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An angel〜.6

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An angel's drop








 あの香水にあんな特別な意味があったとは知らなかったとはいえ、驚きでもあった。

 本当に晶は流行について何も知らないのだと改めて実感した。

 晶は気分を落ち着かせる為に昼休みに図書室に向かった。

 良恵は文字を見るとすぐに眠くなるからと言い訳して、いつも晶の付き添いについて来ようとはしなかった。

 廊下で天地にすれ違うかとビクビクしていたが、なんとか会う事なく図書室に着いた。

 晶が唯一落ち着ける場所。

 それがこの図書室だったりする。

 晶はこの図書室の本を読破するのが密かな目標だ。


「あっ、これまだ読んだ事ない」


 その本に手を伸ばしたその時だ。

 ある人と手同士がぶつかりお互いに手を離したせいで、その弾みで本を床に落としてしまった。


「あ、すみません」

「ごめん、大丈夫?」


 男の子は本を拾いあげてぽんぽんと埃を払って晶に手渡した。

 いきなり差し出されたので、晶は反射的に本を受け取った。


「はい、先に読みなよ」

「いえ、私は……」


 ネクタイの色でその男の子は二年の先輩だと気が付く。

 思わず晶は一歩身を引いてしまった。


「いいんだよ。読んだら俺が次に借りて行くし。じゃあもし良かったら、読み終わったら教室まで持って来てくれない? 実はこの本、前から探してたんだ」

「あの、私急いでないので先にどうぞ」


 晶は先輩に本を差し出すと、先輩はいきなり晶をジーッと眺めたまま動かなかった。

 眉をしかめながら何かを考えているようにも見えた。


「あっ思い出した! 君はよっちゃんの友達!」


 いきなり意味深な言葉を発した先輩は、自分の手と手をポンと軽く叩いて晶を指差した。


「はい?」

「いや、どっかで見た顔だなって思ったんだ。その本は俺もマジで急いでないから気にしないで」

「あっ、佐部(さべ)くん。やっぱりここにいた」


 すると後ろから体操服姿の女の子が息を切らして立っていた。

 ちらりと晶を見たが、すぐに佐部へと視線を戻した。


「今日は部活のミーティングだって言ったじゃん! 佐部くんを早く探して来いってキャプテンがうるさいんだからぁ」

「出るつもりなかったし、先輩がただ自分でやるの面倒なだけじゃねぇ?」

「そんな事ないって。佐部くんあっての応援部なんだから。早く来てよー」

「わーかったって。そんなに引っ張るなよー」


 マネージャーらしい女の子がグイグイと佐部の腕を引っ張るように連れて行こうとする。

 困った顔をした佐部は、マネージャーに連れられそうになった所を無理矢理後ろに振り返った。


「俺、2―Aの佐部透(とおる)。またね」


 佐部は手を振りながら慌ただしく去って行った。

 晶は呆然として佐部達を見送っていた。

 よろしくと言われて、やっぱり今更無理ですとも言う暇すらなかった。

 こうなってはもう借りて早めに渡さなくてはならないと思い、図書カードにそそくさと名前を記入して教室に戻った。

 よっちゃんと呼ばれる知り合いは晶の周りには居なかったが、佐部は晶をよっちゃんの友達だと言っていた。

 晶は佐部とは初対面のはずだが、きっと何か勘違いをしてるのだと晶はそう考える。

 佐部から譲り受けた一冊の本。

 なぜだか晶にはとても特別な物に思えた。

 初めて自分と趣味の合う人に出会えた事に嬉しささえ感じている。

 ページを一枚一枚捲りながら本を読む事がこんなに楽しく感じるなんて今までになかった。


「……佐部先輩かぁ」


 佐部と本の話をもっとしてみたいと素直にそう思えた。





 ++++++




 次の日、また時間より早く起きて晶なりに頑張ってみた。

 天地に褒めてもらいたい気持ちと佐部に会った時の事も考えて少し気を使った。

 昨日借りた本は楽しくて一気に読んでしまった。

 佐部に貸してあげたいというのは口実で、早く会いたいという気持ちが少しあった。


「おはよー。良恵」

「おはよ。あれ? 晶どこ行くの?」

