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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

capter2 SIDE D 前編

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ParaBellum

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 時峰九条を知ってるかって?
 ああ、知ってる、知ってるよ、俺の手を見てくればわかるだろ?
 その名前を聞いただけで手が震えてるんだ。
 心が、体が、あのバアさんの事を覚えているんだよ。
 昔、特別戦技教官としてあのバアさんがここに来た事があってな、俺たちも既に齢80を超えた老婆だと聞いて馬鹿にしてたさ・・・。
 かつての英雄で退役した人間ならともかく、どうみてもヨボヨボの婆さんが現役でその上、第七機関最高戦力なんて馬鹿みたいなデカイ肩書きを背負ってやがるんだ。
 あの老婆に関する逸話も全部常識離れしていて、戦闘機動している鋼機を生身でナイフ一本で破壊しただの、一人で総勢1000人の軍隊を無力化しただの、誰だってそんな話は眉唾もの程度にすら思わなかった。
 ホラにしてもそこまでいくともはや笑い話だって、あんたも思うだろう?
 俺たちは時峰九条を第七機関屈指のコメディアンだと思ってたんだ。
 そうじゃなかったのかってか?
 はは、ああ、そうじゃなかったね、世の中には人間の姿をしたモンスターがいたって事だ。
 あの老婆がやってきた最初の日に俺達、100人の訓練兵に向けて言ったんだ、とりあえずあんたらの実力知りたいから、このあたしに向けてかかって来いってね。
 ああ、そうさ、あんたの予想通りさ、俺達はそのたった一人のバアさんに一度すら触れることなく、敗れたんだ。
 有名な事実とは言え、信じられるか?
 訓練兵とはいえ、俺たちの誰もがその中での精鋭であると自負をしていた。
 1万人の中から並々ならぬ訓練の果てにやっと残った100人だったんだ、そのぐらいの自負はもっても問題はないだろう?
 そんな奴らが、枯れ枝みたいなバアさん一人に赤子をあやすようにやられたんだ。
 その時、第七機関の『鬼婆』、それにまつわる逸話が嘘じゃ無かった、いや、まだオブラートに包んで語られていたんだと知ったよ。
 はは、足の震えが止まらない、あの一戦、それだけで体があのバアさんに対して拒否反応を起こすようになっちまった。
 本気でやりあえば確実に命は無いぞって俺の全細胞が警報を鳴らしてるんだよ。
 何か弱点は無かったのかって?
 単純に戦力としての弱点は無いだろうな、あれは完全無欠だ。どんな武器持ったって勝てる気がしない。
 あーそういえば一つだけ弱点というか変わっている所はあったな……あのバアさん、あれだけ強いのに、何故かお人好しなんだ。
 あれほどの能力を身につけているって事はそれ相応の地獄を見てきたって事は馬鹿でもわかる。
 飛び越えた技能を持つ人間に人格破綻者が多いのは、ある意味そういう所から来てるんだろうと思うんだ。
 けれど、あのバアさん凄く人が良くてさ、だからだろうな、俺はあのバアさんを心底恐怖しているが、嫌悪した事は無かったよ。

