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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

少女機甲録(仮) 第1話

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sousakurobo

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建物の影に身を屈める様に隠れていた87式機士の頭部センサーアイに光が灯り、ゆっくりと上半身を起こす。
身長4mの人型の装甲騎兵はその鋭敏なセンサーに複数の敵影を捉えていた。
敵の発する熱量、歩行する時の振動を各種のセンサーが関知し、その種類と数が即座に分析される。

「ガールズ・マルヒト(01)よりガールズ・マルマル(00)へ…
タイプA、6 タイプB、4 本町信号機前を通過し国道227号線を南下中…予定通り市営住宅の火点で迎撃する
マルヒトとマルフタ(02)はこれより誘導を開始、3秒間の射撃の後、後退する」

マルヒトの符丁を与えられた87式機士に搭乗するパイロットは10代の少女特有の高いソプラノの、透き通った声で仲間へと通信を行う。
接近してくる敵に電波無線が傍受される恐れは無いが、奴らはこちらと同様に熱や音には鋭敏な感覚センサーを有している。
目前500mにまで接近してきた敵に気付かれないよう慎重に立ち上がったつもりだったが、しかし気づかれてしまったようだ。
舌打ちをして操作グリップに回避行動の命令を入力する。
1秒後には隠れていた建物のコンクリ壁に十数本もの太い槍の様な弾丸が打ち込まれていた。

「マルヒト、射撃開始! 撃(て)っ! マルフタ援護っ!」

87式機士の右腕に装備された25ミリ機関砲がバースト(点射)モードで炎を吹く。
ドンドンドン、ドンドンドン、と2回に分けて三発ずつ打ち込まれた砲弾は敵、タイプAの6本足のうち3本を吹き飛ばし
マルヒトはそのまま背を向けて全力で後退した。
それを援護するマルフタの、同じく25ミリ機関砲のドンドンドンドンドンドンという連続した発射音。
マルフタはどうやらフルオート(連射)で撃ちまくっているらしい。

「マルフタっ! 射撃はバーストでって行ったでしょう!」

後退射撃位置に付いたマルヒトは事前の申し送りをマルフタが無視したのを叱責しながら、マルフタの後退するのを援護するために再度射撃を行う。
マルフタは連射でタイプBの1体の胴体を蜂の巣にすると、迅速に後退行動に入る。
これを繰り返しながら、じりじりと後退を続けるのがマルヒトとマルフタの任務だ。

「火点に到達するまでに敵の数を減らしておくのも大事だと思うけれど」

「そういことは考えなくていいの! 私達は軽装甲なんだから、まともに敵とやり合おう何て考えない!!」

言葉を交わしながら、後退→射撃・援護を交互に繰り返す。
軽騎兵型である87式の装甲防御力は頼りない。 敵の針弾を一発食らっただけでも戦闘不能になることもありえる。
致命部位に損傷を受けたら、それはパイロットの死を意味するのだ。
だから、マルヒトとマルフタの与えられた任務は偵察と、建物から建物へと退きながら敵をこちらが罠を仕掛けているポイントまで誘導する囮だ。
今のところ、被弾は無い。 あと800m後退すれば、火点に到達できるはずだ。
と、後方から白い煙の尾を弾いて一発のミサイルが飛翔してくる。
そのミサイルはおそらく目標にしたであろうタイプAと自身の間にある民家に突っ込み、爆発した。

「マルマルっ、今の誰!? まだ攻撃距離じゃないでしょ!? マルナナ(07)!?」 

マルヒトが怒りの声を上げると、ノイズ交じりの通信にマルナナが答えた。

「私じゃねーよ、初李だよ。 だから言ったじゃん、こっからじゃ当たんないって…」

初李、とはマルハチ(08)のパイロットの名前だ。
マルナナ・マルハチの82式機士は砲撃・火力支援型の砲兵型と言われるタイプである。
砲やミサイルを装備し、遠距離から装甲目標を精密攻撃したり、小型目標を面制圧したりする。

