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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

2章 その想いの正体

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(0)
 死にたくない。そう思い、抗う事の何が悪い。
 痛い事も、苦しい事も、生きる上では避け様の無いモノなのかも知れないが、少ない方が良いに決まっている。
 彼の視線が恐ろしい。
 その眼は一体、何を想ってコチラに向けられているのか?
 期待? 憎しみ? 殺意? それとも、羨望?
 アナタが何を求めているのか、分からない。
 ただ、その何かに応えないと、自分は生きていられない。役立たずと認識されたら最後、殺されてしまう。その事だけがハッキリと分かる。
 自分に出来る事は、ただ、僅かばかりの延命をするが為に、与えられる任務を果たす事のみ。
 しかし、ソレでいいのか。
 自分に課せられた任務は、明らかに人類に牙を向いている。
 自分が任務を遂行する事で、鋼獣との戦況は、人類側が更に不利な状況へと傾く事は間違いない。
 ならば、任務に背くべきか。
 背いて、大人しく死を受け入れ、処分されるべきか。
 イヤだ。
 自分は死にたくない。
 例え、任務を遂行した所でホンの数ヶ月しか延命できないとしても、それでも、自分は生きていたい。
 例え、自分の行動によって人類を不利な状況に追い込むとしても……死にたくない。
 自分は生きているのだ。
 理不尽な死から逃れようとする事に……。
 生きていたいと思う事に……。
 誰が反対できようか。

(1)
「……ん」
 首筋に僅かな痛みを感じ、瀬名龍也の意識は覚醒した。
 まるで電源を入れられたばかりのコンピューターの様に、低い唸りを上げながら彼の心臓という名のエンジンは
徐々に活力を取り戻してゆく。
 ソレに伴い、今まで五感が隔離されていたかのように、一切の刺激を認知しなかった肉体が次第に感覚を蘇らせる。
目からは光を、耳からは空気の振動を、鼻からは空気中の成分を、口からは空気の味を、皮膚からはソレに触れる
全ての感触を――。
 それらの情報を、龍也の脳は処理を仕切れずに居た。半ばフリーズしている彼の脳は、酷い倦怠感として肉体に
エラーを示す。
 まだ睡眠量が足りないとでも言うように、脳も、肉体も、久しぶりに得た睡眠と言う快楽を手放す気は無いらしい。
 龍也はまだ感覚の無い腕を持ち上げ、胸ポケットから小さなプラスチックのボトルを取り出した。
 力の入らない、震える指先で蓋をこじ開けてボトルを煽る。中の錠剤を一気に口内に流し込むと、即座に胃がソレを
拒んだ。
 口から内臓が飛び出しそうな激しい嘔吐感を堪えながら、錠剤を噛み砕き、飲み下した。
 薬は直ぐに効果を示した。龍也のこめかみの血管が浮き上がり、頭にズクズクとした鈍く激しい痛みを走らせる。
「ぐぅあぁぁぁぁぁ!!」
 平衡感覚すら確かでない龍也は咆哮しながら床に倒れた。両手で頭を掻き毟り、押さえ込み、身を縮めて痛みを
堪えるその姿は熱病に侵された末期患者の姿を連想させる。
 暫く頭痛を堪えていると、ゆっくりと五感が正常な状態へと回復していく。
「はぁ……はぁ……」
 龍也は仰向けになり、肩で息をしながら目を開いた。
 濁った視界は瞬きをする度に鮮度を増してゆく。
 三十秒ほど時間を掛けて、龍也は自分がハンガールームの片隅に設けられたプレハブに居る事を理解した。芋づる
式に自分が意識を失う以前の事を思い出す。
 上半身を起こし、スリープ状態になっていたコンピューターを立ち上げて時間を見る。予定していた時間より若干早く
目が覚めたらしい。
 龍也はプレハブの窓からハンガールームの様子を窺った。
 薄く開いたシャッターから夜明け時分特有の蒼い光が差し込んでいる。まだ休憩時間中な為に、メカニックは誰も来て居ない。
 無人のハンガールームを見回し、龍也は安堵の溜息を吐くと、フラフラと立ち上がった。
 プレハブのドアを開けると、エアコンの聞いた室内にハンガールームの篭った熱気が流れ込んでくる。

