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冬頃の惨劇Ⅰ(笑)

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ロボスレ学園 冬頃の惨劇Ⅰ(笑)』



 私立だから都立だか国立だか、どこにあるかも不明なマンモス学校、その名もロボスレ学園。校章は『炉』。
 幼稚園から大学院までエスカレーター式だとか、校舎が変形するだの、プールの下にはロボットを射出するカタパルトがあるだの、核兵器にも耐えられるというか無効化できるだの、生徒会の戦闘力は53万とか、数知れない奇奇怪怪かつ奇妙奇天烈な噂を持つ普通の学園である。
 そのロボスレ学園にも冬は来る。北風厳しい今日この頃、天気予報のお姉さんも風邪の注意を促し始める。というかとっくにしていたが。
 D組の女子学生であるジュリア=ブルーストリートは、室内プールに行こうかと考えて(水泳部なので)、面倒だからと思考のチャンネルを切り替えると、さっさと帰宅してしまおうとHRが終わるや否や、教科書とノートを鞄に詰め込んで立ち上がった。
 どうせ明日からは冬休みなのだ。嫌いな勉強をしないでも済む。
 軽い倦怠感が体に蓄積しているようだ。こんな日は、早めに風呂に入って早めに寝ることに限る。そんな老人のような考えをしつつ、教室から出ようとして、

 「大変大変よー!! 事件よ!」
 「ぐはっ」

 どこぞのギャルゲー主人公のように、制服の襟首を背後から掴まれて悶絶した。後ろに倒れこむかと思いきや、なにやら柔らかく温かい二つのなにかがクッションとなって痛くは無かった。
 意味も分からず背後から抱きしめられるジュリア。背後に居る人物は、華奢な作りのジュリアの体躯を人形のように抱きしめたまま左右にぶんぶんと振り回す。
 両手を持ち上げて、背後からの拘束を解除。不機嫌を隠そうともしないジト目でクラウディアを見遣る。クラスメイトの視線が突き刺さると思いきや、特にそれはない。この学園では普通のことであるのだ。
 ジュリアは、何があったのかを聞くためにクラスを出ると、鞄を背負いなおしてクラウディのほうに向き合った。赤くやや冷たい印象の瞳と、柔らかい印象の瞳が視線をかわす。

 「……なんだよ。マント姿のロリ怪人でも出た? 人相と目つきがヤバい先生の気絶させた数が増えた? 変紳連とか名乗る連中と生徒会の折檻部隊との抗争が激化? 最後のならメリッサかシロに頼めばいい」
 「ちが~うの! みんなで集まって秘密の鍋パーティーをやろうって、メールが来たのよ!」
 「………事件、ねぇ。場所は?」
 「旧校舎の教室」
 「うーん……、なんでまたその場所に」
 「なんとなくじゃない? きっと」

 大変だとか言う割には嬉しそうな顔を隠そうともしない目の前の親友の顔を眺めつつ、今日の予定について脳内で整理を始める。帰って、勉強して、ご飯食べて……嗚呼、悲しいかな、ジュリアの予定に忙しさは一切無かった。
 このまま帰ろうとすれば、クラウディアの誘いはマイクロミサイル宜しくいつまでも追尾してくることは確実であった。以前断ろうとしたときは、羽根の生えた蜘蛛のような不気味さで……。
 止むを得ず頷いたジュリアを見るや、クラウディアは、早速携帯電話を使って友人らと連絡を取り始めた。
 結局、旧校舎にお泊りするという内容になっていたとか。
 決めたやつ出て来い。
 旧校舎とは何かと言えば、文字通り旧校舎である。
 怪しさレベルが有頂天なロボスレ学園であるが、実は何回か改築を行っている。天井を鉄板で舗装とか、バリア発生装置とか、まぁそこには眼を瞑るとして、一般的な耐震工事などもしっかりと行われていたりする。
 だが時代の流れは老朽化を止めようとはしてくれない。修復するよりも立て直したほうが良いと判断され、新校舎が建てられた。解体作業するにはお金がかかるとの理由で旧校舎は時間の流れから切り離された。すなわち放置された。
 旧校舎の玄関にたどり着いた二人組み――ジュリアとクラウディアだ。ジュリアは傍らに大きな鍋とコンロを抱えており、クラウディアは両手にビニール袋を提げている。
 鍋とコンロは『借りてきた』もので、ビニール袋の中身は肉やら野菜やら。決められた教室に向かうために靴を脱いで埃を被った下駄箱に入れて、鞄から取り出した上履きに履き替えると、歩き始める。
 冬で、しかも夜。さらに誰も居ない旧校舎。その三つの条件が重なった所為もあって、静寂のきーんという音ですら爆音に聞こえてくるほどである。二人して白い息を吐きながらこつんこつんと廊下を歩いていく。
 心配になったジュリアが口を開くと、クラウディアが携帯電話の画面を見遣った。

