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少女機甲録(仮) 第5話

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「訓練に明け暮れる第28連隊第4中隊の少女達。
拙くチグハグながらも少しずつ、ゆっくりと成長を続けてゆく。
しかし、対ワーム戦争の刻一刻と変化する情勢は、
彼女達にこれまで通りの訓練と青春に明け暮れる日々を
与えてはくれないのだった……」

(ナレーションCV:若本・ぶるぁぁぁぁ!!・規夫)

二日後

第4中隊が駐屯している高校のグラウンドに、自衛軍の車両が数台駐車していた。
2台は自衛軍制式の4輪の軽装甲車両(LAV)、1台は輸送トラックなのだが、珍しいものがそれらと共に並んでいた。
6輪の装甲車に砲塔が付いた、機動戦闘車両(WBV)、指揮通信車両(CCV)、そして小型無人偵察機(UAV)と
その発射ランチャーを荷台に積んだトラックである。

「あの機動戦闘車両、無人型だ…遠隔操作する”マリオネット”ってやつだよ、多分。
 UAVは砲兵の前進観測用機材…FFOSだね」

玲と二人で廊下を歩きながら、横目で並ぶ車両を見る麗美が呟く。
二人とも、陸上自衛軍のWAC用制服に制帽で整った姿で、襟には訓練生の階級章が縫い付けられていた。
麗美がそうだが、家族が自衛軍関係者なのが2名、軍事オタクが3名、第4中隊は兵器の名称をソラで言えるのが結構居る。
玲や由香里も、そんなに詳しいというほどでは無いが訓練で目にしたものや教本の写真に載っているものぐらいは知っている。
だから、さほど珍しそうな顔もしなかった。

「会議室」と書かれた空き教室の扉を開き、玲と麗美は中に入った。
既に室内には由香里と、自衛軍の幹部の制服と階級章をつけた数名、そして迷彩作業服で統制された第4中隊の女子全員が
整列して立っており、二人は由香里の隣まで歩いて止まると、幹部たちに向き直って直立不動の姿勢で敬礼をした。
それが終わると、由香里同様に不動の姿勢で「気をつけ」をする。

しばらく待つ。
基本的に、玲と麗美がやる事はあまり無い。
あくびをしない、身動ぎをしないでキリッと立っているだけだが、それを維持するのは退屈とはいえない労働だ。
やがて、事前の打ち合わせで決められた時間どおりに由香里が式進行を始める。

「連隊長挨拶、連隊長野礼寺1佐登壇」

新たに会議室には言った着たのは自衛軍1佐の階級章を制服につけた、壮年の男性だった。
男性が敬礼をし、玲・麗美・由香里、そして幹部たちも敬礼を返す。
そして整列している第4中隊の正面ほぼ中央列に相対する位置まで歩いて、向き直った。

数秒、間が空く。
気付いた玲が隣の麗美を肘で小突くと、思い出した麗美は慌てて中隊員の前まで進み、回れ右をして連隊長に向き直った。

「れ、連隊長にたーいし、敬礼!」


掛け声と共に、麗美と中隊員全員が連隊長に敬礼を行う。
事前に何度も練習したにも拘らず、敬礼の動作は揃っておらず割とバラバラでタイミングがずれていた。
幹部たちは苦笑し、玲と由香里は「ダメだこりゃ…」「こいつらは…」と恥ずかしくなり、
麗美は中隊長らしく振舞おうと顔を紅潮させていて、連隊長は笑いもせず静かに敬礼を返し、敬礼の姿勢のまま左右に顔を向ける。
「直れ!」の掛け声で元の姿勢に戻る時も、やはりバラバラだった。
唯一、麗美の敬礼動作だけが綺麗な形でビシっと決まっていたのが、中隊長の面目をどうにか保っていた。

「連隊長訓示。 指揮者のみの敬礼」

とくにやり直しなどされる事はなく、由香里の式進行は続く。
麗美と連隊長が敬礼を交わし、終わると麗美と連隊長の目が合った。

(初李のお父さんだ…)

玲たちは口には出さなかったが、ほぼ同じ事を思った。 初李は特に感慨も無さそうな表情をしている。
初李の父親が自衛軍の幹部であり、玲たちが所属する第4中隊の上部部隊の第28連隊の連隊長であることは前もって知っていた。
自衛軍の連隊の編成は、「大隊」を抜かして中隊の上がすぐ連隊になっているため、中隊長の麗美にはこの連隊長が直接の上官となる。
だが、麗美も玲も連隊長にこうして会うのは初めてだった。
これまでは、部隊の完結式にもなにかの命令が下されるときも、連隊長は多忙で不在という理由で代理が遣わされてきたのだ。
今回、連隊長がこうして出向くのは何かの命令…おそらくは本格的な、第4中隊の実戦参加が伝達されるものだというのは想像できる。
それゆえに、玲や由香里にも緊張が走った。 麗美に至っては既に汗をかき始めている。
野礼寺連隊長はそんな彼女らの様子に、口元にほんの少しだけ微笑を浮かべた。


