それ見た老婆が少し呆れたように息を吐いて、
「元気あるねと褒めてやりたいところだけれど、まあ、無理しなさんな、気づいてるかどうかは知らないけれど、あたしからお嬢ちゃんに攻撃を仕掛けるなんて事はさっきから一度もしてないの気づいてるかい?あたしの武術っていうのは実はそういう風に出来てるんだ。まあ、一回攻撃を誘うような真似はしたけれども…あたしがしているのはお嬢ちゃんの攻撃を総て受けて返しているだけだから今は安心して回復に努めなさいな。誓って言うけれど、あたしからお嬢ちゃんに向けて攻撃をする事は無いよ。それに、もう3度も投げられてるんだ、ここに来るまでに重労働やった風にも見受けれられるし、そうやって体中にガタが来ていて当然なんだから、まず休みな。それにあんまり急ぐとお嬢ちゃん、手に入るものまで手に入らなくなっちまうよ。ほら、言うでしょ?急がば回れって…。」
わたしはぐっと唇を噛んだ。
彼女の言っている事は潤也がわたしによく言っていたそれと同じだ。
敵に潤也とまったく同じ理屈で諌められたのが悔しくてたまらなかった。
だが敵の言葉は正しい、この定まらない視界では攻撃すらまともに出来ない。
わたしは辛酸を舐めるような思いでそれを受け入れ体を休める事にし、壁にもたれかかる。
座らなかったのはこのまま座ると次は立てなくなりそうだと感じていたからだ。
体の限界は近い、それは確信を持ってそう感じられた。
「さて、まあ、まだ遊びは続行中なんだけれども、お嬢ちゃんが回復に努めている間にただ待っているというのも暇だから、お嬢ちゃんの攻撃をこのお婆ちゃんが簡単に返せたのかを説明してあげようかね。この賢いお婆ちゃんが敵に塩を送るんだよ~、心して聞きなさいな。あっ、あとこれ頭のコブのお詫び、これで許してね。」
そうやってごめんねと老婆は仕草を取る。
変な人だとわたしは思う。
敵が相手にダメージを与える等という事は当たり前の事なのになぜこの老婆は謝るのだろうか?
少なくともわたしは先ほどからわたしが受けているのよりも深刻なダメージを与えるような攻撃を繰り返している。
それを考えれば、そのような事を言われる筋合いもないのだ。
あの老婆にとってこれは遊びだから?それとも他に何か考えている事があるのか?わたしはわけがわからなくなり混乱した。
そんなわたしを無視するように老婆は語り始める。
「さて、お嬢ちゃんは気づいてるかどうかは知らないけれど、はっきり言って、あたしとお嬢ちゃんの身体能力の差は圧倒的にお嬢ちゃんが勝ってるんだよ、最初のみたいなそこまで威力のこもっていないぬるい攻撃ならあたしの腕でも止められるけれど、全力で打たれたものを直に受け止めるとこの腕じゃ簡単にへし折れてしまう。だから、さっきの時は初撃を受けずに回避しただろう?だからね、身体能力じゃお嬢ちゃんに思いっきり分があるのさ。じゃあ、なんでお嬢ちゃんとこのヨボヨボのお婆さんが戦えているのかと思うだろう?」
お前のようなヨボヨボのババアがいるかと毒づいてやりたい気分になったが、そんな事に貴重な体力を使うわけにもいかずわたしはただ黙って老婆の言葉に耳を傾ける。
「じゃあ、次は技術の話になる。たしかに身体能力の差を覆すための技巧というのはこの世に百と存在している。でもね、それは大きな技術差があった場合の話だ。そういった技術の観点で見ても、お嬢ちゃんとあたしにそれほど大きな差は無いんだよ、さっきお嬢ちゃん、あたしに近づいてくる際にちょっと代わった走り方をしただろう?あれはね、一夜頑張っただけで習得できるような生半可なものじゃないんだ、才能があっても地べたを這いずりまわるような苦労をしなくては手に入らないような技だ。それをお嬢ちゃんは多少ぎこちなさはあったけれど、見事にやってみせてたさ、だからね、あたしとお嬢ちゃんは戦闘技術という点においてもそれほど大きな差は無い。わかりやすく数値化してあげるとお嬢ちゃんの身体能力が10だとするとあたしは4ぐらいで、お嬢ちゃんの技術が7だとするとあたしは9ぐらいだ。実際それぐらいの差しかないんだよ。ほら、こうしてみるとどう考えてもお嬢ちゃんに分がある。けれど、お嬢ちゃんも感じているだろう?お嬢ちゃんとこのヨボヨボのお婆ちゃんの間には越えられない程の開きがあると?それは何故だと思う?」
それがわからなかった。
確かに要素、要素を見ていけばわたしが勝てないという要素は無いようにも思える。
例え、あの老婆がわたしを過大評価しているだけなのだとしても、たかだかあの身に一度触れることすら出来ないという程の開きは無い筈なのだ。
けれど、先からの幾度かの攻防の末、わたしはこの老婆には何をやっても通じない…そんな観念に囚われつつあった。
そんなわたしの心中を察してか、老婆はくすりと笑って言う。
「お嬢ちゃんとあたしにある決定的な差、それはね…『経験』だよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんもさっきの踏み切りのよさといいそれなりに修羅場をくぐってはいるみたいだけれどあたしはその比じゃないぐらいの戦いの経験を積んできている。負けた戦いもあったし、勝った戦いもあった、あたしはそれを長い時間をかけて、何度も自分の中で反芻し、細胞の一つ一つにその経験とあらゆる状況における対処法をこの身にしみこませてきた。さっきのだってね、別にお嬢ちゃんの攻撃が完璧に読めてたわけじゃないんだよ、ただ、体がね、こうね、経験から勝手に動いちゃったんだ。こう攻撃されたらこう動く、ああ攻撃されたああ動くって、自動的に反応しちゃうんだ。それがさっきの攻撃を凌いだからくりというわけさ、経験を数値化するならお嬢ちゃんは5だとするならあたしゃ500万って所かね。そしてこれがお嬢ちゃんとあたしの絶対的な差という奴かな。たまに、今のあたしを見て、これで体が全盛期だったらとかほざく馬鹿者もいるけれど、それは大きな間違いさ、あたしはこの多大な経験によって支えられている今が全盛期なんだよ。」
それは絶対的な自信と自負を持って老婆の口から放たれた一言であった。
そしてこれこそがこの老齢である淑女を第七機関最高戦力としている要因でもある。
「だからね、攻撃を受けるときにも芯をずらして受けてダメージを減らすなんて事もお茶の子さいさいってわけさ―――――――あっ、この言い回し古いから無しね、こう見えてもあたしゃまだ84歳の若さなんだから…。」
「さっき、ピチピチの82歳とか言ってた…。」
思わず、つっこみが出る。
「そ、そーだったっけ?お嬢ちゃんよく覚えてるねぇ、は、ははは―――」
あいたと老婆は頭を手で叩き誤魔化すように笑った。
しかしよりにもよって経験かとわたしは思う。
わたしはこの世に生れ落ちてまだ1年も立ってない。研究所で様々な人間の技術の他に経験もわたしの中に流し込まれはしたが、それはわたしだけの経験ではなく、どちらかというと他人から聞いた知識であり、あの老婆のように自然に体が反応して何かが行えるような積み重ねられた経験では無い。
認識し、思考し、行動する。確かに自分の身体能力は超人的なものであるのかもしれないが、この3つの要素を省略できるような能力はわたしには備わっていないのだ。
だが、彼女はそれを経験から認識から思考せずに最善の行動に移すことが出来る。
この差は決定的だ。
わたしはこのまま戦えば老婆に一撃も与える事も出来ないまま敗北するだろう。
ありとあらゆるわたしの工夫があの老婆の経験の前に自動的に処理されてしまうのだ。
そしてそうなれば、潤也の元にもたどり着けず総ては水泡と化してしまう。
今もなお、わたしの中で彼女の危険性を示すアラームが鳴り響いているが、それが正しいのだとわたしはこの時、その理由も含めて明確に知った。
なーんだ、これは初めから勝ち目の無い勝負だったんじゃないか…。
どうやって勝つのか?そんな事を考えるのすら馬鹿らしくなる話だ。
不幸にもこの老婆と出会ってしまった時点でわたしは目的を達する事は不可能になったのだ。
