チェンジ・ザ・ワールド☆
An angel〜.7
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An angel's drop
あれから何事もなかったかのように体育祭の準備が始まり、フォークダンスや競技の練習に追われるハードな毎日だった。
晶の心境としては余計な事を考えずに済むので、この瞬間だけは心が休まった気がした。
「は~あ、体育祭の練習きついよねぇ~。日焼けしまくりだよー」
体育祭を一週間後に控え、学園内も慌ただしくなっていた。
隣でパタパタと手を団扇代わりにしてボヤく良恵に苦笑しながら、晶はグラウンドを見渡した。
「あ……」
ちょうど反対側に男子生徒がたまっていて、組体操の練習をしている。
その中に天地の姿を見つけ、晶は慌てて視線を別の方へずらした。
デートをした日から二週間、晶は天地から逃げていた。
突然帰った晶を心配してか、天地は何度も教室を訪ねて来たり、下駄箱のそばで待ち伏せたりしていたのだが、晶はそれを見事にかいくぐって逃げていた。
だがとうとう昨日の放課後、晶は自分の靴箱の中に天地からの手紙を見つけてしまった。
別に逃げなければいけない理由などないのだが、なんとなく気まずいのだ。
おまけに天地が何度も晶の教室にやって来るおかげで晶は一年生の間で有名になってしまい、正直うんざりしていた。
毎日平凡な静かな高校生ライフを送りたいだけなのに、これ以上天地と関わっては思い描いた生活が出来ないと危機を感じているのは事実だ。
「晶さあ……」
あんなに張り切って毎日オシャレしていた晶とは打って変わり、気の抜けたようにピタリとオシャレをやめ、元の晶に戻っていた。
隣でぼーっと遠くを見つめる晶に、良恵は続けた。
「いつまで無視するつもりなのよ? 先輩の事、好きなんでしょ?」
なんとなく思い当たる理由を尋ねてみる。
「興味沸かないなんてハッキリ言われて、なんか気まずいんだもん。自分だけ舞い上がってただけだったのかもしれない。そう勘違いしてたと思うとなんだか恥ずかしくなっちゃって……私はやっぱり平凡で静かな日々を送ってるのがお似合いなんだよ」
「言われたわけじゃないじゃん」
「私ももう…先輩に興味ないよ」
「簡単に諦められるの?」
「……だって、顔合わせると何か変な感じがするんだもん」
「変な感じ?」
「正直、何が何だかよく分からなくなった。先輩があんな事言うなんて信じられなくて……私、からかわれてたのかな? けど、先輩の事考えるだけで急にドキドキしたり、何か苦しかったり、痛かったり、最近の私はこんな気持ちになってばっかりで。そんな自分が嫌なの」
晶が立てた膝に顔を埋めて吐き捨てるのを聞いて、良恵は目を丸くした。
「すご……晶、あんたさあ、初恋っていつ?」
「初恋? なにそれ、記憶に無い単語だわ」
「やっぱりーーー」
「何?」
ジロリとこちらを睨む晶に、良恵は大きくため息を吐いた。
「そんなに静かな生活を送りたいんだったらさぁ、天地先輩とちゃんと会って話してきたら?『もう会いたくありません、迷惑です。二度と声かけないで下さい』ってきっぱりそう言えばいいじゃん。下手に逃げるから追いかけられるのよ。動物も人間も逃げるものをみると追いかけたくなるもんなのよ」
なるほど。と晶は思った。昨日靴箱に入っていた手紙には、『今日の放課後に話があるから教室で待っていて欲しい』と書いてあった。
無視して帰るつもりはないが、晶にはどうしても今は天地と話す勇気が出なかったのだ。
ここは良恵のいう通り、きちんと話しておくべきかもしれないが、今はもう少し自分自身の気持ちと向き合う為に整理する時間が必要だった。
「確かに良恵のいう通りだと思う。出来ればそうしたいけど、もう少し自分の気持ちを整理して落ち着いて考えたいの」
複雑な気持ちになるこの落ち着きのない想いは一体なんなのか、それを考える為に今日天地と会うのはやめにした。
晶は『今日は無理です』と一言書いた手紙を下駄箱に入れた。
「ごめんなさい……」