「第28連隊隷下、第4中隊は本日付で、北斗市防衛線久根別区における敵浸透部隊の進攻阻止、遊撃任務を正式に任ずる事となった。
第4中隊は人員、装備共に戦闘行為を持続するに足る状態に無いが、まことに遺憾ながら自衛軍はこの任を君達に要求せざるを得ない。
第4中隊には粉骨砕身、必勝の信念でもってこれに当たってもらいたい…」

そこまで言って、野礼寺連隊長は厳しい面持ちの玲たちの顔を見回し、フッと笑う。

「怖いか? 戦いたくないなら、拒否しても構わないよ。 どうせ、この命令も形式的なものだ。
定数に満たない中隊を投入しても、何の役にも立たないし、そもそもまともな命令ではない。
君たちの様な女子を、戦線に投入しようなどというのはな」

一瞬、虚を突かれた様な表情になる麗美、玲。 眉根をひそめる由香里。
中隊員は戸惑いの声を出してざわめき、自衛軍幹部たちはどこか諦めの付いたような微妙な表情を浮かべる。
思わず、玲は口に出していた。

「…それはどういう事ですか?」


「言ったとおりの意味だ。 誰も、君達に戦争をすることを、まして死ぬ事を要求していないし望みもしない。
女子供が参加する戦争など、あってはならない。
君たち第4中隊は、今までどおり訓練と待機をしていて貰っても全く構わない。
どのみち、二個分隊程度の人員では戦力として期待しては居ないのだからね。
書類上は中隊になっており、自衛軍の方面隊総監に提出している書類も、人員を他の中隊に引き抜いた事は記載していない。
実は『4個中隊が存在している』という事にしないと、今度は方面隊が中央に報告する時に困るんだ。
「函館戦線は崩壊寸前です」、などという事をまだ発表するわけにはいかなくてね…おかげで苦しい戦いを強いられている。
その分の物資補充は書類記載どおりに廻して貰っているがね。

だから、君たちがたった14名の中隊である事も、戦闘に参加していない事も、誰も知らない。
いや、君たちだけではない。 志願学生兵士のうち、女子と1・2年生の男子は非戦闘職種か後方任務にしか従事させていない。
訓練未了の学生を、無駄死にさせるわけにはいかないし、正規の兵士に学生兵士のカバーをさせるわけにもいかない。
それは君たちも同じだ。 君たちが死ぬ必要は無い」

玲は少なからず動揺した。 それは思いもかけない言葉だったからだ。
これまで、いつかは出撃命令が下され、自分たちも戦闘に借り出されるときが来るだろうと思って訓練に明け暮れていたのが、
逆に、戦わなくてもいいと言われるなど、思っても見ないことだったからだ。

「それは…!」

玲が思わず大きな声で連隊長に何か言おうと声を出しかけた時、別の声がそれを遮った。

「ふざけないで!!」

玲、由香里、自衛軍幹部たち、そして中隊全員がその声の主、麗美に一斉に顔を向け、注目した。
普段の麗美を知る中隊の少女たちには、少なからず驚愕していた。
麗美はあろうことか、野礼寺中隊長、一佐という遥か上の階級の、目上の人に対して怒鳴りつけたのだ。
それも、怒りを含んだ強い調子で。

「私たちは、遊びでこんな所に来たんじゃない! 自分から戦うために来た子だっているし、周りに言われて無理やり来させられた子だっている!
でも、軍隊なんて入りたくて入ったわけじゃない! 戦いたくて戦うんじゃない!
戦わなきゃいけないから、他にどうしようもないから、戦うって覚悟を決めて、今まで訓練してきたんだ!
それを、今更戦わなくていい何て言うなら、戦うのは大人の仕事だとか言うなら、最初から私たちみたいな子供なんかを戦争させるために集めるな!!」


野礼寺連隊長は、無言で麗美に正対したままその言葉を受け止めていた。
玲たちは、唖然として、目じりに涙をうっすらと浮かべながら叫ぶ麗美の姿を見つめていた。
中隊長の仕事なんかできない、とめそめそ泣いていた麗美が、こんな事を、よりによって連隊長なんて「偉い人」に
こんな風に声を荒げるとは信じられなかった。

そして、麗美は振り返って中隊全員の方を見回すと、言った。

「私が決めちゃうけど、いいよね?」

玲と由香里の方にも視線を向けて、確認するようにした後、返事が帰ってくる前に麗美はまた野礼寺連隊長に向き直り、
直立不動の姿勢からピシっとした敬礼動作をすると、大きな声で宣言した。

「第4中隊は命令を受領しました! 本日をもって、敵部隊の侵攻阻止の任務に付きます!!」

それを聞いて、野礼寺連隊長は口の端をやや笑うような形に曲げた。





「……一時はどうなる事かと思ったけれど」

30分後、一同は解散し普段の教室に一度戻ってきていた。
玲と由香里は幹部たちから引き続き、新しい装備の引渡しと説明があると言うので会議室に残っている。
面倒くさいお偉いさんとのご対面が終わったので、前述二名を抜かした中隊全員が緊張の糸がほぐれて教室内でそれぞれリラックスしていた。