 夜明け目前だというのに、ほぼ閉め切っていたハンガールームの室温はあまり下がっていない。
 ヴァドルの人工筋肉の培養槽がフル稼働しているせいであろう。薄暗いハンガールーム内には
培養層のモーター音と培養液が泡立つ音だけが響いていた。
 ユラユラと体を揺らしながら、おぼつかない足取りで龍也はシャッターの前に辿り着く。
新鮮な空気が吸いたかったが、今はシャッターを潜る気力さえ無い。
 溶接されているのかと思うほどに固い(少なくとも龍也はそう感じた)シャッター開閉ボタンを何とか
押し込むと、想像以上に大きな音を立てながらシャッターが持ち上がっていく。
 ソレと同時に、シャッターの向こうから小さく悲鳴が聞こえた。
「あ、あれ?」
 ゆっくりと上がっていくシャッターを潜り、ハンガールーム内に姿を現したヒューマニマルの少女は
龍也の姿を見て目を丸くした。
「瀬名さん……?」
「……エルツか」
 よりにもよって、と龍也は内心で舌打ちした。
 栗色の柔らかそうな毛を持つこの犬型ヒューマニマルはエルツ。特に感知に関する能力が優れて
おり、その感知性能は最新型のレーダー機器に勝るとも劣らない。
 ヒューマニマルとしての戦闘スペックは並かそれ以下しか持たないが、彼女が歴戦の勇士である
ディーネとリートに並びヴァドル部隊に配属されたのも、龍也がその能力に目を付け、天沢長官に
申請したからに他ならない。
 その能力は確かで、先日の鋼獣土竜型との戦闘の際、彼女達が土竜型に察知されるより以前に
伏兵として身を隠すことが出来たのも、エルツの感知力が土竜型のソレを上回ったからだ。
 彼女は視力、聴力、嗅覚、振動、熱源、その他通常では感知できない何かにすら反応する事が出来るのである。
 例えソレが、人間等が放つ”感情”であろうとも、彼女にしてみれば”匂い”や”色”として認識できるらしい。
(まずいな……)
 万全な態勢ならば自分の思考や体調を隠し通す自信が龍也にはある。
 しかし、今は彼にとって最も不調である寝起きの状態であり、しかもまだ”クスリ”が抜けて居ない
状態であった。
 コレ以上彼女と顔を突き合せているのは、彼にとって得策ではない。
 案の定、エルツはすぐに龍也の様子に気が付いた。驚きの表情が途端に曇り、心配そうに龍也に歩み寄ってくる。
「瀬名さん、寝ていないんですか?」
「逆だ、今起きた」
 エルツに視線を合わせずに、龍也は歩み寄ってくる彼女の小さな体をわざと乱暴に押し退けて
ハンガールームから出た。
 季節は夏になろうというのに、外気は身を切るように冷え切っている。
 龍也はゆっくりと冷たい空気を胸いっぱいに吸い込み、代わりに体内で澱み濁りきったモノを吐く。
 それを三度ほど繰り返した所で、ようやく新鮮な酸素が脳に行き渡ったらしく、龍也は体調が持ち直して
きていることを実感した。僅かではあるが頭痛が引き、ふら付く感覚は既に殆どなくなっている。
「俺の事よりも」
 龍也は僅かに振り返り、コチラを心配そうに見つめているエルツに訊ねた。
 本当ならばコレ以上エルツの前に居たくないのだが、このままこの場を去っては彼女に不信感しか
残さないと判断しての行動だった。
「何故お前がこんな所に居る」
「えっと、それは、ヴァドルを見たくて……」
「ヴァドルを?」龍也が片方の眉を僅かに吊り上げる。予想外の言葉に、何か別の意図があるのではないかと考えたからだ。
 しかし、エルツはそんな事を気にした様子も無く、恥ずかしそうに笑みを浮かべるだけだ。
「はい。まだ、アレと自分が一体化している自覚が沸かないんです」
「眺めた所で自覚が湧くとは思えないがな。お前は鏡を見て、そこに映る物が自分だと実感できるのか?」
 龍也が鼻を鳴らして言うと、エルツは「そう、ですね」と苦笑する。
「確かに、難しいと思います」
 そんな彼女の様子には、他意があるようには見受けられなかった。
 龍也とココで鉢合わせたのも、本当にタダの偶然であろう。
 エルツはまだ少しばかり心配そうな表情を見せていたが、龍也が次第に調子を取り戻している事を感じ取って
いるらしく、既に先ほどの龍也の「寝起き」という言葉を素直に信用しているようだった。
 エルツに薬の事を感じ取られておらず、またコレ以上詮索されない事を確信し、龍也は前を向いた。
「まぁ、好きにしろ」
「瀬名さん!」
 歩き出そうとした龍也を、エルツが呼び止める。

「無理、していませんよね?」
 確認するように訪ねてくるエルツに、龍也は答えなかった。
(それはお前が勝手に、俺がヒューマニマルじゃないから、脆弱な人間だと見下しているから、そう感じ、そう思うんだろうが……)
 再び歩き出しながら龍也は内心で吐き捨てた。
(何がヒューマニマルだ。何が人間だ。俺は、そのどちらでもない。
 俺は、瀬名龍也という一人のパイロットだ! それ以外の何者でもない!)
 龍也は自分に言い聞かせるように何度も無言で咆哮した。
 背後でエルツが何か言っていたが、もはや彼には何も聞こえていなかった。

(2)
 様々な機械音が混ざり合った雑音が響くハンガールームへと、ディーネは足を運んでいた。

 シャッターを潜り、ハンガールームの内部へと入った途端、噎せ返るような熱気が彼女を包み込む。
 高く昇った太陽が焼け付くような日差しを放ち、殆ど風の吹いていない屋外は簡単に熱中症になれるであろう暑さであったが、
ハンガールームの中はソレをさらに上回っていた。
 シャッターを境に重たい空気の層が出来ているかの様な感覚があり、空気が全身に纏わりついてくる気さえする。

