あと二機。
カタン、カタンと金属と金属がぶつかりあうような音を立てて、わたしの元にオートマーターがやってくる。
オートマーターそれ自体は殺戮に特化した人形である、だが、機械ゆえに単調なのだ。
オートマーターはまずわたしを見つけた時にわたしがターゲットであるか照合し、確認した後、ターゲットに向けて発砲してくる。
彼らはそれを作業として一々行わなくてはならない。それが隙になる。
目の前にオートマーターが二機現れる球状の胴体からカメラアイを覗かせわたしを確認する。
それと同時に、わたしはオートマーターに向けて走り出した。
2体のオートマーターはわたしを照合した後、すぐさま機関銃部を展開し、わたしに向けた。
その瞬間、わたし腕に付いたワイヤーを射出し、一体のオートマーターの体に絡め、後ろに向けて引いた。
ワイヤーを体に巻きつけられたオートマーターはその球体上の体が災いぐるりとその体を100度ほど倒す。
発砲、一体のオートマーターは体を倒した為、地面に向けてその機関銃を発射した。
しかし、もう一体のオートマーターは構わずわたしに向けてその機関銃の引き金を引く。
だが、わたしにはそれは当たらない。
これはオートマーターのリンク機能が仇になって起こった事だ。
二機での襲撃故に射撃する範囲が被らぬようにリンク機能を使って情報をやりとりし、わたしに逃げ場が無いように射撃を行おうとしたのだ。
だがその内、一機の射撃能力が奪われてしまうと必然その一機の射撃を予定していた領域は安全領域へと変貌を遂げる。
わたしはそれを利用して、その安全地帯を走り、オートマーターの射撃を回避し、滑り込むようにして懐に潜り込み片方のオートマーターのカメラアイにはコンバットナイフを突き刺し、もう片方のオートマーターの機関銃を持ち上げてるアームにその手で触れた。
アクセス。
わたしはオートマーターの世界の中に入り、自爆装置を起動させ、すぐさまリンクアウトを行う。
そして、ナイフを引き抜き、そのままワイヤーを断ち切り、跳躍して、その場から離れた。
5秒後に爆発、二機のオートマーターはその中に組み込まれた自爆装置によって自らを破壊する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
疲労の息が漏れる。なんとか、10機のオートマーターを破壊した。
もし、何も知らないあの頃のわたしだったら、このオートマーターにやられていたかもしれない。
でも、その全てをわたし一人の力で破壊する事が出来た…それは潤也と共に戦いを勝ち抜いてきたという過去があるから出来たことだろう。
潤也と一緒に闘ってきた経験が今、わたしの中で生きているのを感じ、何か満ち足りたものを感じた。
「うん、潤也、わかってる、まだ安心しちゃ駄目だよね…。」
わたしはほつれかけた気持ちを引き締める為にぎゅっと手を握りしめる。
そう、まだ安心してはいけない…これからが本番だ。
何もまだ終わっていないのだから…。
わたしは通路を戻り、先ほど見つけた緊急用の階段へと向かう。
地下3階から地下4階を繋ぐ緊急時の避難用の階段だ。
あまり階段から離れないように闘っていた為、銃痕の付いた地下四階への扉はすぐに見つかった。
わたしは呼吸を整え、階段を下りる。
この階段は本来緊急事態の際に使われる階段だ、地下四階に向かいそこから180mを一気におりる地下五階への直通エレベーターに乗る。
エレベーターを動かす為のコードも『あの男』から提供されていた。
わたしは階段を降りていく。
一歩を踏み出すたびに先ほどの戦いの疲労がわたしを襲ったが、その疲労は自分が潤也の元に近づいている事を示しているようで嬉しかった。
3ヶ月前、あの日、黒峰潤也と出会ったあの日の事をわたしは忘れたことが無い。
琴峰研究所の地下1階にある特別研究室。
そこの大型試験管の中でわたしは育てられていた。
辛い、痛い、苦しい。
当時、わたしに自我というものが芽生えてから覚えた感情はそんなものばかりで、この世界は地獄だった。
なんでわたしは生きているんだろう?そんな事を考えるのがわたしの日常だった
試験管の前の白衣の男たちはわたしは見るたびに、これでは近づけないだの、まだ足りないだのいってわたしの頭の中になにかを入れるのだ…それは苦痛を伴うなんてレベルじゃなかった。
毎日、気が狂いそうになるぐらいの苦痛を味わう、でも苦痛しか知らないわたしは狂うという事すら出来なくて、その境を幾度も往復した。
地獄だった。
彼らはわたしを自我の無い人形だと呼んでいた、ていの良い実験動物だと…。
つらいよ、苦しいよ、なんでわたしはこんな目に会わなくちゃいけないの?
それが当たり前の日常だった。
それを壊したのが潤也だった。
試験管の中のわたしを見て、彼が最初になんて叫んだか、今でも覚えている。
「なんで、咲がこんな、ところに…。」
咲というのはなんだろうか?と当時は思ったものだ。
潤也は分厚い試験管のガラスを壊してわたしをそこから出してくれた。
今にも泣きそうな顔でわたしを抱きしめてくれたのを覚えている。
わたしを抱きしめてくれたその両腕は暖かかった。
暖かかったんだ。
その温もりを今でもわたしは覚えている。
そして生涯忘れることも無いだろう。
負の思いしかなかったわたしに違うものを与えた原点。
それは本当に、暖かくて、優しくて、幸せだった。
その全てが今までのわたしには無かったもので、わたしはそこで初めて幸福というものを知った。
その後、潤也は何かを思い出したかのようにしてわたしを見たくないもの見る眼で見た。
そうした後、酷く冷たい声でわたしにこう言ったのも覚えている。
「お前が№Iって奴か?」
№I、それがわたしに振られていたコードだというのはその頃はまだ知らなくて、わたしはうんともすんとも答えることが出来なかった。
潤也は近くで怯えている研究員を殴り飛ばし、情報を聞き出し、わたしが№Iだという確証を得る。
「俺にはお前の力が必要だ、一緒に来い。」
わたしにその手をとらないという選択肢は無かった。
№Iというわたしのコード名を、それは人の名前じゃないと言い藍と名づけてくれた。
その後、安直で済まないと潤也はわたしに謝ったが、わたしは彼がくれたものというだけでこの上なく嬉しかった。
琴峰という性を付けたのはわたしだ。
わたしのいた施設の出身者は皆、琴峰と名乗っているという話を知り、ならば、わたしもそう名乗るべきなのかなと思い名乗ったのだ。
あそこにいた時に良い思い出など無かったが、わたしはそれ以外に苗字として付けれそうな名前を知らなかった。
それからわたしは潤也のパートナーとして一緒に闘った。