「でもさあ……まさか麗美がああいう事を言うなんて思っても見なかったよねえ?」

最初に口に出したのは理玖瑠だ。
席に座って少々だらしなく頬杖を付いた姿勢で、前の席の美鈴や隣の席に腰掛ける真璃に話しかける。
しゃがんで真璃の机にあごを乗せていた翠がそれに同意する。

「まあねえ、言ったら悪いけど、普段のアレ見てると、いざ出撃、本番ってなってもオロオロしてるようなのしか想像できなかったね。
ある意味、物凄い意外だったよ」

笑ってそう言う翠に目を向けながら、真璃は背もたれに体重を預けて頭の後ろで指を組んで言う。

「……意外といえば、自衛軍の偉い連隊長さまがあんな事言い出すなんてのも凄い意外だったな。
戦わなくていい、なんてさあ……? まあ言ってる事は正論だけどさ。
私たちみたいなじょしこーせーが戦争するなんて事そのものが、元からおかしいんだし。
でも、ちょっと惜しかったかな。 お言葉どおりに拒否してれば、このまま『軍隊ごっこ』続けていられたかもしれないってのは」

「うう……みんなごめん……私が勝手にあんな事言っちゃって……」

それを聞いてWAC制服(普段の女子学生服に着替えていない)の裾を両手でぎゅっと握り締めながら麗美が
泣きそうな顔になって、申し訳無さそうな声で呟いた。
麗美自身は、さっきはつい、野礼寺連隊長の、少女たちを志願させておいた自衛軍としてはあまりに無責任といえば無責任な
『今更』な発言に対しての憤りと勢いであんな事を言ってしまったのだが、冷静になってから考えると
命令を拒否して待機状態を続けていた方が良かった者も、中隊の中には少なく無いだろうと気が付いたのだ。
いや、少なく無いというより、むしろ過半数が「戦いたくない」派であろう。
積極的に軍隊の一員になってワームと戦いたいと望んでいるのは、この教室内では散乃と麗美自身、あとはこの場に居ない玲ぐらい。
戦争する事になってもさほど拒否感が無いのは元々軍事や国防に関心が高かったり、そういう家庭環境で影響を受けた真璃や有理、翠、初李ぐらいである。

「確かに、さっきの麗美の発言はあまりいいものではなかった。 むしろ、あの人に乗せられた感じがあるわね」

穏やかな、しかし少し冷淡な口調でそう呟くのは窓際の席に腰掛けて『軍事研究』を読んでいた初李だ。
彼女は視線は手に持って開いた本に向けながら、自分の父親でもある野礼寺連隊長を「あの人」と呼んだ。

「あれは、私たちを自分から戦争に参加させるために、わざとあんな事を言ったのよ。
私たちは今まで、ろくな教官も機材もないにせよ、曲がりなりにも軍隊としての訓練を受けさせられてきた。
なのにいざ、という時になって「本当は戦わなくてもいい」なんて言われたら、望んで軍隊に志願した子もそうでない子も、
自分が今までやってきたことはなんだったのか?、なんて思うのが心理という物でしょ?
今までやってきたことを無駄にしたくない、無駄だった事にされたくないという思いと、
麗美が言った様に、『今更なにを言うんだ』って思いが生じるから、そこは意地でも戦ってやるって言う風に考えちゃう。
あの人はそういう所をついて、私たちの誰かがそんな風に言い出してくれる事を狙って、あんな事を言ったのよ、おそらくね」

それを聞いて、「乗せられた」当人である麗美がますます泣き出しそうな顔になって小さくなる。
要するに、全部野礼寺連隊長の掌の上だったというわけだ。
望んで戦う者でも、いざ実戦、となると怖気づく事は少なくない。
そういう時に、命令されて強制されることではなく、自分から望んで挑んだ事だ、という風に誘導してやれば後から文句は出にくい。
初李が「あの人」と呼ぶ彼女の父親の目論みは、つまりは麗美みたいな、乗せられる生徒を出す事で
戦う事を学生兵士自身の意思で決めさせる方向に上手く持って行かせることなのだ。

「……でも、まあ、そうね。 麗美が言わなきゃ玲か由香里辺りが言ってた事かも知れないし。
あの二人が言うよりは、麗美が言ってくれてた事で結果的には良かったのかもしれないわね。
この中で一番の泣き虫で皆からからかわれてた麗美でさえ、ワームと本当に『戦争』することに覚悟を決めてるっていうんなら
自分だけ戦いたくないとか逃げたいとか思うなんて、恥ずかしくて出来ないもの」


初李は本に向けていた視線をちょっとだけ上に向けて、少し考えるようにしながらもそんな事を言った。
そして、勝手に突っ走って独断でワームと戦う命令を受諾してしまった責任を感じて俯き加減だった麗美も顔を上げ、初李を見る。
初李は麗美と視線を合わせると、優しく笑った。
咲也も麗美の側によって、その肩にそっと優しく手を置く。