「元気あるねと褒めてやりたいところだけれど、まあ、無理しなさんな、気づいてるかどうかは知らないけれど、あたしからお嬢ちゃんに攻撃を仕掛けるなんて事はさっきから一度もしてないの気づいてるかい?あたしの武術っていうのは実はそういう風に出来てるんだ。まあ、一回攻撃を誘うような真似はしたけれども…あたしがしているのはお嬢ちゃんの攻撃を総て受けて返しているだけだから今は安心して回復に努めなさいな。誓って言うけれど、あたしからお嬢ちゃんに向けて攻撃をする事は無いよ。それに、もう3度も投げられてるんだ、ここに来るまでに重労働やった風にも見受けれられるし、そうやって体中にガタが来ていて当然なんだから、まず休みな。それにあんまり急ぐとお嬢ちゃん、手に入るものまで手に入らなくなっちまうよ。ほら、言うでしょ?急がば回れって…。」
わたしはぐっと唇を噛んだ。
彼女の言っている事は潤也がわたしによく言っていたそれと同じだ。
敵に潤也とまったく同じ理屈で諌められたのが悔しくてたまらなかった。
だが敵の言葉は正しい、この定まらない視界では攻撃すらまともに出来ない。
わたしは辛酸を舐めるような思いでそれを受け入れ体を休める事にし、壁にもたれかかる。
座らなかったのはこのまま座ると次は立てなくなりそうだと感じていたからだ。
体の限界は近い、それは確信を持ってそう感じられた。
「さて、まあ、まだ遊びは続行中なんだけれども、お嬢ちゃんが回復に努めている間にただ待っているというのも暇だから、お嬢ちゃんの攻撃をこのお婆ちゃんが簡単に返せたのかを説明してあげようかね。この賢いお婆ちゃんが敵に塩を送るんだよ~、心して聞きなさいな。あっ、あとこれ頭のコブのお詫び、これで許してね。」
そうやってごめんねと老婆は仕草を取る。
変な人だとわたしは思う。
敵が相手にダメージを与える等という事は当たり前の事なのになぜこの老婆は謝るのだろうか?
少なくともわたしは先ほどからわたしが受けているのよりも深刻なダメージを与えるような攻撃を繰り返している。
それを考えれば、そのような事を言われる筋合いもないのだ。
あの老婆にとってこれは遊びだから?それとも他に何か考えている事があるのか?わたしはわけがわからなくなり混乱した。
そんなわたしを無視するように老婆は語り始める。
「さて、お嬢ちゃんは気づいてるかどうかは知らないけれど、はっきり言って、あたしとお嬢ちゃんの身体能力の差は圧倒的にお嬢ちゃんが勝ってるんだよ、最初のみたいなそこまで威力のこもっていないぬるい攻撃ならあたしの腕でも止められるけれど、全力で打たれたものを直に受け止めるとこの腕じゃ簡単にへし折れてしまう。だから、さっきの時は初撃を受けずに回避しただろう?だからね、身体能力じゃお嬢ちゃんに思いっきり分があるのさ。じゃあ、なんでお嬢ちゃんとこのヨボヨボのお婆さんが戦えているのかと思うだろう?」
お前のようなヨボヨボのババアがいるかと毒づいてやりたい気分になったが、そんな事に貴重な体力を使うわけにもいかずわたしはただ黙って老婆の言葉に耳を傾ける。
「じゃあ、次は技術の話になる。たしかに身体能力の差を覆すための技巧というのはこの世に百と存在している。でもね、それは大きな技術差があった場合の話だ。そういった技術の観点で見ても、お嬢ちゃんとあたしにそれほど大きな差は無いんだよ、さっきお嬢ちゃん、あたしに近づいてくる際にちょっと代わった走り方をしただろう?あれはね、一夜頑張っただけで習得できるような生半可なものじゃないんだ、才能があっても地べたを這いずりまわるような苦労をしなくては手に入らないような技だ。それをお嬢ちゃんは多少ぎこちなさはあったけれど、見事にやってみせてたさ、だからね、あたしとお嬢ちゃんは戦闘技術という点においてもそれほど大きな差は無い。わかりやすく数値化してあげるとお嬢ちゃんの身体能力が10だとするとあたしは4ぐらいで、お嬢ちゃんの技術が7だとするとあたしは9ぐらいだ。実際それぐらいの差しかないんだよ。ほら、こうしてみるとどう考えてもお嬢ちゃんに分がある。けれど、お嬢ちゃんも感じているだろう?お嬢ちゃんとこのヨボヨボのお婆ちゃんの間には越えられない程の開きがあると?それは何故だと思う?」
それがわからなかった。
確かに要素、要素を見ていけばわたしが勝てないという要素は無いようにも思える。
例え、あの老婆がわたしを過大評価しているだけなのだとしても、たかだかあの身に一度触れることすら出来ないという程の開きは無い筈なのだ。
けれど、先からの幾度かの攻防の末、わたしはこの老婆には何をやっても通じない…そんな観念に囚われつつあった。
そんなわたしの心中を察してか、老婆はくすりと笑って言う。
「お嬢ちゃんとあたしにある決定的な差、それはね…『経験』だよ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんもさっきの踏み切りのよさといいそれなりに修羅場をくぐってはいるみたいだけれどあたしはその比じゃないぐらいの戦いの経験を積んできている。負けた戦いもあったし、勝った戦いもあった、あたしはそれを長い時間をかけて、何度も自分の中で反芻し、細胞の一つ一つにその経験とあらゆる状況における対処法をこの身にしみこませてきた。さっきのだってね、別にお嬢ちゃんの攻撃が完璧に読めてたわけじゃないんだよ、ただ、体がね、こうね、経験から勝手に動いちゃったんだ。こう攻撃されたらこう動く、ああ攻撃されたああ動くって、自動的に反応しちゃうんだ。それがさっきの攻撃を凌いだからくりというわけさ、経験を数値化するならお嬢ちゃんは5だとするならあたしゃ500万って所かね。そしてこれがお嬢ちゃんとあたしの絶対的な差という奴かな。たまに、今のあたしを見て、これで体が全盛期だったらとかほざく馬鹿者もいるけれど、それは大きな間違いさ、あたしはこの多大な経験によって支えられている今が全盛期なんだよ。」
それは絶対的な自信と自負を持って老婆の口から放たれた一言であった。
そしてこれこそがこの老齢である淑女を第七機関最高戦力としている要因でもある。
「だからね、攻撃を受けるときにも芯をずらして受けてダメージを減らすなんて事もお茶の子さいさいってわけさ―――――――あっ、この言い回し古いから無しね、こう見えてもあたしゃまだ84歳の若さなんだから…。」
「さっき、ピチピチの82歳とか言ってた…。」
思わず、つっこみが出る。
「そ、そーだったっけ?お嬢ちゃんよく覚えてるねぇ、は、ははは―――」
あいたと老婆は頭を手で叩き誤魔化すように笑った。
しかしよりにもよって経験かとわたしは思う。
わたしはこの世に生れ落ちてまだ1年も立ってない。研究所で様々な人間の技術の他に経験もわたしの中に流し込まれはしたが、それはわたしだけの経験ではなく、どちらかというと他人から聞いた知識であり、あの老婆のように自然に体が反応して何かが行えるような積み重ねられた経験では無い。
認識し、思考し、行動する。確かに自分の身体能力は超人的なものであるのかもしれないが、この3つの要素を省略できるような能力はわたしには備わっていないのだ。
だが、彼女はそれを経験から認識から思考せずに最善の行動に移すことが出来る。
この差は決定的だ。
わたしはこのまま戦えば老婆に一撃も与える事も出来ないまま敗北するだろう。
ありとあらゆるわたしの工夫があの老婆の経験の前に自動的に処理されてしまうのだ。
そしてそうなれば、潤也の元にもたどり着けず総ては水泡と化してしまう。
今もなお、わたしの中で彼女の危険性を示すアラームが鳴り響いているが、それが正しいのだとわたしはこの時、その理由も含めて明確に知った。
なーんだ、これは初めから勝ち目の無い勝負だったんじゃないか…。
どうやって勝つのか?そんな事を考えるのすら馬鹿らしくなる話だ。
不幸にもこの老婆と出会ってしまった時点でわたしは目的を達する事は不可能になったのだ。
――――けれど、だからといって――――諦めるのか?
