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チェンジ・ザ・ワールド☆
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片思い

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 「手塚、汐屋さんって、好きな人いるのかな?」 















片思い 

















 早朝、まだ薄暗い時間。手塚国光はテニスバッグを肩に担いで玄関を出た。


「おはよう、国光」

「おはよう、雪緒」


 玄関を出て直ぐ、朝の澄んだ空気を吸い込むと同時に、凛とした声で挨拶が降って来る。

 手塚の目の前には長い黒髪をゆったりと左側でひとつに結んだ、色の白い少女。

 大きな二重の瞳は深い藍色をしていて、ほんのりと自然な桜色を発する唇はツンとしていて芯の強さが伺える。

 特に華やかな美人という訳でもアイドルの様に可愛いという訳でもないが、騒がしくすることを好まず動物や自然を愛するこの少女に、手塚は幼い頃よりずっと恋心を抱いていた。

 彼女、汐屋雪緒は手塚の同級生で、向かいの家に住んでいる。幼稚園の頃からずっと一緒で、互いの家を行き来する事も多かった。

 雪緒の母親は四年前に病気で他界し、父親は仕事で日本中を飛び回っている。

 一人っ子の雪緒は忙しい父親にわがままも言わず、いつも一人で月に一度か二度帰って来る父親の為に家の事や学校の事に努力していた。そんな雪緒を心配して手塚の家族は何かと面倒をみていた。

 幼稚園の頃から一緒にいればお互いを名前で呼び合うのは至極当然で、誰の名前も必ず名字で呼び、あだ名でなど絶対に呼ばない手塚が唯一名前で呼ぶ他人がこの雪緒だった。

 雪緒本人は目立ちたくないのだが、学園内でも並ぶ者はいない程女生徒から人気を集める手塚と登下校をほぼ毎日共にしているおかげで、学内で彼女を知らない者はほとんどいなかった。

 二人が幼なじみであって付き合っている訳ではないという事実が知られてからは、手塚ファンの女子生徒から嫌がらせを受ける事もほとんど無くなった。


「今日から校内ランキング戦が始まる。遅くなるから先に帰ってくれ」


 手塚は自己が通う青春学園中等部のテニス部部長だ。

 都内では有名な強豪校、本人は中学生レベルを遥かに超えた実力の持ち主で、さらには奇麗な顔とスタイルで生徒会長という、そろいも揃った完璧な人間故に女子の間で人気なのだ。そして手塚が言うランキング戦とは、部内でレギュラーの座をかけて争われる青学の名物。


「私も今日は仕上げたい絵があるから、多分遅くなると思うよ」

「そうか。では雪緒が先に終わったら部室まで来てくれるか? 俺が先に終わったら美術室まで迎えに行こう」

「うん、分かった」


 雪緒は美術部に在籍していて、何度か賞をとったこともあった。良くテニス部や他の部活風景をスケッチをしている。テニス部をスケッチする時はなるべく気づかれないようにこっそりとペンを走らせている。

 そんな雪緒をいつもめざとく見つけては、手塚はフェンス越しに様子をうかがっていた。規律を乱す事は許されないので近づいて声を掛けたりはしないし、雪緒自身もそこは弁えているので、話しかける部員達に小さく手を振ってすぐに練習に戻り手塚に怒られないようにと振る舞ってくれていた。

 部員の中で雪緒に対して好意を抱いている連中が一人や二人でないことは気づいていたが、本人はそういった事に興味がないのか、元々鈍いおかげでかさっぱり浮いた話をしないため、手塚は特に気にも留めていなかった。告白されたり手紙をもらったことも何度かあるのは知っていた、だがその度に断る雪緒は、最終的には自分を選ぶのだと勝手に思っていた……