「大丈夫ですよ。 麗美が、私たちの中隊長がそう決めた事なんですから、『部下』の私たちはそれに従う義務があります。
麗美が率先して戦うと決めたのだから、皆付いていきますし、皆で全力でサポートしますから」

真璃も立ち上がってゆっくり麗美の方に歩みを進め、手を伸ばしてその頭をくしゃくしゃと撫で付ける。

「しょうがねーな、初李の言うとおり、中隊長様が戦うって言うんなら私たちだけ戦わないでサボるってのもできないし。
まあ私たちも頑張るからさ、麗美も頑張って一人前の指揮官になれよな?」

さらに散乃が駆け寄ってきて、麗美の背中をバシバシ叩いた。

「あたしよくわかんないけど、麗美のこと見直したよ! 凄くかっこよかった!
本番になったらワームをいっぱいやっつけて、あたしと一緒にダブルエース目指させてあげる!!
あたいがミハエル・ヴィットマンで麗美がオットー・カリウスね!!」

「痛ったい!! あんたよく欧州戦線のエースパイロットの名前なんか知ってるわね……」

麗美が目じりに涙を浮かべながら散乃に反撃のヘッドロックをかまそうとすると、今度は理玖瑠、美鈴、翠らが
やって来て麗美の肩や背中やわき腹を軽く叩いた。

「まあ私らは整備班だけど、裏方として精一杯の事はやるよ。 麗美の89式は特に念入りに整備と洗車するようにする」

「できれば皆が死なないような作戦とかをお願いします、と」

「中隊長が一人前に一歩近づいたお祝いに、中隊長の89式にドリル付けようよドリル! あと頭にツノとか!」

「ドリルとかツノってガンダムやグレンラガンじゃないんだから……ぶひゃっ!? ちょっといまわき腹小突いたの誰!?」

励まされると同時に弄られまくっている麗美の姿を側で見守りながら、留美と大が呟く。

「…麗美ちゃんって、あれで割と皆に慕われてるというか、可愛がられてるよね。
なんていうか、麗美ちゃんのあの発言で、空気が変わった気がする」

「そうだねー。 中隊長っていうよりマスコットに見えるけど、でも、なんていうか……
頼りないし、上手く行かない事があるとすぐ泣くし、空回りしてる事が多いけど、みんな麗美を助けてあげたいって思うんだよね」


麗美の能力的な面での評価はあまり高くない。
実際、今まで中隊の誰もが麗美の言う事なんか聞かないし、辛辣な評価をしてきた。
実務の面でも人身掌握の面でも、怖がられて言う事を聞かせられる玲や、気配りができている由香里、あるいは早苗の方が上である。
しかし、かと言って別に麗美は悪く思われているわけではない。 むしろ、親しまれている。

「そういうの、なんていうのかな? カリスマ?」

「そうなのかー?」

そこへ真璃が割って入り、二人の肩に後ろから腕を回す。
三人の少女の顔が団子のように並んだ。

「麗美のはカリスマかどうかは判らないけどな、指揮官には兵の将と将の将ってのが居てな。
自分で能力を示して兵卒を引っ張っていくのが兵の将、まあ、最低でも小隊長クラスだな。
で、能力は大した事無いけど、周りの連中に、この人は自分らが支えてやらないとダメだ、って感じで
率先して働くように出来るのが、将の将…」

「漢の高祖劉邦を、その将軍韓信が、自分と劉邦の性質や器量の違いを表現するのに使った言葉ね
まあ、麗美が将の将と言えるとは思えないけど、劉邦も麗美も自分ひとりじゃ何も出来ない人間って
周囲に思われてるのは共通点かもしれない」

薀蓄を騙り始める真璃にさらに横から割って入ったのは有理だった。
有理は真璃や初李と軍事や兵器の話題で趣味が合うが、本分はどちらかと言うと歴史(戦史)オタである。
なので、こういう話には結構食いついてくる。
が、大と留美にとっては、

「…カンってどこの地方のことですか?」

「…難しくてよくわからない。 兵の将と将の将って結局同じじゃないのかー? 指揮官でしょ?」

それらの薀蓄語りはあんまり意味がなかったようで、有理と真璃は顔を見合わせて、ガックリと項垂れた。
……ゆとり教育ここに極まれり。 ワームとの戦争が激化して以来、社会に与えた影響は少なくない。
教職員の手も足りなくなり学校教育の水準維持に限界を感じ始めていた文部科学省は、従来の詰め込み式教育から
方針を切り替えて、教科書や試験の内容を簡略化し学校や教師の負担が少なくなる様にした新プログラムを導入していたが、
同時に色んなところで弊害も起きていたようだ。

