チェンジ・ザ・ワールド☆
歯車.5
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歯車
休日になり、琉夏は再び若王子のアパートを訪れていた。若王子が作った数式を解かされているのだが、これがなかなか難しくてやりがいがある。
カリカリとノートに鉛筆を走らせていると、ノックが聞こえた。
「こんにちは」
応対に出た若王子の向こうから聞こえてきた声に、琉夏ははっと顔を上げる。
「あ、やっぱり桜井君だったんだ」
「海野?」
やってきたのは海野で、ケーキを片手に琉夏に笑いかけている。
「うわ、また難しそうな問題ですね」
「えっへん。そうなんです。桜井君は僕が作った数式を解いてくれるから、先生超、楽しいです」
「そうですか、良かったですね。ケーキ多めに買って良かった。桜井君、食べる?」
「食べるっ。何があんの?」
立ち上がって台所へ行った海野の後を追いかける。美味しそうなイチゴの乗ったタルトやチーズケーキがいくつも並んでいて、琉夏は喜んだ。
「俺これ」
「了解。先生はチーズケーキでいいですよね?」
「はい、何でもいいです。さあ、桜井君、続きを解いてみてください」
「え〜? ちょっと休憩しようよ。俺、ケーキ食いたい」
「むむ。先生ちょっと海野さんに嫉妬です」
皿に乗せられたケーキを持った大の大人が、海野に悲しい視線を送っている。
「先生の数式より、ケーキの方がいいみたいですね。だから、私じゃなくってケーキに嫉妬してください」
「ケーキに罪はありません。こんな美味しそうなケーキを買ってきた海野さんが悪いんです」
「はいはい、すみませんでした」
台所から追い出された若王子は、仕方なく満面の笑みでケーキを食べはじめた琉夏を見て笑った。
「キミと海野さんは似ていますね」
「ん? 俺と、あいつが?」
「彼女は高校の時、ずっと一人でした。嫌な事があって、それから壁を作って自分を偽って……」
ドキリとした。
どんどんと自分と海野が同じ境遇だと分かって行く。
「ご両親の話しは?」
「あ、聞きました」
「そうですか。それ以来、余計に心を閉ざしてしまったんですけど、担任だった僕にだけはなんとか心を開いてくれて」
と、そこで会話は中断された。
コーヒーを煎れて戻ってきた海野に聞かせたくないと思ったのだろう。
「それじゃあ、私はいつものようにこっちの机をお借りします」
「はい、どうぞ」
以前と同じようにノートとペンを取り出した海野に、琉夏が質問する。
「なあ、大学の講義って、面白い?」
海野は琉夏を見て、少し考えるように上を見てから答えた。
「まあ、講義の内容によるかな」
「桜井君! 是非、一度大学の講義を公聴してみるといい。誰か知っている友達がいるなら、その人と一緒に受けてもいいし、なんなら海野さんが桜井君を案内します」
えっへんと胸を張る若王子に、海野が苦笑する。
「私の許可も取らずに決めるんですか?」
「やや、海野さんは桜井君が大学に来ても知らんぷりですか?」
「そんな訳ないじゃないですか。ちゃんと案内しますよ」
「大学か……」
ちょっとだけ、興味を持った。
アパートを出て、お互いのバイクの前まで来ると海野がすうっとリュックから紙袋を取り出した。
「これ」
「これ?」
「さっきのケーキショップで買ったんだけど、クッキー」
「お、美味そう」
袋を覗くと、美味しそうなクッキーの詰め合わせが入っていた。
「これ、桜井君のお兄さんと彼女さんにプレゼント」
「えっ!? 何で? いいよ、あいつらにはやんなくて」
「今日さ、若王子先生に連絡したら桜井君が来るって聞いて、お土産にケーキ買ってる時にさ、なんか、カップルで食べたら楽しそうなクッキーがあったから。だから、このクッキーはカップル限定でプレゼント」
「ちぇっ、会った事ないのに。コウは俺と違ってクッキーなんて全然似合わないんだぜ?」
「そうなの? ちょっと見てみたいかも……」
そう言う海野に、琉夏はむっとした。
「ヤダ。見せない」
「どうして?」
「どうしても」
「ーーー変な桜井君。あ、そうだ。もし大学に遊びに来るなら連絡してから来てね」
「……分かった」
行こうとは思っていたが、実は黙って行って驚かすつもりだった。だからそこは敢えて何も言わず、大人しく頷く。
「それじゃあまたね」
「ああ」
いつものSRXに乗って走り去る海野の姿を見送り、琉夏もゆっくりとバイクに腰を降ろした。
海野は自分の事を変人だと言っていた。若王子が言うように、嫌な事がきっかけで壁を作り自分を偽るようになったのだ。その嫌な事が何かは分からないが、きっと、とても辛い事だったのだろう。
また、胸が苦しくなった。
歯車は、もう、今にも動き出しそうだ。
続く…
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