潤也は、それから出会ったあのときのように優しくわたしを抱いてはくれなかった。
いつもわたしを見るたびに何かを思い出し、噛締めるようにしてわたしに辛く当たるのだ。
傷つかなかったといえば嘘になる。わたしに暖かさをくれた人間が今度はわたしの心をナイフで刺すような発言を繰り返すのだ。
最初は理由がわからなかった。最初はわたしが、あんなところにいた汚いものだからなんじゃないかと思った事もあった。
だから、わたしは自分を責めた。なんでわたしはこんなに無能なんだろう。もっともっと潤也の役に立てるようになりたい、もっともっと潤也に褒めてもらえるようになりたい。
そして、わたしの努力の日々が始まった。きっといつかあの日のように優しく暖かく抱きしめてもらえると信じて…。
けれど、その努力はそう簡単には実らなかった。
わたしは時折、直感的に感じていた、根本的に潤也はわたしに辛く当たらざる終えない何かがあるのだと…。
わたしはそれを知りたかったが潤也はそんな事を教えてくれる由も無かった。
けれど、わたしは知ってしまった。
『あの男』、銀髪をなびかせる『あの男』から全ての真実を教えられたのだ。
全ての原因はこの顔と声だった。
わたしが潤也にあのように扱われていたのはわたしの性格や生まれなどでは無くもっと根本的なものだった。
これは変えられない、わたしが作られたときにもって生まれたものだ。
ならばどうすれば良いのだろう?わたしは体の中に溶けている、あの図面のせいで顔も声も変える事は出来ない。
その時、わたしは初めて、わたしを作った者たちを恨んで呪った。
そして、潤也もわたしが真実を知ってしまった事に気づいた。
「最低だろ?俺はお前をお前として見れてないんだ、別の名前を付けて、別の人間だと思って見ようとしたんだけれど、そう見れなくてな…そういう意味じゃ、お前を作った奴らと俺は変わらないな、はは、まったく自分に吐き気がするよ。
藍、お前は俺を見捨てても良い。それをするだけの理由がお前にはあるし、そうされても俺は恨まないさ。」
そう、潤也は自分を責めるように言ったのは今でも覚えている。
潤也を捨てる?そんな事が出来るはずが無い、こんなに、こんなに好きなのだ。わたしにとって潤也は全てなのだ。
あの痛みと苦しみしかなったわたしの世界に暖かさをくれたのは潤也だけなのだ。だから、わたしはその時、例えどんな事があっても潤也の傍から離れない事を誓った。
リベジオンの中にあるシステムとわたしは深化で繋がり、わたしという存在が黒峰潤也という存在に隷属するものと作り変えた。
こうしてしまえば、わたしの心など関係なくてもわたしは黒峰潤也という人間に逆らう事も出来なければ離れる事も出来ない。
そしてわたしが潤也のものだという証がそこにはあった。
それがわたしの決意だった。
「ふざけるな、馬鹿!」とわたしがやった行動に潤也は心の底から怒った。
それは黒峰咲にではなく、琴峰藍というわたしに対しての怒りだった。
わたしはわたしの事を思って、本気で怒っている潤也の気持ちがただ、ただ嬉しかった。
それだけでわたしは満たされたのだ。
それからも潤也は自分に辛く当たったが、わたしは潤也と一緒にいる事が出来る、そして潤也に必要とされているというだけでこの上なく嬉しかった。
これからもずっと潤也と共に歩んでいこう、わたしはそう思った。
けれど、今、わたしの傍には潤也はいない。
あの狗との戦いの中で、潤也は自らの精神を守るために外界との接触を全て断ってしまった。己の心を箱の中に閉じ込め、鍵を閉めたのだ。
そして、潤也は彼らに連れて行かれた。
外の世界との干渉をたった潤也はもはやそこに生きているだけの人形のようなものだ。彼らへの抵抗など出来るはずも無かった。
そして、わたしはここに来た。
潤也をここから助け出すために…。
もしかすると潤也はあのままの状態のほうが幸せなのかもしれない、妹を殺さなければならないという呪いを忘れ、ただ、何も考えないで閉じこもっていられる。
そんな、何にも縛られなくてもいい孤独な世界、そんなところに潤也はきっといる。
潤也をここから助けるという事は、即ち潤也を戦いに引き戻すという事だ。
それはきっと、いや、間違いなく潤也を不幸にする。
わたしが今、やろうとしているのはそういう事なのだ。
きっと、このまま放っておくのが潤也の幸せなのだろう…。
けれど……わたしは……潤也と一緒にいたい、一緒にいたいんだ。
その思いだけがわたしを動かす。
きっとわたしは潤也にとっての悪夢のような存在だ。
彼に闘うための力を与えてしまい、彼の逃げ場を無くしていく、わたしの顔は否応なく彼のしなければならない事を思い出させ、彼はその身を戦いに投じざる終えなくなる。
そんな風にしかわたしは潤也に関わることの出来ない、わたしはわたしが嫌いでたまらなかった。
扉が見えた、地下300mにある地下5階、そこにたどり着くための直通エレベーターがある地下四階への到着を意味する。
あとはこの扉を抜けた通路にあるエレベーターでコードを入力して、進めばいいだけだ。
わたしは、小さく呼吸し、その扉を開いた。
目の前には地下3階と同じような人工的なというような清潔さを感じさせる廊下が広がっていた。
わたしはすぐに近くの直通エレベーターに向けて歩を進める。
「―――お嬢ちゃん、ちょっと待ちなさいな…。」
後ろから声がした、知らない人の声。
わたしは慌てて後ろを振り向く…そこには一人の白いワンピースに身を包んだ白髪の老婆がいた。
わたしはその老婆という存在に背筋に寒気が走るのを感じた。
いつでも敵襲に応じられるように最新の注意を払って、周りの気配を探っていたというのに、声をかけられるまでわたしはその存在にまったく気づかなかった。
老婆はその枯れ枝のような腕を伸ばし、こぶしを顎にあて、考えるような仕草を取る。
「ここはお嬢ちゃんのような可愛い娘が来るような場所じゃないんだけれどねぇー、どうしてここに来たのやら…。戻り方がわからないのならばこの賢いお婆ちゃんが、上に連れてってあげるよ。」
そう子供をあやす様に笑って老婆はわたしに言葉をかける。
「必要ない、わたしの目的は下だから…。」
「そうなのかい、でもお嬢ちゃん、ここから下はコードが無ければいけないよ?」
「持ってる。」
わたしはエレベーターの操作パネルに触れ、エレベーターを使うために必要なカードキーを読み込ませパスコードを入力した。
「あらら、ウチの馬鹿どもはこんな子供にまで情報漏洩させてしまっているのかい、後で、きっちり怒っておかないといけないねぇ…。」
今、地下300mにあるエレベーターがこの地下四階まで上がってきている。
「ところでお嬢ちゃん、今、暇かい?」