「泉沢さん、漢というのは昔の中国にあった国の名前ですよ?」

早苗がやって来て、親切にも補足を入れてくれたが、大と留美は顔を見合わせてキョトン、とし。

「……中国大陸って人が住んでいないんじゃなかったんですか? 大昔にワームに占領されたって習ったけど」

「中国って大陸の事だったの? そうなのかー……」

「あの……ワームが現われる前の中国大陸というか、ユーラシア大陸の中央からこっち側は普通に人が住んでいましたよ?
というか、私たちが使っている漢字って、その中国から伝来したものなんですけど……」


これには早苗もガックリと来て、項垂れながら解説をするしかなかった。
真璃・有理・早苗は中隊内の個々の学力レベルに相当な開きがあるような気もしてきて、どんよりとした表情で顔を見合わせる。
留美や散乃があんまり頭が良くないのは知って居たが、大ちゃんまでもとなると、中隊内の他の子らのレベルも急に不安になってくる。
ふと、三人は少し嫌な事に思い当たった。

「ねえ真璃……麗美はここまで酷くは無い……よね?」

「私に訊くなよ……仮にそうだったとしてもさ、ほら、玲と由香里が居るし……私らとか初李とかで教えるって手もあるし……」

「さすがに麗美さんはここまで不自由とはおもいませんけど……」

ただのバカなら、無知ならいい。 知らない事は教えて身につけさせれば解決する。
問題はまともな平均水準以上の思考能力や想像力があるかどうかである。
頭を使って勉強した経験の少ないゆとり世代は、脳みそを使う上で大事な部分、肝心な部分が致命的に欠落している例が多いのだ。
部隊を率いる中隊長がそれでは、はっきり言って洒落にならない。
麗美が精神的にお子様で頼りない子だと言う事は全員が承知している。
しかし、麗美が『ゆとり』であるかどうかは、誰も知らないというか、確認していなかった。
なんとなく、早まったかもしれない……という空気が漂う。

そんな空気の流れを断ち切って、教室の扉を開けて玲と由香里が入ってきた。

「騒がしいわね、廊下まで響いてるよ? みんなちゃんと揃ってるー? ……というか何やってたのよ、あんたたち」

玲が揉みくちゃにされている麗美と女子たちをジト目で見ながら言うと、由香里がパンパンと手を叩いて指示を出す。

「はい、受領した新装備と弾薬の説明があるから、整備班は遊んでないで作業服に着替えて、10分後に校庭に集合。
あと、砲兵班の真璃と初李も来てね? 簡単な口頭説明だけだから」






「やっぱりこれ、私たち用の新装備だったんだね?」

「そうね……人員が増えないならせめて、少しでも良い装備をって配慮のつもりなんでしょうね。 あの人の考えそうな事だわ」

無人型機動戦闘車両の前に並んで立つ麗美と初李が、105ミリ砲を装備した車体に不釣合いな砲塔を見上げながら言葉を交わす。
その砲塔によじ登っているのは有理と翠だ。
結局、整備班だけでなく全員が校庭に集まってきていたため、他の何人かもその新装備に興味を示して
前部や後部を見て回ったり、巨大なタイヤの直径を計ってみたりと、新しい玩具を与えられた子供の様な状態になっている。
有理は、砲塔上部の搭乗用ハッチを開いて車内に体を滑り込ませた。


「……無人型って言っても、一応人間が乗って操作できるようになってるのね」

「そりゃまあ、第4世代AI搭載型だけどさ、AIが壊れたら動かせないんじゃ冗長性が無いし。
元々車両類の人員省略化がAIの開発意義だからね。
砲手と操縦手無しで車長だけの状態で操縦から射撃まで、AIの補助で一人で全部できるよ。
その上で、AI制御で完全無人での作戦行動もさせられるし、人が乗らないときはあっちの指揮通信車から
遠隔で指示出すだけだから私たちみたいな人員が足りない部隊でも充分使えるよ」

ハッチから逆さまになった頭だけを車内に突っ込んで翠が解説する。
有理は、それだけ知ってるなら由香里の解説いらないんじゃないの?と軽口を叩きながら車長席に備え付けてあるAIの入出力用ディスプレイをオンにした。
同時に、休眠状態になって言った機動戦闘車のAIが起動する。

『JGSDF 日本国陸上自衛軍 防衛省技術研究部

戦術無人戦闘車両制御用OS/AI ”上海” Ver1.09』

ディスプレイには陸上自衛軍のロゴとともに文章列が表示され、それを読んだ有理は訝しげな表情をした。

「上海(しゃんはい)……?」

「AIを開発したの、中国からの亡命帰化技術者らしいよ。 まあ中国というか、台湾の人。
車体は純国産で、砲はドイツの設計だから、まあ三ヶ国の技術の集大成ってわけだね」

翠がすかさず解説を入れる。 が、有理はふーん、と聞き流した。
有理はソフトウェア方面には興味があるが、ハード面とかスペックとかに付いては割とどうでもいい。

「素直に言う事を聞いてくれるいい子なら、どこ製でも構わないわ」

そう言いながら、有理はタッチパネル式のディスプレイを操作して、機動戦闘車の各種ステータスをチェックし始めていた。





「……で、こっちのランチャー射出式のUAVが、82式用の装備。 肩に取り付けて、ロケットモーターで加速・飛翔。
あとは指定した区域を自動で旋回して、観測情報を送ってくれるの。
滞空持続時間は最大4時間で、回収する時は専用のネットを張って、それに突っ込ませる方式。
ユニオン陸軍も同型のを使ってるけど、『ドローン』って愛称で呼ばれてるわね」

