「やばいっ! 咲也後退!! …って私の援護はいいからさっさと下がって!!」
「ピンチね!? よーし、突撃ー!!」
「ちょっと!? なんで歩兵が前に出てくるのっ!!」
「この馬鹿チル!! ああもう私たちも行くぞ!!」
「全員前に出てこなくていいから!! あーもうぐちゃぐちゃ…」
「ピンチね!? よーし、突撃ー!!」
「ちょっと!? なんで歩兵が前に出てくるのっ!!」
「この馬鹿チル!! ああもう私たちも行くぞ!!」
「全員前に出てこなくていいから!! あーもうぐちゃぐちゃ…」
「ロック…発射。 よし、撃破…え!?」
「大破だ…初李はスコアはいいけど、撃破したの全部タイプAだな」
「初李…遠距離攻撃してくる大型を最初に狙うってわかってる?」
「むきゅー」
「初李…遠距離攻撃してくる大型を最初に狙うってわかってる?」
「むきゅー」
「ねーねー機士の装備にドリルとかないの?」
「あるわけないっ」
「工兵型のには坑道掘削用ドリルとかあるけど…」
「…ドリルと言うよりミキサーじゃんそれ」
「私はパイルバンカーがいいな!」
「翠、あんたの好みは聞いてないから」
「あるわけないっ」
「工兵型のには坑道掘削用ドリルとかあるけど…」
「…ドリルと言うよりミキサーじゃんそれ」
「私はパイルバンカーがいいな!」
「翠、あんたの好みは聞いてないから」
「昨日までのシミュレーションの結果を踏まえて…機士の兵器としての立ち居地と、それぞれの役割が
なんであるのか理解していない人があまりにも多すぎると判断しました。
よって、今日の座学講習は基本事項の再確認になります。 じゃ、教本Ⅰの24ページを開いて」
なんであるのか理解していない人があまりにも多すぎると判断しました。
よって、今日の座学講習は基本事項の再確認になります。 じゃ、教本Ⅰの24ページを開いて」
葉倉 玲は中隊で最先任の兵士だ(次席は由香里)。 階級は学生兵士の基本階級である3等陸士で、曹候補学生ですらない。
だが、第4中隊には他に幹部(士官)も曹(下士官)もいない。
教官すらいないため、玲や由香里が教官に代わって中隊の訓練指導を行うのだ。
訓練といってもただ走ったり戦闘シミュレーションを行うだけが全てではない。
教本を読んで知識を身につけることも重要であり、それを実地訓練であるシミュレーションで体験させ、
その結果を吟味させさらなる技術向上につなげるのだ。
だが、第4中隊には他に幹部(士官)も曹(下士官)もいない。
教官すらいないため、玲や由香里が教官に代わって中隊の訓練指導を行うのだ。
訓練といってもただ走ったり戦闘シミュレーションを行うだけが全てではない。
教本を読んで知識を身につけることも重要であり、それを実地訓練であるシミュレーションで体験させ、
その結果を吟味させさらなる技術向上につなげるのだ。
が…中隊の面々である女子学生諸君は一部を除いてあまり乗り気ではないようである。
「機士は現在の歩兵の主力装備であり、機士でない歩兵というのは、機士の4mの大きさじゃ入れない
屋内や施設の制圧戦ぐらいのものね。 でも、基本的に歩兵と機士の戦術は変わらない。
建物や掩体の陰に隠れ、敵の弾丸を防ぎながら、撃ちまくる。
これが一般的に重歩兵型と言われている89式や、その一世代前の73式の役割ね。
はい麗美、89式の主要武装はなんだった?」
屋内や施設の制圧戦ぐらいのものね。 でも、基本的に歩兵と機士の戦術は変わらない。
建物や掩体の陰に隠れ、敵の弾丸を防ぎながら、撃ちまくる。
これが一般的に重歩兵型と言われている89式や、その一世代前の73式の役割ね。
はい麗美、89式の主要武装はなんだった?」
唐突に質問が来るので、隣の井沢 咲也とヒソヒソ談笑していた暮内 麗美はビックリして思わず立ち上がった。
話を半分しか聞いていなかったので焦る麗美に咲也が小声で「89式の武装です」とフォローし、麗美はどうにか答える事が出来た。
話を半分しか聞いていなかったので焦る麗美に咲也が小声で「89式の武装です」とフォローし、麗美はどうにか答える事が出来た。
「に、20ミリガトリング機銃と、40ミリ機関砲…」
「正解。 場合によっては75ミリ低反動砲も装備する。
では、重歩兵型は他のタイプに比べて厚い装甲を持っているけど、その装甲部位が胴体と脚部、
そして肩アーマーにしか取り付けられていない理由は何故? 次、翠が答えてくれる?」
では、重歩兵型は他のタイプに比べて厚い装甲を持っているけど、その装甲部位が胴体と脚部、
そして肩アーマーにしか取り付けられていない理由は何故? 次、翠が答えてくれる?」
軍事オタクで、こういう座学をほぼ唯一熱心に受けている川城 翠は、麗美と違ってハキハキと答えた。
「はーい、重歩兵型に限らず、機士の腕は兵装取り付け箇所、ハードポイントに過ぎないから別に壊れても問題ないから!
