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風名9日目・No.2

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私のやんごとなき王子様














「あれ……?」

「よっ」


 薄暗いロビーへ降りて行くと、そこには風名君が一人で立っていた。

 明るく手を挙げて私を迎えてくれている。

 他に誰かいないかと辺りを見ながら風名君の前まで行くと、風名君はにこりと笑って歩き出した。


「よし、じゃあ行こうか」

「えっ? あ、二人だけ……?」

「うん―――あれ? もしかして、二人じゃ嫌だった?」

「いや、そうじゃないけど……」


 一体風名君が何を考えているのか分からない。もし私が風名君の立場だったら、告白された翌日に平常でいられる自信がない。だって相手はアイドルで、学校でも仕事場でも一緒にいる素敵な女の子なのだから。

 どうして風名君は私なんかを誘ってくれたんだろう。


「今日の午前中は何だか様子がおかしかったけど、何かあったのか?」


 はたと前を歩く風名君を見上げて足を止める。

 何かあった。

 そうだ、私は風名君の事が好きで、亜里沙様も風名君の事が好きで、それなのに風名君は私なんかを誘って海まで連れて来てくれて……

 なんだかもう、頭の中がぐちゃぐちゃだ。


「ううん。何にも無い」


 咄嗟に取り繕った。


「そう? ほらあそこ」


 丁度風名君も足を止めてこちらを向く。その指差す先には、3日前に教えてくれた洞窟があった。


「あ……」

「この間行けなかっただろ? だからさ、夜だけどちょっと行ってみないか?」


 私の胸は心地よく鳴った。

 あの日、亜里沙様と仕事の打ち合わせと言って二人でいなくなった。洞窟に行こうと誘ってくれたのに、亜里沙様を選ぶんだなんて偉そうに思ったことが思い出される。

 風名君は覚えていてくれたんだ―――

 自然と顔がほころぶ。ゆっくりと歩くこの時間がいつまでも続けば良いのに、と子どもみたいに思ってしまう。


「ここから海の中をちょっと入って行かないといけないんだけど……」


 岩と海の境界まで来ると、風名君が岩の向こうを覗き込んでため息を吐いた。


「この時間は満ち潮みたいだな」

「歩いて行けないの?」

「いや、大丈夫――あ、そうだ」


 急に何か思いついたらしく、その場にしゃがみ込んでほらと背中を私に向けた。


「え? どうしたの?」

「多分俺の膝下くらいまで水だと思うからさ、背中に乗りなよ」

「ええっ?! だ、大丈夫だよっ!」


 そんなの無理だよ! だって風名君におんぶなんてしてもらったら恥ずかしいし、緊張してドキドキしてるのが絶対に伝わるもん!

 全力でお断りしたけど、風名君は頑として動かない。


「せっかく風呂に入ったのに濡れたらまたシャワー浴びないといけないだろ?」

「い、いいよ。シャワーくらいさっと浴びれるから!」

「ああ~もう、早く乗れって」

「うわっ!?」


 半ば強引に私の腕を引っ張り、風名君は無理矢理私を背中に乗せた。


 ひゃっ?


 立ち上がった風名君の肩にしがみつき、落とされないようにぎゅっと手に力を込める。

 どうしよう、私、風名君におんぶされてるよっ!


「ご、ごめんね……?」


 歩き出した風名君に取りあえず謝る。


「なんで小日向が謝るんだよ? 誘ったのは俺なんだし、おんぶするって言ったのも俺なのに、変な小日向」


 そう言って笑う風名君の背中は大きくて、私より全然背も高いから見える景色もまるで違った。

 くりぬかれたような岩の中へゆっくり足を踏み入れて行くと、波の音と自分の心臓の音がやけに大きく聞こえた。

 きっとドキドキしてるのは風名君にバレてる。

 そして時折香って来る爽やかな匂い。

 シャンプーの匂いかな? すごく風名君にぴったりの香りだ。少し甘くて、鼻孔をすうっと抜けて行くスマートな香り。

 二人だけだなんて夢のようだ。

 少し歩くと薄暗い洞窟の先に丸い光の輪が見えて、そこが目的の場所だと分かった。













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