分、フツヌシを回収し援軍の投入を終えるまで敵が動かないことを祈りつつ、渋面のままスクリーンを睨むように見据える。
恐ろしくゆっくりと時間が流れているかのような錯覚をその場の全員が感じつつ、それぞれの職務を果たしながら20分という時間が過ぎるのを待ち続けた。
周囲に動く物は存在せず、ただ『尖兵』の残骸があるばかりになっている。
フツヌシは両手で構えていた太刀を下ろし、地面に突き立てると柄頭に両手を乗せその場に立ち尽くした。
奇妙な静寂が一瞬漂ったが、若本がその静寂を払拭するように声を上げる。
「止まった……のか?『尖兵』残存数の確認と索敵を急げ!」
若本の叱咤にオペレーターが動きを再開する。
「…『尖兵』残存数無し!フィールド内に『尖兵』の転移反応無し!増援……ありません!」
「フィールドの攻略はどうなっている!?」
「…ようやく突破口が見えたそうです!フィールドの正常化まで約20分!」
「一秒でも早く終わらせるんだ!急がせろ!」
「…10分で終わらせるからボーナスを増やしてくれ!、だそうです」
冗談交じりの通信に、緊張しきっていた司令室の空気がようやく弛緩した。
その空気に、スクリーン正面に立ち続けていた祈の身体から力が抜け、そのまま床にへたり込んでしまった。
「良かった……良かったよぉ、唱ぇ、覚兄様ぁ……」
涙混じりに呟くその祈の様子にオペレーター達にも嬉しそうな笑顔が浮かぶ。だがそこに
「気を抜くな!」
若本の一喝が飛んだ。
皆の視線が若本に集中する。
若本は眉間に皺を寄せた険しい表情のまま室内の全員を見渡し、厳しい口調で言葉を発する。
「今回の苦戦の原因をもう忘れたのか?『尖兵』を使っている奴らはフツヌシとフィールド、言い換えれば『我々の技術』に干渉してきたんだ!」
重いため息を吐き、
「つまり!『尖兵』を使っている奴らは、上層部が都合良く妄想していたような、猿より少しだけ頭が良い程度の生き物ではなく!我々人間と同等かそれ以上の知性を持っているということになる!」
「これだけの戦力を揃えて、わざわざ異世界に侵攻してきている連中が!こんな詰めが甘い終わらせ方をするはずがない!!」
若本の叱責に弛緩していた司令室の空気が一瞬で引き締まった。
オペレーター達は更なる攻撃に備え、各部署に連絡を取り出す。
その様子を確認した若本は、呆然と自分を見ている祈に
「……済まない、祈君」
祈の身内が危険にさらされているのに、安心する材料を与えてやれないことを小声で謝罪し、小さく頭を下げた。
その謝罪を聞き、若本の本心を悟った祈は表情を引き締めて立ち上がると、
「いえ、私がいけなかったんです。司令が仰ったことにも気付かないなんて」
感謝と謝罪を込めて深々と頭を下げた。
軽く頷いた若本は机に肘を載せると組み合わせた両手に顎を乗せて、せめて20分、フツヌシを回収し援軍の投入を終えるまで敵が動かないことを祈りつつ、渋面のままスクリーンを睨むように見据える。
恐ろしくゆっくりと時間が流れているかのような錯覚をその場の全員が感じつつ、それぞれの職務を果たしながら20分という時間が過ぎるのを待ち続けた。
そして―
「……!フィールド正常化始まりました!!」
オペレーターの一人が上げた報告に司令室の全員から喜びの声が上がる。
「よし、フィールドが安定し次第、フツヌシとの回線を繋いで内部状況の確認!同時に第一、第二部隊を投入!フツヌシの回収と撤退時の護衛を行うよう伝えろ!」
「了解です!」
指示を終え、組んでいた手を解いて椅子に深く座り直した若本に、祈が恐る恐るという様子で声をかける。
「あの……」
祈の様子に一瞬訝しげな表情を浮かべた若本だったが、
「ん?……あぁ、分かっているよ。最初に唱君達と話すのは君だ」
すぐに祈の考えを察し、表情を和ませながらオペレーターに向き直り、指示を出そうとした。
その次の瞬間、
「……!フィールド正常化始まりました!!」
オペレーターの一人が上げた報告に司令室の全員から喜びの声が上がる。
「よし、フィールドが安定し次第、フツヌシとの回線を繋いで内部状況の確認!同時に第一、第二部隊を投入!フツヌシの回収と撤退時の護衛を行うよう伝えろ!」
「了解です!」
指示を終え、組んでいた手を解いて椅子に深く座り直した若本に、祈が恐る恐るという様子で声をかける。
「あの……」
祈の様子に一瞬訝しげな表情を浮かべた若本だったが、
「ん?……あぁ、分かっているよ。最初に唱君達と話すのは君だ」
すぐに祈の考えを察し、表情を和ませながらオペレーターに向き直り、指示を出そうとした。
その次の瞬間、
建物全体に大音量で非常警報が鳴り響いた。
「くそっ……こんな時に!……いや、こんな時だから、か」
「………………そんな……」
右手で頭を掻きむしる若本と、顔色を失い、呆然とする祈。
オペレーター達の反応も二人と同じような物で、その理由はこの警報が鳴らされた理由にある。
このパターンの警報は、フィールド内部の状況に、ある特定の変化が起きると最優先で鳴るように設定されている。
その変化とは即ち、
「フツヌシと同等かそれ以上の魔力値を持った存在が侵攻してきた」
場合である。
「急げ!間に合わなくなるぞ!!」
若本の叫びに弾かれたように皆が動き出す中、呆然としていた祈が視線を巡らすと、スクリーンに映し出されていた映像に変化が起きていた。
剣を杖にして立っているフツヌシの正面、500メートル程離れた位置の空中に小さな黒点が生じていた。