胴体が壊れたら中のパイロットは死んじゃうし、脚が壊れたら動けなくなるけど、腕は壊れても武装が使えなくなるだけで、歩いて帰ってこれるしね!」
胴体が壊れたら中のパイロットは死んじゃうし、脚が壊れたら動けなくなるけど、腕は壊れても武装が使えなくなるだけで、歩いて帰ってこれるしね!」
玲はうん、正解と機嫌よく頷いて両名を席に座らせる。
補足すると、機士の装甲は脚よりも胴体のほうが重視されている。
脚も、動けなくなったらなったで機体から降りてパイロット自身の脚で帰ってくればいいからだ。
補足すると、機士の装甲は脚よりも胴体のほうが重視されている。
脚も、動けなくなったらなったで機体から降りてパイロット自身の脚で帰ってくればいいからだ。
「次、騎兵型…騎兵と言っても大昔の重騎兵みたいな役割は87式には無い。
一世代前の74式でそれをやろうとして失敗してるの。 だから、87式の仕事は偵察や陽動を目的とした軽騎兵。
装甲が薄い分、走行速度は89式の約1.2倍の時速60kmとかなり速いけど、防御力はあんまり無いから
正面から敵と撃ち合いをするのは不向きね。 主武装は25ミリ機関砲。
60式近接兵装って名前のでっかい機士専用ナイフもあるけど、使わない。 なんで使わないかは、咲也、わかる?」
一世代前の74式でそれをやろうとして失敗してるの。 だから、87式の仕事は偵察や陽動を目的とした軽騎兵。
装甲が薄い分、走行速度は89式の約1.2倍の時速60kmとかなり速いけど、防御力はあんまり無いから
正面から敵と撃ち合いをするのは不向きね。 主武装は25ミリ機関砲。
60式近接兵装って名前のでっかい機士専用ナイフもあるけど、使わない。 なんで使わないかは、咲也、わかる?」
玲は今度は自分と同じく87式のパイロットを担当している咲也に質問を振る。
昨夜は静かに立ち上がって冷静に答えた。
昨夜は静かに立ち上がって冷静に答えた。
「機士同士の白兵戦闘は、あまり起こらないからです。 機士同士だけでなく、ワーム相手でもまずあり得ません。
機銃や機関砲を装備している機士は距離を置いての射撃戦が主体であり、わざわざナイフを使って挑む理由がありません。
ワームもタイプAやタイプCなど一部の種類は白兵戦を挑んできますが、ワームの触手の多さと、その筋力に機士の出力では
太刀打ちできません」
機銃や機関砲を装備している機士は距離を置いての射撃戦が主体であり、わざわざナイフを使って挑む理由がありません。
ワームもタイプAやタイプCなど一部の種類は白兵戦を挑んできますが、ワームの触手の多さと、その筋力に機士の出力では
太刀打ちできません」
正解である。 答え終えた咲也は平然としてまた静かに座った。
60式近接兵装は別名「高振動ナイフ」といい、秒間数千回転という速度で振動してノコギリの容量で対象を真っ二つに
切断する兵器だが切るというより掘削するという方が性質的にはより正確であり、どちらかというと兵器というよりは
「邪魔な障害物をバラバラに解体して排除するための工兵用ツール」と言ったほうが近い。
元々は対機士・対車両用の通行を阻害する設置障害物などを、工兵班を呼ぶまでも無く自力で排除するために開発された装備で
白兵戦用というのは不測の事態でそういう状況が発生したときのための、お守りでしかない。
重歩兵型や砲兵型は装備する事の無い(他の装備を両手に持つので余裕も無い)ものなので、慣習的に騎兵型の装備になっているだけなのだ。
60式近接兵装は別名「高振動ナイフ」といい、秒間数千回転という速度で振動してノコギリの容量で対象を真っ二つに
切断する兵器だが切るというより掘削するという方が性質的にはより正確であり、どちらかというと兵器というよりは
「邪魔な障害物をバラバラに解体して排除するための工兵用ツール」と言ったほうが近い。
元々は対機士・対車両用の通行を阻害する設置障害物などを、工兵班を呼ぶまでも無く自力で排除するために開発された装備で
白兵戦用というのは不測の事態でそういう状況が発生したときのための、お守りでしかない。
重歩兵型や砲兵型は装備する事の無い(他の装備を両手に持つので余裕も無い)ものなので、慣習的に騎兵型の装備になっているだけなのだ。
「そして砲兵型…82式。 一世代前の75式は本州にしか配備されてないからお目にかかる機会は無いけど、
