ショウイチ・マーチマンが、土埃の匂う辺境の村を訪れてかれこれ三日になる。
つてもなくふらりとやって来て、就農したいと申し出る青年を怪しむ者は多かったが、持ち前の太陽のような
笑顔のためか、はたまた誠実に畑仕事に従事する姿からか、今では概ね好意的に受け入れられつつある。
(だが、ここでもタウは厳しいかもしれない。いいとこ見せても、どうかな)
ショウイチは、スプリガンが自動人形と分かってからの村民達の豹変を思い出す。迂闊に顔に出すようなこと
はしないが、砂利石を蹴り飛ばしながら坂道を下る足取りは重い。
(とはいえ妙といえば、妙だ……)
自動人形そのものに負の感情が向けられることじたいは珍しくない。
しかし繰り返すようだが、周知の事実として、自動人形に並の携行兵器など無力なのだ。どんな酷薄な犯罪者
の所有物とも分からないのに、男衆総出で迎撃するという発想は、ふつうしない。ロボット三原則を心得たスプ
リガンとはわけが違う。不用意に怒りに触れれば、一帯が火の海になることも有り得るのだ。
(集団ヒステリーの不合理行動か? それにしてもな……)
土地柄を骨身に染みて知っているが故に分かる微妙な違和感が、ショウイチの中で膨らんでいく。この一件に
は、何か裏があるのかもしれない。
物思いに耽るショウイチが、村の大通りの入口を飾るアーチに差し掛かったとき、この三日で顔見知りとなっ
たエレンが息せききって駆け寄ってきた。もうすぐ二十歳になるという背の高い娘で、ショウイチが働き口とし
て紹介された村の共同農地で雑用を引き受けている。
「しょ、ショウイチくん!」
「どうかしたんですか、エレンさん?」
走り易いようにたくし上げていた丈長のスカートから手を離し、彼女は呼吸が整うまでの時間も惜しげに嗄れ
た声を発した。
「あのね、お父さん達が……!」
エレンは石ころでも呑むように渇いた喉に唾を送った。尋常ならざる事態であることは明白だった。
「今日こそ、“赤髭”を、とっちめてやるって、息巻いて……ッ!」
「あかひげ」
そのあざ名には、ショウイチも覚えがある。
「ああ、このあたりを牛耳っているっていう……」
「山賊よ」
娘は吐き捨てるように言って、農作業で日焼けした鼻筋を憎々しげに歪めた。
“赤髭四世”。噂に聞くところによると、最低でも四十人の手勢と十機近い自動人形を擁するマフィア“蠍の
尾”の首領であるという。
これと決めた集落の近くに数ヶ月に渡って居座り、暴力をちらつかせては、生かさず殺さず搾取を繰り返す。
組織じたいは小規模もいいところだがその分フットワークが軽く、幾度となく討伐に乗り出した政府軍にもなか
なか尻尾を掴ませない。
この周辺地域で既に数世代に渡って猛威を振るっており、長らく被害に遭ってきた一般市民は彼らをそれこそ
蛇蠍のごとく忌み嫌っていた。
これまで泣き寝入りしてきたものが、青い自動人形を思いのほか楽に撃退できてしまったことで勢いづいてし
まったのだろうか。村の男達は武器を手に、勇んでアジトに向かったとエレンは言った。
「……大丈夫なんですか?」
「まずいよね」
村娘は焦りの表情で爪を噛む。
猟銃以下の武装だけで自動人形を敵に回して勝てる道理はない。赤髭という男のやり口によっては、最悪、他
の集落への見せしめとして、皆殺しの憂き目に遭うかもしれない。エレンは血気盛んな男達よりも冷静だった。
「みんな殺されちゃうよ! どうしようショウイチくん! どうしたらいいと思う?」
「みなさんはどこに?」
ショウイチの決断は早かった。
「……止めに行ってくれるの?」
「僕も、今は、この村の男ですから」
エレンを安心させるように微笑む。
自動人形に滅法強いタウエルンという戦友がいないことが不安要素だが、この状況で見て見ぬ振りなどできよ
うはずもない。
先刻知り合ったスプリガンに協力を呼び掛けてもいいが、去り際にエンジンの掛かる音がしたから、恐らく既
にあの岩陰にはいまい。タイムロスになる。
北に裾を広げた丘陵の中腹。蠍の尾のアジトがあると目される洞窟をエレンから聞き出して、ショウイチは矢
のように駆け出した。
