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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

capter2 MAIN 承 後編

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ParaBellum

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 機械仕掛けの天使は『そこ』にいた。
 白銀の六翼を羽ばたかせ、成層圏の彼方からから魔獣と変貌した魔王を見つめている。
 そしてその天使の肩の上に一人、直立している白髪の少女がいた。
 年齢は15、6歳といった所だろうか、その身に纏う純白のドレスが元々良い少女の顔立ちやスタイルも手伝って、絵画的な美しさを作り上げていた。
「ふぅん、やけに馬鹿げた量のエネルギーを検知したからてっきり、至宝の再構築を行うのにエネルギーを集束したのかと思えば、なんかもっと凄いモノ引いちゃったみたいだね。もしかしてあれ、この子の兄弟?」
 少女はそう機体に問いかける。
 少女は少し考え、そこで頷くようなそぶりを見せた後、
「やっぱりかー、だとすると虎君が相手するにも結構辛い相手かもしれないねー。でも、あの機体相当傷ついてるみたいなのがよくわからないなぁ。この子の弟にあたる機体ならば、至宝を持ってる筈だし、あれだけのエネルギーがあるならば機体の修復なんて出来そうなものなのに…。」
 そう言った後、少女は驚いたような声をあげる。
「え、マジ?ダグザ。へぇーあれ、怨念機のくせに至宝が搭載されてないんだ。ダメージも戦闘前から受けていたものかー、あーじゃあ、もうあの機体はダメだなぁー。勝ち目が無いよ。あんな状況じゃ機体も適正者の方もズタボロだろうし…無理だろうねー今更止めにいっても間に合わないだろうし…。」
 そう言ったあと、少女はふふっと笑う。
「当然だよ、せっかくの珍しい機体じゃん、このメタトロニウスにもしもの事があった時に代替品とかにして使えるかもしれないし…あはは、拗ねないでダグザ、大丈夫、お前の事は一番、信用してるんだから。でも残念だなぁ、あれじゃあ、適格者の方も暴走状態に入ってるだろうし…壊してDSGCシステムだけでも回収出来れば万々歳か…。」
 そこで、少女は驚いたような声をあげた。
「―――えっ、黒い怨念機の適格者が自我を取り戻した?」
 そして注視するように地上を見つめる。
「いや、違う…『乗り越えてない』…思念の介入、そっちが原因かな。それでもそれだけのきっかけで自我を再構築するなんて十分凄い気がするけれど…まあ、でも、あれじゃあ、無理か。怨念機は至宝を持って初めて、その驚異の力を振るう事が出来るようになる。だから値だけ見てれば勝てる要素ないんだよねぇ。」
 少女は誰もいない空間を見つめて、会話するように続ける。
「う~ん、ダグザ、ちょっと降りようか、虎君が壊したあの機体からDSGCシステムを回収出来るかもしれないしね。出来れば虎君が壊し過ぎない事を祈るよ。」
 そういって少女は機械仕掛けの天使の胸元に飛び込んだ。
 そして少女を自身の中にいれた後、天使はその瞳から紅の閃光を走らせ、地上に向かって加速した。







