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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

HERO.1

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 すごく大きくて無愛想で、口数が少なくてぶっきらぼうな物言いをするけど、本当はすごく優しくて動物に好かれちゃう志波勝己君。

 ねえ知ってる? 彼は私のヒーローなの!













HERO














 あれは私、海野比奈が高校に入学してすぐの頃。小さい頃に来た事のあったこのはばたき市に引っ越して来て、新しい生活を始めたばかりの私は、一人でよくあちこち自転車で散策するのが趣味になっていた。

 お母さんは女の子が一人で出かけるのは危ないからやめなさいって言ってたけど、別に夜遅くまで散策してる訳じゃなかったし、夕方になると町並みって昼間とは違って見えるから楽しかったりするのだ。

 そんな訳で私は学校が休みの日は朝から街へブラブラとウィンドウショッピングに出かけたり、森林公園を散歩したり、通った事の無い道を開拓したりと忙しい日々を送っていた。

 だからって別に友達がいない訳じゃない。入学式の日の朝、散歩に出かけた海岸で出会った男の子、佐伯瑛君とは同じクラスで妙に気が合うしバイト先が偶然その佐伯君のおじいちゃんが経営している喫茶店だから結構話をするし、同じく入学式の日に仲良くなった女の子の密さんとは休日に限定パフェを食べに行ったりする。

 ほらね、友達ちゃんといるでしょ? でもやっぱり一人で自転車を漕いで街を散策するのが好きなんだ。

 好きっていうか、これはもうオタクね、散策オタク。


 そんなある日のこと、私はいつものように休日の朝から自転車を快調に走らせていた。

 今日の目的地は臨海地区方面での新しい小道の開拓だ。

 あそこは今開発が進んでいて、ちょっと分かりにくい小道を入った所に可愛い雑貨屋があったりカフェがあったりして、私の開拓者魂をくすぐってくれる。


「あ、こっちの道行った事無いや」


 私は海の香を嗅ぎながら、偶然目に入った路地へ自転車を滑り込ませた。

 細い道を入ると高いビルやマンションは姿を消し、森かってくらい広い庭があるような大きな一軒家ばかりの閑静な住宅街へと変わった。

 どんどん先へ進むと車も通れない程の道幅になり、緩やかな上り坂へと道は変化を遂げる。


「あれ、失敗したかな?」


 私は自転車を降り、辺りを見渡した。

 方向的には森林公園方向へ向かっていると思われるが、如何せん私は地図を持ち歩かないから現在地を知る手がかりが何も無い。地図を持って回って散策してたんじゃ、楽しみが半減するってもの。

 しかしここがどこか尋ねようにも人気も無いし、すっかり迷ってしまった。

 うん。取りあえず一旦戻ろう。

 そう決めて自転車のペダルに足を掛けた時だった。


 ガシャン!!


「わっ!?」


 突然チェーンが外れて私はバランスを崩して自転車もろとも倒れてしまった。


 ドサアッ!!!


「いったあい!!」


 見事こけた私はしばらく地面とお友達になり、鈍痛のする体をゆっくり起こした。

 私の体の上には無惨にチェーンの外れたマイチャリがのっかってて、何とかその下から抜け出そうと下半身に力を入れたのだけど、


「うっ……」


 擦り剥けただけだと思っていた足はどうやらくじいてしまったらしい。ズキンと痛みが走り、力も入らず、自転車を動かす事も自分の体を動かす事も上手く出来なかった。

 ど、どうするのよ、こんな所で自転車と心中? ヤダヤダ! ちょっと、誰か!


「だっ、誰か助けてえーー!!」


 情けない声で空に向かって叫んでみるけど、返事があるはずも無く、私はもう一度自転車の下から出られないか両腕で地面を押し上げてみた。


 ズズ……


「ーーーー」


 少し動いたけど、自転車も一緒だから全く意味がなかった。

 そうだ! 自転車を足で動かせばいいのよ!

 名案とばかりにくじいていない右足を動かす。だけどやっぱり力が入らなくて、余計にくじいた方の足に痛みが走っただけだった。


「いったあい……あ~もう、どうしよう……あ! そうだ、携帯っ!」


 咄嗟に辺りを見回すと、携帯の入ったバッグはこけた衝撃で路肩まで飛んで行っていた。歩けばほんの4、5歩先なのに、自転車に挟まっている私にとってその距離は果てしなく遠い。

 酷い、どうしてこんなにも試練がやってくるの? ーーーでも行くしか無い。

 私は再び両腕を使って自転車を引きずりながらバッグへ向かって進んだ。

 ズズ……ズズズ……

 何かこれって、もしかしたら遠目に見たらホラー映画みたいなんじゃないかな。

 なんてバカな事を考えていると、


「おい、大丈夫か?」

「えっ?」


 急に私の回りに影が出来て、遥か上空から男の人の声が聞こえて来た。

 驚いて見上げると、そこにはジョギングウェアに身を包んだ男の子が立っていた。


「あっ!」


 なんてグッドタイミング! 地獄で仏とはきっとこの事よ! 私は一人じゃなかったのね!