「…87式と82式はデータリンクがあるから、マルヒトかマルフタが照準している目標に誘導が可能だわ」

「何馬鹿なこと言ってんの! 打ち合わせにあったこと以外はしない! それに、81式誘導弾の性能じゃ
市街戦では建造物が邪魔になって当たらない!! ボケてるの!?」

データリンクは情報共有、他者のセンサーで捉えた目標の情報を自分も手に入れることが出来る機能である。
例えば、マルヒトの87式機士が照準に入れた敵は82式のセンサー外にいてロックオンしてなくても、情報共有によって
ミサイルを発射すれば敵に命中させる事が可能である。
しかし、今マルハチの82式機士に装備されている81式誘導弾は障害物を自己判断で回避して目標に命中する機能は持っていない。
そのため開けた場所でしか使えないのだが、マルハチのパイロットは何故か発射してしまった。

もっともイチイチそれを責めていてもしょうがない。
マルマルからマルハチまで、パイロット全員が戦闘に関してはほぼ素人なのだ。
それに今は作戦行動中だ。 言い合いやお説教をしている暇は無い。
戦闘が終わって機士から降りた後にするべき事だ。
マルヒトは小さく舌打ちすると、諦めて任務の続行に専念した。

そして、マルヒトとマルフタが予定のポイントに到達しようとした時だった。

「よし、あと50m…ってちょっとぉぉぉ!?」

「全体、撃てーっ!!」

まだ敵が予定の攻撃圏内に入りきっておらず、マルヒト・マルフタが回避しきっていないのに火点から射撃が開始されてしまったのだ。
仲間たちの放った無数の機銃弾、砲弾、ミサイルの雨に飲まれ、閃光と爆発に囲まれながらマルヒトの操縦室内でモニターがブラックアウトした。

…機士という兵器の始まりは、まだ人類が剣と槍と鉄砲で戦争をしていた頃に遡る。
突如として戦場に革新を与えた新兵器、それは人間が装着する事で何倍もの筋力を得る事が出来、
しかも刃物も矢玉も跳ね返す頑丈な甲冑を纏った歩兵であった。
倍増した筋力によって通常の人間が複数でなければ持ち運び出来ない重火器を携帯でき、
倍増した脚力によって塹壕も障害物も楽々と越え、そして装甲によって銃弾の雨の中でも平然と戦い続けることが出来る。
まさに、絶対に倒れる事の無い不死身の兵士の登場だった。

やがて戦争は、強化服…パワードスーツとも呼ばれた甲冑を纏った兵士同士の戦いへと移行する。
パワードスーツ同士がぶつかり合い、銃弾や砲弾を浴びせあい、敵の火力に対抗するためにより重装甲に、
敵の装甲を打ち破るためにより重火力に、そして増大した装甲と武装の重量を支えられるようにより高出力に、
そうして性能を肥大させていったパワードスーツは通常の等身大サイズから、2m、3m、そして現在の4mに到達した。
それが、「機士」と呼ばれる装甲された巨人、人型兵器の誕生である。

現代では、歩兵の主力はほぼ機士だ。
機士以前の3m以下のサイズのパワードスーツを装備している歩兵部隊もまだ残ってはいるが、二線級の部隊が多い。
あるいは、技術や経済力の追いついていない後進国は旧来のパワードスーツを主力にしている。
しかしユニオン合衆国や日本、ヨーロッパ連合諸国や社会主義連邦などの先進諸国は機士を配備していない軍は
ほぼ存在しないというくらいに常識化している。
そして、戦車等の兵器はほぼ存在しない。
昔から、野戦砲などはパワードスーツで牽引すれば良かったので、車両の発達を促さなかったのだ。
そのため、現在の軍隊の多くは輸送車両や、一部の自走榴弾砲や自走ロケットランチャーを除いて戦闘車両は無い。
装輪式の軽戦車・駆逐戦車というものを配備している軍隊があるのみだ。