 リベジオン、コックピット内。
 黒峰潤也がそこで自我を取り戻したのは奇跡といって差し支えが無かった。
 ほんの数分前まで潤也と共にいた少女、倉島愛の最後の怨念。
 彼女の怨念もまた己の運命を呪うものだった。
 だが、その中で、彼女の怨念の中では黒峰潤也という怨嗟の海に沈んだ一人の人間が登場し、それに好意を示した。
 なんで好意を示す?なんで怨んでくれない?
 そんな後悔と自責の念が黒峰潤也という個体をその怨嗟の海の深淵から呼び覚ました。
「ああ、糞、やけくそでやるからこんな事になる!!俺のクソったれ!!!」
 潤也は自分が今、何をしていたのか全て覚えていた。
 黒峰潤也という人格が吹き飛んでいたとは言え、黒峰潤也という個人がやった事は覚えているのである。
 それ故に限界を見誤ったDSGCシステムの起動を行った事、そして今、リベジオンで無差別攻撃を行おうとしている事、その全てを把握している。
 止めなければならない、まだ、はっきりとしない意識の中で潤也はDSGCシステムを停止させ攻撃を中断しようと試みる。
 だが、それは不可能だった。
 既に安全装置が働きDSGCシステムは一部機能・・・怨念を吸収する機構は停止している。
 しかし、既にDSGCシステムによってリベジオンに蓄えられたエネルギーは膨大なものでリベジオン自体をもそのエネルギーを持て余している状態にある。
 解放すれば周囲数十キロに及ぶ地帯を焦土に変える程のエネルギー。
 そんなものを、リベジオンは己の機能によって強引に纏っているのである。
 今、システムの全てを停止させれば、リベジオンに集束されたその膨大なエネルギーは行き場をなくし、リベジオンの周囲に向けて解放されてしまう。
 そもそも―呪装解放(ソウルバースト)―とはDSGCシステムで集束したエネルギーをシステムを停止させることによって解放し周囲への攻撃を行うといったものである。
 システムを停止してはいけないのだ。
 だから、この状況を打破する為にはリベジオンに集束され纏っている膨大なエネルギーに指向性を持たせて解放する必要がある。
 空中での放出が周囲への被害が最も少ない。
 つまり、このエネルギーは空中で解放する必要があるのである。
 それだけならば、まだ簡単な問題とは言えるのかもしれないが、問題はもう一つある。
 今、リベジオンは交戦中であるという事だ。
 鋼獣『轟虎』。
 非常に大きな力を持つとされる姿を隠蔽する力を持つとされる鋼獣。
 そんなものを相手にしながら空中への飛翔を行うというのは自殺行為であると言えた。
 飛翔の瞬間を攻撃されればそれは致命的なものとなる。
 潤也は先ほどから、少しづつリベジオンへの攻撃の手が激しくなってきていると感じていた。
 それはそろそろトドメに移行しようと、こちらのダメージを確認しているという事だ。
 しかし、無音無影で襲いかかるそれに対してリベジオンは反撃を出来ずにいた。
 だから、怨念に意識を飛ばされた潤也は生きる為に手段を選ばず、あらゆる方向への攻撃を行える手段を取ろうとしたのである。
 周囲にもう生体反応は無いとはいえ、このエネルギーを解放してしまえば、このセントラルシティ全てを破壊してしまう。
 そうなれば、巻き込まれてしまう人も多くいるだろう。
 そしてそれは無差別な虐殺に他ならない。
 だから、潤也はその手段をとるわけにはいかなかった。
 ならば、どうするのか?
 既にリベジオンも限界が近い、そもそも無理がある機体状況での戦闘であり、その上で轟虎からの攻撃に晒されていたのだ。
 左腕を失い、翼にも大きなダメージを受け、脚部はもう立っているという状態を継続させるだけで精一杯の状態。
 もはや、何時、機体が機能を失ってもおかしくない状況だった。
 そんな絶望的な状況の中で、潤也は限界より先に轟虎を破壊して、リベジオンが纏っているこのエネルギーを機能停止する前に空中で解放する必要がある。
 不可能な事を可能に出来る手は一つ。
 だが、それは読みを外せば、結局は呪装解放により、自動的にここら周辺を破壊してしまう可能性もあった。