                                   第六機関・鋼機パイロット マーカス・グレイト曹長



 CR code revegion 第二章『悪夢』 SIDE D   老いたる故に、無敵なり





 イーグル本部 地下四階 地下五階直通エレベータ前通路 




 わたしは驚愕していた。
 目の前にいる老婆の枯れ枝のような片手で後ろ回し蹴りを止められた事に……だ。
 フェイントを加えた蹴り、殺さないまでも意識を狩り取るつもりで撃った一撃だった。
 それをたいした筋肉も無いこの枯れ枝のような細腕で止めたのだ。
 老婆は受け止めた腕を放り投げるようにして離した。
 片足を軸に立っていたわたしはバランスを崩して倒れるように床に手を付き、そのまま後ろに飛び、老婆と距離を取った。
 老婆はわたしのけりを受け止めた右腕を痛たたとため息混じりに振って、
「はぁー、流石に歳かねぇ、あのぐらいの蹴りを受け止めただけでこれだけ響くなんて…。」
 そう楽しそうな顔付きで言った。
 その程度の威力の蹴りを放ったつもりなど無かった。
 受けられたとしても、あの枯枝のような腕をへし折る程度の威力はあったと自負している。
 けれど、あの老婆はそれを手が痺れた程度でそのダメージを済ませようとしているのだ。
 わたしは何故そんな事があの腕で出来るのか理解できなかった。
「あら、どうしたんだい、追撃に来てくれたって良いだろうに…そんなんじゃあたしは倒せないよ?」
 老婆はニヤリと笑って、そう挑発する。
 頭の中で鳴る警報のような音がさらに強まり、それが耳鳴りになるのを感じた。
 あの老婆は危険だと、まるでそう告げているのである。
 それと同時に一つの衝動が浮かぶ。
 それはあの老婆を全力を持って叩き潰さなければならないという洪水のような感情だ。
 わたしに危険だと警報を鳴らす一方で、今すぐあの老婆を倒せというわたしの中の何かが大きく声を上げるのだ。
 だが、わたしはその老婆を今すぐ倒せという声に逆らった。
 さきほどの一撃で倒されてくれるような相手ならば、その選択肢を取っても良かったのだが、相手は先ほどの一合から考えても一筋縄ではいかない相手である事は間違いない。
 衝動で何も考えずに闘いを挑んで勝てる相手では無いのだ。
 優先順位を考えなければならないとわたしはわたしを激する。
 今、わたしがここに来ているのは潤也の元に辿り着きここから救出する為だ。
 目の前の老婆は危険な能力を有していると考えられる。
 だからといって、この老婆を倒さなければ、潤也を助けられないというわけではない。
 それは今、わたしが今いる位置から見ても容易に理解できる話である。
 前に老婆、後ろに地下直通のエレベーターという現在の位置取りならば、エレベーターが来ると同時にすぐさまエレベーターの中に逃げそれと同時に持っている獲物で老婆を牽制し、すぐさま下に向かう事が出来る。
 老婆の力量はいまだ測りしれぬものがあったが、ここは自分から危険を冒して攻めに出るのではなく、待ち、相手の動きを見て堅実に返す守りの戦法に出るのが得策だ、そう結論し、わたしはゆっくりと腰を据えて、あと1分程の時間を待つ事にした。
 敵の能力を最大限の評価を行い警戒する。
 ありとあらゆる可能性をあるものとして考え、気を張り詰める全力で挑む。
それをわたしが、琴峰藍という一個体が黒峰潤也から学んだ闘い方なのだから…。
 老婆はわたしが待ちに入った事を悟ったのか、少しため息をついて、笑った。
「あーあー、守りに入ってしまったのかい、せっかく好条件付けてやってるのに、お嬢ちゃん本当に一人でこの下に行く気かい?あのセキュリティはお嬢ちゃんのような娘が、一人で突破できるような代物じゃないよ。ここでこのおばあちゃんの相手をしてやって、この遊びに勝って、目的地に辿りつくという選択肢を取った方が得策だと思うけれどなぁ~。」
「あなたの助けなんていらないってさっき言ったよ。それにあなたが約束を守る保証なんてものも無いし、たぶん、あなたを全力で倒そうとするとあなたを殺す気でやらないと無理だとも感じてる。殺さなくても意識は確実に奪うくらいの気持ちでやらないと勝てない。だから、例え、あなたが約束を守る気でいたとしてもわたしの勝利は必然、あなたの意識はこの世界に無い。そうしたらわたしに得るものなんて何も無いでしょ?だからそもそもこれはゲームとしても成立してないよ。」
 そういうわたしに対して、老婆はふむと頷き、悪戯を思いついた子供のような笑みでこう言った。
「なるほど、お嬢ちゃんお言う事も一理あるから、気丈なお嬢ちゃんを心を動かせるようにちょっとルール変更してみようか…お嬢ちゃんがあたしの体に一撃入れたら勝ちってのでどうだい?」
 何を言い出すのだ、この老婆は!?
 わたしの心は老婆のその一言で乱れる。
 たしかにこの老婆は強い、先ほどの一合やわたしの中で耳鳴りのように鳴る警報がそれを示している事からも明らかだ。
 だが、だからといって、たかだか一撃入れる程度が出来ない等と思い上がりも良い所なのではないか?
 それほどまでに自分の強さに自信があるという事なのか?
 それとも何も考えておらず本当に『遊び』だからこんな発言をしているのか?
 疑問がわたしの中で跋扈する。
 わたしは乱れた心を落ちつける為、大きく呼吸し、右足をグーで殴った。
 痛みがヒートアップした思考をクールダウンさせる。
 そうだ、優先順位を間違えるな、琴峰藍。
 お前はここに何をしに来ているのだ?それを見失って、心を動かされるなど言語道断だ。
 例え、ルールがわたしに非常に有利になるように変えられたとしてもわたしのやる事は変わらない。
 確かにこの条件は有利に見えるが、あの老婆が約束を守るという保証も何処にも無いのだ。
 どのようなセキュリティであっても『手段』さえ選ばなければ突破する事が出来るし、最初からそれをする事を考慮した上でここに来ているのだ。
 だから問題は無い。目の前にある餌に連れられて本当の目的を見失うなど、潤也が見たら、またお前はと呆れられるではないか…。
 その思いを胸に精神統一。
心を乱されるな、それは敵に付け入れられる隙になる。
 今できる最善のみを信仰し他の考えを見るな、今わたしに必要なのはただ、それを自動的に実行する鉄の精神だ。
 そうして、動かないわたしを見て、老婆は感心したように頷く。
「ふむ、これでも動かないのかい、わざわざ『共鳴』させて闘争心まで煽ってるのに…気丈というより強情っぱりなタイプか…一度これと決めたら、決して変えないタイプ。ふふ、中々に可愛いじゃないかい。」
 あとエレベーターが来るまで30秒。
 その時間だけこの位置を守り切れば良い。そしてすぐさまエレベーターに逃げ込めばわたしの勝ちだ。
「でもね、あたしも同じでね、あたしも一度これと決めたら変えないというタイプなんだよ、お嬢ちゃん。つまりこの遊びには付き合って貰う。てなわけで今から、お嬢ちゃんが待ちに徹している理由を奪わせて貰うよ。」
 来る。
 わたしはそう直感的に理解する。
「流派としてはこちらから行くのはあんまり褒められたやり方じゃないんだけれど、これじゃあ勝負にならないから仕方ないと思う事にするよ。」
 そして、老婆は構えて、
「時峰流古武術、時峰九条、いざ参る。」
 そう名乗りあげ、わたしの元に向けて駆けた。