 しかし、ディーネはそんな熱気にも顔色一つ変えず、ゆっくりと視線を巡らせた。
 ハンガールームには、大粒の汗を滝の様に流しながらヴァドルの整備をしているメカニック達の姿しかない。ハンガールームの片隅に
設けられている、コンピュータールームとは名ばかりのプレハブ小屋の中も覗いてみたが、彼女の探している人物の姿はなかった。
 彼女は小さく鼻から息を漏らし、「どうしたものか」と内心で呟いた。

 作業中のメカニックに尋ねてみるのが一番手っ取り早いのではあるが、彼らの仕事の邪魔をしなくてはならないほど急いでいる訳でも
ない。
 タダでさえヴァドルの整備には人手がかかる上に、試験運用部隊に回されたメカニックの数は少ないのだ。一人の手が止まれば、
全体の作業効率が一気に落ちてしまう。
 ディーネは腕につけている携帯端末に視線を落とし、目を細めた。

 通信回線を使えば、まず間違いなく連絡は取れるのだが、彼自身に「至急の用件以外では、端末での通信を入れるな」と言われている。
 ディーネが思案に暮れていると、ヴァドル二号機のコクピットからヒューマニマルが出てくる姿が目に付いた。
 身長は高く、肩幅も広いが、二つの大きく揺れる胸の膨らみが彼女が女性である事を主張している。

「よう!」

 彼女の方もディーネの姿に気付いたらしい。ヘルメットを外しながら片手を挙げて声をかけてくる。
 ヴァドル二号機のパイロット、リートであった。
 パイロットスーツを着込んでいることから、神経接続システムが正常に作動するかのテストを行っていたのだろう。
 彼女の様子を見る限りでは、問題は見つからなかったらしい。
 リートはパーツを吊り上げるクレーンの鎖を掴み、ソレを伝って一気に地面まで降りてきた。

「どうしたんだ? まさかディーネまで、コイツ等の姿を眺めていた……なんて言うんじゃないだろうな?」

 二号機の修理が順調な為か、はたまた、何か嬉しい事でもあったのか、リートは最近纏っていたピリピリとした空気を忘れているかのように
上機嫌である。

「それ、どういう意味?」

 笑顔で訊ねてくるリートに、ディーネは小さく首を傾げた。

「さっきまでエルツがソコに立っていてな。俺が、何をしてるんだ……って訊いたら、ヴァドルを眺めているんですって返されたんだ」
「ヴァドルを眺めている……だけ?」
「そうそう。ただ、眺めているだけだってさ。何も考えず、ただ、ボンヤリと視界に入れているだけらしい。
 なんでも、そうしていると、人類の未来に希望が感じられるんだと」

 軽い口調であるが、リートにソレを馬鹿にしている様子はない。彼女もまた、エルツと似た感情を抱いているのかもしれない。

「確かに、あの土竜型をたった四人で倒せた事を考えれば、その気持ちも解らないでもないわね」

 ディーネは納得したように頷き、ヴァドルを見上げた。
 この機体には従来の兵器にはない可能性が秘められている事は、先の戦闘で証明されている。
 もしコレが量産される事となれば、人類は鋼獣との戦争に勝利できるかもしれない。
 二号機は既に、分断されていた手足が繋げられており、人口筋肉を覆う装甲板を打ち付ける作業に入っていた。
 装甲板が付けられていないヴァドルの姿は、灰色の人口筋肉が所々剥き出しになっており、見ようによっては皮を剥がれた
人間のようにも見える。

「ところで、何か用事があったんじゃないのか?」

 ディーネにつられてヴァドルを見上げていたリートは、思い出したようにディーネに視線を戻した。

「ええ、隊長を探しているのよ」リートに向き直り、ディーネは答えた。「先ほど帰還した遠征隊が鋼獣の巣らしき場所を見つけたらしくてね……」
「ソコの調査の任がウチに回ってきた、と」
「そう言う事」ディーネは苦笑交じりに頷いた。「先日の土竜型の件が、天沢長官を除く、多くのお偉い様達の期待を良い方に裏切ったらしくてね。
土竜型を倒せた部隊ならば、コレくらい被害を出さずにこなせるだろう……って話になったみたい」
「フン。散々キワモノ扱いして、役に立つ筈がないなんて言って居たくせに、使えると分かった途端に掌を返して、偉そうに遠征命令を下しやがって……」

 リートは腕を組み、呆れた様子で吐き捨てる。
 想像していなかった訳ではないが、この調子だと、戦果を上げる度に試験運用部隊へ回ってくる仕事の量が増えるだろう。
 なるほど、このような形で試験運用部隊に任が集まり、最終的にはヴァドルが正式採用され、量産されるに至るのか……。
 リートは納得しながらも、やはり上層部の態度が納得いかなかった。
 そんな彼女の心情を汲み取ったらしく、ディーネが優しく微笑みかける。