このように優秀性を発揮した機士に代表されるパワードスーツ兵器だが、大きな謎があった。
一つは、誰がどのようにしてこのような兵器を発明したのか全く不明である事。
もう一つは、パワードスーツの搭乗した当時、人類はまだ蒸気機関車の黎明期にようやく手が届くという程度の
文明しか持っていなかったにも拘らず、パワードスーツというオーバーテクノロジーを手に入れることが出来たという事。
最後の一つは、パワードスーツを初めとして、この世界でそれらの発達した兵器の製造を担っている
「セントラル」と呼ばれる企業組織について、誰もその詳細を全く知らないという事だ。


そして、その機士という兵器、現代の甲冑を身にまとい北海道は函館を守るために日々訓練している少女達が存在した。

「……全員、そこに正座!!」

コンピューターソフトによる訓練シミュレーションプログラムが終了し、ソフトの自動採点の結果が
Bマイナスという厳しい評価だったことよりも何よりも、訓練中の様々なことがマルヒトのパイロットである
葉倉 玲(はくら れい)の怒りを有頂天に到達させていた。
一つ、僚機であるマルフタのパイロットである井沢 咲也(いざわ さくや)は無駄に弾を撃ちまくる。
一つ、砲兵班のマルナナのパイロット、野礼寺 初李(のれいじ はつり)は攻撃圏外からミサイルを撃つ。
一つ、極め付けに、予定のポイントで攻撃するタイミングが早すぎる。 あまつさえ、自分ことマルヒトと、マルフタが
退避を完了してないのに巻き添えにする。
おかげでマルヒトは大破・戦死判定、マルフタは脚部大破、脱出判定…

「これがシミュレーションじゃなくて本番だったら、私死んでたのよ? そんなに私を殺したいわけ?
敵じゃなくて味方を撃ちたいわけ? だいたい、事前に作戦内容を3回も念入りに説明したよね?
何聞いてたの? 聞いてなかったの? それとも私の説明が足りなかったの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

一列に並んで正座させられている陸上自衛軍第28連隊の第4中隊の面々は、顔を下に向けてシュンとしていたり
頭をポリポリ書いていたり、何を怒られているのか理解してなさそうなキョトンとした表情をしていたり、
私は何もしていないのに…と迷惑そうな顔をしていたりと様々だった。
中隊といっても玲を含めて14名、せいぜい2個分隊相当の人数しかいない。
そのうち、機士は8台しか無いので戦闘に出られるのは半分だけで、残りは整備班とか、機士のトランスポーター(輸送車)の担当だ。
戦闘に参加してない(シミュレーターを見ていただけ)のに正座させられた上にお説教もされて不満顔の整備班だがこれも連帯責任という物である。
部隊は規律と結束が必要なのだ。

「えー…でも敵は全滅できたわけだし…ほら、麗は尊い犠牲という奴で」

「私はまだ尊い犠牲とかになるつもりは無いの! それとも今度はあんたが87式に乗って偵察と囮をする!?
でもって味方に撃たれて見なさい! このスカポンタン! 幕の内!」

「ま、まくのうちゆーなー!」

言い訳をしようとして、逆にどなりつけられて涙目になりながらうーうー抗議しているのは暮内 麗美(くれうち れみ)。
重歩兵型の89式機士、符丁マルサンを担当し、一応中隊の隊長を任命されているが隊長としての威厳はあんまり無い。
幕の内という彼女のあだ名は配属初日の顔あわせで名前の暮内を「幕の内」と読み間違えられたのが原因だ。
そして、今のところ中隊長である麗美よりも、先に第4中隊に着任して訓練を始めていた玲の方が「最先任」であり立場が上だ。
中隊長というのは本来、幹部(士官)である。
しかし、軍隊というのは階級よりも「先にいた先輩」の方が立場が強いと言う事がある。
経験者である最先任は中隊長や小隊長の補佐をするサブリーダーであり、時には中隊長に代わって部隊を取りまとめる陰の実力者である。

加えて、中隊長といっても麗美は配属されたばかりのド素人。
最先任の役目には新米隊長を厳しくも優しく叩き上げて一人前に鍛えることも含まれている。
玲の麗美に対するそれも、中隊長に早く立派になって欲しいという愛の鞭である…はず。