 早い。

 その華奢な見た目から予想が付かないような速度でわたしと老婆の間にあった距離を詰める。
 例えるならば電瞬にも及ぶ速度だと感じた程の速さだった。
 だが、予想が付かない程の能力の所持者である事はわたしの予想の範囲内だ。
 この速度と戦い合うとなるとぞっとしないが、守るだけならば、そう難しい事では無い。
 例え、老婆から一撃を貰ったとしてもこちらがあの老婆に触れる事が出来さえすればこちらの勝ちだ。
 触れただけでわたしは老婆の意識を奪う切り札を持っている。
 故に冷静に、老婆の攻撃を受けて触れる事さえできれば良い。
 それだけに全神経を注ぎ込む。
 老婆はわたしの3歩前に辿り着く同時にその右腕を鎌のように『く』の字にして振ってきた。
 狙いは頭部。
 わたしはすぐさまそれを認識し、左腕をガードの為に上げ、それと同時に右腕で老婆の首に向けて右腕を突き出す。
 それと同時にグローブに内蔵されたスタンガンの起動。
 これが切り札、180万Vにもなる電流を流しこめば意識を遮断する事も容易い、つまる所、目の前の老婆の意識を触れるだけで狩り取る事が出来る。
 わたしは勝利を確信する。
 だが―――その1秒後わたしはそれが間違いであった事を悟らされた。
 左腕が受ける筈であった老婆の一撃が、来なかったのである。
 老婆はニコっとわたしに向けて微笑んで、わたしの突き出した右腕を両腕で掴んでいた。
 フェイント!?
 その刹那、わたしは誘い出されたのだと知る。
 慌てて、右腕を引き戻そうとするが時既に遅く、