 それほどの危険な賭けであり、勝算も非常に低い。
 見えない敵からの攻撃はどこに、どのタイミングで攻撃してくるかもわからず対処も出来ない。
 リベジオンの中に搭載された計器類にもまったく反応せずまさにこの世界から完全に消えてしまったかのように思えるステルス能力だ。
 だから、せめて呪装解放による被害を抑えようとリベジオンを飛翔させようとしても、轟虎はそれを許してくれず、結局この街は壊滅してしまう事になる。
 黒峰潤也に残された選択肢は最初からその勝算の低い博打しかなかった。
「失敗は許されない…か…。」
 潤也は苦々しい顔をして、そう呟く。
 今まで復讐の闘いに身を投じてきた潤也にはその背に他の命を乗せられた事等なかった。
 全ては自分の為の闘いだった。
 けれど、今、潤也は見知らぬ誰かの命までもをその背に背負わされる羽目になっている。
 それ故に、潤也は今までにない重圧を感じていた。
「本当に面倒な事になったな…自業自得か…まったく、本当にクソったれだ。」
 潤也はリベジオンの残った右拳を強く握らせる。
 その絶望的な状況に目を背けずに立ち向かう為、自分を取り戻させてくれた彼女にせめて報いる為、あの 全てを失った日以来、黒峰潤也は自分以外の誰かの為に決意を固めた。
「行くぞ、リベジオン。ここが正念場だ。てめぇのその禍々しい力を全部、奴に叩きこんでやる!!」
 魔獣と化したリベジオンは翼を展開する。
 飛翔の準備、轟虎を破壊したらすぐさま空に飛ばなければならない、故に何時でも飛べる用意をする必要があった。
 それともう1つ、潤也には狙いがあった。
 翼を開き、こちらが飛翔しようとしているという事は敵の鋼獣の搭乗者にも伝わっているだろう。
 轟虎には、かつて視認していた時に翼やそれに類するような機関が備わっていないのを確認している。
 そして空に飛んでしまえば、轟虎にはもはや手の届かない領域へとこのリベジオンは到達する事が出来るのである。
 だから、轟虎はなんとしてもこちらの飛翔をさせないようにと手を緩めずに攻撃を行っている。
 そんな攻撃の嵐の中ではとてもではないが飛行に移行する事は出来ない。
 そこで強引に飛行に移ろうとするならば、敵はどう出てくるだろうか?
 それは大きな隙である。
 そしてそれと同時に見逃すと轟虎の届かない空中へと敵を逃がすことになる。
 故に確実にこちらが飛翔するタイミングで攻撃を仕掛けてくる。
 潤也の狙いはそこだった。
 相手に有利な状況を作ろうとも、相手に攻撃せざる負えない理由を作りあげる。
 それによって、相手の攻撃のタイミングをこちらが強いる。
 そうして見えないが故の何時攻撃しかけてくるかわからないという問題点を解決するのである。
 だが、轟虎の完全ステルスの強みはそれだけでは無い。
 姿が見えない故にどこから攻撃を仕掛けてくるかという事だ。
 無音かつ無影でどのレーダー機器にも反応しないそれがどこから、どこに攻撃してくるか?それが読めなければ結局、己の全方位が死角なのには変わりなく、敵を捕える事など出来ない。
 これに関しては可能性を探り当てる事は出来ても決断は勘に頼るしかなかった。
 可能性としては高いのはコックピットがある胴部だ。
 それを抜けばその時点で轟虎の勝利は確定する、だが潤也はそれは無いと考えていた。
 リベジオンは翼を展開する。
 展開された翼は紅の光によるエネルギーフィールドを張って飛翔する準備に入る。
 虚偽では無い、本当に飛翔するのだ、でなければ呪装解放(ソウルバースト)によってこの一体を破壊し尽くす事には違いないのだから・・・・・・ゆえに飛翔を行う事は急務。
 その過程で潤也はあの、轟虎を破壊しなければならない。
 なんという博打か…成功率1割すらあるのか怪しい賭け。
 翼が生えた獣となったリベジオンは飛翔準備が整え、そして飛翔しようと背にあるブースターに火を入れる。
 戦闘姿勢を崩さざるえない、その瞬間は轟虎による絶好の攻撃のチャンスだ。