「うちで使うのはもっと可愛い愛称がいいな」

由香里の解説を受けながら、真璃がUAVの全周探索カメラのレンズを覗き込んで言った。
ドローンは端末とか働き蜂とかいう意味だが、響きが無機質で味気が無い。
すると、近くに寄ってきていた初李がUAVの可変展開式の姿勢安定翼を指で引っ張って開かせながら提案した。

「じゃあ、『リトルデビル』っていうのはどう? 翼の形がなんとなく悪魔っぽいし」

「……それ可愛いのか?」

「可愛くないの?」

真璃と初李はお互い顔を見合わせながら10秒くらい睨めっこをしていたが、やがて、真璃の方が根負けした、
というか他に代案も無かったので初李の提案に同意する形になった。

「結局、可愛いと思うセンスは人それぞれだしなあ……」




「で……具体的にあんた、どうすんのよ? 戦うって言っても何の目算も準備もなしに、戦えるものじゃないのよ?
そこは解ってる?」

「玲こそ、どうなの? 今まで何の考えもなしに、私たちに何度も何度もシミュレーションさせたり、
それぞれの動く癖や適性を入念にチェックしていたわけじゃないんでしょ?」

中隊のそれぞれが新装備の物珍しさに注目している頃、指揮通信車の後部ハッチの陰に玲と麗美が立って話していた。
ついにと言うべきか、連隊長直々の実戦参加命令が来たのだ。
玲は前々から覚悟していた事であり、そのための準備や対策を由香里に助けられながら進めてきた事ではある。
だが、麗美はそうではない。 確かにここ数日間の麗美の訓練の熱心さは、評価に値するものがあり、それなりの成果も見られる。
少しずつ、一人の兵士として自信が付いてきたというのはあるだろう。
しかし、麗美の「実戦に挑む覚悟」というものは、ごく短期間で醸成されはじめたばかりの、まだ芽を出し始めた程度のものでしか無い。
つい乗せられて、勢いで「戦います」なんて言ってしまった程度のものでは、指揮官としての覚悟もまだ固まっていない。
だから、当分実質的に中隊を取り仕切るのは、継続して玲と由香里に一任されるだろう。
そして実際、麗美は玲や由香里が考えてくれるから、なんとかなるだろうと思ってる節は見受けられる。


しかし、それではいけない、と玲は思う。 
玲は隊を運用する上で、役職を任せられる人員が少ない事に一番頭を悩ませている。
自分と由香里だけで隊の戦闘班と整備・支援班を動かす今の体制は、全くこの二人の能力だけに頼った脆いものだ。
仮にどちらかが欠けても、残った方の負担は大きくなるが、なんとか隊をまとめていく事はできるだろう。
では、残った一人も潰れてしまった時は? 何らかの理由で指揮が出来ない状態に陥った時は?
隊長と、そのサブを勤める副隊長がいるだけではダメなのだ。
軍隊には冗長性がなくてはいけない。 何処かの部品が欠けても、別の予備部品があればすぐに体勢を立て直せる。
例えば、正規の軍隊では士官が戦死しても、下士官が士官の代行として指揮を取る教育を受けているので戦闘を継続できのだ。
そして指揮を引き継いだ下士官が戦死しても、その次の指揮官が……という風に、指揮官がいなくなって兵卒が統率を乱す事は起こりにくいようになっている。
普段は補佐に徹し、いざという時は指揮官の代用になる予備部品……その役目を果たす人員は多ければ多いほどいい。
そのほうが、容易には崩れずしぶとく戦い、生き残る事が出来るからだ。

麗美は、その点では平時を任せられる良い指揮官であるとは到底言えない。
だが、少なくとも玲や由香里が指揮を出来なくなった時の、最低限の「予備」を果たせるくらいには、成長してもらわないと困る。

「基本の戦い方は今までのシミュレーションで叩き込んだ通り。 あれを守ってれば、そうそう負ける事は無いでしょうね。
ただ、皆が命令どおりに動いてくれるかが問題なのよ。 前みたいに、味方が射線上にまだいるのに射撃開始したり、とか」

「……うう。 いつまでもそれ引き摺んないでよ! 私だってちゃんと勉強してるんだから」

いつぞやのシミュレーションの結果を持ち出されて、麗美がまた泣きそうな顔になる。
はあ、とため息をつく玲は、麗美の指揮官としての資質に多いな疑問を持っていた。
どんなに訓練を繰り返しても、頼りない、というのは未だに大きい。