フツヌシが素早く地面に突き立てていた太刀を引き抜いて青眼に構えを取るのとほぼ同時に、黒点が急激に膨張し、異形の文字列で形成された積層型の球形魔法陣に変化する。
次の刹那、フツヌシが全ての推進用スラスターと古流剣術独特の歩法を組み合わせた、神速と形容すべき踏み込みで球形魔法陣に斬りかかった。
振り下ろされる太刀筋は右からの袈裟切り。
激しい神光を纏った太刀の刃が大気を斬り割り、そのまま球形魔法陣を真っ二つに断ち割る。
その場にいた誰もがその光景を幻視した。
だが、
フツヌシの太刀は球形魔法陣の手前で停止させられていた。
黒い文字列の内側から出現した、青い方形の盾を備えた腕によって。
そのまま押し切ろうとスラスターの出力を上げるフツヌシと、その圧力を正面から受け止めて微動だにしない盾。
両者の力が拮抗し、一瞬の間ができる。
その一瞬、僅かな停滞をも見逃さないとでもいうように、方形の盾の陰から、青い閃光がフツヌシの頭部に襲い掛かった。
青い閃光と見えたのは、盾と同色の長剣による神速の刺突。
首を傾けて回避したフツヌシの、人間で言えば左のこめかみに当たる装甲を削り、長剣は突き込まれた時の倍の速度で引き戻される。
追撃を警戒したのか、フツヌシが大きく背後に飛んで距離を取るが、フツヌシの動きを無視するようにゆっくりと球形魔法陣が消え、『それ』が姿を現した。
「………………そんな……」
右手で頭を掻きむしる若本と、顔色を失い、呆然とする祈。
オペレーター達の反応も二人と同じような物で、その理由はこの警報が鳴らされた理由にある。
このパターンの警報は、フィールド内部の状況に、ある特定の変化が起きると最優先で鳴るように設定されている。
その変化とは即ち、
「フツヌシと同等かそれ以上の魔力値を持った存在が侵攻してきた」
場合である。
「急げ!間に合わなくなるぞ!!」
若本の叫びに弾かれたように皆が動き出す中、呆然としていた祈が視線を巡らすと、スクリーンに映し出されていた映像に変化が起きていた。
剣を杖にして立っているフツヌシの正面、500メートル程離れた位置の空中に小さな黒点が生じていた。
フツヌシが素早く地面に突き立てていた太刀を引き抜いて青眼に構えを取るのとほぼ同時に、黒点が急激に膨張し、異形の文字列で形成された積層型の球形魔法陣に変化する。
次の刹那、フツヌシが全ての推進用スラスターと古流剣術独特の歩法を組み合わせた、神速と形容すべき踏み込みで球形魔法陣に斬りかかった。
振り下ろされる太刀筋は右からの袈裟切り。
激しい神光を纏った太刀の刃が大気を斬り割り、そのまま球形魔法陣を真っ二つに断ち割る。
その場にいた誰もがその光景を幻視した。
だが、
フツヌシの太刀は球形魔法陣の手前で停止させられていた。
黒い文字列の内側から出現した、青い方形の盾を備えた腕によって。
そのまま押し切ろうとスラスターの出力を上げるフツヌシと、その圧力を正面から受け止めて微動だにしない盾。
両者の力が拮抗し、一瞬の間ができる。
その一瞬、僅かな停滞をも見逃さないとでもいうように、方形の盾の陰から、青い閃光がフツヌシの頭部に襲い掛かった。
青い閃光と見えたのは、盾と同色の長剣による神速の刺突。
首を傾けて回避したフツヌシの、人間で言えば左のこめかみに当たる装甲を削り、長剣は突き込まれた時の倍の速度で引き戻される。
追撃を警戒したのか、フツヌシが大きく背後に飛んで距離を取るが、フツヌシの動きを無視するようにゆっくりと球形魔法陣が消え、『それ』が姿を現した。
それは、青い鎧を纏った騎士だった。
基本的な形姿は人間の物と等しく、その体躯はフツヌシと同等か僅かに大きい程だろう。
西洋龍を意匠にしたと思しき板金鎧を身に纏い、右手に長剣を持ち、左腕に盾を装着したその形姿は、こちらの世界の中世の騎士に酷似している。
騎士は長剣を持った右手を脇に引きつけると、着地し身構えていたフツヌシに突きかかった。
先程と同様に、いや身体ごと突き込まれる刺突は第一撃よりも更に早く、なおかつ重い。
フツヌシは左側に踏み込みつつ長剣を右に打ち払い、そのまま騎士の左側を走り抜けると、機体を反転させ再び構えを取り直し、
刺突を放った青騎士は、フツヌシの方に向き直り大仰な動作で長剣を左右に切り払うと、その切っ先をフツヌシに向けた。
そのままの状態で、フツヌシも騎士もどちらも動きを止めてしまう。
「……何だ?何が起きている?」
不審そうな表情でスクリーンを凝視している若本に答えるように、通信担当のオペレーターが声を上げた。
「司令!フツヌシから、覚君からです!!」
オペレーターの報告に若本は自分の制御卓に身を乗り出す様にして通信を取った。
「!?繋げ!…覚君!唱君!無事かね!?あの騎士の動きが止まったがどうなって居るんだ!?」
若本の問いかけに、少年の声でノイズ混じりの通信が返ってきた。
「……ザザ……司…い……聞こえますか?」
「聞こえるぞ覚君!どうした!?」
「…ザ……アイツ……っ騎討……ザザザ……」
「くっ、やはり駄目か!?」
表情を更に険しくした若本が歯噛みした所に、再び通信担当オペレーターの声が届く。
「ノイズのパターン解析と除去出来ました!通信再開出来ます!」
若本が制御卓に再び手を伸ばすよりも早く、フツヌシからの通信が飛び込んできた。
「司令!アイツは、あの騎士はフツヌシとの一騎打ちを望んでいます!」
まだ幼さが残る少年の声がとんでもない事を告げてくる。
「!?……兄様?……」