 ―――――そして、その瞬間が来た。


 翼を全開し、飛翔。
 その瞬間リベジオンはその右腕を振り下げ、アッパーをするようにして振り上げた。
 機械と機械が接触する金属音…それと同時にリベジオンの右の掌が何かを掴む。

「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 それと同時にリベジオンが飛翔した。 
 右腕にかかる数tもの負荷がかかっている事がディスプレイに映し出される、それが轟虎を掴んでいるという確かな確信を潤也に持たせた。
 そしてその普段のリベジオンなら片手で持ち上げるなど不可能な重量のそれを魔獣と化した事で得た力で強引に持ち上げる。
 そして、地上から30km離れた所でその呪装解放を発動させた。
 リベジオンに集束していた紅の光が暴れ狂うようにしてあたりに撒き散らされる。
 エネルギー解放による全方位への無差別攻撃。
 機体内のモニターに様々な機能が悲鳴をあげて警告音を鳴らしている。
 それはリベジオンの限界を既に超えてしまっている事を示していた。
 もはや、この機体はあと数分もかからずに機能を失う。
 リベジオンはそうしてエネルギーを解放しながら、今度はその掴んだ何かの重量を利用し、セントラルシティに落下しないように、その近くにある人気ない山岳地帯に向けて、角度を付けて落下する。
 右腕に掴まれた何かがそれから逃れようと暴れる。
 それを絶対に離さぬように潤也はリベジオンにその何かを己の身を通過って覆うように抱きかかえさせた
 その何かにリベジオンから解放されている紅の光が何度もぶつかり、徐々にその何かを隠していた迷彩が剥がれていく。
 そしてそこに現れたのは先ほどまでリベジオンと交戦していた鋼獣『轟虎』だった。
 潤也は飛翔を行う際に、轟虎がどのタイミングで攻撃するかを数か所に限定する事には成功していた。
 だが、どこに攻撃してくるか?それを限定する事は出来なければ、轟虎を捕える事は出来なかった。
 まず、可能性として考えられたのはコックピットのある胴部だった。
 ここを潰せば、確実に敵は勝てる…しかし、それを狙うのはあまりに安易に読みやすい一手だ、これまで慎重に慎重を重ねてきた轟虎がそんな手で来るだろうか?
 潤也はそれを即座に否定した。
 もし自分が轟虎の搭乗者ならば、確実にこちらの戦闘能力を削ぎきり、そしてトドメを刺しに狙って来る筈だ。
 そう、潤也は考えた。
 そして考えられたのが飛翔手段である翼と攻撃手段である右腕。
 この際、もし自分が相手をするのならば、どちらのリスクが高いかという事を潤也は考える。
 翼には既にダメージがある程度入っており、飛翔を行っても長い飛行には耐える事が出来ない事は明白であった。
 飛翔する事は出来ても1分もしない内に墜落する。
 それにリベジオンの翼は展開し、エネルギーフィールドを発生させる事で、飛翔する機構になっている。
 つまりは、飛翔間近の翼に攻撃を仕掛ける事はブースターの噴射に飛び込むようなものだ。
 ならば、翼への攻撃を行う事は万が一が起こりえる、リスクが高い。
 よって右腕を破壊し両腕を奪う事で、完全な戦闘能力を奪い、そしてトドメを刺す。
 そう取ると判断し、その勘を信じた一点読み。
 結果、その目論見は成功する右腕を狙った攻撃を逆に掴み取りそのままそれを連れて空中に飛翔する事に成功したのである。
 そして、リベジオンと轟虎は山岳部の中腹に激突する。
 リベジオンはその山に半身を沈めながら、右腕と脚部は吹き飛び四肢を喪失する。
 だが、それでも呪装解放によって周囲に紅の光がまき散らせその膨大な熱量が周囲を燃やし尽くしていく。
そしてそれに巻き込まれ轟虎は大破し、機能を失った。
 大きな息を何度も吐きながら、潤也はそれを確認して、


「クソったれが…、糞、糞、ちくしょう…。」


 己の無力に泣いた。
 己という害悪を呪った。
 自分のせいで関係の無い人間を死なせてしまった。
 何も罪の無い少女を殺してしまった。
 直接的に死因になっていなかったか?そんな事は関係ない。
 お前が起こした行動の結果一人の人間を死に追いやったのだ。
 その責は――――いや……何を現実から背けている…黒峰潤也。
 暴走したリベジオンが暴虐無人な立ち回りを行った際に誰か他の人間が死んだ可能性もあるのではないか?
 既に人気が無かったから他に死人は出ていない、それは希望的観測によるなんの根拠もない思い込みではないのか?
 あの場で、リベジオンで闘わなければ良かった等とは思わない。
 確かにあの場で闘わなければ、轟虎は戦火を広げるだけで、死者を大量に作り上げていた事は疑いようが無い。
 だから、お前がやる事はリベジオンを使ってあの場から…敵を離す事では無かったのか?
 確かにあの鋼機の能力は驚異的だった、それは難しかったかもしれない、でもそうするように努力を、いや、それを頭の片隅で考えすらしなかったのはそもそもの間違いではなかったのか?
 それをせずに憎悪に任せて闘い、結果が暴走、もう少しで最悪の惨事を起こす所だった。
 人でなしの糞野郎、無意味に死を振りまく殺人鬼…。
 それが・・・復讐?
 笑い話だ。復讐の為に無意味に人を殺したのならばお前はその殺した者と同じ存在なのだ。
 我儘な復讐者?呼吸出来なくなるぐらいに笑わせる気か?
 アテルラナは言っていた、復讐の為に全てを捨てろ、そしてお前はそれを否定した。
 だが、復讐の為に全てを捨てる覚悟が無いから、全てを受け入れる覚悟を持つべきだった。
 それすら出来ないのに、口だけの決意と覚悟を示した結果がこの取り返し用の無い結末と後悔。
 彼女を、その他の大勢の人間を殺した、理由もなく自分の私怨に巻き込んで殺したのだ!!
 変わらない、俺は奴らと何も変わらない!
 闘うという事は誰かが死ぬ事だ、その言葉の本質を俺はまるで考えていなかった。
 言葉だけでわかったふりをしていて、上辺だけの理解を示して本当にそれを考えた事などなかった。
 偽善めいた台詞を吐き捨てて、立ち向かおうとし、結果、奴らの域まで堕ちた。


