チェンジ・ザ・ワールド☆
利根5日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
午後の活動時間も終わり、私は残って一年の子に丁寧に仕事を教える利根君に声を掛けて部屋へと戻った。
去り際利根君がすごく心配そうな顔をしていたけど、私はこれ以上利根君に甘えちゃいけないと一人で廊下へ出た。
ちょっと……かなり? 疲れたかも。
「美羽っ!?」
ぼうっとしながら歩いていると、突然前方から飛んで来たさなぎの叫び声に弾かれたように顔を上げる。
「あ……さなぎ」
驚いていると、さなぎはすぐに私の隣りに並ぶと、眉間に皺を寄せて私のおでこに手を当てた。
「あんた顔真っ青だよ! どうしたのよっ!」
「何でも無いよ」
「んな訳ないでしょ?! 大丈夫?」
大げさな事言うな。なんて思っていると、さなぎは私の腕を肩に回して目の前のドアを開けた。
細いくせに案外力持ちなさなぎによって、私はベッドへ投げ出された。
「……痛い」
ベッドに顔から倒れ、それでも体を動かす気力もなかった私は取りあえず大きなため息と一緒に顔をしかめた。
「美羽~。何かあったの?」
さなぎの言葉が胸に刺さる。私はゆっくりと体を仰向けにすると、天井を見つめて心の中に溜めた思いを吐き出した。
「なんかさ、違うんだよね」
「何が?」
「利根君のコト」
「はあ? どういう意味?」
チラリとさなぎを見ると、椅子に座って訝しそうに私を見下ろしていた。
「最初から分かってた事だよ。本当に分かってたの……。私なんかが甘えちゃいけない人なんだって」
「……」
黙ったままさなぎは私の話に耳を傾けてくれている。
「なのに……バカだよね、私。利根君がすごく優しいから、少しだけ近づけた気がして。だから、ひょっとしたら利根君に喜んでもらえる仕事ができるんじゃないかって思ってた。でも」
私は一つ大きく息を吐いた。
「でも違うの。当然だけど全然違う! さっきたくさんの人が取材に来たけど、私は――」
もう言葉が出なかった。代わりに涙がボロボロと瞳から零れ落ちていく。
「美羽……」
さなぎが悲しそうな顔でこっちを見ている。さなぎにまでこんな思いさせて、私は本当に何がしたいんだろう。
「美羽、私達はさ……そりゃ違うよ。芸能人でも無ければ良家の令嬢でもないし。なんてったって電車で現地集合だし?」
そう言って少しだけおどけた表情を作るさなぎ。
「でもさ、そんな私達を――美羽を利根君は駅まで迎えに来てくれたじゃん?」
「うん……」
さなぎは私の顔を見つめると、にっこりと笑った。
「それってさ、きっと同じ学校に通う、同じ生徒だと思ってるからだと思う。有名な華道の家元の子息だとかオジョーとか関係なくてさ、大切な――友達だって思ってくれてるんじゃないかな?」
友達……?
「利根君はいっつも大人達に囲まれてるワケじゃない? しきたりとかそりゃーすごい厳しい家で育ってさ。だから、純粋に嬉しいんだと思うけどな。美羽が『普通』に接してくれる事が」
「嬉しい……?」
「うん、だって私だって嬉しいもん! 美羽が元気に笑って一緒に笑ったり怒ったり泣いたりしてくれるの、嬉しいもん」
「さなぎ……」
「違う事なんてないよ。ていうか、そりゃ違うんだけど、でもそうじゃないっていうか――あー、もうっ! 私ってば何言ってんの!? 自分でもワケ分んなくなってきた~~!」
大げさに髪を振り乱して叫ぶさなぎを見て、私は思わずくすくすと笑ってしまう。
「そうそう! 美羽は笑ってんのが一番だよっ」
さなぎはそう言って本当に優しく微笑んでくれた。
「ありがと……さなぎ。いつもゴメン」
「なーに言ってんの! なにかあったらいつでもさなぎお姉さまに相談なさい!」
そう言って自分の胸を大きく叩くさなぎ。そんなさなぎと私はお互いに顔を見合せると、同時に噴き出した。
ほがらかな笑いが部屋いっぱいに響き渡る。
「美羽、本当にさ――思いつめたらダメだかんね? 担当は違うけど、何かあったらいつでも私のトコに来なよ? 約束だよ?」
「うん」
私は笑顔で頷いた。
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