そうわたしはわたしに問いかける。
答えはすぐに帰ってきた。
まるでエコーがかかったように何度もわたしの中でそれを叫ぶ。
答えはすぐに帰ってきた。
まるでエコーがかかったように何度もわたしの中でそれを叫ぶ。
そんなの―――――――――――――――無理に決まってるじゃないか…。
もし黒峰潤也がこんな逆境に出会ったらどうするだろう?
聞くまでも無い話だ、黒峰潤也という人間を知る人間ならば、誰だってすぐ回答できる問題だ。
彼はきっと立ち向かう。例え、それがどんなに劣勢であろうと、どんなに苦境であろうと、どんなに絶望的であろうと、たとえ結果が分かっていることであろうと、彼は足掻き続ける。
それが黒峰潤也という人間なのだ。
だから、その彼と一緒に闘い、それを一番近くで見てきたわたしがこのような所で諦めたりしたのならば、それは即ちわたしが黒峰潤也の行き方を侮辱するに等しい事だ。
そんな事がこのわたしに出来る筈が無い。
だから、わたしは立ち上がる。
例えどれほど絶望的な状況であっても最後の最後まで諦めない。
わたしは自分の体の各部を動かして機能しているかどうかを確かめた。
まだ体のあちこちが痛むが、感覚は戻ってきている。
最低限の休息は取った、これ以上の時間を浪費する事はとてもじゃないけれど出来ない。
今すぐにもわたしは潤也の元に向かわないといけない。
しかし、目の前に立ちはだかるのはあの最強の老婆だ。
彼女はわたしの大きく上をいく力を持つ存在であり、それはわたしが逆立ちしても適わない存在だ。
そんな老婆に立ち向かうにはどうすればいいかとわたしは考える。
―――――――結論はすぐに出た。
それは、あまりにも簡単な事だ。
聞くまでも無い話だ、黒峰潤也という人間を知る人間ならば、誰だってすぐ回答できる問題だ。
彼はきっと立ち向かう。例え、それがどんなに劣勢であろうと、どんなに苦境であろうと、どんなに絶望的であろうと、たとえ結果が分かっていることであろうと、彼は足掻き続ける。
それが黒峰潤也という人間なのだ。
だから、その彼と一緒に闘い、それを一番近くで見てきたわたしがこのような所で諦めたりしたのならば、それは即ちわたしが黒峰潤也の行き方を侮辱するに等しい事だ。
そんな事がこのわたしに出来る筈が無い。
だから、わたしは立ち上がる。
例えどれほど絶望的な状況であっても最後の最後まで諦めない。
わたしは自分の体の各部を動かして機能しているかどうかを確かめた。
まだ体のあちこちが痛むが、感覚は戻ってきている。
最低限の休息は取った、これ以上の時間を浪費する事はとてもじゃないけれど出来ない。
今すぐにもわたしは潤也の元に向かわないといけない。
しかし、目の前に立ちはだかるのはあの最強の老婆だ。
彼女はわたしの大きく上をいく力を持つ存在であり、それはわたしが逆立ちしても適わない存在だ。
そんな老婆に立ち向かうにはどうすればいいかとわたしは考える。
―――――――結論はすぐに出た。
それは、あまりにも簡単な事だ。
そう、考えるのを――――やめればいいのだ。
きっとどんなに鋭意工夫を凝らした攻撃を仕掛けたところであの老婆の経験の前には無力だ。あの老婆が油断してようがしてまいが、あの老婆の経験は自動的にわたしの攻撃に対する最良の迎撃法を選択し発動する。
故にあの老婆は無敵、彼女の人生の長さがその分の強さとなって反映される。
たかだか半年の経験も無いわたしではそれに打ち勝つアイディアなど生み出せる筈も無い。
よって、これは勝ち目は無い勝負。
それほどまでにわたしとあの老婆に開きがある。
だから、ヒトの理で考えるのはやめよう。このヒトの理で闘えばどうやったってわたしに勝ち目は無い。
摂理という『絶対』の中では彼女にはどうやってもわたしは適わない。
だから、わたしはその『絶対』という法則自体を破る。
「さて、そろそろ回復したみたいだし再開って所かい?にしてもこれだけの差を見せられてまだ闘志が消えないなんてウチの男どもより根性ありそうだね、お穣ちゃん。」
わたしは老婆に向けて右の掌を向け、その腕に意識を集中させる。
「ん?」
老婆は何かただならぬ雰囲気を感じ取ったのか先ほどのゆるい表情では無く鬼気が迫るような真剣な表情に変わる。
本当に凄い人だな…と思う。
たった、これだけで老婆は経験から、それが非常に大きな危険を孕んだものだと認識したのだ。
これは最終手段だ。
ありとあらゆる状況において、絶対超えられない壁がわたしの前に現れた時のみに使用を想定した最後の手段。
わたしの中に溶けている因果を操る至宝『ブリューナク』の設計図、それを使い因子を収拾し構築、ブリューナクの力ほんの一部をわたしの体力の糧にして再現する。
これはわたしの体力のほとんどを奪っていく。
それだけに本来ならば、あの地下5階のセキュリティを破るのに使う予定だったのだが、まずここを進めなくては意味がない。
出し惜しみして、後であの時こうしていれば、ああしていればなんて思うのは絶対にご免だ。
だからわたしはこの力を迷い無く、必要だからとして考えて行使する。
「――――――――リーディングを開始。」
全てを構成し再構築するわけじゃない、構成するのはほんの一部分だけ、物質化せずにその概念だけをすくいあげる。
求めている規模も小さいゆえにそれぐらいならば、DSECシステムのサポートが無くてもわたしの体だけで構成する事が出来る。
そしてそれを使って一つの因果を創造する。
リベジオンが鋼獣に行使する切り札『因果終焉』のような大規模な力の行使はわたし一人で出来るものではない。
だがたかだか2秒ほどで帰結する小規模な因果ならこの身一つでも作る事が出来る筈なのだ。
因果とは始まりがあれば終わりがある事を示す概念である。
放たれた始点Aが過程を経て終点Bに辿り着く事、これが因果だ。
わかりやすい例えを挙げれば生物は生まれて最後には必ず死ぬというのも一つの因果である。
今、私が作り出す因果は単純なものだ。
始点はわたしがこの右腕を老婆に向けて振り向け、放つ事。
終点はその右の掌が老婆の体触れている事。
たった、それだけ…。
この中からわたしは望める最大の形で因果を創造し、完成させる。
そしてそれをこの右腕に装填する。
「ぐっ、あ、あぁ、あぁ、ああ。」
強烈な痛みが右腕に走る。
それは本来あり得ない事をありえるように改変しているのだから、当然の話だ。
言いかえれば、この程度で済んでいる分マシなのである。
最悪、わたしの精神が壊れる可能性も孕んでいるのだから。
故にあの老婆は無敵、彼女の人生の長さがその分の強さとなって反映される。
たかだか半年の経験も無いわたしではそれに打ち勝つアイディアなど生み出せる筈も無い。
よって、これは勝ち目は無い勝負。
それほどまでにわたしとあの老婆に開きがある。
だから、ヒトの理で考えるのはやめよう。このヒトの理で闘えばどうやったってわたしに勝ち目は無い。
摂理という『絶対』の中では彼女にはどうやってもわたしは適わない。
だから、わたしはその『絶対』という法則自体を破る。