理解出来ないという表情でフツヌシの映像を振り返る祈を視界の端に置きながら、若本は覚が告げた内容を吟味する。
「…覚君、つまりあの騎士と意思の疎通が出来たということかね?」
疑いの声で発された若本の問いかけに、覚は気負うこともなく、
「はい!あの騎士から思念言語でイメージが送られてきました。それと……、その一騎打ちの結果がどうであれ、自分たちは一時的に侵攻を停止すると」
「何!?」
「どうやら奴らの中枢から命令があったようです。この世界に対する侵攻で予想外の被害が出た為、計画を見直す必要がある。そう判断がされたと」
「…そして、あの騎士は僕達を自分の遊び相手に相応しいと判断して、撤退する前の余興に一騎打ちを申し込んできたんです」
「…いかん!もうフツヌシも君たちも限界だ!もうすぐ第一と第二部隊がフィールドに突入出来る。それまでなんとか時間を稼いで……!」
「いえ、それは出来ません。……もし僕達が断れば、あの騎士の手持ちの『尖兵』全てをさっきと同じ効果で別パターンの数式を入れて置き土産にするそうです」
「数は先程までの『尖兵』の約半数……そんなことをされたら恐らく、フィールドもフツヌシも持ちません……」
「奴が真実を語っているという根拠はあるのかね!?増援到着までの時間稼ぎだったらどうする!?そんな不確かな口約束……」
「ですが」
一気にまくし立てようとしていた司令の言葉を遮り、覚は静かな声で言葉を続ける。
「もし本当だったら取り返しが付かなくなります。……大丈夫ですよ。僕達とフツヌシは必ず戻ります」
「そうですよ~。絶対です!」
覚悟を決めた覚の言葉に少女の、唱の言葉が続く。
若本は歪みそうになった表情を無理矢理引き締めると、
「………………一騎打ちを、許可する。必ず、戻って来給え!」
「了解!です」「了解。通信切ります」
通信を終えた若本を始めとしたその場の全員が見守る中、この世界の剣神と異界の騎士との一騎打ちが、開始された。
基本的な形姿は人間の物と等しく、その体躯はフツヌシと同等か僅かに大きい程だろう。
西洋龍を意匠にしたと思しき板金鎧を身に纏い、右手に長剣を持ち、左腕に盾を装着したその形姿は、こちらの世界の中世の騎士に酷似している。
騎士は長剣を持った右手を脇に引きつけると、着地し身構えていたフツヌシに突きかかった。
先程と同様に、いや身体ごと突き込まれる刺突は第一撃よりも更に早く、なおかつ重い。
フツヌシは左側に踏み込みつつ長剣を右に打ち払い、そのまま騎士の左側を走り抜けると、機体を反転させ再び構えを取り直し、
刺突を放った青騎士は、フツヌシの方に向き直り大仰な動作で長剣を左右に切り払うと、その切っ先をフツヌシに向けた。
そのままの状態で、フツヌシも騎士もどちらも動きを止めてしまう。
「……何だ?何が起きている?」
不審そうな表情でスクリーンを凝視している若本に答えるように、通信担当のオペレーターが声を上げた。
「司令!フツヌシから、覚君からです!!」
オペレーターの報告に若本は自分の制御卓に身を乗り出す様にして通信を取った。
「!?繋げ!…覚君!唱君!無事かね!?あの騎士の動きが止まったがどうなって居るんだ!?」
若本の問いかけに、少年の声でノイズ混じりの通信が返ってきた。
「……ザザ……司…い……聞こえますか?」
「聞こえるぞ覚君!どうした!?」
「…ザ……アイツ……っ騎討……ザザザ……」
「くっ、やはり駄目か!?」
表情を更に険しくした若本が歯噛みした所に、再び通信担当オペレーターの声が届く。
「ノイズのパターン解析と除去出来ました!通信再開出来ます!」
若本が制御卓に再び手を伸ばすよりも早く、フツヌシからの通信が飛び込んできた。
「司令!アイツは、あの騎士はフツヌシとの一騎打ちを望んでいます!」
まだ幼さが残る少年の声がとんでもない事を告げてくる。
「!?……兄様?……」
理解出来ないという表情でフツヌシの映像を振り返る祈を視界の端に置きながら、若本は覚が告げた内容を吟味する。
「…覚君、つまりあの騎士と意思の疎通が出来たということかね?」
疑いの声で発された若本の問いかけに、覚は気負うこともなく、
「はい!あの騎士から思念言語でイメージが送られてきました。それと……、その一騎打ちの結果がどうであれ、自分たちは一時的に侵攻を停止すると」
「何!?」
「どうやら奴らの中枢から命令があったようです。この世界に対する侵攻で予想外の被害が出た為、計画を見直す必要がある。そう判断がされたと」
「…そして、あの騎士は僕達を自分の遊び相手に相応しいと判断して、撤退する前の余興に一騎打ちを申し込んできたんです」
「…いかん!もうフツヌシも君たちも限界だ!もうすぐ第一と第二部隊がフィールドに突入出来る。それまでなんとか時間を稼いで……!」
「いえ、それは出来ません。……もし僕達が断れば、あの騎士の手持ちの『尖兵』全てをさっきと同じ効果で別パターンの数式を入れて置き土産にするそうです」
「数は先程までの『尖兵』の約半数……そんなことをされたら恐らく、フィールドもフツヌシも持ちません……」
「奴が真実を語っているという根拠はあるのかね!?増援到着までの時間稼ぎだったらどうする!?そんな不確かな口約束……」
「ですが」
一気にまくし立てようとしていた司令の言葉を遮り、覚は静かな声で言葉を続ける。
「もし本当だったら取り返しが付かなくなります。……大丈夫ですよ。僕達とフツヌシは必ず戻ります」
「そうですよ~。絶対です!」
覚悟を決めた覚の言葉に少女の、唱の言葉が続く。