「まあまあ玲、そのへんにしとこーよ。 仮にも中隊長様がかわいそうだ」

「真璃、あんたは82式の装備が打ち合わせと違ったみたいだけど、またシミュレーション設定を勝手に弄ったの?」

助け舟を出そうとした桐嶋真璃(きりしま まり)、マルナナのパイロットが玲に問い詰められて慌てて白々しく目を逸らす。
真璃は作戦内容の用途や役割よりも、自分の好み・趣味で装備を選びたがる傾向がある。
この間も、迅速な機動力と陣地転換を求められる訓練で82式に重量のかさばる105ミリ砲を装備させ、足が鈍って
敵の砲撃で逃げ切れず大破判定をくらっていた。

「せ…戦争は火力だと私は思う! ランチェスター大先生も言っていた!」

「そうね、戦争は火力ね。 ついでに言えば弾幕ね。 でもって敵、『ワーム』は装甲は固いから小銃弾は効かないけど
20ミリ機銃や40ミリ機関砲は有効だから、それらによる銃弾の雨を浴びせるのが一番いい。
単発の威力が大きい105ミリは魅力的なのは私もわかる。 でも徹甲弾を撃つよりも、榴弾の方が効果的。

…そういえば私、今回は105ミリ砲弾を食らって戦死したようだってシミュレーションソフトは分析しているのだけど
真璃、あなた私を狙って撃ったとかそういうのは無いよね? いくらなんでも、味方を狙って撃ってるとかは無いよね?」

玲が般若の様な恐ろしい表情で笑いながらじっと見つめてくるので、真璃は顔を絶対に正面を向けることが出来ない。
しかし、玲は横に回って嫌でも真璃と顔を合わせようとする。 怖い。
ダラダラと嫌な汗が真璃を襲った。

「玲…あんまり真璃を虐めるのはよしなさいよ。 真璃だってわざとやったんじゃ無いんだろうし」

「有理、マルヒトとマルフタのそれぞれの大破判定に合わせて、整備班に両2機の徹夜の完全整備を申し付けようか?」

「OK、真璃の責任ね! 全部真璃が悪い!」

麗美を助けようとして自分の薮蛇状態になってしまった真璃を助けようと整備班の真門 有理(まかど ゆうり)が
口を挟もうとするが、同じように薮蛇になる事は速攻で回避した。
真璃と有理は親友同士ではあるが、玲の怒りの矛先が我が身にも及ぶようなことだけは御免こうむるようだ。
そして真璃は「うらぎりものぉ…」と泣きそうな顔になりながら呟いていた。

「いい!? 兵隊はそれぞれの勝手な判断で動いちゃいけないの!! 一人がチームワークを乱したら、全員が危険になる。
自分が正しいと思う考えを持つなんてのは、綺麗さっぱり捨てなさい!! それは大抵の場合、間違ってるから。
間違った行動を間違ってると気付かずに延々と続けるのが、敵よりも厄介な敵なの。 自己判断よりも、部隊の方針に従うこと!!
以上、解散!!」

小一時間ほど説教されて、痺れた足や軋む腰をさすりながらめいめいが立ち上がる。
機材を片付けて、掃除して、着替えてシャワーを浴びたら休憩時間だ。
休憩時間が終わればまた訓練がある。 軍隊とは訓練に次ぐ訓練の連続だ。
戦時下とあれば、尚更である。

そう、この時代の日本は今、戦争状態にあった。 敵は『ワーム』と呼ばれている。
ワームは80年ほど前に地球上に出現した謎の生命体群であり、人類に敵対行動を取る全世界共通の敵だ。
その正体は宇宙人であるとも、どこかの国が開発した生物兵器であるとも噂されるが、よくわかっていない。
6本あるいは8本の脚を持ち、2m~8mの様々な大きさと種類をもち、頑丈なうろこ状の皮膚の表面には
16個の目の様な感覚器官を持つが、視覚は持たず聴覚・嗅覚、そして赤外線を探知して周囲の環境を把握している。
ワーム同士の主なコミニュケーション手段は一種のフェロモンであり、分泌物質の匂いで意思疎通を行う。
彼らを一言で表現するなら、まるで陸上生活に適応して歩行するタコに似ている。
ワームの目的は、土地の占領だ。
人類に戦いを挑み、その土地の人類を皆殺しにして占領し、そこに共生している菌類の様な植物を移植する。
それを栽培してワームは食料を獲て、そして繁殖している事がわかっている。
ワーム達の繁栄には、共生植物を植える土地が必要ということだ。 同時に、共生植物の養分にするための動物の死骸も。
人間も、その他のあらゆる動物をワームは捕獲し、殺して引きちぎり、共生植物の胞子を植えつけて苗床にする。
ワームにとって人類は敵であり、同時に肥料というわけだ。