「くそ・・・、クソ、くそぉ。」


 操縦室内の壁を八つ当たり用にして何度も殴り付ける。
 ここまま進めば、俺は災厄をまき散らしながら闘う事になるのだろう。
 UHとの闘いを続けるという事はつまりはそういう事を意味しているように思えてならない。
 こんな、害悪は殺してしまうべきなのではないか?
 ふと、そんな事を思う。
 リベジオンは何時暴走をしてもおかしくない危険性を孕んでいる。
 別に今回に限った事では無い、何度もその兆候はあった。
 今回は運よく自我を取り戻す事は出来たが、今度は戻ってこれるかどうかはわからない。
 もし、次に暴走したら自分がUHが起こした災厄以上の災厄をまき散らす可能性もある。
 そんな危険人物は殺すべきだ。
 こんな人間、こんなどうしようもない屑は今すぐにでも殺すべきだ。
 潤也はリベジオンのコックピットから外に出る。
 山岳地帯に墜落したリベジオンは標高1800mの地点に埋まるように着陸していた。
 四肢がもげ、翼も大きく折れたリベジオンはもはや胴部だけを残した状態にあった。
 いや、むしろこのような状態を保っているという事実の方が驚嘆に値するかもしれない。
 リベジオンが纏っていた怨嗟のエネルギーが機体が受ける衝撃を和らげたのだろう…。
 潤也は外に顔を出す。
 目の前には70度ほどの急な傾斜が広がっている。
 このままリベジオンのコックピットから飛び下りれば、そのまま下方に吸い込まれるようにして死ねるのではないか?
 そんな思いが湧く。

 ―――死のう。

 そう、思う。
 そもそも限界だったのだ。
 何度も何度も怨念の心を晒して、もう自分が壊れそうになるぐらいなのを誤魔化して、闘ってきた。
 様々な怨念を体験したせいで憎悪が混線し、そもそも自分は奴らが本当に憎いのかすらもわからない。
 無理矢理、その憎悪に自分の憎悪を重ねてきていたがそれは既に限界だった。
 ここから一歩踏み出せば、たぶん死ねる。
 頭から落ちれば、なお確率は高いだろう。
 さあ、死のうじゃないか…ここから一歩を踏み出せば――――

「あ、ははは、はははは、ひでぇ…。」

 潤也は頭を抱えて涙を流しながら乾いた笑いを漏らす。
 死ねなかった。
 死ぬ事なんて出来なかった。
 死ぬ事が怖かった。途方もなく怖かった。
 幾千もの怨念にその心を晒した黒峰潤也はその深層に何よりも死を恐れ、生を求める思いが蓄積している。
 それが死を拒否する、意思とは別の所にある絶対則として潤也の行動を縛る。
 それはもはや呪いだ。
 黒峰潤也は自分の手で自らの命を失わせる事など出来ない。
 そんな絶対的な戒律。
 だから、潤也の自殺は失敗に終わる。
 情けなくて、そして自分が憎くて、涙を流しながら笑うしかなかった。
 残された道は二つ。
 この機体を捨てて、誰の目にも触れず一人で生きる。
 おそらくは世界はUHの奴らによってグチャグチャになって阿鼻叫喚の渦に巻き込まれるが、それは黒峰潤也個人には関係の無い事だ。
 俗世との繋がりを断ち切り、孤独に生きる。そうすれば自分はこれ以上、誰も傷つけなくて済むし、辛い思いもしなくて済む。
 もう一つは、自分を騙し復讐者の道を取る道。
 再び、家族を奪ったモノへの憎悪を自分の中で反芻し、決意を新たにUHと闘う道。
 死ぬ危険性と共に、あのリベジオンのDSGCシステムによって精神を狂わせられる可能性を持つ道。
 もし暴走してしまえば、何も関係ない人々を無慈悲かつ無差別に殺してしまうかもしれない魔王となる可能性を孕んだ道。
 この二つのどちらかしか黒峰潤也にはもう残されていない。
 答えはすぐに出た。


