チェンジ・ザ・ワールド☆
ピエロ.2
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ピエロ
「比奈さん」
「どうしたの? 密さん……」
目の前で比奈を睨む密に、比奈はただならぬ雰囲気を感じていた。
「比奈さん、好きな人いないって、前に言ってたわよね?」
「え? あ……うん」
放課後の教室で部活に出かけようと鞄を手にした比奈を、密が教室の入り口から呼び止めた。
そして今、2人は屋上へやって来ていた。
寒くなってきた風に、比奈は一瞬体を震わせる。
「ーーークリス君の事、どう思う?」
「えっ?」
比奈は驚いた。
この間の日曜日にクリスと密の3人で出かけてから、密の元気がない事には気付いていた。
画材屋で2人と別行動を取っていた間に何かあったのかも知れない。
「私がクリス君の事好きって知ってるわよね?」
「も、もちろん! だからこの間も密さん誘ったじゃない」
何故だかわらかないが涙が出そうになった。
密の顔が恐いからじゃない。
自分の心に嘘を吐いている事が堪らなく情けなくなったからだ。
「嘘……」
「嘘じゃないよっ!」
「ーーーそうやって一人でピエロを演じて、誰かに同情でもされたいのっ!?」
「ピエロ? そんな……そんなこと思ってない!」
「クリス君が比奈さんの事好きって、知ってたんでしょ!?」
「ーーーえ?」
比奈の体が硬直する。
「私がクリス君の事好きって知って、本当は私のこと影で笑ってバカにしてたんでしょ?」
比奈は何も言えなかった。
こんなの……私の知ってる密さんじゃないーーー
違う。そんなことよりクリス君が私の事を好きで、それを知ってて密さんをバカにしてた?
意味が分からない。
「どうして、そんな……」
同じ人を好きになってしまっただけ。
ただそれだけなのに、どこかで歯車が狂い出した。
ギシギシと比奈の心を何かが軋ませる。
「私、絶対に比奈さんに負けないんだからっ!」
密はそう言い捨てて屋上から出て行った。
比奈は背後でドアの閉まる音を聞いて、その場に力なく座り込んだ。
「どうして……どう、し、てーーー?」
どうして?
そればかりが頭の中で回り続けた。
あれから数日、比奈は学校を休んでいた。
ずっと密のあの苦しそうな顔が頭にこびりついて、離れない。
体が重い。
胸が痛い。
何がいけなかったの? 私が、クリス君の事を好きになったから?
ごろりと体をベッドの中で動かす。
誰もいない家。
静かな部屋の中、時計の秒針の音だけが虚しく響いている。
秒針のコツコツという音が嫌いだと、誰かが言っていた。
「ーーー誰だっけ?」
右手の甲をおでこに当てて天井を見上げる。
ドラマの中の登場人物か、現実の誰かが言ったのか思い出せなかったが、何故嫌いなのかその理由ははっきりと覚えている。
あの音が、全てにおいて早くしろと急かしているみたいだから
そう、言っていた。
「ピエロ……か」
比奈は自分の心を閉ざして密とクリスの橋渡しをしようとしていた。あのまま密に何も言われなければ、今頃クリスに好きな人の事を尋ねていただろう。
目をつぶる。
密が言った言葉。
本当に私は哀れなピエロを演じようとしていたのかもしれない。
ピクリと体が震えた。
クリスが自分の事を好きだと、そう密は言った。
何も、クリスに好いてもらえるような要素は何一つないのに。
急に喉の渇きを覚え、比奈は起き上がって台所へと向かった。
ダイニングテーブルの上には母親が作り置きをしてくれている昼食が並んでいる。
食欲などないのに、それでも比奈の事を心配している両親の事を思うと食べなくてはという気持ちになる。
こんなことではいけない。
冷蔵庫の中からアップルジュースを取り出してコップに注ぐ。
薄い白色の液体が波を打ちコップに注がれて行く様子が、比奈の心をざわめかせた。
クリスの笑顔が見たい。
でも、どんな顔をして学校に行けば良い?
密は謝ったら許してくれるだろうか?
クリスは、本当に自分の事が好きなのだろうか?
私は、一体どうしたいのだろうか?