 「……ここで合ってる? 何も音がしないんだけども」
 「え~? どれどれ。合ってるわよん。まさかすっぽかしたなんてことないでしょうけど」

 木製の廊下を歩いていき、ふと窓の外を見てみれば、すっかりと暗闇に包まれた空があった。微かに見えるは夕日の残滓か。
 不安はたちまち消えた。なぜなら、無人のはずの旧校舎の一つのクラスの引き戸の隙間から光が漏れており、さらに話し声が聞こえてきたからだ。
 先頭にジュリア、後にクラウディア。鍋を抱えなおし、引き戸を開いた。

 「遅いですよ。みんなもう居るんですから」

 まず見えたのは白い耳だった。頭蓋骨の天辺ともいえる付近から、白くて柔らかそうな兎の耳が二本生えているのだ。それの主、『ヘーシェン』。通称シロが二人が出迎えた。

 「悪い。……あれっ? ユトとメリッサのお二人は? 来るとか聞いてたんだけど」

 ジュリアは部屋に入りながら尋ねる。部屋は暖房か何かをしているように暖かかった。
 ヘーシェン、悔しい表情を浮かべながら口を開く。
 クラウディア、荷物を降ろそうと入室。

 「あのリア充カップルは今頃仲良く部屋でぬくぬくしてることでしょうね、死ねばいいのに」
 「シロもそういう人を見つければ……」
 「モテれば訳ないですよ。でも、身の回りがHENTAIだらけだからどうしようもないというね、恐ろしいですよ今のニッポンは。粛清すべきです、主にロリコンを。法を改正してウェーイです」
 「あれ? ここにっp」
 「こまけぇことはいいんだよ! さぁ早く鍋と食材を!」
 ガーッと不満らしき言葉をブチまけられてたじろぎつつも、兎に角中に入って荷物を降ろそうとする。
 机や椅子は既に無く、あるのは御座が敷かれた教室。誰が書いたかは知らないが黒板に『必殺鍋パーティー』などと見える。その隣には相合傘。消しては描いてを繰り返したようにも見えた。

 「あ! おっそーい! 早く早く!」

 部屋の中央に座り込んで大量のお菓子を貪っていた少女が大声を張り上げる。金髪ツインテールに制服を悪趣味なまでに缶バッチで飾った小柄な少女、ミア=キャイリー。お菓子の袋の量から察するに、おぞましい量を食べてしまっているのだろう。これに鍋を食べるというのに。
 その隣には体育座りをした人物が居る。左側で髪を纏め上げた知的そうな印象を受ける細身の少女が、見るからに不機嫌そうに眉に皺を作って顔を向けた。名前は訳あってPちゃん。黒ニーソに白い肌のコントラストが眩しい。

 「遅刻とはいい身分ですね。私だってそこまで暇じゃないんですよ」
 「なるほど。忙しくて忙しくて、秘密のお泊り会に出席して明日帰りましょうと言うことね、そりゃ忙しくて死んじゃいそー」
 「……ぐ」

 忙しいなら明日まで続くであろう宴に出席できるわけ無い。そこを突くと、Pは顔を悔しげにさせて、顔を背けた。
 それを見ていたミアは、お菓子袋からチョコのついたポッキーを取り出してPに手渡した。

