チェンジ・ザ・ワールド☆
Dischord.2
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Dischord
一雪は目の前でぼんやりと座っている比奈に、さきほどから何度も手を振ってみている。
が、まったく反応を返してくれない。
テーブルの上の問題集は勉強開始時より1ページも進んでなくて、いい加減比奈を現実に戻そうと試みていたのだ。
きょろきょろと辺りを見回す。
ここは比奈の部屋。
中間考査が近づいていたのでその勉強をしようと一雪は比奈の家へやって来ていた。
ところが比奈はずっとこの調子で、話しかけてもずっと上の空だ。
近くにあったティッシュを一枚引き抜いて丸める。
ぽいっ
パスッ
比奈のおでこに当たったティッシュが落ちると、漸く反応した。
「……何? 一雪」
ゆっくりとこちらを向いて言う比奈に、一雪は何だか腹が立った。
「何? じゃないだろ? もうすぐ試験なんだぞ? 勉強しろよ」
「え? あ……うん」
「まあ、比奈の成績が落ちてくれたら僕としては比奈を追い抜くチャンスだから、別にいいんだけどね」
厭味たっぷりに言うと、比奈が力なく笑った。
「はは、私一雪に負けちゃうかも」
「……比奈、何かあったの?」
「ーーー別に」
ほんの一月ほど前、例の花屋のお兄さんと話が出来たと言って大騒ぎで一雪の部屋に飛び込んできたのに、昨日から比奈の様子がおかしい。
やっと体をテーブルに寄せてノートにペンを走らせはじめた比奈の顔をじっと見つめる。
何もないはずがない。底抜けに明るい比奈の元気がないのだから、馬鹿でも気付く。
というか、風邪で熱が40度近くあっても元気に学校に行く馬鹿なのだから、こんなに気の抜けた状態を可笑しいと言わずして何と言おう。
「比奈さ、嘘付くの下手なんだから観念して僕にしゃべったら? 真咲さん……だっけ? あの人のことで何かあったの?」
微かに比奈の動きが止まった。
が、すぐに元通りノートを文字で埋めて行く。
「もういいの」
「は?」
ボソリと力なく言った比奈の言葉に、一雪は首を傾げる。
「ーーーもう真咲さんの事はいいの」
「え? どうして? あんなに毎日うるさかったのに」
そこで比奈は手を止めて一雪を見た。
ドキ……
比奈の目には涙が滲んでいた。
一雪は悟った。
比奈は思いを告げる前に振られたのだと。
自分が片思いをしているから分かる。
相手に好きな人がいることを知った時の辛さ。
ふと一雪は笑った。
「そんな簡単に諦められるの?」
言われた言葉に比奈は口を一文字に結ぶ。
そしてまたボソリと言った。
「ーーーだって、真咲さんには好きな人がいるのに……」
「僕は自分の好きな人に好きな人がいるからって、すぐに諦められないよ」
「一雪、好きな人いるの?」
「……うん」
目の前に。
だけどそれはまだ言わない。
卑怯かもしれないけど、比奈が傷ついているのを慰めて、こうやって自分の株を上げているのだ。
もっと頼って欲しい。
腹は立つが、それでも自分の側に必ず戻ってきてくれると分かっているから我慢出来る。
「そっか……一雪の好きな人にも、好きな人がいるんだね」
「うん」
悲しそうな顔でそう言うと、比奈は次にほんの少し笑った。
「私ね、あんなにドキドキしたの初めてだった」
「うん」
「話が出来るようになって、仲良くなれてすっごい嬉しかった」
「うん」
「色んな話もするようになって、真咲さんも私の事比奈って呼んでくれるようになって……すごく距離が近づいたって思った」
「うん……」
一雪はただ相づちを打ちながら静かに比奈の話を聞いていた。
「一昨日ね、真咲さんに相談されたんだ」
そう言って比奈は大きなクッションに背中を預け、大きく伸びをした。
「女の子にプレゼントしたいんだけど、どんなのが喜ぶかって。もうすんごい照れながら聞くんだよ? あー、好きな人にあげるんだなって一発で分かる位の笑顔で……あんな顔見たらさ、私が入り込む隙間なんてないの確定だもん」
大きくため息を吐いた比奈に、一雪が言葉を投げる。
「真咲さんがその相手に振られるかもしれないだろ? そしたら比奈にもチャンスあるんじゃない?」
「ーーーそんな卑怯なことしたくない」
言われて一雪はドキッとした。まさにその卑怯なことを自分は考えていたから。
