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利根5日目・No.2

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私のやんごとなき王子様












 朝食が終わってそれぞれの担当の仕事のためにさなぎと別れたけど、裁縫をしていたら時間なんてあっという間に過ぎてしまった。

 まだまだドレスの仮縫いの段階で、しかもたった一着だけという進行具合に、私は軽くへこんでいた。

 そんなちょっぴりブルーな私を時間は待ってはくれない。

 昼食を食べ約束通り利根君とさなぎの3人でおやつを食べて再び作業部屋に戻ると、入り口からはみ出す程の集団が目に飛び込んで来た。


「あ、あれってもしかして……」

「うん、取材みたいだね」


 独り言のつもりだったんだけど、隣りにいた利根君が返事をくれた。

 星越学園の演劇祭は毎年注目されてるからこうして合宿中に取材がくるんだけど、今年はその人数は例年以上で驚いた。


「やっぱり風名君と亜里沙様がダブル主役だからかな?」

「だろうね。玲も桜さんも今一番の人気若手俳優だからね」


 ふあ~。本当になんだかすごい人達がいる学園だよね。今更だけど。

 なんて感心してる場合じゃないよ、どうやって部屋に入ったらいいのよ。

 頑張って一番後ろから背伸びをしてみるけど、どうやら中も取材の人でいっぱいのようだった。


「ちょっとすみません、通して頂けますか?」


 利根君の一言で、部屋から漏れていた人々が振り返った。

 うわっ! 一斉にこっち向いた!


「あれ、もしかして君は利根鳳柳(ほうりゅう)先生の息子の利根華月君?」


 手前の男性記者がそう言った。


「えっ? あの有名な華道の家元の!?」


 あっという間に私と利根君は大人達に囲まれてしまった。

 ああそうか、利根君のご両親も有名人なんだった。おまけに利根君のこの美貌のおかげで、華道界のプリンスなんて言われて、風名君達みたいに派手ではないけど結構雑誌でも取り上げられてるんだよね。お母さん達主婦が読むような雑誌に花を生けてる写真なんかが載ってるのを見た事があるけど、利根君の記事が掲載された号は売り上げがいいって聞いたっけ。


「利根君は劇には出ないの? あなたなら風名君と並んでも引けを取らないし、増々盛り上がりそうだけど」

「いえ、僕はそういった事は苦手なので」

「衣装や小道具を作るっていうのは、華道に通じるものがあるんですか?」

「集中して作品を作り上げるという点では、どの仕事も大切ですし、華道だけじゃなくてすべての事に通じてると思います」


 次々と取材に答える利根君を、私は感心しながら隣りで見ていた。


「えっと、隣りの子はもしかして恋人?」


 ええっ!?

 唐突な質問に、私の体は一気に硬くなった。

 だってだって、私が利根君の恋人だなんてっ!!


「華道界のプリンスの恋人! これはスクープだ!」


 あっという間にレンズを向けられ、目がくらむ程のフラッシュを浴びる。私は言葉が出ないどころか心臓が止まりそうになってしまった。

 やだ、コワイっ!! どうしよう!?

 すると、ふと私の体の前に何かが立ちはだかる気配を感じた。

 そっと目を開けると利根君の背中があって、私を庇うように大人達との間に入ってくれていた。


「あ……」

「彼女は同じ担当の大切な友人です。僕だけなら構いませんが、彼女にまで迷惑をかける訳にはいきませんので、取材はこのくらいにしていただけますか? さ、小日向さん。行こう?」

「あ、うん」


 利根君の一言でフラッシュは止み、部屋の入り口まで綺麗に人の波が分かれてすんなり進む事が出来た。


「それでは、失礼します」


 ただ一言そう言うと、利根君は取材陣に頭を下げてドアをピシャリと閉めた。


「ーーはあ……」


 ほっと胸を撫で下ろしていると、利根君が悲しそうな顔で私を振り向いた。


「大丈夫、小日向さん」

「あ、大丈夫……」


 とは言ったものの、正直どっと疲れて何だか頭も痛くなっていた。

 利根君にはいつも助けてもらってばっかりだな。

 ちょっと落ち込む。


「彼らも仕事で、面白い記事を書かないといけないから。失礼な事言われても気にしちゃ駄目だよ」


 別に利根君の恋人って言われたことは気にしてない。むしろ嬉しいなんて思っちゃったし、なんだかああいう大人達を前にしても堂々としている利根君がちょっと遠くの人みたいに感じて、何も出来ない自分が情けないだけ。そんな何も出来ない私なんかが利根君の恋人だなんて言われて、そ      んなの私一人嬉しくっても、きっと他の人は誰も認めたりしてくれない。

 微妙な笑顔を利根君に向けて、私は自分の仕事を再開させた。














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