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An angel〜.10

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An angel's drop








 体育祭当日まで、晶は眠りの浅い日が続いていた。

 先日佐部と一度図書室で好きな作家の好きな作品の話をした。確かに楽しかったのだが、話している間もどこかすっきりとしていない自分がいた。

 夜眠れない時間に図書室で借りた本を読んでいても、頭に入っているやらいないやら、晶はずっと心の中に澱が溜まった様な妙な感覚が続いたまま、体育祭当日を迎えたのだった。




 重い足取りで学校へと向かう。

 この心の中の澱の様な物の正体はまだ分からないが、ただ一つ分かっていることがある。

 それは、このままではいけないという事。


「おはよー。晶、顔色悪いよ。大丈夫?」

「うん、平気だよ……」

「青い顔して言っても説得力無いけど……保健室まで着いて行こうか?」


 心配そうな良恵に苦笑いをする。


「競技に出るわけじゃないし、本当に大丈夫だよ」

「ーーーならいいけど。辛かったらいつでも言いなよ」

「うん、ありがと」


 良恵はいつも自分の事を気づかってくれる。

 そんな良恵に心配をかけさせたくはない。

 それに本当に大して体がきつい訳ではなかった。自覚が無いだけかも知れないが、どちらかと言えば心の中のしこりの方が気になって足が重たいのだ。


 ふうーーー


 空を見上げる。

 眩しいくらいの青い空。

 梅雨の合間の晴天は、晶をせせら笑っているようで恨めしかった。











 体育祭は順調に進み、終盤に差し掛かっていた。

 やはり体育祭の目玉の一つといえば騎馬戦。フォークダンスの次くらいに盛り上がる競技だ。その騎馬戦がまさに今始まろうとしていた。

 騎馬戦はチーム対抗競技で、三学年の男子全員が参加する。

 ふと視線を動かしていると天地が騎馬の上に乗っていふのが見えた。

 天地の姿を見ただけで胸がドキリとする。

 今日一日で、グランドの上の天地を何度も見かけた。

 応援団の部長ということもあるが、運動神経も良い天地はリレーなどいくつも競技に参加しては素晴らしい成績を収め、女子生徒達のハートを鷲掴みにしていた。

 晶は良恵が言っていた体育祭になれば嫌でも天地の人気を知る。という言葉を痛感していた。


 本当にモテるんだ。


 また心の中の澱がふわりと溜まる。


「ねえ晶! 天地先輩いるよっ! あっ! 佐部先輩もいる~!」


 良恵は物思いに耽っていた晶をユサユサと揺らしながら興奮気味に話しかける。


「うん、そうだね」


 現実に引き戻された晶が返事をすると、佐部がこちらに気付き手を振ってきた。

 すると晶達の周囲から黄色い声援が飛んだ。

 誰もが私に向かって手を振ってくれただのいいや私だなどと言い合っている。

 佐部も天地に劣らずすごい人気だ。


「先輩頑張ってー!!」


 良恵が立ち上がり佐部に向かって両手を勢い良く振り返す。

 晶は突然立ち上がった良恵にびっくりしたが、一人で小さく笑ってグランドに視線を戻す。

 どうやら天地と佐部は敵同士らしく、すごく真剣な表情で互いを睨み合っていた。








 一方グラウンド上で見えない火花を散らしている天地と佐部は……


「部長、晶ちゃんがこっち見てましたね」

「……」


 不適な顔でそう言った佐部を天地は睨む。

 先日良恵と話をした時、佐部に晶の事をどう思っているのか聞いてみると良恵は言っていた。

 しかし結局本人は話をはぐらかしたらしく、本当の所は良く分からなかったらしい。

 ただ、良恵曰く「気に入ってはいるみたいだが恋愛対象としてではなさそう」という事だった。

 本人の希望的観測も混じって入るだろうが、幼なじみの良恵が言うのだからそうなのかも知れない。が、やはり天地は佐部の挑発的な態度に腹が立つ。


「こんなのどうですか?」


 急に佐部が言った。

 ジロリと視線だけで言葉の続きを促す。


「この勝負で勝った方が晶ちゃんと付き合うというのは」

「なっ……!?」


 天地は驚いた。

 やはり佐部も晶の事が好きなのだろうか。

 疑問がわき上がる。


「自分たちの都合だけで彼女の意思を尊重しないやり方は好きじゃない」

「先輩、随分悠長な事言ってますけど、彼女きっと俺の事気になってますよ」

「……それは佐部が勝手にそう思ってるだけだろ?」

「どうですかねえ」


 コノヤロウ。


 天地が黙って佐部を睨むと、開始の合図の太鼓がドドンと鳴った。


 わー!!!


 という大歓声の中、あちこちでぶつかり合いが始まる。

 天地はもちろん目の前の佐部に向かって突進した。

 激しい揺れの中、天地は佐部と組み合う。


「佐部は晶ちゃんの事が好きなのか!?」

「何で部長にそんな事言わないといけないんですかっ!?」

「この間から妙に突っかかって来るよな!」

「気の所為ですよっ!!」


 力比べ状態で天地と佐部はそれぞれの両手を掴み、ギリギリとひねり上げる。

 端から見る分には鬼気迫る雰囲気なのだろうが、ぶつけ合っている会話の内容は小学生並みだ。


「部長こそ、興味無いとか言うくせに晶ちゃんの事気にしてるっすよね!?」

「佐部には関係ないっ!」


 本人達は必死にやっているのだが、騎馬になっている下の生徒達は半分呆れている。

 会話が筒抜けなのだ。

 どうでもいいから早くどっちか鉢巻き取れよ。

 とか思っている。

 それでも負けるのは嫌だからお互い相手の騎馬に何度も突進を試みる。


「佐部! お前感じ悪いぞ!」

「それは部長のほうです!」


 ドンッ!


 一度離れて体制を立て直し、再びぶつかった。

 大きく体が揺れる。


「くそっ!」


 力はほぼ互角。

 また組み合って肩を思い切り腕で押す。


「くっ……!」


 佐部の方が天地より少し背が高い分、天地の部が悪い。


「くうっ……部長っ、バレバレなんです、よっ!」

「うわあっ!?」


 ドザアッッッ!!!


 佐部が体重を掛けて、天地を騎馬もろとも押し倒した。

 先生達のフォローも間に合わず、天地は派手に地面に倒れた。

 あちこちから女生徒の悲鳴が響いて来る。

 羽学の2トップが落ちたのだ、気が気ではないのだろう。


「いててて……取った!」


 倒れた数名の生徒の間から、佐部が立ち上がって天地の鉢巻きを高く上げた。

 鉢巻きを取られた天地は、悔しそうに腕を抑えながら佐部を睨んだ。

 佐部がニヤリと笑いながら近づいてきて、天地に耳打ちをした。


「っ!?」


 天地はその言葉に驚き、佐部の顔を凝視する。


「ま、頑張ってくださいよ。ぶ・ちょ・う」


 そう言って佐部は倒れた時にぶつけたらしい膝を気にしながら仲間の援護に向かった。

 佐部の言葉に顔を赤くする天地。

 言われたのは、


『部長が晶ちゃんの事好きなの知ってますよ。素直になったらどうですか?』


 悔しい。


 鉢巻きを取られた事はもちろんだが、後輩にからかわれていたという事が。

 天地は立ち上がって服に付いた砂を払った。







                     続く…




なんだかんだで次で終わりです。結構長かったですねえ。。



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