砲兵型は世代が変わっても性能には殆ど違いが無い。
砲兵型は装甲は騎兵型以下だけど出力は重歩兵型以上で、より大口径かつ多くの装備と弾薬を携行できるのが特徴。
はい、ミサイル大好きの初李さーん、82式の主要装備を全部答えて?」
砲兵型は世代が変わっても性能には殆ど違いが無い。
砲兵型は装甲は騎兵型以下だけど出力は重歩兵型以上で、より大口径かつ多くの装備と弾薬を携行できるのが特徴。
はい、ミサイル大好きの初李さーん、82式の主要装備を全部答えて?」
「…腕取り付けは62式75ミリ低反動砲、75式110ミリ低反動ロケットランチャー、81式100ミリ誘導ミサイルランチャー。
肩取り付けは88式90ミリ砲、75式105ミリ砲、96式100ミリ自動擲弾発射機。
ただし最大積載量制限との兼ね合いから、以上か最大3種類までを選択して装備することになる。
…また、ロケットランチャーとミサイルランチャーは、片腕に最大三連装まで取り付け可能。
両腕とも同じ武装にした場合、最大6発のロケットあるいはミサイルを装備可能。
肩取り付けは88式90ミリ砲、75式105ミリ砲、96式100ミリ自動擲弾発射機。
ただし最大積載量制限との兼ね合いから、以上か最大3種類までを選択して装備することになる。
…また、ロケットランチャーとミサイルランチャーは、片腕に最大三連装まで取り付け可能。
両腕とも同じ武装にした場合、最大6発のロケットあるいはミサイルを装備可能。
肩取り付けの武装は実際には自動擲弾発射機以外は装備されることは少ない。
これは90ミリ砲と105ミリ砲の反動が大きく、射撃には専用のジャッキの追加装備と、射撃安定姿勢を取らなければ
ならないためで、迅速な陣地転換と戦場機動が求められる前線ではかえって運用が難しいため。
だから、砲兵型がこれらの大口径砲を装備する時は後方地点からの、文字通り砲兵としての任務が求められる時。
…普段の砲兵型の任務は重歩兵型を直協火力支援するための、突撃砲と心得るべき」
これは90ミリ砲と105ミリ砲の反動が大きく、射撃には専用のジャッキの追加装備と、射撃安定姿勢を取らなければ
ならないためで、迅速な陣地転換と戦場機動が求められる前線ではかえって運用が難しいため。
だから、砲兵型がこれらの大口径砲を装備する時は後方地点からの、文字通り砲兵としての任務が求められる時。
…普段の砲兵型の任務は重歩兵型を直協火力支援するための、突撃砲と心得るべき」
装備の形式番号までしっかり言い切って長々と回答というより講釈を述べた砲兵パイロット野礼寺 初李は、
最後に同じく砲兵パイロットの桐嶋 真璃をチラリと見て何か含めるような視線を送った。
真璃は「もうわかったよ…勘弁してくれってばぁ…」とげんなりした表情と小声で呟き、頭を抱えた。
最後に同じく砲兵パイロットの桐嶋 真璃をチラリと見て何か含めるような視線を送った。
真璃は「もうわかったよ…勘弁してくれってばぁ…」とげんなりした表情と小声で呟き、頭を抱えた。
単発の火力重視主義で大口径砲に拘る真璃に、その使いにくさに関してここ最近初李は何かと「教授」している
(真璃がうんざりするほどであるらしい)ようだが座る前に玲の「そうねー、あと誘導弾は弾頭の費用が高いし予備も少ないから、
できれば今度から砲兵組は低反動砲か擲弾発射機だけを使って欲しいところね」と言う言葉に思わずゲホゴホとむせた。
誘導弾に対してというか高度精密兵器信者である初李は真璃の105ミリ砲至上主義を笑えないのだ。
肩にミサイルランチャーが装備できれば、82式を両腕両肩に合計12発の多連装自走ミサイルランチャー化させたいのが
初李の抱く妄想である。
(真璃がうんざりするほどであるらしい)ようだが座る前に玲の「そうねー、あと誘導弾は弾頭の費用が高いし予備も少ないから、
できれば今度から砲兵組は低反動砲か擲弾発射機だけを使って欲しいところね」と言う言葉に思わずゲホゴホとむせた。
誘導弾に対してというか高度精密兵器信者である初李は真璃の105ミリ砲至上主義を笑えないのだ。
肩にミサイルランチャーが装備できれば、82式を両腕両肩に合計12発の多連装自走ミサイルランチャー化させたいのが
初李の抱く妄想である。
「…さて、ここまで機士の種類とそれぞれの主要装備についておさらいしてきたけれど、実は機士は装備と装甲を
それぞれで交換できるという高い互換性も持っているの。