「卑怯なんかじゃないさ。相手のことが好きなら、少しでも力になりたいって思うもんだろ? 落ち込んでるのを慰めてあげれば、きっと向こうも元気になるさ」
「……一雪ってさ」
「なに?」
「そういう屁理屈上手いよね」
「っ、あのなあ! こっちは真剣にお前の話聞いてやってるんだぞ!?」
「あははっ! ごめんごめん」
そこで比奈はいつもの様に笑った。
「まあ確かに一雪の言うとおり落ち込んでたら元気づけてあげたいって思うけど、やっぱり私は上手く行って欲しいかな」
「なんでそんなに前向きっていうか、いい人なんだよ」
屁理屈が上手いと言われたことをまだ引きずる一雪は、不貞腐れたように尋ねる。
「え~? いい人っていうか……だってさ、真咲さんって本当に笑ってる顔がカッコいいんだ。だから、あの人にはずっと笑ってて欲しいなって……純粋にそう思っただけなんだけど……変かな?」
「変」
「即答?」
「当たり前。本気で好きならどんな卑怯な手を使ってでも自分の方に振り向かせたいって思うだろ?」
「わ、本音出た。恐っ……けどそうかな? え? じゃあ私ってば本気で真咲さんの事好きじゃないってこと?」
真剣な顔で言われ、一雪は戸惑った。
「えっ? いや、そんなことはないと思うけど……」
考え方は人それぞれ、一雪の言い分が正しいとは言えない。
分かっているが、一雪としては自分が言った意見の方が恐らく一般的なのではないかと思う。
「でも、辛いだろ?」
「辛いよ!」
少し大きな声でそう言うと、比奈は今度は小さく辛いよと呟いた。
一雪は胸が痛かった。
比奈がこんなに誰かを思うようになるなんて、想像もしなかった。
いつまでも子どものままではないのだ。
いつの間にか女らしくなった比奈の体に一瞬目をやり、慌てて視線をノートに戻す。
「辛いけど……」
一雪がノートに化学式を書き始めると、比奈が居住まいを正して言った。
「私、告白するよ」
「はあ!?」
驚いた。
一雪は呆気にとられ、目の前で笑う比奈にしばらく何も言えなかった。
「お前、ちょっと早まり過ぎ」
「だって何かモヤモヤしてて気持ち悪いんだもん」
「だからってまだ仲良くなって日も浅いのに、いきなり告白なんて!」
焦りながらも、告白して振られてしまえと思っている自分がいる。
あ~もう! 僕は何て最低な男なんだっ!
一雪は両手で頭を掻き回し、後ろに倒れ込んだ。
バスンッ!
クッションが大げさな音を立て、一雪の体をキャッチした。
「比奈の考えは僕にはさっぱり理解出来ないっ!」
「え? 今、何て言った?」
あんぐりと目と口を開いている目の間の友達、小倉あかりに、比奈はもう一度先ほど伝えた事を話した。
「だから、真咲さんに告白しようと思うの」
やはり聞き直しても先ほどと同じ事を言う比奈に、あかりはこめかみに指をあてる。
花屋のお兄さんの真咲さんとやらと仲良くなってまだそんなに経っていないのに、何を急に焦り出したのか。
比奈の顔をじっと見る。
すると比奈はへらっと笑った。
「実はね……」
それから真咲に女の子へのプレゼントの相談を受けた事をあかりに話し、昨日の一雪との会話も伝えた。
ユキ君、これってチャンスなんじゃ……
ごくりと唾を呑み込み、美味しそうにチョコレートパフェを食べる比奈に尋ねる。
「今、無理に告白しなくてもいいんじゃない? もう少し待ったらユキ君の言うように真咲さんが振られるかもしれないんだし……卑怯かもしれないけど、そういう時って落としやすいってよく言うじゃない。待とうとか思わない訳?」
「うん」
あっさり答える比奈に、あかりはため息を吐く。
自ら傷つきに行かなくともいいものを。
「どうして?」
「告白したいから?」
「いや、そこ疑問系にされても……比奈は我慢する事を覚えた方がいいと思うよ?」
「我慢してるよ」
「何を?」
「泣きそうになるの」
「比奈……」
「ーーーなんちゃって~!」
明るく誤摩化した比奈だが、本当は一人の時に泣いていたはずだ。
一雪にもきっと本気の涙は見せていないはず。
比奈は自由奔放に振る舞っているように見えるが、実はとても人のことを考えている。一雪以外の人の事は。
だから真咲に告白するというのも、自分なりに考えて出した結論なのだろう。
本当に強い子だとあかりは思う。
「まあ、いいけど……振られるの分かってて告白するんでしょ? それならもう私が言う事はないよ。私は比奈が傷つくのを見たくないだけだからさ」
