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An angel〜.8

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An angel's drop








 「よ! どうしたの? こんなところで」


 突然声をかけられ、晶は反射的に顔を上げた。

 目の前に立っていたのは佐部で、晶を見てニッコリ笑っている。


「こんなところって……」


 晶は言われて初めて自分が2年生の教室の前を歩いている事に気付いた。


「あっ!」


 トイレに行って戻るはずが、いつの間にかまったく違う場所に来ていたのだ。

 恥ずかしさで顔を真っ赤にさせる晶に、佐部が笑う。


「もしかして考え事してた? さすがよっちゃんの友達なだけあって面白いよね」


 そういう佐部に、晶は初めて図書室で会った時にも言っていたよっちゃんが誰なのか気になり尋ねてみた。


「あの、その“よっちゃん”って誰なんですか?」

「え? あ、そうか。聞いてないんだ。よっちゃんって言うのは君と同じクラスの倉田良恵の事だよ」

「良恵、ですか? どういうお知り合いなんですか?」

「俺の彼女」

「ええっっ!? 嘘っ、だって良恵に彼氏がいるなんて聞いた事ないですよっ!?」


 晶はあまりの衝撃に廊下だという事も忘れて大声で叫んでいた。

 というか、滅多に大声など出さない晶が、それほど驚いたのだ。


「あははは。嘘、嘘。よっちゃんとは幼なじみなんだ。家が近所で、よっちゃんがおねしょしてた頃からの友達」


 おねしょ……


 晶は良恵が聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうなとんでもない過去の話を聞いてしまって、一瞬視線を遠くへやった。


「あ、今の話はよっちゃんには内緒だからね。バラしたなんて知ったら絶対蹴られるからさ」


 なら話さなければ良いのに。とは思ったが口には出さない。


「で、何をそんなに悩んでるの?」

「え?」

「いや、だから、ぼけ~っとして2年の教室まで来ちゃうくらい何か悩んでるんだろ?」

「あ……」


 晶は眉間にしわを寄せて俯いた。


「別に、何でもないです。それでは失礼します」


 ペコリと頭を下げ去って行こうとする晶を佐部が呼び止める。


「この間の本ありがとう。面白かったよ。ところで、新しい本が昨日入荷したらしいんだけど、もうチェックした?」


 ぴたりと足を止め振り返る。


「いいえ」

「晶ちゃんの好きそうな本入ってたよ」


 そう教えてくれた佐部に頭を下げる。


「ありがとうございます」

「今度ゆっくり話そうよ。俺さ、ラテンアメリカ文学結構好きなんだけど、晶ちゃんも好きだろ?」

「あ、はい!」


 晶はやっぱり佐部が自分と趣味が似ている事を知って嬉しくなった。自然と笑顔になる。


「ガルシア・マルケスとか好き?」

「はい、好きです」

「フアン・ルルフォは?」

「好きです!」

「良かった。なかなか好きな人いないからさ、話が合う人がいて嬉しいよ。じゃあ、またね」

「はい。失礼します」


 天地の事でずっと悩んでいた晶だったが、佐部と話せて元気を取り戻そうとしていた。

 そんな二人のやりとりを偶然天地が見ていた事にも気付かないくらい、晶は佐部の言葉を噛み締めていた。





 ++++++





 良恵はここ数日晶の元気がない事を心配していた。

 原因は分かっている。今、目の前で格好良く学ランにたすきを掛け、鉢巻きを締めて大声を出しているものすごく格好良い男性。天地翔太だ。

 その隣りで同じように格好良く声を出しているのは良恵の大好きな幼なじみの佐部透。

 この二人が廊下で話しているのを聞いてから、晶はすっかり生気が抜けてしまっていたのだ。

 折角お洒落をして可愛くなっていたのに、良恵が天地に追いかけられてどうしていいか分からなくなっていた晶にきちんと話をしろと言った以降、お洒落どころか髪の毛を梳かす事すらしなくなったし、話しかけても上の空になってしまった。

 結局晶はしばらく自分の考えをまとめるために天地に会うのはやめると言っていたが、どうしたのかは知らない。というか、教えてくれない。聞いても「別に」しか言わないのだ。

 あの様子からして何かあったことは間違いないのだが、話してくれない所を見ると結構ショッキングな出来事があったのだろう。

 大切な友達が辛そうにしているのを見ていられない。

 そう思って今日は応援部が終わるまでじっと羽学のイケメン2人を睨みつづける事を決意して今に至る。

 そろそろ眉間のしわが3本ほど増えたかな。という頃、漸く部活が終了した。


「どうしたんだよ、よっちゃん? もの凄い不細工な顔でずっとこっち見てたけど……」


 不細工は余計だ。と心の中で突っ込みながら、良恵は佐部を一蹴した。


「天地先輩に話があるの。天地先輩!!」


 突然呼ばれ、マネージャーからタオルとドリンクを受け取っていた天地が驚いてこちらを振り返る。


「大事な話があります、少しお時間頂けませんか?」


 良恵を見て大事な話が晶の事だと分かったのだろう、無言で頷いてこちらへとやって来た。

 そしてジロリと佐部を睨む。


「えっと、晶ちゃんのお友達の……良恵ちゃん、だっけ? 話ってなに?」


 くそっ、作り笑いって分かってるけどカッコいいじゃないの。なんの負けるな良恵、晶の為に頑張るのよっ!


 ブンブンと頭を振って邪念を追い払い、良恵はキッと天地を睨んだ。


「天地先輩、晶の事からかってるんですか?」

「え? それ、どういう意味?」


 急に天地の顔が険しくなる。


「晶、最近元気がないんです。私も天地先輩が何考えてるか分かりません。あの子すごく純粋な子なんです、からかってるんならこれ以上晶を傷つけないでください」

「な……」


 天地はひどく驚いた顔をした。それを隣りで見ていた佐部が口を挟む。


「そうですよ、部長。部長モテるんだから、わざわざ自分で可愛くないって言った女の子にちょっかい出さなくてもいいんじゃないですか。告白されるのに飽たから、彼女で遊んでるんでしょ?」

「佐部先輩は黙ってて!」

「おっと」


 ギロリと佐部を睨むと、良恵は天地に視線を戻して答えを待った。


「僕は……」

「ちょっと! 部長に副部長、いつまでダベってんの! 早く片付けないと先生に怒られるでしょ!?」


 天地が何かを言おうと口を開いたところで、マネージャーの怒鳴り声が飛んで来た。


「ちっ、仕方ない。天地先輩、片付けが終わるまで待ってますから」








                     続く…





やっぱり管理人が書くと性格がひん曲がる(汗)



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