アットウィキロゴ

創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

R,B&G第2話

最終更新:

sousakurobo

- view
だれでも歓迎! 編集
「誰も乗っていない、か」
「……」
 確かに少年の声を聞いたのだが、調べてみてもトラクターの操縦席に人影はない。
 天農は思い出す。
 このあたりでは“自動人形”という非搭乗型ロボットが幅を利かせているらしい。大抵は持ち主の命令を忠実
に遂行するだけだが、中には機械でありながら自らの意思を有するものもあるとか。
 巨大にして堅牢。このあたりに広く流通する武器などではとても歯が立たないそれらは、悪党の元にあっては
己が欲望を満たす暴力の究極形であり、まっとうな住民にとっては憎悪の対象だという。
 自動人形を持つ者に逆らってはならない。命が惜しければ。
 目の前のこれは人型ではないが、技術的には“自動トラクター”の製造も充分に可能ということではある。ト
ラクターは別の意味で自動に決まっているので、自律というべきかもしれないが。
 さらにいえばその設計思想は、天農が専門とするHWとも多少、似通ったものがあった。全く馴染みのないも
のでもない。先程の声についても、たとえばただの録音だとか、何とでも説明はつけられる。
「ふむ」
 天農はごんごんと緑の外装を手の甲で打ってみせた。揺るぎない重さが頼もしい。機械はこうでなくては、と
ひとしきり頷く。
 遮光器の狂博士の推測は、実のところそこまで大きく外れてはいない。しかしこのトラクターの正体が、心を
宿し、あまつさえ喋りもする規格外品の自動人形であるということには、さすがに気づかない。まして彼が無遠
慮な扱いに辟易しているなどとは、完全に想像の埒外だった。
(あんまり叩かないで欲しいんだけど……)
 世にも不思議なお喋りトラクターが、天農に正体を明かそうとしないのには理由があった。
 悪用されることの多い自動人形は、兵器という忌まわしい出自の悪印象も手伝って、俗に言う“嫌われ者”で
ある。彼自身、パートナーであるショウイチともども石もて追われたことも、一度や二度ではない。
 だが、そのことについては、寂しいと思いこそすれ、特に恨みはなかった。ただ、耕すべき畑と安住の地を求
めて、優しすぎる彼らは旅をする。
(人を、怖がらせちゃいけないよね……)
 こうしている分には大型のトラクターである。不審がられはしても、畏怖や嫌悪といった負の感情まで向けら
れることはまずあるまい。この形態なら会話してもいいような気もするのだが、自らの情報を開けっ広げにする
ことはやはり躊躇われた。
(これからどうしよう)
 当座の最優先事項は、ごたごたに巻き込まれて見失ってしまったショウイチとの合流だった。
 ただの自律型の農業機械を装って、何食わぬ顔で彼を避けるというのが最適解だろう。
 もっとも、荒野の中央で立ち往生している人間を放置していくというのも気が引ける。遮光器の男は、トラク
ターの気持ちなど露とも知らず、興味津々といった風情でキャタピラに土を振り掛けたり車体によじ登ったりと
やりたい放題だった。
(ちょっ、やめてくれないかなコノヒト……)
 堪りかねた自動トラクターが、思いきって声を掛けようと決意した直後。

「ほうほう! これは! これは! こんなところにも人族はおるのかね!」
 膠着した空気を破壊するものが、高空より現れた。
 隕石のように飛来した巨影は、天農とトラクターの傍に着地。衝撃波で濛々と赤土を舞い上げる。
 赤色透明な薄翅が、ずんぐりした胴体の背後に隠れていく。甲殻は派手ではあるが黄金というには些かみすぼ
らしい、金属光沢のある山吹色だった。
 首がほとんどなく、逆三角形の頭は肩にまぎれて分かりづらい。両端に球体の複眼があり、針状の口吻が下方
に伸びている。
 後脚で立ち上がった体長4メートルのセミとでもいおうか。人族などという言い回しをすることからも、魔族
であることは疑いようがない。上空の蛾と同じく甲属のもの。
「遊撃種にその者ありと謳われた小生! このデデ系列のデイバルデパブロイの獲物としては物足りないが! 
地上でも『巨大なる堤防も矮小なる蟻の巣穴によって決壊する』などと言い慣わすであろう! 同じこと! こ
こで見逃すのは、いかにも後味が悪い! ああ悪いとも! 悪いとも!」
 やかましい魔族だった。
「そちらの緑の兵隊カーストもろとも爆殺(ダイナマーイト)だっ!」
 おまけにせかっちだ。わけのわからないことを口走りながら、蝉の怪物は慌ただしく翅を拡げ、突然のことに
呆けるひとりと一体に猛然と襲い掛かった。
 魔族は人類のことをさほど詳しく知らない。彼らじたいが多種多様な形態であることも関係しているのか、た
だの乗り物を“戦闘用に進化した人類”、甲属でいう兵隊階級であると認識している節があった。
 衝撃波を都合良く捻じ曲げながら、彼らはものの数瞬で極超音速に達する。マッハ幾つの砲弾すら発射後から
見切る驚異の時間分解能と相まって、攻防ともに隙はない。
 目で見ることなど不可能だ。人間であるならば。武術の達人である天農でも、攻撃を予測することはできても、
肉塊が反応するには遅すぎる。
 けれど。
「いけない!」
 魔族の攻撃発動後にも天農は生きていた。
 瞬殺を是とする魔族デイバルデパブロイの急襲を、防風林となって全身で受け止めた者がいる。それは、植林
の苗木が大樹へと生長するように体の高さを増した。魔族が到達するよりも早く。
「何!?」
 驚愕の声を発したのは、魔族デイバルデパブロイだったか、天農博士だったか、あるいは彼ら二人ともか。
 トランス。
 色の濃い野菜のような瑞々しい緑。天農には見覚えがある。つい先ほどまで沈黙していた重車両と同じ。
 しかし、履帯トラクターのシルエットは、今や大きく変貌を遂げていた。
 それは身の丈4メートルの機械仕掛けの巨人。鋼鉄の四肢には、原野に挑む開拓者の頑強さ。事実としてそれ
はエーテルブラストを身に纏っての甲属魔族の突進にもびくともしない。
 頭部には、猛き雄牛を象った兜。赤のデュアルアイが意志の光を放つ。
 無限軌道を履いた車輪が移動し、背嚢と化していることを、庇われる天農は確認した。
「可変型の自動人形か!」
 わずかに振り返った優しき巨人の目には一抹の寂しさ。またそれをも上書きする断固とした戦意があった。
「話が違う! 小生の情報網では、地上で気をつけるべきは青いのくらいということになっていたのに、アンタ
緑じゃないすか!」
 いきなり砕けた物言いでいちゃもんをつけるデイバルデパブロイ。