「仕方ないわよ。便利なモノがあるのに、敢えてソレを使わない手は無いもの」
「それは分かっているけど、どうも……な」
「都合よく利用されているようで嫌?」
「……いや、結局はどれも、オレ達ヒューマニマルがしなければならない仕事なんだ。そう考えれば、ヴァドルを使える隊が任に当たる方が、被害が少ない
事は確かだな」
「でも、素直に受け入れられない」
「ああ。少なくとも、あいつ等の態度は安全な防壁の内側に居ながらのものじゃない」
「そう……かもしれないわね」

 でも、とディーネは小さく肩を竦めて見せた。

「ウチには一緒に戦ってくれる人間が居るわ。それも、貴女の言う”人間”よりも遥かに優秀な人が……」
「――フンッ」

 リートは面白くなさそうに鼻を鳴らし、そのまま逃げるようにハンガールームを後にした。
 リートは何が気に食わないのか、隊長である龍也を極度に嫌っている節がある。
 元々人間嫌いの塊である彼女にしてみれば、それは何の不思議もない反応なのかもしれないが、ディーネにはそうは思えなかった。
 何しろ、リートが人間を嫌っている理由の大半が、「ヒューマニマルを無駄死にさせる作戦しか立てられない人間の無能さ」等の、「人間の弱さ」や、
自らが戦場に立とうとしないのに戦場を分かり切ったように振舞う「傲慢さ」である。
 しかし、龍也はその様な――所謂、「リートの嫌う人間像」に当て嵌まらない。

 リートが、「人間だから」と言う理由で無差別に人間を嫌悪していないのは、天沢長官という前例がある。それ故、ディーネにはリートの態度が不思議でならないのだ。

(天沢長官と瀬名隊長。確かに、いろんな意味で正反対の二人だけど……)

 ディーネはリートの背中を眺めながらボンヤリと考える。
 天沢香織と瀬名龍也。
 この二人の『決定的な違い』とは何かを。





 ハンガールームに瀬名龍也が姿を現したのは、それから五分ほど経っての事だった。
 シャッターを潜る龍也の姿に気付いたディーネは、すぐさま彼の方へと足を向けた。

「隊長、上層部から遠征の命令が下りました」

 そう言いながら、ディーネは腕の携帯端末を操作し、エアディスプレイを出して任務の詳細を表示した。
 龍也は何も言わず、相変わらずの生気の無い疲れきった瞳をエアディスプレイに向ける。

 暫くして、龍也は何か小さく呟くと、側に居るメカニックの一人に声を掛けた。

「二号機の修理は終わったか?」
「はい。接続システムのチェックも先ほど完了しました。後は装甲板を打ち付ける作業だけです」
「そうか。遠征の命令が出た、3時間以内に出撃する」
「了解しました」
「それと、コンテナからA換装を2つ、B・C換装を1つずつ出して、フライボックス(輸送機)に積んでおけ」
「はい!」

 メカニックは力強く頷き、作業に戻って行く。
 龍也の口から出た聞きなれない単語に、ディーネは目を丸くした。

(確か、ヴァドルは追加換装による性能の特化が図れると言っていたけど……)

 以前目を通した仕様書を思い出す。
 装甲と人口筋肉追加による白兵能力強化、各種高感度センサーの追加による伝達と感知機能の強化、巨大なバックパックの追加による
物資運搬性能の強化……。
 確か、ABC各換装はそんな性能だったとディーネは記憶している。

(でも……)

 難敵であった鋼獣土竜型に対しては無換装で挑んだのだ。今回の任は、目標地点が鋼獣の巣と化しているかの確認である。
 もし巣と化していた場合、鋼獣との戦闘は避けられないものではあるが、それでも相手にする鋼獣は『四つ足』という、土竜型に比べれば
脅威ではない存在だ。
 むしろ、機動力が相手の一番の武器である為に、コチラの機動性を落とす追加換装はマイナス要素ではないのかとすら思えてしまう。

 それとも、それほど脅威ではない相手だからこそ、追加換装の機能テストをしようと言うのだろうか?
 龍也の真意を理解しようと頭を捻るディーネに対し、龍也は自分の携帯端末に打ち込んでいたデータをディーネの携帯端末に送信してきた。

「これは?」
「ヴァドルの出撃準備が完了するまでに、兵器部から調達して来い」
「弾薬の申請ですか……?」

 龍也から送られてきたデータに目を通し、ディーネは言葉を失った。
 そこに表示されていた弾薬の量は、通常の遠征時に用意する量のおよそ三倍。C換装の運搬量を考えても、ヴァドル四機では無理のある量であった。

「流石に、コレだけの量を一度に使う許可は下りませんよ」
「許可など必要ない。試験運用部隊に関する判断は全て俺に一任されている。俺が必要だと言えば必要だ。必ず用意しろ」
「そんな、無茶な……」
「必ず、だからな。でないと、死ぬぞ?」