「――――俺は、もう戦いたくない。」


 本心だった。
 このまま闘えば、また、あの倉島愛のような少女を自分は作ってしまう。
 たくさんの人間が死ぬ原因を作ってしまう。
 それに今回は偶然、倉島愛というイレギュラーがあって自分は自我を取り戻す事が出来たが、今度はそれが出来るとは限らない。
 出来なければ、リベジオンの暴走を意味し、俺自身の手でたくさんの人間を殺す事になる。
 そんな運命、耐えられなかった。
 だから、もう止めよう。
 そう思い潤也はコックピットに戻る。
 ここから降りる為にアテルラナがリベジオンに取り付けた緊急脱出装置を動かすようにパネルを操作する。
 パラシュート付きのこれを使えば、地上に安全に降りる事が出来るだろう…。
 その時、ディスプレイの一部が点滅していた。
 何かと思い、潤也はパネルを操作しディスプレイを見る。
 リベジオンに向けてのメールが送られてきたようだ、送られたきた時間は丁度2分前、潤也がコックピットから体を出していた時間。
 送り先を見ようと潤也は操作したが、送り主はこの機体に登録されている場所からでは無かった。
 メールを開く。
 そこに書かれていたのは一行の短い文章だった。


『はやく逃げろ、黒峰潤也、今、メタトロニウスがそこに向かっている。』


 電子音、着信。


『クソ、間に合わない、いいか、黒峰潤也、今お前の所に向かっている奴はお前がまったく持って適わない相手だ、奴と接触をするな、会話をするな、戦闘をするな。逃げる事だけを考えろ。』


 訳のわからないメールだった。
 再び、着信を示す電信音。


『あと一つ忠告だ。道化師と関わるのはもう止めろ、今回の事、後ろから糸を引いていたのは奴だ。奴が何を考えて今回の事件を計画したかわからないが、奴は危険だ。すぐに手を切れ。』


 着信。


『もう一度言う、お前が何を見ても、何を聞いても信じるな、見てしまったらお前はきっとそこから離れなれなくなる、だから逃げろ。これぐらいしかしてやれないが、生還を心から祈る。』


 その時、空を割く音が聞こえた。
 その瞬間辺りに、ソニックブームが起こり、リベジオンの機体を大きく揺らす。
「な……なんだ!」
 潤也はディスプレイから外の様子を窺う。
 目の前には巨大な機械仕掛けの天使がいた。
 純白に輝く全長50m程の巨躯は鋼機というには余りにも巨大すぎる機体。
 芸術性を帯びながら、機能性を極限まで追求してあるようなフォルムは格の高さを感じさせる。
 背には巨大な鎌を携えており、六枚の白銀の翼が大きく開き、紅の光を発している。
「――――UHか!!」
 あんな鋼機があるなど聞いた事は無い。
 ならば、UHの新たな鋼獣と考えるのが妥当な線ではないか…。
 潤也はリベジオンのアーカイブから敵機の情報を検索させる。
 それはすぐに発見された。

 ――――――――敵機CR-01と推定。
 しかし、データに残された機体との不一致点多し――――至宝『ダグザの大釜』の反応検出。
 機体の変化は至宝によりなんらかの変貌を遂げたと思われる。

 その表示が出た後、機体が何かに反応するようにして、蠢きだした。
 機体同士が共鳴しあっているような反応。

「聞け!黒い怨念機の適格者!あの、六獣衆の一角との闘いに至宝も用いずに勝利したその執念と強き魂に、私は尊敬の意と称賛を贈りたい。良ければ顔を出して貰えないだろうか?少しばかり貴殿と語りあいたい。」

 機械仕掛けの天使は腕を組み、四肢を失い大破したリベジオンを見降ろしながら、そうスピーカー越しに言い放つ。
 敵は何時でも己を殺せる。
 そんな絶体絶命の状況にあった、だが、潤也の関心はそんな所にはなく―――
「嘘だろ…。」
 黒峰潤也胸中は、ただ、驚きだけが支配している。
 何度も聞いた、毎日、鼓膜を通して聞いた馴染み深い声。
 ありえる筈が無い事だった、もう聞ける筈の無い声だった。
 だって、だって、お前は死んだんじゃ……無いのか?

「自己紹介が遅れた…当方は黒峰咲と怨念機メタトロニウスである。」

 そう高らかに名乗り上げ、天使の胸から現れる白髪の少女が現れる。
 その瞳、その顔を黒峰潤也は何度も見つめる。
 自分が幻を見ているのではないかと何度も目をこすり見直す。
 けれど、そこに咲はいた。
 似ている等というレベルでは無い、そのものだった。
 流れるような黒い髪は既に失われていたが、それは間違いなく黒峰咲だ。
 生きていた・・・生きていてくれた。
 そして、潤也の目から涙が零れた。


 それが黒峰潤也と黒峰咲の再開、そして、黒峰潤也の悪夢のはじまりだった。




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