「さて、そろそろ回復したみたいだし再開って所かい?にしてもこれだけの差を見せられてまだ闘志が消えないなんてウチの男どもより根性ありそうだね、お穣ちゃん。」
わたしは老婆に向けて右の掌を向け、その腕に意識を集中させる。
「ん?」
老婆は何かただならぬ雰囲気を感じ取ったのか先ほどのゆるい表情では無く鬼気が迫るような真剣な表情に変わる。
本当に凄い人だな…と思う。
たった、これだけで老婆は経験から、それが非常に大きな危険を孕んだものだと認識したのだ。
これは最終手段だ。
ありとあらゆる状況において、絶対超えられない壁がわたしの前に現れた時のみに使用を想定した最後の手段。
わたしの中に溶けている因果を操る至宝『ブリューナク』の設計図、それを使い因子を収拾し構築、ブリューナクの力ほんの一部をわたしの体力の糧にして再現する。
これはわたしの体力のほとんどを奪っていく。
それだけに本来ならば、あの地下5階のセキュリティを破るのに使う予定だったのだが、まずここを進めなくては意味がない。
出し惜しみして、後であの時こうしていれば、ああしていればなんて思うのは絶対にご免だ。
だからわたしはこの力を迷い無く、必要だからとして考えて行使する。
「――――――――リーディングを開始。」
全てを構成し再構築するわけじゃない、構成するのはほんの一部分だけ、物質化せずにその概念だけをすくいあげる。
求めている規模も小さいゆえにそれぐらいならば、DSECシステムのサポートが無くてもわたしの体だけで構成する事が出来る。
そしてそれを使って一つの因果を創造する。
リベジオンが鋼獣に行使する切り札『因果終焉』のような大規模な力の行使はわたし一人で出来るものではない。
だがたかだか2秒ほどで帰結する小規模な因果ならこの身一つでも作る事が出来る筈なのだ。
因果とは始まりがあれば終わりがある事を示す概念である。
放たれた始点Aが過程を経て終点Bに辿り着く事、これが因果だ。
わかりやすい例えを挙げれば生物は生まれて最後には必ず死ぬというのも一つの因果である。
今、私が作り出す因果は単純なものだ。
始点はわたしがこの右腕を老婆に向けて振り向け、放つ事。
終点はその右の掌が老婆の体触れている事。
たった、それだけ…。
この中からわたしは望める最大の形で因果を創造し、完成させる。
そしてそれをこの右腕に装填する。
「ぐっ、あ、あぁ、あぁ、ああ。」
強烈な痛みが右腕に走る。
それは本来あり得ない事をありえるように改変しているのだから、当然の話だ。
言いかえれば、この程度で済んでいる分マシなのである。
最悪、わたしの精神が壊れる可能性も孕んでいるのだから。
「―――――――神に反逆するモノに幸福無し」
唱える。
それが起動のキーワード。
ブリューナクに刻まれた誓句。
そしてその因果はわたしの右腕に宿った。
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
右腕が焼けるような痛みを受ける。
神経が暴れて、焼き切れそうになるような痛みだ。
今すぐにでもこの右腕を斬り落としてしまいたい、そんな衝動に狩られるのをわたしは奥歯をかみしめ左手で右腕を握りしめ抑える事で堪えた。
本来出来る筈も無い事を出来ると強引にしようとする際に支払う代償。
その求める結果が大きければ大きいほど求められる代償は無限に肥大していく。
それは元々怨念機と呼ばれる鋼機を媒介として行使するものであって人の身で行使するような代物では無いのだ。
だからわたしは今、その行使を行う代償としてこの激痛を受けている。
それが起動のキーワード。
ブリューナクに刻まれた誓句。
そしてその因果はわたしの右腕に宿った。
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!」
右腕が焼けるような痛みを受ける。
神経が暴れて、焼き切れそうになるような痛みだ。
今すぐにでもこの右腕を斬り落としてしまいたい、そんな衝動に狩られるのをわたしは奥歯をかみしめ左手で右腕を握りしめ抑える事で堪えた。
本来出来る筈も無い事を出来ると強引にしようとする際に支払う代償。
その求める結果が大きければ大きいほど求められる代償は無限に肥大していく。
それは元々怨念機と呼ばれる鋼機を媒介として行使するものであって人の身で行使するような代物では無いのだ。
だからわたしは今、その行使を行う代償としてこの激痛を受けている。
―――こんなもの!!
わたしはそう思う。
この痛みは初めての痛みでは無い。
きっと初めてだったら耐えられなかっただろうが、わたしはあの大きな試験管の中で何度もそれに類似したものを体験している。
だから激痛ではあるが耐えらない痛みでは無い。この程度の痛みで根を上げるような人間が潤也の元にいれるものか!
わたしは老婆を視界に収めて告げる。それは宣告だ。それと同時になんとしても成し遂げるという決意の表明だ。
だからわたしは相手にそして自分に刻み込むようにして告げた。
この痛みは初めての痛みでは無い。
きっと初めてだったら耐えられなかっただろうが、わたしはあの大きな試験管の中で何度もそれに類似したものを体験している。
だから激痛ではあるが耐えらない痛みでは無い。この程度の痛みで根を上げるような人間が潤也の元にいれるものか!
わたしは老婆を視界に収めて告げる。それは宣告だ。それと同時になんとしても成し遂げるという決意の表明だ。
だからわたしは相手にそして自分に刻み込むようにして告げた。
「九条だったよね、あなたの名前、いくよ九条、今からわたしがあなたの経験に無いモノを見せてあげる。」
老婆、時峰九条はそれを聞いてふっと笑って、
「いいよ、お嬢ちゃん、やってみな。」
そう返事を返し、緩んだ表情を再び真剣なモノに戻す。
それと同時にわたしは駆けた。
歩法も何もない、そんな小細工は弄さない。
ただ全力で駆ける。
早く、速く、疾く!!!
九条の元にコンマ1秒でも早く辿り着き、この激痛に苛まれる右腕を挙げ、射程内であの老体に向けて放つ事だけを考え駆ける。
この腕が届くその間合いまで…。
九条は相も変わらず自分から行動を起こさず、わたしが行動を起こすのを待っている。
受けからの反撃。
それが先に言った、九条の基本的な戦い方だ。老婆から攻めに出る可能性は皆無ではないが、おそらくはそんな事はしないだろうという確信に近い思いがわたしの中にはあった。
九条はさきほどからわたしを倒すという事にそれほど固執してないのでは無いか?そう思わせる節がいくつもある。
だから、自分からは何もせずわたしに攻撃させて、ただ、それを見ているのだ。
何故かはわからない、わかる必要も無い、ただ、なぜかそうしているという確信は持てた。ならばそれにつけ込む。
よって、可能な限り自分に有利な状況を作り上げる。
そうして辿り着いた射程内。
わたしは腕を矢の尾を引くように引いて、その腕に付加された因果ごと放った。
それと同時にわたしは駆けた。
歩法も何もない、そんな小細工は弄さない。
ただ全力で駆ける。
早く、速く、疾く!!!