考えれば考えるほど答えが分からなくなる。
出来る事なら、密がクリスの事を好きだと知る前に戻りたい。
ぐっとコップを握る手に力を入れ、一気に飲み干した。
甘い香りと味が比奈を包み、体を潤す。
やっぱりテーブルの上の料理に手をつけることは出来ず、比奈は部屋に戻った。
ベッドに腰掛けると、携帯が鳴った。
慌てて画面を見ると、クリスの名前が表示されている。
「え? 今、授業中……」
時計の針は14時10分をさしていた。
「もしもし?」
恐る恐る電話に出る。
『もしもし?』
電話の向こうから聞こえるクリスの声に比奈は胸が苦しくなった。
優しいクリスの声。
「クリス君? 授業中じゃないの?」
『ーーーだって、比奈ちゃん最近ずっと学校お休みしてるから、心配してん……』
本当に心配してくれているのが伝わって来る。
「ごめんね……大丈夫だよ」
『嘘や』
「えっ?」
比奈は驚く。
『比奈ちゃん、ボクに何か隠してるやろ?』
ドキッとしたが、比奈はすぐに否定する。
「何も隠してないよ」
『ーーーホントに?』
「ホントに」
『じゃあ、今すぐ窓開けて下見て?』
「え?」
『いいから、早く』
比奈は部屋の窓を開ける。
身を乗り出すと目の前は遊の部屋だが、斜め下を見るとそこには道路から手を振るクリスの姿があった。
「えっ!? クリス君っ!?」
『びっくりした? お見舞いに来たんや。せやから、玄関開けて?』
「す、すぐ行くねっ!」
比奈は慌てて電話を切ると、部屋を飛び出し階段を駆け下りた。
開けたドアの向こうにはクリスが立っていて、いつものあの太陽のような笑顔を比奈にくれている。
比奈はどんどんと心が温かくなるのを感じた。
そして再認識する。
私、やっぱりクリス君の事が、好きだーーー
「プリン買って来た。一緒に食べよ?」
「うん」
笑顔でコンビニの袋を目の前に上げたクリスにつられ、比奈も笑顔になっていた。
比奈の部屋でクリスと2人、向かい合ってプリンを食べていた。
「クリス君、学校サボったの?」
「うん、そう」
「怒られちゃうよ?」
「だって、キミがいない学校に行っても、おもんないねんもん」
ドキリとする。
「どうして?」
尋ねる声がうわずる。
「ーーー何で分からへんの?」
「え?」
クリスはテーブルにプリンを置く。
そんなちょっとした動作にも比奈はドキドキさせられる。
「ボク、比奈ちゃんの事、こんなに好きやのに……」
いつもの冗談めかした目ではない、真剣な表情のクリス。
比奈は驚きと恥ずかしさでつい目を逸らしてしまった。
「比奈ちゃん」
「なっ、何っ?」
顔が熱い。
「比奈ちゃんは、ボクの事、嫌い?」
「そんな事っ!」
無い。
そう言いたかった。が、密のあの顔が邪魔をして言葉が上手く出なかった。
「ごめんな。ボクの所為で辛い目に会うたんやろ?」
はっと顔を上げると、クリスが眉を寄せて比奈の事を見ていた。
「クリス君の、所為じゃないよ……私が、悪いのーーー」
そう、全部私が悪い。
自分の心を偽ったから。
出来もしないのに、自らピエロになろうとしたから。
「じゃあ、ボクの事、好き?」
まっすぐに自分を見つめるクリスの青い瞳に、比奈はもう頷く事しか出来なかった。
クリスは比奈の隣りに座ると、そっと比奈の肩を抱いた。
「ボクも一緒に怒られるから」
「ーーークリス君は、怒られなくていいの……私が、怒られて、嫌われればいいの……」
クリスの肩に顔を埋めて、比奈は泣きながらそう言った。
「比奈ちゃんのお友達の密ちゃんは、そんな子やないやろ?」
分かってる。
密はきっと後悔している。
比奈に酷い事を言ったと、きっと苦しい思いをしているに違いない。
そんな優しい人だから、比奈は密が好きなのだ。
「ごめんな。ボク、比奈ちゃんの事しか見えてないねん」
「クリス君……」
顔を上げたその先に、クリスの綺麗な笑顔があって、比奈は堪らなく胸が熱くなるのを感じた。
もう、ピエロになんてならない。
ずっとそうやって、限りなく太陽のように強くて優しいあなたの笑顔がここにあるから。
END
=あとがき=
これはお友達の音文さんに差し上げるように書き上げたものなんですが、
「男前なクリスに肩を抱かれ隊」の隊員を募集しておりますw
もうひとつ「若王子に足を舐めさせ隊」も発足しましたww
クリス、若王子がお好きな方ならどなたでも入隊可能です。
それでは、ここまでお読み下さいました皆様、ありがとうございますー!
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クリス、若王子がお好きな方ならどなたでも入隊可能です。
それでは、ここまでお読み下さいました皆様、ありがとうございますー!
お帰りの際は、窓を閉じてくださいv
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