だから、騎兵型に40ミリ機関砲とか、砲兵型に20ミリガトリング機銃とか、そういう事も出来るし、
歩兵型の装甲を騎兵型に付け替えて重騎兵化もできる…まあ、機体重量バランス変わるしマッチングが面倒くさいけど。
下手すると歩行性能も下がるし、基礎もなって無い未熟なウチの人員じゃそういう変則的な運用はできないわね。
整備班にはこの間教えたけど、機士同士は腕とか脚とかの交換もできる…といってもあんまり意味はありません。
元の素体、基本骨格フレームは共通だから換装そのものは容易だけど人工筋肉やバッテリーの出力調整が必要だし
そもそも、前線で同型の部品が足りない時に他のを流用できるためにモジュール化構造にしただけなので…」
それぞれで交換できるという高い互換性も持っているの。
だから、騎兵型に40ミリ機関砲とか、砲兵型に20ミリガトリング機銃とか、そういう事も出来るし、
歩兵型の装甲を騎兵型に付け替えて重騎兵化もできる…まあ、機体重量バランス変わるしマッチングが面倒くさいけど。
下手すると歩行性能も下がるし、基礎もなって無い未熟なウチの人員じゃそういう変則的な運用はできないわね。
整備班にはこの間教えたけど、機士同士は腕とか脚とかの交換もできる…といってもあんまり意味はありません。
元の素体、基本骨格フレームは共通だから換装そのものは容易だけど人工筋肉やバッテリーの出力調整が必要だし
そもそも、前線で同型の部品が足りない時に他のを流用できるためにモジュール化構造にしただけなので…」
講義を続けながら、玲はつかつかと後ろのほうの席に早足で近づいてゆく。
途中の席の女子たちはギョっとして慌てて机を移動しで道をあけるか、玲の視線の先で机に突っ伏しているその少女に
あーまたか、的な視線を向けた。
途中の席の女子たちはギョっとして慌てて机を移動しで道をあけるか、玲の視線の先で机に突っ伏しているその少女に
あーまたか、的な視線を向けた。
「構造的に、私たちみたいな学生兵士とか、女子とかでも、前線での整備や装備交換が容易な様に設計されています。
ちゃんと話を聞きなさい馬鹿チル!!」
ちゃんと話を聞きなさい馬鹿チル!!」
「きゃあっ!?」
バチコン、といい音がして頭を教本でぶっ叩かれた氷川 散乃は素っ頓狂な悲鳴を上げて顔を上げた。
休み時間を挟み、次はいつものシミュレーター訓練を取りやめて機士の操縦教習のおさらいだ。
たまには実際に機士を動かさないと、シミュレーターの感覚に慣れすぎると良くない。
たまには実際に機士を動かさないと、シミュレーターの感覚に慣れすぎると良くない。
機士の動力は水素電池。 稼働時間は本体内蔵電池で1時間だが、背中の外付けバッテリー2個により
最長10時間まで連続活動が可能になる。
それでも全力・最大出力で走り回らせていると2時間で電池を使い切ってしまう。
ただ、バッテリーを交換さえすれば何時間でも継続して活動可能である。
脚が壊れない限り。
最長10時間まで連続活動が可能になる。
それでも全力・最大出力で走り回らせていると2時間で電池を使い切ってしまう。
ただ、バッテリーを交換さえすれば何時間でも継続して活動可能である。
脚が壊れない限り。
ガシュン、ブシュ、ガシュン、ブシュ、という高分子セルモーターの駆動音を繰り返しながら、グラウンドを
2台の87式が走り回っている。
乗っているのはもちろん、パイロットの玲と咲也だ。
それを、計測機材と87式の動きを交互に見比べながら八橋 由香里と真門 有理が眺めている。
今行っているのは操縦教本にもある基礎動作のパターンである。
2台の87式が走り回っている。
乗っているのはもちろん、パイロットの玲と咲也だ。
それを、計測機材と87式の動きを交互に見比べながら八橋 由香里と真門 有理が眺めている。
今行っているのは操縦教本にもある基礎動作のパターンである。
「玲は加速が早いけど、やっぱりターンする時に時間がかかるクセが直ってないのね。 急停止もワンテンポ遅れるし」
「咲也は方向転換が早いけど、加速時の立ち上がりが遅い。 まるで正反対…ねえ由香里、玲はともかく咲也が
騎兵パイロットの担当になったのって何でなの?」
騎兵パイロットの担当になったのって何でなの?」
生徒のそれぞれの適性診断と操縦教習の成績を見て、どの機士にどのパイロットを任命するか決定したのは整備班責任者の由香里である。