「ま、敵の数がこっちの戦力じゃ対処しきれないくらいの多数だったりして、退却しなきゃならない時以外はなんとかなるでしょうけどね。
次から、退却時の基本も訓練しなきゃならない頃かしら。
一応聞くけどあんた、敵の優勢下で味方の損害を極力抑えながら後方陣地に下がる時の基本はどうなのか、わかる?」

玲はあまり期待せずに質問した。
日ごろの座学でもシミュレーションでもまだやっていない部分であるが、これまでの戦闘の基本をしっかり理解していれば
正解できなくも無い程度の問題ではある。
が、麗美は割と平然と答えを口にした。

「そんなの、機動防御でしょ? 玲と咲也がいつもやってるやつ。
隊を半分ずつにわけて、片方が敵を撃ってる間に片方が下がって、下がったら撃って、前に残ってる方が下がるのを助ける。
あるいは、砲兵班を先に下げて、砲兵…真璃と初李が後方から制圧射撃を行っている間に私たち歩兵と騎兵が下がる。
そうやって下がった歩兵が、前もって用意していた後方陣地に伏せて、進撃してくる敵を待ち伏せ攻撃。
あとはそれを繰り返す……合ってる?」

「……なんであんたがカトゥコフの戦術を知ってんの!?」


玲は最初、口をあんぐりと開けて呆然としていたが、やがて驚愕の表情で叫んだ。
麗美の回答の前半部は、「今まで教えてきた戦闘の基本の応用」である。 ここまでは普通に及第点だ。
そして後半部は、大陸戦の社会主義連邦の「大祖国戦争」にてカトゥコフ少将がワームを葬るのに多用した戦術の応用である。

「なんでって……前の学校の教科書に乗ってたよ。 私は欧州戦線と東部戦線のところまでしかやってないけど」

「どこの高校の教科書に戦史なんか載せてる教科があんのよ!? そんなの、防衛大学校ぐらい……」

と、そこまで口にして、玲ははたと思い当たる事に気が付いた。
日本国内の普通科高校でも技術系高校でも、ふつう、軍事や戦史に関して教える学校なんて無い。
大学も同様である。 ただ一つを除いて。
玲は、その疑いを麗美に質問した。 まさか、とは思いながら。

「麗美、あんた……もしかして防大付属高等工科学校の生徒だった?」

「そうだよ? 私、こう見えて将来の士官候補生なんだよ。 身分も2等陸士だし」

防大付属高等工科学校は旧陸軍幼年学校・旧陸軍士官学校の流れを汲む、青少年を専門教育する事によって
将来の自衛軍の中枢を担う優秀な人材を育成する高等教育機関であり、卒業者はそのまま防衛大学にエスカレーターで進学する。
あるいは、卒業後に3等陸曹となって、そのまま陸上自衛軍に入隊する。
簡単に説明すると、最初からある程度の士官教育を受けて軍に入隊するエリート養成学校なのである。
麗美はそこの生徒だったのだ。

この発覚した新事実に、玲は道理で、敬礼は綺麗なしっかりした動作だし、制服の着方も決まっているわけだ……と
今更ながら得心がいった。
麗美がなぜ、玲や由香里から遅れて入ってきたのに中隊長なんかを任命されているのかといえば、彼女が
曲りなり・中途とはいえども正規の士官教育を受けた事がある唯一の生徒だったからだ。
しかし、それはそれで、玲は疑問を憶える。

「……じゃあなんで、あんたあんなにダメなのよ?」

「だ、ダメって酷いよ! そりゃ、私まだちゃんと指揮官らしいこと何にもわかんないけど……。
だって、まだ教科でならって無い部分ばっかりだったし、小銃だって分解整備と射撃予習はやったけど、実弾撃ったの
こっちに来てからが初めてだったし、それに、いきなり機士の実機動かさせたり戦闘シミュレーター乗せたりするし……。
玲の訓練教育が無茶苦茶なんだよ!
最初、機士の種別と役割だけ簡単に説明して、それですぐに戦闘訓練始めちゃうからみんな、自分に当てられた役割が
わかんなくて、戸惑ったり、好き勝手に行動しちゃうし!
私はいきなり指揮官なんかやらされたから、焦ってどうしたらいいか判らないし……。
私も皆もまだちゃんと基本を押さえてないのに、一人前の事をやらせようとするから、玲はみんなに嫌われてるんだよ?」


麗美はそのように反論した。 実際麗美には自分がかなりダメな事は自覚できている。
が、由香里にも以前に度々指摘されたことがあるように、今の玲の訓練計画は結構無理があるのも事実だ。
それは玲もわかっててやっている事ではあるが、改めて指摘されると反論の仕様が無いのは認めざるを得ない。

「そりゃあ、促成だものね……それに、私や由香里もちゃんとした教官のやり方なんて出来ないし。
元々訓練に割ける時間の余裕はなかったけど、いよいよもって足りなくなってきた」

