チェンジ・ザ・ワールド☆
風名9日目・No.3
最終更新:
streetpoint
-
view
私のやんごとなき王子様
「ほら小日向、上見て」
立ち止まった風名君に言われて、私はゆっくりと顔を天井へ向けた。
「う、わ……」
見上げたそこには高い天井があり、天井にはまるで誰かが作ったかのように整った形の円形の穴があいていた。その穴のさらに上には星が無数に瞬いていて、トラッドブルーの空を華やかに飾っていた。
「綺麗……」
「ああ、綺麗だな……昼間もすっごいいいんだぜ?」
「うん、そうだろうね―――風名君。ありがとう……」
こんな私をいつも励ましてくれて、ありがとう。あなたを好きになって良かった――
無性に泣きたくなった私は、震えそうになるのを必死でこらえながら星を見上げ続けた。
「なあ、小日向……」
風名君がぽつりと言う。
「どうしたの? あっ、重たいっ?」
「ははっ、違うよ。そうじゃなくって……あのさ、ちょっとだけ、俺の話し聞いてくれないか?」
「うん」
いつもより少し真剣な声になった風名君に、私も真面目に耳を傾けた。
「俺、中学の時から親に言われて芸能活動を始めたんだ」
知っている。だってご両親はとても有名な方だから、風名君がデビューした時の騒がれ方はすごかったもの。
「それでちょうど星越学園に入学した頃、芸能の仕事をやめようと思った時期があったんだ……マスコミから実力が伴っていない、ただの親の七光りだ、とかなんとか散々叩かれててさ」
「うん……」
それも知っている。デビューしてすぐ人気者になった風名君が、色んな仕事をするようになった頃だ。
「学校でも友達だと思ってた奴らから影で悪口言われてるって知った時は、本気でやめようって思った……まあ別に自分でやりたくて始めた仕事じゃなかったし、未練なんてないからやめてもいいやって思ってたんだけど、やっぱり悔しかったんだ。それに確かに望んでなった職業ではないかもしれないけど、誰にでも出来る仕事じゃないしさ。努力して努力して、もうこれ以上出来ないってくらい努力してからでも、やめるのは遅くないんじゃないかって思って」
うん。すごく努力しているのを私は知っている。――ああ、なんだ。私は風名君のこういう所が好きなんだ。
改めて気付いた風名君の長所に笑みがこぼれる。
「星越に入学してしばらくした頃、仕事で早退しなきゃいけなくて玄関で靴を履き替えてた時にさ、話し声が聞こえて来たんだ。隣りの靴箱だったから顔は見えなかったけど、女の子が何人かで話してて……その時一人が俺の悪口を言ったんだ。ああ、またか。ってうんざりした時、別の一人がこう言ったんだ『風名君は努力してる。努力しない人が何年も芸能界みたいな特殊な環境の中で仕事を続けられる訳が無い。だから、影ですごく努力してるんだ。良く知りもしないで悪く言うのはおかしい』って―――」
私ははっとした。その情景が記憶の中にあったのだ。
確か同じクラスの女の子達と玄関で話しをしていた時だ。一人が風名君は親の力で芸能界の甘い汁を吸っている。顔が良いだけで他には何も無いと言ったのだ。それに腹が立った私は、詳細まで覚えていないがさっき風名君が言ったような事を言って喧嘩になったのだ。
「俺はその言葉を聞いた時、すっごい嬉しかった。ちゃんと俺の事を分かろうとしてくれる人もいるんだって。努力すれば結果が着いて来るんだって……だからさ、小日向……お前には感謝してるんだ」
「風名君……」
どちらの体温が上がったのか分からなかったけど、急に私は熱を感じた。
一年の頃のそんな些細な出来事を覚えていてくれたなんて、すごく嬉しい。私の方こそ、風名君に感謝してる。
「その後小日向さんは良い子ぶってる! って聞こえて、俺を庇ってくれたのが小日向だって分かったんだけどさ。でも、あの時の小日向の言葉は偽善的じゃなかった。俺の心に真っ直ぐに届いたんだーーだからずっと、もっと小日向と仲良くなりたいって思ってたのに、気付いたら3年になっちゃって……ずっと同じクラスだったのに、すごいもったいないことしたなあって後悔してたんだ。だから、最後の演劇祭に勇気を振り絞って劇の出演者にならないかって誘ったんだ……OKしてくれて、ホントありがとな」
「ううん! 私は何もしてないよ。風名君が頑張ったからだよ……こっちこそ、誘ってくれてありがとう。劇も、この素敵な洞窟も……」
風名君の背中にそう言葉を落として、私はポトリと涙も一つ落とした。
どんどん風名君の事を好きになる気持ちが止まらなくなる。
「そろそろ帰ろうか。まだ水が高くなって来てるみたいだし」
「えっ?! 本当? 急がないとっ!」
「わあ! 動くなよ。危ないぞ?」
嬉しさと恥ずかしさで私は気持ちが高ぶっていた。大げさな言葉と動きで紛らさないと、好きだと言う気持ちが風名君にバレてしまいそうに感じたから。
亜里沙様と風名君の事は分からないけど、今はそれでもいいと思った。
だって、今風名君と二人でいるのは私なんだから。
一つ戻る風名9日目・No.2
ブラウザを閉じてお戻りくださいv
私のやんごとなき王子様トップへ戻る
私のやんごとなき王子様トップへ戻る