「連中の言い分をまとめるとだ」
赤髭四世は、蟇(ひきがえる)のように横幅の広い口の端を吊り上げた。面白がっているのだと、付き合いの
長い手下は察する。
「おれを舐めてると、そういうことだな」
中年男は目を細めて獰猛に笑った。荒野の砂礫が人のかたちを成したかのような怪傑だ。ぎらぎらと光る眼は
毒蛇にも禿鷲にも似て、でっぷりとした腹は駱駝の瘤を思わせる。上唇と顎先には、手入れも杜撰に、赤銅色の
髭が生い茂っていた。肩で風切る荒くれ者も、その口許を見れば慌てふためいて道を譲るという。
『にしても、青い自動って誰のなんですかね』
「知るか」
手下のハイヤンに素っ気なく答え、赤髭は通信機越しのノイズ混じりの声を聞く作業に戻った。彼は狭隘な部
屋にひとり。眼前には升目状に細分化されたモニタがあり、山道まわりに配置した自動人形群が拾った映像や音
声が、赤髭のもとに転送されてくる仕掛けになっていた。ねぐらの奥にいながら、赤髭は村人達の動向を手に取
るように知ることができる。
(しかし、おれのテリトリーに自動人形を持ち込む間抜けがまだいるとはな……)
徒党を組んで近づいてくる男達が口ぐちに話す内容を統合すると、村を襲った青い自動人形を追い返したとい
う事実が今回の発端らしい。
向こうはどうも赤髭が差し向けたものだと思っているようだが、それについてはとんと記憶にない。だいいち、
泣く子も黙る蠍の尾の一員がおめおめ逃げ帰るなど、有り得ないことと分かろうものだ。
『二度とこの村に近づくな!』
『赤髭は四代で終わりだ!』
『お前ら今まで、鋼獣や魔族に悪党どもから守ってやった恩を忘れやがって!』
『悪党はお前らだろ!』
『……親分、こいつらウザイんで、自動に踏み潰させていいですか?』
がやがやと村の男達が喚き立てる中、蠍の尾でも古参の日系人、スコーピ男・ハリ山の抑揚のない声がする。
「まあ、待てや」
『あい』
「最近、おれも退屈していてな。豚どもの泣き叫ぶ声を聴くのも悪くない」
『するってえと、じきじきに?』
赤髭は獰猛に笑った。
殺戮と破壊と略奪を是とするマフィア“蠍の尾”だが、そのうちの殺戮とは随分と長い間ご無沙汰だった。そ
れというのも、このあたりでは誰も彼もが飼い慣らされた羊のように従順だったからだ。大人しくしていれば命
まではとらないと周知を徹底させることが、四世代に渡る支配の秘訣だった。
しかし幾年振りか、正面きって蠍の尾に反抗する者達が現れた。それは赤髭には喜ばしいことだ。家畜の世話
ばかりではなく、たまには狩猟も楽しみたいのだ。
「反逆者は血祭りに上げないとなぁ」
赤髭は聞えよがしに舌舐めずりをした。こういうときのこの男は恐ろしい。長年苦楽をともにした手下達も、
しばらくは声を掛けるのを躊躇うほど。
『――あーあーテステス。ミスター赤髭? ああ、そこにいますね。お久し振りです』
しかし見よ。沙漠の怪傑にも怖じることなく、癇に障る声で囁いた男がいる。木乃伊のような痩身に黒いスー
ツ。眼鏡を掛けることで視力ではなく悪の力を高めた、それは危険なかほりの男。
「……相変わらずいい度胸だな、へぼエージェント」
赤髭が一瞬だけ無表情になり、すぐに憤怒の相となる。
通信に割り込みを掛けた彼は、コードネームをイッツァ・ミラクル、地球上に蔓延る巨悪のひとつ“ワルサシ
ンジケート”に属する魔人である。赤髭にとっては、対等に話ができる数少ない人物でもあった。もっとも、そ
の間柄は、友人というよりは宿敵に近い。
赤髭四世は、蟇(ひきがえる)のように横幅の広い口の端を吊り上げた。面白がっているのだと、付き合いの
長い手下は察する。
「おれを舐めてると、そういうことだな」
中年男は目を細めて獰猛に笑った。荒野の砂礫が人のかたちを成したかのような怪傑だ。ぎらぎらと光る眼は
毒蛇にも禿鷲にも似て、でっぷりとした腹は駱駝の瘤を思わせる。上唇と顎先には、手入れも杜撰に、赤銅色の
髭が生い茂っていた。肩で風切る荒くれ者も、その口許を見れば慌てふためいて道を譲るという。