「何だか春って感じがしないね」


 四月の風が吹き抜ける早朝の町並みを歩きながら、雪緒が手塚を見上げて言った。


「そうだな。だがすぐ梅雨が来る」

「梅雨か……私、梅雨って嫌い」


 口を尖らせる雪緒に、ほんの少し目を細める。


「お前は梅雨というより雷が怖いだけだろう?」

「だって怖いんだもん、仕方ないでしょ? 雷が鳴ったらすぐに布団被って大声で歌うんだから」


 そんな雪緒の姿を想像し、眉をひそめた。


「怖いのなら俺を呼べば良いだろう? すぐに行ってやるぞ」

「やだ」

「何でだ?」

「だって国光絶対面白がるじゃない」


 心底嫌そうに手塚を睨む。


「普段何に対しても物怖じしないお前が唯一苦手な物だからな。面白がらない手は無い」

「いじめっこ……」

「おうい、おはよう! 手塚、汐屋さん!」


 無表情で雪緒を一蹴した手塚と、そんな手塚から顔を背けて小声でつっこんだ雪緒の背後から元気な声が飛んで来た。


「ああ、おはよう大石」

「おはよう、大石君」


 手塚と同じテニス部の副部長で、雪緒とクラスメートの大石秀一郎が手を振りながら爽やかに近づいて来た。


「いつも元気だね、大石君」

「え、そうかな? 汐屋さんは朝苦手?」

「こいつは低血圧で、起きてから動き出すまでに時間がかかる」


 雪緒ではなく手塚が答える。


「ははは、そうなんだ。それなら毎朝手塚と一緒に来てて、きつくない? 美術部は朝練なんてないでしょ?」

「朝には弱いけど早起きは嫌いじゃないから。それに、誰もいない美術室で絵を描くのって楽しいよ」

「へえ、でも確かに一人きりなら集中できそうだな」


 楽しそうに会話を弾ませる雪緒と大石の隣で、手塚は一人もやもやとした気持ちを抱えていた。

 こんな気持ちになったのは、昨日の部活帰り、大石の言った一言の所為だった。










 「これで全部終わりだな」

「ああ。明日のランキング戦の対戦表も出来た」


 部長である手塚と副部長である大石は翌日に控えたランキング戦の対戦表を作っていた。その作業もやっと終わり、すっかり誰もいなくなった部室には手塚と大石の二人きり。


「今日は汐屋さんは?」


 ふと大石が尋ねる。


「今日は帰りが遅くなるからと言って先に帰したが……雪緒がどうかしたのか?」


 一体どうしたというのか、手塚は手元の資料を見ていた視線を、帰り支度を整えている大石へと移した。


「手塚、汐屋さんって好きな人いるのかな?」

「?」


 一瞬思考が停止した手塚は、大石を見つめたまま瞬きすらしない。それに気づいた大石が真っ赤になって慌てる。


「あっ、ごめん。何でも無い! 今の、忘れて!」


 そこで漸く大石の気持ちに気づいたのだった。

 まさかーーー


「ーーーいつ、からだ?」

「え?」


 静かな手塚の声に、慌てていた大石は冷静さを取り戻す。


「いつから、雪緒の事を?」


 再び尋ねられ、大石は頬を人差し指でかきながら視線を手塚から壁へとずらした。


「えっと……一年の、時からーーー」


 手塚は驚いた。まさかそんなに前から雪緒の事を好きだったとは、全く気づかなかった。


「今までそんな素振り見せなかったみたいだが?」


 至って通常通りの口調で質問を続ける手塚だが、内心は相当動揺していた。知らずペンを握る手に力が入る。


「いや、だって入学した時から手塚といつも一緒だったし、二人とも仲良いからさ。なんとなく遠慮というか……正直一年の頃はいいなあって思うくらいだったんだけど、三年になって同じクラスになってからかな。本気で好きなんだなって思ったのは」

「ーーーそうか」

「そうかって、それだけ?」

「それだけとは?」


 眼鏡の奥の冷ややかな視線を受け、大石は一瞬ひるむ。が、ここで負けない。


「手塚、汐屋さんの幼なじみなんだろ? だったら好きな人がいるかどうか、知ってるんじゃないかな。と思ったんだけど、教えてくれないか?」

「そんな事は本人に直接確認すればいいだろう。俺を通して聞いても意味が無いと思うが」

「友達だろ?」

「知らん」

「冷たいなあ……あ、もしかして、手塚、お前も……?」


 ここでどう返事をするべきか、手塚は一瞬の間にかなり先手を読んだ。結果、ここで考えを逡巡させるわけにはいかない。という結論をコンマ数秒の間にはじき出す。


「あいつとは幼なじみだ」

「じゃあ俺が汐屋さんと仲良くしても?」

「雪緒が決める事だ」


 そう、雪緒が誰を選ぶかは本人の意思であって、手塚一人が考えても仕方の無い事なのだ。雪緒と仲良くするな。とは、それこそ自分が言うべき事ではないし、言って良いはずもなかった。

 トントンと机で書類をまとめると、手塚は立ち上がって扉へと向かった。


「ランキング戦が終わったら遊びに誘ってみようと思うんだけど、どんな所が好きかな? それくらい教えてくれても良いだろ?」

 手塚に続いて部室を出ようとする大石を小さく振り返り、手塚は答えた。


「美術部なんだ、それくらい聞かなくても分かるだろう?」

「ああ、そうか。美術館」


 ライバルにヒントをくれてやる自分の律義な性格が恨めしい。

 ライバルとはいえ大石は部の仲間でもある。好きな人がいるかどうか教えてやるつもりはないが(自分も知らないし逆にこちらが聞きたいくらいだが…)、好みくらい教えてやってもいいかと思った。そこまで心の狭い人間にはなりたくない。