 自分の目を覗き込んでくる龍也の冷たい視線に、ディーネは思わず背筋を振るわせた。
 ディーネがコレまでに感じた事のない感情を秘めたその視線には、嘘や冗談が一切含まれて居らず、一種の強制力が感じられる。

「誰が……死ぬのですか?」ディーネは龍也の瞳を見つめ返しながら訊ねた。
「俺」言う事は言ったという態度で、龍也はプレハブに向って歩き出す。そして思い出したように付け加えた。「そして、お前達だ」

 ディーネは唖然としたまま龍也の姿がプレハブの中に消えるまで立ち尽くしていた。
 暫くボンヤリした後に、彼女はようやく彼の言う意味が少しだけ理解できた。

「つまり、私達が……全滅?」

 土竜型に比べれば脅威のレベルが圧倒的に低い四つ足を相手に、自分達が全滅する事などあるのだろうか?
 ましてや、コレほどまでに大量の弾薬が無ければならない理由とは……。
 大量の弾薬が羅列されているエアディスプレイを見つめながら、ディーネはますます龍也の真意が理解出来ずに居た。

(3)
 瀬名龍也率いるヴァドル部隊は、荒野へと遠征していた。
 鋼獣との戦闘は大きく分けて二種類ある。
 都市を襲撃してくる鋼獣を迎撃する「防衛」と、荒野に赴き鋼獣を掃討する「遠征」だ。
 防衛は言わずもがな、遠征は鋼獣の襲撃を未然に防ぐ意味の他にも、鋼獣の生態の調査、分布の移行、討伐、鋼獣の骨肉となった
金属の回収等、防衛の戦力を増強する為の戦いであると言える。
 特に、バクテリアが分裂するかのスピードで進化を繰り返している鋼獣の生態の調査は重要である。大掛かりな進化をする前に
仕留められればソレに越した事は無いが、ソレが出来ずとも、襲撃を受ける前に進化した鋼獣の特性を調査研究することにより、
対策を立てる事が出来るからだ。

 今回、龍也達に課せられた任務は、都市の近郊に鋼獣が巣くって居ないかの確認である。
 最も、今回は既に鋼獣の姿が数体見かけられている事もあり、例え巣を作っておらずとも鋼獣との戦闘になる可能性はきわめて高い。

 今回の掃討対象となりえるのは、鋼獣の中でもポピュラーな部類に属する「四つ足」だ。
 四つ足は文字通り”獣(けだもの)”で、その容姿は犬や狼などのソレに似ており、全身を鉄の皮で覆われている。
 目が無く、後ろ足が異常発達した容姿形状をしており、本能だけで活動する。
 高い機動力を有しており、嗅覚と聴覚で周囲の状況を判断するが、「土竜型」のような感知力はなく、突出した特性を持たない為、
鋼獣の中での危険度は低いとされている。
 龍也達を乗せた輸送機は、目的地から少し離れた場所に下り立った。残りの行程はヴァドルの足で一時間程で、ココからは四つ足の
奇襲を警戒しながら進む事になる。

「今回は後方の待機チームが居ないからって、ココまで重装備にする程なのか?」

 荒野に下り立ったヴァドル二号機――リートが、不服そうに呟いた。
 二号機はA換装を施しており、全身が一回り膨れていた。
 美しい流線型のボディーは追加装甲によって歪に角張り、無骨さに磨きが掛かった感じがする。
 手足が太くなった事で稼動範囲が若干狭まり、行動が制限されてしまう事がリートには不満らしい。

「貴女はまだマシな方よ?」

 腕をグルグル回して稼動範囲を確かめているリートに、一号機のディーネが苦笑交じりに答える。
 C換装の一号機はフォルムが全くと言って良いほど変わっており、その野暮ったさは二号機を上回っていた。
 頭は膨れ上がった胴に埋もれ、足は通常のヴァドルの胴ほどの太さにもなっていた。装甲と出力は圧倒的に高い水準であるが、駆動部は
A換装よりも圧倒的に狭く、明らかに戦闘向けの仕様ではない。
 特に目を引くのが、ヴァドルをもう一機詰めて運べそうな巨大なバックパックである。今回、弾薬を初めとした予備の武器や物資は全てココに詰め込まれている。

「私は今回、物資を全て預かっているっていう事もあって支援に徹する事になるけど、見ての通り戦闘には不向きだからフォローを頼むわね」

 特に、今回はコレ等が無いと全滅するとまで言われているし。とディーネは内心で付け加える。

「ああ、任せな。今回は絶対にヘマをやらかさねーよ」と、リートは力強く頷く。

 前回の出撃のミスを気負った様子の無いリートに、ディーネはそっと安堵の息を吐いた。
 彼女がそこまで弱い性格ではない事は十分に理解しているが、不安を感じていなかったと言えば嘘になる。
 ましてや、ヴァドル隊に配属されて以来、彼女は隊長に対して妙に神経を尖らせ、精神の状態が不安定だったのだ。
 四つ足の四、五体程度ならば、各機の持てる予備弾倉の量で十分だと思うのだが、龍也はソレを許さなかった。彼なりに何か考えがあるようだが、
ディーネはソレをいまだに説明されて居ない。
 結局、色々な人間に頭を下げ、なんとか龍也に頼まれた物資は無事に用意することが出来たが、ディーネは慣れない仕事(各部署に無茶な注文をして、
しかもソレを押し通す事)に出撃前から一仕事終えたような疲労感を持っていた。