『にしても、青い自動って誰のなんですかね』
「知るか」
手下のハイヤンに素っ気なく答え、赤髭は通信機越しのノイズ混じりの声を聞く作業に戻った。彼は狭隘な部
屋にひとり。眼前には升目状に細分化されたモニタがあり、山道まわりに配置した自動人形群が拾った映像や音
声が、赤髭のもとに転送されてくる仕掛けになっていた。ねぐらの奥にいながら、赤髭は村人達の動向を手に取
るように知ることができる。
(しかし、おれのテリトリーに自動人形を持ち込む間抜けがまだいるとはな……)
徒党を組んで近づいてくる男達が口ぐちに話す内容を統合すると、村を襲った青い自動人形を追い返したとい
う事実が今回の発端らしい。
向こうはどうも赤髭が差し向けたものだと思っているようだが、それについてはとんと記憶にない。だいいち、
泣く子も黙る蠍の尾の一員がおめおめ逃げ帰るなど、有り得ないことと分かろうものだ。
『二度とこの村に近づくな!』
『赤髭は四代で終わりだ!』
『お前ら今まで、鋼獣や魔族に悪党どもから守ってやった恩を忘れやがって!』
『悪党はお前らだろ!』
『……親分、こいつらウザイんで、自動に踏み潰させていいですか?』
がやがやと村の男達が喚き立てる中、蠍の尾でも古参の日系人、スコーピ男・ハリ山の抑揚のない声がする。
「まあ、待てや」
『あい』
「最近、おれも退屈していてな。豚どもの泣き叫ぶ声を聴くのも悪くない」
『するってえと、じきじきに?』
赤髭は獰猛に笑った。
殺戮と破壊と略奪を是とするマフィア“蠍の尾”だが、そのうちの殺戮とは随分と長い間ご無沙汰だった。そ
れというのも、このあたりでは誰も彼もが飼い慣らされた羊のように従順だったからだ。大人しくしていれば命
まではとらないと周知を徹底させることが、四世代に渡る支配の秘訣だった。
しかし幾年振りか、正面きって蠍の尾に反抗する者達が現れた。それは赤髭には喜ばしいことだ。家畜の世話
ばかりではなく、たまには狩猟も楽しみたいのだ。
「反逆者は血祭りに上げないとなぁ」
赤髭は聞えよがしに舌舐めずりをした。こういうときのこの男は恐ろしい。長年苦楽をともにした手下達も、
しばらくは声を掛けるのを躊躇うほど。
『――あーあーテステス。ミスター赤髭? ああ、そこにいますね。お久し振りです』
しかし見よ。沙漠の怪傑にも怖じることなく、癇に障る声で囁いた男がいる。木乃伊のような痩身に黒いスー
ツ。眼鏡を掛けることで視力ではなく悪の力を高めた、それは危険なかほりの男。
「……相変わらずいい度胸だな、へぼエージェント」
赤髭が一瞬だけ無表情になり、すぐに憤怒の相となる。
通信に割り込みを掛けた彼は、コードネームをイッツァ・ミラクル、地球上に蔓延る巨悪のひとつ“ワルサシ
ンジケート”に属する魔人である。赤髭にとっては、対等に話ができる数少ない人物でもあった。もっとも、そ
の間柄は、友人というよりは宿敵に近い。
「まさか青い自動とやらは、てめぇの差し金か?」
『とんでもない。むしろ一部の村人を買収してパニックを演出したのがワタクシです。ハーメルンの笛吹きよろ
しく暴走したのは予想外でしたが。』
「あん?」
『いろいろと確かめたいことがありましてね。人類に祝福されるべくして生まれ変わったHWS‐03の士気は、
民衆の罵声にどのような影響を受けるのか、とかね。くだらないと思われることでしょうが、これがなかなか重
要なことなのです』
「何をほざいているのかさっぱり分からんが、ようは青い自動は“おれ達”の敵なんだな」
『本来は魔族の敵ですが、少なくとも非道を見逃したりはしないでしょうね』
イッツァ・ミラクルは冗談めかして嘆息した。
『青いのだけではありません。それなりに強い外来種の害虫が二匹、そしてタウエルンとかいう常識外れの自動
人形もいます。そこは今、ちょっとした火薬庫ですよ? さらにいえば、ワタクシの送り込んだ私兵もそろそろ
到着するかと!』
「ああそうかよ。ご苦労なことだ」
『それはもう。欲しい情報は幾らでもありますとも。あのトラクターの自動人形が隠すという門外不出の特殊機