 後ろで浮かれている大石の声を聞きながら、手塚は心の中で深いため息を吐いた。














 「来週から美術館で期間限定の催しがあるの。ずっと見たいと思ってた画家の絵も来るから、楽しみなんだ」


 目を輝かせてそう言った雪緒に、手塚は一瞬目を見開く。

 一体どういったタイミングで美術館などという名称を口にするのだろう。そして美術館と聞いて喜んだ男が一人。


「あ、あのさ、汐屋さん……良かったら、来週一緒に美術館に行かない? 実はチケットあるんだけど、一緒に行く人がいなくってさ」


 大石はここぞとばかりに雪緒に美術館をプッシュする。昨日部活帰りに手塚から聞いた情報をもとに美術館のチケットを購入しておいたのだ。

 よしっ。と、小さく誰にも気づかれないようにガッツポーズを作る。


「えっ? チケットあるの? 行きたい!……けどーーー」


 口ごもる雪緒に、大石が首を傾げる。


「俺と一緒は、嫌……かな?」

「違うの。私、今まで男の子と二人で出かけたのって国光以外になくって……それに絵を見出すと周りが見えなくなって、きっと大石君を一人にしちゃうから」


 なんて可愛いんだろう。

 大石は雪緒の少し赤くなった顔に心を弾ませた。


「手塚も一緒ならいい?」


 この言葉に驚いたのは手塚だった。雪緒の事を好きだと言うなら二人きりで出かけたいだろうに、何故邪魔者である自分の名を出すのか。


「それなら大石君も暇しないだろうから、私は嬉しいけど……」


 じっと手塚を見上げる雪緒の瞳に押され、目をつぶってため息を吐くと手塚は言った。


「俺は別に構わんが」

「ありがとう、国光。大石君も、誘ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 大石と雪緒はまぎれも無く期待と喜びで、手塚は複雑な心境で校門へと歩を進めたのだった。
















 ランキング戦の合間、試合を一つ消化して次の試合を待っていた手塚は、対戦ボードの前でランキング戦出場者の対戦成績を付けていた大石の所へ向かった。


「大石」

「あれ、手塚? お前の成績はもうつけたよ」

「いや、そうじゃない」

「なに? どうかしたのか?」


 手塚は今朝大石が言った事の真相をしりたかった。何故、二人きりで出かけられるはずのデートに自分も誘ったりしたのか。

 なかなか切り出せずにただじっと大石の隣に立ち、コート内で繰り広げられる後輩達の試合を眺めている手塚に、大石が切り出した。


「今朝の事かな?」

「……ああ」


 察しの良い副部長で本当に助かる。などと安心しながら、大石が次を話し出すのを待った。


「俺だって不安だしさ。気心の知れた手塚が一緒なら、汐屋さんも警戒しなくて済むだろう? それに……」


 それに?


 ちらりと横目で大石を見ると、複雑そうな表情をして笑った。


「やっぱり汐屋さんって、手塚と一緒に居る時のほうが良く笑うんだ」

「笑う?」


 ふといつもの雪緒の笑顔を思い浮かべる。静かで優しい笑顔。手塚が大好きな表情だ。


「俺やクラスメートと話している時も笑うけど、手塚と居る時の笑顔と全然違うんだ。なんていうか、安心してるっていうか信頼してるっていうか……」


 手塚は信じられないくらい自分が喜んでいる事に気づいた。周りからそういう風に見られているということ、その感情がどうであれ、雪緒の心に自分が大きく関わっている事が嬉しい。


「付き合いが長いからな。お互い記憶に無い時から一緒に居るんだ。家族みたいなものだ」

「そっかーーーなんか、本当にうらやましいよ。まあ、そういった感じで、俺にはまだ汐屋さんの笑顔を引き出す力はないからさ。手塚に協力してもらおうかなって」

「なるほど、俺はお前達のクッションという訳か」

「ははは、ご名答」


 大石の考えが理解出来た手塚は、コート内で揉め始めた二年生を走らせるため足を踏み出した。














 「ねえ国光」


 美術館三角関係(?)デートの前日の夜、手塚は雪緒の部屋にいた。

 目の前で繰り広げられるのは雪緒のファッションショーで、床にもベッドにも服が散乱していた。


「何だ?」


 必死になってクローゼットを漁る雪緒が、かろうじてスペースが確保されているラブソファーに悠々と座る手塚を振り向く。


「大石君って、どんな感じの服装が好きなのかな?」

「そんな事を聞く為にわざわざ俺を呼んだのか?」

「もう、質問を質問で返さないで。私、今必死なんだから……」


 そう言って再びクローゼット物色を再開する。雪緒の格好は先ほどから何着も服を着ては脱ぎを繰り返しているおかげで、キャミソールに短パンというあまりにも無防備な格好で、手塚はなるべくその姿が視界に入らないように配慮しながら雪緒のファッションショーに付き合っていた。