 緑の重戦士は意にも介さず、剛力を乗せた拳をがら空きの胸板に叩き込む。一発、二発。踏み込みだけで大地
を耕す殴打は、あらゆる防御システムや術理をまとめて破壊するような重さだった。
 おかしな悲鳴を上げて吹き飛んだ怪物蝉が、翅をばたつかせて空中で体勢を立て直す。
「なんという怪力か!?」
 硬度に長けるという甲属魔族の重甲殻をも掘削する破壊力。不用意に攻撃を受ければ無限かとも思われる加重
に圧殺されるだろう。真っ向勝負など愚の骨頂。
 デイバルデパブロイは、エーテルブラストによる牽制を交えて距離を保ちながら、必死に損傷を再生する。
「しかし小生も音に聞こえた甲属のデイバブッ」
 大鍬を振り下ろすような大跳躍からの踵落としが、三角形の頭を直撃。標本ピンさながらに魔族を地表に押し
つける。
「とどめだぁ!」
 鉄火場には似合わない少年の声には、しかし幾度も修羅場を潜った者に特有の雰囲気もあった。
 アスファルトを砕く木の根のように、乾燥した空気の層を自動人形の巨腕が突破。
 正攻法では対抗できないと見た魔族デイバルデパブロイの判断は素早かった。
「空蝉ノ術!」
 手応えが軽い。緑の巨人の打突が粉砕したのは、金粉を散りばめた山吹色の抜け殻のみ。忍者のような身のこ
なしで上空に飛び上がり、エーテルブラストの乱射で砂塵を巻き起こして視界を奪う。
「また会おうっ!」
 泡を食って一時撤退する甲属魔族デイバルデパブロイ。気取った言いようの割りに口振りには余裕がない。
 ふらふらと飛び去る魔族が微細な点になるまで、自動人形は口惜しげに見送った。
(ショウイチがいれば、ソーラーキャノンが使えるのに……)
 彼が秘匿する多彩な内蔵兵器を起動するには、パートナーであるショウイチが必要だった。
 本体にもある程度の浮遊能力はあるのだが、空中戦を専門とする者に格闘だけで渡り合えるかというと際どい。
向こうが退却するというなら、全力を発揮できない今、敢えて深追いする理由もなかった。
 それに何より、足元の人間をこんな危険地帯に置き去りにしていくわけにもいかない。
「助かったよ。自動人形くん」
 聳え立つ緑の躰を見上げる遮光器の男は、口を笑みに歪めていた。ちゃっかり助けてもらったにしては、態度
はふてぶてしい。
 この地域に根強い、自動人形に対する偏見とも無縁のようすで、巨人は徐々に緊張を解いた。正体が露見した
以上、もはやだんまりを決め込むこともない。
「あなたは、僕を怖がらないみたいだね」
「極東の技術大国から来たのでね。ああ、俺の名は天農。下は男の子のヒミツだ」
 彼にとってはいつもの自己紹介をして、天農は握手の代わりに巨人の爪先に拳を当てた。
 心を宿した機械仕掛けは、少し考える素振りをしてから、少年の声で名乗った。
「僕は、タウエルン」
「田植え……るん……?」
 冗談のような脳内変換の結果に、唇を引き攣らせるしかない天農だった。



 つづく

 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます)
+ ...

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー