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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

Dischord.1

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 Dischord










 「ユキユキユキユキユキユキ一雪いいいぃぃぃぃーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」


 ものすごい叫び声をあげながら階段を駆け上がって来た人物は、そのままの勢いで赤城一雪の部屋のドアを開けた。


 バンッッッッッ!!


 外れてしまうのではないかというくらい力一杯ドアを開けて部屋に飛び込んで来た大声の主、海野比奈は、一気に一雪の背中に抱きついた。


「一雪っ! また会えたよ~! どうしよう、もうめっちゃカッコいいよお~~~!」

「はいはい、それ昨日も聞いたし。分かったから離れて、邪魔」


 一雪の一言に顔をしかめると、比奈は巻き付けた腕で一雪の首をキュッと絞め上げた。


「む~っ! 一雪優しくな~い! 可愛い幼なじみがこんなにも幸せ一杯なのに、どうして一緒に喜んでくれないのよっ!」

「苦しいよ! もうっ。自分で可愛いなんて言うなよ……僕は比奈みたいに暇じゃないの」


 すぐに腕の力を緩めて一雪から離れると、比奈はベッドの上に飛ぶように座った。

 離れ際比奈から淡い香りがして、一雪はドキっとする。


「今更そんなに必死になって勉強しなくてもいいじゃない、頭良いんだからさ。おまけにさっきまで予備校行ってたくせに、帰って来てまで勉強するなんて信じられない。何? もしかして一雪ってばハーバードとかケンブリッジにでも行くつもりなの?」


 急に真面目な顔をして心配そうに言う比奈に、一雪はため息を吐いた。


「そんな訳ないだろ? 比奈みたいに勉強しなくても良い成績なんて僕は取れないんだ。一年生のうちからしっかりやってないと、大学受からないだろ?」

「大学行ったら偉いの?」

「は?」

「だから、いい大学行ったら偉いの?」

「そりゃあいい大学に行けばいい会社にだって入れるかも知れないし、学者や政治家なんかにもなれるかもしれないから偉いんじゃないか?」

「……一雪は偉くなりたいの?」

「はあ?」

「大学なんて行っても行かなくても同じでしょ? 私、学歴で人を判断するような会社には就職しないもん」


 また訳の分からない事を言い出した幼なじみに、一雪はまともに会話する気力をすっかり奪われた。


 こんなののどこがいいんだ、僕はーーー


 そう、赤城一雪は幼なじみであるこの海野比奈の事が好きなのだ。

 もちろん恋愛対象として。

 性格も明るくて人当たりが良く、頭も運動神経も良くておまけになかなかの器量好しである比奈は、小学校の頃から男女共に人気者だった。

 家が近所。というか、真裏に住んでいて親同士も仲が良かった一雪は、物心つく前から比奈と一緒に過ごす事も多く、幼い頃は比奈を兄と自分どちらのお嫁さんにするかでしょっちゅう喧嘩していた……らしい。

 という訳で、一雪は気付いたら比奈を好きになっていた。だから、どこがいいのかと冷静に考えようとしてもさっぱり分からない。

 頭の回転が速いのか独特なのか、比奈は時折突拍子も無い事を言ったりやったりしては周囲を驚かせる。

 その尻拭いをさせられて来た一雪にとって、比奈は限りなく迷惑な存在のはずなのだがーーー

 好きなものは好きなので、仕方がない。

 しかもそんな比奈には最近気になる男性が出来たらしく、その人を見かけたり会ったりした日にはこのようにしてご丁寧に報告に来てくれるのだ。

 一雪としてはこれもやはり迷惑千万なのだが、本人は純粋に話しを聞いて欲しいだけらしいので仕方なく聞いてやる。

 悪意がない分余計に質が悪い。

 真綿で首を絞められるというのはきっとこんなんだろうな。

 などと己の不幸を嘆いてみる。

 じっと黙ったまま自分を見つめる比奈に、一雪は漸く椅子を回転させて向き合った。


「あのさ、一つ聞いてもいい?」

「何?」


 一雪の目の前に座る比奈は視線を一雪から外さない。 


「なんで毎回毎回僕の所に来てその男の人の事を報告するんだ?」

「あれ? 大学の話しは?」

「それは僕が話し始めた事じゃないだろ。いいから僕の質問に答えてよ」

「なんでって……一雪は私の悩み聞いてくれないの?」


 嫌だから聞いてるんだ!