日本がワームと本格的な戦争状態に突入したのは、中華民国がワームに破れ台湾に逃げ込んだ30年前からだ。
東アジアはほぼワームの制圧下に置かれ、日本は大陸にあった植民地を失い朝鮮半島まで勢力を後退した。
日本、ユニオン、社会主義連邦の共同による総攻撃もワームの侵攻を食い止めることが出来ず、大陸から完全に撤退したのが20年前。
そして、ついに本土に上陸したワームとの総力戦が開始されたが、大陸撤退戦後に戦力を改編し
防衛に力を注ぐ形で特化した自衛軍はワームの侵攻をよく食い止め、一進一退のこう着状態を作り出すことに成功した。
ワームは上陸するたびに海に追い落とされ、島国日本はその地理的状況を優位に活かし初めて人類にとっての一定の勝利を生み出した。

だが、ワームは突如として西日本からの上陸戦を切り替え、東・北日本への撹乱行動とも言える上陸作戦を仕掛けてきた。
北海道と本州を分断するための津軽海峡制圧戦もその一つである。
本土との連絡を閉ざされた北海道駐留の陸上自衛軍第2・第5・第7師団と第11旅団は窮地に立たされ、
不足する兵員を補充するためについに学生を兵士として動員する政策を北海道地方政府に提案する。
この動員には志願という建前で多くの16歳以上の学生が戦争に身を投じたが、その中にはごく少数の女子学生兵士の姿もあった。


「…まあ、自衛軍の軍人さんたちも、女子が軍隊に志願してくるなんて想定してなかったんでしょうね」

グラウンドの片隅に設置された水飲み場で口を拭きながら一息つくと、整備班の八橋 由香里(やつはし ゆかり)が玲に声を掛けてきた。
水飲み場の周りには運動着を着た中隊の全員がぜいぜいと息を付きながらへばっている。 地面に倒れこんでる者もいる。
10kmのランニングをしただけでこのザマだ。 兵士にとって最も重要な体力が足りない。
それほど苦しそうにしていないのは、彼女らより半年も早く訓練を受けていた玲と、由香里。
元々運動のできる咲也とかぐらいで初李や有理といったインドア派はもう死にそうになっている。
女子というのは体力的に男子より劣るものだ。 だから、兵士としては余り役に立たない。
立つとしても、後方任務等が関の山で、歩兵なんかには通常は配属されない。

しかし、戦う意気に老若の区別なく、志願にも男女の別は無いという建前で学生への呼びかけを行った自衛軍は
彼女達を受け入れざるを得なかった。 結果、持て余している。

「…だからなんなの? 適正があろうと無かろうと、私たちはもう兵士。 与えられた本分を果たすだけでしょ」

玲は平然と…平然を装ってそういうが、由香里はちょっと困ったような苦笑いをして玲に言う。
同い年なのに玲より8センチも背の高い由香里は第4中隊が設立されて以来の同僚だ。
当初、第4中隊には男子・女子合わせて中隊の定数を満たすほどの人員がいた。
学生動員といっても、学生に本気で戦わせるつもりはない。
彼らは一定期間の訓練の後、後備として駐屯地の警備や一般市民の避難誘導に使われるはずだった。
しかし、前線での消耗が大きく人員の磨耗が予想よりも増えてしまったため、急遽第1~第3中隊に大幅に人員を引き抜かれてしまったのである。
本来の中隊長(成人の、正規教育を受けた幹部)も、中隊長の戦死した第3中隊へと移動してしまった。
その後に配属されてきたのが、玲と由香里以外の現在の中隊の人員たちである。