九条の元にコンマ1秒でも早く辿り着き、この激痛に苛まれる右腕を挙げ、射程内であの老体に向けて放つ事だけを考え駆ける。
この腕が届くその間合いまで…。
九条は相も変わらず自分から行動を起こさず、わたしが行動を起こすのを待っている。
受けからの反撃。
それが先に言った、九条の基本的な戦い方だ。老婆から攻めに出る可能性は皆無ではないが、おそらくはそんな事はしないだろうという確信に近い思いがわたしの中にはあった。
九条はさきほどからわたしを倒すという事にそれほど固執してないのでは無いか?そう思わせる節がいくつもある。
だから、自分からは何もせずわたしに攻撃させて、ただ、それを見ているのだ。
何故かはわからない、わかる必要も無い、ただ、なぜかそうしているという確信は持てた。ならばそれにつけ込む。
よって、可能な限り自分に有利な状況を作り上げる。
そうして辿り着いた射程内。
わたしは腕を矢の尾を引くように引いて、その腕に付加された因果ごと放った。
―――――届け。
放たれた腕を認識した九条は自動的に反応し、その腕を掴む。
――――――――――――届け!
だが、因果を内包した腕はそれぐらいでは止まらない強引にねじ込むようにして掴まれたままその腕は老婆の体へと向かう。
―――――――――――――――――――届け!!!
そして、何かが掌に触れる感触があった。
わたしにはそれだけで十分だった。
わたしにはそれだけで十分だった。
辿り―――ついた!!
グローブに内蔵されたスタンガンを起動。
180万Vにも及ぶ高圧電流を九条の体に流しこむ。
それと同時に九条の体が震えた。
老婆は俯きを膝を床に落とす。
出力の加減はしなかった、常人なら致死に至ってもおかしかないそれ。
だが、この老婆を仕留めるとなるとこれぐらいしなければならないとそう思いわたしはそれを放った。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
しばしの沈黙…もし死んでしまったのならばその時は受け入れようと思う。
けれど、今はここから前に進まなければならない。
目的を忘れるな。
お前が何のためにここに来ているか、お前がそれに対してどう思うかなど二の次で良いのだ。
そう言い聞かせてわたしは、時峰九条の首から右腕を離し――――――
180万Vにも及ぶ高圧電流を九条の体に流しこむ。
それと同時に九条の体が震えた。
老婆は俯きを膝を床に落とす。
出力の加減はしなかった、常人なら致死に至ってもおかしかないそれ。
だが、この老婆を仕留めるとなるとこれぐらいしなければならないとそう思いわたしはそれを放った。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
しばしの沈黙…もし死んでしまったのならばその時は受け入れようと思う。
けれど、今はここから前に進まなければならない。
目的を忘れるな。
お前が何のためにここに来ているか、お前がそれに対してどう思うかなど二の次で良いのだ。
そう言い聞かせてわたしは、時峰九条の首から右腕を離し――――――
―――――――あれ?
右腕が動かなかった。
最初はさっきの因果の行使でついに自分の右腕がいかれてしまったのかと思った。
でもすぐにそれが違う事に気づく、手首を掴んでいる九条の手から強く握力をかけれらているのを感じたからだ。
この腕から込められている力でわたしはこの腕を引く事が出来ない!!!
驚愕は突然やってくる、膝をついた老婆は俯いた顔をあげ優しくわたしに向けて微笑んで
「ほいさっ」
そういって掴んだ腕を九条はかつぐ。
背負い投げが来る、けれど、それに反応するだけの力はもうわたしには残っていない。
わたしの体が宙に浮くのを感じる。
ああ、無理だったか――――――とそう思ってわたしは目を瞑る。
あれだけ、あれだけの事をしたのにこの老婆には届かなかったのだ。
もう、これはズルだ。反則だ。
あそこまでして勝てないのならば仕方ない。そう思うしかなかった。
ごめんね、潤也。
そうせめて心の中で謝ろうと思ったけれど、今回のわたしは潤也から唯一の安息の時間を取り上げようしている。
だから、ごめんねと思う事自体が間違いなのかもしれない。
けれど、もう一度会いたかったなと思う。
もはや叶わぬ願いだけれど、あのあたたかい両腕でもう一度抱きしめて貰えるのならばわたしはどれほど幸福だっただろう。
頑張ったんだけどなー。
やっぱり潤也の言うとおりわたしって詰めが甘いんだろうね。
もっと潤也に褒めてもらえる子であればよかったな。
今度、もし今度があればもっともっと潤也の役に立てるようになりたい。
頬に熱い何かが垂れてるのを感じた。
なんでだろう、なんでこんなものが流れてくるんだろう。
最初はさっきの因果の行使でついに自分の右腕がいかれてしまったのかと思った。
でもすぐにそれが違う事に気づく、手首を掴んでいる九条の手から強く握力をかけれらているのを感じたからだ。
この腕から込められている力でわたしはこの腕を引く事が出来ない!!!
驚愕は突然やってくる、膝をついた老婆は俯いた顔をあげ優しくわたしに向けて微笑んで
「ほいさっ」
そういって掴んだ腕を九条はかつぐ。
背負い投げが来る、けれど、それに反応するだけの力はもうわたしには残っていない。
わたしの体が宙に浮くのを感じる。
ああ、無理だったか――――――とそう思ってわたしは目を瞑る。
あれだけ、あれだけの事をしたのにこの老婆には届かなかったのだ。
もう、これはズルだ。反則だ。
あそこまでして勝てないのならば仕方ない。そう思うしかなかった。
ごめんね、潤也。
そうせめて心の中で謝ろうと思ったけれど、今回のわたしは潤也から唯一の安息の時間を取り上げようしている。
だから、ごめんねと思う事自体が間違いなのかもしれない。
けれど、もう一度会いたかったなと思う。
もはや叶わぬ願いだけれど、あのあたたかい両腕でもう一度抱きしめて貰えるのならばわたしはどれほど幸福だっただろう。
頑張ったんだけどなー。
やっぱり潤也の言うとおりわたしって詰めが甘いんだろうね。
もっと潤也に褒めてもらえる子であればよかったな。
今度、もし今度があればもっともっと潤也の役に立てるようになりたい。
頬に熱い何かが垂れてるのを感じた。
なんでだろう、なんでこんなものが流れてくるんだろう。
―――――ああ、そうかわたしは――――
「―――はぁー、まったく、そんな悔しそうに泣いてないでしゃきっとしな。」
そういう枯れたような声が聞こえた。
あれっ?とわたしは思う。
そういえば、わたしいつになったら地面に付くんだろう?
というか何故か先ほどわたしの腕にあった筈の九条の手の感触が膝下に移っている…。
「あたしの服をそんな涙と鼻水で汚さないでくれよ、お前さんは仮にもこの時峰九条に勝ったんだから…しゃんと胸張っていなさいな。」
目をあける。そこには想定していたものと違う風景が広がっていた。
目の前に広がったのは白髪と白い生地の服。
その時、わたしは両腕は九条に担がれているのだと気づいた。
「勝った…?」
何にだろう?こうまでも完膚なきまでに負けたと言うのに…。
九条はそう思うわたしを見て、呆れたようにため息を吐く、
「あーあー、お嬢ちゃん、あたしの言った事信用してなかったね?あたしゃ、一撃を喰らわせたらお嬢ちゃんの勝ちだって言ってたんだよ?あたしだってあれだけの電撃喰らった経験があったお陰で意識はあるけれど、流石にあれはそれなりにダメージは受けたさ、つまり、お嬢ちゃんはあたしに一撃喰らわせたんだ、だからこのお遊びはお嬢ちゃんの勝ち。おーけー?あたしゃ約束は守るよ、生まれてこの方約束を破った事が無いのがわたしの誇りなんだからね。」
そう言えば、そんな事を言っていた気がする。
けれどあれを本当に守るというのか?この老婆は?