若本は歪みそうになった表情を無理矢理引き締めると、
「………………一騎打ちを、許可する。必ず、戻って来給え!」
「了解!です」「了解。通信切ります」
通信を終えた若本を始めとしたその場の全員が見守る中、この世界の剣神と異界の騎士との一騎打ちが、開始された。
――――――――――――――――――――
再び太刀を青眼に構えるフツヌシと、盾のある左腕を前に出し、長剣を脇に引きつけた構えを取る青騎士。
間合いはおよそ200メートル。
フツヌシにとっては、いやフツヌシと騎士、両者のどちらにとっても一瞬で距離を詰め一撃を加えられる距離、言うなれば一刀一足の間合い。
息の詰まるような睨み合いの中、手の内を探るように先に仕掛けたのは青騎士だった。
鋭い高速の踏み込みと同時に跳ね上げられた刃が、太刀を握るフツヌシの左腕に襲い掛かろうとする。
だが、青騎士の長剣よりも一瞬早く、半歩踏み込んだフツヌシの太刀が真っ向から騎士の頭部に落とされた。
しかし後の先で放たれたその斬撃を、青騎士は胸前にあった盾を斜めに翳して受け流す。
結果としてフツヌシの斬撃は盾の表面を削る様にして騎士の左手側に流され、青騎士の攻撃も太刀の勢いに体勢を崩されフツヌシの左下腕部の装甲を浅く削るだけに止まった。
互いに初撃が決まらず双方とも体勢を崩した状態にも関わらず、
戦闘は更に継続する。
青騎士が上体ごと左腕を振り回し、盾を左後方にいるフツヌシの背部に叩き付けようとすると、
フツヌシは太刀を振り下ろした姿勢から右膝を胸に引きつけ脚を折り畳みつつ機体を左前方に投げ出し、地面に倒れ込むようにしてその盾を回避。
方形の盾の先端が背部スラスターのカバーを砕くがフツヌシ本体は無傷。
そして盾打ちがカバーを砕いた瞬間フツヌシは胸に引きつけた右足を左前方の地面に突き刺すように踏み下ろした。
地面を踏み付けた右足が親指の付け根に当たる部分を軸に回転し、その回転の動きのまま右脚が伸ばされ、重心である腰が回転しつつ左足側に移動。
腰の回転に同調して上体が回り、青騎士が放った盾打ちの意趣返しとばかりに、左の片手横薙ぎが放たれる。
背後から右腹に襲い掛かる斬撃に、青騎士は一瞬だけ青白い光を全身に纏うと、地面を軽く蹴った。
その軽い動作の結果、重さを持たないかのように青騎士の身体が大きく前方に跳躍し、フツヌシの斬撃が空を切る。
空中で身体を捻った青騎士がフツヌシに向き合うように軽やかに着地し、フツヌシも青騎士が降りる間に体勢を整え構えを取り直した。
間合いはおよそ200メートル。
フツヌシにとっては、いやフツヌシと騎士、両者のどちらにとっても一瞬で距離を詰め一撃を加えられる距離、言うなれば一刀一足の間合い。
息の詰まるような睨み合いの中、手の内を探るように先に仕掛けたのは青騎士だった。
鋭い高速の踏み込みと同時に跳ね上げられた刃が、太刀を握るフツヌシの左腕に襲い掛かろうとする。
だが、青騎士の長剣よりも一瞬早く、半歩踏み込んだフツヌシの太刀が真っ向から騎士の頭部に落とされた。
しかし後の先で放たれたその斬撃を、青騎士は胸前にあった盾を斜めに翳して受け流す。
結果としてフツヌシの斬撃は盾の表面を削る様にして騎士の左手側に流され、青騎士の攻撃も太刀の勢いに体勢を崩されフツヌシの左下腕部の装甲を浅く削るだけに止まった。
互いに初撃が決まらず双方とも体勢を崩した状態にも関わらず、
戦闘は更に継続する。
青騎士が上体ごと左腕を振り回し、盾を左後方にいるフツヌシの背部に叩き付けようとすると、
フツヌシは太刀を振り下ろした姿勢から右膝を胸に引きつけ脚を折り畳みつつ機体を左前方に投げ出し、地面に倒れ込むようにしてその盾を回避。
方形の盾の先端が背部スラスターのカバーを砕くがフツヌシ本体は無傷。
そして盾打ちがカバーを砕いた瞬間フツヌシは胸に引きつけた右足を左前方の地面に突き刺すように踏み下ろした。
地面を踏み付けた右足が親指の付け根に当たる部分を軸に回転し、その回転の動きのまま右脚が伸ばされ、重心である腰が回転しつつ左足側に移動。
腰の回転に同調して上体が回り、青騎士が放った盾打ちの意趣返しとばかりに、左の片手横薙ぎが放たれる。
背後から右腹に襲い掛かる斬撃に、青騎士は一瞬だけ青白い光を全身に纏うと、地面を軽く蹴った。
その軽い動作の結果、重さを持たないかのように青騎士の身体が大きく前方に跳躍し、フツヌシの斬撃が空を切る。
空中で身体を捻った青騎士がフツヌシに向き合うように軽やかに着地し、フツヌシも青騎士が降りる間に体勢を整え構えを取り直した。
―――――――――――――――――――――
再び睨み合う両者。
二合目を仕掛けたのはフツヌシからだった
構えを左脇構えに変化させつつ、背部のスラスターを同調させた踏み込みで青騎士に正面から突っ込む。
無論、青騎士もそれに応じて構えを取るが、フツヌシは急激にスラスターの角度を変えて、騎士の左手側に走り抜ける。
青騎士の左後方まで抜けたフツヌシは背部のメインスラスターを急停止させ、右肩と右腰、左肩と左腰の姿勢制御用スラスターをそれぞれ後部と前部に噴射し急速旋回を敢行。
振り向く青騎士の背中が正面に来た瞬間に姿勢制御用スラスターを切り、同時に背部スラスターを噴射。
左後方から青騎士の背後に放たれる太刀は脇構えからの左袈裟。
それに対する青騎士の反応は背中をフツヌシに正対させることだった。
斬撃の動作に入ったフツヌシに対して、青騎士の背中から昆虫の羽根のように、細長く鋭い結晶状の物体が4本一斉に突き出した。