力のない声を出して下駄箱に手をかざした時の晶の胸の痛みは前よりも痛みを増していた。
++++++
天地の下駄箱から自分の教室へと戻ろうとしたその瞬間だった。
三人の女の先輩達に晶は前を狭まれた。
「あんたが海野晶?」
あからさまに晶の事を言っているには違いなかった。
先輩達にきつく睨まれた晶は口から言葉を発する事も足すらも動かなかった。
「あんたさぁ? 最近天地くんとよく一緒にいるよね。馴々しく近付かないでよね」
「別に私は馴々しくなんかしてません」
「何寝ぼけた事言ってんのよ! 商店街であんたと天地くんがデートしてたって皆に聞いたんだからね!」
「それも何? こんなの入れちゃってさぁ」
さっき下駄箱に入れたはずの天地への手紙がいつの間にか先輩の手に渡っていた。
きっと晶が下駄箱に入れていた時からずっと見ていたのだろう。
それに腹の立った先輩はすぐさま晶を呼び止めたという事だ。
「……して下さい」
「なに? 聞こえないんだけど」
「返して下さい!」
晶は勇気を振り絞り、大きな声で叫んだ。
逆にそれを煽ってしまったらしく、紙はクシャクシャに丸められて捨てられ、もう一人の先輩が缶ジュースを目の前に出して来て晶に降り懸けようとした。
晶は顔を背け、缶ジュースを浴びる覚悟をして思わず目を閉じて歯を食いしばった。
だがもうとっくにジュースを浴びているはずの晶だったが、いつまで経っても冷たいジュースは降り懸からなかった。
うっすらと目を先輩の方へとやると、なんと目の前に天地が立ちはだかっていたのだ。
「つめた……これで……満足したかな?」
天地は冷ややかな声でそう女の先輩達にそう言った。
すると女の先輩達は逃げるように走って行った。
「天地……先輩?」
晶は何が起きたのか分からず、呆然として立っていた。
「晶ちゃん、大丈夫?」
「先輩こそ、大丈夫ですか?」
晶はハンカチを取り出し、ジュースのかかった場所を押さえるように拭いた。
「ごめんなさい、私のせいで」
晶は慌てて天地の服を必死に引き取ろうとした。
だけど手が震えて思うように力が入らず、天地の服は染みになってしまった。
すると天地は服を拭こうとする晶の腕を急に掴んで止めた。
晶は驚き、ビクッと体を強張らせた。
「もういいから。手が震えてる」
「す、すみません」
「……何アレ」
天地は女の先輩がクシャクシャにした天地への手紙に気が付き拾い上げた。
そして天地はそのクシャクシャにされた手紙を開き、中身を読んだ。
「コレ、どういう事?」
天地に尋ねられたが上手い言い訳が思い付かず、ただひたすら黙り込んでいた。
「晶ちゃん、コレどういう……」
「ごめんなさい!」
晶は天地にそう叫んで逃げようとしたが、天地に素早く腕を掴まれた。
必死に振りほどこうとしたが、どうしても晶の力では天地の手を振りほどけなかった。
「どうして逃げるの? 僕、晶ちゃんに何かした?」
「違うんです。私が悪いんです」
「違うって何が? 全然分かんないんだけど。それになんで顔を背けるの?」
晶は天地の顔をまともに見る事が出来なかった。
天地に迷惑をかけてしまった晶自身の不甲斐なさ。
そして顔を見れば何かを見透かされそうな気がして、それがとても怖かったのだ。
「もう……離して下さい……」
天地の事を考えるとわき上がる辛いような複雑な気持ちに晶は我慢出来なくなり、思わず涙をこぼした。
それを目の当たりにした天地は、無意識のうちに晶の腕を掴む手を緩めた。
晶はそれに気付いて天地の手を振りほどき、掴まれた方の腕を隠すようにしてその場を走り去った。
その天地に掴まれた腕が、なんだか熱を帯びているみたいに熱かった。
闇雲に走り続け、気付けば誰もいない教室にいた。
我に返り先ほどの出来事を思い出す。
何故か顔が熱くなり、急に恥ずかしくなって思わずしゃがみ込んだ。
荒い呼吸。
ぐしゃぐしゃでまとまらない心。
晶にはこの気持ちがなんなのか全く分からなかった。
続く…
次からまた管理人の文章に戻ります。すんません…
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