 「今から鍋なんですよ?」
 「えー? ダーイジョーブ。あたしがこれだけ食べても大丈夫だったもん」
 「では、一本だけ」

 彼女は言うなり菓子の袋の山を指差し、にんまりと笑った。Pは、迷った挙句ポッキーを栗鼠のように上から順についばみ始めた。
 更に部屋の隅の方には、包丁やら、まな板やら、どこから持ってきたのか調理器具などが置かれていて、一人の幼j……ではなく少女が座布団を敷いて女の子座りで居る。傷みの無い金髪に、硝子細工を思わせる美しい輪郭の顔。最近結婚しただのという噂のある、ティマだ。
 全員が集まったということで、万が一誰かが覗いていたことを想定して、ドアに鍵をかけ、更に窓ガラスの戸締りを強化。部屋の中央に集めて作った簡易的な大テーブルの上に鍋などを乗せて、腰掛ける。
 Pちゃん(本名が嫌いということでPと呼べとのこと)とカルマとミアが食材を切り、ジュリアとシロとクラウディアが椅子に座る。
 片手を顎に乗せた体勢のジュリアが口を開く。

 「ところでさ、なんにも考えないで来た様なもんだけど、ここってお風呂はあんの?」
 「聞いて驚かないで下さい。お風呂、あるんですよ」
 「なん……だと」
 「私だって旧校舎にお風呂があって、しかもまだ使えるとは思っても無かったんですが。問題が一つ」

 シロ、溜息をすると、ポケットからねじ切れて原型を止めない何かを取り出した。
「何?」
 「どこぞのマヌケがカメラ仕込んでたんでシャイニングなんたらで火星まで飛ばしておきました」
 「ナイスジョブ、シロ」

 風呂があるということは汗臭い思いをしなくても済むということ。体を洗えない状況下で眠るのは、いかにジュリアが色気がなくての避けたかった。
 盗撮用と思われるカメラの残骸をクラウディアが摘みあげた。

 「妙よねぇ……旧校舎なのに、人の入った跡があったりお風呂があったりカメラがあったり。んふふ、まさかユーレイ?」
 「どう考えても人間の仕業だろ、クラウディア」
 「そうですよ。そもそも死んだ幽霊が人に欲情するなど神が許しても私が許しません。っていうか断頭モノですよ」
 「首はやりすぎだろ常識的に考えて」
 「では股間に私のライダーキッ……」
 「自重しろ」

 妙な話題で盛り上がる面々。一方のPとミアとティマは食材の下準備をしている。
 トントンと軽快なリズムで包丁が食材が小さく切られていく。

 「おりゃー!」
 「ミアちゃんそうじゃないよ!」

 ティマは手馴れた動きで大根やら白菜やらを切れる。普段からそうしているとしか思えない手つきから推測するに、本当に『そう』なのだろう。
 一方のミアときたら、包丁を両手で握り締めて、目標の豚肉に力の限り叩き落してからまな板を傷つけようとでも言わんばかりに、前後にギコギコとする。危なっかしいの極みであった。
 がらりと音がして引き戸が開かれて、Pがザルに入った野菜と、洗ったお皿を抱えて入ってきた。歩くたびにサイドテールが揺れる。

 「水道が生きてました。本当にここは旧校舎なんですか?」
 「あ、Pさん。お肉のほうをお願いします」
 「……ミアには出来なかったんですね、大体予想通りです」
 「えー!? これからなのにぃ!」

 ティマにやんわりと包丁を取り上げられたミアはがっくりと項垂れ、またお菓子を漁り始めた。Pが代役として肉を適当な大きさに切ってはボールに入れていく。

「手伝おうか?」
「いりません。仲良くお話でもしていて下さい」

わいわいと会話していたジュリアが、Pとティマの方に声をかけるが、断られる。それもそのはず。Pとティマの作業速度は機械のように早かった。
その後、食材(肉・魚・野菜に良く分からないあれとかこれとか)を大量にブチ込んだカオス鍋を食した面々は、お風呂に(秘密ダヨ☆)に入ったあと、部屋の中央に布団を敷いてパジャマパーティーを開催することにした。

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