結晶柱がそれぞれ青白い燐光を放ち始めた瞬間、フツヌシは機体前面の姿勢制御用スラスターを全力噴射させ、右足を杭のように地面に突き立てて急制動をかけようとする。
そして一瞬の間をおいて、フツヌシがいた位置で空間がねじ曲げられ、砕かれた。
二合目を仕掛けたのはフツヌシからだった
構えを左脇構えに変化させつつ、背部のスラスターを同調させた踏み込みで青騎士に正面から突っ込む。
無論、青騎士もそれに応じて構えを取るが、フツヌシは急激にスラスターの角度を変えて、騎士の左手側に走り抜ける。
青騎士の左後方まで抜けたフツヌシは背部のメインスラスターを急停止させ、右肩と右腰、左肩と左腰の姿勢制御用スラスターをそれぞれ後部と前部に噴射し急速旋回を敢行。
振り向く青騎士の背中が正面に来た瞬間に姿勢制御用スラスターを切り、同時に背部スラスターを噴射。
左後方から青騎士の背後に放たれる太刀は脇構えからの左袈裟。
それに対する青騎士の反応は背中をフツヌシに正対させることだった。
斬撃の動作に入ったフツヌシに対して、青騎士の背中から昆虫の羽根のように、細長く鋭い結晶状の物体が4本一斉に突き出した。
結晶柱がそれぞれ青白い燐光を放ち始めた瞬間、フツヌシは機体前面の姿勢制御用スラスターを全力噴射させ、右足を杭のように地面に突き立てて急制動をかけようとする。
そして一瞬の間をおいて、フツヌシがいた位置で空間がねじ曲げられ、砕かれた。
――――――――――――――――――――
辛うじて制動が間に合い、脚部スラスターを使って後方に跳躍したフツヌシに空間破砕の余波が衝撃波となって襲い掛かる。
体勢を崩した空中のフツヌシに対して、姿勢制御スラスターを稼動させるまでの一瞬の隙を突こうと身体を反転させていた青騎士が身構えるが、
大気を貫いて飛翔した短剣が青騎士の目前、腕一つ分ほどの位置に迫っていた。
衝撃波を受けつつも空中のフツヌシは左手を柄から放し、右腰に装着されていた短剣を手に取り投擲していたのだ。
青騎士が素早く盾を打ち振り、短剣を払い落とそうとするが、盾に衝突した短剣が内部に仕込まれていた炸薬により爆発。
それを煙幕としてフツヌシは地面に降り立った。
そして三度目の睨み合い。
僅かな時間に必殺の意思を込めた攻撃をやり取りしてお互いに決め手は無く、戦いは互角かと思われた。
しかし、
フツヌシが纏っていた神光が一瞬消えそうなまでに弱まり、機体が揺らぎ上体が傾ぐ。
そのまま膝から頽れそうになったフツヌシだったが、
「!やっ……兄様!唱!」
固唾を呑んでスクリーンを凝視していた祈が思わず漏らした声が聞こえたかの様に、その場に踏み止まり青眼の構えを取る。
しかし神光は目に見えて減衰し続けており、搭乗者と機体の双方に限界が来ているのは誰の目にも明らかであった。
希望に縋り付くように祈っていたその場の全員の脳裏に、最悪の展開が浮かぶ。
その絶望を振り払うようにフツヌシが動いた。
体勢を崩した空中のフツヌシに対して、姿勢制御スラスターを稼動させるまでの一瞬の隙を突こうと身体を反転させていた青騎士が身構えるが、
大気を貫いて飛翔した短剣が青騎士の目前、腕一つ分ほどの位置に迫っていた。
衝撃波を受けつつも空中のフツヌシは左手を柄から放し、右腰に装着されていた短剣を手に取り投擲していたのだ。
青騎士が素早く盾を打ち振り、短剣を払い落とそうとするが、盾に衝突した短剣が内部に仕込まれていた炸薬により爆発。
それを煙幕としてフツヌシは地面に降り立った。
そして三度目の睨み合い。
僅かな時間に必殺の意思を込めた攻撃をやり取りしてお互いに決め手は無く、戦いは互角かと思われた。
しかし、
フツヌシが纏っていた神光が一瞬消えそうなまでに弱まり、機体が揺らぎ上体が傾ぐ。
そのまま膝から頽れそうになったフツヌシだったが、
「!やっ……兄様!唱!」
固唾を呑んでスクリーンを凝視していた祈が思わず漏らした声が聞こえたかの様に、その場に踏み止まり青眼の構えを取る。
しかし神光は目に見えて減衰し続けており、搭乗者と機体の双方に限界が来ているのは誰の目にも明らかであった。
希望に縋り付くように祈っていたその場の全員の脳裏に、最悪の展開が浮かぶ。
その絶望を振り払うようにフツヌシが動いた。
――――――――――――――――――――
青眼に構えられていた太刀がゆっくりと持ち上がり、切っ先が天を指す。
それは火の位とも称される大上段。
太刀を構えたフツヌシの全身から眩い程の神光が放たれ、元々刀身が帯びていた神光の上に、更に稲妻の様な神光が絡み付いていく。
青騎士も次が最後の一合になると見たのか、フツヌシに応じるように長剣を顔の横に立て、全身に青白い光を纏う。
フツヌシと青騎士が放つ「力」の圧力に負けて、それぞれの周囲で空間が軋みを上げて爆ぜ始める。
共に最大まで高まった力を放つべく機を窺う両者。
その力の余波がぶつかり合い、互いのほぼ中間で一際大きく空間が爆ぜたのを合図に、フツヌシが、騎士が、同時に地を蹴った。
フツヌシはスラスターの赤光を、青騎士は青白い燐光を置き去りにするような速度で両者が激突し、その余波で撮影装置が破壊され、一瞬ノイズが走ったあとスクリーンの映像が消失した。
青騎士も次が最後の一合になると見たのか、フツヌシに応じるように長剣を顔の横に立て、全身に青白い光を纏う。
フツヌシと青騎士が放つ「力」の圧力に負けて、それぞれの周囲で空間が軋みを上げて爆ぜ始める。