「ほいさっと!」

 老婆は掛け声とともにわたしの体を投げる。
 なんとか両腕を掴んでいたのを見れていたお陰か、すんでの所で受け身を取る事に成功した。
 それでも殺しきれない衝撃から背中に強烈な痛みが走った。
 起きなければ、追撃が来る。
 わたしはすぐに体を起こそうするが、体が痛みでまともに動かない。
 これでは追撃を避ける事も守る事も出来ない。
 何故、相手の攻撃を見た時に考えるのを止めてしまったのか…細心の注意を払っていたつもりだったのに、勝機を見た瞬間、それに意識を奪われてしまった。
 なんて甘い、心を鉄にしきれなかった。お前は一体、何をしている。
 一瞬思考を止めてしまった事で絶好の機会を相手に与えてしまう結果になってしまったではないか…だからお前はいつも好意を寄せるあの男から責められるのだ。
 わたしはせめて放たれるだろう追撃で意識を奪われないように気を引き締める。

 けれど―――――――――――――――追撃は来なかった。

 わたしは感覚が戻った体を使ってすぐさま、立ち上がり、老婆と距離を取った。
 何故、この老婆がわたしに追撃を仕掛けなかったのは不可解な話ではあったが、幸運な事だ、少なくともその一瞬だけはそう思った。
 だが、老婆の方に向き老婆を見た時点でそれがまったく幸運な事では無かった事に気づく。

―でもね、あたしも同じでね、あたしも一度これと決めたら変えないというタイプなんだよ、お嬢ちゃん。つまりこの遊びには付き合って貰う。てなわけで今から、お嬢ちゃんが待ちに徹している理由を奪わせて貰うよ―

 わたしの中で老婆のその言葉が反芻する、そしてわたしの目の前に繰り広げられた、その光景は老婆のその言葉の意味を思い知らされるにたるものだった。
「理解できたかな?お嬢ちゃんは強制的にこの『遊び』に付き合う羽目になったんだよ、さて一緒に楽しもうじゃないか。」
 電子音が鳴る。それはエレベーターの到着を示す音だ。
 そしてエレベーターは老婆の背後で扉を開く。それはわたしとエレベーターの間に老婆が立っているという事を示していた。
 それは同時にこの老婆を抜けてあのエレベーターに辿りつかなければならないという事だ。
 地下五階に繋がる道はこの直通エレベーターのみである。
 だからここで別ルートを選択するという事は不可能なのである。
 仕方がないとわたしは思う事にした。
 わたしは今、この枯れ枝のような体躯をした老婆の掌の上で踊らされている。
 おそらくはここまでの攻防の展開と結果は全て、あの老婆の計算通りなのだろう。
 しかし、老婆は先にあった絶好の好機をわざわざ見逃している。
 それはあの老婆の言うようにこれは命を賭けた闘いですらなく彼女にとっては『遊び』に過ぎないからだ。
 だから、わたしの戦闘能力を全て奪えるような好機をあえて見逃し追撃もかけずそこで嫌みたらしくしわだらけの顔に笑みを浮かべているだけだった。
 彼女はこの『遊び』を楽しむ為にもっと長くこの闘いを続けたいのだ。
 だから、あの好機を見逃した。
 そこに光明がある。
 わたしとあの老婆の強さはおそらくは大きな開きがあるだろうことは先の攻防から予想は出来た。
 だが、潤也との闘いの中で、わたしは学んでいる、戦いとは油断し、慢心したものが負けるように出来ているのだ。
そして、例え相手と自分にどれほどの開きがあろうともその油断から姿を現す一瞬の隙、それを突く事で天地ほどにもある力の差すら逆転する事があるのだと…。
 ―――――だから、勝機は0じゃない。
 わたしは足に力を入れて、腰をすえる。
「悪いけれど、お婆ちゃん、後悔はしないでよね。」
 そう言う、わたしの言葉を聞いて、老婆は嬉しそうに笑う。
「いや、いいよ、いいよ、やっと本番という事だろう?」
 その嫌らしい笑みを浮かべられないようにする、そう思いわたしは駆けた。
 わたしは老婆との間にある20歩の距離を即座に詰めていく。
 といっても愚直に直進するわけではない、この際に歩幅を変えて一歩を進むようにしている。
 これは相手の目に映る間合いの感覚を取られないようにする為の工夫だ。
 一定のリズムを刻んで接近したのならば、相手からどのようなタイミングで攻撃が来るのかという事を悟られてしまう。
 相手は攻撃されるリズムの時だけを注意して攻撃を避ければ良いのだ。
 テレフォンパンチという言葉があるがあれと似たようなものだ。
 それをこのように歩幅を変えリズムを乱す事で、その予測をかく乱する、相手が予測したよりも早く、もしくは遅く攻撃を繰り出すのである。
 よってどのタイミングで攻撃が来るのかは老婆にとっても未知となる。
 言うには簡単だが、これを普通に走るのと速度を落とさずに行うという事は非常に難しい行動だ。
 一歩足の出し方を間違えれば足を挫き相手に絶好の機会を与えてしまう。
 わたしの中にはそれを行うための技術の知識が詰め込まれてはいるし、それを行うだけの身体能力も持っているが、この歩法は実際に行うとなるとそれは非常に神経を使う行為であった。
 使った経験が無いわけではない、かつて、いつでも潤也の役に立てるようにと詰め込まれた知識を引き出してはわたしはそれを修練していたことがある。
 だが、その知識の中でも特に難度が高く、一瞬の気の緩みが歩を誤らせ、転倒し、わたしに致命的な瞬間作り上げてしまう可能性も高いこの歩法は行う事自体が博打に近いものだった。
 だが、全力。
 危険だからといって出し惜しみして勝てる相手でもないし悠長に構えて勝機を探っているような時間も無い。
 だから、全力。
 そうでなければ勝てる相手ではないのだから…。