「それで、何の説明も無しかよ?」
「ええ。隊長の事だから、意味が無いなんて事は無いと思うんだけど……」
「ディーネはアイツの事を買いかぶり過ぎなんじゃないのか?」
「そう……かしら?」ディーネはバックパックを背負い、龍也の方に視線を向ける。「ソレならば、それでいいのだけど……」

 隊長機の側に立っていた三号機が、二人の視線に気付いたらしく振り返り、小さく手を振ってくる。

 B換装の三号機の見た目は殆ど変わって居ない。変化と言えば、背中や肩、頭からアンテナらしき突起物が生えている位である。

「二人とも、準備は出来た?」

 エルツからの通信に、二人は片手を挙げて返事をした。

「それにしても、鋭いな」

 リート達は最小出力の電波で通信をしている……すなわち、小声で囁き合っているような状態で、三号機に通信は届いていない筈であったが、
エルツは二人の僅かな動きを感じ取り、振り返ったらしい。

「そうね。もともと感知力は高い子だったけど、ヴァドルと接続される事でその精度が格段に上がっているみたい」
「この会話も聞こえているのかもな」
「まさか。あのこの子の事だから、そんな事はしないと思うわよ。あの子の性格を、貴女も知っているでしょう?」とディーネ。
「別に、それを悪く思っている訳じゃないさ」とリート。「ただ、俺達の会話を聞いてアイツが余計な心配をしないかが気になるだけだ」
「そうね。お互い、変な事は言えないわね。あの子はメンタル面が弱いから……」
「ああ。出来るだけオレ達の内で片付けるに越した事は無いな。それに、もし……」

 そこまで言って、リートは慌てて口を閉じた。

(アイツの本当の目的が判明し、それがオレ達ヒューマニマルに牙を剥く物だった場合……アイツは二度と人間を信用できなくなるだろうから)

 隊長機の傍に寄り添うように並ぶ三号機を見つめながら、リートは口をきつく結んだ。





 ビルの残骸である瓦礫の山を迂回し、時に乗り越えながら、龍也達は目的地へと向っていた。
 どの荒野に来ても、風景は殆ど変わらない。在るのはコンクリートの破片ばかりである。

 今回、龍也達四人はフォーメーションを取っていた。
 白兵戦レベルの高い龍也とリートのA換装ヴァドルを先頭に、B換装のエルツ、C換装のディーネの順に一同は進軍する。
 報告にあった、目撃された鋼獣の数は五。いくら鋼獣の中では危険度が低いとは言え、従来の兵器で戦闘をするならば甚大な被害が出る事は覚悟しなければ
ならない数である。

 しかし、前回戦い、無事に討伐した鋼獣土竜型に比べれば、四つ足は五体といえど、さほど脅威ではない。四つ足の機動力は少しばかり厄介ではあるが、
それだけだ。
 包囲されるまで接近を許さず、確実に撃破してゆけば良い。

(確かに、そう考えれば難しい事ではないように感じる……)

 隊長機と肩を並べ、警戒しながらリートは内心で呟く。

(瀬名龍也、この男は何を考えている? 確かに、土竜型を撃破出来た戦力ならば、四つ足の数体程度は脅威と言うほどではない。
 それなのに、今回の重装備……。四つ足の正確な数が判明していないとは言え、あまりにも身構え過ぎているのが気になるな)

 リートは前方を警戒するフリをしながら、横目で龍也を見た。
 リート同様のA換装により、隊長機もまた甲冑を纏っているかのように一回り膨れている。手には前回と同様にシールド付きのライフルを構えており、背中には予備の
武器と弾が詰まった小型のバックパックが装着されている。
 もっとも、今回のライフルは前回ほど威力を重視したものではなく、ヴァドルの標準装備とされているバランスの良い性能の物だ。
 今回はリート達も(シールドは付いていないが)同じ物を装備している。

「前方に鋼獣の反応アリ!」突然、身構えるように三号機が立ち止まった。「四つ足、五体です!」

 火力と装甲を強化している龍也達とは異なり、レーダー機能を強化された三号機から通信が入る。
 その通信に遅れ、前方の瓦礫の隙間を縫うように、灰色の巨大な獣が姿を現す。コチラへと猛然と迫り来る、狼に似た形状の鋼獣
――四つ足である。

