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An angel〜.9

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streetpoint

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An angel's drop








 天地はマネージャーに怒られてすぐに片付けをし部活を終え、良恵と並んで歩いていた。

 佐部は良恵に追い散らされたおかげで先に帰っていて、それだけが天地の中で救いだった。

 佐部の顔を見るとどうも苛々する。

 こんなに自分が嫉妬深いだなんて、知らなかった。

 天地は夕日で赤く染まった町並みをぼんやり眺めながら、隣りで先ほどからずっと黙っている良恵の様子を探った。

 良恵は晶をからかうのをやめてくれと言った。そして、晶が傷ついていると。

 チラリと良恵に視線を送る。

 良恵もそれに気付いて天地を見上げた。

 二人の視線がぶつかり合った時、良恵が足を止めて言った。


「ーーー天地先輩、晶ってすごく面倒くさがり屋で、恋愛とかそーゆーのにすごく鈍くて、色んな事に巻き込まれるのをすごく嫌がるくせにホントは不器用で優しいから結局巻き込まれちゃって、それで傷ついたりする困った子なんです……」


 さすが友達だ。晶の性格を熟知している。でもここだけ聞いているとあまりいい子に聞こえない。

 だが、天地も晶の優しさとか不器用さは分かっているつもりだ。

 同じように天地も立ち止まって良恵を振り返る。


「晶、先輩と一緒に出かけてからすごく変わった……ううん、変わろうと努力してた。私はそれがすごく嬉しかったし、応援したいと思ったーーーでも……あんなこと言われて晶がどれだけ傷ついたか分かりますか?」

「あんなこと?」

「前に晶が佐部先輩に本を貸しに行った時、二人で話してましたよね? 本を渡した後、廊下の角で聞いたんです。先輩が晶のこと興味無いって言ったの」


 天地ははっとした。

 まさか聞かれていたとは知らなかった。

 口は災いの元。

 昔の人は本当に良く言ったものだと感心する。

 いや、感心している場合ではない、誤解を解かなければ。

 天地はすぐに否定した。


「いや、あれは違うんだ」

「違う? どういうことですか?」


 良恵の怒った顔とここ最近の晶の様子に、晶がどれほど傷ついているのかが分かって胸がキリキリと痛む。

 どんな思いで自分の呼び出しの手紙に対しての返事を書いたのか、天地は自分の愚かさに情けなくなった。


「あれは……佐部の奴と晶ちゃんが仲良く話してたから、ちょっとムッとして……それで思っても無い事をつい口にしたというか、なんていうか……」

「えっ?」


 良恵の表情が一変する。


「ーーーあはは……なんだ……そういうことだったんですか」

「えっとーーーごめん……」


 頭を下げる天地に、良恵が急に元気になると両手に力を入れて言った。


「私に謝ってどうするんですか! 晶に謝ってください。そして誤解を解いてください! あの子、自分の気持ちもよく分かってないくらい鈍臭いんですよ? 天地先輩がはっきりと言葉にしてあげないと、そのうち考えすぎて倒れちゃいます!」


 晶の気持ち。


 そう、天地には分かっていた。晶は自分に惹かれているという事を。

 でもそれは本当に恋なのだろうかと思う。


「だけど、僕が気持ちを伝えて、晶ちゃんは困らないかな」


 ほぼ初対面の、しかも自分が想いを寄せている子の友人に相談している事実に、天地は妙におかしくなる。

 この良恵という少女はそういう垣根を取り払ってしまう雰囲気を持っている。面白い子だ。


「大丈夫です! あの子にとって天地先輩は初恋の相手なんです。だから自分が恋をしているという自覚さえ持てればなんの問題もありません! その自覚を持たせられるのは、遠回しな言葉じゃ駄目なんです」


 言い切った良恵に、天地は目を丸くさせる。


「遠回しな言葉じゃ駄目、か……」


 今まで告白されたことは何度もあった。だが、自分から想いを伝えたいと思ったのは晶が二人目だ。

 ふと一つ年上の先輩の顔を思い浮かべる。

 大好きだった佐野。

 高校の卒業式の日に告白するつもりだった。でも、出来なかった。

 それは佐野が見ているのが自分ではなく、佐伯だということを知ってしまったから。

 最初、佐野と晶が似ていると思った。放っておけない所は確かに似ているが、晶の事を知っていくと、実はそうじゃないことが分かった。

 晶は佐野とは違う。でも、惹かれるのだ。

 そう考えると、佐野とは性格の全く違う晶に惹かれたのは、自分に似ている所があったからかもしれないと思う。

 たまに駅で見かけていた晶の姿に、自分の本当の気持ちをさらけ出せないもどかしさや億劫さと同じものを感じたのだろう。

 晶も恐らく本当の自分を見せる事で、周囲の人間がどんな反応をするのかを恐れているのかもしれない。

 だから自分を偽って殻に閉じこもり、本を読む事で海野晶という人物を作り上げているのだ。

 誰かに拒否される事の怖さを感じないために……


「天地先輩」


 名前を呼ばれ、天地は良恵を見る。

 彼女は小さく首を傾げ、微笑んだ。


「私、先輩の事応援します! だから、晶の事何でも聞いてくださいね」

「ありがとう」

「佐部先輩が何考えてるのかは分からないけど、それはちゃんと私が白状させますから、心配には及びません。っていうか、透君は晶に渡しません」

「え?」


 恥ずかしそうにそう言った良恵は、えへっと笑って歩き出した。


「私、佐部透の事が好きなんです。あ、これ晶にもまだ言ってないからオフレコでお願いしますね」

「そうなんだ……」


 二人は幼なじみだという。

 明るく人との壁を簡単に突き破る良恵は、晶にとっては眩しい存在だろう。

 それでも一緒にいるのは、良恵に憧れと尊敬を抱いているから。

 自分も良恵のように明るく振る舞いたいという願望が、心の奥底にあるからだと思う。 


 本当に、なんて不器用なんだろうね。君も、僕も。


 良恵の話を聞きながら、天地は一つの決心をした。




 そして、間もなく体育祭がやって来る。







                   続く…




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