 10歩。


 それはわたしと老婆との間にある距離の歩数。老婆はわたしの歩法に気づいたようで関心したようにわたしを見つめている。
 だが、何をしているのかバレた所でたいした問題では無い。わかっていてもどのタイミングでどの間合いでわたしが攻撃を仕掛けるか、それは老婆に予知する事が出来ないのだから。


 5歩。


 そろそろ間合いに近づく、わたしはさらに気を引き締めた。一瞬、足に大きな痛みが響く、踏みなれてない歩法はわたしに大きなリスクを背負わせている。
 踏み間違えそうになる度にわたしは背筋に悪寒が走るのを感じた。


 3歩。


 それは間合いに入った事を意味する。この距離で届くのは腰の回転をいかして放つ足刀といった所だろうか、だが、それは動きが大きい行動だ。
 あの老婆はそれを易々と止めてしまうだろう、ならば、もっと近づいて攻撃の種類を増やす必要がある。


 2.7歩。


 歩幅を大きくずらす、どこで仕掛けるか、というのは決めている。
 だがそれを悟られぬためにもここで余計な一歩を踏む、相手が先を取りに攻めにくる可能性も考慮したが、それは無いだろう。
 相手は既にわたしが何をしているのかを理解している。
 間合いというのは戦いにおいての7割ほどを占めるほどの重要な要素である。
 その間合いが不確かな中で放つ攻撃はとても会心打となりえる攻撃ではない。間合い、間合いによって最適の攻撃が存在しているのである。
 それを省みない攻撃では今度は相手に大きな一撃を受ける隙を与えてしまうのと同義だ。
 わたしがこのような危険な歩法を行っているのは相手に間合いを掴ませずに先を取ることを許さないことに意味があるのである。


1. 3歩。


今度は一気に近づく、既に拳も届く距離、わたしは拳に力をこめ、肘を曲げる。
ここで仕掛ける!
わたしは老婆に向けて左を軸にして後ろ回し蹴りを放った。勢いも十分、今まで疾走してついた力も加えたその蹴りは出会い頭に放ったそれの比では無い。
老婆は即座にしゃがみ、それを回避した。
見事なものだと思う、あれだけかき乱したというのに老婆なんなくその発端を見抜き即座に反応した。
先ほどとは比にならない威力だと察知し、受けずに回避するその判断も早い。
とてつもない相手と戦っているのだとわたしはそのとき強く感じる。
だが、それは想定の範囲内だ。この老婆が異常な力を持っている事など先刻承知である。
わたしは蹴りを突き出した足底を壁にぶつける。
蹴りを放つと同時に稼動させた右足底部にある電磁発生機を用いて磁気で右足を壁に固定する。
 それを軸に今度は左足を老婆に向けて突き出すようにして蹴り上げた。
 すでに回避するためにしゃがみの行動を取った老婆にはそれを回避する事は不可能である。
 だが、老婆はそれを回避する事無く受け止める事で防御した。
 老婆は勝ち誇ったようにわたしを見て笑って、
「今の縮地からの連携は中々、面白かったけれど―――」