共に最大まで高まった力を放つべく機を窺う両者。
その力の余波がぶつかり合い、互いのほぼ中間で一際大きく空間が爆ぜたのを合図に、フツヌシが、騎士が、同時に地を蹴った。
フツヌシはスラスターの赤光を、青騎士は青白い燐光を置き去りにするような速度で両者が激突し、その余波で撮影装置が破壊され、一瞬ノイズが走ったあとスクリーンの映像が消失した。
――――――――――――――――――――
永遠とも思える僅かな時間の後、ホワイトアウトしていたスクリーンに映像が復活する。
「!?……あぁ……」
そして、祈の口から意味をなさない声が漏れた。
それは、ほんの一瞬前から祈の左半身に発生した奇妙な鈍痛の所為ではなく、
青騎士の掲げた盾を左腕ごと断ち切ったフツヌシの太刀が、騎士の左肩口、人間で言えば鎖骨に当たる位置で停止してしまっている所為でもなく、
「……フツヌシが……」
青騎士の長剣に胸部を貫かれたフツヌシの姿に因るものだった。
深く踏み込んだ姿勢の青騎士が突き上げるような形で放った長剣が、フツヌシの胸部装甲を貫き、背部からその切っ先を覗かせている。
「……あ、…………あぁ……」
問題は、刺突によって貫かれたのが「操縦席がある筈の場所」である、ということだ。
祈の左半身の痛みは鈍痛からさらに痛みを増し、激痛とでもいうべきものになっている。
「………………とな、え」
祈は、この痛みがしばしば唱との間に起きる双子としての共感によるもので、今現在、唱が味わっている痛みが自分に届いているのだということを理解していた。
その吐き気を催す程の激痛と、スクリーンの中のフツヌシの状態、それらが意識の上で重なり、気付きたくなかった結論が導き出される。
今、唱は、自分の妹は、あの長剣によって、こんな痛みを味わっている。
「!?……あぁ……」
そして、祈の口から意味をなさない声が漏れた。
それは、ほんの一瞬前から祈の左半身に発生した奇妙な鈍痛の所為ではなく、
青騎士の掲げた盾を左腕ごと断ち切ったフツヌシの太刀が、騎士の左肩口、人間で言えば鎖骨に当たる位置で停止してしまっている所為でもなく、
「……フツヌシが……」
青騎士の長剣に胸部を貫かれたフツヌシの姿に因るものだった。
深く踏み込んだ姿勢の青騎士が突き上げるような形で放った長剣が、フツヌシの胸部装甲を貫き、背部からその切っ先を覗かせている。
「……あ、…………あぁ……」
問題は、刺突によって貫かれたのが「操縦席がある筈の場所」である、ということだ。
祈の左半身の痛みは鈍痛からさらに痛みを増し、激痛とでもいうべきものになっている。
「………………とな、え」
祈は、この痛みがしばしば唱との間に起きる双子としての共感によるもので、今現在、唱が味わっている痛みが自分に届いているのだということを理解していた。
その吐き気を催す程の激痛と、スクリーンの中のフツヌシの状態、それらが意識の上で重なり、気付きたくなかった結論が導き出される。
今、唱は、自分の妹は、あの長剣によって、こんな痛みを味わっている。
あの刃が唱の生命を奪おうとしているのだ。
――――――――――――――――――――
神光は最早微かにしか見えないレベルにまで弱まり、フツヌシは、青騎士に食い込んだ太刀と己の腹を貫く長剣によって辛うじて機体を支えているように見えた。
青騎士が踏み込んだ姿勢から体勢を戻し、只の人形のように力を失ったフツヌシの機体から長剣を引き抜く。
そして右肩に浅く食い込んだ太刀を半ばから断ち切られた下腕部で押し上げるようにして外そうとした。
しかし、
両手で保持された太刀は微動だにしない。
二度、三度と力を入れる青騎士だが、太刀は動かない。
そして次の瞬間、それは起こった。
フツヌシの全身から爆発的な神光が放たれたのだ。
細部が確認できなくなる程の神光で、輝く人型と化したフツヌシの両腕に力が籠もり、凄まじい勢いで青騎士の右腰側に振り抜かれた。
無論、両腕と同じ軌跡をなぞった太刀によって左肩から右腰にかけて青騎士の身体が両断される。
青騎士が踏み込んだ姿勢から体勢を戻し、只の人形のように力を失ったフツヌシの機体から長剣を引き抜く。
そして右肩に浅く食い込んだ太刀を半ばから断ち切られた下腕部で押し上げるようにして外そうとした。
しかし、
両手で保持された太刀は微動だにしない。
二度、三度と力を入れる青騎士だが、太刀は動かない。
そして次の瞬間、それは起こった。
フツヌシの全身から爆発的な神光が放たれたのだ。
細部が確認できなくなる程の神光で、輝く人型と化したフツヌシの両腕に力が籠もり、凄まじい勢いで青騎士の右腰側に振り抜かれた。
無論、両腕と同じ軌跡をなぞった太刀によって左肩から右腰にかけて青騎士の身体が両断される。
しかし、フツヌシの動きはそこで止まらない。
右腰に抜けた刃が疾風の速度で垂直に跳ね上がり右腕を肘上から断ち切り、
さらに加速しながら刃は青騎士の頭上へと翻り、
青騎士の頭頂部から股間を正中線にそって雷光の速度で断ち割り、
そのまま、真下の地面までをも切り裂いた。
青騎士の足下から背後に伸びる長大な亀裂を創り出す程の斬撃、その余波によって太刀筋の余りの鋭さに立ち姿を保っていた青騎士の身体が弾け飛ぶように四散する。
さらに加速しながら刃は青騎士の頭上へと翻り、
青騎士の頭頂部から股間を正中線にそって雷光の速度で断ち割り、
そのまま、真下の地面までをも切り裂いた。
青騎士の足下から背後に伸びる長大な亀裂を創り出す程の斬撃、その余波によって太刀筋の余りの鋭さに立ち姿を保っていた青騎士の身体が弾け飛ぶように四散する。