「各機、視覚マーキングをオンに。同じ鋼獣を同時に撃つような無駄を避け、狙ったからには確実に仕留めろ。今回の任務はスピードと
正確さが要求されるが、それだけだ」

 ひどく落ち着いた龍也の声に従い、リートは視界の隅にあるコマンドを目で操作し、視覚マーキングをオンにした。
 それにより、リートの視界に他機の視線がレーザーポインタの様に表示される。
 各ヴァドルが視覚情報を共有する事で、自分が何処を見ているかが他人にも判別できるようになったのだ。

 四機は同時に構えた。
 最初に発砲したのはディーネだった。ディーネは殿を務めていたにもかかわらず、鋼獣の姿を確認した次の瞬間には照準を定め、
トリガーを引いていた。
 ディーネの射撃の正確性と速さはヒューマニマルの中でも軍を抜いている。彼女はその一撃は、龍也達前衛に迫っていた先頭の四つ足の頭を
見事に撃ち抜き、四つ足唯一の生体部である脳を赤い霧として撒き散らした。

 ディーネに続き、龍也とリートも引き金を引いた。
 一発が戦車砲程の破壊力を持つ銃弾が立て続けに発射される。
 龍也の弾丸はターゲットである四つ足の全身に無数の巨大な穴を穿ち、リートの弾丸は見事四つ足の頭を捕らえた。
 それを見て、後続の四つ足が急激に軌道を変えた。
 続いて二発目を発砲したディーネとエルツの撃った弾は、四つ足が予測していた軌道を逸れた捉えきれない。二体は散開し、龍也達を
挟み込む様に襲い来る。

「二号機は一号機のフォロー!」
「フン、了解!」

 同時に飛び掛ってくる四つ足に、龍也とリートはそれぞれ向き直った。

「伏せろ!」
「はい!」

 龍也の命令に従い、エルツは即座に銃の構えを解いて身を屈めた。その背中をなぞる様に、龍也のブレードが真一文字に振り抜かれる。
 ブレードはエルツに踊りかからんとしていた四つ足の口を捉え、火花を散らせながら四つ足の顎に食い込んでいく。

「ぜぃっ――!!」

 裂帛の気合いと共に、龍也の一撃は四つ足の胴を割り、上下に両断した。
 背中と腹の二つに分断された四つ足は激しく痙攣していたが、すぐに動かなくなった。

「くっ、間に合わない!」

 龍也達の背後で、重たい機体のせいで小回りが利かないディーネが悲痛な声を上げる。
 ディーネが自分に襲い来る四つ足に向き直った時、既に四つ足はディーネの懐に潜り込み、一号機の頭に向けて喰らいつかんとしていた。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 そんな四つ足の腹に、リートの強烈なアッパーが叩き込まれた。換装により通常の二倍はある太さの腕は、リートの気合と共に更に膨れ上がっている。
 フィストガードが付いた豪腕から繰り出された一撃は四つ足の腹に深くめり込み、四つ足を空高く打ち上げた。

「ディーネ!」すかさずリートが叫ぶ。
「任せて!」

 ディーネは即座に宙に舞った四つ足に構えを取り、連続で三発打ち込んだ。一発は頭を砕き、二発は胴に命中した。胴に打ち込まれた二発の銃弾の
威力で、四つ足の胴は千切れ飛ぶ。
 程無くして、四つ足だったモノが重たい音を立てて瓦礫の山に墜落した。

 一呼吸置き、龍也は周囲を見渡した。
 エルツが鋼獣の存在を感じ取ってから僅か一分の間に、四つ足五体との嵐のような一戦が繰り広げられ、決着が付いた。
 幸いにも、龍也達に被害は無い。

「コレで、任務完了なのか?」

 出力が想像以上だったらしく、振り上げた自分の腕をマジマジと観察しながらリートが呟く。

「報告にあった四つ足の集団と言うのはコレで間違いないだろうから、半分が完了したと言う所か」四つ足の死骸を見下ろしながら、龍也が答える。
「残りの半分は、目標の地点に巣を作って居ないかの確認……ですね」
「そうなるな」龍也はディーネの言葉に曖昧に頷きながら、エルツに視線を向けた。「三号機、他に敵の反応は?」
「えっと、この周囲には、もう……」体を起こし、周囲を見回して気配を探っていた三号機の動きが止まる。「コレって……うそ、でしょ?」
「どうした、エルツ」

 何かを感じ取り、信じられないといった様子で絶句するエルツにリートが向き直る。

「まだ鋼獣がいるのか?」
「ぜ、前方から四つ足、三体!」
「なんだと!」

 エルツの言葉に、龍也達は弾かれたように一斉に武器を構えた。
 しかし、そこに四つ足の姿は無い。

「上だっ!」

 瓦礫の山を駆け上がり、空中から接近してきた四つ足に気付き、龍也が叫ぶ。
 四つ足の牙をライフルのシールドで叩き落す事でかわした龍也は、四つ足が体勢を立て直す前にとどめを刺した。