そう笑いを含んで、老婆は問う。
「暇に見える?」
わたしはこの老婆が敵なのか測りかねていた。
彼女からは上の階にいた警備員がわたしに発したような敵意を感じないのだ。
「少なくともそのエレベーターが来る2分ぐらいは、やること無くて暇だと思うかねぇ。」
「だから、何?あなたもここの人なら知ってると思うけれど、わたしにちょっかい出すとただじゃ済まないよ、そのまま上の階にいた人達みたいになりたくなかったら戻ったほうがいいんじゃない?」
脅し文句だった。見た所、体格からして戦闘要員というわけでもない、力加減を誤って殺してしまうのが少し怖かったという思いから発した言葉だったけれど、それと一緒にいい様の無いざわめきのようなモノをわたしの奥にある何かが感じていた。
そんなわたしの言葉を受けて、そうかい、上の階があんなになってたのはこの娘がやったのかいと老婆は頷いた後、大声をあげて笑い始めた、まるで子供のような笑い声だった。
おかしい、こんなおかしい事があったのかと笑った。
「そうかい、そうかい、お嬢ちゃんがあれをやったのかい、たまらないねぇ!こんなお嬢ちゃんがイーグルを、そうかい、そうかい、そうかい、お婆ちゃん関心しちゃったよ。」
その笑い声にわたしは言いようの無い恐怖を感じた。
「いや、ごめん、こんなに面白いことを聞いたの久しぶりだったから、つい、ねぇ…10年ぐらい若返った気分だよ。そうだ、お嬢ちゃん、せっかくだし遊んでいかない?」
「遊び?」
「お嬢ちゃん、地下五階に用事があるという事は例のCR-02の適格者に用事があるんだろう?だから、もし遊びに勝ったらこのあたしが地下五階にいってお嬢ちゃんの目的の成就から脱出まで手伝ってあげるよ。」
老婆は子供をあやす様な声でわたしに言う。
「あなたなんかいなくても一人でやれる…。」
「いやいや、あたしがいると楽だよ?わたしがこの施設を作ったんだから、だからわたしがいればこの施設のどんな所もフリーパスで入れる。」
地下五階のセキュリティはかなりの難関だとは聞いていた。
その概要をわたしはほんの少し聞かされただけだったが、一筋縄ではいかないだろうと考えていた。
あまりに時間がかかりそうならば『力』を使う事も考慮していた程だ。
もし、この老婆の言っている事が本当ならば、それはわたしにとっても時間短縮に繋がるし、余計な危険を冒さなくても良いという事を示している。
でも、だからといって、
「その話が本当だって保障はどこにもないでしょ?それに遊びって何をするつもりなの?」
そう尋ねるわたしに老婆は少し考えるようにした後、
「それに関しては信じてもらうしかないなぁー、遊びの内容はまあ、なんでもいいだけれど…そうだね、お嬢ちゃん腕っ節には自信あるんだろう?
じゃあ、それで行こうじゃないか、わたしと格闘戦やって勝つことができたらお嬢ちゃんの勝ち、それでどうだい?
武器はなんでも使って良いよ、あたしは見ての通り、何も持ってきてないけれど…。」
「そう…。」
告げると同時に、わたしは老婆に向けて一気に駆け出した。
さきほどからサイレンのようにわたしの中で鳴る何かがこの老婆に異常な警戒を示している。
だから、わたしはたとえ、老婆の言葉が嘘でも真でも、今ここで倒しておいたほうが良いと判断した。
わたしはすぐさま老婆の懐に潜り込む、そのまま体を捻り、上段からの後ろ回し蹴りを放つ。
そのとき、パスッと間抜けな音がなった。
蹴りが人の体に喰いこむ際に感じる感触が感じられない。
わたしは驚いて、蹴りを放った方の足を見る、その視線の先に待っていたのはさらなる驚愕だった。
老婆の体に食い込む筈のわたしのかかとが老婆のしわだらけの手のひらに収められ止められていたのだ。
驚くわたしを見て老婆はにやりと笑って言った。
「自己紹介がまだだったね、お嬢ちゃん、あたしの名前は、九条、時峰九条、この『イーグル』の副司令にしてピチピチの82歳さ。」
カタン、カタンと金属と金属がぶつかりあうような音を立てて、わたしの元にオートマーターがやってくる。
オートマーターそれ自体は殺戮に特化した人形である、だが、機械ゆえに単調なのだ。
オートマーターはまずわたしを見つけた時にわたしがターゲットであるか照合し、確認した後、ターゲットに向けて発砲してくる。
彼らはそれを作業として一々行わなくてはならない。それが隙になる。
目の前にオートマーターが二機現れる球状の胴体からカメラアイを覗かせわたしを確認する。
それと同時に、わたしはオートマーターに向けて走り出した。
2体のオートマーターはわたしを照合した後、すぐさま機関銃部を展開し、わたしに向けた。
その瞬間、わたし腕に付いたワイヤーを射出し、一体のオートマーターの体に絡め、後ろに向けて引いた。
ワイヤーを体に巻きつけられたオートマーターはその球体上の体が災いぐるりとその体を100度ほど倒す。
発砲、一体のオートマーターは体を倒した為、地面に向けてその機関銃を発射した。
しかし、もう一体のオートマーターは構わずわたしに向けてその機関銃の引き金を引く。
だが、わたしにはそれは当たらない。
これはオートマーターのリンク機能が仇になって起こった事だ。
二機での襲撃故に射撃する範囲が被らぬようにリンク機能を使って情報をやりとりし、わたしに逃げ場が無いように射撃を行おうとしたのだ。
だがその内、一機の射撃能力が奪われてしまうと必然その一機の射撃を予定していた領域は安全領域へと変貌を遂げる。
わたしはそれを利用して、その安全地帯を走り、オートマーターの射撃を回避し、滑り込むようにして懐に潜り込み片方のオートマーターのカメラアイにはコンバットナイフを突き刺し、もう片方のオートマーターの機関銃を持ち上げてるアームにその手で触れた。
アクセス。
わたしはオートマーターの世界の中に入り、自爆装置を起動させ、すぐさまリンクアウトを行う。
そして、ナイフを引き抜き、そのままワイヤーを断ち切り、跳躍して、その場から離れた。
5秒後に爆発、二機のオートマーターはその中に組み込まれた自爆装置によって自らを破壊する。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
疲労の息が漏れる。なんとか、10機のオートマーターを破壊した。
もし、何も知らないあの頃のわたしだったら、このオートマーターにやられていたかもしれない。
でも、その全てをわたし一人の力で破壊する事が出来た…それは潤也と共に戦いを勝ち抜いてきたという過去があるから出来たことだろう。
潤也と一緒に闘ってきた経験が今、わたしの中で生きているのを感じ、何か満ち足りたものを感じた。