僅かな間の後、地面に太刀を食い込ませていたフツヌシの機体が、頽れ、左膝を突く。
そして頭部が力無く項垂れ、その巨体から神光が完全に消え失せた。
そして頭部が力無く項垂れ、その巨体から神光が完全に消え失せた。
―――――――――――――――――――
司令室でスクリーンを見守っていた皆が呆然としている中、真っ先に動いたのは矢張り若本だった。
「フィールド内の捜査開始!実働部隊はフィールド内に突入せよ!フツヌシの機体回収と搭乗者の救護を急げ!!二人の、フツヌシの状態はどうなっている!?」
若本の最初の一語で正気を取り戻し、オペレーター達が作業を再開する。
「敵「青騎士」の反応完全に消えました!その他の『尖兵』の出現もありません!」
「第一、第二部隊突入、フツヌシとの合流まで3分です!」
「整備装甲車と救護班も同時に突入しています!」
次々と報告がなされる中、一人のオペレーターの報告が皆の表情を凍り付かせた。
「……フツヌシ、主機関停止!覚君と唱ちゃんの生命反応が危険域です!!副機関も出力不全で二人分の生命維持系が保ちません!!」
若本は焦燥を顔に貼り付けたまま、
「第一部隊!到着し次第フツヌシの操縦席のハッチをこじ開けろ!!救護班はすぐに二人を『クレイドル』に入れるんだ!一秒の猶予もない!」
回復魔術と能動型人工ES細胞の併用により、世間の常識を遙かに越える回復機能を持たせた個人型の生命維持槽の使用許可を端末に打ち込みながら叫ぶ。
その場の全員が一瞬でも早く二人が救助される事を祈っていると、そこに割り込むように通信が入った。
「司令!覚君からです!」
「!?繋げ!」
通信端末から聞こえてきたのは覚の、どこか熱に浮かされたような声だった。
「…司令……聞こえて…ますか……?」
「兄様!」「聞こえるぞ覚君!」
「…司令、見ました、か?……フツヌシも、…僕達も、限界…って言ってましたけど……勝ちましたよ……?」
「あぁ!君はよくやってくれた!だから喋るのを止めて救助を待ち給え!すぐに救護班が……!」
「えぇ…、そうです、ね。……流石に……限界、みたい…です。……少し……寝ますけど…すぐ、起きます…から……」
「分かった!だから喋るのは……!!」
「…………祈」
自分の名を呼ばれた祈が司令席の端末に駆け寄り、覚の声に答える。
「は、はい!聞こえてます!兄様!!」
「…悪いん、だけ…ど……、……三十…分…くらい、……した、ら…………起こ…し……て………………」
覚からの通信はそこで途切れ、通信端末から聞こえているのは途絶時のノイズのみになってしまった。
「フィールド内の捜査開始!実働部隊はフィールド内に突入せよ!フツヌシの機体回収と搭乗者の救護を急げ!!二人の、フツヌシの状態はどうなっている!?」
若本の最初の一語で正気を取り戻し、オペレーター達が作業を再開する。
「敵「青騎士」の反応完全に消えました!その他の『尖兵』の出現もありません!」
「第一、第二部隊突入、フツヌシとの合流まで3分です!」
「整備装甲車と救護班も同時に突入しています!」
次々と報告がなされる中、一人のオペレーターの報告が皆の表情を凍り付かせた。
「……フツヌシ、主機関停止!覚君と唱ちゃんの生命反応が危険域です!!副機関も出力不全で二人分の生命維持系が保ちません!!」
若本は焦燥を顔に貼り付けたまま、
「第一部隊!到着し次第フツヌシの操縦席のハッチをこじ開けろ!!救護班はすぐに二人を『クレイドル』に入れるんだ!一秒の猶予もない!」
回復魔術と能動型人工ES細胞の併用により、世間の常識を遙かに越える回復機能を持たせた個人型の生命維持槽の使用許可を端末に打ち込みながら叫ぶ。
その場の全員が一瞬でも早く二人が救助される事を祈っていると、そこに割り込むように通信が入った。
「司令!覚君からです!」
「!?繋げ!」
通信端末から聞こえてきたのは覚の、どこか熱に浮かされたような声だった。
「…司令……聞こえて…ますか……?」
「兄様!」「聞こえるぞ覚君!」
「…司令、見ました、か?……フツヌシも、…僕達も、限界…って言ってましたけど……勝ちましたよ……?」
「あぁ!君はよくやってくれた!だから喋るのを止めて救助を待ち給え!すぐに救護班が……!」
「えぇ…、そうです、ね。……流石に……限界、みたい…です。……少し……寝ますけど…すぐ、起きます…から……」
「分かった!だから喋るのは……!!」
「…………祈」
自分の名を呼ばれた祈が司令席の端末に駆け寄り、覚の声に答える。
「は、はい!聞こえてます!兄様!!」
「…悪いん、だけ…ど……、……三十…分…くらい、……した、ら…………起こ…し……て………………」
覚からの通信はそこで途切れ、通信端末から聞こえているのは途絶時のノイズのみになってしまった。
――――――――――――――――――――
「兄さま!?ねぇ!返事をして下さい兄様!!!」
ノイズだけが聞こえる端末に懸命に呼びかけ続ける祈。
一分、二分……、祈の呼び掛ける声と途絶のノイズが司令室に響き続ける。
どれ程の時間が経過したのだろうか、急に途絶のノイズが止まり、端末に通信有りのランプが点灯した。
司令が反応するよりも早く、祈が端末を操作し、相手に呼びかける。
「兄様!返事をして下さい兄さ……」
「……祈ちゃーん、兄様じゃないよぉ……」
端末からは覚ではなく唱の、場にそぐわないノンビリとした声が流れ出す。