 あまりの感動に助けての言葉も出せずに震えていると、男の子は軽々と自転車を私の上からどけて静かに立て、すぐに私を助け起こしてくれた。

 いい人! てか、おっきな人だなあ。

 日に焼けたその男の子の腕はすごくたくましくて、ちょっと怖そうな外見にほんの少しびっくりしたけど、差し出された手に私はしっかり掴まって立たせてもらった。


「本当に、本当っに! ありがとう!! ……痛っ!」


 目に涙を溜めながらお礼を言うと、地面に付けた左足に激痛が走った。

 男の子は痛みで顔を歪める私の体をひょいと抱き上げると、バッグの転がる路肩へと運んでくれた。

 ちょうど小さい斜面になったそこは座るに良さそうな高さにコンクリートの縁が作ってあって、私をそっとそこに座らせた。

 そしてすぐに私のくじいた足を見て、


「ーーー捻挫だな。お前の家、近いのか?」


 と言った。

 初対面でお前って、いくら助けてくれた恩人だからってそれはあんまりじゃない? 

 って思ったけど、痛くて文句は出なかった。


「ううん、ちょっと遠いの」


 男の子は首からさげていたタオルを縦に裂くと、私の足にそれを巻き付けてため息を吐いた。

 すごい、なんか映画みたい。


「どうやったらこんだけ派手に自転車ごとこけれるんだ?」


 そんなのこっちが聞きたいよ! もう、映画みたいだなんて思わなきゃ良かった。

 呆れたように言って、今度は飛んで行った私のバッグを拾ってくれた。

 あれ? なんか、見た目ちょっと怖そうで意地悪かと思ったけど、実はすごく優しくない?

 倒れた見ず知らずの女の子を助けてくれたんだから優しいに決まってるのに、私はまだ軽い興奮状態にあったらしく、その時はまだ上手く状況を整理出来ていなかった。

 目の前に差し出されたバッグを手に取ってから、漸く少し落ち着いて来た。


「チェーンがいきなり外れちゃって……」


 お気に入りのバッグは飛んで行った衝撃で傷が出来ていた。

 あ~あ、もう最悪だ。

 携帯を取り出し、お母さんの番号を呼び出す。


「…………出ない」


 そう言えば今日はお友達と出かけるって言っていた。おまけにお父さんは休日出勤とかで朝からバタバタと出かけて行った。

 ーーーという事は、


「私どうやって家まで帰ったらいいの!?」


 思わず声を上げると、チェーンの外れた私の自転車をいじっていた男の子がこちらを振り返った。


「送る」

「は?」


 ちょっと待って、今聞き返しちゃったじゃない。何ですって? 送る? 誰を? 私を? 家まで? どうして?!

 驚いて固まっていると、シャカシャカとチェーンを見事戻した男の子が自転車を私の前まで持って来て再び言った。


「送るから後ろに乗れ」

「ええっ!? で、でもっ……」


 見ず知らずの男の子の自転車に二人乗りしちゃいけませんって、お母さんに言われてるもん! ……いや、それは嘘だけど、だって助けてもらってさらには家まで送ってもらうだなんて、申し訳なさすぎるじゃない。

 私はじっと男の子を見上げた。本当に大きくて首が疲れてしまう。


「お前その足じゃ自転車漕げないだろ?」

「そうだけど……うわっ!?」


 まだ躊躇う私の体を持ち上げると、男の子は自転車の後ろの荷台に私を座らせた。

 私は荷物じゃない! ーーーていうか、私、もしかして男の子にお姫様抱っこされたり抱きかかえられたりしたの、人生で初めてなんですけど……

 やっと先ほど助けられた状況を冷静に振り返り、私は急激に恥ずかしくなった。どうしていいか分からず焦っていると、男の子は自転車にまたがりゆっくりと漕ぎ出した。


「しっかり掴まってないと、落ちるぞ」

「あっ、うん。あの……本当に何から何までありがとう……」

「別に……で、お前の家はどこだ?」

「あのね……」


 掴まった男の子の背中もすごく大きくて、私は恥ずかしさで心臓がドキドキしていた。

 そう言えば男の子と自転車二人乗りするのも初めてだなあ。

 男の子の声は低くてちょっと癖のある素敵な声で、家の場所を後ろから説明しながら、私の足を気遣ってかゆっくりと自転車を漕いでくれた。そんな男の子の姿をしっかりと記憶にとどめた。

 目の前の大きな背中からは知らない人の匂いがして、でも何故だかすごく落ち着いてびっくりする。

 風と男の子の体温を感じていると、トクンと私の心臓が高鳴った。











                           続く…








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