 こんな姿を見られるのは幼なじみ故の特権と嬉しく思いながらも、男として意識されていないという現実を突きつけられて消沈する。


「普段通りでいいだろう? 別に今更着飾っても持っている服には限りがあるし、本人は変わらないんだ。建設的とは思えんな」

「酷い……国光モテるくせに乙女心が分からないよね。だから彼女出来ないんだ」


 長く一緒にいると悪い部分って気づかないもんね。と言いながら、漸く奥からワンピースを引っ張り出した。


「あった! ねえ、これどうかな? 去年お父さんが買ってくれたの。去年はまだ服が大きくて着ると不格好だったけど、一年で背が10センチ以上伸びたから今ならおかしくないと思うんだ。可愛いからずっと着たかったけど、このサイズしか無くって」


 嬉しそうに言いながら、雪緒はそのワンピースを着てみる。

 パープルチェックのワンピースは、色の白い雪緒によく似合っていた。


「どう?」

「いいんじゃないか?」

「良かった~。去年着た時はぶかぶかで、胸の所とか余って酷かったんだよね」


 そう言って笑う雪緒に、手塚は質問を切り出した。


「雪緒、お前は大石の事をどう思ってるんだ?」

「ええ? あ……いやーーー」


 ほんのり赤くになって行く顔に、手塚は言葉を失った。

 まさか。という否定の声が頭の中で響いた。


「好き……なのかーーー?」


 一段低い声で確認をする。


 嫌だ、聞きたくないーーー


「う、んーーー」


 帰って来た答えは、手塚が一番欲しくない答えだった。


「そう、か……」


 すっと立ち上がると、手塚は長い足で器用に散らかされた服を避けて部屋の入り口まで歩くと、微かに微笑んだ。


「服も決まった事だし、俺は帰るぞ。明日、楽しみだな」

「あ、うん。ありがとう国光。おやすみ」

「おやすみ」


 いつも一緒に居たのに気づかなかった。一体いつから? 

 大石と部室でやりとりをした事がよみがえる。好きな男など存在しないと思っていた。

 知りたくなかった現実に、手塚は足を止める。


 今俺は雪緒の前で普段通りに振る舞えただろうか?


『俺やクラスメートと話している時も笑うけど、手塚と居る時の笑顔と全然違うんだ。なんていうか、安心してるっていうか信頼してるっていうか……』


 大石が言った言葉が急にフラッシュバックしてきて、手塚は顔を上げた。

 望みが1%もない訳ではないはずだ。

 その場所が恋人か幼なじみのままなのか、それはまだ分からない。だが、完全に雪緒が自分から離れて行くことはないだろうという確信めいたものはあった。






 翌日、手塚は迎えに来た雪緒に部の急ぎの仕事が入ったと言って一人で待ち合わせ場所へ送り出した。急ぎという程ではないが、部の仕事は山のようにある。元から今日はその作業をする予定だったので、雪緒達に誘われなければ仕事をしていた。

 嘘は吐いていない。

 悲しそうに、困ったような視線を向ける雪緒を玄関から追い出した時はさすがに心が痛んだが、自分は邪魔だからと割り切る事にした。

 所詮中学生。

 恋だの愛だの語るにはまだ幼くて……

 手塚はふと口元を緩ませた。


「まあ、今はまだいいだろう……」


 そう、最後に雪緒の隣にいるのが自分であれば。








                    END



あとがき

ふうっ。手塚黒いよ、手塚……(笑)
テニプリにはまって、二番目に書いたのがこの話でした。
ほんのり切ない感じにするつもりが、こんなに黒い手塚に仕上がるとはびっくりしましたw
手塚もいじめたくなるキャラです。ここでは片思いですが、手塚の事だからいつの間にか彼女を自分にメロメロにさせているはず。はず。。
そして強引に結婚の約束をとりつけてしまえばいいじゃない!
しかし大石好きだなー。真面目だし、きっとこの部長・副部長コンビは結婚しても浮気しないと思います。
これはお友達のえりさんに押し付けたお話なんですが、楽しんで頂けたのだろうか……?(ドキドキ)

それでは、ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございます!



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