由香里は玲に次ぐ中隊の古参として、専門は違えどそれなりに発言力のある存在だ。
そして由香里は、玲と咲也を87式の担当にした理由をきっぱりと言った。
由香里は玲に次ぐ中隊の古参として、専門は違えどそれなりに発言力のある存在だ。
そして由香里は、玲と咲也を87式の担当にした理由をきっぱりと言った。
「あの二人が一番車酔いに強いから」
…機士は走っている時かなり上下に揺れるのである。
87式は軽量さも相まって機士の中では最も走行速度が早いのは前述の通り。
舗装された道路上でトップスピードに到達した87式の中はもう、シェイクされた状態だ。
よって、通常はそこまで速度を出さないで歩行する。
戦闘中の歩行速度は時速40kmを超える事は無い。 撤退する時などは別として。
由香里は以前、自分で87式に乗った時の事を思い出しで首を振る。
87式は軽量さも相まって機士の中では最も走行速度が早いのは前述の通り。
舗装された道路上でトップスピードに到達した87式の中はもう、シェイクされた状態だ。
よって、通常はそこまで速度を出さないで歩行する。
戦闘中の歩行速度は時速40kmを超える事は無い。 撤退する時などは別として。
由香里は以前、自分で87式に乗った時の事を思い出しで首を振る。
「私なんかは50kmまで出た辺りで吐いちゃったし。 操縦室内の掃除がもう大変よ。 もう二度と乗りたくない」
「82式ならゆっくりしか歩かないのだし、どうしてそっちに乗らなかったの?
私は正直、真璃や初李より由香里の方が砲兵に向いていたと思う。
あの二人は歩兵型に乗せて機関砲でも好きなだけ撃ちまくらせてれば良かったのに」
私は正直、真璃や初李より由香里の方が砲兵に向いていたと思う。
あの二人は歩兵型に乗せて機関砲でも好きなだけ撃ちまくらせてれば良かったのに」
有理は整備班でソフトウェア系、機士のベトロニクス(運動制御)のプログラミングやそれと連動した人工筋肉の調整を担当している。
これも適性によるもので、由香里の人選だ。
それ自体に疑う所は無い。 有理自身、自分にはその適性があると思っている
が、整備班として共に講義や実習を受けて、由香里は自分らより早く訓練を受けていた先輩という以上に機士に詳しく
パイロットとしての適性や能力があるのでは無いかとも感じる。
機士の効率的な操縦テクニック、急速な方向転換や180度転回、急減速と走行体勢から射撃姿勢への変換の仕方などは
まるで機士の手足が自分の手足であるかのように最適な操縦技量を見せるのだ。
玲と由香里がタッグを組んで機士で作戦行動を取れば、シミュレーターのような無様な戦闘結果にはならないだろうに。
これも適性によるもので、由香里の人選だ。
それ自体に疑う所は無い。 有理自身、自分にはその適性があると思っている
が、整備班として共に講義や実習を受けて、由香里は自分らより早く訓練を受けていた先輩という以上に機士に詳しく
パイロットとしての適性や能力があるのでは無いかとも感じる。
機士の効率的な操縦テクニック、急速な方向転換や180度転回、急減速と走行体勢から射撃姿勢への変換の仕方などは
まるで機士の手足が自分の手足であるかのように最適な操縦技量を見せるのだ。
玲と由香里がタッグを組んで機士で作戦行動を取れば、シミュレーターのような無様な戦闘結果にはならないだろうに。
「だって、機士の操縦室は狭いし、殆ど身動きできないし。
一時間以上もあれに閉じ込められたら、エコノミー症候群になっちゃう。
やだわ、ゆかりんそんなの耐えられない☆」
一時間以上もあれに閉じ込められたら、エコノミー症候群になっちゃう。
やだわ、ゆかりんそんなの耐えられない☆」
由香里はそう言いながらウィンクをしてぶりっ子しておちゃらけて答えるが、有理はあーはいはい、とハァ?何やってんの?と
両方あるいはどちらかを言いたげな冷めた表情で返す。
微妙に外した空気を追い払い、由香里は真面目な顔を取り繕う。
両方あるいはどちらかを言いたげな冷めた表情で返す。
微妙に外した空気を追い払い、由香里は真面目な顔を取り繕う。
「まあ、私がパイロットやるのもいいのだけれど、それだと戦闘以外のところでも玲をサポート出来なくなるの。
玲は今のところ実質的な中隊の責任者で、指揮官で、教導役もこなしてる。 かなり無理をさせてるっていう自覚はある…。