―――――右足底部の電磁発生器を解除。

 その瞬間、老婆は驚いたようにわたしを見つめた。
 わたしは重力に身を任せ老婆がわたしの足を受け止めているのを軸にして、右腕を老婆めがけて伸ばした。
 それは構えも何も無い攻撃だった。このような攻撃が届いたところで老婆には何一つダメージを与えることができないだろう…。
 だが、その右腕のグローブには高圧電流を相手に流すスタンガンが内蔵されている。
 だからこの腕はあの老婆に届けば良い。
 つまり、ここまでの攻防は総てこの右の掌を老婆の下に届けるためのプロセス。
 わたしはしゃがむ老婆に覆いかぶさるようにして右の掌を老婆の体に――――――――――――――――――――えっ?
「あ、ごめん。」
 老婆はその時、体を後ろに引いたのだ。
 わたし覆い被さるようにして手を伸ばしていたわたしの体は片足の軸のずれから簡単にバランスを失い後転する。
 わたしの右の掌はあとちょっとの所で老婆の体に届かなかった。
 強く床に後頭部をぶつける。
「あわわわわ、だ、大丈夫かい?お嬢ちゃん、い、いや、今のはあたしも感心してせっかくだし受けてやろうかと思ったんだけれど、つい、体が癖でやっちまってねえ。頭は大丈夫かい?」
 痛みがわたしの頭で反響している中で、わたしは理解できない、理解できないと悲鳴のように疑問が頭の中で湧きでる。
 回避不能、防御不能になるようプロセスを組み絶対に当たるように攻撃を行ったのだ。
 だが、それをあの一瞬で攻撃に転じる事で老婆は難なく崩して見せた。
 ニ撃目から三撃目に移る際のそれは刹那ほどの時間しかなく、思考して反応するといったような時間すら与えない連撃だった筈だ。
 なのに、この老婆は、その刹那で唯一抜けれる方法を行使したことになる。
 ここまでの攻撃を予想されていた?
 可能性としては無いとは言い切れないが、先ほどのニ撃目を受け、笑って言った老婆の言葉を思い出し、やはりその線は薄いと感じた。
 あれはもう総ての攻撃を受けきったと老婆が考えた故に発した言葉だと考えるのが妥当ではないだろうか…。
 となると何故、あれが受けられたのだ…?
 わたしの目の前に老婆らしきものが移る、さっきの衝撃で視界がぐちゃぐちゃであれがあの老婆なのかはわからない。
 でもここにあの老婆以外の人間はいない筈だから、これがあの老婆で間違いないのだろう。
「目はこっち見てるね、意識はあるみたいだ…頭には、あちゃーコブが出来ちゃったよ、これは本当にごめん。わざとじゃないんだよ、わざとじゃ…。背中に打ち身作るぐらいで済ませる予定だったんだけどねぇ、あーあー、耄碌(もうろく)するとこれだから…これは計画が狂ったよ。」
 老婆は失敗、失敗と頭をかいて覗き込むように老婆はわたしを見た。
 わたしは感覚が戻ってくると同時に老婆に向けてを手を突き出した。
 触れれば勝てる。
 老婆はそれを察知し、すぐさま後ろにとび跳ねそれを避けた。
 そして、わたしは痛みでぐちゃぐちゃな視界のまま立ち上がり老婆と距離を取った。
 さきほどの歩法の無理と、ここまでずっと戦闘行動をしてきたのが合わさり足が酷く痛む。
 気を抜くとすぐにでも膝をついてしまいそうだ。


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