見も知らぬ敵であるわたしに対してそんな自分にまったく利にならぬ事をするというのだろうか…。
「それにあんなものまで使わせるつもりはなかったしね…とはいえ、なんの力なのか見たくて止めなかったのは色々悪い事したし…その詫びみたいなものだ。しかし生身での構築か…研究所の奴らの執念も認めてやらないといけないのかねぇー。」
九条は少し遠いモノを見る目つきでそう呟く。
「ねぇ、さっきからあんたは何を――――」
「ああ、なんでもない、なんでもないんだよ、お嬢ちゃん。今はちょっと休みな、これからまだやらないといけない事があるんだろう?」
わたしをおぶったまま九条はエレベーターを操作する。
「嫌だ!!気持ち悪い、ねぇ、離してよ、何か企んでるんでしょ?」
そうすると九条なんとも悪い笑みを浮かべて、
「企んでるねぇ、凄く企んでるよ、お嬢ちゃんとあとであんな事やこんな事をしようと…。」
その九条の言葉に背筋に寒気が走った。
「――――は、離してよ、ねぇ、離せ!離せってば、この糞ババア!!!」
そうして暴れたが、すでにまともに力が入らない体では九条の背中から抜ける事が出来なかった。
「くす、可愛い事言うじゃないか、あたしが糞ババア呼ばわりされたのなんて貞夫の坊やに訓練してやってた時以来かね。」
そうして、エレベーターの扉は閉まり、そして最下層へと下っていった。
あれっ?とわたしは思う。
そういえば、わたしいつになったら地面に付くんだろう?
というか何故か先ほどわたしの腕にあった筈の九条の手の感触が膝下に移っている…。
「あたしの服をそんな涙と鼻水で汚さないでくれよ、お前さんは仮にもこの時峰九条に勝ったんだから…しゃんと胸張っていなさいな。」
目をあける。そこには想定していたものと違う風景が広がっていた。
目の前に広がったのは白髪と白い生地の服。
その時、わたしは両腕は九条に担がれているのだと気づいた。
「勝った…?」
何にだろう?こうまでも完膚なきまでに負けたと言うのに…。
九条はそう思うわたしを見て、呆れたようにため息を吐く、
「あーあー、お嬢ちゃん、あたしの言った事信用してなかったね?あたしゃ、一撃を喰らわせたらお嬢ちゃんの勝ちだって言ってたんだよ?あたしだってあれだけの電撃喰らった経験があったお陰で意識はあるけれど、流石にあれはそれなりにダメージは受けたさ、つまり、お嬢ちゃんはあたしに一撃喰らわせたんだ、だからこのお遊びはお嬢ちゃんの勝ち。おーけー?あたしゃ約束は守るよ、生まれてこの方約束を破った事が無いのがわたしの誇りなんだからね。」
そう言えば、そんな事を言っていた気がする。
けれどあれを本当に守るというのか?この老婆は?
見も知らぬ敵であるわたしに対してそんな自分にまったく利にならぬ事をするというのだろうか…。
「それにあんなものまで使わせるつもりはなかったしね…とはいえ、なんの力なのか見たくて止めなかったのは色々悪い事したし…その詫びみたいなものだ。しかし生身での構築か…研究所の奴らの執念も認めてやらないといけないのかねぇー。」
九条は少し遠いモノを見る目つきでそう呟く。
「ねぇ、さっきからあんたは何を――――」
「ああ、なんでもない、なんでもないんだよ、お嬢ちゃん。今はちょっと休みな、これからまだやらないといけない事があるんだろう?」
わたしをおぶったまま九条はエレベーターを操作する。
「嫌だ!!気持ち悪い、ねぇ、離してよ、何か企んでるんでしょ?」
そうすると九条なんとも悪い笑みを浮かべて、
「企んでるねぇ、凄く企んでるよ、お嬢ちゃんとあとであんな事やこんな事をしようと…。」
その九条の言葉に背筋に寒気が走った。
「――――は、離してよ、ねぇ、離せ!離せってば、この糞ババア!!!」
そうして暴れたが、すでにまともに力が入らない体では九条の背中から抜ける事が出来なかった。
「くす、可愛い事言うじゃないか、あたしが糞ババア呼ばわりされたのなんて貞夫の坊やに訓練してやってた時以来かね。」
そうして、エレベーターの扉は閉まり、そして最下層へと下っていった。
―イーグル本部地下五階―
時峰九条は琴峰藍をおぶったまま、地下五階の監獄への入り口のセキュリティロックを解除した。
扉が開く、そうして九条の前に二人の男がいた。
一人は白衣を着た童顔のやせ男ともう一人は髭の生えた中年の男。
中年の男は九条に向けて銃を向けている。
「おや、なんだい貞夫、そんなぶっそうなもんあたしに向けちゃってさ。」
「―――のつもりだ?」
そう言って殺気だった目で、銃口を向けた中年の男を九条は笑った。
「悪いね、歳を取ると耳が悪くなってねぇ、もう一度言ってくれないかい?」
そう言って、中年の男、第七機関直属組織イーグル総司令秋常貞夫は殺気だった目で、九条を睨んでいる。
「なんのつもりだと聞いているんだ、九条、お前はその背にいる人間がなんだかわかってここに連れてきたのか?」
「なんのつもりだねぇー、難しい事を聞くもんだ、ほら、ここを襲ってた侵入者を捕まえたんで、ここに収監する為に連れてきた、ってのは駄目かい?筋は通っていると思うけれど…。」
そういう九条を貞夫をふんと鼻で笑った。
「馬鹿な事を言うなよ、九条、お前がその背にいるガキと話していた会話は監視カメラとマイクで全部こっちに筒抜けだ。会わせてやる、それどころか、逃げるのまで手伝ってやるだと?ふざけるのが好きなお前の性格は重々承知しているが、これは冗談では済まんぞ。」
「それは、この子を口説き騙し説得する為に、口から言った出まかせかもしれないよ?」
「お前以外ならその言葉を信じるがな、お前は例えどんな事があっても口から言った約束を破らない女だとこの30年付き合ってきて熟知している。」
「あらら、流石に坊やも学んだのかい。ヒマラヤに全裸にして放りだしたら凍った鼻水たらして教官、無理ですって泣きわめいてたあんたが学んでくれてお婆ちゃん嬉しいよ。」
「ふざけるな!九条!!!俺はお前の性格は重々に承知しているつもりだ、ああ、そうさお前は冗談抜かして人をおちょくるのが好きな奴だったよな、だが、真剣に進めなければならない物事とふざけて良い物事の分別は付いている人間の筈だ、物事の見方を俺に教えたのはお前だったろう?だから聞いているんだ、九条、何をどういうつもりでお前はそいつをここに連れてきた?」
「はぁー、わかった、わかった。答えるよ。ただ、その前に―――」
九条は足を挙げ、それを白衣のやせ男に向けて放った。
蹴りは白衣の男の後頭部に直撃し、その一撃で意識を奪われそこに突っ伏す。
「自分から手を出さないのがお前のポリシーじゃなかったのか?」
「あたしゃ何もしてないよ、何か見間違えたりしたんじゃないのかい?」
無茶苦茶な理屈を振り回しふてぶてしく笑う老婆。
おそらくはこれからずっとこの主張を彼女は貫くのだろう、ならば問い詰めるだけ時間の無駄だ。そう貞夫は長い付き合いから結論する。
それに九条からしてみれば外部の人間に聞かれたくは無い話なのだろうと貞夫は思い至る。
「まあ、これでお前を撃つ理由がもう一つ増えたんだが、さて、どんな理由を聞かせてもらえるんだ?九条。」
