柊かがみ T-01c
最終更新:
strawberryrowa
-
view
柊かがみ T-01 「絶望の1日の、はじまり」
ゲームの執行責任者である黒崎義裕がモニターより姿を消して数分か十数分後。
未だ、かがみの姿はそのままのその場所にあった。
広いフードコートの真ん中、いくつもの無人の席に囲まれた心寂しいそこに、ただ停止していた。
開始の号砲を聞き逃したのかのように、ただそこに取り残されている。
テーブルの上に広げた荷物もそのままに、かがみは椅子の上で独りポツンと停止していた。
広いフードコートの真ん中、いくつもの無人の席に囲まれた心寂しいそこに、ただ停止していた。
開始の号砲を聞き逃したのかのように、ただそこに取り残されている。
テーブルの上に広げた荷物もそのままに、かがみは椅子の上で独りポツンと停止していた。
「……どうしろって」
誰に聞かせるでもない掠れた声がその口から漏れた。
視線の先には広げられたゲームの参加者名簿――その中にある8人の名前。
それは幸いなのかやはり不幸だと言えばいいのか、ここに一緒に来た妹と友達の名前が欠けることなく揃っている。
視線の先には広げられたゲームの参加者名簿――その中にある8人の名前。
それは幸いなのかやはり不幸だと言えばいいのか、ここに一緒に来た妹と友達の名前が欠けることなく揃っている。
「殺す、とか…… …………ない」
しかしこの一日が終わればその名前は全て、……あったとしても一人を残して欠けてしまうのだ。
実感は未だ存在しない。
しかし、理性はこのバトル・ロワイアルというゲームが現実であると冷静に認識していた。
実感は未だ存在しない。
しかし、理性はこのバトル・ロワイアルというゲームが現実であると冷静に認識していた。
夢や冗談だと笑い飛ばすことができれば、例えそれが本当でなかったとしても楽だろう。
無謀を無謀と思わずただがむしゃらに反骨する精神があれば、叶わないとしても前に進めるだろう。
シニカルに無情を嘯き仮面を被ってでもゲームを肯定できるのならば、身体の襲う震えは収まるだろう。
いっそのこと全てを投げ打ち気を狂わせることができれば、治まることのない吐き気を忘れることができるだろう。
無謀を無謀と思わずただがむしゃらに反骨する精神があれば、叶わないとしても前に進めるだろう。
シニカルに無情を嘯き仮面を被ってでもゲームを肯定できるのならば、身体の襲う震えは収まるだろう。
いっそのこと全てを投げ打ち気を狂わせることができれば、治まることのない吐き気を忘れることができるだろう。
「……………………どうしよう」
しかしかがみはそのどれをも選ぶことができないでいた。
それほど楽観的でもなく、それほど前向きでもなく、それほど割り切りもよくなく、そしてそれほど弱くもない。
いつもどこか冷静で、いつもどこか後ろ向きで、いつもどこか思いきれず、そしてそれほど強くもない。
故にどの方向に進むこともできずに、ただただ恐れを抱いて停止していた。
それほど楽観的でもなく、それほど前向きでもなく、それほど割り切りもよくなく、そしてそれほど弱くもない。
いつもどこか冷静で、いつもどこか後ろ向きで、いつもどこか思いきれず、そしてそれほど強くもない。
故にどの方向に進むこともできずに、ただただ恐れを抱いて停止していた。
「大丈夫。私ひとりじゃない…………」
決心はできないから、仮初の回答として保留を――問題の先送りを選び、かがみはようやく停止した状態を解いた。
溜息を胸の中に飲み込み、なけなしの気丈さを総動員して涙を我慢し、石の様だった体を持ち上げ立ち上がる。
緩慢ではないがいくらかはぎこちない程度の動きでかがみはテーブルの上に広げた荷物を纏め始めた。
溜息を胸の中に飲み込み、なけなしの気丈さを総動員して涙を我慢し、石の様だった体を持ち上げ立ち上がる。
緩慢ではないがいくらかはぎこちない程度の動きでかがみはテーブルの上に広げた荷物を纏め始めた。
「うん、大丈夫」
言い聞かせるようにもう一言。
強がりにしかすぎないが声が出てかがみは安堵した。僅かな虚勢を張れる程度の強さはまだあると。