 残り二体も、空中から跳びかかって来ていた。
 リートは再び拳を握って大きく身を引くと、襲い来る四つ足にタイミングを合わせて、横殴りに裏拳を叩き込んだ。ビキビキと人口筋肉が唸りを上げ、
四つ足の頭を粉砕し、血煙を巻き上がらせる。
 ディーネは以前龍也がそうしたように、飛び掛り来る四つ足の口内にライフルを捻じ込んだ。

「これなら、構えが間に合わなくても確実に当てられるわね」

 そう呟き、引き金を引く。四つ足の体が一瞬震え、首から後ろが破裂する。四つ足はディーネのライフルに貫かれた姿勢のまま絶命した。
 決着はほぼ同時に着いた。
 再び、静寂が訪れる。
 しかし、エルツは冷静を取り戻さない。むしろ、様子は悪化して言っている。

「三号機、報告しろ」

 殆どパニックを起こしているエルツに、龍也はゆっくりと声をかけた。

「わ、分かりません」エルツは取り乱しながら、激しく首を横に振る。
「分からない筈は無い。理解できないのなら、感じたままに報告しろ。判断は俺が下す」

 憮然として言い放つ龍也に視線を向け、エルツは小さく頷いた。

「北に四つ足、五体。南に同四つ足、七体。東、瓦礫の密集地の隙間を縫うように四体。西、五体……」

 それぞれの方角を指差しながら報告するエルツに、リートが掴みかからん勢いで詰め寄る。

「おいおい、どういう事だよ? そんな数の鋼獣が一箇所に固まる事なんて、コレまでに無かっただろうが!」
「落ち着いて、リート。貴女の言う通りよ」
「なにぃ?」
「”コレまでは”無かったの。でも、今は違う」
「……まさか」

 ディーネが何を言いたいのか気付き、リートは絶句した。

 龍也だけが、何も感じていないかのように冷静を保っている。

「俺達は鋼獣を狩るつもりで、逆に狩られる為に誘い込まれた……。現状はまぁ、そんな所だな」鼻で笑いながら龍也は言葉を漏らす。
「出来れば、もう少し開けた場所を拠点にしたかったのだが、仕方ない」

 その言葉に、リートが弾かれた様に身構えた。

「テメェ、初めから気付いていたんだな?」
「…………」

 リートの問いに龍也は答えない。
 リートは確信した。最初から、この男は気付いていたのだ。
 遠征隊からの報告にあった四つ足が、人間をおびき寄せる為の囮であった事。
 命令通りに出撃したら、鋼獣に囲まれて逃げ場を失う事。
 その鋼獣が、コレまでに無い規模で群れている事。
 何故報告書とソレに添付された僅かな画像だけでソコまで判断できたのかは分からないが、この男は、瀬名龍也は、最初からこの展開を
予測していたのだ。

「分かっていたなら、何故俺達にソレを言わなかった!」

 リートは苛立たしげに、地面を踏みしめた。ヴァドルに踏み抜かれ、コンクリートの地面は割れて捲りあがり、粉塵が舞う。

「何故、上層部に進言しなかった! 何故、作戦を変更しなかった! 何故、わざと危険な選択肢を選んだ!」
「ソレが必要だからだ」悪びれた様子も無く、平然と龍也は答える。
「回避できる危険に自ら飛び込む愚行がっ、一体、何に必要なんだっ!」

 リートは狂ったように吠え、ライフルを龍也に向ける。
 味方に銃口が向いているエラーが視界に表示されるが、リートはソレを気にせず引き金に指を掛けた。
 同じく、龍也にも銃口が向けられているエラーが表示されているはずだが、彼もまたソレを気にした様子は無い。

「だめぇ!!」

 エルツが両手を広げて二人の間に割って入るが、リートはソレを無視してエルツの肩越しにライフルを構えなおす。

「やめなさい、リート!」

 リートの本気に気が付き、ディーネが動く。
 ソレよりも一瞬だけ速く、リートのブレードがディーネに突きつけられた。ブレードは一号機の腹部の装甲の隙間を捉えている。このままリートが
腕を突き出せば、一号機は腹部と腰の筋肉、そして背骨を切断され、自立できなくなる。

「リート!!」
「黙れ、ディーネ!!」

 リートはノイズ混じりの震える声を張り上げる。

「俺はな、死ねないんだよ。俺が死んだら、誰がヒューマニマルを守るんだ!
 荒野を知らない人間共が防壁の内側で作り上げた、何の役にも立たない命令に従い、無駄死にしていくアイツ等を、誰が守れるんだよ!
 俺が動かなければ、人間に従順なあいつ等は、見当違いの作戦を実行する為に死んでいく。例え命令無視の処罰を受けようと、俺が動かないと、
多くのヒューマニマルが死ぬんだよ!」
「だからって、瀬名さんを撃つ理由にはならない!」

 エルツは必死に訴えるが、リートは聞く耳を持たず、龍也をにらみつけている。

「お前の、人間の――下らない考えに付き合わされて死ぬつもりなんて、俺には無いんだ!!」

 リートの叫びと同時に、エルツの肩の上で構えられていたライフルが火を噴いた。

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