「うん、潤也、わかってる、まだ安心しちゃ駄目だよね…。」
わたしはほつれかけた気持ちを引き締める為にぎゅっと手を握りしめる。
そう、まだ安心してはいけない…これからが本番だ。
何もまだ終わっていないのだから…。
わたしは通路を戻り、先ほど見つけた緊急用の階段へと向かう。
地下3階から地下4階を繋ぐ緊急時の避難用の階段だ。
あまり階段から離れないように闘っていた為、銃痕の付いた地下四階への扉はすぐに見つかった。
わたしは呼吸を整え、階段を下りる。
この階段は本来緊急事態の際に使われる階段だ、地下四階に向かいそこから180mを一気におりる地下五階への直通エレベーターに乗る。
エレベーターを動かす為のコードも『あの男』から提供されていた。
わたしは階段を降りていく。
一歩を踏み出すたびに先ほどの戦いの疲労がわたしを襲ったが、その疲労は自分が潤也の元に近づいている事を示しているようで嬉しかった。
3ヶ月前、あの日、黒峰潤也と出会ったあの日の事をわたしは忘れたことが無い。
琴峰研究所の地下1階にある特別研究室。
そこの大型試験管の中でわたしは育てられていた。
辛い、痛い、苦しい。
当時、わたしに自我というものが芽生えてから覚えた感情はそんなものばかりで、この世界は地獄だった。
なんでわたしは生きているんだろう?そんな事を考えるのがわたしの日常だった
試験管の前の白衣の男たちはわたしは見るたびに、これでは近づけないだの、まだ足りないだのいってわたしの頭の中になにかを入れるのだ…それは苦痛を伴うなんてレベルじゃなかった。
毎日、気が狂いそうになるぐらいの苦痛を味わう、でも苦痛しか知らないわたしは狂うという事すら出来なくて、その境を幾度も往復した。
地獄だった。
彼らはわたしを自我の無い人形だと呼んでいた、ていの良い実験動物だと…。
つらいよ、苦しいよ、なんでわたしはこんな目に会わなくちゃいけないの?
それが当たり前の日常だった。
それを壊したのが潤也だった。
試験管の中のわたしを見て、彼が最初になんて叫んだか、今でも覚えている。
「なんで、咲がこんな、ところに…。」
咲というのはなんだろうか?と当時は思ったものだ。
潤也は分厚い試験管のガラスを壊してわたしをそこから出してくれた。
今にも泣きそうな顔でわたしを抱きしめてくれたのを覚えている。
わたしを抱きしめてくれたその両腕は暖かかった。
暖かかったんだ。
その温もりを今でもわたしは覚えている。
そして生涯忘れることも無いだろう。
負の思いしかなかったわたしに違うものを与えた原点。
それは本当に、暖かくて、優しくて、幸せだった。
その全てが今までのわたしには無かったもので、わたしはそこで初めて幸福というものを知った。
その後、潤也は何かを思い出したかのようにしてわたしを見たくないもの見る眼で見た。
そうした後、酷く冷たい声でわたしにこう言ったのも覚えている。
「お前が№Iって奴か?」
№I、それがわたしに振られていたコードだというのはその頃はまだ知らなくて、わたしはうんともすんとも答えることが出来なかった。
潤也は近くで怯えている研究員を殴り飛ばし、情報を聞き出し、わたしが№Iだという確証を得る。
「俺にはお前の力が必要だ、一緒に来い。」
わたしにその手をとらないという選択肢は無かった。
№Iというわたしのコード名を、それは人の名前じゃないと言い藍と名づけてくれた。
その後、安直で済まないと潤也はわたしに謝ったが、わたしは彼がくれたものというだけでこの上なく嬉しかった。
琴峰という性を付けたのはわたしだ。
わたしのいた施設の出身者は皆、琴峰と名乗っているという話を知り、ならば、わたしもそう名乗るべきなのかなと思い名乗ったのだ。
あそこにいた時に良い思い出など無かったが、わたしはそれ以外に苗字として付けれそうな名前を知らなかった。
それからわたしは潤也のパートナーとして一緒に闘った。
潤也は、それから出会ったあのときのように優しくわたしを抱いてはくれなかった。
いつもわたしを見るたびに何かを思い出し、噛締めるようにしてわたしに辛く当たるのだ。
傷つかなかったといえば嘘になる。わたしに暖かさをくれた人間が今度はわたしの心をナイフで刺すような発言を繰り返すのだ。
最初は理由がわからなかった。最初はわたしが、あんなところにいた汚いものだからなんじゃないかと思った事もあった。
だから、わたしは自分を責めた。なんでわたしはこんなに無能なんだろう。もっともっと潤也の役に立てるようになりたい、もっともっと潤也に褒めてもらえるようになりたい。
そして、わたしの努力の日々が始まった。きっといつかあの日のように優しく暖かく抱きしめてもらえると信じて…。
けれど、その努力はそう簡単には実らなかった。
わたしは時折、直感的に感じていた、根本的に潤也はわたしに辛く当たらざる終えない何かがあるのだと…。
わたしはそれを知りたかったが潤也はそんな事を教えてくれる由も無かった。
けれど、わたしは知ってしまった。
『あの男』、銀髪をなびかせる『あの男』から全ての真実を教えられたのだ。
全ての原因はこの顔と声だった。
わたしが潤也にあのように扱われていたのはわたしの性格や生まれなどでは無くもっと根本的なものだった。
これは変えられない、わたしが作られたときにもって生まれたものだ。
ならばどうすれば良いのだろう?わたしは体の中に溶けている、あの図面のせいで顔も声も変える事は出来ない。
その時、わたしは初めて、わたしを作った者たちを恨んで呪った。
そして、潤也もわたしが真実を知ってしまった事に気づいた。
「最低だろ?俺はお前をお前として見れてないんだ、別の名前を付けて、別の人間だと思って見ようとしたんだけれど、そう見れなくてな…そういう意味じゃ、お前を作った奴らと俺は変わらないな、はは、まったく自分に吐き気がするよ。
藍、お前は俺を見捨てても良い。それをするだけの理由がお前にはあるし、そうされても俺は恨まないさ。」
そう、潤也は自分を責めるように言ったのは今でも覚えている。
潤也を捨てる?そんな事が出来るはずが無い、こんなに、こんなに好きなのだ。わたしにとって潤也は全てなのだ。
あの痛みと苦しみしかなったわたしの世界に暖かさをくれたのは潤也だけなのだ。だから、わたしはその時、例えどんな事があっても潤也の傍から離れない事を誓った。
リベジオンの中にあるシステムとわたしは深化で繋がり、わたしという存在が黒峰潤也という存在に隷属するものと作り変えた。
こうしてしまえば、わたしの心など関係なくてもわたしは黒峰潤也という人間に逆らう事も出来なければ離れる事も出来ない。
そしてわたしが潤也のものだという証がそこにはあった。