そしていくらかの逡巡の後、テーブルの上の拳銃をその手に掴んだ。
強がりにしかすぎないが声が出てかがみは安堵した。僅かな虚勢を張れる程度の強さはまだあると。
そしていくらかの逡巡の後、テーブルの上の拳銃をその手に掴んだ。
その漆黒の拳銃の名前は『ベレッタ90Two』
勿論、そんなことを銃に疎い彼女が知るわけもないが、しかしそれが殺すための道具でしかないことは知っている。
これを使って誰かを殺そうなんてそんな風には考えてはいない。
これを持ったら醜くも過ちを犯してしまうかも知れないとそんな恐れもある。
だがそれよりも何も持っていないことが怖くて、ありのままの弱さを晒す事の恐怖に彼女は武器を手に取った。
これを使って誰かを殺そうなんてそんな風には考えてはいない。
これを持ったら醜くも過ちを犯してしまうかも知れないとそんな恐れもある。
だがそれよりも何も持っていないことが怖くて、ありのままの弱さを晒す事の恐怖に彼女は武器を手に取った。
「これは、お守り。脅かすだけ……撃たなければ、いい……」
あくまで威嚇するため、見せ掛けだけの防衛用。そう、かがみは薄い理屈の壁で恐れる心を隠す。
とりあえずの目的を設定し、何もかもを空虚に考える。それが現在の彼女の精一杯の自分を守る方法だった。
自らを包み込む深く冷たい圧力を、目を瞑って無視することでしのぎ彼女はようやく歩き始める。
とりあえずの目的を設定し、何もかもを空虚に考える。それが現在の彼女の精一杯の自分を守る方法だった。
自らを包み込む深く冷たい圧力を、目を瞑って無視することでしのぎ彼女はようやく歩き始める。
「とにかく、みんなを集めてどこかに隠れて考えれば――……」
その言葉に当ては無い。ただの気休めで、そして気休めの為に発した言葉だ。
今しなくてはならないのは溢れかかった不安を決して外には零さないこと。
恐怖を分かち合える誰かと出会えるその時まで動き出した足が止まらぬようかがみは自分を欺く。
今しなくてはならないのは溢れかかった不安を決して外には零さないこと。
恐怖を分かち合える誰かと出会えるその時まで動き出した足が止まらぬようかがみは自分を欺く。
「つかさ……泣いてないといいけど……」
右腕に嵌めた腕時計で、そろそろ最初の1時間が終わる頃だと確認するとかがみは少し足を速めた。
何時の間かに館内には営業時と同じ様に軽く明るいBGMが流れていて、それが逆に不気味さを煽っている。
そんな中、テーブルの群れを抜けて通路へと出て、そして改めて隣のキッズコーナーへとその時――
何時の間かに館内には営業時と同じ様に軽く明るいBGMが流れていて、それが逆に不気味さを煽っている。
そんな中、テーブルの群れを抜けて通路へと出て、そして改めて隣のキッズコーナーへとその時――
――パァンと、音が届いた。
軽く乾いた破裂音。
さっき聞いたばかりの、なので聞き間違えるはずもない、首輪の破裂する音がかがみの耳に届いた。
さっき聞いたばかりの、なので聞き間違えるはずもない、首輪の破裂する音がかがみの耳に届いた。
「…………う」
嘘だと言おうとして、しかしかがみは諦めた。そこまで現実を無視できるほど鈍くも強くも無い。
首輪が破裂した音には一つの変わらない意味と、そしてあらゆる可能性がある。
短い瞬間の内に彼女は迷って迷って迷って恐れて、しかしそれよりも僅かに勝った焦りに背を押され、進む。
首輪が破裂した音には一つの変わらない意味と、そしてあらゆる可能性がある。
短い瞬間の内に彼女は迷って迷って迷って恐れて、しかしそれよりも僅かに勝った焦りに背を押され、進む。
知っているだれかが死んでいるのではないと、その願いを確かにする為に――だけど。
かがみがそこに発見したのは、
血溜まりの中に横たわる妹の姿と、彼女の首輪から外されたタグを手に握った一人の少女の姿であった。
血溜まりの中に横たわる妹の姿と、彼女の首輪から外されたタグを手に握った一人の少女の姿であった。
こうして、柊かがみの最後の一日。その1時間目は終了し、絶望の2時間目が始まる――……
| next⇒ |