「本を貸しに行くの。読んだら貸してって言われてたの。だから今から持って行く所。早く借りたいかなって思って」

「待ってるの暇だから私も行くー」


 良恵はそう言いながら晶と一緒について来た。

 だが二年の校舎に入った途端、いきなり良恵は晶の服の袖を引っ張り足を止めさせた。


「ちょ、ちょっと晶。どこに行くつもりよ?」

「実はね、2―Aの佐部先輩に用があるんだよね」

「さ、佐部!?」


 良恵がいきなり大声で叫んだので、晶は首をかしげた。

 良恵は少し焦り気味に自分の手鏡を見ながら髪を直している。

 自分が会いに行くにも関わらず、なぜそんなに良恵が落ち着きがないのかがよく分からなかった。


「佐部先輩とどういう知り合いなわけよ?」

「えっ? 知り合いじゃないかも。ただ本の貸し借りするだけの仲じゃないかな」


 良恵に説明をしている時に、ある香水の香りが鼻をくすぐった。

 自分の香水と同じフルーティーな香り。

 それが天地だと晶はすぐに気が付いた。

 だが突然天地の姿を見つけた晶は、まだ心の準備が整ってはいなかった。

 いまだ会って話すような勇気はなく、ついつい壁際に隠れるように立って様子を伺っていた。

 佐部と何やら部活の話をしているようだが、いつまで経っても終わりそうにもない。


「何隠れてるのよ、晶。早く行きなさいよ」


 良恵は晶に急かすは晶の背中をポンと軽く押した。

 良恵がいきなり背中を押すので息を整える間もないまま押し出された。

 ほんの目の前には天地と佐部が驚くようにしてこちらを見ていた。


「お、おはようございます」

「晶ちゃん? なんでここに?」

「俺が本を読み終わったら貸してくれって頼んだんですよ」

「佐部が?」

「後輩から本を借りるのにも先輩に許可をもらわないといけないんですか?」

「別にそういうわけじゃないけど」

「あの、私もう用が済んだので失礼します」


 晶はその場にいるのが耐えられなくなって佐部に本を渡して逃げて来た。

 結局良恵は教室の角でうずくまったまま出ては来なかった。

 良恵が用事があったわけではないので、別に晶的には構わなかった。


「はぁー緊張した」

「気持ち分かるよ。二人ともチョーイケメンだもん。二人並ぶと絵になるよね」

「うん、そうかもしれない」


 晶と良恵は廊下の角から天地達を眺めていた。

 天地と佐部の空気は一段とピリピリしているように見えた。

 晶が居た時もどこか二人からは嫌な威圧感を感じたくらいだ。

 二人は同じ部活の部員であり、主将と副主将ではあるし、晶にはそんなに仲が悪いようには見えなかった。

 だが、晶が佐部と話をした途端に天地の表情がガラリと豹変した。

 それを見た時に晶は背筋がヒヤリとしたのだ。


「天地先輩達って仲悪いの?」

「同じ部員なんだし、そんな事はないんじゃない?」

「だって、天地先輩が急に佐部先輩を睨み付けてなんか恐かったよ」

「あっ、晶見て見て!」


 良恵に肩を急に叩かれ、晶は良恵の指差す方向へと視線を促した。


「晶ちゃんって言うんですね。彼女、カワイイですよね」

「そう? 晶ちゃんってさぁ、そんなにカワイイかな? 別に僕はそんなに興味沸かないんだよねぇ」

「そうですかぁ? そんな風には見えませんでしたけどね」


 今の言葉が本当に天地の口から吐き出された言葉なのかと耳を疑った。


「天地先輩があんな事言うなんて、なんかイメージ違うよね」


 良恵がぼそりと口走った言葉が重く突き刺さり、晶はいても経っても居られなくなり、その場を走り去った。


「ちょっと晶!!」


 良恵に呼び止められたが、晶は振り返らずに走り去った。

 晶自身が気が付いた時には瞳から大粒の涙が溢れていた。

 デート時は晶をもっと知りたいとそう言っていたはずだった。

 晶にはあんな事を口走った天地の言葉がどうしても信じられなかったのだ。

 天地に気に入られたくて始めたオシャレ。

 この瞬間だけは無意味に感じていた。







                     続く…





新キャラ佐部君。彼もイケメン☆



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