「そこは、私もわかってるよ。 連隊長は『学生兵士は前線に出してない』って言うけどさ、あれって半分嘘でしょ?
そもそもさ、軍隊に属した時点で、後方だからって安全じゃあないんだし、どっかで学生兵士に戦闘を命令してる部分はあると思うよ。
今朝みたいに私が乗せられた様にさ、志願って建前で、子供まで投入しなきゃならない状態まで逼迫してる。
現在の学生兵士の制度も一応志願制度だけどさ、そのうち事実上の徴兵制になるのは確実だと思うね。
……その前に、大人の徴兵制が来る、あるいはもう設立が進められてるんだろうけど。

私たちに教官が付けられないのって、つまりそういう事なんじゃないの? いろんな意味で私たちは捨て駒。
子供ですら志願して戦場に行くって言うのに、大人は志願しないのかって風潮を作って、
大人による民兵や義勇兵制度を整えて、そっちに本命の教官や訓練機材を揃えて、力を入れて兵士教育をする。
そういうやり口ってさ、戦前からこの国は変わってないじゃない? 絶対そうすると思うんだよね。
……どうしたの、玲?」

玲は、すこし呆然としながら麗美の紡ぐその推測に似た言葉を聞いていた。
麗美はそれを、どうしたの?と不思議そうな顔で見返す。
何か変なことを言ったのだろうか?と麗美は不安になったが、玲はそうではなかった。
むしろ麗美の状況分析は的確で、玲でも気付いていなかった部分に考えが及んでいるのに驚かされたのだ。
そう、最初のうちは玲たちのような学生兵士の志願は、世論を志願兵応募に動かすためのダミーとしての計画だったのだろう。
人類同士の大戦が終わって後、日本は旧軍を自衛軍に改編すると同時に旧来の徴兵制を廃止した。
徴兵制度は国力から若い労働力や壮年の熟練技術者を軍事力に奪う、諸刃の剣だ。
加えて、徴兵された兵士が全員、戦う意欲、高い士気を持っているとは限らない。
嫌々ながら兵役に就かされる者も少なくないからだ。
加えて、徴兵制度による任期兵役では、任期が満了すればどんな経験を積んだ優秀な兵士でも軍を去ってしまう。
職業軍人としてそのまま軍に残ってくれるものも居るが、少数だ。

それよりは、最初から軍に入る意欲を持った者だけを入隊させ訓練できる志願制度の方がメリットがある。
しかし、現在のワームとの戦いが劣勢になっている状態では、国家の総力を戦争に投入した総力戦にならざるを得ず、
そのためにはリソースを軍事力につぎ込める効率で徴兵制度の方がいい。
だが、既に徴兵制度を廃止して新しい体制が定着してしまっているので、再度徴兵制といっても国民は素直に応じないだろう。
……そこで、国の現状を憂いた勇敢な学生が志願して自ら戦場に赴くという学生兵士をまず募り、
子供に戦争をさせるくらいなら大人が、という論調を国民に浸透させる政治工作を行ったのだ。
良くも悪くもお人よしで、美談に弱く付和雷同する性格の強いのがこの国の国民性だ。
古くは幕末のころに、同じような手段が使われた事も二度や三度ではない。
ありうるべき事だった。

「……あんたがそこに気付くとは思ってなかったのよ。 結構状況を読む能力があるんじゃない。
これからは中隊長どのに対する評価を改めなくちゃ行けないわね? うちで唯一、士官教育を受けた事のある
エリート様なのも判明したし」

「ふふん、見直した?」

玲が素直にそう誉めると、麗美はニッコリ笑って胸を張った。
が、次の一言で再び叩きのめされた。

「それじゃ、明日からは幹部教育向けの高難易度な訓練を組んで上げるから。
はやく一人前の中隊長になって、私や由香里に楽をさせてくれないとね? 期待してるわよ、士官候補生さん?」

「うぐっ……! 墓穴を掘った……。 うー、やっぱり前の学校の事は言わなきゃ良かった……!!」

その場にしゃがんで両手で頭を抱える麗美を、玲は微笑ましく思った。
防大付属校に入学できるということは、麗美はこれでもかなり学力偏差値の高い少女であるという証拠でもあるからだ。
言動が子供っぽく性格も幼稚な面がある割りに、これでも麗美は地味に凄いのである。
何しろ、試験合格率は最大時には20倍超えという難関の部類。
他の有名大学付属高校に引けは取らない上、防衛大学そのものが超一流有名大学に合格するよりさらに難関なのだ。
その知力と、麗美の普段の「実質マスコットのダメ中隊長」っぷりの落差が、何故だか玲には愛しく思える。
ところで、ふと玲は麗美に対してもう一つ疑問な点がある事に気付き、それを口にした。

「それにしても……あんた志願でしょ? なんで、防大付属からこっちに転向してきたのよ。
こんな少年志願兵なんかじゃなくて、そのまま残ってたらエリートコースで士官、幹部さまじゃない」

玲のその質問に、麗美はしゃがんだまま地面を見つめて何時に無く真剣かつ深刻な暗い影をした表情でゆっくりと答えた。

「……私のお父さん、第28普通科連隊の所属だったんだ。 2ヶ月前に戦死した」



(続く)


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