それがわたしの決意だった。
「ふざけるな、馬鹿!」とわたしがやった行動に潤也は心の底から怒った。
それは黒峰咲にではなく、琴峰藍というわたしに対しての怒りだった。
わたしはわたしの事を思って、本気で怒っている潤也の気持ちがただ、ただ嬉しかった。
それだけでわたしは満たされたのだ。
それからも潤也は自分に辛く当たったが、わたしは潤也と一緒にいる事が出来る、そして潤也に必要とされているというだけでこの上なく嬉しかった。
これからもずっと潤也と共に歩んでいこう、わたしはそう思った。
けれど、今、わたしの傍には潤也はいない。
あの狗との戦いの中で、潤也は自らの精神を守るために外界との接触を全て断ってしまった。己の心を箱の中に閉じ込め、鍵を閉めたのだ。
そして、潤也は彼らに連れて行かれた。
外の世界との干渉をたった潤也はもはやそこに生きているだけの人形のようなものだ。彼らへの抵抗など出来るはずも無かった。
そして、わたしはここに来た。
潤也をここから助け出すために…。
もしかすると潤也はあのままの状態のほうが幸せなのかもしれない、妹を殺さなければならないという呪いを忘れ、ただ、何も考えないで閉じこもっていられる。
そんな、何にも縛られなくてもいい孤独な世界、そんなところに潤也はきっといる。
潤也をここから助けるという事は、即ち潤也を戦いに引き戻すという事だ。
それはきっと、いや、間違いなく潤也を不幸にする。
わたしが今、やろうとしているのはそういう事なのだ。
きっと、このまま放っておくのが潤也の幸せなのだろう…。
けれど……わたしは……潤也と一緒にいたい、一緒にいたいんだ。
その思いだけがわたしを動かす。
きっとわたしは潤也にとっての悪夢のような存在だ。
彼に闘うための力を与えてしまい、彼の逃げ場を無くしていく、わたしの顔は否応なく彼のしなければならない事を思い出させ、彼はその身を戦いに投じざる終えなくなる。
そんな風にしかわたしは潤也に関わることの出来ない、わたしはわたしが嫌いでたまらなかった。
扉が見えた、地下300mにある地下5階、そこにたどり着くための直通エレベーターがある地下四階への到着を意味する。
あとはこの扉を抜けた通路にあるエレベーターでコードを入力して、進めばいいだけだ。
わたしは、小さく呼吸し、その扉を開いた。
目の前には地下3階と同じような人工的なというような清潔さを感じさせる廊下が広がっていた。
わたしはすぐに近くの直通エレベーターに向けて歩を進める。
「―――お嬢ちゃん、ちょっと待ちなさいな…。」
後ろから声がした、知らない人の声。
わたしは慌てて後ろを振り向く…そこには一人の白いワンピースに身を包んだ白髪の老婆がいた。
わたしはその老婆という存在に背筋に寒気が走るのを感じた。
いつでも敵襲に応じられるように最新の注意を払って、周りの気配を探っていたというのに、声をかけられるまでわたしはその存在にまったく気づかなかった。
老婆はその枯れ枝のような腕を伸ばし、こぶしを顎にあて、考えるような仕草を取る。
「ここはお嬢ちゃんのような可愛い娘が来るような場所じゃないんだけれどねぇー、どうしてここに来たのやら…。戻り方がわからないのならばこの賢いお婆ちゃんが、上に連れてってあげるよ。」
そう子供をあやす様に笑って老婆はわたしに言葉をかける。
「必要ない、わたしの目的は下だから…。」
「そうなのかい、でもお嬢ちゃん、ここから下はコードが無ければいけないよ?」
「持ってる。」
わたしはエレベーターの操作パネルに触れ、エレベーターを使うために必要なカードキーを読み込ませパスコードを入力した。
「あらら、ウチの馬鹿どもはこんな子供にまで情報漏洩させてしまっているのかい、後で、きっちり怒っておかないといけないねぇ…。」
今、地下300mにあるエレベーターがこの地下四階まで上がってきている。
「ところでお嬢ちゃん、今、暇かい?」
そう笑いを含んで、老婆は問う。
「暇に見える?」
わたしはこの老婆が敵なのか測りかねていた。
彼女からは上の階にいた警備員がわたしに発したような敵意を感じないのだ。
「少なくともそのエレベーターが来る2分ぐらいは、やること無くて暇だと思うかねぇ。」
「だから、何?あなたもここの人なら知ってると思うけれど、わたしにちょっかい出すとただじゃ済まないよ、そのまま上の階にいた人達みたいになりたくなかったら戻ったほうがいいんじゃない?」
脅し文句だった。見た所、体格からして戦闘要員というわけでもない、力加減を誤って殺してしまうのが少し怖かったという思いから発した言葉だったけれど、それと一緒にいい様の無いざわめきのようなモノをわたしの奥にある何かが感じていた。
そんなわたしの言葉を受けて、そうかい、上の階があんなになってたのはこの娘がやったのかいと老婆は頷いた後、大声をあげて笑い始めた、まるで子供のような笑い声だった。
おかしい、こんなおかしい事があったのかと笑った。
「そうかい、そうかい、お嬢ちゃんがあれをやったのかい、たまらないねぇ!こんなお嬢ちゃんがイーグルを、そうかい、そうかい、そうかい、お婆ちゃん関心しちゃったよ。」
その笑い声にわたしは言いようの無い恐怖を感じた。
「いや、ごめん、こんなに面白いことを聞いたの久しぶりだったから、つい、ねぇ…10年ぐらい若返った気分だよ。そうだ、お嬢ちゃん、せっかくだし遊んでいかない?」
「遊び?」
「お嬢ちゃん、地下五階に用事があるという事は例のCR-02の適格者に用事があるんだろう?だから、もし遊びに勝ったらこのあたしが地下五階にいってお嬢ちゃんの目的の成就から脱出まで手伝ってあげるよ。」
老婆は子供をあやす様な声でわたしに言う。
「あなたなんかいなくても一人でやれる…。」
「いやいや、あたしがいると楽だよ?わたしがこの施設を作ったんだから、だからわたしがいればこの施設のどんな所もフリーパスで入れる。」
地下五階のセキュリティはかなりの難関だとは聞いていた。
その概要をわたしはほんの少し聞かされただけだったが、一筋縄ではいかないだろうと考えていた。
あまりに時間がかかりそうならば『力』を使う事も考慮していた程だ。
もし、この老婆の言っている事が本当ならば、それはわたしにとっても時間短縮に繋がるし、余計な危険を冒さなくても良いという事を示している。
でも、だからといって、
「その話が本当だって保障はどこにもないでしょ?それに遊びって何をするつもりなの?」
そう尋ねるわたしに老婆は少し考えるようにした後、
「それに関しては信じてもらうしかないなぁー、遊びの内容はまあ、なんでもいいだけれど…そうだね、お嬢ちゃん腕っ節には自信あるんだろう?