でも戦闘班としてのベストメンバーと、中隊としてのベストな人選は違うのよ」
玲は今のところ実質的な中隊の責任者で、指揮官で、教導役もこなしてる。 かなり無理をさせてるっていう自覚はある…。
でも戦闘班としてのベストメンバーと、中隊としてのベストな人選は違うのよ」
「…あれもベストな人選?」
由香里のもっともらしい真面目な言い訳にそう言って指差してジト目で有理が言うのは、グラウンドの反対側で
89式を好き勝手動かしまくっている重歩兵組の面々だった。
89式を好き勝手動かしまくっている重歩兵組の面々だった。
『みてみてー! 機士ってこんな動きも出来ちゃうんだから!』
拡声器からお子様脳特有の無駄に大きな声が流れる。
89式を寝そべらせて腕立て伏せを繰り返して遊んでいるのは散乃だ。
「腕立て200回とか余裕ね! やっぱあたし最強エース!」とか言っているが、動いているのは散乃自身ではなく89式の腕の人工筋肉だ。
89式を寝そべらせて腕立て伏せを繰り返して遊んでいるのは散乃だ。
「腕立て200回とか余裕ね! やっぱあたし最強エース!」とか言っているが、動いているのは散乃自身ではなく89式の腕の人工筋肉だ。
「機士は人間にできる動作はほぼ再現できるっていうけど…これってなんのための機能なんだ?」
『さあ…? ねえ他に面白そうな動作って無いの?』
「うーん、スクワットとか懸垂もできるそうだけど…」
マニュアルに載っていた反復横とびの動作を試しているのは歌川 美鈴。
…やらせたのはマニュアル本をぺらぺらと捲る蛍原理玖瑠だが。
ちなみにこういった動作はあらかじめ機士の内臓OSにプログラミングされている運動パターンの中から選択して
パイロットの操縦グリップに付いているマルチボタン/トリガーに割り当て、任意にオートマチックで実行させる事が出来る。
宵町 留美は留美で片足で腕を左右に広げてバランス立ちさせているし、完全に機士を玩具にしていた。
もっともこうなったのは、玲と由香里の両方が目を離している間、彼女らを任せた中隊長さまの所為ではあるが。
…やらせたのはマニュアル本をぺらぺらと捲る蛍原理玖瑠だが。
ちなみにこういった動作はあらかじめ機士の内臓OSにプログラミングされている運動パターンの中から選択して
パイロットの操縦グリップに付いているマルチボタン/トリガーに割り当て、任意にオートマチックで実行させる事が出来る。
宵町 留美は留美で片足で腕を左右に広げてバランス立ちさせているし、完全に機士を玩具にしていた。
もっともこうなったのは、玲と由香里の両方が目を離している間、彼女らを任せた中隊長さまの所為ではあるが。
『ちょっとー! お前たち私の言う事を聞けってばー! ちゃんと基本動作やってよ!』
「そうだよー! そんな風に動かしたら機士の人工筋肉が痛んじゃうからやめた方がいいよ!
散乃ちゃんも、遊んでばかりいないで麗美ちゃんの言う事聞こうよー…」
散乃ちゃんも、遊んでばかりいないで麗美ちゃんの言う事聞こうよー…」
涙声になりそうになりながら言う事を聞かせようとしているのは我らが麗美中隊長。
そして、後で整備点検が大変になることを懸念している泉沢 大(ひろ)こと大(だい)ちゃん。
どうでもいいが大ちゃんは中隊長さまに「ちゃん」付けである。 なんて威厳のない中隊長。
そして、後で整備点検が大変になることを懸念している泉沢 大(ひろ)こと大(だい)ちゃん。
どうでもいいが大ちゃんは中隊長さまに「ちゃん」付けである。 なんて威厳のない中隊長。
『いーじゃん、マニュアルに動作が書いてあるんだし、書いてあるって事はこういう風に動かしても平気って事だよ』
『うわーん咲也ぁ! 玲ぃ! 誰も言う事聞かないよぉ!!』
とうとう麗美は泣きが入り始めてしまったようだ。
麗美には歩兵組と整備班を纏めきるのは無理な様である。
そこへ、真璃と初李の82式をハンガーから誘導しながら川城 翠と小沢 早苗が歩いてきた。
麗美には歩兵組と整備班を纏めきるのは無理な様である。
そこへ、真璃と初李の82式をハンガーから誘導しながら川城 翠と小沢 早苗が歩いてきた。
「オーライオーライ、あと40センチ右ー。 そこ段差あるから気をつけてー。 …って何やってんの? また麗美虐め?」
「はーい、自由時間終わりですから皆さんこっちに集合してくださいね。 一列に並んでー。 美鈴さんは私の89式から降りてくださいね?」