能。アル・ハーカーンの設計図に対する第一の回答である対魔族兵器の実力。そして何より、スーパーロボット
二機の戦力の相乗効果』
「スーパーロボットだ?」
死の商人が唐突に口にした単語の現実味のなさに、赤髭は唇をひん曲げた。
『そう! 新世紀それはスーパーロボットの時代!』
イッツァ・ミラクルはそこで調子づき、舞台役者のように声を高くする。
『次々に出現する地球人類の敵対者達! 例えば、金属を食らい尽くす異形の怪獣“鋼獣”! 見境なく人間を
襲うというマナの巨怪“はぐれオートマタ”! あるいは所属不明の獣型兵器“メタルビースト”! 動物相を
根絶やしにして土地を我が物とする怪物頭足類“ワーム”! 地上の獣禽鱗甲に似て非なる異世界の知的巨大生
物“魔族”! そして、種々雑多とした幻想世界の住人達の混在する“ジャーク魔法帝国軍”!』
乗っ取られたモニタの中で、怪物達の映像が踊る。踊る。踊る。
『とんでもない。むしろ一部の村人を買収してパニックを演出したのがワタクシです。ハーメルンの笛吹きよろ
しく暴走したのは予想外でしたが。』
「あん?」
『いろいろと確かめたいことがありましてね。人類に祝福されるべくして生まれ変わったHWS‐03の士気は、
民衆の罵声にどのような影響を受けるのか、とかね。くだらないと思われることでしょうが、これがなかなか重
要なことなのです』
「何をほざいているのかさっぱり分からんが、ようは青い自動は“おれ達”の敵なんだな」
『本来は魔族の敵ですが、少なくとも非道を見逃したりはしないでしょうね』
イッツァ・ミラクルは冗談めかして嘆息した。
『青いのだけではありません。それなりに強い外来種の害虫が二匹、そしてタウエルンとかいう常識外れの自動
人形もいます。そこは今、ちょっとした火薬庫ですよ? さらにいえば、ワタクシの送り込んだ私兵もそろそろ
到着するかと!』
「ああそうかよ。ご苦労なことだ」
『それはもう。欲しい情報は幾らでもありますとも。あのトラクターの自動人形が隠すという門外不出の特殊機
能。アル・ハーカーンの設計図に対する第一の回答である対魔族兵器の実力。そして何より、スーパーロボット
二機の戦力の相乗効果』
「スーパーロボットだ?」
死の商人が唐突に口にした単語の現実味のなさに、赤髭は唇をひん曲げた。
『そう! 新世紀それはスーパーロボットの時代!』
イッツァ・ミラクルはそこで調子づき、舞台役者のように声を高くする。
『次々に出現する地球人類の敵対者達! 例えば、金属を食らい尽くす異形の怪獣“鋼獣”! 見境なく人間を
襲うというマナの巨怪“はぐれオートマタ”! あるいは所属不明の獣型兵器“メタルビースト”! 動物相を
根絶やしにして土地を我が物とする怪物頭足類“ワーム”! 地上の獣禽鱗甲に似て非なる異世界の知的巨大生
物“魔族”! そして、種々雑多とした幻想世界の住人達の混在する“ジャーク魔法帝国軍”!』
乗っ取られたモニタの中で、怪物達の映像が踊る。踊る。踊る。
『それらへのカウンターアタックとしてか、彼らは生まれ、もしくは目覚め、もしかしたらやって来た!』
興奮に甲高い声を上擦らせて、イッツァ・ミラクルは大いに語る。
赤髭の視界を埋め尽くす画面に、それぞれ別の色が混じる。
『わずか一機で戦局を激変させる巨大人型兵器の出現!』
赫光を帯びた長槍を操り、ジャーク魔法帝国軍のワイバーンに執拗な攻勢を掛ける機械仕掛けの魔王。光の粒
子を撒き散らし、はぐれオートマタを土に還す緑の自動人形。目許から光線を放ち、夥しいワームの群れを薙ぎ
払うくろがねの巨人。
『目まぐるしく発展していく技術と戦術!』
白銀の甲冑で武装した女戦士の巨体を、矮躯をもって翻弄する黒騎士はオートマタか。自動人形まで持ち出し
て軍の物資を狙った賊を、ぎこちない連携で切り崩しに掛かる機甲部隊。土中から奇襲を掛けるもぐらの鋼獣を
超反応で迎撃する、腕の生えたスーパーカー。
『人類の肉体や精神すらも、そのままではいられない!』