じゃあ、それで行こうじゃないか、わたしと格闘戦やって勝つことができたらお嬢ちゃんの勝ち、それでどうだい?
武器はなんでも使って良いよ、あたしは見ての通り、何も持ってきてないけれど…。」
「そう…。」
告げると同時に、わたしは老婆に向けて一気に駆け出した。
さきほどからサイレンのようにわたしの中で鳴る何かがこの老婆に異常な警戒を示している。
だから、わたしはたとえ、老婆の言葉が嘘でも真でも、今ここで倒しておいたほうが良いと判断した。
わたしはすぐさま老婆の懐に潜り込む、そのまま体を捻り、上段からの後ろ回し蹴りを放つ。
そのとき、パスッと間抜けな音がなった。
蹴りが人の体に喰いこむ際に感じる感触が感じられない。
わたしは驚いて、蹴りを放った方の足を見る、その視線の先に待っていたのはさらなる驚愕だった。
老婆の体に食い込む筈のわたしのかかとが老婆のしわだらけの手のひらに収められ止められていたのだ。
驚くわたしを見て老婆はにやりと笑って言った。
「自己紹介がまだだったね、お嬢ちゃん、あたしの名前は、九条、時峰九条、この『イーグル』の副司令にしてピチピチの82歳さ。」
イーグル司令部は先ほどよりもさらに激しいブリザードに襲われていた。
司令部の人間は全てそのブリザードで凍ったように棒立ち状態で動かなくなっており、ただモニターの中で起こっている事象をただ、ただ信じられず眺めているだけだった。
いや、なんであの人、あそこにいるんだろう?
誰もが、モニターに写る老婆を見て、そう思っていた。
行方不明になった時峰九条を司令部はありとあらゆる情報網を使って探した。
だが、見つからなかった。近辺を出来うる限りの手段を使って探したのにいなかったのだ。
それなのに、何故か彼女は今、地下四階であの襲撃者の少女と戦っている。
意味がわからない、月見にいったんだろ、あの人?
てか、雪花どこにやった?
自分たちに気づかれずどうやって地下四階まで降りた。
意味がわからない。理解できない。なんなんだ、あのババア。
そんな感情が司令部の人間の心を支配した。
時峰九条の奇行は今に始まった事ではない。
彼女はふざけるのが大好きな人間なのだ、人をおちょくり、それで慌てる人を見るのが趣味なのだ。
それを、その尋常ならざる能力を生かして、やってくるのだからまったくをもって洒落にならない。
彼女と関わってその心に大きなトラウマを作らなかった人間はいないのだ。
それは『時峰九条だから仕方ないという』免罪符のような言葉がイーグル内では周知になっている事からもよく分かることだ。
大慌てで彼女を探していた自分たちの徒労は一体なんの為の徒労だったのだろうか…。
そんな事を考えて固まっていた司令部の人達は目に涙を浮かべた。
「そ、それにしてもどうやって、副司令、地下四階までいかれたんでしょう?流石にこのビルに入ってきたら私達でも気付くことは出来たと思うのですが・・・。」
そんな疑問を柳瀬が告げる。
「そんなの考えるまでもないじゃないか、時峰ワープだよ、時峰ワープ!!たぶん副司令は空間を操る力を持っていてそれを使って目的地までビュビュッと飛べるんだ。」
そう職員の一人が涙を浮かべながら答えた。そんな顔で無理して笑顔を作ろうとしているのが痛々しい。
「え、そんな、いくらなんでも人間にそんな無茶苦茶な―――――」
「頼むから、柳瀬、あの人の事をまともに考えさせるのはやめてくれ!!考えると俺たちの身が持たない!!!!」
常識的な突込みをしようとした柳瀬に対して職員の一人はそうやって狼狽する。
考えるだけ無駄なのだ。あの人はそういう人なのだと、これ以上あの人の事を考えさせないでくれと、その声にはそんな悲しい思いが乗せられていた。
そんな中、コホンと琴峰雫が咳をして、言う。
「まあ、どうであれ、事態は好転したんだ、とりあえず後は事の顛末を見守ろうじゃないか、あとは九条さんに任せておけば、きっと大丈夫だから…ですよね、司令?」
そうマイクの先にいる秋常貞夫総司令に雫は尋ねた。
司令からの激を貰い、この混沌に満ちた空気をなんとかしてもらおうと考えたからだ。
しかし、司令からの激の声が流れる筈のスピーカーから流れてきたのは、秋常貞夫の声ではなかった。
「あ、あの、すいません。」
若い声、第六機関からやってきたナノマシン工学の権威、レイン・フォード博士の声だった。
「フォード博士、どうされました、総司令がそこにおられるのでしたら変わって欲しいのですが…。」
そう尋ねながらも、雫は凄く嫌な予感というものを感じていたのは特筆するまでも無い話である。
「あ、あの、それがですね、地下四階の映像を端末で見た後、『あの糞ババアァァァァァァアァ』と大声あげて何度も壁に頭突きを繰り返し頭から血を流して倒れられてしまいした。え、っと、あのこういう時の応急処置ってどういう事をすればいいんでしょうか?」
そうやって慌て切羽詰った声色でフォード博士は尋ねてくる。
雫はそれを聞いて、先ほどより強烈な眩暈を感じ、
「もう、この仕事やめていいですか…。」
とポツリと呟いた。
司令部の人間は全てそのブリザードで凍ったように棒立ち状態で動かなくなっており、ただモニターの中で起こっている事象をただ、ただ信じられず眺めているだけだった。
いや、なんであの人、あそこにいるんだろう?
誰もが、モニターに写る老婆を見て、そう思っていた。
行方不明になった時峰九条を司令部はありとあらゆる情報網を使って探した。
だが、見つからなかった。近辺を出来うる限りの手段を使って探したのにいなかったのだ。
それなのに、何故か彼女は今、地下四階であの襲撃者の少女と戦っている。
意味がわからない、月見にいったんだろ、あの人?
てか、雪花どこにやった?