学生兵士の麗美が中隊長を任命されているのも、その辺の関係で正規軍人を回す余裕がないからだ。
ちなみに、関係ないことだが麗美は玲より5センチも背が低く中隊で一番のチビである。

「真璃、貴女が軍に志願した理由って何だったかしら?」

由香里が唐突に、へばっている真璃に対して問いかける。
真璃は億劫そうな表情で、顔だけ向けて答える。

「えー…? 奨学金がでるからとか? まあ大学に上がるまで生きてればだけど。
うち貧乏だから、学校に行く金ないんだよ」

真璃の実家は雑貨店で昔は函館に観光に来る人々を相手に商売をしているが、ワームが松前半島に上陸し
本州との行き来を分断してから観光どころではなくなったために経営難に陥っていた。
由香里は次に、4台ある89式機士のパイロットを担当しているうちの一人の宵町 留美(よいまち るみ)に質問した。

「軍隊に入ればお腹いっぱいご飯が食べられるって聞いたからー」

幼児の様な屈託のない笑みを浮かべて留美は答える。
留美も家の財政事情は良くなく、留美の住んでいた道北では一部食料品が配給制になっているため
家族の多い留美は食い扶持を減らす意味でも軍隊に志願したのだった。

「私は機士とか格好いいと思ってたし、触りたかったからかな。 乗れないのは残念だけど」

そう答えるのは整備班で、軍事オタクの川城 翠(かわしろ みどり)。
実家は自動車整備工場であり、機械オタクでもある。
彼女が機士に乗れないのは、車酔いしてしまうからだ。 機士は歩いたり走ったりすると結構揺れるのである。

「あたしはワームをやっつけるためよ! エースパイロットになって、タコの怪物どもをギッタンギッタンにしてやるんだから!!」

「私は散乃ちゃんに引っ張られて…」

勇ましい動機を叫ぶのは氷川 散乃(ひかわ ちるの)。 ロボットアニメやヒーローアニメが好きな、脳がお子様。
ご希望通りに89式のパイロットだ。
その散乃に付き合わされて志願したのはサイドポニーの髪型が可愛らしいにも関わらず、名前の字は女の子らしくないという
コンプレックスを抱える気弱な少女、泉沢 大(いずみさわ ひろ)。 通称だいちゃん。
皆に可愛がられる整備班のアイドルである。

有理は女子高にいたが、妙に血気と結束にはやる同級生達がクラス丸ごと軍に志願するというので自分も志願せざるを獲なかった。
しかし、何故か自分以外は違う連隊の方に配属されてしまった。
初李は親が自衛軍の将校だったので、体力の無いにも関わらず世間体というので志願させられた。
対照的に麗美も親が自衛軍に所属しているが、彼女は自分からワームと戦うために志願した。
咲也は戦災孤児で、身寄りも無く施設も受け入れ先が少ないため軍に志願するしかなかった。
他にも、音楽大学に進みたいけどお金が無いので真璃同様奨学金目当てという歌川 美鈴(うたがわ みすず)…89式パイロット
好きな男子が志願したため自分も志願したけど、相手が別の中隊に配属されてしまった蛍原 理玖瑠(ほとはら りくる)…整備班
なんだかよくわからない内に「あなたも志願するでしょう?」と勝手に決められてしまった小沢 早苗(おざわ さなえ)…89式パイロット

皆が皆、望んで軍に志願したわけでも、兵士になりたかったわけでも無い。
様々な理由でここにいる。 無理に訓練した所で、命がけで戦えと言って従う方が少ない。

「加えて、たった14人で中隊なんて実質上の『書類上だけ存在する幽霊部隊』…真面目になってやっても馬鹿を見るだけよ?
必死に焦らなくても私達にまともな戦闘任務なんて来ないでしょうね。 もう少し気楽にやってもいいのじゃないの?」