美鈴が動かしている89式の本来の担当である早苗が支持すると一同は以外にも素直に集まって来て機士を並ばせ、降着姿勢にした。
麗美のときとは偉い違いである。
麗美のときとは偉い違いである。
『なんで早苗の時はすぐ言う事聞くんだよぉ…!? おまえらー!!』
『あれだろ、中隊長向いて無いんじゃないか?』
『麗美は人を惹きつける空気の様なものが足りて無いわね』
操縦室内でなきべそかき始めている麗美に追い討ちをかけるような真璃と初李のそれぞれの言葉に、
「うわぁぁぁぁん!」と叫びながら校門の方に向かって89式を全力ダッシュさせる麗美。
そんな彼女を中隊の面々はそれぞれがそれぞれの思いを抱きながら見送った。
「うわぁぁぁぁん!」と叫びながら校門の方に向かって89式を全力ダッシュさせる麗美。
そんな彼女を中隊の面々はそれぞれがそれぞれの思いを抱きながら見送った。
「なんで言う事聞かないかっていってもさあ…散乃とか留美とか、頭がお子様なのは麗美じゃお守とかできそうにないし」
…翠。
「というか、自分より精神年齢低そうなお子様の指示なんか従う奴いないよね。 そもそもお飾り中隊長じゃん」
…理玖瑠。 何気に酷い。
『まあ早苗はお姉さんって感じだしな。 落ち着いてるし余裕あるし、子供の扱いが上手い。
早苗の方が中隊長やった方がいいんじゃないかって思うときがあるな、私は』
早苗の方が中隊長やった方がいいんじゃないかって思うときがあるな、私は』
…真璃。
「でも、麗美ってあれで小さい妹とかいるみたいだよ? その割には一番自分が子供っぽいけど…すぐ人に頼るし泣きそうになるし」
「そうなのかー? 私は麗美が末っ子なんじゃないかと思ってた」
「そうなのかー? 私は麗美が末っ子なんじゃないかと思ってた」
…美鈴、留美。
「まあまあ、麗美さんだって一生懸命なんですから…あんまり困らせちゃダメです」
…早苗だけがフォローを入れる。
それぞれの言い草を聞きながら由香里は苦笑する。
まあ麗美があんまり中隊長として認められてないし尊敬もされてないのは、彼女自身はただの学生兵士であること、
さらに、実質的な中隊長としての仕事を殆ど玲が取り仕切ってしまっているからなのだが。
これは確かに問題ではある。
玲自身は麗美を蔑ろにしているつもりはないのだろうが、仮にも中隊長という役職にあるのに部下から敬意を払われてないし
中隊長としての仕事もあんまりしていないというのは、玲が実質的中隊長として君臨し、麗美を自分の格下に置いている状況が
あるからに他ならない。 近いうちに何とかしないといけない、と由香里は考えていた。
まあ麗美があんまり中隊長として認められてないし尊敬もされてないのは、彼女自身はただの学生兵士であること、
さらに、実質的な中隊長としての仕事を殆ど玲が取り仕切ってしまっているからなのだが。
これは確かに問題ではある。
玲自身は麗美を蔑ろにしているつもりはないのだろうが、仮にも中隊長という役職にあるのに部下から敬意を払われてないし
中隊長としての仕事もあんまりしていないというのは、玲が実質的中隊長として君臨し、麗美を自分の格下に置いている状況が
あるからに他ならない。 近いうちに何とかしないといけない、と由香里は考えていた。
だが、能力的な面でも精神的な面でも他の学生兵士と差のない「新兵」である麗美にいきなり中隊長らしい事を
やらせようとしても上手く行かないのは目に見えている。
どうするべきか、と由香里は一計を案ずる。
やらせようとしても上手く行かないのは目に見えている。
どうするべきか、と由香里は一計を案ずる。
『ちょっと…ちゃんと計測はできたの? あと麗美は何処いったの?』
『基礎動作運動、終わりました』
グラウンドの真ん中辺りから玲と咲也がゆっくりと87式を歩かせて戻ってくる。
機材で計測した両者の運動パターンや操縦の癖は、後でコンピュータで分析し補正をかけてベトロニクスのプログラムに
組み込み操縦する時のソフト側からサポートを行うのだ。
これによって運動時の無駄な動きなどを無くし、機士のハード側の反応係数を向上させ、効率的な運動が可能になる。
機材で計測した両者の運動パターンや操縦の癖は、後でコンピュータで分析し補正をかけてベトロニクスのプログラムに
組み込み操縦する時のソフト側からサポートを行うのだ。