つてもなくふらりとやって来て、就農したいと申し出る青年を怪しむ者は多かったが、持ち前の太陽のような
笑顔のためか、はたまた誠実に畑仕事に従事する姿からか、今では概ね好意的に受け入れられつつある。
(だが、ここでもタウは厳しいかもしれない。いいとこ見せても、どうかな)
ショウイチは、スプリガンが自動人形と分かってからの村民達の豹変を思い出す。迂闊に顔に出すようなこと
はしないが、砂利石を蹴り飛ばしながら坂道を下る足取りは重い。
(とはいえ妙といえば、妙だ……)
自動人形そのものに負の感情が向けられることじたいは珍しくない。
しかし繰り返すようだが、周知の事実として、自動人形に並の携行兵器など無力なのだ。どんな酷薄な犯罪者
の所有物とも分からないのに、男衆総出で迎撃するという発想は、ふつうしない。ロボット三原則を心得たスプ
リガンとはわけが違う。不用意に怒りに触れれば、一帯が火の海になることも有り得るのだ。
(集団ヒステリーの不合理行動か? それにしてもな……)
土地柄を骨身に染みて知っているが故に分かる微妙な違和感が、ショウイチの中で膨らんでいく。この一件に
は、何か裏があるのかもしれない。
物思いに耽るショウイチが、村の大通りの入口を飾るアーチに差し掛かったとき、この三日で顔見知りとなっ
たエレンが息せききって駆け寄ってきた。もうすぐ二十歳になるという背の高い娘で、ショウイチが働き口とし
て紹介された村の共同農地で雑用を引き受けている。
「しょ、ショウイチくん!」
「どうかしたんですか、エレンさん?」
走り易いようにたくし上げていた丈長のスカートから手を離し、彼女は呼吸が整うまでの時間も惜しげに嗄れ
た声を発した。
「あのね、お父さん達が……!」
エレンは石ころでも呑むように渇いた喉に唾を送った。尋常ならざる事態であることは明白だった。
「今日こそ、“赤髭”を、とっちめてやるって、息巻いて……ッ!」
「あかひげ」
そのあざ名には、ショウイチも覚えがある。
「ああ、このあたりを牛耳っているっていう……」
「山賊よ」
娘は吐き捨てるように言って、農作業で日焼けした鼻筋を憎々しげに歪めた。
“赤髭四世”。噂に聞くところによると、最低でも四十人の手勢と十機近い自動人形を擁するマフィア“蠍の
尾”の首領であるという。
これと決めた集落の近くに数ヶ月に渡って居座り、暴力をちらつかせては、生かさず殺さず搾取を繰り返す。
組織じたいは小規模もいいところだがその分フットワークが軽く、幾度となく討伐に乗り出した政府軍にもなか
なか尻尾を掴ませない。
この周辺地域で既に数世代に渡って猛威を振るっており、長らく被害に遭ってきた一般市民は彼らをそれこそ
蛇蠍のごとく忌み嫌っていた。
これまで泣き寝入りしてきたものが、青い自動人形を思いのほか楽に撃退できてしまったことで勢いづいてし
まったのだろうか。村の男達は武器を手に、勇んでアジトに向かったとエレンは言った。
「……大丈夫なんですか?」
「まずいよね」
村娘は焦りの表情で爪を噛む。
猟銃以下の武装だけで自動人形を敵に回して勝てる道理はない。赤髭という男のやり口によっては、最悪、他
の集落への見せしめとして、皆殺しの憂き目に遭うかもしれない。エレンは血気盛んな男達よりも冷静だった。
「みんな殺されちゃうよ! どうしようショウイチくん! どうしたらいいと思う?」
「みなさんはどこに?」
ショウイチの決断は早かった。
「……止めに行ってくれるの?」
「僕も、今は、この村の男ですから」
エレンを安心させるように微笑む。
自動人形に滅法強いタウエルンという戦友がいないことが不安要素だが、この状況で見て見ぬ振りなどできよ
うはずもない。
先刻知り合ったスプリガンに協力を呼び掛けてもいいが、去り際にエンジンの掛かる音がしたから、恐らく既
にあの岩陰にはいまい。タイムロスになる。
北に裾を広げた丘陵の中腹。蠍の尾のアジトがあると目される洞窟をエレンから聞き出して、ショウイチは矢
のように駆け出した。
つづく
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