「ーーーうん。ありがとあーちゃん」
と、そこであかりの携帯が鳴った。
「あ、ごめん。学校のお友達からだ」
「もしかして、例の男の子?」
ニヤリと笑って言う比奈に顔を赤くし、あかりは違うと否定して電話に出た。
「もしもし……あ、密さん?」
電話の相手はどうやら女の子らしく、楽しそうに会話をするあかりを見つめながら比奈は考えた。
真咲を好きになって分かった事がたくさんあった。
人を好きになるという気持ち。
そして、好きな人と接する時の相手への気持ち。
力や勇気をくれる大切な人の存在の大きさ。
あかりの恋は上手く行って欲しいと心から思う。自分に出来る事は大してないが、それでも応援するくらいならいくらでもしたい。
振られると分かっているのに真咲に告白するのは、けじめのため。
昨日気付いた、大切な気持ちを真咲を思うよりも上に引き上げるため。
「今度の日曜日に遊園地に行こうって誘われた」
「本当? 良かったね」
電話を切ったあかりが楽しそうに言うのを聞いて、比奈は笑った。
「今度比奈も一緒に行こうよ、遊園地」
「うん、そだねー。あーちゃんの好きな氷上君と、こっちはしょうがないから一雪誘って皆で行こうか?」
「ユキ君はしょうがなく連れて行くの?」
「あははは、うん」
それぞれずっと一緒にいられる訳ではない。だけど、こうやって少しでも時間を共有出来ることは何よりも貴重だと思う。
比奈とあかりは互いの顔を見合わせて笑った。
互いの幸せを願いながら。
案外あっさりしたものだった。
中間考査終了後、比奈は真咲に告白した。
もちろん振られたが、覚悟していたからか大してショックを受けなかった。
なんか、拍子抜け……
自室のベッドに大の字に寝転がって天井とにらめっこをしていると、コンコンと遠慮がちなノックが聞こえた。
「どうぞ~」
入ってきたのは一雪で、まだ制服を着ていた。
「お帰り~。塾の帰り?」
「あ? ああ、うん」
歯切れの悪い一雪の言葉に、比奈は体を起こしてベッドに座り直す。
比奈は学校が終わってバイトに行き、バイトが終わってから真咲と待ち合わせて二人で商店街を少しぶらついて別れ際に告白した。
真咲は驚いていたが、比奈の告白をすごく嬉しいと言ってくれた。
だけどやっぱり好きな人がいるからと断られた。
泣くかと思ったが全然平気で、笑顔で別れて家に戻り、夕食を食べて今に至る。
「何か飲む?」
比奈の部屋には小さな冷蔵庫があり、お茶やジュースが常備されている。
ベッド脇にある冷蔵庫を開け、一雪を振り返ると、コーラと告げられコーラの缶を手渡す。
自分はオレンジジュースの缶を取り出し、プシュ! と景気のいい音をさせてプルトップを開けた。
「どうしたの?」
「え? いや……っていうか、比奈。今日告白するって……」
「ん? うん、したよ?」
当たり前のように答えた比奈に、一雪は一瞬怯む。
そんなあっけらかんと答えるということは、上手く行ったのだろうかと思ったが、それならもっと喜んでいるはずだし、間違いなく一雪の携帯にメールが入っているはずだ。
それがないということは……
「見事に振られてきたよ」
「あ、そう……」
やはりそうだろう。
予想していたことではあったが、一雪は比奈の落ち着きっぷりに何より驚いている。
普通好きな人に告白して振られたらもっと落ち込むと思う。
なのに目の前の比奈は普段と同じ……いや、多少大人しいくらいで、ショックを受けているようには見えない。
「告白したらさ、顔赤くしてありがとうって言ってくれたんだ」
「ーーーうん」
オレンジジュースを飲みながら、比奈が話しはじめた。
一雪も適当に座ってコーラを飲む。
「でも好きな人がいるからごめんって」
「……そっか」
「なんかさ、人を好きになるってすごいよね」
「なんだよ、急に」
顔を上げると比奈がこちらを見ていて、一雪はすかさず視線を逸らした。
「私さ、全然気付かなかった」
「何が?」
「一雪の存在の大きさ」
「……は?」
驚いた一雪は危うくコーラを零しそうになる。
そんな比奈はいつもと変わらない笑顔でぐいとベッドの端に座り直し、首を傾げていた。
「真咲さんの事好きになって、ずっと一雪に相談しててさ、なんていうか支えてくれる人がいる安心感ってやつが分かったの」
一雪は黙って聞いていた。
というか、何も言えない。