空飛ぶ狼のメタルビーストに長距離砲の照準を合わせる青い肩当ての強化服は、全身武器の塊。巨象に似た魔
族に対してフォーメーションを組むのは、人工的に創られた獣人によって操縦されるという10メートル級人型
兵器四機だ。
そして――この世界のどこかに存在するであろう、まだ見ぬスーパーロボット達も。
『スーパーロボット同士が接触したとき、果たしてこの世界に何が起こるのか。我々のビジネスにミラクルチャ
ンスは訪れるのか、この一件が未来を予測するための材料になるでしょう』
「たかだか二機の自動人形が、何になるってんだ」
赤髭は呆れ果てたように鼻息を飛ばした。
『あなたほどの男ならば相対しただけでも分かるはずだ、彼らの常軌を逸したポテンシャルが。このワタクシも、
どちらか片方だってまともに相手したくありませんね。ブルーのほうは最速、グリーンのほうは最凶です。極超
音速の陸戦兵器や、“無生物に対する細菌兵器”など、逆ミラクルにもほどがある』
「フン」
赤髭はつまらなそうな顔をした。
「いいか奇跡坊や。どんなに馬鹿っ速いランナーも、土を蹴らなきゃ走れねぇんだよ」
人型であるが故の限界。物質であるが故の制約。エーテルだのマナだので多少法則を捻じ曲げられようとも、
攻略法は必ず存在する。それが、沙漠の怪傑の持論だった。
「思い知らせてやる。この究極の自動人形“赤髭スペシャル”で」
背後の巨影を思いながら、男は笑う。
赤、青、そして緑の運命が交錯する時は近い。
興奮に甲高い声を上擦らせて、イッツァ・ミラクルは大いに語る。
赤髭の視界を埋め尽くす画面に、それぞれ別の色が混じる。
『わずか一機で戦局を激変させる巨大人型兵器の出現!』
赫光を帯びた長槍を操り、ジャーク魔法帝国軍のワイバーンに執拗な攻勢を掛ける機械仕掛けの魔王。光の粒
子を撒き散らし、はぐれオートマタを土に還す緑の自動人形。目許から光線を放ち、夥しいワームの群れを薙ぎ
払うくろがねの巨人。
『目まぐるしく発展していく技術と戦術!』
白銀の甲冑で武装した女戦士の巨体を、矮躯をもって翻弄する黒騎士はオートマタか。自動人形まで持ち出し
て軍の物資を狙った賊を、ぎこちない連携で切り崩しに掛かる機甲部隊。土中から奇襲を掛けるもぐらの鋼獣を
超反応で迎撃する、腕の生えたスーパーカー。
『人類の肉体や精神すらも、そのままではいられない!』
空飛ぶ狼のメタルビーストに長距離砲の照準を合わせる青い肩当ての強化服は、全身武器の塊。巨象に似た魔
族に対してフォーメーションを組むのは、人工的に創られた獣人によって操縦されるという10メートル級人型
兵器四機だ。
そして――この世界のどこかに存在するであろう、まだ見ぬスーパーロボット達も。
『スーパーロボット同士が接触したとき、果たしてこの世界に何が起こるのか。我々のビジネスにミラクルチャ
ンスは訪れるのか、この一件が未来を予測するための材料になるでしょう』
「たかだか二機の自動人形が、何になるってんだ」
赤髭は呆れ果てたように鼻息を飛ばした。
『あなたほどの男ならば相対しただけでも分かるはずだ、彼らの常軌を逸したポテンシャルが。このワタクシも、
どちらか片方だってまともに相手したくありませんね。ブルーのほうは最速、グリーンのほうは最凶です。極超
音速の陸戦兵器や、“無生物に対する細菌兵器”など、逆ミラクルにもほどがある』
「フン」
赤髭はつまらなそうな顔をした。
「いいか奇跡坊や。どんなに馬鹿っ速いランナーも、土を蹴らなきゃ走れねぇんだよ」
人型であるが故の限界。物質であるが故の制約。エーテルだのマナだので多少法則を捻じ曲げられようとも、
攻略法は必ず存在する。それが、沙漠の怪傑の持論だった。
「思い知らせてやる。この究極の自動人形“赤髭スペシャル”で」
背後の巨影を思いながら、男は笑う。
赤、青、そして緑の運命が交錯する時は近い。
つづく
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