…実際、第4中隊は第1~第3中隊に引き抜かれなかった「余り物」の人員で構成されている部隊だ。
歩兵には必須の装備である機士も8台しか無い。 かといって通常型パワードスーツも無い。

自衛軍の駐屯地には余裕が無いからと、部隊が駐屯しているのも生徒が疎開して無人になったので徴発した函館市内の高校の校舎である。
言い渡されている任務も「主力部隊の前線が打ち洩らした敵の浸透部隊が函館市内に侵入するのを阻止せよ」であるが、
今のところ出動命令が下された事は無い。 常に待機任務である。

「だからって、訓練をおざなりにしていい理由なんか無い」

玲は不機嫌そうに、自分のタオルを引っつかんで校舎の昇降口へと歩いてゆく。
由香里は、何かに苛立っているかのような玲のそんな後姿を心配そうに見送ったあと、疲れきった表情でいる中隊全員の顔を見回した。
(散乃とか、一部のお子様脳は回復も早かったのか立ち上がって整理体操を始めていたが)

「…私たちは素人もいい所なのよ? こんなペースで訓練につき合わされていたんじゃ、皆が持たないのに」

シミュレーションでも基礎体力練成でも、玲は厳しい。
中隊の最先任として、素人ばかりの中、成人の正規軍人の教官すらいない状況で数少ない、半年分だけ早い経験者として
全員を引っ張っていかなければならないと使命感に燃えているのかもしれないが、それにしても焦りすぎる。
何が彼女を急き立てているのか由香里には理由がわからなかった。

午前中は教本片手に座学による講義と、実践に即した状況でのシミュレーション。
午後は体力づくりのためのランニングや、小銃での射撃訓練。
これを繰り返したら一日は終わり、日の落ちる頃にはクタクタである。
お風呂に入って汗を洗い流し、当番の者が夕食の準備をする。
暇な者は自分の洗濯物を洗うとか掃除をする。

軍隊生活は共同生活が基本だ。 全員が一つ屋根の下で同じように生活し、規則どおりに寝起きする。
が、それでもそれぞれの自由裁量で出来る部分が無いというわけではない。
特に、大人の軍人がいない第4中隊では規律はそれほど厳しくなく、少女らそれぞれの感性に任される部分も少なくなかった。

「I can't stop listening to Night Bird~♪
 Sing a song with a Curse IF I stop my nars
 Crazy night I just want to listen to a terder curse?
Through the night I just want the voice」

「お、今日の夕食当番はみすちんだったか」

真璃が歌声と漂ってくるいい匂いにつられて食堂兼調理室になっている、元家庭科教室を覗くと美鈴が歌いながらシチューを作っているところだった。

「材料は缶詰の戦闘糧食だけどね♪ ただ缶を湯煎して出しただけじゃつまらないし、そのままの缶詰糧食って
あんまり美味しくないしさ…ちょっと工夫したらどうかなって」

「いや、いいと思うよ私は。 みすちんって結構いいお嫁さんになりそうだよな」

軍隊生活での数少ない楽しみは食事だ。 暖かく美味しい食事は兵士の士気を維持するのに必要でもある。
そんな会話をしていると、匂いをかぎつけて留美、散乃らもドヤドヤと入ってくる。
食べ盛りの女子たちは食べ物のにおいにはかなり過敏である。

「シチューの匂い…今日はシチューなのかー」

「あたし、みすちんの作るごはん好きだよ! みすちん料理うまいもの!」

「はいはい、あと5分くらいで出来上がるからね。 真璃、そこの棚からお皿出してくれる?」

騒がしい欠食児童たちを抱えて、美鈴はまるでお母さん役の様だ。
やがてまた一人二人と食堂に人が集まり、めいめいに皿を取ってシチューを盛り付け、訓練から解放された楽しい夕食の時間を過ごす。
友人と談笑したり、一人でゆったりと食事をしたり。
散乃と留美がお互いの皿の肉を取り合ってふざけながら走り回り、大ちゃんと理玖瑠が叱って制止したりする一幕もあり。