「私が今まで好き勝手やって来れたのも、一雪がずっと私の後ろにいてくれたからなんだなあって……」
比奈……
「ありがとね、一雪」
「これで少しは僕の苦労が分かってくれればありがたいんだけどね」
ここでも憎まれ口を利いてしまう自分の天の邪鬼に呆れつつも、一雪は嬉しくてたまらなかった。
「一雪の苦労は一雪じゃなから分かんないけど、でもさ、これからも私の支えになってください」
ドキリとした。
比奈の言葉がまるでプロポーズのように聞こえたから。
一雪は嬉しさと恥ずかしさで赤くなってきた顔を隠すように、一気にコーラを飲んだ。
「比奈はもう少し女の子らしくしないと絶対彼氏出来ないね」
「ひどいっ! ちゃんとありのままの私のことを好きになってくれる人がきっと現れるもん!!」
「はいはい」
「それに、もし万が一お嫁さんの貰い手がなかったら一雪がもらってくれるでしょ?」
「なっ!?」
折角憎まれ口で誤摩化していたのに、突然確信を付かれて一雪は慌てる。
ここはどう返事をすればいいのか。
必死に答えを考え、返事が出来ずに困っていると比奈がまた笑った。
「やだ~。そんなに引かないでよね! いいもん。一雪がダメなら秋兄にもらってもらうもん」
「兄貴は比奈みたいなデリカシーのない女絶対タイプじゃないよ」
「誰のデリカシーがないのよっ?」
「比奈しかいないだろ?」
「む~っ! 一雪の馬鹿~」
「馬鹿じゃないっ」
「私よりいつも成績悪いくせに~」
「なんだと。じゃあ今度の試験で成績が良かった方が、悪かった方に一つ命令出来るってのはどう?」
「いいわよ、受けて立とうじゃないの! 私に勝とうなんて100年早いってのを骨の髄まで叩き込んでやるんだから!」
「臨むところだ!」
二人は同時に立ち上がった。
一雪は比奈の部屋を出て行くとき、一瞬だけ振り向いた。
比奈は鞄の中から教科書やノートを引っ張り出しながらぶつぶつ言っている。
負けないからな。
そう心の中で呟き、一雪は小さく口元を綻ばせてドアを閉めた。
比奈は一雪の気配が完全になくなると、机の椅子に座ってドアを振り返った。
真咲を好きになって気付いたこと、それは一雪の存在の大切さ。
一雪の好きな人が誰かは分からない。
それでも自分が今まで力になってもらっていたように、幼なじみとして力になりたいと思った。
それが恋愛感情かどうかは分からないが、真咲に振られるよりも一雪と離れてしまう方が辛いと思ってしまったのだ。
だから、少しでも長く一緒にいられるように真咲とのことにけじめを付けたかった。
「ありがとね。一雪」
なんだかんだ言って優しい一雪に感謝している。
比奈と一雪の関係はずっとDischord(不協和音)かもしれない。
だけど、恐らくそれが互いにとって一番心地よい音色なのだ。
何度喧嘩しようとも必ず仲直り出来る。
ぶつかり合いながらもなくてはならないもの。
そんな存在、大切だよね?
キイッと椅子を鳴らし、比奈は教科書を広げた。
END
あとがき
どうも、最後までお読みくださりありがとうございました~!
赤城、大好きなんですよ、あと真咲も……(笑)
真咲は今回ほとんど出てきませんが、本当にいい奴ですよねっ!真咲と結婚したい。
本当はもっと長編にする予定だったんですが、管理人面倒くさがりなんでやめました(笑)
ってか、赤城いいよ。まじでいいよ。いじり甲斐がありすぎる。
ゲームの告白とか萌え死にそうになりましたもん……キュン……
ちなみに赤城のお兄さんの名前を勝手に「秋兄」と比奈が呼んでますが、実際知りません。すみません。。
赤城、大好きなんですよ、あと真咲も……(笑)
真咲は今回ほとんど出てきませんが、本当にいい奴ですよねっ!真咲と結婚したい。
本当はもっと長編にする予定だったんですが、管理人面倒くさがりなんでやめました(笑)
ってか、赤城いいよ。まじでいいよ。いじり甲斐がありすぎる。
ゲームの告白とか萌え死にそうになりましたもん……キュン……
ちなみに赤城のお兄さんの名前を勝手に「秋兄」と比奈が呼んでますが、実際知りません。すみません。。
それではまたお会いしましょう!!
お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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