 と、喉まで出かかって堪える。


「好きな人の話しって、普通女の子の友達にするもんだろ? 男の僕にしてもしょうがないと思うぜ?」

「え? 何で? だって男の人が好きなんだから、同じ男の一雪に色々聞いた方が分かるでしょ?」

「何が?」

「女の子のどんな仕草が可愛いって思うかとか、服装とか、趣味とか?」


 そんな事比奈の奴も考えるのか…… 


「ーーーそれって人それぞれ違うだろ」


 呆れたように言われ、比奈は気がついたらしい。


「あ、そうか」

「はあ……比奈って頭いいくせにバカだよな」

「バカって言うな! でもそっか、そうだよね。趣味なんて人によって違うもんね……えっ? じゃあ、どうやったらあの人の趣味とか好みとか分かるの!?」

「本人に聞けばいいだろ?」


 そこで目を丸くさせ、慌てて首を横に振る。


「無理無理っ! 恥ずかしくてそんなの聞けないよっ!」

「恥ずかしいって、別にストレートに聞かなくたっていいだろ?」

「ストレートじゃない聞き方ってなに?」

「最近こんな服が流行ってるみたいですね。どう思いますか? とかって切り出してからさりげなくその人の好みを探ればいいだろ?」


 って、何僕は真面目にアドバイスなんてしてるんだよっ! しかもアドバイス適当すぎだろ!


 結局突き放したりなんて出来ない自分の甘さが恨めしい。


「そっか……でも私、あの人の名前も年も知らないし、話した事もほとんどない」

「ふうん・・・・・・・・・・・・・って、ええええっっっ!?」


 一雪はしごく真面目な顔で言い放った比奈を、しばらくバカと連呼し続けました。














 比奈には小学校の時に仲良くなった女の子の友人がいる。

 その子は小学校の5年生の時に別の町に転校して、高校入学と同時にはばたき市に戻ってきた。転校してからもずっと仲良くしていて、再会を心から喜んだ。

 残念ながら高校は別なのだが、今はバイト先が近い事もあってしょっちゅう会っていた。


「ねえ、比奈」

「なに? あーちゃん」

「もし、偶然知らない男の人とぶつかった時にチューしちゃったら、比奈はどうする?」

「んー? びっくりする」

「……いや、そうだけど、そうじゃなくって。そのあとチューしちゃった男の子と普通にしゃべったり出来る?」

「うん、できる」

「ーーーごめん、比奈に聞いたわたしが馬鹿だった」

「え~、なんでよ~? もしかしてあーちゃん知らない男の人とチューしたの?」

「その言い方、私が恥女みたいだからやめて……」


 がっくりと肩を落とした友人の“あーちゃん”こと小倉あかりは、目の前でものすごいスピードで本を読む比奈に相談した事を後悔していた。


「じゃあなんでそんな事聞くの?」

「いや、うん、事故だよ。学校の階段で足滑らせて、落ちる私を助けてくれた男の子のほっぺたに、その……」

「チューしたんでしょ?」

「そ……そうなんだけどーーー」


 真っ赤な顔で俯いたあかりに、比奈はにっこり微笑んだ。

 少し離れた席に座って二人をチラチラと見ていた二人組の男性客が、比奈のその笑顔を見て可愛いと騒いでいる。


「あーちゃんはどう思うの?」

「恥ずかしいよっ! でも、その人が事故だと思って早く忘れるようにって言ったから、忘れようと努力はしてる……」

「努力しても忘れられないから私に相談してるんじゃないの?」


 普段は天然なくせにたまに鋭いことを言う比奈に、あかりはため息を吐く。


「なんだかあれ以来すごく意識しちゃって……なるべく彼の前では平静を装ってるんだけど、すっごく気になるの」

「その人の事、好きになっちゃったんだ」


 比奈の一言に、あかりははっとなる。


「そっか……わたし、彼の事好きなんだーーー」


 なんだ、そうだったんだと一人で納得するあかり。

 こういう恋の始まり方もあるのだなと、比奈はじっとあかりの顔を見つめた。

 あかりはどちらかというと可愛らしいタイプだと思う。性格はおっとりしているようで実はしっかり者だ。

 離れていた4年ほどの期間も、お互いに手紙や電話などでずっとやり取りしていたし、夏休みなどは泊まりに行ったりもしていたおかげで何でも知っている仲だ。

 連絡が途切れなかったのもひとえにあかりのマメな性格のおかげと言っていい。

 何でも話せる存在はとても貴重で、比奈はあかりを大切に思っていた。


「ねえあーちゃん。私、あーちゃんの事応援してるからね! あーちゃんの為だったら、出来る事はなんでもしてあげるから。だから、何でも相談してーーー頼りないかもしれないけど」