自分たちに気づかれずどうやって地下四階まで降りた。
意味がわからない。理解できない。なんなんだ、あのババア。
そんな感情が司令部の人間の心を支配した。
時峰九条の奇行は今に始まった事ではない。
彼女はふざけるのが大好きな人間なのだ、人をおちょくり、それで慌てる人を見るのが趣味なのだ。
それを、その尋常ならざる能力を生かして、やってくるのだからまったくをもって洒落にならない。
彼女と関わってその心に大きなトラウマを作らなかった人間はいないのだ。
それは『時峰九条だから仕方ないという』免罪符のような言葉がイーグル内では周知になっている事からもよく分かることだ。
大慌てで彼女を探していた自分たちの徒労は一体なんの為の徒労だったのだろうか…。
そんな事を考えて固まっていた司令部の人達は目に涙を浮かべた。
「そ、それにしてもどうやって、副司令、地下四階までいかれたんでしょう?流石にこのビルに入ってきたら私達でも気付くことは出来たと思うのですが・・・。」
そんな疑問を柳瀬が告げる。
「そんなの考えるまでもないじゃないか、時峰ワープだよ、時峰ワープ!!たぶん副司令は空間を操る力を持っていてそれを使って目的地までビュビュッと飛べるんだ。」
そう職員の一人が涙を浮かべながら答えた。そんな顔で無理して笑顔を作ろうとしているのが痛々しい。
「え、そんな、いくらなんでも人間にそんな無茶苦茶な―――――」
「頼むから、柳瀬、あの人の事をまともに考えさせるのはやめてくれ!!考えると俺たちの身が持たない!!!!」
常識的な突込みをしようとした柳瀬に対して職員の一人はそうやって狼狽する。
考えるだけ無駄なのだ。あの人はそういう人なのだと、これ以上あの人の事を考えさせないでくれと、その声にはそんな悲しい思いが乗せられていた。
そんな中、コホンと琴峰雫が咳をして、言う。
「まあ、どうであれ、事態は好転したんだ、とりあえず後は事の顛末を見守ろうじゃないか、あとは九条さんに任せておけば、きっと大丈夫だから…ですよね、司令?」
そうマイクの先にいる秋常貞夫総司令に雫は尋ねた。
司令からの激を貰い、この混沌に満ちた空気をなんとかしてもらおうと考えたからだ。
しかし、司令からの激の声が流れる筈のスピーカーから流れてきたのは、秋常貞夫の声ではなかった。
「あ、あの、すいません。」
若い声、第六機関からやってきたナノマシン工学の権威、レイン・フォード博士の声だった。
「フォード博士、どうされました、総司令がそこにおられるのでしたら変わって欲しいのですが…。」
そう尋ねながらも、雫は凄く嫌な予感というものを感じていたのは特筆するまでも無い話である。
「あ、あの、それがですね、地下四階の映像を端末で見た後、『あの糞ババアァァァァァァアァ』と大声あげて何度も壁に頭突きを繰り返し頭から血を流して倒れられてしまいした。え、っと、あのこういう時の応急処置ってどういう事をすればいいんでしょうか?」
そうやって慌て切羽詰った声色でフォード博士は尋ねてくる。
雫はそれを聞いて、先ほどより強烈な眩暈を感じ、
「もう、この仕事やめていいですか…。」
とポツリと呟いた。
To be continued ?
イーグル本部内の5Fにある接客用の待合室。
その部屋は電気がつけられておらず、暗い一室だった。
そこには銀髪の男がいた。その銀髪は窓から少しだけ入ってくる月の光を浴びて妖艶なというべき光を放つ。
その銀髪に支えられた男の容姿は非常に均整が整っており、まるで人形のような美しさがあった。
その男の名をグレイヴ・スクワーマーという。味方殺しの異名を持つ、世界最強の鋼機乗りである。
「本当にあなたって変な趣味よね、灯りが嫌いなんて…。」
そうグレイヴに声をかけたのは第六機関代表セレーネ・リア・ファルシルだった。
「別に僕は灯りが嫌いなわけじゃないよ、無意味な灯りでこの綺麗な月夜を楽しめなくなるのが面白くないだけなんだ。」
「ロマンチストっぽいこと言うわねぇ、らしくないにも程があると思うわ…。」
「そうかい?風流という言葉を僕は母からよく聞かされていてね、意外とこういうのも好きなんだよ。」
「その口調もあなたらしくないわ、あなた、場合、場合に応じてキャラがすぐに変わるからどういう人間なのかつかめないのよね。」
「ふふ、僕は道化だからね、ある時は狂人にもなるし、ある時は英雄にもなる、世の人々を楽しませるエンターテイナーなのさ。でもメンバーの中でも一番付き合いの長い君にそういわれると少しショックかなぁー。」
その部屋は電気がつけられておらず、暗い一室だった。
そこには銀髪の男がいた。その銀髪は窓から少しだけ入ってくる月の光を浴びて妖艶なというべき光を放つ。
その銀髪に支えられた男の容姿は非常に均整が整っており、まるで人形のような美しさがあった。
その男の名をグレイヴ・スクワーマーという。味方殺しの異名を持つ、世界最強の鋼機乗りである。
「本当にあなたって変な趣味よね、灯りが嫌いなんて…。」
そうグレイヴに声をかけたのは第六機関代表セレーネ・リア・ファルシルだった。
「別に僕は灯りが嫌いなわけじゃないよ、無意味な灯りでこの綺麗な月夜を楽しめなくなるのが面白くないだけなんだ。」
「ロマンチストっぽいこと言うわねぇ、らしくないにも程があると思うわ…。」
「そうかい?風流という言葉を僕は母からよく聞かされていてね、意外とこういうのも好きなんだよ。」
「その口調もあなたらしくないわ、あなた、場合、場合に応じてキャラがすぐに変わるからどういう人間なのかつかめないのよね。」
「ふふ、僕は道化だからね、ある時は狂人にもなるし、ある時は英雄にもなる、世の人々を楽しませるエンターテイナーなのさ。でもメンバーの中でも一番付き合いの長い君にそういわれると少しショックかなぁー。」
そうおどけたようにグレイヴは言う。呆れたとセレーネはため息をつき、
「それで、あなたが演出した今回の事件、首尾はどうなの?」
「今の所は順調だね、時峰九条と№Iが接触したみたいだよ。中々面白い勝負になるんじゃないかなぁー『所有者』同士の戦いなんて前代未聞だ。君は楽しんでるかい?僕は最高に楽しんでる。」
なんとも楽しそうにグレイヴは笑った。
「別に…いくら『所有者』といっても機体に乗ってなかったのならば、たいした意味は無いでしょ、それにあの時峰九条にあのモルモット如きが勝てる図なんて想像も付かないわ。」
「普通に考えればそうだろうね、でも、あいつは兄弟と一緒に何度も死線を潜り抜けてきてはいるんだ、もしかするとがあるかもしれないじゃないか。それを考えると楽しくて、楽しくてたまらないよ。」
そういうグレイヴを見て、セレーネは笑った。
「何かおかしいところがあったかい?」