夕食後は消灯時間までの間が自由時間になる。
自主訓練するのもリラックスするのも個人の自由だが、だいたい休んでいる。
空き教室の一つにソファーやテレビなどを持ち込んだ談話室か、共同の寝室のベッドの上でゴロゴロするのが慣例だ。
ファッション雑誌などを見ながら髪形はあれがいい、服はこれがいいと話しているのは咲也や美鈴、麗美。
ボードゲームに興じている初李と有理、横から観戦している真璃。
早苗は実家に電話をしているし、散乃や留美は相変わらずはしゃぎまわってテレビを見ていた理玖瑠に怒られる。
軍事情報誌のバックナンバーを読みふけっていた翠が、ちょいど理玖瑠が散乃に投げつけて外れたクッションが運悪く当たった。
ふと、由香里は玲の姿が談話室にも寝室にも無いので大ちゃんに尋ねたが、彼女も知らないと答えた。



「…こんな所にいたら、風邪を引かない? 湯冷めしちゃうわよ?」

由香里が玲を見つけたのは、校舎の屋上だった。
玲は手すりに体を寄りかからせ、西の方角の赤く燃える夜空の端をじっと見つめている。
南側には、函館山の方角にキラキラと宝石を並べたように輝く函館市内の輝きが見える。
電力不足で大分その輝きは、平時の4割といった程度に少なくなっていたが、夜景の美しさはまだまだ損なわれていない。
だが、玲の目はその美しい夜景にではなく、ワームとの戦線がある、今も自衛軍の主力が戦い、侵攻を阻止しているであろう
北斗市の方面に向けて注がれていた。

耳を澄ませれば、砲火の音が風に乗って運ばれてくるのが聞こえるだろう。 その方向には、戦場がある。
函館市内から3キロと少ししか離れていないが、すぐ目と鼻の先に兵士が戦い命を落とし、それと引き換えにして市民を守っている。
そして、玲たちも守られている。
第28連隊の大勢が、半年前に共に志願して入隊し、訓練を共にしてきた学生兵士達も、彼らの後ろにいる全てのものを守るために戦っている。

「あそこにいるのは、戦友なんだ…」

玲は、何かに憤るようなそれでいて悲しげな声を絞り出した。

「私も一緒に戦うはずだったんだ…みんなと…」

由香里は、玲の肩にそっと優しく手を乗せた。
第4中隊は余り物だ。 他の学生兵士の全員は、今あの燃えるような赤い空の下で戦い、傷つき、命を散らしている。
玲は、悔しかった。 許せなかった。 自分たちだけが、戦わずにここにいる事に。
戦う事や死ぬことを賛美するつもりは無い。 だが、共に過ごし、共に訓練し、共に笑いあった仲間が死んでゆくのに
自分だけが『余り物』として戦場に行くことなく、生きている事に玲は例えようの無い罪悪感の様なものと、
そして自分が『余り物』として引き抜かれずに中隊に残された。

仲の良かった友達も、ほのかに憧れていた男子も、見知った全てが他の中隊に異動になり、玲と由香里だけが中隊に残された。
校舎と、訓練機材と少数の機士だけとともに取り残され、教官もおらず、ただ待機を命じられる日々。
後任の中隊長は適当に任命された学生兵士で、新たに配属された学生兵士を入れても中隊はわずか14名。
全員が女子。 自衛軍は、玲たちに戦わせたくなかったのかもしれない。
欺瞞だとわかっていても、女子を戦場に出したくなかったのかもしれない。
だが、玲は思う。 それなら何故、志願なんかさせたのか。

「どうして…どうして私達だけが? この国のため、家族や街を守るためって勇んで志願したのに…
一緒に訓練した仲間たちが死んで行ってるのに…どうして私達だけは、仲間と一緒に戦えないの?
皆を見捨てて、自分だけ安全な所にいろっていうの? どうして?
ねえ由香里…どうしてなの…教えてよ…」

涙を滲ませ、嗚咽交じりの声で慟哭する玲に由香里は、かけてやる言葉が見つからなかった。
ただ、玲の震える背中をそっと抱きしめてあげる事しかできなかった。

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(続く)

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