そう問う貞夫に少し勿体ぶったような間を取ったあと九条はそれを告げた。
「実はね、クリフ・ブラウンに会った。」
その瞬間、貞夫の表情がきつねにつままれたように変わる。
「さっき、ああ、散歩に行ってた時、あれね、実はあの子に呼び出されてたんだよ、それで会ってきた。あいつがあたしに今ここで起こっているを教えて、出来れば助けてやって欲しいと…そう、あたしに頼んできたんだ。」
「馬鹿な、あいつは今どこにいるんだ、四年前のあの日以来ずっと音沙汰無しで探しても、探しても見つからなかった男だぞ!」
驚きと焦燥の感情が貞夫の表情に浮かんでいた。
「貞夫、落ち着きなって、素のあんたはちょっとばかし危っかしいんだから、ペルソナ付けて生きる方法をあんたに教えただろう?あいつは今、『裏』に所属しているらしいよ、ほらあたしらが掴んでいる2人のコード名の内、『皮肉屋』ってのがいただろう?一番新しいメンバーって奴だ。それがあいつなんだそうな。」
「あいつが『裏』の一員になったとでもいうのか?あれほど奴らを恨んでいたあいつが!?」
そう大声で叫ぶ、貞夫に対して九条は少し哀しそうな顔をして、
「だから―――――だろうさ。まあ、あいつらもそれを重々承知で入れたんだろうけれどね。」
と呟いた。
貞夫は黙り込み、九条の言葉を噛みしめるようにした後、ため息を吐いて、
「なるほど、それで第七機関の『鬼婆』殿は『皮肉屋』の頼みをそのまま聞いて実行してさしあげているわけか?その助けろという対象がどんな奴かも知らずに?」
そう呆れたといわんばかりの含みを含めて、貞夫は言った。
それに九条は少し笑って、
「そういう風な言い回しをしている方があんたには似合ってるよ。質問に答えると、一応、あたしの模倣やってた奴らの完成品だって説明は聞いたね。まあ、あたしとしてもあいつの言う事は半信半疑でもあったから、当人がどういう人となりをしているのかわからなくて、まずは試してみた、実際に会って目を見てちょっと手合わせすれば人となりは大体掴めるからね。」
「それでお眼鏡には適ったと?」
「ま、そういう事だね。」
そう言って笑う九条を見て、はぁーと貞夫はため息を吐いた後、また先ほどのような強い目つきで九条を睨んで言う。
「もう一度言おうか、ふざけるなよ九条。お前が今やろうとしているのは機関への反逆行為だぞ!!」
「そうでもないさ、あたしの監視のもとで彼らを自由にして、彼らの動向を探り報告する役割をあたしが担うといえば、上の連中は納得はするだろう。こんな狭い所で、雀の涙ぐらいの情報を得るのに四苦八苦するよりずっと生産的だ。背に腹は代えられない現状なんだろう?」
「ふん、お節介好きなお前らしい案だな、例え、それが認められたとして、肝心の黒峰潤也は今や植物状態となんら変わらん状況にある、それをどう自由にすると言うんだ?」
「それをこの子がするんだそうだ、とりあえずどうするにしろ、この子がその植物状態の坊やをなんとかしてくれると言っているよ。」
そういって九条は背に背負った少女を見る。
「はっ、いきなり襲撃仕掛けてきて、内の人間を散々にしてこれだけの騒動を起こした人間を信用しろというのか?」
「なら、あたしを信用しな、少なくともあたしゃ、あんたにあたしを信じさせて後悔させた覚えなんぞ無かったと思ってるがね。」
「それはお前が勝手にそう思ってるだけだろ…。」
「あら、そうなのかい?まあ、あともう一つ理由をあるよ。」
「なんだ?」
「――――まあ、あんたも違和感感じてるだろうと思うけどさ、さっきあれだけ暴れているこの子がさっきからやたら大人しいと思わないかい?」
「そうだな、何を吹き込んだらあれだけ暴れた人間がこう大人しくなるのかは知りたい所だ。」
そう不快感を露わにして言う貞夫を九条はくすりと笑う。
「実はね、あたしゃ今、このお嬢ちゃんに命を狙われてる。このお嬢ちゃん抱きつくようにして、今、あたしの首に腕をかけてるだろう?実はね、この子があたしの言う事が信用できないというから、あたしゃこの子をそこの扉の奥にいる坊やがいる所まで連れて行かなかったら、そのまま首折ちゃっても良いよと言ってある。流石にこれだけ完璧に技が決まる状況だと返し技なんてものは無いしねぇ、このヨボヨボの首の骨じゃポッキリ折れちまうだろうさ、つまり言ってしまえば、あたしゃ、今このお嬢ちゃんの人質なのさ。」
きょとんとした顔つきで貞夫は九条を見つめた。その後、それが真実かどうか確かめるように九条の背にいる少女を見つめた。
「だからあたしを助ける思いで判断してくれよ、貞夫。ほら、こんな、ヨボヨボで弱そうなおばあちゃんを見捨てるなんて人道的にはいけない事だよ?それに、一応程度には面子を保つ理由も持ってきてやったんだから、ここは折れても良いと思うけれどなぁ。」
そう言う九条に対し、
「まったく、お前のような糞ったれな、騒動しか起こさない老害など過去の怨みも含めて見捨ててしまいたい所だ――――」
貞夫は銃を下し、スーツの中にしまった後、しばし天井を見つめる。
そしてため息を吐いて、
「―――が、まったく……仕方ない、本当の所、そんなに弱っている相手に首根っこ掴まれたからってお前が死ぬとは思えんのだが…まあ、いい、お前の算段に乗ってやるよ、九条。だが、立ち会わせては貰うぞ、司令としてな。それに、そこのガキがどうやってあの青年をこっちの世界に呼び戻すのかというのには興味もあるからな。」
「というわけだ、いいかいお嬢ちゃん?」
そう問う九条に対し、藍とこくりと頷く。
「ありがとうよ、お嬢ちゃん。」
そうして九条は黒峰潤也がいる一室の部屋のロックを解除した。
扉が開く、そうして九条の前に二人の男がいた。
一人は白衣を着た童顔のやせ男ともう一人は髭の生えた中年の男。
中年の男は九条に向けて銃を向けている。
「おや、なんだい貞夫、そんなぶっそうなもんあたしに向けちゃってさ。」
「―――のつもりだ?」
そう言って殺気だった目で、銃口を向けた中年の男を九条は笑った。
「悪いね、歳を取ると耳が悪くなってねぇ、もう一度言ってくれないかい?」
そう言って、中年の男、第七機関直属組織イーグル総司令秋常貞夫は殺気だった目で、九条を睨んでいる。
「なんのつもりだと聞いているんだ、九条、お前はその背にいる人間がなんだかわかってここに連れてきたのか?」
「なんのつもりだねぇー、難しい事を聞くもんだ、ほら、ここを襲ってた侵入者を捕まえたんで、ここに収監する為に連れてきた、ってのは駄目かい?筋は通っていると思うけれど…。」
そういう九条を貞夫をふんと鼻で笑った。
「馬鹿な事を言うなよ、九条、お前がその背にいるガキと話していた会話は監視カメラとマイクで全部こっちに筒抜けだ。会わせてやる、それどころか、逃げるのまで手伝ってやるだと?ふざけるのが好きなお前の性格は重々承知しているが、これは冗談では済まんぞ。」
「それは、この子を口説き騙し説得する為に、口から言った出まかせかもしれないよ?」
「お前以外ならその言葉を信じるがな、お前は例えどんな事があっても口から言った約束を破らない女だとこの30年付き合ってきて熟知している。」