「と、唱!?大丈夫なの!?怪我は、怪我はどうなってるの!?」
「……ん~?大丈夫だよ?」
大丈夫な訳が無い。
現に祈が感じる痛みは一向に衰えていないのだから。
負傷が酷すぎて怪我の程度が認識できなくなっているのだろうか。
「そんな筈……!良いから!喋らないでじっとしてて!今フツヌシが動かなくなっちゃって、二人分の生命維持が難しいんだから!お願い!!」
祈のその言葉に、少し間があってから唱の返答があった。
「……そうなんだぁ。うん、分かった~。……あのねぇ、祈ちゃん」
「何?……どうしたの唱!?」
「……さっきね、あの騎士の人最後に笑ってたの。楽しそうに」
「え……笑って、た……?」
「……うん。何でだろうね。……あぁそれともう一個」
「だから喋らないで!話なら後でちゃんと聴くから!!だから……!!」
泣きそうになりながら話を遮ろうとする祈に苦笑混じりの声で唱は言葉を続ける。
「……後じゃ間に合わないよぉ……祈ちゃん、この前のケーキバイキングの約束なんだけど」
「え?」
「……行けなくなっちゃった。ゴメンね」
「……唱?」
「――――――」
妹の唐突な言動に祈が訝しげな声を出したが、唱からの返事は無く、すぐに途絶のノイズが流れ出す。
「唱?……唱!?しっかりして!とな……!」
嫌な予感を振り払おうと、何度も通信のスイッチを入れ直し、繰り返し何度も唱の名を呼ぶ祈。
しかし、何十度目かの呼び掛けをしようとしたその時、
ノイズだけが聞こえる端末に懸命に呼びかけ続ける祈。
一分、二分……、祈の呼び掛ける声と途絶のノイズが司令室に響き続ける。
どれ程の時間が経過したのだろうか、急に途絶のノイズが止まり、端末に通信有りのランプが点灯した。
司令が反応するよりも早く、祈が端末を操作し、相手に呼びかける。
「兄様!返事をして下さい兄さ……」
「……祈ちゃーん、兄様じゃないよぉ……」
端末からは覚ではなく唱の、場にそぐわないノンビリとした声が流れ出す。
「と、唱!?大丈夫なの!?怪我は、怪我はどうなってるの!?」
「……ん~?大丈夫だよ?」
大丈夫な訳が無い。
現に祈が感じる痛みは一向に衰えていないのだから。
負傷が酷すぎて怪我の程度が認識できなくなっているのだろうか。
「そんな筈……!良いから!喋らないでじっとしてて!今フツヌシが動かなくなっちゃって、二人分の生命維持が難しいんだから!お願い!!」
祈のその言葉に、少し間があってから唱の返答があった。
「……そうなんだぁ。うん、分かった~。……あのねぇ、祈ちゃん」
「何?……どうしたの唱!?」
「……さっきね、あの騎士の人最後に笑ってたの。楽しそうに」
「え……笑って、た……?」
「……うん。何でだろうね。……あぁそれともう一個」
「だから喋らないで!話なら後でちゃんと聴くから!!だから……!!」
泣きそうになりながら話を遮ろうとする祈に苦笑混じりの声で唱は言葉を続ける。
「……後じゃ間に合わないよぉ……祈ちゃん、この前のケーキバイキングの約束なんだけど」
「え?」
「……行けなくなっちゃった。ゴメンね」
「……唱?」
「――――――」
妹の唐突な言動に祈が訝しげな声を出したが、唱からの返事は無く、すぐに途絶のノイズが流れ出す。
「唱?……唱!?しっかりして!とな……!」
嫌な予感を振り払おうと、何度も通信のスイッチを入れ直し、繰り返し何度も唱の名を呼ぶ祈。
しかし、何十度目かの呼び掛けをしようとしたその時、
ぞくり、と
祈の背筋に震えが走った。
そして、その感覚が何であるのか気付くよりも早く、オペレーターのその声が祈の耳に届いた。
「……唱ちゃんの生命反応が…………拾えません……」
突然周囲が騒がしくなった。
司令も、オペレーターの人達も、何かを叫んでいる。
しかし、自分の耳に届く周囲の音が段々と小さく、いや遠ざかっていく。
もう皆が話しているのがどんな内容なのかも分からない。
照明が故障でもしたのか、周囲が急激に暗くなっていく。
もう真っ暗だ。
何も聞こえないし、
何も見えない。
聞きたくないし、
見たくない。
きづきたくない。
いやだ。
いやだいやだいやだいやだ。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……。
そして、その感覚が何であるのか気付くよりも早く、オペレーターのその声が祈の耳に届いた。
「……唱ちゃんの生命反応が…………拾えません……」
突然周囲が騒がしくなった。
司令も、オペレーターの人達も、何かを叫んでいる。
しかし、自分の耳に届く周囲の音が段々と小さく、いや遠ざかっていく。
もう皆が話しているのがどんな内容なのかも分からない。
照明が故障でもしたのか、周囲が急激に暗くなっていく。
もう真っ暗だ。
何も聞こえないし、
何も見えない。
聞きたくないし、
見たくない。
きづきたくない。
いやだ。
いやだいやだいやだいやだ。
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ……。
「……となえ……」
妹の名を呟いたことも、力が抜けた身体が後ろに倒れていることも、どこか他人事のように感じながら、
祈の意識は闇に飲み込まれていった。
祈の意識は闇に飲み込まれていった。
――――――――――――――――――――
そして様々な因縁を内包し、物語は時を移す。
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