「いえ、ね、鏡で自分の顔を見てみればいいと思うわ、あなた、さっき風流がなんだといってロマン語ってた時よりずっといい顔をしてる。」
「それは仕方の無い事さ、兄弟の事なんだから、ああ、君に僕の心は奪われている。永遠に続くと思っていたこの牢獄の中で生まれたイレギュラーそれを愛さずにいられるわけがないじゃないか。」
そういって悦に入るグレイヴにセレーネは苦笑した後、
「そういえば『エンジェル』の方がついに、動き始めるそうよ。」
「メタトロニウスか、UHにせっかく適格者と共にくれてやったんだ、そろそろ使ってもらわないと困るよ。」
「そういえばあの子、今、あそこの女王様なんだっけ?」
セレーネは笑いを堪えるようにして言った。
「ヤー、ヤー、今や彼女は地下世界に閉じ込められていた彼らを解放した救世主だからね、今やUHの奴らは彼女の忠実にして敬虔なる僕だよ。信者たちは盲目で怖いぞ~、自らの滅びを恐れないからね、本当に強敵この上ない。」
「でもそろそろ、こっちも放出するんでしょう?対鋼獣装備の鋼機を…。」
「セレーナが見込んだ英雄君がやる気になってくれたらね。それに対鋼獣装備といってもスペック差は歴然だ、どんなパイロットが乗っても三獣神機や至宝を持った怨念機には適わないよ。」
「でも、勝てないのはそれぐらいだわ、大抵のオリジナルやレプリカには理論上は勝てるという領域に達してしまう。あとは数の暴力で攻めればなんとかはなってしまうでしょう。」
「だねぇー、そして『エンジェル』はあの純白の怨念機を携えて出てこざる得なくなる。彼女の目的は泣かせるからね、僕もあそこまで純真だと感動して自然に涙が出てくるよ。」
「純真?あれが?」
呆れたといわんばかりのジェスチャーをセレーネは取った。
「父を、母を、彼女は救おうとしているんじゃないか、方法はどうであれ…。」
「そうなるよう仕向けた本人がよく言うわ…それにしてもあなたその内、やってない事までも『それも私だ』とか言って、自分のした事にしそうよね。」
「その方が面白ければそうするよ。」
グレイヴ・スクワーマーの行動原理、それは面白いか、面白くないかである。ありとあらゆる行動がこの思考を根幹として行われている。
彼がかつて味方を殺した時の理由も、この方が意外性があって面白そうだったから、そんなどうしようもない理由だった。
グレイヴは両手を天に掲げて、祈るように言った。
「さて、前座もそろそろ終わりつつあるし、メインイベントが近づいてきてるみたいだ。
今まで自己を閉ざすという、あの状態になって帰ってきたものはいない、誰も辛い現実などまた見たくはないからね。
でも僕は兄弟に期待してる、普通に考えれば無理なんだけれど、彼なら、その存在自体がイレギュラーな彼なら帰ってこれるかもしれない。
ああ、僕の知らない未知、未知よ、どうか、それを知る喜びを僕に与えてくれ、あぁ、期待してるよ、黒峰潤也。」
「それで、あなたが演出した今回の事件、首尾はどうなの?」
「今の所は順調だね、時峰九条と№Iが接触したみたいだよ。中々面白い勝負になるんじゃないかなぁー『所有者』同士の戦いなんて前代未聞だ。君は楽しんでるかい?僕は最高に楽しんでる。」
なんとも楽しそうにグレイヴは笑った。
「別に…いくら『所有者』といっても機体に乗ってなかったのならば、たいした意味は無いでしょ、それにあの時峰九条にあのモルモット如きが勝てる図なんて想像も付かないわ。」
「普通に考えればそうだろうね、でも、あいつは兄弟と一緒に何度も死線を潜り抜けてきてはいるんだ、もしかするとがあるかもしれないじゃないか。それを考えると楽しくて、楽しくてたまらないよ。」
そういうグレイヴを見て、セレーネは笑った。
「何かおかしいところがあったかい?」
「いえ、ね、鏡で自分の顔を見てみればいいと思うわ、あなた、さっき風流がなんだといってロマン語ってた時よりずっといい顔をしてる。」
「それは仕方の無い事さ、兄弟の事なんだから、ああ、君に僕の心は奪われている。永遠に続くと思っていたこの牢獄の中で生まれたイレギュラーそれを愛さずにいられるわけがないじゃないか。」
そういって悦に入るグレイヴにセレーネは苦笑した後、
「そういえば『エンジェル』の方がついに、動き始めるそうよ。」
「メタトロニウスか、UHにせっかく適格者と共にくれてやったんだ、そろそろ使ってもらわないと困るよ。」
「そういえばあの子、今、あそこの女王様なんだっけ?」
セレーネは笑いを堪えるようにして言った。
「ヤー、ヤー、今や彼女は地下世界に閉じ込められていた彼らを解放した救世主だからね、今やUHの奴らは彼女の忠実にして敬虔なる僕だよ。信者たちは盲目で怖いぞ~、自らの滅びを恐れないからね、本当に強敵この上ない。」
「でもそろそろ、こっちも放出するんでしょう?対鋼獣装備の鋼機を…。」
「セレーナが見込んだ英雄君がやる気になってくれたらね。それに対鋼獣装備といってもスペック差は歴然だ、どんなパイロットが乗っても三獣神機や至宝を持った怨念機には適わないよ。」
「でも、勝てないのはそれぐらいだわ、大抵のオリジナルやレプリカには理論上は勝てるという領域に達してしまう。あとは数の暴力で攻めればなんとかはなってしまうでしょう。」
「だねぇー、そして『エンジェル』はあの純白の怨念機を携えて出てこざる得なくなる。彼女の目的は泣かせるからね、僕もあそこまで純真だと感動して自然に涙が出てくるよ。」
「純真?あれが?」
呆れたといわんばかりのジェスチャーをセレーネは取った。
「父を、母を、彼女は救おうとしているんじゃないか、方法はどうであれ…。」
「そうなるよう仕向けた本人がよく言うわ…それにしてもあなたその内、やってない事までも『それも私だ』とか言って、自分のした事にしそうよね。」
「その方が面白ければそうするよ。」
グレイヴ・スクワーマーの行動原理、それは面白いか、面白くないかである。ありとあらゆる行動がこの思考を根幹として行われている。
彼がかつて味方を殺した時の理由も、この方が意外性があって面白そうだったから、そんなどうしようもない理由だった。
グレイヴは両手を天に掲げて、祈るように言った。
「さて、前座もそろそろ終わりつつあるし、メインイベントが近づいてきてるみたいだ。
今まで自己を閉ざすという、あの状態になって帰ってきたものはいない、誰も辛い現実などまた見たくはないからね。
でも僕は兄弟に期待してる、普通に考えれば無理なんだけれど、彼なら、その存在自体がイレギュラーな彼なら帰ってこれるかもしれない。
ああ、僕の知らない未知、未知よ、どうか、それを知る喜びを僕に与えてくれ、あぁ、期待してるよ、黒峰潤也。」
To be continued
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