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風名13日目・No.1

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私のやんごとなき王子様












13日目






「おっはよー!」


 校門を過ぎた所で後ろから元気に声をかけられた。


「おはよ、さなぎ」


 声の主は勿論さなぎ。その表情はにこにこしていて、何だかとても楽しそうだ。


「ついについについに~! 演劇祭本っ番っ! だねぇ~」


 大げさに手を振り上げながら言うさなぎを見て、思わず私の顔も綻ぶ。


「うん、今日で高校生活最後の演劇祭がついに終わっちゃうんだもんね。気合い入れて頑張らないと!」

「うんうん! 美羽なんて、あんなに悩んで悩んで悩み抜いて決めた担当だもんね! 10日間お疲れ様!」

「あはは! まだ終わってないよ。でも有難う、さなぎ」


 今から10日前――どこの担当に入るかを悩みに悩んでいた、あの感情が蘇ってくる。

 あの頃は自分がこんな風に人を恋するだなんて、思いもしなかった――


「さーて、それじゃ後数時間後には本番! 気合い入れていきますか~」

「うん! さなぎも頑張ってね!」

「了解です!」


 元気にお互いを励まし合って、私達はそれぞれの担当場所へと向かった。
















 すう~、はあ~……すう~、はあ~……

 ―――だ、駄目だ。何度深呼吸しても、頭の中で客席に座ってるのは大きなカボチャだと思い込もうとしても緊張が取れない。心臓が爆発しそうだ。

 私は本番直前の舞台袖から覗いた客席の盛況ぶりに、極度の緊張に達していた。今にも口から心臓が飛び出しそうで恐ろしい。


 ドドドドド……!


 と猛烈な勢いで全身に血液を送り出す心臓に、軽い酸欠状態だった。


「うう……見なきゃ良かった……」


 後悔先に立たず。幕が上がるまで大人しく廊下でストレッチでもしていればよかったと、フラフラする体を壁で支えてぼやく。


「小日向、大丈夫か?」

「あ……」


 振り向くと廊下からこちらへ風名君が入って来る所だった。心配そうに私の傍まで来ると、ふと額に手を当てる。


「緊張し過ぎだよ」

「だって」


 緊張するよ! だってあんなに大勢のお客さんの前で、オディールという大事な役を演じなきゃいけないんだよ!? 失敗しないように、皆の足を引っ張らないようにってそればっかり考えちゃって、余計に怖くなったんだもん!

 なんて言いたくても口も上手く動かない。


「俺が合宿行く時船の中で言った言葉、覚えてない?」


 もごもご口の中で不安を呟いていた私に微笑む風名君に一瞬見蕩れ、私はあの日の事を思い出す。

 風名君や亜里沙様の演技力に圧倒された私は、オデット姫の友人役というちょい役にも関わらず、自分があまりにも場違いだと落ち込んだ。そんな時に風名君と利根君が励ましてくれた。


 風名君は、


『出来ないとか出来るとか、上手とか下手とか関係無く、俺達と一緒に演技を楽しもうよ』


 そう、優しく言ってくれたんだ。


「演技を、楽しむ―――」


 ぼそり呟くと、風名君はうんと力強く頷いた。


「そう。俺は小日向と一緒にこの高校生活最後の演劇祭を楽しみたいって思ってる」

「風名君……」

「間違えたっていいさ。俺だって、ホラ―――」

「っ!?」


 そう言って風名君は私の手を取り、自分の胸に当てた。

 一瞬驚いたけど、すぐに私の手のひらに風名君の心臓の鼓動がドクドクと伝わって来て、その顔を思わず見上げてしまった。


「はは、実は俺もすっげー緊張してんの。人には大丈夫とか楽しもうとか言ってるくせにさ」


 ――同じなんだ。


 風名君も、私と同じように緊張するんだ。

 そう思ったら急に気持ちが軽くなった。


「ありがとう、風名君。私、頑張る……精一杯楽しめるように、全力で頑張る!」

「ああ、頑張ろうぜ」


 互いに顔を見合わせて笑い合うと、開演のブザーが鳴り響いた。

 驚く程落ち着いた私の心臓は、すごく現金なやつだ。

 だって、大好きな人が自分と同じ気持ちでいてくれるというだけで、こんなにも舞台に立つのが楽しいだなんて思えるんだから。











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