「あらら、流石に坊やも学んだのかい。ヒマラヤに全裸にして放りだしたら凍った鼻水たらして教官、無理ですって泣きわめいてたあんたが学んでくれてお婆ちゃん嬉しいよ。」
「ふざけるな!九条!!!俺はお前の性格は重々に承知しているつもりだ、ああ、そうさお前は冗談抜かして人をおちょくるのが好きな奴だったよな、だが、真剣に進めなければならない物事とふざけて良い物事の分別は付いている人間の筈だ、物事の見方を俺に教えたのはお前だったろう?だから聞いているんだ、九条、何をどういうつもりでお前はそいつをここに連れてきた?」
「はぁー、わかった、わかった。答えるよ。ただ、その前に―――」
九条は足を挙げ、それを白衣のやせ男に向けて放った。
蹴りは白衣の男の後頭部に直撃し、その一撃で意識を奪われそこに突っ伏す。
「自分から手を出さないのがお前のポリシーじゃなかったのか?」
「あたしゃ何もしてないよ、何か見間違えたりしたんじゃないのかい?」
無茶苦茶な理屈を振り回しふてぶてしく笑う老婆。
おそらくはこれからずっとこの主張を彼女は貫くのだろう、ならば問い詰めるだけ時間の無駄だ。そう貞夫は長い付き合いから結論する。
それに九条からしてみれば外部の人間に聞かれたくは無い話なのだろうと貞夫は思い至る。
「まあ、これでお前を撃つ理由がもう一つ増えたんだが、さて、どんな理由を聞かせてもらえるんだ?九条。」
そう問う貞夫に少し勿体ぶったような間を取ったあと九条はそれを告げた。
「実はね、クリフ・ブラウンに会った。」
その瞬間、貞夫の表情がきつねにつままれたように変わる。
「さっき、ああ、散歩に行ってた時、あれね、実はあの子に呼び出されてたんだよ、それで会ってきた。あいつがあたしに今ここで起こっているを教えて、出来れば助けてやって欲しいと…そう、あたしに頼んできたんだ。」
「馬鹿な、あいつは今どこにいるんだ、四年前のあの日以来ずっと音沙汰無しで探しても、探しても見つからなかった男だぞ!」
驚きと焦燥の感情が貞夫の表情に浮かんでいた。
「貞夫、落ち着きなって、素のあんたはちょっとばかし危っかしいんだから、ペルソナ付けて生きる方法をあんたに教えただろう?あいつは今、『裏』に所属しているらしいよ、ほらあたしらが掴んでいる2人のコード名の内、『皮肉屋』ってのがいただろう?一番新しいメンバーって奴だ。それがあいつなんだそうな。」
「あいつが『裏』の一員になったとでもいうのか?あれほど奴らを恨んでいたあいつが!?」
そう大声で叫ぶ、貞夫に対して九条は少し哀しそうな顔をして、
「だから―――――だろうさ。まあ、あいつらもそれを重々承知で入れたんだろうけれどね。」
と呟いた。
貞夫は黙り込み、九条の言葉を噛みしめるようにした後、ため息を吐いて、
「なるほど、それで第七機関の『鬼婆』殿は『皮肉屋』の頼みをそのまま聞いて実行してさしあげているわけか?その助けろという対象がどんな奴かも知らずに?」
そう呆れたといわんばかりの含みを含めて、貞夫は言った。
それに九条は少し笑って、
「そういう風な言い回しをしている方があんたには似合ってるよ。質問に答えると、一応、あたしの模倣やってた奴らの完成品だって説明は聞いたね。まあ、あたしとしてもあいつの言う事は半信半疑でもあったから、当人がどういう人となりをしているのかわからなくて、まずは試してみた、実際に会って目を見てちょっと手合わせすれば人となりは大体掴めるからね。」
「それでお眼鏡には適ったと?」
「ま、そういう事だね。」
そう言って笑う九条を見て、はぁーと貞夫はため息を吐いた後、また先ほどのような強い目つきで九条を睨んで言う。
「もう一度言おうか、ふざけるなよ九条。お前が今やろうとしているのは機関への反逆行為だぞ!!」
「そうでもないさ、あたしの監視のもとで彼らを自由にして、彼らの動向を探り報告する役割をあたしが担うといえば、上の連中は納得はするだろう。こんな狭い所で、雀の涙ぐらいの情報を得るのに四苦八苦するよりずっと生産的だ。背に腹は代えられない現状なんだろう?」
「ふん、お節介好きなお前らしい案だな、例え、それが認められたとして、肝心の黒峰潤也は今や植物状態となんら変わらん状況にある、それをどう自由にすると言うんだ?」
「それをこの子がするんだそうだ、とりあえずどうするにしろ、この子がその植物状態の坊やをなんとかしてくれると言っているよ。」
そういって九条は背に背負った少女を見る。
「はっ、いきなり襲撃仕掛けてきて、内の人間を散々にしてこれだけの騒動を起こした人間を信用しろというのか?」
「なら、あたしを信用しな、少なくともあたしゃ、あんたにあたしを信じさせて後悔させた覚えなんぞ無かったと思ってるがね。」
「それはお前が勝手にそう思ってるだけだろ…。」
「あら、そうなのかい?まあ、あともう一つ理由をあるよ。」
「なんだ?」
「――――まあ、あんたも違和感感じてるだろうと思うけどさ、さっきあれだけ暴れているこの子がさっきからやたら大人しいと思わないかい?」
「そうだな、何を吹き込んだらあれだけ暴れた人間がこう大人しくなるのかは知りたい所だ。」
そう不快感を露わにして言う貞夫を九条はくすりと笑う。
「実はね、あたしゃ今、このお嬢ちゃんに命を狙われてる。このお嬢ちゃん抱きつくようにして、今、あたしの首に腕をかけてるだろう?実はね、この子があたしの言う事が信用できないというから、あたしゃこの子をそこの扉の奥にいる坊やがいる所まで連れて行かなかったら、そのまま首折ちゃっても良いよと言ってある。流石にこれだけ完璧に技が決まる状況だと返し技なんてものは無いしねぇ、このヨボヨボの首の骨じゃポッキリ折れちまうだろうさ、つまり言ってしまえば、あたしゃ、今このお嬢ちゃんの人質なのさ。」
きょとんとした顔つきで貞夫は九条を見つめた。その後、それが真実かどうか確かめるように九条の背にいる少女を見つめた。
「だからあたしを助ける思いで判断してくれよ、貞夫。ほら、こんな、ヨボヨボで弱そうなおばあちゃんを見捨てるなんて人道的にはいけない事だよ?それに、一応程度には面子を保つ理由も持ってきてやったんだから、ここは折れても良いと思うけれどなぁ。」
そう言う九条に対し、
「まったく、お前のような糞ったれな、騒動しか起こさない老害など過去の怨みも含めて見捨ててしまいたい所だ――――」
貞夫は銃を下し、スーツの中にしまった後、しばし天井を見つめる。
そしてため息を吐いて、
「―――が、まったく……仕方ない、本当の所、そんなに弱っている相手に首根っこ掴まれたからってお前が死ぬとは思えんのだが…まあ、いい、お前の算段に乗ってやるよ、九条。だが、立ち会わせては貰うぞ、司令としてな。それに、そこのガキがどうやってあの青年をこっちの世界に呼び戻すのかというのには興味もあるからな。」
「というわけだ、いいかいお嬢ちゃん?」
そう問う九条に対し、藍とこくりと頷く。
「ありがとうよ、お嬢ちゃん。」
そうして九条は黒峰潤也がいる一室の部屋のロックを解除した。
To be continued
↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
| + | ... |