 そう言って笑う比奈に、あかりは嬉しそうに言った。


「うん、ありがとう! 比奈も私に相談してよね。 あ、例の花屋さん、だっけ? あれからどう? 進展はあった?」


 あかりに言われて比奈はがくりと肩を落とした。


「言わないで……恥ずかしくって未だにこんにちはとお疲れさまですしか言えないの」


 普段は明るくて社交的な比奈が、最近好きになった男性には驚く程奥手なことにあかりは驚いていた。


「そっか。うん、でもこれからだよ。焦らずゆっくり行こうよ」

「うん。そだね! 一雪にもアドバイスもらったし」


 あかりは比奈の幼なじみである一雪の顔を思い出した。

 比奈は好きな人の事を一雪に相談しているらしい。


 ユキ君、かわいそ……


 同情せずにはいられない。

 なんせ一雪は、あかりが知っている小学校の時からずっと比奈の事が好きなのだから。

 確かめた事は無いが。


「なんてアドバイスもらったの?」

「あのね。まずは挨拶を続けて、顔を覚えてもらえって。それから、自分から花屋に花を買いに行ったりして、名前を覚えてもらえって」

「ふんふん」

「それで、私が話すのに慣れて来たら、少しずつ相手の事を聞いて行けって」


 好きな人の恋愛相談を真面目に聞いてやる一雪の優しさを心から讃えてやりたかった。

 一体どんな気持ちで比奈にアドバイスをしているのだろう。


「そっか。うん、頑張りなよ」

「うん、お互いにね」


 そう言って比奈は再び読書を再開した。

















 比奈は緊張しすぎて吐き気を覚えていた。

 今、比奈は花屋の前に立っている。

 そう、大好きな花屋のお兄さんに会うためにやって来たのだ。

 ドッドッドッド……

 それはもう機関車が走っているのではないかというくらい心臓が鳴っている。


 どうしよう。店の買い出し頼まれたついでに花屋に寄って受け取ってきます。なんて言っちゃったけど、ものすごく後悔してる……


 そしてまた吐き気。


「うっ……」


 比奈のバイト先の喫茶店のマスターは花が好きらしい。

 おかげで3日に一度は花屋アンネリーに配達を頼んでいる。

 バイトを始めてから、配達にやって来るアンネリーの若い男に比奈は恋をした。

 がっしりとした大きな体は綺麗な花とミスマッチで、それでも笑顔が爽やかでカッコいいと思った。

 何度か見かけるうちに軽く会釈をして挨拶を交わす程度にはなったが、会えば会うほどその男が気になって仕方なかった。

 それが恋だと気付くのに、およそ一月を要したのだが、そんなのは問題ではなかった。

 会いたい。

 話したい。

 そんな思いがどんどんと募り、今日はとうとう一雪にもらったアドバイスを実践するために吐き気をこらえてここまでやって来た。

 喫茶店はさほど大きな店ではないので頼む花の量もそう多い訳ではないし、比奈一人で持って帰ることはできる。

 しかし、問題はどうやって声をかけるかだ。

 何度も配達に来ているのだからもしかしたら比奈の顔くらい覚えていてくれてるかもしれないが、そんな自信はない。

 それ以前に相手の名前すら知らないのだ。


 でもアンネリーに寄って帰らないと……


「あれ、君はアルカードの……」


 背後から聞こえた声に比奈はビクリと肩をすくめ、ゆっくりと振り返った。


 !?


 そこにいたのはあの男の人だった。

 配達の帰りらしく、手には車のキーを持っていて、比奈をじっと見ている。


「あっ、はいっ!」


 声が緊張している。

 比奈は落ち着け落ち着けと言い聞かせながら、男がアルカードの店員だと覚えていてくれたことを嬉しく感じていた。


「制服着てるってことは、今日はバイト?」

「はい、あの、買い出しのついでに花を受け取ろうと思って……」


 やっとのことで絞り出したその短い言葉に、比奈はどっと疲れを感じた。


 あ、そうか。制服着てるから分かったのかな。ん? でも制服着てるってことはバイト? って聞いてたから、やっぱり私の顔覚えててくれたってこと? え? どっち? 


 混乱する比奈を見て男はまたあの笑顔を向けると言った。


「もう少ししたら配達に行くつもりだったから、ついでに送るよ」

「ええっ!? いや、大丈夫ですっ! 花だけもらって一人で帰れますからっ」


 慌てる比奈に、男は笑う。


「他にもアルカード方面に配達あるし、ついでだから気にするなよ」


 フレンドリーに話してくれていることに多少驚きつつも、会話が成立しているのが何より感動だった。

 初めてまともに話した男に、比奈は張り裂けそうな心臓を抑えるように頭を下げた。


「あ、ありがとうございます……」





 結局男は配達車に比奈を乗せ、アルカードまで送ってくれた。

 何て優しいんだろうと比奈は心が温かくなる。

 そして車の中で男は色々と話してくれた。

 名前は真咲元春。二流大学の一年生で、羽ヶ崎学園出身らしい。

 比奈はほとんどしゃべることが出来なかったのだが、名前と学校と学年をやっと伝えることが出来た。

 それも真咲が聞いてくれたから答えただけなのだが。

 店の前で花を受け取り、比奈は真咲に礼を言って別れた。

 しばらく真咲が去って行った道路の向こうを見つめたまま、動けなかった。


「真咲、元春さん……かあ」


 たっぷり5分ほどぼんやりし、ぎゅっと花を抱きしめ、意気揚々と店へと戻った。







                     続く…




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