これによって運動時の無駄な動きなどを無くし、機士のハード側の反応係数を向上させ、効率的な運動が可能になる。
『んじゃあ、次は私たちの番だな。 82式は走らないからゆっくりで行くよ?』
「オッケー。 それじゃあ、開始位置に付いたら始めていいから」
87式と入れ替わるように82式がグラウンドに進入し、基礎動作を開始する。
歩いて、右側に向きを変え、歩いて、左側に向きを変え、また歩いて、停止し、後進し…というのを決められた手順どおりに
反復するだけなのだが、単純な動作でも機士を操縦するのには慣れとコツがいる。
機士の操縦そのものは両足のフットペダルと、両手のグリップレバー、そして前述のボタン/トリガーに加えて
簡単な音声認識命令、あとはあらかじめプログラムされた動作パターンである。
パワードスーツの延長上にある兵器とは言え、マスタースレイブ式で装着者の動作をそのまま伝達するスーツ型とは異なる操縦になる。
加えて、機士の動作は結構過敏な部分もあったりする。
歩いて、右側に向きを変え、歩いて、左側に向きを変え、また歩いて、停止し、後進し…というのを決められた手順どおりに
反復するだけなのだが、単純な動作でも機士を操縦するのには慣れとコツがいる。
機士の操縦そのものは両足のフットペダルと、両手のグリップレバー、そして前述のボタン/トリガーに加えて
簡単な音声認識命令、あとはあらかじめプログラムされた動作パターンである。
パワードスーツの延長上にある兵器とは言え、マスタースレイブ式で装着者の動作をそのまま伝達するスーツ型とは異なる操縦になる。
加えて、機士の動作は結構過敏な部分もあったりする。
「真璃、初李より4m遅れている。 もう少し歩行速度を上げて」
『了解…!』
「ちょっ…早すぎ!」
急速に歩行速度を加速させた真璃の82式は初李の82式を追い越す際、肩が接触しお互いによろけさせてしまう。
初李はすんでの所で姿勢バランスを制御し転倒を回避するが、ぶつけられた怒りは収まらない。
初李はすんでの所で姿勢バランスを制御し転倒を回避するが、ぶつけられた怒りは収まらない。
『何やってるの!? 大事な機体をぶつけて傷つけないで欲しいのだけど。
あなたの操縦は荒っぽいんだから、また花壇とかブロック塀みたいに破壊したら、弁償するのは誰かしら?』
あなたの操縦は荒っぽいんだから、また花壇とかブロック塀みたいに破壊したら、弁償するのは誰かしら?』
『悪かったなあ、私だってぶつけたくてぶつけたんじゃないんだよ? 大体、ぶつかりそうなら初李こそ避けろよ。
接触するくらい幅寄せてこなくていいっての!』
接触するくらい幅寄せてこなくていいっての!』
『何なのその言い草。 操縦の運動神経だけじゃなくて言語野も雑なつくりなの?』
「ちょっとちょっと、真璃、初李、喧嘩しないでよ! 真璃もぶつかったのは自分なんだから素直に謝ったらいいでしょ!?」
開始するなり衝突を始める真璃と初李。
慌てて仲裁に入ろうとする有理だが、翠は「放っとけばいいじゃん、あれで結構仲がいいんだから」と楽天的だ。
実際、真璃と初李に有理を加えた三人(+翠:主に軍事や機士の話題の時)で屯ってる時間は多いしそれほど仲は悪くないのだ。
慌てて仲裁に入ろうとする有理だが、翠は「放っとけばいいじゃん、あれで結構仲がいいんだから」と楽天的だ。
実際、真璃と初李に有理を加えた三人(+翠:主に軍事や機士の話題の時)で屯ってる時間は多いしそれほど仲は悪くないのだ。
「…というか、真璃は絶対わざとぶつけたよね」
「そうねー、さりげなくさっきの座学の仕返しをしているのね」
87式から降りた玲がスポーツドリンクで汗として流した水分を補給しながら由香里と談笑していると
同じく89式(校門辺りに降着姿勢で乗り捨て)を降りた麗美が咲也に手を引かれてこっちに戻ってくるのが見えた。
玲はスポーツドリンクのペットボトル容器をくしゃりと握りつぶすと、小さく呟いた。
同じく89式(校門辺りに降着姿勢で乗り捨て)を降りた麗美が咲也に手を引かれてこっちに戻ってくるのが見えた。
玲はスポーツドリンクのペットボトル容器をくしゃりと握りつぶすと、小さく呟いた。
「さーて、中隊長様のご機嫌取りもしなきゃいけないかな…」
(続く)
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